モラトリアムとは、非常事態下で金融混乱を防ぐため債務や債権の決済を一定期間猶予することだ。
米国の学者がこの言葉を精神分析に転用し、青年期を「心理社会的モラトリアムの年代」と定義した
▲青年期は修業中の身だから社会的な責任や義務の決済が猶予されるという意味である(小此木啓吾著
「モラトリアム人間の時代」中公文庫)。いつまでも大人になろうとしない青年期延長型の人間を小此木氏が
「モラトリアム人間」と名付け日本でも広まった
▲菅政権発足後、初めて開かれた国会でモラトリアム論争があった。公明党の山口那津男代表が「政権は
モラトリアム状態にある。民主党代表選後、どうなるかを見極めて論戦を挑みたい」と挑発し、菅直人首相が
「モラトリアム状態とは全く思わない」と反論した
▲党内基盤も固められない不安定な政権から責任ある発言は引き出せそうにない。意味のある論戦はいまは
無理だ−−。山口氏はこう言いたかったのだろう。確かに、鳩山政権を引き継いでからの2カ月間を振り返ると
存在感は希薄だ
▲「政権がどれだけのことを達成し得るかは、成立したときのスタートダッシュの勢いで決まる」。
これは、首相が指南を受けたという中曽根康弘元首相の著書の中の文章だ。首相は「全力で走り始めている」
と言うが、その姿は国民の目に映っていない
▲とはいえ、菅政権だけを責めて済むものでもない。野党も含め国会全体が“ねじれ”の中で歩を進めていくための
知恵を絞らなければならない。モラトリアムは大人になるための準備期間とされるが、内外の情勢はいつまでも
待っていてはくれない。
毎日新聞 2010年8月8日 0時01分
http://mainichi.jp/select/opinion/yoroku/news/20100808k0000m070089000c.html