◇マザー・テレサと面会、生き方に感動−−東京・台東区で休診日の木曜日
横浜市鶴見区の「小原クリニック」の小原博院長(59)は16年間、東京・台東区
で路上生活者らへの診療奉仕を続けている。かつては「山谷」と呼ばれた日雇い労働者
の多い街。「しがない医師だが、誰かの役に立てば」と患者と向き合う。
「朝めし、食べてきたの」「いや。腹がへっちゃって」
12日午前10時半、小原さんは最初の患者に声をかける。69歳の男性で「今年3
月から『青かん』(路上生活)を始めた」と身の上を話し始めた。中卒後に九州から上
京し、アイロンがけの仕事をしてきた。2年前に工場が倒産し、建築現場で働いてきた
という。
「マザー・テレサに会いにインドまで行ったのが、奉仕活動のきっかけに」
小原さんは横浜市立大医学部時代、クリスチャンになった。貧しい人々の救済に生涯
をささげた修道女で79年にノーベル平和賞を受賞したテレサと16年前に会い、その
生き方に感動し、帰国後、休診日の木曜日に奉仕活動を始めた。
診療所は2階建てビルの1階で、NPO法人「山友会」が運営する。6畳ほどで、米
国人女性、リタ・ボルジーさん(56)が血圧測定や投薬を手伝う。
午後2時半までに7人を診断した。数人の医師が日替わりで奉仕する。07年度の受
診は4292人で、高血圧症や皮膚疾患が多い。高齢化、健康悪化が目立つ。
診療所の片隅に小さな仏壇。今月が命日の元患者6人のカラー写真が飾られている。
リタさんは「ある患者が『おれのこと、忘れないで』と言い残して死んだ。約160人
の名簿があり、毎月供養している」と話す。
今春、初孫ができた小原さんは「私だって外科医で挫折した経験がある。患者にはお
説教をせず、まず話を聞いてあげる。路上生活からの脱出の手助けができたら、と願っ
ている」と静かに語った。【網谷利一郎】
http://mainichi.jp/area/kanagawa/news/20080613ddlk14040278000c.html