【歴史】戦艦長門沈没からまもなく60周年

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338番組の途中ですが名無しです
最近、あまり長門さんと会わない。
といっても、僕も長門さんも、ちゃんと学校へは来ている。
顔を合わせれば、挨拶だってする。
でも、放課後になると、長門さんはすぐにいなくなってしまうのだ。
そんな日が、もう一週間も続いている。
いったい、長門さんはどこへ行っているのだろう?
そういえば、普段から言葉数の少ない長門さんだけど、ここ一週間は特に無口だ。
ちょっと元気が無いようにも見える。
ひょっとして、悩みでもあるのかな………?

その日、僕は思いきって長門さんにきいてみることにした。
放課後になってすぐ、僕は長門さんの席へ急ぐ。
長門さんはすでに鞄を持って、帰ろうとしていたところだった。
「あの、長門さん……」
「…………」
長門さんは無言で僕を見つめる。
その瞳はいつもよりも饒舌だった。僕にはそれがわかる。
長門さんは戸惑っている。僕が話しかけたことに対して。
それでも僕は、あえて気づかないふりをして言った。
「えっとさ……、今日、暇じゃないかな? どこかに遊びに行かない?」
「………」
「ほ、ほら、また本屋さんにでも行こうか? 荷物なら全部僕が持つから…」
「…ごめんなさい」
ある程度予想はしていたが、実際に長門さんの声を聞くと、結構こたえる。
339番組の途中ですが名無しです:2006/06/04(日) 04:25:45 ID:gjbApJga0 BE:58665683-#
長門さんは表情を変えずに続けた。
「これから用事があるから」
「用事って?」
「………」
「あ、いや、言わなくてもいいよ。うん、それなら仕方ない」
僕は無理して笑みを作った。
「………明日」長門さんはぽつりと呟く。
「え?」
「明日以降なら、たぶん、大丈夫」
「え……、ああ、そうなんだ。……そっか、楽しみにしているよ」
長門さんは頷き、僕の前から去っていく。
そして、教室の出口へ。
これで良かったんだ。
明日から長門さんは元通り。
だぶん………、いや、絶対に。
きっと…………。
……それでも僕は、
去っていく長門さんの背中を見ていると、どうにも居たたまれなくなっていた。
「長門さん!」
クラスに残っていた人全員が僕の方を向くほどの声量だった。
長門さんも僕をふり向く。
僕は言った。
「長門さん、……僕は、ひとりで背負い込まなくてもいいと思う」
しばらくの間があった。誰も、何も言わない。
「ありがとう」
長門さんはそれだけ言って、今度こそ教室を去っていった。
長門さんのいなくなった教室で、僕は自分に言い聞かす。
これで良かったんだ。
これ以上、僕にできることはないから……。
340番組の途中ですが名無しです:2006/06/04(日) 04:26:37 ID:gjbApJga0 BE:117331586-#
それでも、僕は胸騒ぎを抑えることができなかった。
いったい長門さんはなにをしている?
用事ってなんだ?
家に帰ってからも、ずっとそんなことばかり考えていた。
そして夕方。
僕は家を飛び出し、長門さんのうちへ向かっていた。

長門さんのうちはマンションの一室である。
前に一度だけ訪れたことがあった。
玄関でインターフォンで部屋主の許可を得ないと、建物に入ることができないタイプだった。
僕はパネルで長門さんの部屋番号を押す。
誰も出ない。
長門さんのうちは、家族そろって誰もいないということだ。
玄関脇には管理人室らしい小部屋があったけれど、窓口の扉は閉められている。
不在のようだ。
どっちにしろ、長門さんはここにはいないのだから、用はなかった。
僕はマンションを後にする。
341番組の途中ですが名無しです:2006/06/04(日) 04:27:53 ID:gjbApJga0 BE:39111528-#
僕は遠回りをして家に帰ることにした。
歩きながら、自分の行動を分析する。
まったく、無謀と言っていいだろう。
長門さんがどこにいるのかもわからないのに、家を飛び出して……。
長門さんがなにをしているのかさえ、僕は知らないんだ。
運良くみつけることができたとしても、長門さんに迷惑をかけるだけかもしれない。
その可能性のほうが大きい。
「あーあ………」
僕は溜息をついた。
何やってんだろ、僕………。

道を折れ、川原の土手を降りる。
混沌とした気分だったから、水辺の爽やかな空気が恋しかった。
昔の青春ドラマに出てきそうな河川敷がいちめんに広がっていた。
空はもう、鮮やかなオレンジ色だ。
岸辺まで近づく。
岸はコンクリートで固められていて、水面までの距離は二メートルといったところだろうか。
水深は良くわからない。少なくとも、すぐに底が見えるほど浅くはない。
流れもそれなりにある。
鉄橋を電車が渡る騒音が聞こえる。
そういえば、あの電車に乗って、長門さんと隣町まで行ったんだっけ。
………ああ、僕はいつも長門さんのことばかり考えているな。
僕はひとりで苦笑した。
そのとき、僕はの目は信じられないものをとらえた。
342番組の途中ですが名無しです:2006/06/04(日) 04:28:38 ID:gjbApJga0 BE:102665467-#
「え………?」
一瞬、息ができないほどに驚いた。
僕が見たのは、
セーラー服の背中。
それは、間違いなく長門さんだ。
そして……、長門さんと向き合っている、男の人。
誰だ?
僕の知らない人だ。
見た感じだと、二十代後半から三十くらいか?
ラフな格好。
そのふたりが、岸辺に立っている。
僕の姿は、男の方からは見えるだろう。気にしていないようだけど……。
でも、長門さんからは見えない。
………僕はどうすればいい?
考えるよりも先に、僕はふたりに向かって歩き出していた。
あの男は誰だろう?
わからない、わからない………。
ふたりは何か話しているようである。
でも、聞こえない。
いったい、なぜ、長門さんは僕に言ってくれなかったのか………!
誰だよ、あいつ!
ちくしょう!
僕は、長門さんが………。
………ああ、もう支離滅裂だ。
思考になっていない。
今の僕は危険だ。
343番組の途中ですが名無しです:2006/06/04(日) 04:29:53 ID:gjbApJga0 BE:14667023-#
僕はもう長門さんのすぐ後ろにまで来ていた。
「じゃあ、これを………」
長門さんはそう言って、なにかを男へ手渡す。
箱というか、バスケットのようなものだった。
「ありがとう」男は微笑んだ。
男がそれを受け取り、長門さんから少し離れる。
その隙に、僕は地面を蹴って、長門さんの前へ立ちはだかった。
「君は………?」
男が驚いた顔をする。
「あんた、長門さんのなんなんだよ!」僕は叫んだ。
「はあ……」男は驚きを苦笑へ変えた。「なんというべきか……」
「とぼけるなっ!」
僕は拳を握って、男に躍りかかった。
しかし、一度も人を殴ったことなどない僕だ、直線的な一発は軽くかわされてしまう。
僕は護岸コンクリートのぎりぎりで足を踏ん張り、方向転換して、もう一度突っ込んでやろうとした。
……したのだが、
不運にもその場所にはこけが茂っていた。
僕の足は滑り、慣性のまま、身体は投げ出される。
川へと………。
344番組の途中ですが名無しです:2006/06/04(日) 04:30:27 ID:gjbApJga0 BE:58665964-#
「あ………」
……嘘だろ?
黄昏れた空が見えた。
空の下には長門さんがいた。
今まで見たことのないほどの、表情豊かな顔。
悲しそうな顔。
ああ、僕は、そんな顔をして欲しくなくて、頑張ったつもりなんだけど……。
なんというざまだろう。
ごめんなさい、長門さん。
長門さんは必死に手を伸ばしている。
僕も手を伸ばす。
けれど、漫画のようにうまくはいかない。
ふたりの手は、触れあうことはなく、
僕の身体は、そのまま水の中へと落ちていった。


つづく