東京・秋葉原の無差別殺傷事件で、トラックにはねられた被害者を介抱している最中にナイフで刺され、
九死に一生を得た国際自動車のタクシー運転手湯浅洋さん(54)=東京都江東区=が、朝日新聞記者の取材に応じた。
湯浅さんは、男に刺された瞬間の激痛、そばの警察官が襲われた時の様子を生々しく語った。
(中略)
約2カ月前、勤め先で救命講習を受けたばかりだった。「自分に助けられる命であれば」。タクシーを降り、倒れていた男性に駆け寄った。
顔はパンパンに腫れ、血だらけだった。自分より年上に見えた。そばにいた女性に「頭を打っている。動かさないほうがいい。ほかの人を助けにいこう」と言って立ち上がった。
その瞬間、男がドンとぶつかった。「痛い」。男を目で追うと、警察官をたたいているように見えた。この男が加藤智大容疑者(25)=殺人容疑で逮捕=だと後に知る。
右脇腹が熱いように感じた。手で触るとべっとりと血のりがついた。「切られている」。会社の制服がみるみるうちに真っ赤に染まる。立っている力がなくなり、そのまま倒れた。
救急車に乗せられた。現場に居合わせた消防団員の「もう少しで病院だ。がんばって」という声を最後に気を失った。
意識が戻ったのは4日後だった。加藤容疑者のナイフが肺を破って横隔膜や肝臓に達し、4時間の手術を受けたと聞かされた。
「ショックが大きすぎて、事件に遭った実感も、加藤容疑者への怒りもわかない。むしろ彼が家族にも友人にも理解されなかったというなら、かわいそうにさえ思える」
(中略)
湯浅さんは宮崎市出身で、高卒後に上京。ホテルの料理人を10年務め、飲食店経営に乗り出したが、数年で失敗。トラック運転手を経てタクシー運転手になった。
加藤容疑者の実情は報道などで知った。「私も店を失敗したけれど、勝ち組、負け組なんてどうでもいい。人に迷惑をかけずに生きていればいいことはある。私はそう信じて生きてきました」
http://www.asahi.com/national/update/0626/TKY200806260294.html