1 :
ヘラオオバコ(広島県):
1000ならカワイイ彼女出来る
泣きじゃくる花梨を抱きしめながら、僕は、そんな都合のいいことばかりを考えていた。
「すみま、せん。ゆき…ひっ…メイドですのに、ご主人様の、っぉ、お布団を、汚してしまって」
「ええ、そう書いたつもりでしたの」
「やっぱり、信じられないかな」
「私に心配かけた分! ホントは、そんなもんじゃ済まないんだから」
「日本神話が?」
まるで、僕が躊躇することを、読みとっていたみたいに。
「スキンシップでも、嫌な時は言ったほうがいいよ」
「花梨…胸、いい?」
つかみかかった拍子に、写真が落ちた。
前世とか?――いやいや…
「楽しくやらせてもらったよ」
「うん…僕の知り合いの中に、色白で、髪の長い女の子っている? すごく長くてきれいな黒髪の…」
「僕が雪さんの服を脱がせたことなんて、あるの?」
その事実が揺るがない限り、なんにも意味がないんじゃないか。
「子供…できちゃったかな?」
「はは、可愛いと思うよ。行こうか」
ただでさえこの暑さだし、そう都合良くあの子が、外に出ているとは思えない。
「本人が気にしてないんだから、いいじゃない」
そろそろいいかな、と彼女への入り口にあてがった指に力を入れると、
様々な疑問が、頭の中を駆けめぐる。
「で…デートって言ったって遊ぶところなんかないし、適当に食べて話して、っていう感じだけどさ…」
きのうの今日である。
当然、家に戻ったりはしないだろう。
「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!」
「僕…かな、やっぱり」
でも、現実の僕に引けないはずの弓が、ここでは、自分の意思と関係なく引かれてしまう。
僕の無意識っていうやつが、何かを訴えているのかもしれない。
「しかし、久しぶりに見たけどホントに速いな。花梨だって、女子のほうじゃ、かなり速いだろ?」
ほほに手を伸ばす。
「同じかな?」
「透矢く…ふ…両方はぁ…」
僕は、その手を引き、彼女の体を抱き寄せた。
「…確かに、この場所については」
「あ、はい」
みんなが息を吸う、その一瞬、ひとときの静寂、
彼女が、一人でしていた日のことを思い出す。
「もう…キミ、ちょっと意地悪だよ」
「仕方ないなぁ」
彼女に話を聞きたい。
ただし、夢の内容については、一部を伏せて。
「たまにはあの夢のように、二人でお出かけしてみませんか?」
「大丈夫ですよ。私もお姉ちゃんとよくケンカしますけど、すぐに仲直りできちゃいますから」
「嘘だ」
「本当です。あの、このままばんそうこうだけ貼れば、大丈夫だと思いますから」
どう考えたって、おかしい。
「いいえ、参りましょう」
「私のは用事じゃないし、構わないよ」
「夢の中で、同じこと言われたよ」
「忘れてない忘れてない。さて、それじゃあ、着替えようかな…」
「しかし、根本的な解決にはならねーし、なんていうか…大変だな、おまえも」
「発情期って…そうか、押し倒した時の…旦那さまって…」
「私、部活には入ってないから。それに、どちらにしても、今はテスト期間だから部活はお休みだよ」
だけどこれは、誰がなんて言おうと魔法だ。
「…とにかく、必死で声をかけろと」
「どうして、僕に?」
「わかってるよ。別に、花梨のこと笑ったわけじゃないってば…」
「はぅ」
雪さんの視線の先には、僕を待っているのか、ぼけっとした顔でたたずむ牧野さんがいた。
「うん。ぜんぶ、僕のだから…駄目?」
“ばっさばっさばっさばっさ!”
「透矢さん…今ね、とても…気持ちいいんですの」
「あー、朝から誰かさんのおかげで、いい運動させてもらいましたー」
マリアちゃんは両手で自分の体を抱きしめるようにしながら、素直に引き返した。
お茶を飲んで、ごはんを食べて、やっとひと息つけた。
「…了解」
つまり、
フォローされているのか責められているのか、よくわからなかった。
「あの、いえ、そんなことはないんですけど。普通、あんな態度をとられたら怒るんじゃないかと思って」
きつい――僕は、やむを得ず、上半身の体重を前に傾け、彼女の太ももを無理に開かせた。
意外にも、彼女はすんなりと室内に通してくれた。
「才能と偶然。あなたはどうして幽霊がいないと思うの?」
あれは、その時の記憶だったってことなのか?
この洞窟の中で、僕は彼女に追いかけられた。
誰もいなければ、すぐに帰ってくればいいだけのことだ。
「まあ、でも…マリアの耳に入るのは防ぎましょう。あなた、あの子の前でそんな話をしたら殺すわよ」
でも、僕には、雪さんやみんながいてくれる。
点字は、目が見えない人のために考案された音標文字である。
81 :
プリムラ・ダリアリカ(神奈川県):2009/06/13(土) 00:46:00.18 ID:bB02vV1z
* *
* + うそです
n ∧_∧ n
+ (ヨ(* ´∀`)E)
Y Y *
「…変なこと言ってないよね」
「道祖神ですね。こうして道ばたに立って外からの疫病や悪霊を防いでくれるんだそうですよ」
場所的にも、海岸沿いの大通りに面しているし、人を集めるには、こちらのほうが向いているだろう。
だけど、この時期の死体って…
「僕だって、たまたまだよ。技術だけで百発百中ってわけにはいかないのが弓道なんだから」
時々、こんなことがある。
地の利でも、戦力でもなく、神が味方したとしか、言いようがない。
「それでね、最後に、ひとつだけお願いがあるの」
「誰?」
「はぁ…それは嘘だから」
「いいよ。大げさだな、雪さんは」
「ん? やっぱり知っていたとか?」
僕も、そんな彼女に何を言っていいのかわからなくて、ただ立ちつくす。
だけど、彼女はお構いなしに、何度も何度も唇を重ね、舌を絡めようとする。
僕は、和泉ちゃんの肩を押し、そっと体を離した。
97 :
アカシデ(関西地方):2009/06/13(土) 00:46:01.50 ID:JXwK/cCw
すげええええ
「そんな昔か…って、それじゃあ、ナナミ様の話って、その時代に、実際に起こったことなのかな?」
「最近は、いかがです?」
花梨は何も言わないけど、僕を産んだ事で、母さんの命は縮まってしまったんじゃないか?
と、鈴蘭ちゃんのほっぺたを引っ張る。
「ぅ…雪さんのが、気持ち良すぎるんだ」
「いや、気づかいは嬉しいんだけど、あなたがそういうこと言うと…」
馬鹿な僕、鈍感な僕。
「い、いや」
「お兄ちゃんって、鈴蘭ちゃんは庄一の妹じゃなかったの?」
いつもの調子で、『死』なんていう言葉を使う和泉ちゃん。
「あ、鈴蘭ちゃん、前っ!」
底のほうから上がってきた和泉ちゃんが何かを差しだしてきた。
でも、わかってたって、悲しいものは悲しい。
無茶な理屈でねじ伏せられてしまった。
アリスは、さして興味無さげに僕を一瞥すると、マリアちゃんのほうに向き直り、厳しい口調で言った。
「では…旦那様の見るという行為がわたくしの見るという行為と違っていたとしたら?」
114 :
カラスノエンドウ(茨城県):2009/06/13(土) 00:46:02.02 ID:mF6CAZsi
お邪魔するよ
もうすぐ、彼女は僕の視界から消えてしまう。
「ち、違うよ」
何か心に引っかかるものがあった。
あるいは、それが、彼女の望みなのかもしれない…そんな気もする。
庄一が見下ろした先には、親友の背中に向けて差し出される小さな手があった。
何か、引っかかった。
「はぁ。そうだよね、マリアはそういう子だった」
「ん…行こうか」
「ちょ、ちょっとキミ、普通にできたじゃない」
体も軽い――拳をにぎると、ちゃんと力が入った。
花梨は、指先でほっぺたを掻いて、
だから、僕にだって受け止めることができるんだ。
「ごめんね。今日は、これから塾があるから」
マリアちゃんのつぶやきに、和泉ちゃんは辛そうな顔をして唇をかんだ。
「どうなんだ?」
「わかんない…気づいたら、あそこに」
「…うん。マリア、聞いて」
「無理、させちゃったのかも」
何かぶつぶつ言いながら、花梨は僕に手招きをした。
「他にもいろいろ、ですわ」
だけど、いくらなんでも、それと事故を結びつけるのは考えすぎだろう。
「駄目だよー、勉強に誘ったんだから、教科書も見なくちゃ」
「信じられない?」
「…鈴蘭ちゃん、いいなぁ」
構造のせいか、光を通すとぼんやりと発光しているように見えるのが面白い。
苦笑する僕に、花梨はわざとらしく眉間をつまんで、何か考え込むようなポーズをとった。
僕が記憶喪失だっていうことに気づいたのは、過去や時間っていう概念を本能的に記憶していたからだ。
微弱な動きが、じらすような効果を与えていたのかもしれない。
意味深だ…
「神隠しですか…」
「父さんが、ナナミ様の研究…」
「…ひゃむ…ぅ…んぅ…」
「ふふ、今度は、宮代さんに負けたくありませんわね」
と、吐息を漏らすのだった。
「少々お待ち下さい」
「うかがいを立てる?」
「僕? 僕は別に」
今にも泣き出しそうなアリスの頭を撫でる。
目元を、ほほを、首筋を、涙の軌跡を追うように舌をすべらせる。
「透矢さん」
服の上から指先が触れただけなのに、花梨は、きゅっと身をすくめて、切なげな声をあげた。
僕は逃げた、彼女は逃げなかった。
「透矢、いらっしゃい。和泉、牧野さんはなんともなかったの?」
ぴしゃりと言い放ち、彼女は立ち上がった。
彼女が写っているのは、どれもこれも暗闇の中で、しかも距離を置いて撮ったような写真ばかり。
「浴衣を着て、好きな男の子とふたりっきりで花火。すごく、デートっぽい」
夢のイメージも相まって、なんだか地獄への通路を連想させる――うす気味悪い。
「もともと、体が弱いからね…」
マリアちゃんが不思議そうな目をして顔を上げる。
僕は走った。
「すごい言われようだね、和泉ちゃんも」
陽が傾き始めていた。
夢の中で、牧野さんらしき人に、膝枕をされていたのが、確かそんな場所だった。
つもりなんだけどなぁ…。
「透矢さんの、お好きなように」
「とにかくそういうことだよ。それでは」
宿題も終わったし…まあ、記憶は戻らず終いだけど、とりあえず一段落。
…そして、なんだろう、この寒気。
「いいも悪いも、ほら、あんなに」
「新城さん?」
まとわりついたそれを潤滑油に、僕は、愛撫を続けた。
「ありがとう。雪さんも…」
「ありがとう。もういいからね」
でも、生活の保障はされているし、僕に実害があるわけじゃないのも事実。
「悪いのはこっちなんだから、謝らないでよ。それより……私、ケガするほど強く蹴っちゃったかなぁ?」
幼い頃につかみ損ねた風船。
「辛い?」
「夕食の前には、必ず」
そのうち、スリットに差し込んだ手が、薄い布を掴んだ。
かあっ、と顔を赤くして、うつむいてしまった。
「それでも、駄目か?」
なんだか疲れた。
187 :
ヤマエンゴサク(東京都):2009/06/13(土) 00:46:05.42 ID:y4LMA6Jx
こいつ ∩_
最高にアホ ((( 丶
〈⊃ )
∩___∩ | |
|ノ 丶| |
/ ● ● | /
| (_●_)ミ/
彡、 |∪| /
`/ __丶ノ /
(___) /
∩___∩
|ノ 丶
/ ● ●|
| (_●_)ミ
彡、 |∪| / \
`/ __丶ノ/\ 丶
(___) / | |
| |
こいつも f |
最高にアホ ||)))
U ̄
「んーっ、ぅ…ぅぁ…」
それと、できるだけ、那波ちゃんと仲良くしてあげてください。
それが、どうしてあんな風になる?
だが、それ以上に、言い伝えの事が気にかかりもした。
(っっ…)
開きかけの口をふさぐと、僕は、行為を続けたまま、小さな体を抱き寄せた。
でも、現状と照らし合わせると、非常識であること以外、特に否定しなくちゃいけない箇所もない。
この子がこうしてくれるだけで気持ちが落ちついてくるんだから、不思議というか現金というか…
「にーぃ」
「次は、僕も餌づけしてみようかなぁ」
198 :
ビオラ(神奈川県):2009/06/13(土) 00:46:06.26 ID:969SMwR9
キター
「…ゆ、雪さん、たぶん知らないほうがいい話だから。ねっ?」
「元気がありませんね。また夢ですか?」
「あの、透矢さん、お布団のことなんですけれども」
「ありがとうございます。次は、本業のほうを頑張りますね」
風で玄関の戸が揺れているみたいだ。
子供たちの声を聞きながら、僕は、手近なベンチに腰を下ろした。
「…可愛い下着だね」
「なんとなく、ね」
「おじさま、ナナミ様の伝承について研究してたから」
「おんなじ事だよ。それに、習ってる事は嫌いじゃないからって、本人も言ってたし」
「こっちこそ、なんか、知ったような口を利いちゃって」
「雪さん、大丈夫だよ」
「久しぶり、鈴蘭ちゃん」
「さて。じゃあ、始めようか」
「いいけど、今度は?」
「案内するわよ。他に案内するようなところもないし、同じに感じ悪いのなら外のほうがマシだもの」
めずらしくおとなしいものだから、頭の上にいるのをすっかり忘れていた。
「ぷぁ…」
(気持ちを入れ替えないとな)
「んのガキぃ、お兄さまにアッパーたぁ、なんの真似だ?」
「私ね、引っ越してきたばかりの時、透矢くんに、すごくお世話になったの」
「え? あっ、も、もうちょっと…ゆっくりしたいなぁ」
『那波村の伝承』
花梨はとろんとした焦点の合わない目をして、よだれを垂らし…それでもなお、僕の名前を呼んだ。
息を潜めながら、白昼の、蔵に侵入する子供ふたり。
蛇に噛みつかれたのだった。
雪さんは俺の嫁
と、何か、固い物が転がるような音がした。
僕は、なんとなく庄一を玄関まで送ることにした。
背筋に、冷たいものが走った。
「わかってる。ごめんね」
230 :
ニリンソウ(長屋):2009/06/13(土) 00:46:07.24 ID:D3NxwHLF
555
だけど、これじゃあ『おどろくな』っていうほうが無理な話だろう。
マリアちゃんは目のはしにあふれ出したものを軽くぬぐい、笑った。
「うん。それに、今日は課題の話をするんでしょう?」
そう言って、彼女は優しく優しく、頭をなで続けてくれた。
条件反射で叩かれていたのか…
ひとまず腰を下ろす。
見た目にはぺったんこだけど…触ってみると弾力がある。
「透矢…っ…透矢…」
見てるだけなのに、なんでわかるんだ?
「それで、ここにいるってことは…」
「やっ…ちょっ、ちょっと」
「……じゃ、じゃあ、ちょっくら行ってくるわ」
ひょっとして、アリスの言葉を否定している?
「明日も約束をしていたな。断るなら、適当な言い訳をしておくぞ」
女がいた。
「それで、はぐれちゃったの?」
「こっち、向いてくれないの?」
僕もつられて頭を下げる。
かすんでいく視界を手でおおうと、冷たい、あの感触が伝わって、
「ジロジロ見ないほうがいいぜー?」
射精感が、高まる。
「でも、ふつうは最初からできるんでしょう?」
僕のことなんてわすれたように、ふたりは手を取り合い、大はしゃぎで、屋台のほうに駆けだした。
「熱があるとか。計ってみた?」
「いいよ。花梨ちゃんと上手くいってるみたいだし」
「よろしい。じゃ、そろそろ切るね」
「今回は、特に花梨ちゃんの得意なところが出るみたいだもんね」
「いいんですよ。雪は『一緒にいた』よりも『一緒にいる』のほうが、素敵なことだと思っていますから」
「あ、あなたがマリアを犯したの?」
「そんな重病人が、入院もしないで…」
いやむ
(まあ…仕方ないか)
「そう言われてもなあ」
この胸を揉んで、興奮してる時点で意志も何もないんだろうけど。
僕は、彼女の輪郭を形作るなだらかな曲線の上を、今までより、はげしい動きで愛撫した。
「…起こさなくていいのかな?」
確かに、僕たちの歩いて来た道がある。
そーっと、そーっと…
「お口で…」
「僕は、アリスも鈴蘭ちゃんも喜んでくれるのが、一番いいけどね」
巫女服を着れば、誰でも巫女になれるなんて思ってたけどそうじゃない。
272 :
ハナビシソウ(埼玉県):2009/06/13(土) 00:46:08.31 ID:qf53UpS8
ア
僕は首にはわせていた舌を唇へ、頭を撫でていた手を、ふとももに運んだ。
「夢から世の理を導き出す力ですわ。星見の力と同じですの」
「返事は?」
「よくやるな」
「っっっ……っ、はぁぁぁ…」
「あ、えっ? ううん、見えっこないじゃん」
「…勘弁してよ。ただでさえ、夢と現実がごっちゃになってるのに」
「もし…ここでやめたら、ずっといてくれる?」
「っっ。か、花梨、つま先で蹴らなくてもいいのに」
「あ…ご、ごめんなさい」
「行っちゃった。大丈夫かなぁ…」
「…え?」
マリアちゃん、声を上げたと思うと真っ赤な顔で、僕の下半身に目をやる。
286 :
ジロボウエンゴサク(三重県):2009/06/13(土) 00:46:08.12 ID:ao9Qx10c BE:213825-PLT(12000)
⊂( ´∀`)⊃ むぎちゃん!むぎちゃん!むぎちゃん!
僕も、あの人のことは知らない。
けっきょく、裸だったらしい。
「ご主人様が、メイドさんを好きになるのは、いけない?」
「牧野さん、それじゃあ、やっぱり」
「嘘だもん…そんなこと言って、本当は目が覚めなければいいって…」
異常なことなのかもしれない。
「でも、ちょっといい雰囲気ですよね。私も、こういうところでお勉強したかったなぁ」
「それは…でも、こういう時、那波ちゃんの言うことは…」
夢の通りにいけば、彼女が死んでしまうその日。
内容は、ほとんど予想通りだった。
『本当ですわ。いつも、その石を身につけていなさいな。目印になりますわ』
「ええと、新城ともうしますけど…」
「花梨…?」
「走馬燈のようにってやつだね」
「そういうアリスは?」
「私、途中からキミのこと見てたけど、誰もいなかったよ」
逆から読んでいるらしい。
「うん…ぅ…」
うつむいてしまった。
「まったく、花梨が邪魔しなけりゃ、キスくらいまではいきそうだったのにな…」
じぃっと僕の顔をのぞきこむ花梨。
むくれられてしまった。
「透矢さん、本当に大丈夫ですか?」
彼女がこれから何を言うのか、なんとなくわかってしまったとしても。
「ごめんね。七夕の日に見ちゃって…」
「おんなじだよ」
「間違い電話?」
「そんなことありません…ありませんからね?」
「くす。欲ばりなのか、そうじゃないのかわからないよね」
正直、この数日、花梨の存在の大きさを思い知らされることが多い。
「…何を書いたらいいか、わからなくて。まあ、記憶が戻るようにって書いておけばいいんだろうけどさ」
「…してませんけど、そういう心配は、しないのかな、と思って」
「おねえちゃん、だらしないよぅ…」
「仕方ないとは言わないよ。でも、庄一がいなくなるっていうのは、なんか寂しいなぁ」
いくら軽いって言っても、女の子を抱きかかえたまま、坂を上るのは辛い。
『い、いいってば。動物が相手じゃ仕方ないよ。また次の機会に見せてよ。楽しみにしてるから』
「…寝起きで、よく避けたね」
「っは…ぁぁ…透矢さん…そろそろ」
“ザー…”
ちょろちょろ…僕の射精が終わっても、彼女のおもらしは、終わらなかった。
実際には、声になっていなかったのかもしれない。
それでもアリスは少しずつ少しずつ、腰を落としていく。
世界を祝福するように雪は降り積もる。
腕を引く…一瞬、ぞくりとした感覚が走りはしたけど…いける。
「はは。じゃあ、僕が買ってくるよ」
確かな、思い出なのだから。
「んじゃ、明日ねー」
思わずうめいた。
ほっぺたをつねられても、夢って覚めないものだ。
僕は、頭から布団をかぶって、タヌキ寝入りを決め込んだ。
「私はやることができたから。透矢、マリアをよろしくね」
「願いをかなえてくれる、とか言ってたよね」
「はい。…夢よりも優しいんですのね」
花梨は言葉とは裏腹に、僕の首へ手を回して、再び自分から腰を動かしはじめた。
殺される夢を見るのが、好き?
こびるような目で見上げられると、それだけで、背筋がぞくりと反応した。
「別の言語の点字、もしくは…現在主流になっているものとは、対応の違う点字ということになりますわ」
「夢じゃ、ないよ…」
牧野さんの手は、冷たい。
「邪魔して悪かったね。それじゃあ」
「いや…」
「良いではないか良いではないか…」
だから夢に見た、だから弓を引くのが怖かったのかもしれない。
「すみません。雪、お薬は駄目なんです。気分が悪くなってしまって」
完全に固まってしまった。
笑った。
「…よくそこまで調べられたね」
「感じ悪いなぁ…」
「透矢くん? まさか、本当に思いだしたりしたんじゃ…」
「馬でも可」
波音がする。
ああ…夢が、覚めたか…?
どうも今日は間がもたないというのか…変に意識してしまって、お互い、口を開くことができない。
「そう言われてもねぇ。あと、ホタルが出たでしょう?」
僕の動きに反応して、彼女の腸内がざわめく。
「花梨…起きてよ」
「私は言うよ。明日、花梨ちゃんに会う」
「ときどき、声をあげていましたわ。夢でも見ましたの?」
「は? ええと、それはつまり…」
「僕は覚えてないけど…だよね?」
牧野那波。
と、差しだしたのは、動物図鑑?
「はは、仕方ないよ。それで、雪さんもああいう事に興味があるの?」
写真の様子から、三人の関係は今とそれほど変わっていないんだということが見てとれた。
“くちゃ、くちゃ”
「初耳」
「アリス、それって…」
余計なことを言うのはやめよう…。
明日から学園へ復帰することになっている僕は、午前中から机のほうに向かっていた。
「ヒモでしばったりとかー」
「わかってるけど、僕があげたいんだ。牧野さんって趣味とかある? 集めてるものとか」
「用があるから来たんでしょう」
つまり、こういうことらしい。
「そう言われても。だったらキミ…アリスが、僕の家まで来てくれるかな」
気持ちいいのもあったし…そういう彼女の姿を可愛いと思ってしまったから。
「ええ。前世で、透矢さんと那波は、恋人同士でしたの」
「おねえちゃん…おね…っ…ん」
「まだ、いい」
「そういうことか。ま、頑張ってくれ…おやすみ」
「ふん。ちょっとは大人しくなりそうだしいいんじゃないの」
「僕、マリアちゃんだけじゃなくて、アリスとも友達のつもりだよ」
「みっともない真似をやめるか。さて、マリアちゃんはどっちがお好み?」
髪の長い、はかなげな――毎夜、僕の夢に現れる少女――
昼食を取り終え、ぼんやりしていると、雪さんが急にそんなことを言いはじめた。
あわててシーツをかぶせた。
わけもなくこみ上げてくるものを感じ、二人から顔をそむける。
「いいんだ」
「…いいえ。人を待っていましたの」
「私の顔、何かついてる?」
庄一は、自分の気持ちについて考えてみろと言っていた。
「花梨…こっちも、見せて…」
「いいから、透矢はマリアを…」
「花梨、悪いんだけど、ちょっと和泉ちゃんと約束があって…」
「きのうも来なかったの。ひょっとしたら山に戻ってくれたのかしら」
「だって、雪と透矢さんは、こうして一緒にいるじゃありませんか」
「ホントに、大丈夫だから」
403 :
アマリリス(千葉県):2009/06/13(土) 00:46:09.63 ID:vmT9JUwv
◆aLICeotiAI は何故規制されないの?
「あれで?」
「でも、僕はもう」
人を好きになるって、こういうことなのか?
「来るなって言えば来ないわよ」
変な夢は見たけど。
「…まあね」
『雲絶えて、光さし添う、白珠の――』
「それは、和泉ちゃんが言ったことを真剣に考えてただけで…」
『七月七日 午後五時 公園で待っています』
なでなで――簡単に流される僕。
花梨とじゃれ合ってる印象ばかりで、気にも留めていなかったけど…
「や、やめて…っ…よぉ…」
「アリス…それは、矛盾していない?」
「旦那様まで、夢見の力を…」
「おにーちゃーん」
だけど、手を離すことはできなかった。
「まったく、誤魔化して…大丈夫だよ」
アリスの一日奴隷権、獲得…。
そのくせ、普通に会話はできる――つまり物事の意味はわかる。
「結果的にそうなるのかもね。だけど、私はエサ代がもったいないだけよ」
数回ゆっくりと上下させただけで、僕のものはもう、達する寸前にまで追い込まれてしまった。
「痛いから、良かった…最初が、透矢くんで良かったよ」
「でも、今どきそんな人たちが…」
「本当にすみませんでした。せっかく、透矢さんに買っていただいたものを」
お人形さんみたい、という表現がこれほど似合う人もなかなかいないだろう。
「僕、あの子とは初対面じゃないの?」
「おまえが不幸なのは、俺様としょっちゅう一緒にいることだな。おかげで、この魅力に気づけない」
僕の思考を読みとったように言った。
この現実の正体が、夢であれ幻であれ、ここにいる、僕だけ。
「おやすみ、雪ちゃん」
「その神様って、僕も知ってた?」
「んぅ…っぁ…はぁ…」
「はは、そんな事はないでしょう? 喜んでくれたのはうれしいけど、欲しい物の一つや二つ…」
今度は、こういう素直さならいいな、なんて、節操のないことを考えてしまった。
「そ、そういう問題じゃないよ!」
「…透矢くんも、いいよ」
「ぅー…あなた、こういうことになると、少し意地悪じゃない?」
「誰もいないじゃない」
恥ずかしいし、汚いことも考えてしまうけど、今は彼女を想って優しい気持ちになることができた。
「キミ、勘違いしちゃ駄目。牧野さんも、いれば来てたはずだよ」
「ごめんね…。私、これ以上、何かを思い出してほしいと思ってないから」
「本当に…っぁ…好き?」
代わりに残ったのは、青みがかった半透明の小さな結晶。
そんなふうに割り切れたら、どんなにか楽だろう。
もっとも、その印象は、僕の心象の悪さに起因しているのかもしれない。
どちらにしても対応に困る。
今日でお別れなのに、そんなことをして間違いが起こったらどうするんだ?
湿っているせいもあるんだろうけど、女の子のって、きゅうくつで脱がせづらい。
「断られちゃったんだ」
「いいに決まってる。続けるね」
人が変わってしまったような冷たい声に僕は身震いしながら体を離した。
「おねーちゃん、夏休みになったらだよ」
『七月七日 午後五時 公園で待っていま す』
「ありがとう。じゃあ、透矢くん、少しだけつき合ってね」
鈴蘭ちゃんんはてけてけと、洞窟の中に消えてしまった。
「これでけっこう高級なんだよ。お買い得だと思わない?」
「するな!」
「わたしにはできないよ」
「…というより、それが普通なんだと思うわよ。警戒心の強い動物だって、何かで読んだし」
「…どこで覚えたわけ、そんなこと」
「雪さん、暑くないの?」
そうじゃない。
何がしたいんだよ…僕は…。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
「それで、マリアちゃんに何か…?」
当たり前なんだろう――僕は、覚えているんだから。
「あはは」
「…おはよう、雪さん」
頭をくしゃくしゃ撫でてやると、彼女はお返しのつもりなのか、口の中で舌をはわせてまわった。
「気をつかわなくてもいいってば。自分でそうしてたんだもん」
「意味もなく謝るから。練習始めるよ」
いくらなんでも、それはないよな…。
476 :
タチイヌノフグリ(関東・甲信越):2009/06/13(土) 00:46:11.97 ID:3VD+7VK4
どうなってんのこれ
もう、わからなかった。
「んっ…ぅ…ぐ…っんんん…」
母を亡くし、彼女と出会った。
諦めたのか、彼女は無言で舞台を見上げた。
「ぁ…そっか、そうだよね。親がいるはずだもんね」
「…緊張してる?」
「牧野、さん?」
「緊張してるんだ…ね?」
「あのぉ」
「牧野、さん?」
――って感じかなぁ、と弱々しい言葉が続いた。
「牧野さん、体調のほうは大丈夫?」
「庄一、ナイスキャッチ…」
「それじゃあ、頑張って弓道の練習すればもっと上手になれる?」
「旦那様、わたくしの、いかがですか?」
見知らぬ人ばかりの世界で、優しげにほほえんでくれた、彼女の存在が。
僕は、少女の後を追いかけた。
「別の言語の点字、もしくは…現在主流になっているものとは、対応の違う点字ということになりますわ」
暮れなずむ夕陽を見つめ、涙を流す彼女に、僕は吸い込まれるみたいにして、近づいていった。
「でしたら、もう大丈夫ですね?」
「あのー、マリアちゃん、あんまり跳ねないほうが…」
「入れるんだ?」
あわててそばまで近づくと、
事故に遭う前の記憶だろうか?
「うん、わかる」
「っんう…」
なにせ、当の本人は何もかも承知の上であの態度を取っているようだから、どうにもしようがない。
「あ…いや、その」
「笹舟で短冊を流しちゃうって、めずらしくない?」
「なんで半分なの?」
「待ってよ、町を出るって?」
「調べろって言われても、僕と花梨じゃ、何を調べたらいいのかわからないよ」
「それを、透矢さんが変えてくださったんですよ」
「あの…字はホントにすごく綺麗だよ」
「恩返しって?」
「…そんなことないよ。みんなが、仲良くやっていけるのが、いちばんいい」
近づいてみると、それは、二つの人型が彫り込まれた石像だった。
「…すごく気持ちいい」
実際、花梨が的に当てる確率と、他の子が的に当てる確率とでは大きな差がある。
見えるという事が、わからない。
僕は弾んだ気持ちで、続く矢を構えた。
518 :
ポロニア・ヘテロフィア(茨城県):2009/06/13(土) 00:46:12.53 ID:ugC6IDG9
ぬるぽ
「…着きました、って」
車が動き出すと、いっぺんに空気が軽くなった。
「ありがと。じゃあ、お礼に今から練習を見てあげよう」
いや違う、これは…
次の未来に、どんな夢をつないでいけるだろう。
恥ずかしそうにうつむき、短冊もふせてしまった。
巻いてはほどいて巻いてはほどいてを、すでに十回以上も繰り返している。
和泉ちゃんに連絡を取り、教えてもらった牧野さんの家は、意外と近くにあった。
(違う…)
「…いや。花梨、これから祭りの準備なんだろう? 行けよ」
「ぅ…」
「い、和泉ちゃん?」
「はは…なんでも言ってくれていいよ?」
余裕があるわけじゃない。
「包帯、巻いてあげる」
「どこで勉強する?」
「透矢ちゃーんっ!」
命の危険っていうのは、きっとこれのことだろう。
「嫌なところかな?」
振り返ると、和泉ちゃんたちのすぐそばに大きな車が横づけされたところだった。
「あっ、はい。紹介するっていう約束でしたよね。アリスお姉ちゃんです!」
僕は、この声を知っている。
「え? ああ…いいよ」
「んー、ありがとー。じゃ、ちょっと待っててー」
「和泉ちゃんのスクール水着のストックでも借りてくりゃいいだろ」
牧野さんは、すごい集中力で本を読んでいる。
「父さんの研究と、雪さんのご両親が…?一緒に研究していたとか…」
とりあえず、ここにいちゃいけないな、と思い、外に出た。
「言うだけ、言ってみてはいただけませんか? 取り返しのつかないことになる前に」
彼女が見せた、わずかな変化、初めての仕草。
弓道場、和泉ちゃんのところ――今はどちらも使えない。
「ねえ、ひょっとして例の夢と関係あったりするのかなぁ?」
和泉ちゃんにキスされた時と、どっちがドキドキしているだろう?
(まさか、な…)
「わかったよ。じゃあ、雪さんも気をつけて帰ってね」
庄一が見下ろした先には、親友の背中に向けて差し出される小さな手があった。
「みえられたようですね。こちらにお通ししますよ」
「牧野さんってさ、透矢と同じ夢を見るらしいじゃない」
「あの、雪は、おでこで…こつんって…」
「ぁ…うん。おかげさまで、怖い夢は見なかったね」
僕をのぞきこむ、光をとらえていないという瞳は、美しい。
560 :
ビオラ(東京都):2009/06/13(土) 00:46:12.81 ID:vJwr4VHQ
1000
それに、
「もしかして、うれしい?」
「けっこう、いい家に住んでるわね…」
「…っ!」
雪さんに教わったことだ。
「ううん。透矢くんは、もともと知っているはずのことだもん」
「大変だったね。苦しくても、医者にかかれないなんて…」
「調子は、どう?」
「どう考えたってキミのせいだよ、もう」
「透矢って、呼んでくれないの?」
「うわっ!」
彼女は僕の言葉に耳を貸さず、手加減なしに腕を引っ張った。
「調べたいことがあるの。そうだ、あなたの通ってるところよね、大きい図書館があるのって?」
「どうして? それに、ますます、あの男が何者なのかって話になるわよ」
「やっ…やぁぁぁ…」
「はい!」
「花梨…胸、いい?」
「ええ」
「大丈夫って…」
動くものは、ない。
この間まで、あんなに元気だったのに、なんなんだよ。
あの勢いで殴られて、ここまで元気そうだと逆に心配だ。
「私もそうでさ。その時、透矢のお母さんがね、キミの風船を無理に奪い取って空に放したんだ」
「ねーねーっ、庄ちゃん、スイカ割りー」
「ま、その代わり、星が出てないと、真っ暗になっちゃうんだけどね」
「ぁ…え? お祭りって…」
硬質の音って、人を不安にさせる。
彼女にとってもまた、これは好機だったと言えるだろう。
「ホントにね。って、そういえば、牧野さんは呼んでないんだ?」
「でも、それがわかってるなら…」
本人の理解がよほど深くないと、人に教えるなんてできないことだろう。
「だって…試合終わったし、休み…」
「結果的にそうなるのかもね。だけど、私はエサ代がもったいないだけよ」
「っぃ…はぃ……はい!」
そうして、魅入られてしまった。
「透矢さ…おねぇ…ちゃっ…ぁぁぁ!」
「…そうだね。いちおう、伝えたほうがいいのかもしれない」
「いつも殴られてるような…」
「ぅぅ、透矢…透矢さぁん…」
「あれ? でも、習い事は…」
一ページ分の文字をなぞり終えたところで、牧野さんは溜め息と共に本を閉じた。
そして彼女が、憎悪を含んだ視線を向けてきたこと。
ほほえんだ彼女と、小指を絡める。
「和泉ちゃん、大丈夫なのかな?」
今、一瞬だけ、光が見えなかったか…?
そんな時だった。
八畳くらいはあるだろうか、なかなか広い部屋だ。
「雨か。じゃあ、早めに切り上げたほうがいいな」
「花梨ちゃんも一緒に行こうよぉ」
そして、今は夜だけど、僕が事故の時に持っていた写真に映っているのも、この場所に間違い…
「あれは…」
僕を想って、あんなふうになってしまう雪さんが、今は愛おしかった。
「透矢さん…私…っ…ひっ…」
「んー、まあ、ちょっと…」
「目覚めた日に見た写真ですよ」
「人殺し…かしら」
でんぐり返しの体勢だった。
和泉ちゃんが見とれてしまった、というのもうなずけるってものだ。
冷蔵庫に麦茶くらいあるかな?――と廊下に出ようとすると、けたたましく電話のベルが鳴った。
エプロンを外してベッドの上へ体を横たわらせる雪さんに、僕はおおい被さった。
「ぁ…くふ…んっ、んぅ」
「ふーん。和泉のこと、好きじゃなかったんだ」
「はぁ…こういうことになると、ホントにお馬鹿さんになっちゃうんだから」
「冗談はさておき、もうちょっとだけ練習に集中しようね」
あれは、ナナミ?
「去年、私と和泉で、ちょっと」
「っ…ぁぁ…っん…ふ…」
「月だね…」
「雪さんは基本的に休みなしだからね、また休みたい時は言って」
「だ、だって」
でも、わざとらしく腕を組んできたところを見ると、半分は嘘に違いない。
でも、動かない。
「心配したんですよ。苦しそうな顔でうなされていて、いくら呼んでも起きて下さらないんですから」
「他ってどんなの?」
「冗談でもそういうこと言わないの」
月光に、赤い瞳が輝いていた。
目覚めてから今まで、僕が幸せじゃないことなんて、なかったのかもしれない。
「…はい。では、ごきげんよう」
本当は、海で遊ぶような気分じゃない。
「…うん。最後だし、思いっきり泳いじゃうよ。覚悟してね?」
「気にしなくていいよ、そんなこと」
「これが…那波の」
「だって、私なんにもできない。雪みたいにできない、和泉みたいにもできない」
「死んじゃうかと思った。心臓、止まりそうだったんだもん」
喜びと快楽とが入り交じった至福の表情を浮かべ、彼女は、あえぐような声をあげた。
門の影に、ヒザをかかえ座り込んでいる女の子。
耳に口をつけられたみたいに、ふっ、と温かい音が流れ込む。
あいかわらず、やることがオヤジだ。
僕は、再び腰を動かし始めた。
「まだだ、まだ」
「ですけど、見えませんの」
でも、調子が狂うよなぁ。
わからなかった…これ以上、何を言ってあげたらいいのか。
和泉ちゃんは本当に怖いのか、ぶるっと身震いした。
「わからないけど、そうだとうれしい」
気がつけば、そうだ、確かに僕はここにいる。
ねえ、牧野、さん…?
「ふふん、今さら気づいた?」
「あ、はい。こちらですよ」
「おねーちゃんっ!」
「ふん、冗談みたいな話だけどな、俺んちも神社の管理をやっているのさ」
「キツネの、死体」
「牧野といい花梨といい…どうなってんだろうな、いったい」
「戦いは…まだ…」
「あの、すみません、荷物持ちなんてさせてしまって」
「夢のせい?」
「紀元前二百年くらいに、今の中国を治めていた王朝ですわね」
彼女は、みんなと仲良くこの町で過ごしていたかったんだと思う。
マリアちゃんのノドの辺りを指先でくすぐりながら、アリスはやけにあっさりと言う。
体が、震えていた。
「んぅっ!」
「まあ、ものにもよるけど」
「ぁ…はい」
「死ぬって、そんな」
少しずつ少しずつ、腰の動きを大きくしていく。
再び泣きだしてしまったマリアちゃんをなだめながら、アリスは、不意に恐ろしい事を口走った。
前に乗りだし、ほっぺたをなめると、彼女は首を傾け、舌を差しだしてきた。
続いて、香坂姉妹、和泉ちゃんが、暗がりの向こうから姿を現した。
「馬鹿、いつまでも持ってんな!」
「怒ってたというより…痛いところを突かれてムキになってた。花梨の言い分は、もっともだったし」
「参考になったよ。それで、花梨の調子はどう?」
でも、道場の空気に触れ、着替えを済ませると一度に目が覚めた。
この子自身、恋人がどうとか、そういう概念があまりない――口では言うけど。
「おかげさまで。こればっかりは失敗できないよ」
「気持ち良かったですか?」
このあと、いつもの練習なら先生が声をかけて、立ち上がるところなんだけど…
僕は、幻を『見た』んだ。
「そう言ってもらえるとうれしいよ」
「本気だよ」
「な、なんでそんなこと…」
気軽さがうれしくて、ときどき、わずらわしい。
花梨が、髪の先を指に絡めようとした。
「この痛みも喜びですわ。それよりも、孕ませてくださいな、透矢さん」
「うん、長居しすぎちゃったかもしれないね。透矢くん、疲れなかった?」
気づいていたら、僕は、もっと彼女に何かをしてあげられた?
「余裕できたら、顔出してよね…」
だけど、行き止まりでもなんでも、とにかくなんらかの結論が見えるまで、諦める気にはならなかった。
「わたくしの顔に、何か?」
「……うん」
オーダーすれば作成も可能だと思うとは言っていたが、残念ながら時間はない。
「冷たいものはゆっくり食べなさいって、いつも言って…」
「くす」
「お願いだからやめてくれる? 鈴蘭ちゃん、起きて」
「待って。悪いけど、今日は自分で外す。今ね、ちょっとキツくなってるから、痛くされそうで怖いんだ」
「あの、すみません、荷物持ちなんてさせてしまって」
「うん。私もマリアも勘がいいのよ――霊感が強いっていうのかな。だからわかっちゃうの」
「人が悪いなぁ、和泉ちゃんも」
「いいけど、何するの?」
「いいよ。弓道をしなくても舞を踊らなくても…僕が守ってあげる。文句なんか言わせないから」
「なんだと思います?」
「そっか…ここに行けば、何か、記憶を取り戻すきっかけくらいにはなると思ったんだけど」
「だから…あなたが…」
なんでけいおんだけ目の敵にするんだ?
「答えのわからない問題を出すなんて、卑怯だ…」
「気がついたんですね」
「ちょっと、私の苦労はなんだったの?」
「透矢くぅぅぅぅん」
真っ白な肌が、ぽぅっと、桜色に染まった。
雪さんは、ぱたぱたと、手にしたうちわであおぎ始めた。
「ガキね。いちおう忠告はしたから。それじゃあね」
「痛い、痛いって!」
「妙なことを言ってしまって、申しわけありませんでした。懐かしかったもので」
「母は、美しかった、ちょうどこれのように。そして優しかった」
「アリスは悪くない。悪いのは、この子を轢いて死体を隠したりした人間だ」
「今は、そっとしておいてあげたいんだ。優しくされても、辛いだけだろうし」
まばたきの瞬間、意識が、ふっ、とどこかに飛ぶような感覚。
奇妙な感覚も、花梨の恐ろしい言動で吹き飛んでしまった。
「あのっ、今日はどうもありがとうございました」
「いいえ、特には…宮代さんは、倒れられましたけど…」
しかし、どういう打ち方をしたら、ビーチボールでこの威力が出るんだ?
「キミが素直じゃないだけ」
「んー、うん」
「目?」
734 :
ダイアンサステルスター(東京都):2009/06/13(土) 00:46:15.09 ID:FYHpD9UA
1000
ふっと耳に息をふきかけて、花梨はまたぺろぺろと、僕の唇を舐めた。
「みんなに言っても信じてもらえないだろうからなぁ」
僕のシャツのえりもとをつかんで、ぐいぐい引き寄せると、
七月七日は明後日、七夕とは何か関係があるんだろうか。
今度は、はっきり和泉ちゃんの匂いがした。
「いろいろ、あって」
「拗ねる、ですの?」
「いくら優しくても、不安にさせちゃ駄目だよ」
「…せっかく仲良くなれたんじゃないか。なのに、いきなり関わるなって言われても納得できないよ」
「…わ、私っ、もっと可愛い服も、ちゃんと持ってますから!」
もう、一時間以上もそんな調子で、少し大きい波でも来ようものなら、
「悲しい、お話ですね」
牧野那波さんが、初めて見せてくれた、屈託のない笑顔のこと――
「くっ」
弓道で悔しい思いをした分も、頑張ってほしい。
追いかけてくる彼女から、僕は必死で逃げた。
「そう言うけど、キミ、もともと自主参加してたんだよ」
「怒ってるとかじゃなくてね。花梨ちゃんみたいにつき合えたらなぁって思うの」
「光以外のすべてで。それに、海からの風は特別なんですの。いろいろな風景を見せてくれますわ」
「いいけどね、別に相手をしてほしいなんて思ってないし。外させてもらうわ」
「いいよ。花梨ちゃんと上手くいってるみたいだし」
「ふーん、気をつけてね」
鈴蘭ちゃん相手には、女らしくも何もないらしい。
明るいせいもあるだろうな、とは思う。
ただ、
「優しく、してくださいますか?」
それでも、同じ夢を見ていること――
「透矢さぁぁぁん…」
「そうかもしれないけど。ホタルがいなくなったのは和泉ちゃんのせいじゃない」
「今までと変わらないじゃないか。ずっと一緒にいるって約束だ」
「透矢さーん!」
出迎えてくれる人がいるって、いい。
「ふぁ…ぁ…ひあぁぁぁぁぁ!」
ぶつぶつとグチるような口調は、怒っているというより、気落ちしているように感じられた。
「もう、そんなこと言ってると、またけっ飛ばしちゃうからね」
笑いながら体重をかけてくる花梨を、僕はあきらめて受け止めた。
「寝苦しそうだったので、勝手にさせていただきました。寝心地は、あまり良くなかったようですけど」
白い手、冷たい手。
僕は、手を離した。
「何か変わったことは?」
「アリスは悪くない。悪いのは、この子を轢いて死体を隠したりした人間だ」
夢を見ているような、ふっと別の世界に迷い込んで、そのまま消えてしまいそうな感覚。
だから、僕も触れられない。
「雪さん、手は大丈夫?」
アリスは、マリアちゃんのために…
そう言っているそばから、周囲のざわめきが消えた。
「裸だからだよ…」
782 :
モクレン(北海道):2009/06/13(土) 00:46:13.10 ID:8OTokx3I
すげええええwwwwwwwwwwwwww
「緊張してるから。だけど、花梨も…」
「キミのそれは、治そうと思って治せるものじゃない。過去という言葉にこだわり過ぎれば……壊れるぞ」
『つまらない想像を働かせることもできる が、あくまで想像の域を出ない』
道の向こうから、意外な声がかかった。
「ピーターパン? この本、ピーターパンなの?」
だから、何もわからなくなってしまうのか。
お腹を撫でてあげると、二人はそろってくすぐったそうな顔をした。
「だって、見てください…最近、人のいた気配なんてないじゃありませんか」
「そうじゃ、なくて…」
「花梨…胸、いい?」
僕は、ここで自分を歓迎してくれた人たちの名前すら覚えていない。
「…絶対に、僕から離れちゃ駄目だよ」
“どくん、どくん――”
どうして僕は、一緒に来てあげなかったんだろう。
でも、おどろいたことに、牧野さんの足はまっすぐスイカのほうに向かっている。
「ちょ、ちょっとキミ、普通にできたじゃない」
「わかった。でも僕、宮代神社の場所、覚えてないんだけど」
「うん。また、よろしくおねがいします」
「なんとなく庄一らしいなぁ。牧野さんのほうは…やっぱり体調が?」
代わりに、吹き損じの笛みたいな、すかすかした音が返ってきた。
「お、おねーちゃーん」
公式を覚えているかと言うと、まるで覚えていない。
「大丈夫だから、早く」
あの日、手放してしまった大切なもの…
「…雪は、それも知っています」
「違うよ。そういうお姉さんがいて、花梨は今、こういう子なんでしょう?」
瀬能というのは、この辺りではそれなりに知られた家柄だったようだ。
「ええ。ですけど大丈夫ですわ。あんな事にはさせませんから」
祭りだ祭り
「…じゃあ、もらっておくね。ありがとう牧野さん」
「血の臭い」
「ママのことなら大丈夫よ。あなたのことは、この私が許してるんだもん…安心して任せられるって」
うつろに澄んだあの瞳で、きのうと同じように、まっすぐ僕をとらえたまま。
お母さんに絵本を読まれている、そんな錯覚におちいりながら、僕は、牧野さんの話に耳を傾けた。
「っ…ぁ…ちょっ…とぉ…」
「アリス、いい?」
「そうだっけか? この道をずーっと行った先にあるぜ。途中で看板出てるから」
そんなことより、今は、雪さん自身のことだ。
彼女は、僕の唇に軽く口づけをして、
アリスは、牧野さんを指して、そう言った。
「よろしい。じゃ、そろそろ切るね」
不治の病にかかった人間を治す、癒し手の力。
「わかりません。たとえば今、山の上から航空写真を撮影しても、集落なんて見つからないと思うんです」
「俺が見る。悪い病気を出さないために、やるだけやっといたほうがいいんじゃないか?」
「…ショックだったけど、仕方ないなって思うよ。すごく可愛かったもん、さっきの花梨ちゃん」
彼女は、僕の胸のあたりに、コツン、とおでこをぶつけてきた。
そう答えた雪さんの声は、昼間とは比べものにならないくらいしっかりしている。
数秒で埋まるのか
「ただいま…」
「っ…っ…っぅぅ…」
風に乗って、彼女の想いがキラリ…
「ひょっとして、調子が悪いの?」
内壁のひだが、まるで生き物のように吸いついてくる。
何度もわき上がるその衝動だけどうにか押し殺して、僕は…、
和泉ちゃんが慣れた様子で門をくぐる。
雪さんに手を引かれてたどり着いたのは宮代神社だった。
「やっぱり行かない」
「読みたい本がありましたのに」
1000
黙りこくっていた牧野さんが、とつぜん割って入ってきた。
それを終えたと思ったら、今度は掃除。
なんだか言いようのない罪悪感にかられてしまう。
「…いいよ…ごめん、透矢、雪」
「幼なじみのあいさつって、どんなのさ。花梨には悪いけど、今の僕にはわからないよ」
「庄一は手伝わなくていいの? 大和神社にも関係あるんでしょう?」
魔女…その言葉から連想できるものは、いろいろあるけど。
「ふふ、冷たいですわ、透矢さん」
「ん? やっぱり知っていたとか?」
「えへー、じゃないの。駄目じゃないか」
「ふーん、勉強会ねぇ」
「おやすみなさいな」
「マリアちゃんもうるさーい!」
「旦那様まで、夢見の力を…」
それでも、ぼんやり道に沿って歩く。
記憶喪失だから、そういうものかで済ませて。
「やっ…は…」
「ぅぁ〜づ〜〜」
内容に、変化はない。
「神社の裏山?」
「この世に存在したすべての記憶が、海には眠っているんですわ。命が生まれた場所なんですもの」
「涙石? これ、パパも持ってた。ママがつけていた物だから、大切にしなくちゃ駄目だって」
僕は、雪さんの笑顔が好きだ。
「うるさい。そんなすぐに慣れられるわけないじゃない」
「っあ…っ…はぁ…っはぁ…」
それでも僕は、雪さんにだけは側にいてほしかった。
だからこそ辛いんじゃないか?
「…ありがとう。いけそうだよ」
「あ、勝手に持ち出してきたね?」
「おまえもだ。スイカスイカうるさいんだよ。和泉ちゃんが手配してくれたんだから、おとなしく待て」
いったい、ふたりでどれくらいしたんだろう、ちょっと気になる。
「透矢のことは、私がいちばん良く知ってるんだもん。透矢だって、私と一緒に練習したいよねー?」
「っぁ、っふぁ…」
僕の言っているような感覚が彼女にはないのかもしれない。
「…それで、和泉は私に舞をやめろって言うわけ?」
ヒモの先に、あれは、涙石?
だからこそ辛いんじゃないか?
やっぱり、幼い頃に見た彼女は、彼女のままで…
とまあ、見るまでもない。
でも、なんだ…違和感が…
「だったらあなた、ママのこと、どれだけ思い出せる? 頭撫でられたり、優しくされたりする他に」
「いや、だから」
手を止めると、花梨はごていねいに、不思議そうな顔で首をかしげてみせた。
「そうですね。お父様のお手伝いをしていましたし、興味はありますよ」
僕は、返事を返す代わりに、ふとももの間に顔をうずめ、何度もキスをした。
「部活で来たからさ…顔を出しておこうと思って」
「な…なに言ってるのさ…ひょっとしてアリスに口裏でも合わせるように言われたの?」
そのくせ、この音を聞いていると、やけに眠くなるのはどうしてなんだろう。
「透矢くん、気にしなくてもいいよ。私はこういうの慣れてるから」
「はは。それじゃあ、悪いけど僕は先に行くよ」
892 :
マツバウンラン(千葉県):2009/06/13(土) 00:46:17.25 ID:lUYevigy
乙女組ww
「みなさん、考えることは一緒ですね」
「へええええ〜。和泉さんは、それを川に流したりしたんですか?」
「来るなって言えば来ないわよ」
「大丈夫。まだ、痛いのは痛いけど、傷は大したことなかったから。透矢が、いろいろ…してくれたし」
「ええ、ですが、お父様は大丈夫ですよ。強い方ですから」
寝てたのか、ひょっとして。
「…キツネ?」
「僕は、ずっと呼んでたよ」
「透矢さんには関係ありませんの。お帰りくださいな」
「はい。いいものですね…」
「それは…でも、だからって…」
「…他に、好きな子とか、いるの?」
それも、ちょうど気持ちが鎮まって、雪さんに彼女のことを聞いてもらいたいなと思い始めた矢先に。
「本当にそれがいいの?」
「はぁ!? あなたって子は、ほんっとぉぉに馬鹿ね」
本当なら、僕も同じように弓を取り、真剣に練習していたんだろうな…
安心したのもつかの間、さっそく、鈴蘭ちゃんの姿が見あたらない。
どちらでもなかった。
「花梨ちゃんはだまっててよー! 頭がおバカなんだからー」
「はぁ」
「甘えても駄目。せっかく買ったんだから少しは食べてほしいんだけどなぁ」
「ママの言うことを聞きなさい。おねんねのおまじないを、してあげますから」
「忘れてたんだよ。ごめんね」
そうやって、いつも大切な何かを失いながら生きてきたように。
ほっぺたに触れる。
「あの…裸だったから…なんとなく恥ずかしくて」
和泉ちゃんが、へろへろとした足取りでこちらに駆け寄って来る。
「月だね…」
「まあ、わかるけどね…そもそも夢だし」
「大和庄一、大和鈴蘭。不本意ながら、正真正銘、血を分けた兄妹なのさ」
そんな、牧野さんそっくりの少女の幻像を、僕は、お母さんだと認識しそうになったことがある。
「内輪の…そうですか」
和泉ちゃんは、僕のものをくわえ込んだまま、放尿をした。
「そうなの? でもほら、僕も検査で疲れてるし」
下着越しに触れた花梨のそこは、もう、わずかに湿っていた。
「いいじゃんかー」
「あっ、ごめん」
「そりゃおめでとう。さて、みんなで夏休みの計画でも練りますか」
この察しの良さには、おどろかされる。
「やっ…は…」
そして、今日がその弓引きの日。
「大丈夫だから、早く」
「な…なんで、そんなことを僕に話すんですか」
「もぉっ、幼なじみのあいさつにしてはぎこちない」
「那波、こんな人の言う事を聞いちゃ…」
「だからって、なんで腕を組むかな?」
「僕から見たら子供」
「言っているそばから、本当に申しわけありません。雪、気が抜けていました」
思っていたよりも、人が入っている。
「大会で優勝したときに付けてたとか?」
なんなんだ、これは。
「僕のせいにされても。それより…ねえ、何かたくさん穴が空いてない…?」
教会の前を通りかかって思い出す。
話を終え、つまらない物思いにふけっていると、背後から首をしめられた。
「あ…すみません、うれしくて」
「来てくれるの?」
「っ…くすくす」
「庄一!?」
「ん…ふぅ…」
「はいはい、いい子だから、おてて開きましょーね」
「透矢さんの、言う通りですわ」
(僕にどうしろと…)
「はい。透矢さんのこと、信じます」
「しちゃったね。夕陽をバックに、キス」
と思ったら、アリスは木を背もたれに、マリアちゃんはアリスの放り出された足を枕にし、お昼寝中。
「あ、ちょっと、マリアちゃん」
「それより、どう? 花梨ちゃんの巫女服は」
なのに…彼女がいないと、こんなにも時間の経過を遅く感じてしまう。
和泉ちゃんの事にしろ部活の事にしろ。僕には、せいぜい悩む事くらいしかできないらしい。
「他に誰がいるのよ」
「いいから! なんのために来たのよ」
「思い知った。次からは気をつける」
「…わかんないよ」
『牧野さんの手で、牧野さんの体で、果ててしまいたい』
「花梨はともかく、なんで父さんの書斎が出てくるの?」
「うん。あ…ブラウス、邪魔だよね…」
と、肩に手を置いた瞬間、
二人の肌の柔らかさ温かさ、あふれた愛液、それから僕のものにまとわりついた唾液と精液――
だけど、そもそも、神社のことを忘れていたことからして異常なんだから話にならない。
(やっぱり、彼女は…!)
とつぜん浮かんだ人影。
「でも、和泉」
「夢見の力?」
和泉ちゃんがいなきゃ…
「はっ…ひ…ぃ…ぃぃ…」
「あの子に救われた、か」
「透矢っ、聞いてる?」
それでも声をかけたのは、月光に浮かぶはかない輪郭が、闇に溶け、消えてしまいそうに思えたから。
「同じ弓道部員なのにえらい差だ。俺の首はつかんでくれないのか?」
「じゃあ、こっち…」
「現実って…どうするつもり?」
「わかりました。何かありましたらお呼びつけ下さいね。なにしろ、女性のことですから」
「…じゃあ、二回しよう」
あんな非現実的な夢の話を、現実に持ち込んでしまうなんて、僕はよほど疲れているに違いない。
そんなことを、雪さんの匂いがする布団の中で考えてみた。
「練習を…手伝う? 弓道のほうは、あまり芳しくないってことか」
「マリアちゃん、こんにちは」
大きさと、雰囲気も手伝ってか、ものすごい威圧感を感じる。
「んーっ、遊んだ遊んだ。キミたち、楽しめた?」
マリアちゃんが、アリスの下腹部に手をはわせ始めた。
「でも、マリアちゃん。マリアちゃんが帰るところは、ここにしか…」
「微妙に。それでね、ちょっとよくわからないことがあって…」
「透矢くぅぅぅぅん」
彼女の局部からはさらに大量の愛液が溢れ出していた。
ようやく全体像がつかめてきた。
ガチャッ――カセットテープの音だったらしい。
あやかし?
交通の便は悪く、つい数年前、ようやく道路の整備もされ始めたかという、そんな場所だ。
1001 :
1001: