【歴史】戦艦長門沈没からまもなく60周年

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364番組の途中ですが名無しです
目覚めると知らない部屋にいた。
僕は横になっている。
なんだ、ここは………。
いったい僕はどうしたんだ?
何があったんだっけ?
誰かが僕の手に触れている感覚。
朦朧としたまま、僕は上半身を起こす。
手にあった感覚は消えた。
僕はベッドの上にいるようだ。
部屋は薄暗い。
「あ……」
長門さんだ。
長門さんが僕の側にいる。
椅子に座って、僕を見つめている。
「………長門さん」僕は呟く。
なんだ、この状況は……?
長門さんの表情を読む。
あ、今、微笑んだような。
気のせいかな。
その瞬間、僕は思い出す。
365番組の途中ですが名無しです:2006/06/05(月) 00:33:28 ID:M+pvTBvA0 BE:44000429-#
「あ、……な、長門さん! ぼ、僕は……」
まだ記憶が混乱していた。
僕は確か川に落ちて……。それから……、いや、その前は………。
「落ち着いて」長門さんは言った。
「でも」
僕は慌ててベッドから出ようとする。
「あなた、裸」
「え………、うわっ!」
確かに僕は全裸で寝かされていた。
慌てて布団をかけ直す。
「落ち着いた?」長門さんはきく。優しい口調だった。
「うん…」
「思い出せる?」
「ええと、僕は川に落ちたはずで…、えっと………」
「でも、自力ではい上がった。その後は、ぐったりしていた。たぶん疲れのせい」
「………」
「そしてここに運ばれた」
「そうか………」僕はようやく理解する。「ごめん、長門さん」
「私には謝らなくていい」
「でも…」
長門さんは音もなく立ち上がると、その部屋から出て行く。
スライド式のドアだった。
そうだ、ここは病室だ。僕はようやく気づいた。
366番組の途中ですが名無しです:2006/06/05(月) 00:34:29 ID:k23086jJ0
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367番組の途中ですが名無しです:2006/06/05(月) 00:34:39 ID:M+pvTBvA0 BE:87998966-#
長門さんはすぐに戻ってきた。
でも、部屋に入ってきたのは長門さんだけではない。
「やあ……」
苦笑して現れたのは、白衣の男だ。医者だろう。
さらに、女性が現れる。男と同年代風の看護婦である。
看護婦はバスケットを持っていた。
「あなたは……」僕は男の顔に見覚えがあった。
あのとき、長門さんと一緒にいた男だ。
「彼らは、この子をもらってくれた人」
長門さんは言った。
看護婦は僕の視線までかがみ込むと、バスケットのふたを開ける。
「本当は病室に連れてきてはいけないからね、みんなには内緒だよ」
男は唇に指を当てて苦笑する。
バスケットの中に入っていたのは、犬だった。
茶色い毛並みの、子犬だ。
「あの、これって……?」
僕には意味がさっぱりわからなかった。
368番組の途中ですが名無しです:2006/06/05(月) 00:35:18 ID:M+pvTBvA0 BE:97776858-#
長門さんは全部説明してくれた。
一週間前、長門さんはこの子犬を拾った。
しかし、長門さんのマンションでは、ペットは飼えない。
そこで、彼女は子犬の里親を捜していたのだという。
「それで、この人たちがもらってくれることになったんだね?」
「そう」長門さんは頷いた。
「でも………」
それにしては、あの男と長門さんは、ずいぶん馴れ馴れしくしていた気もするけど…。
「あなたの言いたいことはわかる」長門さんは言う。
「私は、彼らが本当に里親として相応しいか、試していた」
「試していた?」
「そう。川原で長く話していたのは、そのせい。本当に信用できる人か見極めるまでには、時間が必要だった」
そうだったのか………。
「だから………、あなたの心配しているようなことはないから、大丈夫」
「えっ?」意外なひと言に、僕は驚いた。「長門さん?」
「安心して」
それっきり、長門さんは何も言わなかった。
369番組の途中ですが名無しです:2006/06/05(月) 00:36:01 ID:M+pvTBvA0 BE:29333243-#
それから一時間もしないうちに、僕は退院と相成った。
僕はこの診療所の医師である、子犬のもらい主に、深々と詫びた。
まったく、自分の早とちりでとんだ迷惑をかけてしまった。
医者は、僕を快く許してくれただけでなく、服まで貸してくれた。
本当に、お礼のしようもないほど、世話になってしまったな…。
時計を見てみると、川に落ちてから二時間しか経っていない。
うーん、大したことはなかったんだな………。

僕と長門さんは、並んで家路を急いでいた。
ふたりの間に、会話はなかった。
僕は長門さんのことを妙に意識してしまい、うまく話しかけられない。
長門さんが無口なのはいつものことだけれど………。
「ごめんなさい」長門さんが急に言った。
「えっ?」
「私が最初からあなたに話していれば、こんなことにはならなかった」
「そんなことないよ。悪いのは僕の方。勝手な思いこみで、早とちりして……」
僕は長門さんに向き直って、頭を下げた。
「ごめんなさい、長門さん」
長門さんは僕の頭に手を乗せた。
370番組の途中ですが名無しです:2006/06/05(月) 00:36:51 ID:M+pvTBvA0 BE:102665467-#
「あ……」
「顔を上げて」
「う、うん」
僕が頭を上げると、長門さんの顔がすぐ目の前にあった。
「な、長門さん………」
「……これからは、あなたに頼るかもしれない」
「ああ、もう、なんでも頼ってよ。どんなことでもいいさ。ふたりなら、きっと、できないことなんてないから」
「………ありがとう」
長門さんの頬が少し赤らんだような気がする。
いや、見間違えるものか。
長門さんは歩き始める。
僕はその後を追う。
「そうだ長門さん。明日、お医者さんに服を返しに行った後、どこかへ行かない? また本屋さんに行こうか、隣駅の…」
長門さんはふり向く。
「今度は、もっと遠くへ行きたい」
「ああ、そうだね」僕は微笑んだ。
そして僕らは歩き続ける。
歩いていける。
ずっと、どこまでも。