セルは誤算だった──。東芝が長崎県にあるシステムLSIの製造設備をソニーへ売却することを受け、
東芝幹部は思わずこう漏らした。東芝は長崎で、「セル」をはじめとしたゲーム機器やデジタル家電に
組み込まれるシステムLSIを生産していた。そのシステムLSI事業は2010 年5月に発表した中期経営
計画でも収益力強化が課題として挙げられた事業だった。今回、その課題事業に大ナタを振るった。
製造設備をソニーへ売却してセルの生産から撤退し、今後、最先端のシステムLSIは生産を韓国サム
スン電子などに委託し、東芝は開発に注力する。セルとはソニーと米IBM、東芝が共同開発した高性能
半導体。08年3月、東芝は長崎県の製造設備をソニーから900億円で買収し、セルの量産を開始した。
セルは一般的なパソコンと比較して10倍以上の演算速度があるほど高性能で、プレイステーション3
(PS3)を手始めに、多くのデジタル家電やさまざまな電子機器に導入されると踏んでいた。
しかし、セルはPS3や東芝の最高級液晶テレビ「セルレグザ」、ソニー製の放送用機器以外に目立った搭載実績は
上げられなかった。加えて、ソニーから製造設備買収後間もなくリーマンショックによる景気減速で半導体の需要が急減。
セルに限らずシステムLSI事業は08年度と09年度は通期で赤字で、 10年度も通期での赤字が確実な状況だ。
そのなかでソニーへ再び製造設備を売り戻すという今回の決定は、「賢明な判断」
(松橋郁夫・ゴールドマン・サックス証券投資調査部ヴァイス・プレジデント)だ。
「生産委託をすることで、稼働率の変動から赤字を出すようなリスクから解放される」(同)。
http://news.goo.ne.jp/article/diamond/business/2011010714-diamond.html