▼:薫×梓 電波定点観測所 148

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610戯れに朝日『惜別』を全文起こし 
作家 栗本薫/中島梓さん

くりもと・かおる/なかじま・あずさ
本名 今岡純代(いまおか・すみよ)
5月26日死去(膵臓がん)56歳 7月20日お別れの会

 栗本薫と中島梓の筆名を使い、32年の作家生活でおよそ400冊の著書を生み出した。
少なくみても400字詰めで16万枚に及ぶ原稿を書いたことになる。さらに、同性愛を題材
にした未発表の小説が2万6千枚残されていた。

 手書き時代に30枚を1時間で書いたとか、3日で300枚、ほぼ一冊分を仕上げたとか、
書いている最中は物語世界に没入するため、途中でいきなり声をかけられて絶叫したとか。
その執筆姿は伝説になっている。

 ほかの作家が「作家になるために生まれてきた人」とため息をもらす才能だった。

 「SFマガジン」元編集長で夫の今岡清さんは「ある意味で壊れた人でした」と感じている。
「あらゆるリミッターがなく、過剰なままに生き、創作する。彼女を見ていると、小説を生むの
は脳の機能の一種の障害だと思えます」

 小説だけでなく、演劇やライブも手がけた。ピアノに向かえば、プロデュースするミュージ
カルのために曲数の制限を考えずに数十曲を一息に作り上げた。

 今岡さんは今も栗本さんの仕事の整理を続けている。「未発表原稿は少しずつ自費出版
するつもりです。ミュージカルなどでは1億を越す赤字も出ましたが、借金はなんとか返す
ことができました。プライベートでも、いったん怒り出すと止まらなくなって自分で苦しくなる
ほどの過剰さでした。振り回されたとは思いますが、面白い体験ができたと思っています」

 代表作「グイン・サーガ」シリーズは、絶筆となった130巻が12月に発売される。収束しない
物語には賛否両論があったが、累計3千万部のベストセラーだった。死の1ヵ月前、新装版
のあとがきに栗本さんはこう書いた。「自分がもしかなり早く死んでしまうようなことがあっても、
誰かがこの物語を語り継いでくれればよい」。物語に殉じた作家の最後の境地だった。