【次代への名言】8月6日・『黒い雨』井伏鱒二
■「や、光が手走(たばし)った」(『黒い雨』井伏鱒二)
昭和20(1945)年のきょう午前8時15分。地上約1万メートルを飛行中の米軍B29爆撃機が投下したウラン型原爆
「リトル・ボーイ」が広島市中心部の上空約600メートルの地点で、炸裂(さくれつ)した。
冒頭は『黒い雨』に記された、その瞬間である。この作品でもふれられている広島逓信病院の蜂谷道彦病院長は
『ヒロシマ日記』にこう書き残している。
「まばゆい光、しかも逆光(中略)、とても美しい。私はぼんやり庭を眺めていた。眺めていたというより美しさにみとれて
いたのであった。さらに強い光がすうすうと二度続けざまに光った」
直後に襲った惨状と生き地獄、それらに立ち向かう市民のけなげさ、尊さ。その一例をいまに伝えるのが『黒い雨』の
主人公、閑間(しずま)重松の手記である。
この年の終わりまでに亡くなった人たちを含めた第一次の犠牲者は約14万人。だが、原爆症の魔手はなお伸びる。
閑間も、放射能を含む「黒い雨」を浴びた彼のめい、矢須子もその被害者だった。
「正義の戦争よりも不正義の平和の方がいい」。原爆は閑間にこう語らせる。だが、「正義の平和」がいいに決まっている。
オバマ米大統領による核兵器廃絶の意思表明は、その一歩である。
http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/090806/acd0908060401000-n1.htm