そういえば今日は試合だって言っていたな。
今にも泣き出しそうな灰色の空を見上げながら俺は思い出していた。
俺の従兄弟は高校一年で県立高校の野球部のエースをしているらしい。
野球部というと厳ついイメージだがそんな事はない。
廉はびくびくしていておどおどしていてふわふわしていてふにゃっとしていて。
そう、つまり全く野球部らしくないのだ。
入学した高校の新設野球部に入部したって聞いた時、
始めは群馬にいた時の二の舞にならないかと心配していたが最近の廉はとても楽しそうだから一安心だ。
昔みたいに俺を頼ってくれないのは少し寂しいけどな。
「あっ、降ってきた。」
空から落ちてくる大粒の雨が携帯の画面を濡らした。
服の袖で拭いてはみるものの次から次へと落ちてくるそれに埒が明かない。
仕方なく俺は近くの本屋へとダッシュし、その軒下で雨露を叩き落とした。
この時期の雨は冷たくないけど逆にそれが気持ち悪い。蒸し暑いのだ。
野球はちょっとの雨なら中止にならないものだよな…?
本格的に降り出した雨に俺は野球馬鹿な従兄弟の姿を思い出す。
試合で投げるの楽しみにしてたもんな。
ずっとマウンドを譲らなかった泣き虫廉。
いつだって周りを気にして怯えていたその姿がマウンドでは一変するんだ。
昔、一度、たった一度だけ試合を見に行った。
野球の試合なんて初めて生で見たけど、引き込まれた。
廉が振りかぶる度に息を飲んで、打たれる度に拳を握った。
試合はぼろぼろに負けたけど、マウンドの上の廉は最後まで投げ続けた。
最後まで泣かずに。
あの時は俺の方が泣いちゃったんだよなぁ。
誰にも見られなかったと思うけど今思い出すだけでも恥ずかしい思い出だ。
俺は雨が止むまで立ち読みでもしていようと雑誌コーナーへと足を進めた。
いつも読んでいた雑誌を粗方読み終え、また外を見るといくらかは弱まったみたいだけれど雨はまだ降っていた。
もう少し時間を潰していくか…
仕方なく俺は近くにあったスポーツ新聞を手に取った。
それは地域発行のもので一面は甲子園予選大会の記事。
無意識に廉の高校名を探していた。
…………あった。紙面の本の片隅に。
『西浦高校』
対戦校は…。
再び小さな文字群に目を滑らせる。
『桐青高校』
そこには更に優勝候補と書いてあった。
ヴーヴー
ジーンズのポケットの携帯が震えた。
液晶にはメール受信の文字。
俺は慣れた操作で受信フォルダを開いた。
『俺にぃ、勝ったよ!』
マジかよ…。
そのメールの送り主は廉だった。
「おめでとう。」
返信を打つより先に俺は西浦高校野球部エースに向かって祝辞を述べた。