【松戸新田】アク禁豚東京kittyスレ(@w荒178

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「エンシューさん!!」
彼の意識が戻ったとき、傍らで呼びかける者がいた。
実弟でもない、母でもない、全く知らない女性の声である。
まだ夢から覚めていないのか、それとも自分は既に死んでしまったのか分からない。
しかし、その呼ばれている名前に彼自身は違和感を持っていた。
「エンシュー・・・」
思い出せない。いや、正確に言えば自分の名前はそんな名前ではないはず。
もっとしっくりした名前が自分にはあるはずであった。
「エンシューさん。起きてます?」
また、女性は彼に呼びかけていた。
まだ薄い意識の中でその名前を反芻した。
何度反芻してもその名前は、彼の記憶の中で引っかかることはなかった。
「あの・・・ヲレは・・・」
やっとの思いで言葉を発してみる。それと同時に彼の視界が開けてきた。
そして、すべての感覚が彼の元に戻ってきた。
彼はベッドに横たわり、腕には点滴を刺されている。その彼の横には看護婦がカルテを持って呼びかけていた。外を見ることはまだままならなかったが、室内は暗くはなく、蛍光灯の明かりで照らされていた。
「起きましたか?エンシューさん。ここどこかわかりますか?」
看護婦は、普段の事務的な話し方というより、老人にでも話しかけるように、一言一言を区切りつつ大きな声で彼に話しかけていた。
9142/7:2006/04/03(月) 21:32:14 ID:vKjrqRNj
「わ、わ、わかりません」
率直な彼の言葉だった。
確か、記憶が正しければ、彼はドーナッツ店で就職情報誌をめくっていたはずだった。
そこから先の記憶がない・・・。
何故自分は病院にいるのか?
それを集約した言葉が、さっきの言葉だった。
「あのね、エンシューさん。街のドーナッツ屋さんでいきなり暴れだしたから、病院に連れてこられたんですよ。」
看護婦から聞かされたことは、彼にしては衝撃的だった。
暴れた?
全く記憶がない。
それに、さっきから自分のことを「エンシュー」なんて言っているが自分はそんな名前ではないはず。
彼の頭の中は徐々に混乱し始めてきた。
さらに畳み掛けるような言葉が看護婦から発せられる。
「ここは、京葉新病院の精神科ですよ。」
「せ、せ、せいしんか?」
さらに混乱させるには十分な言葉だった。
9153/7:2006/04/03(月) 21:32:35 ID:vKjrqRNj
混乱しながらも、彼は必死になって今までの事象を整理してみた。
自分のことを「エンシュー」と呼ぶ。
自分は精神科の病棟に運ばれている。
ここまでの記憶が全くない。
何度整理しても、彼の中ではそれぞれの点は全く線となって結びつくことなく頭の中でふわふわと浮いたように漂っていた。
彼は全く脈絡もなく、一言、看護婦に聞いてみたいことを聞いてみた。
「ここって、ネ、ネ、ネットに繋がりますか?」
何故そんなことを言ったのかも彼自身分からない、多分彼の脳から出てきた本能での言葉なのかもしれない。
「はい?ネット?パソコンも使えませんよ。それは帰れるようになってからにしましょうね」
ネットはおろかパソコンもない。
徐々に脳が機能し始めてきていた彼にこの言葉は、十分な刺激となった。
ネット、パソコン・・・。
しかし、さっきまでの浮遊した点はそのままに、彼の脳は間違った点をつついてしまったようだ。
9164/7:2006/04/03(月) 21:32:57 ID:vKjrqRNj
「ヲレは東京kittyですよ、ネットの中じゃ有名な人間ですよ。そんな人間からパソコンを取り上げるなんてあなたたちは一体何をしたんですか・・・」
今までの彼からは想像が出来ないくらい彼は看護婦に自分自信のことを捲くし立てた。
始めは受け流す程度だった看護婦も、段々と単に受け流すだけではまずい状況だということを把握し始めていた。
急いで部屋を出る看護婦。
「ヲイ、なんで人の話を聞かないんだ!!」
彼の言葉は怒号に変わっていた。
脳が完全に覚醒し、五体機能が働くようになったので、まず彼は自分の腕についていた点滴を無理に外した。
知識がないため針を引き抜いたときには痛感を伴った、しかし、それも彼の脳に刺激を加えることとなる。
こんなもの自分には必要ない、精神科なんて何でいるんだ、ヲレは東京kittyだそれであって何が悪い。
彼の覚醒した脳は、今までの幼い記憶を失い、自分の輝いていた時代の記憶しか引き出さないようになっていた。
ベッドから降りて、病室の扉の前へ行き扉を開けた。
ヲレはネットの世界の住人なんだ、こんなところにいられない。
いつもの彼以上に機敏に動き、さらに病棟を仕切る扉を見つける。
とっとと家へ帰って、雑魚どもを叩くんだ(@w荒
9175/7:2006/04/03(月) 21:33:22 ID:vKjrqRNj
周りにいた入院患者の目も気にせず病棟の扉を開けようとした。
しかし、何度動かしても、その扉は固く、彼の意思とは全く逆の反応をしていた。
精神科の病棟の扉は有事のために、職員以外が扉を開けることが出来ないような仕組みになっている。
それを彼は全く知らなかったのだ。
彼の思考の中から次々と言葉が溢れ出す。
「ヲレの邪魔をするな」
「ヲレは天下の東京kittyだ」
「ヲレは有名人なんだ」
「ヲレを邪魔する者はみんな雑魚だ」
数限りない言葉が彼の中をめぐりそれがリズムを刻むように、彼の腕へと伝わる。
そして腕は、決して開かない扉を開けようと試みていた。
9186/7:2006/04/03(月) 21:33:45 ID:vKjrqRNj
そんなことを繰り返しているうち、白衣を着た職員が何人も彼の後ろからやってきた。
「エンシューさん!なにやってるんですか」
「保護室入れよう」
「保護室の準備しておいて」
「何で外出てるんだよ」
それぞれの職員から別々の単語が乱れ飛ぶ中、彼を押えようと試みた。
しかし、体格の違いもあって職員たちもなかなか彼を抑えることは難しかった。
やっと、4人がかりで扉から離す事は出来た、しかし、彼の手は依然として扉へと向かおうとする。
必然的に力も入る、当然のことながら抑制されることにストレスを感じてもいた。
「離せ、ヲレはこんなところにいたくない」
手を伸ばそうとしながら必死に訴えかける彼。
やっとの思いで扉に手をかけたが、当然、開くはずのない扉。
「注射、注射、ホリゾン持ってきて。急いで!」
「抑制帯も」
彼を抑えていた職員がステーションに控えていた職員に指示を出す。
自分自身制御の利かなくなった彼は思い切って一言叫んだ。
9197/7:2006/04/03(月) 21:34:06 ID:vKjrqRNj
「離せ、雑魚ども」
同時に扉に向かっていた手を突如後方へとスイングした。
そのスイングした手は、彼を抑えようとした職員の顔面に当たった。
「雑魚、離せ」
そのタイミングで子供のように腕を振るう彼。
やっと控えていた職員たちがそれぞれの準備を終え彼の周りに集まった。
まず鎮静剤のホリゾンが注入された注射器を、振るっていなかった片腕に何本か注射する。
そして、抑制帯を腕から順にはめていく。
数で勝ってきたので、徐々に彼を保護室へと送り込む職員たち。
やっとの思いでベッドに拘束することのできた職員たちがステーションに戻っていく。
その間も保護室の厚い壁を通して彼の「雑魚ども」の声はしばらくは響いた。
職員たちの中で会話がされる。
「なんだろうね、東京kittyなんて。自分の名前がそれだなんて」
「パソコンがとかネットがとか言ってるから相当依存してたのかな?」
「あとでドクターに回診してもらうからいいけど、あれは統合失調かもね」
そして、病棟は通常の淡々とした空気に戻った。

(終)

注:この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件とは一切関係ありません。