記者も防護服を着て福島県川内村の警戒区域に入った。
午前11時過ぎ、村民体育センターから報道陣用のバスに乗り、住民を乗せた5台のバスに続いた。
道すがら、菜の花畑や豊かな山菜が見られ、初夏の彩りに包まれていた。
だが、気密性の高い防護服は暑くて息苦しく、汗ばんでゴーグルは曇る。新緑の山道を30分ほど走り、吉野田和地区に着いた。
10世帯17人が帰宅する地区だ。
穏やかな風景と似合わない防護服姿の住民は、やりきれない思いで通帳や衣類などを袋に詰めていた。
同県矢吹町で避難生活を送る秋元昭一さん(60)は自宅前で一度立ち止まり、恐る恐る犬小屋に近づいた。
震災後、ペットの犬2匹に餌を与えるため自宅に数回戻ったが、この40日間、世話ができなかった。
今回の帰宅の最大の目的は、愛犬の様子を確かめることだった。この日の帰宅ではペットの持ち出しは出来ないことになっている。
「ジョン」――。愛犬の名を静かに呼んだ。反応がない。犬小屋に近づくと、アイリッシュセッターのジョン(雄、15歳)は、
もう1匹の子犬と一緒に体を丸めたまま死んでいた。
「助かる命だったのに、本当にごめん……」。
肩を震わせ涙を流しながら、亡きがらをそっと抱きしめ、わらを敷いた穴に葬った。
(2011年5月11日09時05分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110510-OYT1T01063.htm