「必ず償います」と言ったきり音沙汰無しの少年犯に、ある日突然5000万の請求が届いた

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1 住居喪失不安定就労者(福島県)
前回、交通死亡事故を起こした少年を保護観察に付するに際し、私が担当裁判官だったら
「保護司が毎月少年を連れて被害者宅を訪れ、お線香を上げさせていただく」ように処遇勧告を行うと述べた。

こういう手当を怠ると、次のようなことが起こりがちである。
事故直後に母親と二人で被害者宅で仏壇に手を合わせたとき、
「働いてお金が入るようになりましたら、改めて連絡させていただきます」と言い残して辞去していた。

しかし、少年院送りを免れ、保護観察になってから、いろんな職種をつまみ食いした結果
「一生この仕事をやりたい」と思う「定職」に恵まれるまで「あっという間」に3年がたった。
その間一度もお詣りに行っていないし、連絡もしていなかった。

するとある日突然、簡易裁判所から「調停期日呼び出し状」が届いた。問い合わせてみると
「少年が働いていることが分かったので、賠償金5000万円を支払うとの調停を求める」との
申し立てがあったとのこと。手取り25万円の賃金で貯金もない。毎月5万円かそこらの
支払いが精いっぱいである。

どういう対応をすればよいのか、弁護士会の無料法律相談を受けに行った。
「赤信号無視という不法行為による損害賠償債務は、3年の消滅時効に掛っているが、時効を援用して
支払いを拒絶するか、援用せずに、金額・支払い方法を話し合うかは、まったくあなたの自由意思です。
時効を援用するが、お見舞金として多少のお支払い(例えば月3万円を5年間)なら応じたいという
微妙な言い回しもあります。時効に触れずに金額などの話し合いに入ると、『債務の承認』となり、
時効が中断しますので、良く気を付けてください」などと懇切な説明を受けた。

そこで、調停期日に出掛け、「一応時効と聞いたのですが…」と、恐る恐る切り出したが、
先方には弁護士が付いていて、「働き始めたらすぐ連絡するとの約束を守らなかった人間には
時効を援用する資格がない(=権利の濫用)」と、こっぴどくしかられた。時効援用の許否で
本裁判をすると結構長引くので、それはしばらく脇において、中身の話し合いを行った。
毎月5万円を20年間支払う(総額1200万円)というところに落ち着いた。
そういう結果で少年は心から納得できた。(弁護士、元家裁判事)