[読書日和]注目です かくも奥深き、きのこ愛
写真評論家の飯沢耕太郎さんは、「きのこ文学研究家」とも名乗っている。
きのこの両性具有的なフォルムに興味を抱いたのは25年ほど前にさかのぼるが、「とりつかれた」のは近年のこと。
「頭の中に入り込んだ胞子が少しずつ菌糸を伸ばし」「気が付いたらきのこ切手を3000枚集めていた」という。
次に取り組んだのが、きのこが登場する文学作品、名付けて「きのこ文学」の調査だ。その成果が、小説や詩など16編を収録した「きのこ文学名作選」(港の人・2730円)。
泉鏡花「茸の舞姫」との出合いを皮切りに、「タイトルや装丁だけで、なんとなくきのこが生えていそうと感じて」“発見”したものもあるという。
12世紀の「今昔物語集」の説話から、加賀乙彦さん、高樹のぶ子さんらの現代小説までを取り上げた。独特な形、種類によって毒を持つ点が、作家の想像力をかきたてるようだ。
祖父江慎さんが手掛けたブックデザインにも「きのこ愛」があふれている。
9種類の紙を使い分けただけでなく、いつの間にか本を180度回転して小説を読む羽目になったり、目を凝らさないと読めない詩があったり。本自体がきのこのようである。【岸桂子】
http://journal.mycom.co.jp/news/2011/01/04/047/