密林が覆うグアテマラのピラミッドの地下から、厳重に封印された1600年前の王墓が発見された
。7月16日に行われた研究チームの発表によると、不気味な埋葬品と共に考古学的に貴重な発見が数多くあったという。
古代マヤ文明の都市エル・ソツ(El Zotz)の発掘責任者で、アメリカのブラウン大学の
考古学者スティーブン・ヒューストン氏は、「何層にもわたって密閉されている様子は、
まるで米連邦準備銀行の地下金庫のようだった」と振り返る。
平らな石と泥を交互に重ねた層が外気を遮断していたため、人骨や木の彫刻、布といった
遺物が驚くほど良い状態で保存されていた。「マヤ文明の研究を前進させるまたとないチャンス」
だと、専門家らは喜んでいる。「古代の芸術様式も知ることができる」とヒューストン氏は説明する。
発掘隊は墓にたどり着く手前で不気味な埋葬品に出くわした。
墓の上部には泥の層が複数あり、血のように赤い陶器がほぼすべての層に埋まっていた。
陶器には腐敗した包みがあり、中には人間の指や歯が詰められていた。
植物の葉でくるんであったらしい。「指や歯は、食糧や食事を象徴して供えられたのだろう。
メキシコのユカタンには、同じような素材で包んだ“聖なるパン”が今でもある」とヒューストン氏は説明する。
紀元350〜400年ごろの建造と考えられる王墓の上からは、体の一部が焼かれた幼児の
入った陶器も見つかっている。墓室の最も近くでは、「東西南北と世界の中心」という、
マヤ文明の宇宙観の形に陶器が配置されていた。
続く
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20100722001&expand 5月29日、研究チームはついに墓室に足を踏み入れた。ヒューストン氏は、
「“遺体安置所のような冷気”と“かすかな腐敗臭”に、高まる気持ちが
落ち着いた」と語る。
小さな棺の側壁を破ると、子ども6人の亡骸が出てきた。マヤ文明の墓では
珍しいことだ。近くには黒曜石の刃物があり、血液と思われる赤い物質が
付着していた。6人の中には生まれたばかりの幼児も含まれており
、王を埋葬する際の儀式で生贄にされた可能性がある。
研究に参加したブラウン大学の考古学者アンドリュー・シェラー氏によると、
なぜ子どもを捧げたのかはわからないという。
「人間性を帯びる直前の状態であることに理由があったのではないか」と
シェラー氏は推測する。研究チームを率いるヒューストン氏も、
「少なくとも4人はまだ会話も歩行もままならない幼さだ。
“人間という存在”のちょうど入り口に当たるのかもしれない」と述べる。
自らの墓における王の役割は少しだが明らかになっている。
貝殻で作られた鈴のような装飾品と犬の歯でできた“拍子木”が見つかり、
これらは王の腰や脚に装着されていた可能性が高いという。
マヤの埋葬の儀式に則って“ダンサー”として扱われたのかもしれない。
王の歯に宝石が埋め込まれていた事実から、エル・ソツ王朝を創始した人物
ではないかとヒューストン氏は推測している。エル・ソツは現在のグアテマラ、
ペテン地域にある。 墓の壁に書かれた象形文字の一部は解読されており、
王の名は「赤いカメ」もしくは「偉大なカメ」という意味のようだ。
象形文字の研究が進めば、王についての情報がもっと得られるだろうと同氏は期待する。
エル・ソツは人口わずか数千人の小さな都市で、マヤ文明の中心地の一つ
である大都市ティカルの西に位置していた。しかし、ティカルとの関係は良
好ではなかったようだ。「ティカルの領土拡大の阻止を狙う敵がエル・ソツ
を支援していた可能性が高い」とヒューストン氏は説明している。