漁師に震災前の水揚げ代支払い 嘆息とやる気、浜に交錯
河北新報 4月20日(水)6時13分配信
東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県大船渡市の大船渡魚市場で19日、震災前に水揚げされ、未払いになっていた水産物の代金が支払われた。
1カ月以上収入が途絶えていた漁師たちにとっては、震災後初めての収入。わずかな額に落胆した人がいた一方、久しぶりに海で得たお金にやる気を見せた人がいた。
「3月10日に出荷したホタテの代金6万円をもらったが、養殖は駄目になり、3隻あった船も流された。もう漁師は考えていない」。
陸前高田市広田町の小松正隆さん(62)は、そう言って唇をかんだ。ほかにも「年金が入るので引退する」など、海の仕事に見切りをつける人たちが目立つ。
大船渡市周辺では、所属漁船の約8割が津波で流失や損壊の被害を受けた漁協もある。魚市場で連日のように威勢よく響いていた競り人の掛け声は震災以降途絶えたままだ。
「水産の街なのに、死んだようなものだ。漁業はもう駄目かもしれない」。漁師の間からはそんな嘆息も聞こえてきた。
同市綾里漁協所属の漁船「第7喜代丸」(19トン)船主、新沼信雄さん(68)が受け取ったのは5日分のイサダ漁の代金。
40日間の操業予定が大幅に短くなり、船員一人一人に支払えるのは8万〜9万円程度という。
それでも「乗組員には苦労をかけるけど、ようやく出たお金。何とか食いつないでもらうしかない」と一筋の光を見いだした。
次の漁は6月初めに日本海で始まるイカ釣り漁。「今、おかで仕事を見つけるのは大変。苦しくても海に向かうしかない」と新沼さん。辛抱もあと1カ月余り。
「漁師は漁が始まれば集中でき、暗い気持ちも吹き飛ばせるかもしれない」と声に力が入った。(矢嶋哲也)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110420-00000007-khk-l03