【大沢たかを】深夜特急【NO HURRY NO WORRY】

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490名無しだョ!全員集合
私は明らかにアマチュアのライターだった。
ところが、仕事の量がいつの間にか私を職業的な書手になるように強いはじめていた。
プロになるのは御免だった。
ものを書くという仕事が自分の天職だとはどうしても思えなかった。
私には、どこかで、自分にはこれとは違うべつの仕事があり、
別の世界があるはずだと考えているようなところがあった。
その頃からである。どうにかしなくてはならない、と思うようになったのは。
断りの口実に困り、私は苦しまぎれに嘘をつくようになった。
つまり、自分は間もなく外国に行くので仕事は受けられないのだ、と。

私は、春のある日、仕事の依頼をすべて断り、途中の仕事もすべて放棄し、
まだ手をつけていなかった初めての本の印税をそっくりドルに替え、旅に出た。
私には未来を失うという『刑』の執行を猶予してもらうことの方がはるかに重要だった。
執行猶予。恐らく、私がこの旅で望んだものは、それだった。
…多分、私は回避したかったのだ。決定的な局面に立たされ、選択することで、
何かが固定してしまうことを恐れたのだ。
逃げた、といってもいい。ライターとしてのプロの道を選ぶことも、
まったく異なる道を見つけることもせず、宙ぶらりんのままにしておきたかったのだ…。