1 :
チドリソウ(兵庫県):
ちんこ
4 :
ミゾコウジュミチノクコザクラ(大阪府):2009/06/13(土) 00:28:46.43 ID:PwJMOTa3
うんうん
5 :
クロッカス(アラバマ州):2009/06/13(土) 00:28:52.13 ID:qnClWbjY
スクリプトが勝つかスレストが勝つかsakuが先か
6 :
レウイシア(東京都):2009/06/13(土) 00:28:56.80 ID:/mC3zeRZ
昔から結構ヤバい系の人はいたしね。
虹さんとか。
あまり言っちゃだめか。
7 :
チドリソウ(福岡県):2009/06/13(土) 00:29:01.67 ID:XZWd1QFx BE:328918638-PLT(15101)
運用ボラなんてみんな萌えヲタじゃん
8 :
ナガバノスミレサイシン(北海道):2009/06/13(土) 00:29:04.18 ID:gv4y1OIF
だからなんだよ
9 :
チドリソウ(兵庫県):2009/06/13(土) 00:29:15.56 ID:D1BCAwy6
乙女組ってまだいたの?空気だしキモイよ
10 :
水芭蕉(アラバマ州):2009/06/13(土) 00:29:16.50 ID:sBhlJaMG
11 :
シュロ(愛知県):2009/06/13(土) 00:29:17.47 ID:DZC5t0XI
he-
12 :
サポナリア(愛知県):2009/06/13(土) 00:29:18.58 ID:KZjMV0wA
さっさと涙目を復旧させろ
13 :
チドリソウ(茨城県):2009/06/13(土) 00:29:29.39 ID:DEnRE3jq
ポイントください
14 :
ヘラオオバコ(広島県):2009/06/13(土) 00:29:44.92 ID:m12F3WRD
別にいいだろ
15 :
キソケイ(愛知県):2009/06/13(土) 00:29:46.31 ID:WOk8IEp+
ひろゆき = クズ
運営 = クズ
利用者 = クズ
みんな一緒でハッピーじゃないか
しらんがな(・∀・)
すれたったか
18 :
ノボロギク(北海道):2009/06/13(土) 00:30:11.50 ID:XRIe/v8G
「花梨ー、僕が勝手にやったことだけど、なんか言ってくれないと寂しいよ…」
和泉ちゃんは悔しそうな顔を、自分の足下に向けた。
「あは。自分に都合の悪くなることなんて言わなきゃいいのに。お人好しなんだか馬鹿なんだか…」
なんだか、やるせなかった。
「もうじきだと思うけど。そんなにスイカ割りがやりたいの?」
「うるさいなぁ。仕方ないでしょう、いきなり二人して抱き合ってるんだもん」
庄一は沈黙を退屈の合図とでも受け止めたのか、そう言って、へらっと笑った。
悲しそうな顔をする雪さんを、僕は制した。
「じゃあ僕、花梨ママの胸に甘え――」
それだけで安心した、うれしかった。
「しかし、当然の成り行きだろう。あいつもわかってるだろうし…」
「はは、可愛いと思うよ」
「鈴蘭ちゃんは、いいのかな…また、ずるいとか言われるんじゃない?」
「ダメ」
「透矢さんが…雪の…お尻に…」
「うん…いくよ?」
平穏だった水面が波立ち、月だったものが光のつぶてに変わる。
和泉ちゃんも似たようなことを考えていたらしい。
あれは明らかにお別れの言葉だ。
「わかった、体育!」
何かの間違いで、夕飯の支度がしてないかな、などと、あるわけのない事を考えてしまう。
つまり、こういうことらしい。
「安心できないよぉ…った!」
「あれ、庄一は来ないの?」
「え? や…そっちは…」
日が落ち始め、室内に、光と影の斜線が走る。
下手に口を開くと泣いてしまいそうで、これを悲劇だなんて思いたくなくて、だから…。
口を開いたまま、どちらともなく、顔を寄せた。
だけど牧野さんは、ナナミは、弓を取れと言った。
「ふふ。今だから白状しますけど、雪、病気の時は、よくタヌキ寝入りをしていたんです」
「うーん、確かに多いね。マリアちゃん、こんなにお願い事があるの?」
50 :
フサアカシア(関西地方):2009/06/13(土) 00:30:41.57 ID:PeOUIc5Q
まさにゴミ
「…鈴蘭ちゃん、いいなぁ」
「いいって。その時さ、透矢のお母さんが私に声をかけてくれたんだ」
「じゃあな」
「うげー」
「同じなんだ…僕の夢と」
ぴしゃりと言い放ち、彼女は立ち上がった。
「はは、和泉ちゃんがあんな声をあげるなんて思わなかったな」
彼女は、あのとき『旦那さま』と言っていた。
「…だろうな。確かにあの人は特別だ」
僕が事故の時に持っていたのと、ほぼ同じものだけど、光の加減のせいか、やけに輝いて見える。
「大切なことだよ。雪さんの声がしたから僕は早く起きなきゃって気になれた」
「雪さんが一緒にいてくれるなら、僕は、大丈夫だよ」
「ええ。もしかしたら、ひとめぼれでも、されてしまったのかもしれませんよ」
「い、和泉ちゃん、だいじょう…ぶ?」
「牧野さん…体調、悪いの?」
「ありがとう。じゃあ、行ってくる」
僕にできたのは、彼女の頭を撫でることくらいだった。
「任せてちょうだい。って、それだけのために来たの?」
「毎日、したほうが良いですか?」
「…行かないよ。花梨を迎えに来たんだから」
「迷惑だなんて、思ってないから」
「内緒ですわ」
今だって、僕は彼女の唇に、見とれている。
「わー、洞窟だ洞窟!」
「気をつけてな」
「っ、っぁん」
「アリス…マリアちゃん?」
「わからないけど…うん、ちゃんと話すことにする。ただ、今はちょっと…」
第一印象は、寂しい場所。
和泉ちゃんは、真っ直ぐな目で僕を見上げたまま続ける。
そうして顔をそらした先には、なんの因果か、髪の長い、はかなげな少女の姿。
「ばっ…吸っても…っ…出ないよぉ…」
僕は、思わず彼女の頭に手をのばしていた。
それでも、言わずにはいられなかった、陳腐なセリフ。
「あのぅ…それでですね…」
「ここまでバレちゃったんだし、今さら隠さなくてもいいじゃない…」
香ばしい匂いに、引き寄せられるように屋台へ向かった。
「ひしゃくの先端にあるふたつの星を結んでください…その先にあるはずですわ」
「おい」
「今さら遅い。そうそう、巫女服って言えば、帰り、ちょいつき合わない」
「そうですか…でしたら、どうぞ」
庄一も、周りに感化されたのか、めずらしく無駄口を叩かずに練習を続けている。
波の音すら、別世界からのいざないのように聞こえてくる。
「………え?」
「負け惜しみ?」
「っっ…」
「だ、大丈夫だよ」
「キミ、どうして?」
「お友達の方が見えられるとしか」
花梨はぼやきを収めると、ひらひら手を振り、そっぽを向くように首をひねった。
「悩み事なら、相談に乗るけど?」
「…そっか…そういうことなんだ」
心配顔の雪さんが、額の汗をぬぐってくれた。
「いつか、幸せな終わり方ができるように頑張ってくださいな」
無防備に大口を開けた――どちらかと言えば間抜けな顔だ。
「お母さん?」
「雪さん、それって…」
「きっ…ぃひ…っひぁぁぁぁ!」
「もう、嫌だよ」
そう言った雪さんの顔は、もともと極端に色白なこともあって、まるで死人みたいだった。
「まあ、なんでもいいけどよ。で、久しぶりに会ったと思ったら、どうしてこういう事になってるんだ?」
「戻って来られたようですね」
「そうか。僕もよくよく気が回らないな。ホントにごめん」
「透矢おにーちゃん」
「私のは用事じゃないし、構わないよ」
「雪、透矢さんが考えているような、メイドじゃ、っ、ないんです」
“カチ、カチ”
「っ…これが…感じるっていうこと?」
「図書館? そーいえば、まだ案内してないね。行く?」
「当然ですよ」
「いや、花梨が言うのはどうかと」
「誰もいないじゃない」
マリアちゃんのノドの辺りを指先でくすぐりながら、アリスはやけにあっさりと言う。
「雪も、お口でさせていただくのは、好きみたいですから」
「悪いとは思ってるけどさ、あれは庄一が自分から行ったんだよ」
「…透矢、自分で言ったことには責任を持ちなさいよね」
「素敵な思い出を、ありがとうございました――」
「頼むわ。しかし、おまえさんも、困ったお友達を作ったもんだな」
「瀬能、大和」
この状態で、だっこするような状態になられても、困る。
「言いましたけど、透矢さんは、また弓を引きたいと思いますか?」
人ならざる者、怪。
魔女…その言葉から連想できるものは、いろいろあるけど。
女子は、団体戦のみ優勝という結果に終わった。
「嘘なんかついてないわよ」
名前は、一つしかなかった。
「…ナナミですわ」
目の前に、牧野さんと、まったく同じ顔があった。
その神々しい光の下で、双子の舌が、体が絡み合っている。
心の中で念じてみる。
「熱烈な歓迎ありがとう…」
夢の不吉な印象も、全部吹き飛ばしてくれそうな真夏の日射しが清々しい。
「キミ、馬鹿でしょ」
でも、本人に痛みはないのか、むしろ、人一倍に感じてくれる。
窓枠に区切られた狭い世界――切り抜かれた青空を、見上げる。
「あの、瀬能なんですが…」
「アリス、大丈夫? だいぶ疲れたみたいだけど」
「透矢さん、申しわけないんですが、その子を、雪に譲っていただけると」
「私と話すの、そんなにつまらない?」
「けっこう、ちゃんとした神社だね」
「ああ、大丈夫」
「おー、よちよち。明日からは、花梨ママも一緒でちゅからね」
なんなんだ、これは。
「ホント、ごめんね。なんだか今日は暴走しちゃったというか…」
みんなで遊んだ、あの木の下に…
その奇跡の力で、海を風を味方につけ、自分を迎えに来たという同族を退けた。
涼しいんじゃない…寒気がした。
「あはは…」
月光が照らし出す赤い瞳――僕に抗う術なんて、なかった。
「そうみたい。実際、そういうの嗅ぎつけて、聞きに来る人なんかもいるんだよ」
「透矢ちゃーんっ!」
「捨ててしまわれたんでしょうか?」
「何があったのか知らないけど、そんな暗い顔しないで。ね?」
紹介されたその家は、周囲を白壁が取り囲み、正面入り口には厚い木戸――
筋肉の組織が、骨が、どす黒く変色し、流れ出る体液は、膿んだように、糸を引き黄色く染まっていた。
大して困っていなさそうに言うと、雪さんは小走りで家の中へ戻っていった。
感傷的になる、ってやつだ。
「私たちの気が触れてるってことが?」
「鈴が気にしてんのはキミの顔。なんか、おっかない顔してたよ、大丈夫?」
夢が、魔法の力で、現実になった。
だけど、ちょっと疲れたような顔をして和泉ちゃんは笑った。
「ふっ、ぅん…」
マリアちゃんは、気まずい空気をどうにかしたいんだろう。
その代わりに、僕は彼女の首筋へとかじりついた。
そうだ…
けっきょくのところ、僕は、自分の気持ちにすら自信が持てないってことなんだろう。
彼女が泣きやむまで、僕は、じっとしていた。
「だから…ありがとう。おかげで、私は今ここにいられるよ」
弓道の経験があるからこそ見た映像。
(きのう見た写真って、こんな雰囲気だっ たっけ?)
「おまえさ、牧野の都合って考えてる?」
どうして、平気でいられるもんか。
一度目は、あの告白の時か…。
周りの期待に応えるとか、そんなことまで考えて、馬鹿みたいだな…
「はい。ふたりでお風呂に入った時ですとか…」
当たり前だけど…事故の直後は疲れていて、本当に何か不思議な事が起こっているような気がしていた。
「どうして? それに、ますます、あの男が何者なのかって話になるわよ」
「透矢くっ…ぃぃっ…よぉ…」
「手を、撫でてください…」
「行ってらっしゃい」
「なんだ、まだ気にしてたのか。兄妹の俺が大丈夫だって言ってんだ。信用してくれよ」
「はは、仕方ないよ。それで、雪さんもああいう事に興味があるの?」
「さっきの人ー」
乳首に歯を立てると、雪さんの体がのけぞった。
前にも、同じようなことがあったのかもしれない。
「マリアね、少し、家を出ることになったから」
「ぜんぜん気にならないって言えば嘘になるけど…花梨はきっと大丈夫だよ」
「さきほど、誰か見えられていませんでしたか? 可愛らしい声が聞こえましたけど…」
受話器の向こうからは聞き覚えのある、ほがらかな声がした。
ブラの下側に手をかけると、花梨はそれを、そのままめくり上げた。
それ自体は別に構わないけど『わからない』と言うたびに、僕の足をヒザでつつくのはやめてほしい。
身につまされる話だ。
「和泉ちゃん」
「べーっ!」
このペースでしばらく尻に敷かれ続けるのかもしれない。
だけど、雪さんは、確かに泣いていた。
だけど、ここにはそれがなかった。
「天の岩屋戸か…。まあ、そう考えると、納得できなくもない」
「あ、お茶、もう一杯いかがです?」
それは、雪さんが僕と父さんの話を全面的に信用しているから成立する考えだ。
体が、熱い…
駆け寄ろうとすると、那波はそれを手で制した。
「牧野さん」
「気になさらずに。さ、おしゃべりはこれくらいにして、お勉強を始めましょう」
「…ありが…と…」
「本人が気にしてないんだから、いいじゃない」
「う…いや、言ってみただけ」
「手伝い?」
「雪が体調良くないのを表に出すなんて、めずらしいね。一人にしといて大丈夫なのかな?」
つがえた矢の、鋭い切っ先の向こうには少女が一人。
「ユキノハナ」
「透矢さん、どう、されたんです?」
まあ、いつもの光景だ。
少女の幻像は、波間に消えた。
「悪くなんかないし、いいよ」
言葉を続けることもできず、マリアちゃんはガタガタと体をわななかせ、はげしく嗚咽をもらした。
目を向けさせたり見るなと言ったり、どうしたいのやら…。
「ちょっと待って。それじゃあ、僕の父さんも?」
「少し期待していましたの。電話が鳴った時には、もう、決めつけていましたわ」
腰を動かせば動かすほどに、それは増していくようだった。
だから、キツネの死体は、あのとき茂みに隠れていた、隠されていた。
「今朝の夢のこと?」
マリアちゃん曰く、いちばん綺麗な教室がここだった。
嫌がるかもしれないけど、あとで雪さんと二人で写真を撮ろうか。
「いったい、何を…」
(引くな!)
「別にいいのになぁ」
この様子だと、取り越し苦労だったかもしれない。
「それはあるかも」
殴られる!――そう観念した僕に対して彼女は意外な行動を取った。
震えてる?
「…キミさ、玄関の鍵よりも忘れちゃいけない大事なこと、あるんじゃない?」
和泉ちゃんが、密着した僕たちの様子をやや非難がましい目で、じっと見つめる。
入れと言われているようなものだ。
「んく…ふぅ、っ…」
少女の幻像は、波間に消えた。
「花梨、目を開けて」
「はい、どうぞ。ちょっと熱いかもしれませんけど、落ちつくと思いますよ」
「無理しないほうがいいよ。それで…きのうのアレ、何かわかりそう?」
それは、愛と言って、いいのかもしれない。
「それが、役目を終えたということです。わたくしのことも、今日で忘れていただきますわ」
「見る前からそんなこと言わないでよ。他人事じゃないんだし」
それに、真っ黒な頭髪の他は…体毛らしいものがまるで見あたらない。
さっきから、ぶーぶー言ってるわりに、機嫌がいい。
いったい、僕はあとどれだけのことを忘れているんだろう?
「なにやってるんだか…」
妙に大人っぽい…そのアンバランスさが不思議な色気を醸し出していた。
「待ち合わせの時間とか決めてたの?」
背中からお尻にかけてのラインをなぞると、アリスは体をのけぞらせた。
「別にノロけてるつもりはないんだ。そう見えたなら、ごめん」
「えー、だからですね」
だから、勘違いだったのかもしれない。
言いながら、雪さんが入り口わきの、こじんまりとした戸をくぐる。
その証拠に、僕の意思とは裏腹に弓は容赦なく引かれていくじゃないか。
手を引くたびに、全身の粟立つような感覚が強くなっていく。
「雪さん、どうかしたの?」
「ありがとうございます。ふふ、もっとほめていただけるように頑張りますね」
「うん。無理に誘うのもかわいそうだし、あまり調子も良くなさそうだったから」
「っはは」
「そのひとりに、憑かれた?」
花梨は涙石を両手で包み込み、祈るようなポーズを取った。
「嫌だよ、もう…目が覚めたら、また頑張らなきゃいけないんだもん」
「二人ともありがとう。口はもういいよ…今度は僕がしてあげる番」
たくさんの検査が行われたけど、結果はというと、記憶喪失の他は大した怪我もなし。
「んー、雪さん、おはよう」
「そう。あの…さ、正直、キツネ憑きとか言われても、まだピンと来ないんだ。どういう状態なの?」
笑いかけると、アリスはいかにも迷惑そうな表情で、ツンと顔をそらした。
「わからないよ…」
隙間がひろがり、舌に、熱い液体が絡みつく。
「あのさ、もう…」
「…あとで、ご両親にも報告に行こうね」
「無理だよ…」
子供たちの声を聞きながら、僕は、手近なベンチに腰を下ろした。
ただ、それと同時に、彼女はもう現れないだろうという予感もあった。
鼓動が強まる。
「こんな時間にどうしたの?」
「なんとなく、不気味な場所だね」
ただ僕の名をつぶやく彼女と、手を重ね合わせる。
「行ってらっしゃい、透矢さん」
白い肌に青ざめた月光が映り込んで、ぼんやり、まるで発光しているようにも思えた。
感じるということ自体、未知のものだったんだろうし、まあ、無理もない。
「あ、ちょっと、マリアちゃん」
「私は、透矢さんとお話がしたいの」
「和泉ちゃんが落ちつくのを、待つしかないよ。それよりごめんね。ほったらかしにしちゃって」
涙を流しながら、必死に伸ばされた彼女の小さな手に、僕は…
「わかるけど…あれ?」
「そうだね。…じゃあ、ときどき、電話すると…思います」
「それに、いちおうマリアの友達だしね」
「…ばーか」
彼女はいよいよ僕に体重をあずけ、深く深く口づけを、
「雪は、ここがいいんです」
僕は、外出する旨だけを乱暴に書き置きし、家を出た。
背中に胸の感触が伝わる。
「あはは…じゃあバイバイ。庄一ぃ、もし明日、透矢が体調崩してたりしたら殺すからねー」
言葉と裏腹に、震えは収まらない。
「透矢さんたら…こういうこと、意外とお好きみたいですね」
しかし、ナナミは逃げなかった。
「違いますよ」
軽い気持ちの僕とは対象的に、花梨は、真剣な調子で話し始めた。
これで、ひとつ接点が見えた。
「はわ!?」
「ううん、みんなには悪いけど、助かったよ。だけど…」
金属片は、花梨がそこらに落ちてるのを拾い上げただけのものだ。
僕は、彼女への愛撫を再開した。
ぽんぽん、と鈴蘭ちゃんの頭を撫でながら、僕は、その光景に見とれていた。
一年前に牧野那波さんを亡くしてしまったという事を。
はむはむ。
それを見ていた和泉ちゃんが、くすくすと、おかしそうに笑う。
「覚えてない。夢中だったから、手あたり次第だった」
自分のほっぺたを、とんとん、と指先でつつく。
「可愛いね」
「流れでね、そうなっちゃった」
いちど忘れた記憶だ。
だから、この調子でいけば、すぐにでも夢は終わる。
「…ぁ、っぁ…」
「ありがとう。ええっと…まず、僕の名前は、透矢でいいのかな?」
「あ、いや…普通に起こしてくれればいいよ。ありがとう、雪さん」
この子がいるという事は当然、彼女もいる。
「はふ…」
雪さんはこうなることがわかっていたのか、あきらめ顔だった。
「楽に、おいしいところだけ持っていくのが俺のやり方なんで」
「あ、やっぱり嫌?」
巫女服を着れば、誰でも巫女になれるなんて思ってたけどそうじゃない。
僕たちは、歩き続けた。
実際、ここ数日、何度も同じようなことをしているけど、このキツネ、僕にだけなつく様子がない。
次から次へと――庄一じゃないけど、ホント、どうして僕ばっかり。
「うん…僕も、そんなことがあったよ」
「へええええ〜。和泉さんは、それを川に流したりしたんですか?」
「だけど、本当に痛くなくなったから」
「はいはいマリアちゃん、ケダモノからは離れましょうねー」
じっとしていても、余計な事ばかり考えてしまう。
「えっち…」
「牧野さん、もうやめようよ。僕はこんな夢、見たくない」
「…そんなことないよ」
「…いいけどね。確かに、最近、ちょっと忙しくて、相手できなかったし」
ひんやりした空気が漏れだしている。
ゲハ931まだ?
「あ…大丈夫?」
「いつか、ふわっと、雪だけが別の世界に連れていかれるんじゃないかって…」
「そうそう、夢に牧野さんが出てくるとかいう話はどうしたの?」
「あのさ、それ、悪い病気とかっていうのに関係ある?」
僕は、上からひとつひとつ、ボタンを外しにかかった。
「信用してるよ。…少なくとも、この前の告白は」
「あれ? でも、習い事は…」
気まずい沈黙。
「…キツネの時と同じよ。逃げたり、きのうみたいに引っかかれたり」
僕は、彼女のほっぺたにキスをし、頭を撫で、乱れた衣服を整えた。
いやにあっさり終わってしまった。
「ヘッドドレスのことですか?」
「毎年、同じですから」
足がつかないのは当たり前としても、滝なんかあるせいか、流れも強いし、なんだか不安をあおられる。
「おまえ、そういう変な言葉の使い方は間違えないのな…」
僕は、馬鹿の一つ覚えみたいに、そんな言葉を返していた。
「大丈夫よ、そのうち帰ってくるから」
山中に廃村がある、なんて話、長いことこの町に住んでいる庄一や花梨が、知らないはずもないだろう。
「いーから早く!」
そう、信じるしかない。
午前中に個人戦、午後に団体戦という具合だ。
そして、それでも抑えきれなかった想いを、直接、耳に吹き込んだ。
「可愛かったよ。雪さんには悪いけど、最後のは、あったかくて気持ち良かった」
「今日は顔色いいんだね」
抑揚のない声で言って、彼女は一度も振り返ることなく行ってしまった。
彼女は、僕のほっぺたにキスをした。
「ナナミ…それじゃあキミは?」
夢では、このあとどうなったんだっけ?
「お父さん、遅いね」
「雪、今日は撫でていませんけど…」
「私も、いろいろと助けられちゃってるんだよね。どこかで返さなくちゃ」
僕は身支度を整え、情けない顔をどうにか引っ込め、『お友達』のところに向かった。
「はは、どうしたの?」
「旦那、様」
「…なんだ、そういうこと」
いつもの道を、いつも通り花梨と歩いていた。
次々とあふれ出す愛液の絡み合う音が、淫らに響く。
当然、触れても痛みはない。
「そう言われても、雪さんの胸は、僕がどうこうしたわけじゃ…」
「っくちゅ」
「わかってる。それにしても、この辺はあまり人通りがないみたいだけど」
夢の中のことだから、お手伝いって言われても困る。
「そういうことなんだ」
「雪さんがいなくなっちゃう夢」
「…見過ごした可能性?」
「こんなところで…って、あぅぅ」
「朝の、あれのせい?」
「はいはいマリアちゃん、ケダモノからは離れましょうねー」
じゃあ、さっきのは、夢?
それだけで、達してしまいそうになる。
「那波の誕生日は、七月七日ですの」
僕は、二人の頭、ほっぺた、首筋、と撫で、次に胸へと手をやった。
「そうですの…」
「…出資者?」
彼女がどうして急に戻ってきたのか。
「申しわけありません。透矢さんは特別なんですよ」
夕陽に染まり、怪しく赤く、燃えるような色をした瞳で。
「それより、どう? 花梨ちゃんの巫女服は」
くいくい、今度はマリアちゃんが、ひかえめに袖を引く。
「なんにもしてあげられなかった」
「馬鹿、いつまでも持ってんな!」
彼女の視線は僕を通り越した、その先に注がれている。
「探すって言っても、この町には山が多いみたいだし、こんな写真だけじゃ…」
妙なことまで、よく知っている。
牧野さんの話を思い出そう。
「花梨を…?」
「あら…? ふふ、わかりました。そのようにいたしますよ」
きのうとは、明らかに雰囲気が違う。
「雪は、そちらのほうがいいです。着る時と脱ぐ時は、手伝ってくださいね?」
「透矢さん、起きてくださいな」
「…かもしれないね」
「あら、庄一さんは、そのことについて何かご存じなんですか?」
「んじゃ、そういうことで」
「大会で優勝したときに付けてたとか?」
「終わったー」
「感じてくれたんだ?」
花梨が行きそうなところ。
奇妙な配置に首をかしげながら、僕はインターフォンを押した。
「和泉ちゃん…牧野さんのことがショックなのはわかるんだけど…」
「緑の匂いですか? 雪は、いい匂いだと思いますけど…」
「だって、庄一くん、すぐに嘘つくんだもん」
「…なら、仕方ないけど。とにかくそういうわけよ。そっちは?」
飛び散ったしぶきが、輝き、彼女の足下を照らす。
(落ちつけ)
そして、となりにたたずむ牧野さんも、どこか様子がおかしかった。
僕の覚えていないことで、彼女はこんなにも幸せそうに笑っている――そう考えると悔しい。
「我慢して。念のためだから」
「まあ、覚えていた通りだったわ。キツネは警戒心が強い動物なんだって」
花梨は目を覚まさない。
雪さんの体が断続的に震え始めた。
「…ちゃんと名前があったんだ」
「和泉だって好きでやってるって言ってんでしょうが。それに、私だっていろいろあるんだからね」
アリスも同じことを考えたのか、今までに増して険しい顔をしている。
実際、花梨が的に当てる確率と、他の子が的に当てる確率とでは大きな差がある。
はむ。
「本気にしてしまいますから。はい、お弁当ですよ」
口に出すたび、自分の中で彼女への想いが深まっていく。
「ひどいなぁ、ぱっと見だけしか知らないくせに」
何かが発光しているのは間違いない。
「そうだよ、透矢くんまで…」
僕は、ひとりぼっちじゃないんだから。
「ごめん…僕は怖くて、そればっかりでぜんぜん気づかなかった」
(絶技・四十八手…?)
「無理に雪を誘わなくても…花梨さんも和泉さんもいらっしゃいますし」
道は下へ下へ。
「はぁ…っん…けほっ…」
僕をからかっているのか、それとも真剣に聞いているのか、彼女の笑顔からは何も読みとれない。
「お守りだよ。あそこに行って、取ってきたの」
「ふふ、半分だけ正解ですわ」
「いいよ。大げさだな、雪さんは」
「だったら呼んでよ。夢になんかしなくてもいい」
「別の言語の点字、もしくは…現在主流になっているものとは、対応の違う点字ということになりますわ」
なんて、たぶん負け惜しみにしか聞こえないセリフを内心でつけ加えて。
「ぅん……うん……」
誰か…そうだ、女の子と一緒にいて…
あいかわらず、やることがオヤジだ。
あの岩が、綺麗さっぱり消えてなくなっている。
「な…」
「あの、そのまま巻いてくれれば、大丈夫だと思うから」
彼女を抱いて、うかれていて…そのまま会えなくなってしまったから、忘れていたけど…
「ぅ…っ…透矢さぁ…ん」
「花梨ちゃん、大丈夫かなぁ…」
振り返った庄一は、いつもの皮肉っぽい笑みを浮かべていた。
「んー、本当に個人的なことなんだ。夢の謎がちょっとだけ解けたかも」
少し興奮気味だったのかもしれない。
「なあ…おまえにも多少の責任があるって事くらい、わかってるんだろう?」
いちど思い出してしまえば、崩れるのは簡単だった。
わざわざ言ってくるあたり、たぶん、そうしてほしいんだろう。
『えい!』
そして、どうしたわけだろう?
「変態さんだし」
考えながら、僕は、まぶたを下ろした。
でも、その手つきと裏腹に、ハンカチはきれいに折りたたまれていた。
そんなことを言いながら、雪さんが戻ってきた。
「あの、いろいろ、あると思うんだけど、そんなに、避けないで」
謝らなきゃ。
「透矢さんの人徳ですよ。雪がいい人かどうかは置いておきますけど」
僕も、こんな曲を覚えてるくらいなら、英単語のひとつも覚えておけばいいのに。
「いえ、洗わなくて、いいですから」
「いや、なんとなく」
「いや、だから、期待に応えられなかったり、いろいろ」
戻るきっかけをつかめなければ、一生、彼女とふたりきりってことか?
「馬鹿! 誰も見つからないなんて思ってないわよ」
さすがの牧野さんも、続く言葉をかけあぐねていた。
ぱっと見ただけで、ていねいに取ってくれたものだということがわかる。
那波ちゃんは、ちょっと変わっているけど、きれいだしなんでもできるし、お似合いだと思うよ?
「マリアちゃんは、危なくないの?」
幸せは、いつまでも続かない。
「鈴蘭ぱんちと間違えたんだってばー」
「いいけど、何?」
扉の向こうに、泣きじゃくる雪さんがいるって知りながら、僕は何をしてあげることもできなかった。
違う――きっと、僕が弓を手に取らなくなった時からだ。
「まあ…那波のこと、心配してくださったんですの」
「うるさいなぁ…。あなたも食べてみなさいよ」
「……宮代さん、遅いねぇ」
「違うって。ど忘れでもしたの? マリアちゃんだよ。退院した日に手を振ってくれた…」
「それじゃあ、行ってきます」
「漠然とはわかったけど、なんか、話がつながらないような…」
と、参加者の名簿をながめていると、ひとつ、奇妙な点に気づいた。
「大したおもてなしは、できないけどね。ただし、今日だけだよ?」
「でも、同じだよ。月だ」
「いっ…!」
「理屈では、ですわ。現実のわたくしたちには、昔も夢も、確かに存在していますから」
「ほら、せっかくのお祭りなんだからケンカしない」
「ちぇっ」
「う、うん。また…今度、電話するね」
大きなしぶきをあげて、海に飛び込む和泉ちゃん。
「欲情って言わないでよ」
彼女の期待を裏切るそのひとことが、どうしても言えなかった。
和泉ちゃんにキスされた時と、どっちがドキドキしているだろう?
「最初から、そう言ってたじゃないか」
「なんて言ったらいいのかな。不便なこととかあったら、遠慮なく言ってほしいんだけど」
確かに、僕のほうがよほどマンガじみている。
「良かったね、雪の調子良くなって」
「うっそ! 庄一が来てる」
「おまえが不幸なのは、俺様としょっちゅう一緒にいることだな。おかげで、この魅力に気づけない」
僕の背中に寄り添っていたぬくもりが、そっと離れる。
「透矢さっ…だ、めぇ…」
「じゃあ、しよっか?」
「透矢くん、見てー。マリアちゃん、欲張りなんだよ」
今夜、夢の中で会いましょう、だ。
さらに…何時間が経ったんだろう?
前に雪さんから聞いた話だと、涙石は川や海、水辺でよく見つかると言っていた。
「雪さん…」
「知らないし、言わないで行くつもり」
「防空壕…ああ、そういうことか」
「雪さん、もうちょっと昇ってみようと思うんだけど、いい?」
「来て、くれましたわ」
「どれどれ、貸してみなさい」
「ああ、体調が悪いんだってさ」
口をつけると、確かに熱すぎず冷めすぎず、ちょうどいい温度だった。
入り口を指でつつくと、派手な水音がした。
「なに、もしかして、私の胸に触りたかっただけ?」
「でも…こればっかりは、二人一緒にっていうわけにもいかないよ?」
「元医者とか言ってたね。父さんのことも瀬能って呼び捨てにしてたし、知り合いなのかな?」
と、色素が薄いのかと思えば、髪は夜の闇を飲み込むほどの、長く艶やかな黒をたたえていた。
そのまま、手をお腹へ。
「牧野さん、もうやめようよ。僕はこんな夢、見たくない」
「前向きでいいね…」
「無理に手伝わされていたとか、そんなことはない?」
何か、盲点があるのかもしれない。
「そんな顔しないでよ。ほら、無理に手なんか入れて、洋服がやぶけちゃったら嫌だなぁと思って」
彼女だ、僕にあんな事を言ったのは。
口をつけると、確かに熱すぎず冷めすぎず、ちょうどいい温度だった。
「冗談ですよ。経過も良好ということでしたし…記憶が戻らないのは透矢さんのせいではありませんもの」
「和泉の場合、お子様すぎて、比べっこにならないだけっていう話もあるけど」
「かなわないな、わかったよ」
「決まりですね。鈴蘭さん?」
「いいんだ、僕のことは。それより…」
夢で父さんを責めていた自分が、なんだか滑稽に思える。
額に、ほっぺたに、胸やお腹のやわらかさが伝わってくる。
恐る恐る下ろしてみると、真っ白な肌の上に綺麗な縦線が一本。
それに、自分が離れてしまった時に、混乱した身内が馬鹿な事を考えないとも限らない。
「ま、帰ったってことはないんだろうし」
そして、よじ登られた。
「何かあるの?」
「めっちゃくちゃ嬉しそうだね…なんか嫌だなぁ。キミ、そういうこと、そんなに好きだったっけ?」
「…子供じゃないんだから」
実感はなかったけど、これは自分の家なんだと思い、僕は無造作に靴を脱ぎ捨てて廊下に立った。
戦の危険から彼女を遠ざけるという点でこれほど適した場所もない。
花梨が笑う、庄一がポンと肩を叩く。
「ときどき、今みたいに、透矢さんとお勉強をさせてもらうんです」
「僕は、僕だ…」
「そう、ですか」
「海岸に誰もいないみたいだけど、工事でもしてるの?」
「どこ見てんの、変態」
双子の姉妹に出くわした。
「えっ、どうして和泉さんが謝っちゃうんですか?」
「…僕や父さんがそうだっていうこと?」
「んんーーーーっ」
「気持ち良さそうってこと。もっとしてほしい?」
『っぁ、孕ませて、んっ…いただこうと、 思いましたのに』
「っ…ぁ…ぁぁぁぁぁぁ…」
「…そもそも、幽霊だって気づかないってこと?」
彼女の辞書に普通って言葉はないのか?
ホント、こういうことには、良く鼻が利くというか、マメというか。
「ぼんやりしていて…『あれ?』と思った時にはいなかったんです。見ませんでしたか?」
「透矢と俺ね。いやーな予感」
一人でいたら、おかしくなっていたかもしれない。
「居間にお通ししておきますから、そちらへ。お話が済んだら、おいしい朝ご飯が待っていますからね」
言葉をつなぎあぐねる僕に、彼はおもむろに右手をさし出してきた。
「鈴蘭ちゃんも見たいの? それじゃあ、午後は、三人で一緒に行こうか?」
自信がないから、遠慮して、あんなに小さな文字で書いたのかもしれない。
「い、和泉ちゃん?」
「あ、だからですね、えっと、また明日にでも、一緒に遊んでくれませんか?」
放物線を描き、勢いよく流れ落ちるそれが、僕にはとても美しく思えた。
「じゃあ、マリアちゃんの、いい?」
「…好きだよ」
「あれはあれで良かったけど、今も可愛いよ。花梨は可愛い」
『七月七日 午後五時 公園で待っていま す』
「和泉ちゃん…助けてくれたの?」
笑いながら、今度は、僕がそうしたみたいに、乳首を口に含んだ。
「雪は、透矢さんによろこんでいただきたいだけなんです。労働というよりもご奉仕になりますね」
でも、これはこれで不意打ちだ。
「っぅ」
何を言っているのやら。
「で、何かな?」
僕には、とても素敵に思えたから――
花梨がいちばん激しく反応する場所――まだ歯形の残る乳首に吸いついた。
「はぅぅぅ、おね〜ひゃふ、ひたひ〜」
「花梨、幽霊見えるか?」
「それで、どうしたの?」
頭の中が、真っ白になる。
「んー、好きだから」
なんだか、うまいこと口車に乗せられた気がするけど…まあ、頑張ってるし、いいかな…。
頭をひと撫でし、僕は早速、マリアちゃんと同じように、ワンピースをまくりあげてしまうことにした。
「兄弟かな…?」
「もう思い出す必要もないけどね。ったく何が悲しくてこの歳で家中の家事を…」
「…でしたら、最後のお願いです。雪のこと、たくさん気持ち良くしてください」
言われた通り、小さな体を抱きしめた。
そうだ、僕は彼女を知っている。
「旦那さまぁ…じら…じらさ…ないで」
水中のところどころに、何か発光するものが沈んでいるのが見えた。
今度は僕が出ることにした。
言っていることはよくわからないけど、とにかく、僕をはげましてくれているらしい。
「道祖神ですね。こうして道ばたに立って外からの疫病や悪霊を防いでくれるんだそうですよ」
「んっ…ずるいなぁ。私なんて、苦しいのに」
「はいはい。って、最初に話を振ったあんたが言うな!」
「あは…あははっ…」
「そうなんですか、透矢さん?」
「あ…うあ…」
波間を漂う光の帯のように、すっ、と僕の中に入り込んできた、あったかいもの。
「ガキね。いちおう忠告はしたから。それじゃあね」
真顔で言う。
ただ――それでも、僕はふたりから離れることができずにいる…。
「雪さんだって、暑いでしょう?」
その動きに、アリスの体はあやつり人形のような、敏感な反応を見せる。
それを止めるのが僕の仕事か…そう考えて、ずしんと肩が重くなった。
汗だくで、みっともなく息を切らしていたけど、構わず、僕は彼女の体を抱きしめた。
「うるさい、うしー」
僕が言うと、ふたりは顔を見合わせ、しばらく思案するふうを見せた。
「はぁ…っん…けほっ…」
「震えながら言っても説得力ないぞー」
「な、何かな?」
何を言われたって、できないものはできないんだから、構わない。
傷は意外に深いのか、何度か舌をはわせても出血がおさまらない。
「そういえば、和泉さんと一緒にいるものと、思いこんでいましたね…」
花梨に蹴り飛ばされた足から靴を脱がせると、愛おしいものにでも触れるように、そこをなで始めた。
素晴らしいタイミングで、雪さんが入ってきた。
「お返しです。私たちも、気持ち良くしてもらいましたから…こうすると、いいんですよね…?」
「ふぁぁ…」
笑いながら体重をかけてくる花梨を、僕はあきらめて受け止めた。
「疑り深いね。はい、どうぞ」
幸いにも転ばなかった…らしくないと言えばらしくないけど。
「嘘は良くないと思うな」
庄一の悲しそうな顔、初めて見たかもしれない…。
「日記って、父さんの?」
「心からの呼びかけね。すごく難しいとか言ってたけど…」
「みっともないところ、見せちゃったね」
「二人とも、そろそろ…」
「理屈では、ですわ。現実のわたくしたちには、昔も夢も、確かに存在していますから」
「年下趣味はわかるけど、行き過ぎると犯罪だと思うのよねぇ」
「覚えているもいないも、僕は目を覚ます前のことを、ほとんど何も覚えていないらしいよ」
『っぁ、孕ませて、んっ…いただこうと、思いましたのに』
「保険って、なんの?」
「ごめん。ちょっと嫌になったんだ。きっと昔の僕のほうが、雪さんのこと笑わせてあげられたから」
どこかで、そんなふうに考えている自分に嫌悪を覚えながら。
実際、これを一人でゆっくり見られるのは僕だけの特権なわけで、ちょっとした自慢ではある。
今、和泉ちゃんがいる。
ちょっとだけ――と自分に言い聞かせ、僕たちは防空壕の中に入った。
「ひぁっ…」
「で、言い訳は?」
「あなたとマリアのふたりを、野放しにできるわけないでしょ!」
要望に応えて、さらに刺激を与えてみることにした。
「えっ、どうして和泉さんが謝っちゃうんですか?」
それとも、あれが雪さんなのか?
「ここも…こっちもだよ」
「このまんまだと思うけど。身長も体重も胸もお尻も腰も、一年くらい変化していないんだから」
「那波と、読んでみませんか?」
「ふたりとも、いろいろ騒がせちゃってごめんね。やっぱりダメだったみたい」
奪取
「雪のことを、毎晩、夢に見ていただけるなんて」
「気色悪い。せめてアリスって呼んで」
生まれのために、っていうのは、いったいなんだ?
「嘘だ」
「もう、いいよ、入れても?」
(花梨…だよなぁ)
ほーんとにそれでいいんですかっ! どうなっても知りませんよ?
「冗談だったのになぁ…和泉、あとはよろしく」
庄一は、さっきから黙々と練習に打ち込んでいた。
保険の仕事、か…
「そ、そうなんだ…」
そう、つぶやいた。
母親みたいなことを言う雪さんに苦笑しながら、僕は家を出た。
こんな仕草を見せられたら、たとえ理不尽な状況でも、彼女を受け入れないわけにはいかない。
「親しき仲にも礼儀ありってね。読書の邪魔をしたのは確かだよ」
「ねえ、そんなのどうでもいいからさ、早く行こうよ」
僕の気持ちが偽りになってしまう気がして。
一瞬だけ、不安がよぎった。
「聞かないの!」
「あ、あの、だから…想像とかしちゃ…」
「ううん、私は何も聞いてないけど」
「あ、ごめんなさい、ちょっとぼーっとしちゃって」
「いいえ。授業はお休みさせていただきました。寝坊してしまって」
牧野さんが死んでしまうなんて、そんなこと、あるわけが…
花梨は、動かない。
「可愛いのもあるけど、他にもたくさん、好きなところがあるから」
巻き上がった砂煙の中、不愉快そうに顔をしかめた雪さんの言葉に、僕は深々とうなずいていた。
光が、近づき、広がって――
翌朝、僕は落ち着いた――まあ、多少ぐずってはいたけど――マリアちゃんを家に帰すことにした。
「可愛い子、多いもんね」
二人の間にはさんで…っていうことらしい。
そう言われたとき、これを言うためにかけてきたのか、なんて考えて、自分が嫌になった。
確かに楽ではない…けど、男としては、比較的うれしい疲れだ。
「僕からすると、アリスの記憶力もマリアちゃんの勘もすごいんだけど…」
僕は、物音を立てないように、明かりのついた食堂に向かった。
「んー、僕はいつも片手」
『ナナミ様、ナナミ様…』
顔を真っ赤にして、行ってしまった。
例えば、知能指数の高さが、恐らく僕らとは比べものにならないほど高いこと。
幼い頃につかみ損ねた風船。
構える、矢を放つ、彼女は死ぬ。
「ええと、そんなに見られると」
海では、あんなにはしゃいで、
「それは、まあ」
夢を…見よう…雪さんの夢。
「でも、二人きりになれてうれしいでしょう?」
「私がこの事を話すと、いつも、さっきみたいに『そんなことないよ』の一点ばりだったから」
「ぅぅ、変ですか?」
あの時、僕は彼女に、自分のママになってほしいと願った。
「雪さんの中、すごく熱い」
花梨の表情が曇った。
月っていう、確かに存在する、だけど手の届かない場所。
「………え?」
「ふふ、おどろいていただけましたか?」
「…お互い、そういったことを望んでいるのかもしれませんわ」
「良いではないか良いではないか…」
「うん…あそこ」
「七夕の夜、お風呂で、お姉ちゃんが」
花梨には『まあ、行けたらね』と返事をしてしまった。
「アリス…マリアちゃん?」
鉛筆のすべる音、ひそやかにおこなわれている談笑の声も、ここまでは届かない。
そんな僕の気持ちを読みとったのか、アリスは僕のほうを見ると、ふふんと笑い、
別に庄一の頼みを聞く気もないけど、僕はもうひとふんばりしてみることにした。
「こういう場所が、ですわ」
「え? あ、あのぉ…雪、何か透矢さんのお気に障るようなことを?」
その力を受け継いだという人が。
なのに、どうして彼女は、悲しそうな顔をするんだろう。
こんなふうに見てくれていたなんて…うれしい。
「もういいから、今日は休んでてよ」
(きのう見た写真って、こんな雰囲気だっ たっけ?)
「アリスちゃんとマリアちゃんもおんなじでしょう?」
「ならいいけど…」
「お待たせ。どうしたの?」
「透矢さんは、また、悪い夢を見られたんですか?」
「なるほど、ね」
牧野さんに手を引かれ、我に返る。
「おねえちゃんが意地悪すぎるから、あきれちゃったんですよね?」
花梨はマヨイガでのことをあまり覚えていない。
でも、僕は知っている。
「違いますわ。これは、わたくしの夢」
どうして、気づいてあげられなかったんだろう…。
「わかっています。メイドさんは、ご主人様の気持ちも考えないといけないんですよね…」
本当か?
「そうそう、髪の長い子」
「ねー、和泉ぃ、ここに置いてある短冊ってあんたのじゃない?」
いい匂い…
おわびをしながら、マリアちゃんの舌がアリスの口周りをペロペロと舐める。
「うん…確かにそうかもね」
「頑張って。いーち」
花梨の様子を見に行かなきゃいけない。
「う、うん…それじゃあ、ちょっと、公園に寄りたいなぁ」
「どういう夢でしたの?」
「くぅん…」
「責任取る気がなかったら、あんなことしないよ。子供が出来る可能性だってあるわけだし」
那波の父親が、じっと僕らのほうを見つめていた。
「梓弓って?」
二人とも、今とそれほど印象が変わらない。
しかし、このまま、ただ寝転がって終わりにするわけにもいかない。
僕は和泉ちゃんに告白されて、キスだってした。
「透矢さんと一緒だから、いっそう素敵な場所になるんですよ。ひとりで来ても怖いだけだと思います」
そこまで考えて、牧野さんのお父さんの姿が頭をよぎる。
僕は、少しだけ彼女との距離をつめ、手を引いた。
点字?
夢が夢である理由、現実が現実である理由――
彼女が話を終えた瞬間に、大きなため息を一つ。
無表情だけど、雰囲気でわかる。
「おまえ、こいつに甘過ぎ」
環境は人を左右するだろう。
「お疲れになられたでしょう?」
「あ、あっちー!」
「雪さ…ん?」
そんな調子で、僕の番まで回ってきてしまった。
中にいるのは、雪さんだろう。
今度は、こういう素直さならいいな、なんて、節操のないことを考えてしまった。
「無理しちゃ、駄目だよ」
「んぅ…っ…うん…っ…わたし…も…」
「おわかりいただけましたか?」
「…アホくさ。もう、なんでもいいから行こうよ」
「ほらーっ、おねえちゃんも急がないと。透矢さん、待ってますから」
「声、出ちゃう…」
妙に大人っぽい…そのアンバランスさが不思議な色気を醸し出していた。
「お父様と呼ばないでくれ…あなたは」
だったら、なんだ?
「花梨ちゃんは女の子らしくして…それで透矢くんに…」
人としての生活を捨てられなかった僕に彼女たちと共に歩む資格はなかった。
「二人そろってタチの悪い。いいわよ、後でも先でも。どうせ、見せるつもりだったんだから」
時が止まってしまったような感覚。
ずっと前から考えていたことだけど…父との生活に、我慢ができなくなりました。
「あんた、ちょっと前まで、めちゃくちゃ楽しそうだったような…」
ただでさえ気乗りがしない日なのに、よけいに嫌な気持ちになる。
「雪、透矢さんは、良いお友達に恵まれていると思います」
目をつり上げて言う。
「それを、おまえは涼しい顔でこなしてたんだぜ。ほら、やってみろよ」
誰もいない。
「家の間取りは、なんとなく覚えてた。でも、他はぜんぜんだね」
僕は、異様な夢の恐怖から逃れるため、動き出していた。
ゆさゆさと揺すられながら、和泉ちゃんが懇願する。
庄一とのやりとりを見ていたせいか、まるで信用できないけど…とりあえず乗ってみることにする。
「んっ…いつもと、一緒だね」
弓矢ですらない…ただゴムを引くこともできなかった。
「瀬能、とりあえず引いてみなさい」
そんな調子だから庄一の軽口にも、普段のキレがない。
「じゃあ、我慢できなくなったら言って。できるだけ気をつけるようにするから」
「透矢くぅ…ん…お願いだから…」
自分の中にある感覚を、うまく処理できていないのかもしれない。
そう言って、マリアちゃんは、ぶるりと身を震わせた。
「少しだけ、お待ちくださいね」
進めば進むだけ、嫌な予感が増大していく。
「あーあ、話そらしてるし」
「じゃあ…あれかなぁ」
複雑な気持ちで、僕はふたりの背中を見送った。
じっと見上げる和泉ちゃん。
「透矢くん、どうする?」
ある意味、花梨より強い。
(やっぱり…)
とか言いながら、ちゃっかり荷台に飛び乗った。
軽く腰を浮かせ、マットの反動を利用して体を揺らす。
「こんなことしたいなんて、変なの」
「痛いですけど…動いてくれないと、気持ち良くなれません」
「みんな、見る目がないんだよ」
「僕は、アリスも鈴蘭ちゃんも喜んでくれるのが、一番いいけどね」
僕は彼女といた。
「あ、透矢、来たんだ。ほら、練習始めるから帰った帰った」
確かに、洞窟で恐ろしい目に遭う夢は何度か見ている。
「そんなわけないじゃん。だいたい、苗字がそんな簡単に変えられますか」
「大声で言わないの…もう少し品を持ちなさい、品を」
「うん、ホントにそんな感じだった」
ただ、ひたすらに出口を求めて。
「…そんなことないよ」
「わかってる、ねぇ。まあ、俺も花梨を避けたくなる気持ちはわかるつもりだけどな」
すべて夢だったのか?
「透矢ちゃーん、たこ焼きー」
「ご勝手にどうぞ。野郎の応援なんざ、最初から期待してないんだ」
「那波…那波…!」
現実には、ありえない。
「そんな。和泉ちゃんは?」
「何?」
「和泉ちゃんに誘われて、一緒に勉強をさせてもらうことになったんだ」
「うん…っ…ひっ…く」
僕は、いつしか泣きだしたいような気持ちになっていた。
お尻も…濡れるんだろうか…何度も行き来するうちに、だいぶ指の通りが良くなってきた。
「言っちゃだめー! これとこれ、引くんでしょー?」
「…馬鹿だなぁ」
止まっていた時が、動き始めた。
「雪、さん」
「だって、なんか他に手があるわけ?」
「透矢がノロノロしすぎなの! だから変に緊張して…」
「別に悪くないよ。じゃ、また明日ねー。和泉も、ばいばい」
「素直にタクシーでもなんでも、お願いすれば良かったよ」
夢の終わりが、近いのか。
「和泉、今日はやめとく?」
「いやいや。って、あのさぁ…わざと話を逸らしてない?」
「お姫様が目を覚ますために、王子様がすることって、ひとつしかないよ」
僕のせい…そうなのか…そうなのかもしれない。
「肉がついただけじゃない。しかも、マリアちゃんったら、私より身長低かったわよねー」
「牧野さんの事にしてもそうなんだ」
「…和泉って、前世は亀だよね」
問題は、この寒気だ。
僕は、なんとなく忍び足になりながら、部屋の前まで近づいた。
マリアちゃんがゆっくり、腰を前後に動かし始めた。
と、マリアちゃんの唇を見つめてしまった。
彼女の胸に顔をうずめ、唇を貪り、何度も、彼女の中に精を吐き出した。
人差し指と薬指が、ずぶずぶと埋没していく様子が、壁をへだて、こちらまでつたわってきた。
「願います、願いますから…」
「たまにはあの夢のように、二人でお出かけしてみませんか?」
「ああ…そうか、そうだな」
実際、けっこうな行程だった。
「…でも、うれしいですね」
「あやしいですね。ちょっと失礼します」
「おい」
だけど、さいわい、すぐに花梨はくたっとなってしまった。
おでこをつけるだけだって、それくらいわかるけど――どうして、手でしてくれないんだ。
「別にいいよ。マリアちゃんも、呼びやすいように呼んでくれていいからね」
「マリアに言っても無駄か」
「仕方なくなんか、ないです!」
「それならもういいよ。でも、どうして公園なの?」
夜――『案の定』の孤独。
ふたりとも、特にマリアちゃんは、恐ろしく勘がいい。
「あんなところにガラスがあるほうがおかしいんだよ。大丈夫?」
加えて忘れかかっていた、という事実までが自分を責めるようになる。
先生役に呼んだはずの彼女は、驚異的な集中力で参考書にかじりついてしまった。
「あ、ああ。でも、怖いって…それも、今までずっと我慢してたわけ?」
『今日は家を空ける用事がある…良かったら、面倒を看てやってくれないか?』
「…っはぁ、っはぁ」
「もー、わがままだなー」
「はは…花梨には、僕がつき合うから、ふたりで行っておいでよ」
「そろそろ、行くよ」
僕は、舐めても舐めてもあふれてくる愛液を、それでも、飽きることなく舐め続けた。
「はぁ?」
後頭部を、したたかに打ちつけた。
「…う、うん」
「雪さん、相談してくれなきゃ」
なんとなくわかった。
「明日も約束をしていたな。断るなら、適当な言い訳をしておくぞ」
なんだかぼんやりしてしまって…
「私より、和泉が」
僕も、つられて笑う。
「そうだよ。それって…」
「大丈夫。あのさ、花梨」
“くいくい”
「っ…ごめん」
「んっ、んっ? 雪のことジロジロ見て、どうしたの」
「いつもそんな感じなの?」
「那波ちゃんの言うことが当たるっていうのは、七夕の時にわかったでしょう?」
僕らは、その普通じゃないことを、しようとしていたんだから。
「いいよ。他の子に負けないようにがんばるから」
「…はい。雪も、頭に血が昇ってしまったようです。花梨さん、申しわけありませんでした」
「ふーん…こんなところにねぇ。少なくとも、私じゃないね」
「っぅぅーーー」
「っぁ…はぁっ…和泉ちゃんが、速すぎるんだってば」
「雪さん、手は大丈夫?」
「わかんないじゃないか。今は引けないんだし」
「ホント?」
「いけませんわ、デートの途中に眠ってしまわれるだなんて」
「アリス、嫌なこと言わないでくれる…」
「どうか無理をなさらずに。気分が悪いのでしたら、続きは明日にしましょう」
そう答えた雪さんの声は、昼間とは比べものにならないくらいしっかりしている。
しかも、天を仰ぐポーズつき。
「だってじゃないよ。花梨のこと泣かせていいのは僕だけ。違う?」
嘘のようにおだやかな顔をして…彼は、本当に、眠りについてしまった。
「……すみません、雪なんかのために、気をつかわせてしまって」
居心地の悪さを感じて、僕は、坂を下る足を速めた。
振り向くと、庄一は、口をゆがめたような、彼特有の笑いを見せて、
光の加減や目の錯覚――なんにせよ、僕がそう思っただけのこと。
「…知らない!」
なんにせよ、この笑顔は止められない。
ゆっさゆっさゆっさ…
風になびく髪を押さえながら、花梨は空を見上げた。
「ったく、他の患者が迷惑だろうよ。ま、上手いこと言っておくさ」
そう言われたって納得できやしない。
きっ――アリスはとつぜん口をつぐんだと思うと、暗闇の向こうに鋭い視線を向けた。
「か、花梨…やめてよ」
「…んぅ」
「本日は、お出かけの予定でしたか?」
「うん…どう考えても、ビーチボールの破壊力じゃなかった気はするけど…」
僕には、何もできなかった。
「まだ、そんなに疲れてないから大丈夫だよ。ね、任せて」
「本当なんだ。そんな、あきれた顔しないで」
「んーーーーっ」
「わからないけど、他に原因が思いつかない」
「ということは、マリアちゃんも終わってるんだ。こういう時、同い年の姉妹は得だなぁ」
「ううん、すごく楽しかったよ」
そう言うと、目を閉じ、続きを要求するように口をつぐんだ。
「雪さんをどうこうできるほど、大層な人間じゃないよ、僕は」
「ま、待ってください! 邪魔なんかじゃありませんから…だから、雪と一緒にいてください」
物を言わない人形みたいに、ぼんやりと悲しい目をして。
「見に行く?」
「そうだね…人間と同じだ」
「人が人の魂を取り込むために行う儀式は性交ではない。喰らうことだ」
「透矢さんとふたりきりで、たくさん面倒を見てさしあげるんです」
「にしても、そんなに焦ってお見合いなんかさせてどうするんだろうね…」
「…勝手に殺さないでよ」
ふたりで縁側に腰掛ける。
言わなきゃ始まらないことがある…庄一の言葉が思い出された。
「目が悪いからでしょう?」
長い黒髪を風になびかせて、白い肌を夕陽に染め、憂いを含んだ表情で、はるか彼方を望んでいる。
「いっ、ぅ…」
なんてこった――だろうな。
でも、そのせいで、次の日には熱を出しちゃったんだよな。
家を訪ねて回っても、人の住んでいる気配は、まるでない。
花梨との約束までには、まだ間がある。
それでも僕は、雪さんにだけは側にいてほしかった。
「…今ならいいか。牧野さんも同じ夢を見てるんだって」
彼女を抱いたあの夜から、もう、ひと月が経つ。
今日、一日だけだけれども。
「あは、おねえちゃんみたいなこと言うんですね」
情けないな、僕は…
「七時に宮代神社だっけ」
「赤ちゃんができたら…私にも、おっぱい出るのかなぁ…」
「和泉ちゃんは、俺の目の前にいる、おまえのことが好きだったんだ。少しは自覚しろよ」
この子は、僕なんかの事で、こんなにも喜んでくれる。
「変えたかったから」
「い…ずみ、このままするよ?」
「…撫でないでよ」
なんの役にも立てないなら、みんなのために、声を張り上げるくらいはしてもいいだろう。
「透矢くんも花梨ちゃんも、けっきょくおんなじじゃない…みんな、私がいないほうがいいんでしょう!?」
「え? や…そっちは…」
それを止めるのが僕の仕事か…そう考えて、ずしんと肩が重くなった。
今度は、前のめりで海に落ちた。
(ごめん、雪さん…)
「最後にしおらしいところを見せるのは、汚いよな」
二人は嫌がるでもなく、僕のもの、お互いの顔を舐め始めた。
1001 :
1001: