8月初め、任天堂で1通のメールが社内に衝撃を与えた。
「ここ10年、任天堂はバブリーに拡大しました。そのせいでお金の使い方が荒くなっていませんか?」
メールにつづられていたのは、こんな問いかけだ。送り主は社長の岩田聡。自由な発想で世界中の
ゲームファンに夢と感動と驚きを――。そんな奔放な社風を是とする任天堂に突如下った
コスト削減指令だった。
任天堂は日本を代表する高収益企業だ。ここ数年、2000億〜5000億円前後の営業利益をたたき出し、
保有資産は現預金だけで約8000億円。日本経済新聞の調査によると、今夏のボーナス支給額は
約162万円で、3年連続首位。これまで経費削減とは縁のない会社だった。
だが2011年4〜6月期に四半期決算として初めて営業赤字を計上。任天堂株の時価総額は
ピークの5分の1に激減した。
味わったことのない苦い経験
「本当にカラーコピーじゃないといけないのか」「事務機器の更新が短くなっていないか」
「飛行機はビジネスクラスに乗る必要があるのか」「残業で深夜タクシーの利用が日常化していないか」――。
岩田の指示は細部に及んだ。社員に危機感の共有を訴え、引き締めを図ろうとする意識がにじんでいた。
岩田は各部門に何ができるかを報告するように伝えた後、メールの末尾をこう結んだ。
「皆さんの底力を見せて下さい。私も最大限努力します」
http://goo.gl/ycH6P