県警の依頼で40年近くにわたって、水戸署管内で見つかる変死者の死因を判定する検視を
手がけてきた“名物検案医”の根岸康躬(やすみ)さん(83)(水戸市大塚町)が昨年末、本業だった開業医を辞めた後も、精力的に検視の現場に足を運んでいる。
これまで検視した遺体は、2000体を超える。
「検視で隠された事実が明らかになれば、死者の人権が守られる」。
白衣を脱ぎ、青い作業服に身を包んだ根岸さんはそう信じ、遺体と向き合い続ける。
水戸署管内で見つかる変死体は、年間約400体と、県内では群を抜いて多く、同署管内の検案医は6人。
根岸さんは県内に約90人いる検案医でも最年長に近い大ベテランだが、
「遺体がどういう状態で現場にあったか、自分の目で見なければ、納得のいく死因究明はできない」という思いから、現場には必ず足を運ぶ。
今もほぼ4日に1回は出動し、1年で見る遺体数が100体近くに上る年もある。
「痛かったろうな」。遺体に語りかけながら、髪の毛1本まで丁寧に見る。ある捜査員は6月の夜、
男性が列車にはねられて亡くなった事故を覚えている。根岸さんは、バラバラになった遺体を検視
した後、3時間かけて遺体を縫い合わせ、午前5時頃に帰宅した。疑問を口にしない刑事は信用しない。
ミスを防ぐため、議論しながら検視を進める。検視の場が教育の場になり、薫陶を受けた水戸署の刑事
の多くが“門下生”となり、各地に巣立っていった。「事件性があってもなくても、根岸先生は遺体と真摯
(しんし)に向き合う。変死者も安らかに眠れるだろう」。同署刑事1課時代に指導を受けた捜査員は語る。
昨年末、「年だから」と医院を閉めた。
しかし、検案医の方は「署員から『やめないで』と説得されたから、現役続行を決めた」と笑い、「好きだから続けられるんでしょうね」と語った。
人間へのあくなき興味が、80歳を超えても遺体と向き合う原動力になっている。
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/ibaraki/news/20090728-OYT8T00075.htm 依頼311