大塚淳子さん(日本精神保健福祉士協会常務理事)
■病院閉じ込めは社会的な「拉致」
―精神障害者が地域に戻れるようになるには、何が必要でしょうか。
グループホームやケアホームをはじめ、生活や就労、憩いの場などの受け入れ基盤の整備ですね。
ただ、こうした受け入れ基盤整備の前提として、国や都道府県がきちんと財源を確保することが重要になってきます。
しかし、財源を確保するための前提として、その必要性に対する国民の意識が重要です。精神障害者が病院から出て
社会で生活できるように福祉資源や環境などを整備することは、「お金がないから、やらなくていい、やれなくても仕方ない」
で済まされる問題ではありません。これは人権の問題ですから。入院して、良くなったら退院するのは当たり前の権利です。
精神障害者を病院に閉じ込めておくのは、社会的な「拉致」以外の何物でもないと思います。
―「拉致」とはどういうことでしょうか。
つまり、本人の意思にかかわらず、非日常的な空間にとどめられるということです。病院は、仕事、学校、家庭生活などの
社会生活ができない、非日常的な空間です。例えば、唐突な比較ですが、非日常的な空間の一つに刑務所があります。
ですが、そこに入るのは当人が相応の罪を犯したからであり、期間も法律できちんと定められています。
法的根拠もないのに、非日常的な空間に置かれ続けるのは、その人にとっては「拉致」というほかありません。
症状も軽くなり、外来通院で十分対応できるレベルになったのに、本人が入院している間に、
近所の人が「怖いから戻って来ないで」と言い、家族が「あんな子はうちの子じゃない」「手に負えない」
「引っ越してしまおう」などと言う実態がある。このようにして、受け入れられなくなるケースがたくさんあるのです。
家族が、社会が、コミュニティーが、「帰って来るな」と言う。何の法的根拠もないのに、
社会が本人の権利に関する決定をしているのです。こんな現実が、日本で何万もあるのです。
精神障害者の病院閉じ込めが人権侵害の問題だということをきちんと認識し、
確実に地域生活へ戻れるようにしなければならないと思います。(抜粋)
全文:
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/19278.html