安比奈のなないろディップスイッチ晒しスレ15【酋長】

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820名無しさん@ゴーゴーゴーゴー!
ウルトラ・スーパー・デラックスマンZERO

 トリステイン王国、トリステイン魔法学院のとある一室。
 部屋のドアには、『待機室』と、この国の言語で書かれたプレートが貼られている。
「あー、つまらん! 事件はどうした、事件は! まったく、この世から悪が消えてしまったとでも言うのか!」
 ソファーに寝転がったまま、部屋の主の中年男……句楽兼人は吐き捨てた。
「おーい、メイド!」
「は、はい、只今!」
 あわてて駆けてくる音、続いてドアをノックする音が聞こえてきた。
「シ、シエスタでございます」
「帰る! 給料が出てたら持ってきてくれ」
 シエスタはあわてて学院の経理担当のところへ行き、すぐに給料袋を持って戻ってきた。
「お、お、お給料でございます……」
 シエスタは句楽に給料袋を差し出すが、明らかに脅えていて近寄ろうとしない。
「そんなに遠くにいちゃ、取れんだろうが!」
「も、申し訳、ありません」
 シエスタは腰が引けたまま、句楽におずおずと近づいていく。
「ほら! 早くよこしなさい」
 句楽は給料袋をひったくるように受け取った。
「じゃ、今日はこれで帰らせてもらうよ」
 鞄をわしづかみにして、部屋を出ていこうとすると、
「ミスタ・クラク、今日は健康診断が……」
 シエスタが呼び止めて言った。
「この僕に健康診断なんかいると思う? 君が受けときなさい」
「と、とんだ失礼を申しました!!」
 シエスタは、必死に何度も頭を下げた。
「それじゃ!」
「お、お疲れ様でございました!」
 シエスタに見送られ、句楽は部屋を出た。
821名無しさん@ゴーゴーゴーゴー!:2010/07/16(金) 20:05:32 ID:/EGCaxz+0
「きゃあっ!」
「クラク・ケント!?」
 顔を見るなり、生徒や教師、使用人たちはみんな逃げるように去っていったり、物陰や部屋に隠れたりした。
「ふん、どいつもこいつも!」
 不機嫌そうに歩いている句楽にその時、
「あいたっ!」
 歩いてきた誰かがぶつかった。
「ミ、ミスタ・クラク!」
 コルベールだった。
「……どこ見て歩いてんの?」
「 ……す、すまない! 悪かった! 許してくれ、許してくれ……何でもするから……頼む!」
 コルベールは半泣き顔でひたすら謝る。
「悪かった。あんたをいびってもしょうがないんだ。……そうだ! あんた、今夜家に来ないか? ルイズくんも誘って」
「え? ミス・ヴァリエールも? いや、あの、その……」
「じゃあ、待ってるから」
 そう言い残して、句楽は行ってしまった。



「だめだ、無理だ! あんな化け物、君一人の力じゃどうにもならん!」
「でも召喚して、契約したのは私です! 全て私の責任です。だから、私があいつを始末します……」
 ルイズははっきりと、悲壮な覚悟で言う。
「無茶だ……」
 コルベールは途方にくれてしまった。
「ル、ルイズ! クラクが来たわよ!」
 横にいた級友、キュルケが知らせた。二人は慌てて口をつぐんだ。
「おう、二人とも、なるべく早く来いよ。待ってるからなー!」
 句楽はそれだけ言うと、悠々と去っていった。
「……どうして、どうしてこうなっちゃったのよ……ただの平民だと思ったら、あんな化け物だったなんて……」
 張り切ってはみたが、いざ、その『化け物』の姿を目の当たりにすると、決心がぐらつくのをルイズは抑え切れなかった。
822名無しさん@ゴーゴーゴーゴー!:2010/07/16(金) 20:06:43 ID:/EGCaxz+0
 あたり一帯は戦争直後のような、焼跡だった。周囲の草木は焼け落ち、人の気配は全くしない。
「……」
「……」
 コルベールとルイズは焼け跡に残った道を、句楽の家に向かって歩いている。二人は全く口を開こうとしない。
「ちょっとちょっと、どこ行くんです? この辺りは何もないですよ」
 後ろから、馬に乗ったパトロール中の兵士が声を駆けてきた。
「クラクの家に行くところなんです。あいつに呼ばれて……」
 コルベールが答えた。
「クラク!? お、お気をつけて……」
 兵士は唖然としたまま、二人を見送った。
 すでに日没が過ぎ、あたりは薄暗くなってきていた。二人は足を速めた。
「早く行かないと、あいつ、機嫌悪くなるぞ」
「急がないと……!? ミスタ・コルベール! あ、あれ見て下さい!!」
「!!」
 空から何かが飛んでくる。人のようだ。
「こっちに向かってくるぞ!」
 空を飛んで来た人物は、二人の前に降りてきた。
「私の名はウルトラ・スーパー・デラックスマン。困っている人、弱い人を助けるため、日夜働いているのです」
 ウルトラ・スーパー・デラックスマンと名乗ったその男は、貴族のものとは違うマントを羽織っていた。
 さらに戦闘服らしきものも着ている。
「急いでるみたいですね。どちらまで行かれますか?」
「ミスタ・クラクのお宅まで……」
823名無しさん@ゴーゴーゴーゴー!:2010/07/16(金) 20:07:59 ID:/EGCaxz+0
「クラクさん? ああ、あの有名人ですね。私が連れていってあげましょう。さあ、しっかりつかまって。ハアッ!」
 ウルトラ・スーパー・デラックスマンは二人をかかえたまま、空高く舞い上がった。
 フライの魔法も使わずに、高いところを飛んでいる。この男の能力の一つだ。
「ほら、見えてきましたよ」
 見ると、クラクの家が下にあった。焼け跡の中に場違いなほどの豪邸だった。
「さあ、着地しますよ。しっかりつかまって」
 ウルトラ・スーパー・デラックスマンは高度を下げ、クラクの家の前に着地した。
「着きましたよ」
「おかげで助かりました。ありがとうございました」
 二人は礼を言った。
「いえいえ、礼には及びません。クラクさんによろしく。それでは失礼! シュワッ!!」
 彼は飛行体勢を取った。だが……。
「……なーんて、やめやめ! 実は俺の正体は……ジャーン! ご存知、句楽兼人だったのさ!」
 ウルトラ・スーパー・デラックスマンは戦闘服とマントを脱いだ。すると、普段着の句楽になった。
「驚かないの?」
「あー! びっくりした!」
「驚いたわ!」
 いかにも無理矢理に、コルベールとルイズは驚いてみせた。
「もういいよ。みんなどうせ知ってるんだろうけど、建前は守らないとね。人にしゃべったらただじゃおかないよ」
「わ、わかってますよ」
「おどかさないでよ」
 二人は応接間に通された。
824名無しさん@ゴーゴーゴーゴー!:2010/07/16(金) 20:09:44 ID:/EGCaxz+0
「お構いもできないけど、まあ、ゆっくりしてってよ。そのうち、食事が届くから」
「頼んでくれたの? 私達のために?」
「せっかく来てくれたんだから、おもてなししなくちゃって思ってね。何しろお客なんて久しぶりだから」
「仕方ないさ、何しろ君はその……ウルトラ……」
「ウルトラ・スーパー・デラックスマンか……」
「こんなこと聞いていいのかしら……クラク、どうしてなったの? そのウルトラ……に。やっぱり、ガンダールヴの力?」
「俺に聞いたって知るかよ。俺だって元は平凡なサラリーマンだったんだ。こっちに来てからこうなったんだからさ」
 サラリーマン……句楽の世界で言う労働者のことだ。
「正義感だけは人一倍強かったけどな。事件のニュースを読んだり聞いたりする度に、憤りで胸の塞がる日々を送っていた」
「そう言えば君は、あちこちの新聞に投書していた、投書マニアだったんだってな」
「それしかはけ口がなかったもんな……しかし、現実に悪を見ても、見て見ぬ振りをするしかない非力な俺だった。夢の中でだけ、俺は思う存分悪を懲らしめることができた」
 そこまで話して、句楽は一息ついた。
「それがあの日を境に、突然……」
825名無しさん@ゴーゴーゴーゴー!:2010/07/16(金) 20:11:25 ID:/EGCaxz+0



 話は召喚の儀式の日にさかのぼる。
「あんた、誰?」
 仰向けに倒れているスーツにネクタイをした中年男……句楽兼人を見下ろした形で、桃色の髪をした少女が尋ねてくる。
「!? ……こ、ここはどこだ!?」
 句楽は立ち上がり、周囲をキョロキョロと見回す。
 いつものように通勤する途中で、突然目の前が真っ白になって……後は何も覚えていない。
 気がついたらここにいた。
「……どこなんだ、ここは!? 道路は!? 駅は!?」
 句楽はオロオロするばかりだ。
「ゼロのルイズが平民を召喚したぞ!」
「しかも中年のオッサンだぜ!」
「ゼロにふさわしい使い魔だな!」
 周囲からは笑い声が起こる。
「平民? 何のこと? ……ねえ、君。ここはどこなんだい?」
 少女に句楽は尋ねた。
「君ですって!? 平民のくせに、なによその態度!」
 少女の口から出た怒りの言葉に、思わず句楽は後ずさる。
「まあいいわ、ここはトリステイン魔法学院よ」
「トリス……? なんだい、それは?」
「ミスタ・コルベール!! 召喚のやり直しをさせてください!! こんなの、使い魔じゃありません、何かの間違いです!」
 再度聞く句楽を無視して、桃色の髪の少女……ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは髪が薄い男に訴えた。
「ミス・ヴァリエール、残念ですがそれはできません。あなたも知っている通り、春の召喚の儀式は神聖なものです。やり直しは認められません」
「で、でも……」
「確かに平民を召喚したというのは前代未聞ですが、規則は規則です。彼が死なない限りは、彼はミス・ヴァリエールの使い魔です」
 取りつく島もない髪の薄い男……コルベールの言葉に、ルイズはがっくりと肩を落とした。
826名無しさん@ゴーゴーゴーゴー!:2010/07/16(金) 20:13:09 ID:/EGCaxz+0
 確かに、何度も召喚を失敗して、これがラストチャンスと通告されたのだ。もう一回やってもまず失敗するだろう。
 自分が召喚してしまった男を改めて見直す。
 年齢は、ミスタ・コルベールより少し若いぐらいだろうか。でもどこからどう見てもただの中年男、貴族には到底見えない。ましてや、メイジなど……。
 それでも、ルイズは腹を括った。
「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、一生ないんだから」
「へ!?」
 句楽が間の抜けた声を出す。
「ちょっと、屈みなさいよ」
「どうして?」
「いいから! あ、そうそう、その前に、あんた名前は?」
「く、句楽兼人……」
「クラク・ケント? 変な名前ね、まあいいわ。屈みなさい」
 句楽は言われるままに屈んだ。
「我が名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」
 屈んだ句楽に、ルイズは口付けをする。
「わ、わわわっ、き、君、何をするんだ!! 朝っぱらから、こんな人が見ている前で……」
 見知らぬ少女からの突然のキスに、句楽はパニックに陥った。
 と、同時に、句楽の左手に激しい熱と激痛が発生する。
「うわあああ! あ、熱い! 痛い! があああっ!!」
 熱と激痛はさらに、 全身へと広がった。
「痛い!! し、死ぬ、ぐはあああっ!!」
「我慢しなさい、使い魔のルーンを刻んでるだけよ」
 何かおかしい。それを、コルベールは様子を見ながら感じ取っていた。
 使い魔のルーンは身体の一部に刻まれるもの。それなのに、なぜ全身で苦しんでいるのか。
 これは何かあるのでは……期待半分、胸騒ぎ半分で一部始終を見ていた。
「はあ、はあ、はあ……な、何だ……!? 死ぬかと思った……」
827名無しさん@ゴーゴーゴーゴー!:2010/07/16(金) 20:15:42 ID:/EGCaxz+0
 ようやく激痛から解放された句楽が息を切らす。
「これで召喚の儀式は……」
「ん!? な、何だこれは……!?」
 儀式の終了を告げる声は、句楽の驚きの声に遮られた。
「何なのよ、うるさいわね」
 ルイズが眉をひそめて近寄る。
「あ、あっちの……建物の……中が見えるんだ……食堂が……あれは……図書館で……あそこは……寮か!? あそこは……」
「な、何で知ってるの!?」
 召喚された場所から見える、学院の建物の中に何があるかをズバズバと言い当てられ、ルイズを始め、コルベールも生徒一同も唖然としている。
「知ってるんじゃない、見えるんだ。建物の中が……わっ!!」
 後ずさったはずみで、つまずいて後ろに倒れ、別の生徒が呼び出した使い魔にぶつかった。
 大柄な熊だった。
 次の瞬間、熊ははるか後方に弾き飛ばされていた。
「こ、今度は何だ!? あんなでかいのを……俺、本当に……どうなっちゃったんだ!?」
 句楽は、先程とは違うパニックに陥った。
「あ、あんた一体……何者なのよ……」
 ルイズが上ずった声で聞く。
「な、何者って、俺はただの人間……」
「嘘おっしゃい! 今の力は何なのよ!」
「し、知らない。俺も何が何だかわからないんだ」
 その時、コルベールが話しかけてきた。
「ミスタ・クラクと言いましたな。ちょっと使い魔のルーンを……」
「な、なんだお前ら。俺をどうする気だ! 解剖する気か!? た、助けてくれー!」
 句楽は夢中で逃げ出した。
「ちょ、ちょっと待って下さい、違うんです!」
「た、助けてー! 警察呼んでくれー! うわっ!!」
 逃げ回る句楽はつまずいて転びそうになった。が、次の瞬間、句楽の身体は宙に浮いていた。
828名無しさん@ゴーゴーゴーゴー!:2010/07/16(金) 20:16:55 ID:/EGCaxz+0
「……と、飛んでる、俺、飛んでる!?」
 ルイズ、コルベール、そして生徒たちは驚きのあまり、しばらく声が出なかった。
 さらに句楽は、周囲の人間を見下ろせる程度にまで上昇した。魔法の詠唱を行った様子はない。
「あ、あいつ……メイジだったの!?」
「ち、違う。あれは、フライでもレビテーションでもない」
 ルイズの言葉を、コルベールが否定した。
 コルベール自身も混乱していた。平民には違いない、メイジでもない。
 でもあのさっき見せた壁の向こうを見通す透視能力、熊を弾き飛ばすほどの怪力、そして今の飛行能力。
 一体あれは……。
 でも、わかったことがある。
 その謎の力に、本人はたった今目覚めた、ということらしい。
 さっきのあわてぶりに、嘘は感じられなかった。
「ふふ、わははは……すごいぞ!! 俺、良くわからないけど、超人になったみたいだ!!」
 句楽が、上空から歓喜の声を上げる。
 今の言葉で、たった今能力に目覚めた、ということは決定的になった。
「よーし!!」
 句楽はさらに高く飛んでいく。
 一同は、しばらく我を忘れてポカンと口を開けているしかなかった。
「あはははは! あはははは!」
 自由に空を飛びたい、それは誰もが夢見ること。それが今、はからずも叶ったのだ。
 理由なんてどうでもいい。俺は飛べるんだ。
 句楽はしばらく空中散歩を楽しんだ。


「それが、俺が力に目覚めた時だったな……」
 句楽は思い出していた。
「あの時はもう、驚いて声も出なかったわ。そうでしたよね」
「全くだよ」
 ルイズ、コルベールは顔を見合わせて言う。
「とにかく、俺は超人になった。力を手に入れて、使わない手はない。そして、俺の初陣の日がやってきた……」
829名無しさん@ゴーゴーゴーゴー!



「申し訳ありません!! どうかお許しを!!」
 学院のメイドの一人、シエスタが必死に貴族の少年、ギーシュに謝っている。
「そうはいかないね。君のせいで二人のレディの名誉に傷がついた。どうしてくれるのかな?」
 シエスタに因縁をつけているのが、傍目にもわかる。しかし誰も彼女を助けようという者はいない。
 その時だ。
「やめないか、悪党!」
 一喝する声が、食堂に響き渡った。
「だ、誰だ!?」
「私だ!」
 目の前に、スーツに加えて、背中にマントを付けた男……句楽兼人が立っていた。
「君かね。今何と言った?」
「やめないか、悪党と言ったのだ!」
 ギーシュは、何だお前か、という顔をした。
「……ああ、君か、あのルイズが召喚した平民の使い魔というのは」
「違う! 私は弱きを助け強きをくじく正義の味方、ウルトラ・スーパー・デラックスマンだ!!」
 その名乗りに、その場にいた全員が唖然とする。
「ハァ!? 何を寝言を言ってるんだね、君は」
 呆れ半分、侮辱半分でギーシュが言った。
「黙れ! 天誅を受けろ!!」
 次の瞬間、ギーシュは句楽=ウルトラ・スーパー・デラックスマンの鉄拳に殴り飛ばされ、壁に叩き付けられていた。
 周囲は騒然となる。
「お嬢さん、おケガはありませんか?」
「は、は、はい……」
 シエスタはあまりのことに、気が動転しそうだった。
 この人は一体、何者なのだろう? 私を助けてくれるのかしら?
「くっ……平民風情が……」
 フラフラとギーシュが立ち上がった。