演劇:シダの群れ(シアターコクーン) 俳優としての成長見せた阿部
作・演出の岩松了が初めて描いたヤクザの世界は、任〓(にんきょう)とも実録路線とも無縁で、
裏社会の閉ざされた空間の中から普遍的な人間の営みをあぶりだしている。
下っ端の青年を主人公に、「岩松ノワール」とも呼ぶべき権力抗争の群像劇が展開する。
組長が病に伏しているヤクザ一家で、森本(阿部サダヲ)は下っ端のチンピラ。
一家は水野(風間杜夫)がまとめている。森本が兄貴と慕うタカヒロ(江口洋介)が3年の刑期を終え戻ってきた。
タカヒロは組長と愛人・真知(伊藤蘭)との間の子。空白の間に、組長の実子のツヨシ(小出恵介)が若頭となり、妻子のほかに愛人まで囲い、妊娠させた。
跡目争いが軸となっているが、実力者の水野に真知は秋波を送り続け、「コーヒールンバ」を2人で踊り出すシーンなど笑いを呼ぶ。
異常なコーヒー好きながら冷酷な判断を下す水野を風間が陰影を持って演じている。
伊藤も母性と色気と打算を併せ持つ女性を好演。
岩松の視点の新鮮さは、組でちゃんとした居場所のない森本を通して、現代社会の閉塞(へいそく)感を描き出したことだ。
彼は敵対する組との抗争の原因を作り、タカヒロへの敬慕が屈折し衝撃的な終幕を招く。
組長に「未知のゾーン」と顔を評された森本は、ただ一人、本音を吐き続ける。阿部の俳優としての成長を実感させる舞台だ。
岩松に珍しい銃撃戦もあるけれど、窓の外の季節の描写など、きめ細かい(伊藤雅子美術、沢田祐二照明)。29日まで。(高橋豊)
http://mainichi.jp/enta/geinou/news/20100927dde012200053000c.html