暗く仕切られた四畳半ほどの部屋に、清朝皇帝風の豪華な紅色ベッドが据え置かれている。その
上に、ゴロンと寝転ぶ「肉塊」。そう、暁瑞にとっては、相手はどれも、大きな「肉塊」でしか
ない。
一時間から一時間半ほど、まるで粘土を捏ねるように、暁瑞は巧みに「肉塊」を捏ね上げて
いく。脚の爪先から始めて、踝、膝、腿、腰、背、肩、腕、首、頭へと上がっていく。暁瑞に
とっては、まさに琴でも奏でている感覚である。その間、多くの「肉塊」は鼾をかき、極楽浄土
の上を彷徨っている。最後は、肩を揺するように揉んで、「完了!」(終わりました)と掛け声
をかける。一丁上がりだ。
暁瑞は、このチェーン店が抱える約1万5000人のマッサージ師の中で、わずか3人だけに与え
られた「超特級」の称号の持ち主である。大方のマッサージ師は、一日に3〜4人の相手をするが、
暁瑞の場合、10人を下ることはない。午前11時から深夜2時まで、指名の予約がビッシリ入って
いて、休む間もなく「肉塊との格闘」が続く。
マッサージの料金は、暁瑞を指名すれば、1時間あたり500元(約6300円)である。うち半額
が、暁瑞の取り分だ。このためひと月の収入は、6万元(約75万円)を下らない。平均的北京市
民の約2年分の年収に匹敵する額だ。
このマッサージ・チェーン店「優子」は、中国北部を中心に、中国最大の約1000店舗を展開
している。マッサージ師や従業員の大半が、河南省出身者というのが特徴だ。それは、オーナー
が河南省出身だからで、多くの中国人の特性として、同郷の者しか信用しないからである。鄭州
郊外の一工員から叩き上げ、わずか15年で、中国北部の各都市に、巨大なマッサージ店網を築き
上げた。「優子」という店名は、オーナーがかつて恋をしていた日本人女性の名前から取った。
実らぬ恋ではあったが、いまや中国北部では、日本人女性の代名詞となっている。
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2011&d=0607&f=column_0607_008.shtml