女友だち(33)がビニール製の名刺入れを持っていた。あ、有名キャラクターに似た動物の絵が。「パチもんだけどかわいいでしょ!」と自慢げだ。
そうかと思えば、男友だち(43)は「定期入れに小銭入れ、時計もかばんもパチもんですわ」とうれしそう。
パチもんて、なにもん? 関西の人の会話に出てくる率、すごく高いんですけど。
大阪ことば事典に、あった。〈はんぱもの。三流品〉と。
ブランドもののロゴや柄、キャラクターを似せてつくった商品だ。そんな違法なコピー品がすてきね、
といっているわけじゃなくて。いかにもな安物を「パチもんなの」とうれしがって話す友だちの「心のナゾ」に迫りたいのだ。
もとは時計や指輪のニセモノをさす隠語とか。戦後、布くずや不良品の意味で「patch(英語でツギ、
切れ端などの意)物」と商人が言い始めたらしい。武庫川女子大の佐竹秀雄教授(日本語学)は
「隠語があったところへ、衣服を扱う大阪商人がパッチと結びつけて使い始め、広まったのではないか」とみる。
しかし、「これ、パチもんやねん」とわざわざいうのは? 「自分をおとして相手の懐に飛びこむ関西人気質ですよ」と佐竹教授。
人なつっこい会話術なんだ。「ホンマは、おトク感も楽しんでる」と男友だちはいうが。
似たことばに「バッタもん」がある。「バッタ」は古道具商の隠語で正規ルートを外れた投げ売りという意味だったようだ。パチもんと同じ意味で使われることも。
アート作品「バッタもん」の展示が去年話題になった。ブランドのロゴや柄入りの生地でバッタをかたどった作品だ。
作った美術家岡本光博さん(42)は京都の人。発想は家族との会話から――。姉が高級バッグをプレゼントされて帰宅したとき
「バッタもんちゃう?」とツッこんだ。「ホンモノや」と姉。ホンモノだろうがニセモノだろうが、お決まりの会話!
「バカにしているのではなく、一言で笑いが生まれる。そんな笑ってもらえる作品にしたかった」
http://www.asahi.com/kansai/travel/kansaiisan/OSK201101120073.html