暇だから玄さんにもの申してみるか

犬餌よ。家の中をよく見てみろ。
お前の奥さん、昔は美人だったな。
｢腕のいい職人の嫁になる｣という夢とともに嫁いできた。
今の奥さん見てみろ。
亭主の変貌ぶりに失意のあまり自殺を何回も試みて、
それでも子供だけは育てなければ、と気丈に振舞っている。
だが、奥さんをもう一度見ろ。
頬はこけ、目は落ち窪み、心身ともにぼろぼろになっている。
もはや失せかけた気力を精一杯振り絞って
前のめりに倒れようとしている悲愴な姿だ。
当たり前ではないか。亭主が妄想を膨らませていて、仕事も碌にしない。
嫁いできてから今日まで、ひたすらに夢を削られっぱなしだった不憫な奥さんだ。
奥さんは虚ろな目でお前の錆び付いた商売道具を見ている。

｢四谷怪談｣のお岩さんも美人だったのは知っているよな、無教養の犬餌でも。
そうだ。美人がやつれ切った姿はそれはそれは恐ろしい姿だ。
そしてお前は奥さんの苦悩も知らずに妄想という幸せな世界に浸っている。
子供たちを見てみろ。祝福されて生まれてきたはずなのに、
表情が消えている。
今はどうかは知らないが、京童は口が悪いと相場が決まっている。
学校でさんざんにいじめられ、家庭の殺伐とした空気の中で育ち、
奥さん譲りの整った顔立ちの面影もない。
そして吃（ども）って、もしかしたらチックになっているかもしれない。
父親の虐待が子供たちをそうさせたのだ。
ランドセルの中には心無いいたずら書きのされた紙が
一杯詰まっているのを犬餌は知っているのか？

それに引き換えお前はどうだ。犬餌よ。
そこそこあったはずの腕前もすっかり錆び付き、仕事はない。
職人として最も恥ずべきことに、鋏や鋸には錆が浮いている。
またサラ金から借金をして、｢仕事｣と称してギャンブル三昧。
そしてヤクザから白い粉を買って、炙って吸っている。
幸せだな、犬餌は。PCに向かって妄想も書き散らせるし。
だが、その背後にある部屋の索漠とした空気もわからない。
お前の住んでいるところは京都市内でもとりわけ寒さが厳しいところだ。
だが、家の中の寒さはそれだけでないのがわからないか？
お前は２ｃｈに責任をおっつけてのうのうと生きている。
奥さんと子供を顧みずにな。

犬餌よ、悪いことは言わない。
今すぐネットの世界から足を洗って植木屋としての腕を取り戻せ。
それが出来ないなら、せめて奥さんと子供を実家に戻せ。
アル中にしても覚醒剤中毒にしても、
適切な治療を受ければ治るのだから。
今夜の京都は雪だな。
雪の夜は静かだ。その夜に、自分がしてきたことをもう一度、
素面で考え直すことだ。
そして、家庭の状況をしっかりと見直せ。

責任は　す　べ　て　お　前　に　あ　る　のだから。