豊田商事事件とは「金の現物まがい商法」とか「ペ−パ−商法」と呼ばれたもので、
もっぱらお年寄りの家を訪問販売し、執拗に、しかも詐欺的な手口で
勧誘しているのが特徴で、被害者はお年寄りを中心に2万9、000人、
被害金額は約1、150億円といわれている。この事件で警察庁が
摘発に乗り出そうとした矢先の1985年(昭和60年)6月18日午後、
永野一男会長(32)は報道陣が大勢詰めかけていた
大阪市北区のマンションで、乱入した二人組に刺殺された。
この結果、豊田商事は事実上壊滅状態になり、大阪地方裁判所は、7月始め、
豊田商事と親会社「銀河計画」の破産を宣告した。
永野会長が殺された日、私は、渋谷のNHK放送センタ−で現場から中継回線を通じて
送られてくるモニタ−映像(素材用)をウオッチしていた。
放送された画面は、最も劇的なハイライト部分、つまり、
△加害者が椅子でドアをたたく
△それを報道陣が囲んでカメラのシャッタ−を切る△2人組が窓ガラスを割って乱入△暗い室内での動きと惨状のアップ
△血まみれで運び出される永野会長の姿・・
で構成され、誰もが息をのむような残虐シ−ンがそのままお茶の間に伝えられた。
一方、活字メデイアはどうだったか。その日号外を出した新聞社もあったが、翌19日の朝刊各紙の見出しをみると、テレビと同様にセンセ−ショナルである。
毎日新聞は社会面で「英雄気取り『犯人オレヤ』」「返り血あび平然と」「永野会長 頭割られ無残な姿」「警備空白つき・・白昼の犯行」。
読売新聞の1面は「永野会長 刺殺される」「豊田商事捜査に痛手」「2人組、銃剣で窓破り、自宅に乱入」。
社会面で「『止められなかったのか』 目前のテロに電話殺到」
「“凶行中継”茶の間に衝撃」「その一部始終がテレビで放映」。
朝日新聞は1面で「豊田商事の永野会長殺害」「自宅へ銃剣持つ2人組(大阪)」「窓ガラス割り乱入『法の追及は手ぬるい』」。
社会面は「放送、茶の間に衝撃『なぜ止めぬ』本社への批判電話も」。
凶行現場の写真説明には「I(記事では本名)に押さえつけられている豊田商事の永野会長
犯人が侵入 格闘するような物音が聞こえたあと、混乱の中で窓越しに暗い室内を撮影した中に写っていた」とある。