SF小説で面白い作品を挙げろと言われても一つも出てこないよね

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1 ろうと台(大阪府)

小説へのいざない:2月 成長するヒロイン 不逞さも繊細さも失わずに

金原ひとみさんが『蛇にピアス』(現在は集英社文庫に収録・400円)で芥川賞を受賞してから早いもので、もう6年がたった。

 19歳の女性フリーターが舌へのピアスや刺青(いれずみ)など、自らの身体を改造することで生の手応えを得ようとする物語。社会の片隅で生きる男女の姿が鮮やかに描かれていた。

 この作品は、彼女たちの生の痛ましさから目をそむけようとする世間に対して、それでは、生きているどんな実感を得ているのかと挑発した。
一方で、ヒロインの行為の背後には、恋人に心身ともに近づきたいという驚くほどにピュアな感情が息づいていて、他者と素手でつながりたいという切実な声が響いていた。

 文庫の解説を村上龍さんが書いている。村上さんはいつも、少年時代の生傷のようなヒリヒリした作品を書きたいと思っているという。
それでも10代の終わりや20代にしか書けない小説というものはあって、『蛇にピアス』はそういう作品だというのだ。

 金原さんはその後も、着実に執筆を続けてきた。ヒロインは成長する。
でも、デビュー作で示した世間への不逞(ふてい)な態度も、その内側で揺れる繊細な神経も、いつでも自分を相対化して透かして見るような純粋さも、失っていない。

 短編集『TRIP TRAP(トリップ・トラップ)』(角川書店・1470円)には6編が収録されている。
明示されているわけではないが、全編、マユという女性が主人公らしく、彼女の15歳から25歳までが描かれた連作集とも読める。

http://mainichi.jp/enta/art/news/20100218dde018070070000c.html