三菱UFJ証券の顧客情報流出事件をめぐり、「情報」の持ち出しに罰則がないことが改めてクローズアップされている。逮捕された同社元社員は持ち出した顧客情報を高値で売却していたのに、
警視庁が窃盗容疑で立件できたのは「情報」の内容ではなく、元社員が持ち出したCD1枚(65円相当)だけ。「情報」は刑法上「財物」に当たらないためだ。個人情報保護に関する法整備の遅れが、
事件が続発する一因といえそうだ。(道丸摩耶)
警視庁によると、今回の事件は、同社元部長代理の久保英明容疑者(44)が会社のデータベースに他人のIDを使ってアクセスした行為が不正アクセス禁止法違反に当たり、
顧客情報データをコピーした会社のCD1枚を持ち出した行為が窃盗に当たるとした。
久保容疑者は約149万件の全顧客情報を持ち出し、うち約5万件分を名簿業者に32万8000円で売り渡していたにもかかわらず、情報の持ち出し自体を窃盗罪に問うことはできなかった。
警視庁幹部は「久保容疑者が会社のCDではなく、私有のCDに顧客情報をコピーして持ち出していたら、窃盗容疑での立件は難しかった」と語る。
窃盗罪は10年以下の懲役か50万円以下の罰金。一方、不正アクセス禁止法違反罪は1年以下の懲役か50万円以下の罰金。「窃盗容疑で立件できなかったら、
ノイローゼになるほど金融業者から勧誘電話を受けた顧客の被害と釣り合わない」(捜査関係者)
顧客情報の流出をめぐっては、ヤフーBBの会員460万人のデータ流出事件(平成16年)や、大日本印刷の864万人の顧客情報流出事件(19年)など、たびたび問題化している。
情報法に詳しい堀部政男一橋大名誉教授によると、平成17年に内閣府の国民生活審議会の部会で「個人情報窃盗罪」について問題提起されたが、
検討には至らなかったという。堀部教授は「今回のような個人情報に限らず、企業情報など価値の高い情報を入手し、転売するケースは今後も増えてくる」と指摘している。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/090701/crm0907012024029-n1.htm