朝日 「尼崎事件は、進駐軍の仲間された家族が暴れる。まさに軍隊アリだ」
天声人語
事件史に太字で刻まれそうな一件である。兵庫県尼崎市の民家床下から出た3遺体を手がかりに、
おぞましい大量怪死が見えてきた。別の死体遺棄で起訴された女(64)の周辺には、なおも不明者や
不審死が残る
▼記事につく相関図は拡大する一方だが、ある家庭が突然、占領される展開は同じ。「進駐軍」の仲間
にされた家族が暴れ、類縁が巻き込まれて財産をむしられる。そして用済みになると……。証言から
浮かぶのは、軍隊アリを思わせる世渡りだ。その軌跡が発掘されつつある
▼派手な服飾で、自宅や車も金ぴかの被告と、取り巻く強面(こわもて)の男たち。その迫力に、やらな
いと自分がやられると観念したか、肉親に手をあげる人もいたという。脅しすかしによる洗脳がうかがえる
▼嫌われまいと上に服従する姿は、過激派やカルトの暴力でも見られた。しかし尼崎の集団を制していた
のは、思想や教義ではなく、個人の身体と怒声のようだ。異能と呼ぶのは気が引けるが、良心や道徳を
無視できる特異な性格もある
▼世には、周囲に迷惑をかけても心が痛まない一群が確かに存在する。へたに関わると、こちらの生活
や人生までを破壊してしまう困った人たち。まさに「軍隊アリ」だ
▼家庭内の不和を装った、長期にわたる事件と思われる。尻尾をつかんだ警察が巻き返し、幸い、事情
を知る面々は司直の手にある。この種の人間から身を守るためにも、なんとか全容を解明してほしい。
途方もない相関図を、最後の一筆まで描いて。
http://www.asahi.com/paper/column20121023.html