冬支度が始まった青森県三戸(さんのへ)町の商店街。昭和の面影が残る一角に「きんか堂」はある。
見過ごしそうな小さな店を、相内(あいない)トミエさん(83)は一人で切り盛りしている。
名物は郷土菓子「きんか餅」。すいとん粉を練った餅にクルミとゴマ、黒糖を混ぜたあめをはさんでゆでる。
しょっぱさと甘さが融合した素朴な味。「おばあちゃん、一人で?」。驚く客に「おらほのとこは、ばば
一人でやってるの」と、腰をしゃんと伸ばして胸を張る。
家計の助けにと餅作りを始めて23年。最初の15年はリヤカーで売り歩き、8年前念願の店を持った。
今は孫の学費を稼ぐ。餅は1個100円。冷めてもプルンプルン。「作り方? 企業秘密」といたずらっぽく笑った。
月2万円の店の家賃などを考えると、眠れない夜もある。そんな時は、明日はもっと頑張ろうと布団をかぶる。
「くよくよしたって仕方ない。食べるためには働かなきゃ」
「店を続けるのは緩くない(楽じゃない)」。4キロの小豆が入った大鍋を節くれ立った手で混ぜながらポツリ。
そして続けた。「金持ち、なりたかったなあ。何十年も働きづめ。1年ぐらいゴロゴロしたいねえ……。
でも、やりたいことやったから。悔いはないよ」【喜浦遊】
息苦しさの増す社会。泣いて笑って懸命に生きる人たちの姿、心温まる話題をお届けします。
毎日新聞 2008年10月1日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20081001ddm041070008000c.html 依頼所83