http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2009082502000103.html 大阪の国立循環器病センターで、心臓移植を待つ青年の取材をしたことがある。
病室に入ると人工心臓がドクン、ドクンと大きな音を響かせていた
▼この青年の命を守った人工心臓の開発と試作を担ったのは、東京都大田区の
町工場だったと最近知った。多摩川のすぐ近くに工場がある「安久工機」
(同区下丸子)がその会社だ
▼二代目社長の田中隆さん(53)が大切にしているのは町工場間のネットワーク。
多くの工程が必要な製品開発で、五十社にのぼる協力会社の人脈が財産だ。その仲間
を通じて、香川県の盲学校の教師から依頼があったのが「触図筆ペン」だった
▼絵を描きたいという子どもたちの夢をかなえようと、三年がかりで開発した。
蜜(みつ)ろうを入れると胴体に巻いたヒーターで溶け、筆先を紙に押しつけると
ろうがしみ出る仕組み。線は手の加減で太くも細くも書ける。固まれば指で線の
太さを確かめられるこのペンは、盲学校の子どもたちを勇気づけた
▼一九八〇年代には九千社あった大田区の町工場は半減した。それでも高い技術を
持つ多様な製造業者がこれだけ集約された地域は世界に例がないという
▼田中さんは六月に「大田の工匠100人」の一人として表彰された。大企業の
下請けではなく、独自の技術を持つ町工場が連携したものづくり。厳しい時代
環境の中で、生き抜く知恵を感じさせる。