萎淫鬱怨苛牙潰傲挫塞斬恣嫉呪凄嘲妬貪罵蔑冥闇拉慄。
呪文のような漢字群を見ていると、荒涼とした心象風景が広がってくる。まるで、今の世相が映し出されるかのように。
どれも、常用漢字表に追加される予定の191字の中に入っている。逆に明るいイメージの漢字は、
「錦」や「爽」「鶴」「瞳」「虹」くらいしか見あたらない。
81年に当用漢字表から常用漢字表へ移行した時、こんなことはなかった。追加された95字の中に暗いイメージの
漢字は少なく、むしろ「蛍」や「猫」「朴」「癒」「悠」など心なごむ字が目につく。
作家の出久根達郎さんは文化審議会国語分科会の漢字小委員会で委員を務めている。「審議の最中は気づき
ませんでしたが、本当に暗い漢字が多い。拉致の『拉』もあり、現代を象徴しています。私たちが日常よく目にする
字が常用漢字になるのでしょう」
小委員会で「鯨」が「鯉(こい)」と「鯛(たい)」を逆転した話が出たことがある。戦時中の標準漢字表では「鯉」と「鯛」が
常用漢字で、「鯨」はその下の準常用漢字。戦後、食生活の変化などを反映したのか、「鯨」は当用漢字、常用漢字
になり、「鯉」と「鯛」は消えてしまう。漢字は、人の世を映し出す鏡なのだろう。
新常用漢字表(仮称)の試案では「一般社会においてよく使われている漢字」が字種選びの基準になった。
小委員会は5回の漢字出現頻度数調査で3506字を選び出し、1字ずつ検討した。書籍などから拾い上げられた
漢字は全部で約14億5千万字。
朝日新聞と読売新聞の紙面も調査の対象になった。論調は違っていても、表外漢字で出現頻度が高いのは、
1位の「藤」から7位の「狙」まで全く同じだった。
(中略)
官能的な4字の中からは結局、「淫」が常用漢字に仲間入りする。世相を表す年末恒例の「今年の漢字」に
選ばれなければよいが。
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http://www.asahi.com/edu/news/TKY200901310206.html