奥州市胆沢区の塗り師及川守男さん(64)は、「平泉文化遺産」の世界遺産登録を見据え、
奥州藤原氏時代に使われたとされる秀衡椀(わん)を復活させた。現存する秀衡椀は少なく、
及川さんは写真から図案化。県産の漆を薄く何度も重ねて塗るなど、当時の形、色合いをできる限り再現した。
「奥州藤原氏は漆の文化でもある。漆文化の原点に戻り、全国に発信したい」と心を込める。
及川さんは漆器産業が盛んだった奥州市衣川区増沢地区の出身。平泉文化遺産の世界遺産登録への動きを知り、
「漆文化の原点に戻りたい」と制作を決意した。制作には、衣川区や平泉町、花巻市の職人のほか、及川さん
宅の作業場で塗りを勉強する地元の愛好家らも加わった。
2007年春から作業を開始。漆はすべて浄法寺産にこだわるなど、材料費に自己資金約100万円を投入した。
秀衡椀の写真を県工業技術センター(盛岡市)で図案化してもらい、木地にはトチやケヤキを使った。
漆は7―10日間隔で、薄く通常の3倍ほど重ねた。秀衡椀に関する文献も少ないため、当時の色合いを出すことに苦労したという。
完成品は約80組。現在の漆器は中国産など海外の漆が混ぜられていることが多く、すべて県産の漆を使うのは珍しい。
制作した工芸品販売店長高橋綾子さん(47)=奥州市水沢区久田=は「県産漆は強く、多少かぶれたが、さらさらして使いやすい。
歴史を感じる。完成したお椀を大切に使っていきたい」と話す。
及川さんは「椀によって、職人の心を伝えていきたい。岩手の漆の良さを全国に発信したい」と出来栄えに満足そうだ。
今後は、完成品の展示会や作ったメンバーで秀衡椀を使っての食事会などを予定している。数に限りはあるが、販売も受け付ける。
価格は1セット5万円前後。希望者は、及川さんへ。
秀衡椀とは 椀の丸みが特徴で、ご飯、吸い物、おかずの三ツ椀。金色堂造営の際に、京の工人が作ったという言い伝えが残されている。
漆を重ねて塗ることにより、数100年使える丈夫さが生まれる。
金箔で有職菱紋が描かれている。
【写真=及川守男さんが仕上げた秀衡椀。長年使えるよう県産の漆を何度も重ねて塗った】
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