9月25日付 編集手帳
森繁久弥さんは売れない昔、古川ロッパ主宰の劇団で修業した。ある座敷で「先生、ぼくはどこに座ればいいのでしょう」と尋ねた森繁さんに、
ロッパは答えたという。「どこへでも座れ。おまえの座ったところが下座だ」
◆日本も国際会議の座敷で、「ぼくはどこに座ればいいのでしょう」と一座を見渡すことがままあったせいか、床柱を背負う上座が
よほどうれしいのだろう
◆温室効果ガスの排出量を25%削減する日本の中期目標を、鳩山首相が国連演説で言明した。称賛の拍手をもらい、閣内は高揚感に包まれている。
自民党政権のもとでこれまで、「どうぞ、主役は奥へ、奥へ」と上座に通されたことがあったか、と
◆ 温暖化対策の旗手たらんとする首相の志やよし、いい気分に水を差すつもりはないが、〈夏の馬鹿(ばか)は奥に座る〉という格言も頭の隅にしまって
おいてもらおう。最大の排出国である米国と中国が同じ座敷に入らぬまま縁側で涼み、日本だけが床の間の前で経済悪化に歯を食いしばって一人ぼっちの
我慢会をする――というのは願い下げである
◆呼吸困難で倒れてしまえば、上座も下座もない。
(2009年9月25日01時21分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/column1/news/20090924-OYT1T01303.htm