中越地震とともに生きた盲導犬クララ、引退
中村さんは24歳で完全に失明した。6年前に母親が亡くなって以来ずっと一人暮らしだ。
クララはメスのラブラドルレトリーバー。9年半前に中村さんと出会い、中越地震で盲導犬として避難所に入った。
だが、すでに11歳。足腰の衰えや白内障が進んだため、引退が決まった。
盲導犬は役目を終えると、パートナーのもとを離れなければならない。クララは22日、新潟市のボランティアに引き取られた。
一人きりの夜――。いつもなら、縁側で寝そべっているクララはもういない。中村さんは涙を浮かべながら「点筆」を執った。
《6月22日、クララが引退した。胸にぽっかりと穴が開いたようだ》
別れの時、さみしさをぐっとこらえた。「笑顔で送り出そう」と決めていたからだ。
でも、クララが旅立つ車のドアが閉まる音を聞くと、目から熱いものがあふれた。
あの日、激震が小国を襲った。亡き兄が残した家の瓦は壊れ、土壁も崩れ落ちた。
おびえる中村さんを安全な場所に誘導したのがクララだった。避難所での2週間も、
鳴き声一つ上げずに中村さんのもとに寄り添った。2年続いた豪雪でも、クララがそばにいることが何よりも励みだった。
思い出すと、やっぱり泣いてしまった。
「でも」。中村さんはハンカチで目をぬぐった。「きっとクララもつらいはず。だから、ふさいでちゃいけない」
日記は続いた。
《あの子も頑張っている。メソメソしていられない。私も頑張ろう》
自宅2階の土壁は、いまだはがれたままだ。だが、中村さんはこの春、自宅で鍼灸(しんきゅう)師の仕事を本格的に再開し、
次第に地震前の生活を取り戻しつつある。
「目が見えない私に、クララは何でもがんばれる勇気をくれた」。日記の最後は《ありがとう》で締めくくった。
24日、新たな盲導犬との暮らしが始まった。名前はペギー。クララと同じ、ラブラドルレトリーバーだ。
http://www.asahi.com/national/update/0628/TKY200606280181.html クララさんです↓
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