健康長寿県の福井。2020年には人口の3割が65歳以上になるといい、
介護職の需要は高まる一方だ。人手不足が叫ばれる訪問介護の現場に向かった。
「待ってたよ」。光陽ホームヘルパーステーション(福井市)の山崎光子さん(64)に同行し同市内のアパートに着くと、
利用者の女性(69)がうれしそうに電動ベッドから身を起こした。
女性は脳梗塞(のうこうそく)を患って以来、手足にしびれが残る。買い物に付き添い、2日分の食事を作るのが仕事だ。
初めて車いすを介助した。予想よりずっと重い。わずかな傾斜で車体がぶれるので腕や腰が痛み出した。
猛スピードで通り過ぎる車に脅威を感じる。自分の目線より低いところの物が女性の顔に当たらないよう注意した。
「トマトがおいしそう」「おせんべい食べたい」。近くのスーパーに着くと女性の声が弾んだが、予算に比べて野菜や総菜はどれも高い。
原材料費の高騰は、わずかな年金でやりくりするお年寄りを直撃している。
帰り道。女性は珍しい花を見つけるたびに止まってほしいと頼んだ。「普段は家にこもってばかりだから外に出られてうれしい」。屈託ない笑顔に腰の痛みは吹き飛んだ。
次に訪れたのは1人暮らしの男性(93)宅。初めは新顔にいぶかしげな表情だったが、
室内をそうじしていると、引き出しから時計をたくさん引っ張り出して見せてくれた。
「中国製のねじ式だよ」。戦争や趣味の釣りの話がとうとうとあふれ出す。「若い人に聞いてもらってうれしいのよ」と山崎さん。別れ際、男性は何度もおじぎしてくれた。
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「訪問介護は個人の生活の一部を預かる仕事」。山崎さんは1日平均5軒の訪問を週5回こなす。仕事の重さに比べて収入が少なく、
どの事業所にも若いなり手が集まらない。それでも、山崎さんは「気疲れすることも多いけど『ありがとう』のひと言に励まされています」と前向きだ。
県内385の介護事業所を対象とした県の調査で77%が「人員不足だと感じている」と答えている。
訪問介護の事業所では特に不足感が高く、平均4・5人の増員希望があった。職員の約7割が非常勤のため離職率の高さが一因とみられる。
各事業所が聞き取りした離職理由は、健康の悪化や職場での人間関係、賃金の不満などが多く、健康面では腰痛の割合が高い。
採用状況も悪化し、全体の75%が「昨年より厳しい」と答えた。
介護人材の確保のための方針づくりに向け、昨年秋に調査した県長寿福祉課は「賃金や労働環境の改善を事業者に促していく」としている。
http://www.chunichi.co.jp/article/fukui/20080430/CK2008043002007565.html?ref=rank --
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