日本の家計部門の貯蓄率が急速に低くなっていることを知っているだろうか。
OECDのエコノミック・アウトルックの付属統計表の数字で見ると、
1990年代の初めには15%もあった日本の家計部門の貯蓄率は、2007年には3%前後まで下がっている。
大変な下がりようである。米国の家計部門の貯蓄率が低いということがよく話題になるが、
場合によっては日本の貯蓄率のほうが米国よりも低くなる可能性もありうる、と指摘するエコノミストもいる。
日本の貯蓄率は国際的に見ても高いほうであると考えている人が意外と多いようだが、
家計部門で見るかぎり、日本の水準は世界的に見ても非常に低い水準となっている。
こうした動きは将来の日本経済の姿を考えるうえでも非常に重要なポイントとなるのだ。
そもそも、なぜ日本の貯蓄率はこんなにも急速に下がってきたのだろうか。
その要因はいろいろあるだろうが、もっとも説得的な理由は少子高齢化の進行である。
人口のなかに占める高齢者の割合が増えるほど、経済全体の家計部門の貯蓄率は低くなる傾向になる。
一般人は現役時代に貯蓄して老後の生活資金を蓄え、引退後はそれを切り崩して生活資金に充てていく。
その結果、現役世代の貯蓄率は高くなるが、高齢世帯の多くは貯蓄率がマイナスとなるのだ。
以上で述べたことは、いまの日本経済の一般的な認識とはかなり異なる。
よく知られているように、日本国民が保有している金融資産の額はきわめて大きい。
年間可処分所得との比で見ると、国民1人当たり約4倍の金融資産を保有している。
ドイツやフランスの2倍、米国や英国の3倍に比べて群を抜いている。
金額で見ても、約1400兆円あるといわれる個人金融資産の70%前後が60歳以上の層に保有されている。
大金持ちは少ないが、小金を貯めている高齢者が多くいるのだ。
いま日本でいわれているのは、多くの高齢者が貯蓄に励みすぎ、消費が少ないことが日本の内需不振を
招いているということだ。国民がもっと積極的に消費を行なえば、日本経済もこれだけ輸出に頼る必要がない、
という思いをもっている人は多いはずだ。
▽執筆者:伊藤元重NIRA理事長、東京大学教授
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