浜ちゃんとお医者さんごっこ
ちらっと書いてみた。
あれは、レンがギシギシ荘から引っ越してしまうちょっと前。
オレが9歳でレンが8歳くらいだったかな。我ながら早熟だったよなって思う。
レンの奴は本当にすごく無邪気で天然だからいまだに「ごっこ遊び」って思っているに決まっているけど。
あいつもオレも親の帰りが遅かったので、野球が終わった後もどっちかの部屋で時間つぶしがてら遊んでた。
年齢よりも大人っぽくしっかりしているように見られるオレはレンの母ちゃんウケもばっちりで
「ほんとにねぇ、いつもレンの面倒見てくれてありがとね」なんてレンそっくりの何ともいえない笑顔で
感謝されていた、と思う。
ある日、ギシギシ荘前の広場でいつものとおり野球をしていたら、球拾いをしていたレンが何か持ってきたんだ。
はま、ちゃん、なんだろうってきょとんとした顔でレンがオレを見ている。
古びた聴診器と注射器だった。何でこんなもん落ちているんだろうな、ってオレも不思議に思いながら
「おーい、はまだー」って他の奴に声をかけられたもんだから、無意識にズボンの尻ポケットにいれていたんだ。
それをすっかり忘れたまま野球をつづけて、で、夕飯どきになってみんなそれぞれの家に戻ったんだ。
その日はレンの部屋の方に行ったんだ。
レンがにこにこしながら、「こう? はま、ちゃんみててー」ってピッチングフォームをつくるのを
オレが「うん、いんじゃね。もうちょっとひじをだなぁ」なんて素人のガキのくせにいっぱしの口で直してやったりして
そんなで時間がたっていって、それはいつもどおりだったんだけど、ここから先がちょっと違っていた。
オレのポケットから聴診器と注射器がぽろって落ちたんだ。そういえば入れっぱなしだった。