日本に中途社員の居場所は無い その銃口を日本国に向けろ
ttp://news.livedoor.com/article/detail/5268341/ 『貧乏はお金持ち』のときの未発表原稿です。題材がちょっと古いのと、文章のトーンが前後の話と合わなかったので、掲載を見送りました。
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冒険小説で知られる船戸与一に、『新宿・夏の死』という連作集がある。バブル崩壊後の新宿を舞台に、ヤクザ、オカマ、ホームレスなどさまざまな人生の最後が描かれている。「夏の黄昏」はそのなかの一遍だ。
主人公の荻野洋作は、丹沢でマタギをしている71歳の老人だ。1人息子の49日の法要を控えて、彼はある覚悟から、大切にしていた2匹の猟犬を猟友会の仲間に譲り、自宅を売却し、銃身を切り落としたレミントンを抱えて東京へと向かった。
その夜、荻野は、新宿西口にある超高層ホテル(おそらくは京王プラザ)の1泊8万円のスイートに泊まった。
そこで偶然、40年以上前、遠洋航路の船員をしていた頃につきあっていたカナダ人のジェリー(陶芸家と結婚して日本に移住したが、いまは1人で暮らしている)と再会し、一夜を共にする。
翌朝、荻野はハバナ産の葉巻を喫い、全身を丹念に洗い、ていねいにひげを剃って、真新しい下着とズボン、シャツに着替えた。
そして、かつて息子が働いていた不動産販売会社の課長を、歌舞伎町の外れにある古ぼけたビルの地下室に訪ねていく。
そこはかつてバーかなにかに使われていたようだが、いまは備品はすべて取り払われ、がらんとしたなかにふたつのデスクと折り畳み椅子が置かれていた。
部屋には窓がなく、クーラーは切られ、うだるように暑い。デスクには、電話と原稿用紙が積まれている。そこで、40代半ばの痩せた男が1人で仕事をしていた。
課長の仕事は、毎日、400字詰め原稿用紙30枚の作文を書くことだった。テーマは、「わたしの未来」。その同じ仕事を、荻野の息子は2カ月間、毎日やらされ、その挙句、風呂場で首を吊って死んだのだ。
リストラの責任者として息子を死に追いやった当の課長が、いまはリストラの対象になって作文を書かされている。
涙ながらに命乞いをする課長に、荻野はレミントンの銃口を向けた。引金を絞り込むと、課長の後頭部から真っ赤なものが噴き上がり、肉片があたりに飛び散った。