前回紹介したイギリス人教師フレデリック・ストレンジのことばを、私が今ほど熱心に読んだ
ことはない。そう、あの一連のプロ野球側からのアマチュア野球への不純な接触が、明るみに
出たのがきっかけだ。
ストレンジ先生は英国流スポーツマンシップを説き、アメリカ人教師ホーレス・ウィルソンが
教えるベースボールにフェアネスの魂を吹き込んだ。時は明治初期、現在の東大のルーツ校での話しだ。
どちらか一人が欠けていても、日本野球は今のようにはなっていなかったのはたしか。
ストレンジ先生は日本で最初の運動競技の本「OUTDOOR GAMES」(アウトドア・
ゲームズ=戸外遊戯)を丸善書店から出したりもした。定価は二十五銭。これはのちに下村泰大
の編で「西洋戸外遊戯法」とされて、さらに多くの人の読まれるところとなった。この中で、
ベースボールは「打球おにごっこ」として紹介されている。
当時、ストレンジから直接教えを受けた武田千代三郎(秋田、山梨、山口、青森の知事や大阪高
商校長などを歴任)が記録するところ、スポーツの目的が先生から明確に告げられている。
運動行事に関してストレンジ先生が作った規則は、いってみれば日本ではじめてのスポーツ・
ルール。そのいくつかを前回に書いたが、まだまだ貴重なものがほかにもあった。現在のことば
になおして書いてみると、こんな内容だ。
「賞品は記念品のみにせよ」
「克己、節制、制欲、忍耐、勇敢、沈着、敏活、機知縦横、明快にして気宇壮大。これらの
気質特性こそ、天がスポーツマンに与える最高の賞品ではないか」
「勝負の結果はどうあろうと、威容を正しくして品格を重んじ、巷の売技の徒と同一視される
ことのないように」―――との注意も忘れなかった。
「巷の売技の徒」とは、いまでいえばプロの世界の人たちのこと。もちろん、当時はまだ
プロ野球はなかったが、ショー的なプロはさまざまにあったのだろう。
今回、アマチュア野球の世界にも、ビジネスの論理オンリーのプロからの強風が吹き荒れて、
とんでもないことになったが、泉下のストレンジ先生、この騒ぎをどう見ておられることか。
http://www2.asahi.com/koshien/column/kyuon/TKY200704240315.html