栄口のターン!
部室で三橋を抱いた。
自分の腕の中に三橋が居たことに対する感動に似た気持ちはあるが、戸惑い、すこし怯えたような表情が、卑怯な俺を責めていたようで、素直に喜ぶことはできなかった。
酷いことをしている自覚はある。
それでも、三橋が自分の中にある本当の気持ちに、気がついてしまってからでは遅かったのだと言い聞かせ、俺は自分をムリに納得させた。
今は、俺の言動に流されているだけでもいい。
すこしづつでも、本当に好きになって貰えるように、できるかぎりの事をしようと思う。
並んで横を歩く三橋の表情は、いつもと変わりがないように見えた。
あれ以来、三橋を抱いてはいない。時折触れるだけのキスをして、手を繋いで。
それだけで、胸が痛くなるくらいに苦しかった。
「三橋」
名前を呼んで、手を差し伸べる。
三橋は少し戸惑ったような表情を見せたが、そっと俺の手を握った。
なにを考えているんだろう。三橋は俺が触れようとするたびにこんな表情を見せる。
それでも俺はこの手を離したくない。
いい人だなんて、なんで三橋は思ったんだろう。俺はこんなにもエゴに満ちているのに。
この手を離さないで済むのなら、どんな胸の痛みだって耐えてみせる。
さて、メシ食うか