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三角架(大阪府):
原辰徳が現役時代、プロ野球選手会の副会長をしていた時のことだ。
当時、統一契約書の不備を指摘しそれがなかなか解消されずに不満に思った
落合博満は、予告もなしに突如選手会を脱会してしまう。選手会は球団サイド
とのFA導入とドラフト改革の団体交渉の大詰め、真っ只中にその知らせを
聞き愕然とする。大物選手の離脱となれば交渉にも差支えが出るのは目に
見えている。最悪のタイミングで最悪の行動に出た落合を選手会首脳は何度も
説得をしたが、落合は結局その態度は変えなかった。交渉は紆余曲折を経て、
残念ながら妥協の産物となり不完全な制度になってしまったものの、
どうにか選手会は球団サイドとの粘り強い交渉の末にFAの権利を獲得した。
そうした努力と球団サイドの思惑も重なりFAが導入される。そのFA移籍
第1号になったのは、言うまでもない落合博満だ。しかし選手会を脱退して
いた落合は、その法的手続きをどうしたらいいかが全く分からなかった。
しかも上にあげたような経緯で選手会を脱退している以上、自分からも聞く訳に
も行かず、そして教えてくれる人もいない。困り果てていた落合に救いの手を
差し伸べたのは誰あろうプロ野球選手会副会長であった原辰徳だった。
落合がFAをすれば巨人に移籍をし原はポジションを追われるかもしれない
のが明白であったにも拘らず、風の便りで落合が困っている話を聞いた原は
自ら落合の自宅に赴き、制度の説明をした。落合は黙って原の説明を聞き入
っていたという。その後落合はFA宣言をし、巨人に入団。原はポジション
を追われた形になり引退時期を早めた。原は後日、懇意にしている新聞記者
に何故そんな事をしたのかと聞かれた際こう答えたという。
「FAというのはプロ野球選手が皆で勝ち取った権利なんだ。それを行使
したいという選手がいればサポートするのが選手会の役目であり、俺の役目だよ」