脱・危機モード遠のく 欧米とドル供給で協調
「デジャブ、いつか来た道だね」。ある市場関係者は嘆息した。主要中央銀行によるドル資金の
供給が当初スタートしたのは、リーマン・ショック後の2008年秋。欧米の金融機関が互いの健全性
に疑念を抱き、資金の貸し借りをしなくなった結果、ドル資金が金融市場から枯渇したのに対応
する狙いだった。
金融システムが比較的健全で、金融機関の資金繰りに問題がなかった日本も、日銀が米欧の中央
銀行と足並みをそろえる形で枠組みに参加した。これらの効果もあり、金融市場の緊張状態は次第
に解け、今年2月にドル供給の仕組みは打ち切られたばかりだった。(中略)
デフレ脱却にメドがつかないなか、国内では日銀に追加の金融緩和や国債の買い入れ増といった
追加措置を求める声がくすぶる。ギリシャ問題をめぐる一連の動きをきっかけに、そうした声が勢い
づくのを警戒しているのだ。
とりわけ日銀が神経をとがらせるのが、今回、欧州中央銀行(ECB)が示唆した国債の買い入れ
だろう。山口副総裁は会見で、わざわざECBによる発表の詳細を読み上げ、「国債を買うとは公表
していない。資金の量的な拡大をするわけでもない」と解説した。
事実、ECBの声明は国債市場に「介入」する可能性があるとしたうえで、その狙いは市場の機能
不全に陥った部分を修復することであり、政策運営のスタンスに変更はないと明記している。ただ、
そのECBも対応の遅れが市場の混乱を招いたと責められ、異例の措置を迫られたのが実情。各国
当局が必死の対応に追われるなかで、日本の政府、市場関係者が沈黙するとは考えにくい。
しかも、リーマン・ショックの引き金になったのが日本とはあまり縁のない民間金融機関の信用
膨張だったのに対し、足元で問題になっているのは、まさに日本のアキレスけんでもある公的債務の
規模だ。日銀は4月末の決定会合で、中長期の成長率底上げを狙った貸出制度の検討を打ち出したが、
参院選を控えた政治家らは、もっと目先の対応を、と日銀をせっつく可能性がある。金融政策が危機
モードを脱するには、さらに時間がかかりそうだ。(西村博之)
http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819694E3E2E2E2E58DE3E2E2E7E0E2E3E2E2E2E2E2E2E2