'A`     げつようび にゅうしゃしき・・・

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1 噺家(長屋)
4月1日付・編集手帳

 このほど現代短歌新人賞に選ばれた松村由利子さんは昨年まで新聞記者をしておられた方で、
会社勤めの日常を詠んだ歌も少なくない。「大きなる鍋の一つか会社とは煮崩れぬよう背筋を伸ばす」
◆受賞の歌集「鳥女」(本阿弥書店)に収められている。知らず知らずのうちに自分というものを見失っていく。
それが煮崩れだろう。「大きなる鍋」は新聞社に限るまい。
◆料理では煮崩れしないように「面取り」といって、切った野菜の角を薄くそぎとる。肩ひじ張って
角張ってばかりもいられず、さりとて丸くなりすぎても困り、会社という鍋は面取りの加減がむずかしい。
◆電力会社は保身大事で安全を忘れ、洋菓子メーカーは効率大事で清潔を忘れ、テレビ局は視聴率大事で
視聴者を忘れ、この1年ほど、企業人の良心が無残に煮崩れた料理ばかりを食べてきた気がする。
◆あすは多くの会社で入社式が行われ、新社会人が巣立っていく。「団塊の世代」が大量に退職していくなかで、
“鍋社会”伝統の風味を変えもし、作りもする力を秘めた人たちだろう。いい味に、と祈る。
◆鍋の中で背筋を伸ばしつづけるのも、それはそれで疲れるもので、歌人、岡野弘彦さんの一首も忘れがたい。
「人はみな悲しみの器。頭を垂りて心ただよふ夜の電車に」。ときには、そういう夜もあるだろう。

YOMIURI ONLINE(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070331ig15.htm