ルートヴィヒ ─ 甘美なる醜悪 ─

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1ルートヴィヒ ◆lmvBX/1SGo


 『最後の官能の過誤。口付けはもう止める。覚えておきなさい。』

 『今後決して。今後決して……』



日記に此処まで筆を走らせて、私はその「書くもの」を昏い室の隅の方へ放り投げた、
おぞましい、とてもこれ以上持つて居られなくて。銀の万年筆の、優れているのが、
手の汗でべつとりと濡れているのを自覚せずには居られず、さうするとその汗は実質の数倍もの
質量と粘着性を持って私の手にまつわりついてくるような、気さへして。

暖炉の脇、丁度奥まった昏がりに其れは転がった、からんと音を立てた。其れは私のガイストやゾイレが、
餘りに軽き音を立てて、沈滅するのに似て居る、今宵《きょう》の凋落には、相応しいのではないか。


さう思うが(早く)、私の霊魂が窮屈な容れ物から飛出る事を切望した、いや切望して居る。強く。stark.
嘸《さぞ》かし、私が狂気に犯されて居るやうに見えよう、ああ、何とでも云つたが良い。
私はもう貴下と語る精神を持たぬ。いや誰とも、交わりたくはない。


但、折角来たのだからどうぞ掛けてゆくが良からう。
今宵を迎へるまでの、斯くも短き転落への道のりを、話して聞かせやう。
《生誕》

私は、ミュンヒェン西の妖精城《ニュンフェンブルク》に生を享けたんだ。

今日、死《フロイント・ハイン》という不可思議な神秘作用に使役される儘、逝く私の、
(どうか、それは止めないで。)
歪な命が始まったのは、1845年8月25日の事だった。

しあわせな生を送ったと、記憶して居るよ。生れて眼を開けるや、眩いばかりの光が私を迎えた、
その光は、消えなかった、常に私の周囲を満たしていた、母の腕に抱かれ寓話《メルヒェン》を聞かされて居る時も、
庭の、涼涼と風が吹く中を、駆けまわった時も、いつも、喜びの泉が絶えず光を投げかけて呉れるようだった……
自分の宮殿の事なら、私は大きな城門のところまでを識っていた。その向うから、広い世間が始まった。
広い世間は、たいそう楽しく思われた。森や草原が、私の道の左右に続いていた。
川は勢いよく、私に連れ立って流れた。
広い世間は想ったのとあまり違っていない、と私は思った。木や花や麦の穂やハシバミの茂みが私に話しかけた。
私はそれらのものと歌を一しょに歌った。みんな私の気持ちを理解して呉れた。私が想ったのと同じようにね。

そこへ森の中から、うら若い少女が出で来た、栗色の髪の頭に、幅の広い、影のゆたかな帽子を被っていた。

彼女こそ、私の識る中で、最も光を放つものだった。私と彼女はどこへでも行った、雨が降れば、
其れを窓の内から眺め、語った、本はふたりの教師だった、私達は殊に寓話を好んだ。
私達にかかれば、ニュンフェンブルクの森は恐ろしく美しいドライアドの住処となったのであり、
川べに行けばウンディーネが数多群をなして歌っているのに出くわした。
春は、特別素晴らしかったよ。蒲公英の綿毛を踏めば、ジルフが其れを巻き上げ新たな命がどこまでも運ばれて
行くのを、ふたりで眺めたものだった。

しかし、私達の宝石箱のやうな生活も、すぐに思い出になった。1854年4月24日。
彼女は、遠い国へ行ってしまった、好きでもない男のものになつた。──シシィ。僕だけは識っている。
彼は君を倖せにできないよ。君の事を世界で一番識って居るのは、僕じゃなかったのかい。
ねえ、今すぐ戻ってきてお呉れよ。また森へ遊びに行こうよ。君が居なくなったら、僕は誰と遊べばいいんだい。
シシィ……
──其れから、私の生は幾許か色あせたが、まだ十分に精彩に富んだものだった……
13歳の時だった。私は私の生涯を変えてしまう、一冊の本に出会った。《オペラとドラマ》。著者、リヒャルト・ヴァグナー。
私は、この本に綴られた一語一語から、非常にたくさんの小さい精妙な楽器から発するような、微妙な音楽がひびいてくるのを聞いた。
本の中には天使か、あるいはひょっとすると、ギリシア神話の水の精が歌っているのか、と想ったが、
私の周りの、誰も一向に見当がつかず、「貴方は、ほんとうにその本が好きなのね」と言ったものだったよ。

私は、《Ich, 》 ─其の本をけして手放さなかった。暗くなりかかって、ひとり窓辺に腰掛けて、最愛のひとのことを考えて、
夢想に耽ったりしているとき、そっと頁を開いた。すると、雲の隙間から洩れる月光のように、心なぐさめる音楽が、
かすかに銀の音を漂わせてきた。
リヒャルト・ヴァグナーの名は、金色の箔を押したように、私の心に根を下ろした。
──私の人生の意味は、ヴァグナーであり、ヴァグナーのない世界は、不毛の極みであるように想われた。
食事をして居る時も、ピアノを弾いて居る時も、机に向かって居る時も、私の心の中には、ヴァグナーの世界が
広がっていた。その傾向は、『ローエングリン』『タンホイザー』二篇の台本を入手した時から、より顕著になった。
romantischな官能。身を焦がし、躰の芯が蕩ける熱に堪えられず寝台の上で身を捩り、眼を閉じれば
瞼の裏の闇の中には世界が現れた、音楽が響いた、私はどうかしてしまったのだ。
…ヴァーグナーに向ける熱は時と共に醒めるどころか、より激しさを増すばかり。
募る思いが満たされた日。世界が薔薇色で満たされた日。神々の饗宴が、地上に再現された日。
歓喜の1861年2月2日。15歳の冬。私は、遂に、ああ、どれほど待ったことか、『ローエングリン』を観劇する
機会に恵まれた。
綱渡りの綱の上から、この世界を見下ろすようだった。一歩踏み外せば、天と地が入れ替わるような、興奮とゾイレの自由、
綱糸は氷、その上で夢見るのは私、最高、そう、忘れられない、胸の高鳴りは恋そのものだった。
幕が下りた後、私はどうやつて寝室まで戻り眠りに就いたかわからない。

ただ一つ言えるのは、この日、私の生涯は確実に変わったと云う事だ。


 『王子は音楽には興味も示さず才能もなく、五年かかって、まったく成果が無い……』
9ルートヴィヒ ◆lmvBX/1SGo :2010/07/01(木) 17:26:13
《内省》

 ハハハハハ。嫌や失敬。話し乍らだんだんと気を付けていると、貴下の私を見る双眸《め》が
特別に親切に深い、行き届いた理解力を示して居る事が、ハッキリと首肯かれたものだから。
其れでも驚かれたに違ひない、誰にも逢はず、惟だこの古城に引き籠つて居る
評判の「狂王」が、斯く饒舌に客人に語り掛けるとは慮外の事だつたと見える。アハアハハハ……

さう想はれるのを疎ましいとも、口惜しいとも思はない。私はわが身を支配して居る、不可思議な運命的作用について
長く思索して居るのに過ぎない。

或人が眉根を顰め、或人は愛想笑ひを引き攣らせて下がる、さうして評判が高まり一種の精神的疾患を囁かれるやうに
なつたのは飽くまで世間といふ奴の見解に過ぎない。虚言、戯言、空言……


だが貴下は其れとは異なる思想を想起して呉れたやうだから、もう少し、口を開いて遣らふ。
此迄話した少年時代は、私にとつては春の盛り、野に花が満ち、娘達がカロオルの環を作る喜びの朝に似て居る。
今にして思へば、王冠とは甘美な醜悪、一時の栄誉の代償に私の生気を喰らひ尽くした、だが此の時には
私には生気があつた、今は永遠に過去のものとなつてしまつた幸福といふやつは
嘗ては確かに其処にあつたのだ。

望みなら私が逝つた後にでも、此処の物置でも探したがよからう、当時の思ひ出の品が二、三、残つて居るかも知れぬ。
私の貌を見よ、破産した栄光の残り香を儚く残す醜き貌を。だがあの時には、私は確かに美しかつたのだ、疑うべくもなく、確として。


─サア話を続けやう。貴下は其処に座つてただ聞いて呉れれば良いのだ、其れともより深く私の夢に溶け込む事を
冀うカネ、其れは君の自由だ、好きにしたがよい。……
10ルートヴィヒ ◆lmvBX/1SGo :2010/07/01(木) 17:27:50

                               /^ー--‐'´⌒ヽ、
                               _/         l`ー-'ヽ_______
                            _,.-'‐‐‐‐‐-‐-- 、......::j     'ー、  `ー 、
                          ,.'´     .......    ヽ、::::     ヽ   ヽ、
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              _/ `ヽ,r'  .:.:::::i' i' :/ニ7二ニヽ、⌒)、!  y' ,ノ i':.  ...:'^⌒)':::::; '´ (_
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               ヽ   .:ゝ、__ .::ヽト、ヽ!  ヽ、/(   .:://  /l::l:/  _r‐‐'´ ̄r' _r'
                ト- .:.::{´ ヽ‐-l ヽヽ、___l/_ノ__.::/ー'  ..::/'::/   /:::::.   l‐'
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                 o       `ー-‐--‐‐'´
11名無しさん@お腹いっぱい。:2010/07/01(木) 21:59:22
アンジェっぽいなぁ
12名無しさん@お腹いっぱい。:2010/07/02(金) 19:25:26
バイエルン王よりもバイエルン公ルートヴィヒ2世がお似合い
13ルートヴィヒ ◆lmvBX/1SGo :2010/07/02(金) 19:51:40
>>11
私によく似た魂を持つた人が居る、というのならば、
朝、ベットの中で迎える朝も、明るく思へる事だらふ。

朝が来て、愛するひとと過ごした夢の夜の世界が終れば、空と雲はまぎれもなく、
そしていつも新しい姿で、私を待つて居る。
寂しくて。次の夜が待ち遠しくて。その倖せは、全てを奪われた者にとつては見果てぬ夢であり、求めて止まぬものである……

いまの私は、独りなのだ。
然れば求めるものは言ふまでも無い事をわかるものではないか。

>>12
王冠を奪われる苦しみは忘れることができる。

しかし正気でないと宣告された今、生きる道はない。
どんな看守にも命令され、従う気がなければ拳を振り上げられ、脅される。

そんな弟のような目にあってどうして耐えて行けるだろう……
14名無しさん@お腹いっぱい。:2010/07/02(金) 20:02:03
時代背景はいつ?
15 ◆lmvBX/1SGo :2010/07/02(金) 20:12:50
>>14
このスレは、【語り】と【過去語り】の二重世界で成り立っています。

【語り】は「ルートヴィヒ」の名前でのレスで、
1886年、廃位されてベルク城に隔離された後、自殺直前のルートヴィヒを想定しています。

【過去語り】は、「バイエルン王子 ルートヴィヒ」や「バイエルン王 ルートヴィヒ」の名前でのレスです。1863年です。


どちらの時代、どちらのルートヴィヒとも関わることができます。
【語り】のルートヴィヒと関わった場合、雑談中心となるでしょう。
【過去語り】と関わった場合、参加者は歴史人物の一人となり、ルートヴィヒと一緒に歴史を作ることになります。

やりやすい方を選んでください〜
16 ◆lmvBX/1SGo :2010/07/02(金) 20:15:33
【語り】は一貫して自殺直前ですが、【過去語り】はスレッドの流れによって漸次時代が進行していきます。

…少なくとも此時の私には、自ら世間を愛そうという思いがあった。
それでも其の一方で彼等を煩わしく思い、到底理解し得ぬ戸惑いと深い悲しみを
抱かずには居られなかった事も、ほんとうの事なんだ。

それが、これから話すこと。


私たちの、美しいバイエルンの首都で、展示会が催された。

展示会は一般の国民にも、開放されて居た。それは良い事だと、私は思った。

ヴィーナスやそのほかの藝術作品が燦然と光を放っているのは、
いつの時代にも其れらを眺め愛し、魂を揺さぶる人がいるからだ。

私は、其処に居るごった返した人の群れが、實に多彩な表情をしていることに
気づかずには居られなかったよ。

そうした人々の中に溶け込み展示を眺める事を、楽しいと思った。


しかし。
ある時、来客の一人が私を見つけた。
18群集のざわめき ◆lmvBX/1SGo :2010/07/03(土) 07:56:56

──王子だ

             ──おお、王子……

すると、私は妙な気持ちになった。
あたりのものが、すっかり変化してしまった、夢か現かわからないほどだった。
そんな気がした。

絵画や彫刻は先程と変りなく(そう、寸分たりとも)、芸術家の魂は輝き、千年の震えを伝えて呉れていた、
其れでも此処で地震が暴威を振るったのではないか、そう思えた。


私の一挙手一投足に向けられる好奇の目。
私は作品を鑑賞に来たのだ、方々から、獣園のライオンのように行動の逐一を視線で追われる、
どうして其れで愉しむ事ができるだろう。

私は、別な世界へ連れ来られたのだ、腐敗した死屍、白骨の横たわる平原、
なんとも言えない、怖気がこみ上げる、胸を締め付ける雰囲気が、平原の中に蔓延っていた、
それが私の爪の先から頭の頂まで少しずつ侵入して来た。


そのうち、私は群集のうち一人の男に目を留めた。
その男は酷く醜くて、この世の人のようには見えなかったので、私の心は同情に打たれた。
その男は、自分のことばかり考えることに慣れ、至る所に常に偽りと醜さと悪との行われていることにも
慣れている人間のように、絶えず身震いする悪夢の中に生きている人間のように、見えた。

彼の目にも、顔にも、態度全体にも、朗らかさや、善良さや、感謝や、信頼などは露ほどもなく、
ごく単純な、自明な徳性さえ、この不幸な人間には、一切欠けているらしかった。

しかし、私は気を取り直して、不幸の極印をおされている人に対するように、親切の心をもって
その人に近づき、兄弟のようにあいさつし、微笑しながら話しかけた。
醜い男は、こわばったように突っ立って、大きな悲しげな目で、いぶかしげに私を見つめたよ。
彼は暫く私を見つめていると、皺の深い粗野な顔に、微笑とも、歯をむき出した薄笑いともつかぬものが
現れた。

それは、いかにも醜くもあったが、やさしく、驚きに満ちていた、
よみがえって地下の最下層から出てきたばかりの、魂の最初の微笑のように……


「わしに何の用ですかね、殿下」 と、其の人は私に尋ねた。

私自身の思想にしたがって、私は返事をした。 「ありがとう。お役に立つことがあったら、どうか言ってください。」


男は無言のまま驚き、当惑の微笑を浮かべて居た。
其れらの言葉は、彼が此迄一切与えられる事の無かったものだったんだ。

私がそのまま彼を見つめて、濁った目を覗き込むと、男は目を伏せて、地面を見た。

どうして、これだけの人が居て。
今まで彼のような者に手を差し伸べ、慈愛を与える者が居なかったのだろう。

私の知る限り、人は助け合うものではなかったのか。
この古典絵画の魂に勝るとも劣らない、生きた情緒を、持って居るのではなかったのか、
人の世といふものは。

そうしている間にも、一組の小奇麗に装った男女が側を通った、彼等は露骨に軽蔑した視線を
先程の男に向けた。

私が彼等に視線を遣ると、彼等は笑顔を取り繕い、大袈裟な礼を取った。


それは軽薄、不親切、傲慢、虚偽といったものを象徴する人達であつた。


私は、もう何だか頭蓋を棍棒で打たれたような気さへした、そこで行われていることが、
理解できなかったんだ。

やっとの事で、従者に呟いた。


『詩的な印象が繕いようもない散文的なものに変わる。
罰せられたのなら別だが、神々の饗宴から、死すべき人間の世界へなど下りていけるものではない』


その日の観覧は、これで終わった。


 『王子の途方もない想像力は、王子の中で青年の心には通常見られないほどに大きな力を持ち、
また執拗な固執癖があらゆる物事に関して観察できる……』
《黒鷲を迎へて》

…近頃、外国大使からの書簡が増えたと思う。
北のプロイセンと、南のエースターライヒ。

彼らが未だ決着のつかないシュレースヴィヒ=ホルシュタイン問題に
一刻も早くけりをつけたいと思っている事は、言うまでもないことでね。

より多くの列国の支持を集めようと、こうして躍起になっているという話だ。


特にプロイセンは、早晩、当該領土を巡ってデンマークに攻め込み
エースターライヒもそれに同調するだろう、という噂はあった。


Krieg《戦争》という言葉は、どこか現実感を失って聴えた。
戦争とは、まだ世界に光が差し込む前、古い時代のおとぎ話の出来事のように
思っていたんだ。

本当はそうではなく、世界にはたくさんの戦争があった。それでも、このバイエルンは
平和だったし、私は平穏な時を過ごしていた、私は、世界に戦争という悲しい出来事が
蔓延しているなど、信じたくなかったんだ。

運命は、時に突然に流転を示すことがあるよね。
此時もそうだったよ。プロイセンの国王ヴィルヘルムと、宰相ビスマルクがこのニンフェンブルクを
訪れることが決まった時には、胃が鉄のように重くてね。ずっと下に落ち込むような気持ちだった。

国王マクシミリアン……私の父だが、は、近頃めっきり体調が思わしくなく、伏せりがちだ。
プロイセンの黒鷲の供応は、否応なしに私の役目になった。
こんな馬鹿な話があったものかな。


其の日は、すぐに訪れた、時の砂時計を早回ししたように。
ヴィルヘルムとビスマルク、どちらも立派な体躯をして居た、議会を巡って混乱しかけていた王国を纏め、
『軍国』支配を確固たるものにした立役者。気が滅入る、柔和な笑顔の奥に隠したものが私には
見え透いている、朗らかに生む好印象は仮面に過ぎぬ、それを知ってもどうすることもできない。
《晩餐の席上》

…私は食卓に座って居る……私は食卓に座って居る……その認識もやがてはおぼろげなものとなる……

……私は、一日中、馬を走らせていた。
この山を越えれば、日の差す丘がある。そこには一面に美しい花が咲き乱れているんだ。
それを摘みに行く……
私は、山に向かっている……。


まだ見たことのないような大きな黒い鳥が、私の先に立って飛んだ。
其の後について行くと、鳥は、開いた小さな神殿の屋根に下りた。
私は馬を森の草の中に乗り捨てて、その神殿へと這入っていった。

神殿の中は荒れ果てていて、大小の石塊が散乱している。
その真ん中に、猛鳥が心臓を貪り食う姿の神像が安置されていた。

たまらなく、不安が掻き立てられた。


ふと、天井のほうでばさばさと羽ばたく音が聴えた。
どうやら、屋根に先程の黒い鳥がとまって居るらしかった。

私は扉を出て、彼と話しに行った。

「なぜ眠らないのか」と鳥は云った。

「わからない」と私は答えた。「ただ、思い悩む事があるからだろう。」

「いったいどんな悩みを味わったのか。」


「昔の物語やおとぎ話が、私を浸食するんだ。憎しみとか、殺人とか、嫉妬とか、……
古い話の中にはそういうことが書いてある。だが、それはほんとにあった事ではない。
あるいは、ずっと前、まだ花や神のなかったころ、この世にそんなことがあったかもしれない。
だが、誰がそんな事を考えるだろう! それなのに、私の頭の中にはそれらの言葉が回っている。」


鳥は鋭い声でかすかに笑った。
それからぐっと躰を起こして、私に云った。

「ここから帰りたかろう。道案内をしてやる。私の背に乗れ。──目を閉じよ!」

私は、その通りにした。
羽擦れの音とともに、躰が浮かぶのを感じた。
風を切って、どれだけ飛んだだろう。
鳥が再び目を開けと叫んだ時、私は見知らぬ平原に居た。


鳥の姿は、もうなかった。
その平原を見渡した時から、私は異様な雰囲気を感じていた。
草木は故郷と似ていたし、太陽は輝き、風は咲き乱れる草花の中に戯れていたが、
人間も家畜も、庭も家も見当たらず、建物のくずれ跡や、折れた枝や、倒れた木や、
こわれた垣根や、散逸した農具などが地面に散らばっていた。

突然、畑の真ん中に死人が横たわっているのが見えた。
その人は埋められず、半ば腐りかけて、ぞっとするようなありさまだった。
臭気を放つ肉には蛆が集り、表情は恨みを抱いて中空を見上げている。

私はせめてもの思いで、手近に咲いた花を摘んでその人の顔に乗せた。

しかし、私は気づいてしまった。
ほど近いところに、いやもっと遠くのほうまで連なって、同じような死屍が累々と転がっていた。


私は、そこから離れることを切望した。
半ば目を閉じ、歩み続けていると、四方から腐肉の悪臭や血の臭いが流れてきた。
どうして、自分はこんな所にいなければならないのか。
意味も秩序もなく、全てのものが不可解な法則にしたがって存在しているこんな世界に。

私は、あの鳥を憎んだ。うまい事を言って、私を騙してこんな酷い世界に連れてこさせたのだ。
半狂乱になって、私は走り続けた。
どこをどう進んだのかすら分からない。どこまで行っても草原は続き、悪臭と死屍ばかりが
転がっていた。


ふと、はるか遠くに幕営の影が見えた。
私は無残なくずれ跡を走り越え、走り越えして、やっとのことでその幕営に辿り着いた。

幕営には、武装した人が方々に立ったり歩いたりしていたが、
誰もかれもが鎮痛な面持ちをたたえ、けして私を見ようとはしなかった。

私はテントの間を抜け、陣営の中で一番大きく美しいテントを見つけた。
それが、国王のテントだった。

テントの中では、簡単な低い寝台に国王が腰掛けていた。かがんで深い思いに耽ったその顔は、
美しく悲しげだった。一ふさの白髪が、日に焼けたひたいにかかっていた。

私は、礼を取った、兄弟に対してするような親切さを示して。

「だれじゃ?」と国王は云った。

私は、此迄来たいきさつを全て説明した。私の態度が朗らかで、信頼に満ちていたので、
国王も私に対する態度を変えた。

「そなたを見ておると、母を思い出す」……悲しげに、そう云った。

「……王さま。たいそう悲しんでいらっしゃいますが、それは戦争のせいですか。」

 『そうだ。』

「では、この国では、なぜそんな戦争をなさるのですか。どうか、おっしゃってください。
いったいだれに罪があるんですか。あなたご自身に罪があるんですか。……」

----------

…ビスマルクは、目を丸くして私を眺めたよ。
どうやら私は、晩餐中に今申し述べたような夢想をしていたようだ。
最後の言葉だけは、はっきり声に出して云ってしまったらしい。
折りしも、席上の話題は戦争に関する事で。
プロイセンの老宰相は、些か気を悪くしたようだったけれど、静かに咳払いをしてこう云った。

 『戦争は、シュトゥルム《暴風》やブリッツ《稲妻》のように、ひとりでにやって参ります。
戦争をしなければならないわれわれ一同も、戦争の張本人ではなくて、その犠牲に過ぎないのです。』

私は、ひどく苦々しく、悲しい思いに打ちひしがれた。
しかし、ある一つの事を口に出さずにはいられなかった。

「ビスマルク卿。あなたのそのお答えを聞いて私は悲しくなりました。
しかし、あなた方は、心の中では朗らかな神や、分別のある陽気な指導者へのあこがれを
抱いてはいないでしょうか? 皆の欲しないことは誰も欲しない、理性と秩序の支配している、
人間がお互いに親切をもって臨み合うような美しい生活を、
あなた方は眠っているうちに夢見ることはありませんか?
世界は一つの全体であり、愛しつつこれに奉仕することこそ、幸福であり、救いである、
という考えをお持ちになったことは一度もありませんか?」……
30ビスマルクの回顧 ◆lmvBX/1SGo :2010/07/04(日) 00:10:32


 『ニュンフェンブルク滞在中、王子と晩餐をともにした時、王子の思いは食卓を遠く離れた世界を彷徨う様子で、
たまに私に話しかけなければならないことを思い出すようだったが、
そのときの王子の指摘は才能と機敏さと常識があるように思われた。』

──やあ、今晩和。

誰かと思ったけれどヤハリ貴下だったね。
けふは都合が悪いから、また明日来て呉れてもいいよ。

そうしたらね、もしかすると、ベルヒテスガーデンの行楽に誘ってあげられるかもしれないよ。


貴下は運が良い、彼のシュロス《城》はヴィッテルスバッハ家の夏の王宮だ。
駅亭から、石造りの高台のある街の中心に向かつていくと、
桃色の壁に幾つもの窓が並ぶ、私の城が青空の下に見えるだろう。


そこに泊まってもいい、ケーニヒスゼーや、ケールシュタインにも連れていってあげる。

今年は、暑い夏とはお別れしたがいい、
私に付き合ってくれるのならば。……
最近プロイセンが勢いを伸ばしているようだな。
わがフランスのためにオーストリアへの牽制になってくれよ。
>>32

(ビスマルクの野心は北ドイツに制限されている、というのが世間の主流の見方だね。)
(確かに今はそうだが、時が経てば要求は厳しくなるに違いない。)

(…プロイセンは見違えるほど強くなりつつある。)

(もう、大ナポレオンに惨敗したあの頃のプロイセンでは、ないよ。)


(頻繁な対外進出に打って出ているボナパルトと、プロイセンが対立したら)
(此のバイエルンは、無関係では居られないだろうね。)


…そうだ、前任に引継いで、後任の在フランス大使を派遣しなければならないな。
ゲーデル。クルト・ゲーデル。
《大使 クルト・ゲーデル》

生まれはチェコのブルノ

 『学芸、文化その他の交流の面で、よりよい両国の
架け橋となれるよう努力する所存です』
《一等書記官 アネモーネ・シュトイトゥナー》

生まれはバイエルン アウクスブルク

『ナポレオン3世陛下から、いろいろお話をおうかがいしたいわ』
《二等書記官 サロメ・カチュマレク》

生まれはバイエルン ミュンヒェン

『フランスの行政と文化から、たくさん学びたいと思います』
37ゲーデル大使 ◆lmvBX/1SGo :2010/07/05(月) 05:43:44
>>32
ナポレオン3世陛下、ならびに外務大臣閣下
いや、実に、お国の美しさには目を奪われます。

バイエルン王国より本日着任いたしました、
大使のクルト・ゲーデルです。
バイエルン王マクシミリアンからの大使信任状を提出いたします。


ルートヴィヒ王子、ならびに外務卿カルメルより、
陛下とご家族のご健勝を心よりお祈りする旨のメッセージを託されて参りました。

それでは、書記官2名ともどもよろしくお願い申し上げます。
《ベルヒテスガーデン》

…好い天気だねえ。
今日が、太陽に恵まれたことに感謝を。

ここベルヒテスガーデンは、バイエルンが、いやドイツが誇る第一の景勝地なんだ。
町はドイチェ・アルペンの高い山々に囲まれていて、
清らかなベルヒテスガーデン川に沿って、南北に開けている。


夏は、いいよねえ。
切り立った雄大な山々に、深い緑が繁り、
蒼く澄んだ空の下で生彩を放っている…
空のブラウ《蒼》、雲のヴァイス《白》、草木のグリューン《濃緑》、岩山のグラウ《灰色》…

ほら、あの山の端。
低い雲で隠れているだろう?
あの雲の向こうには、何があるのか、と、考える、
城ではなく、あの山を越してどこまでも往きたくなる…



…そろそろ、行こうか。
今のように、馬車を使うのでなくても、
シュロス《城》までは15分ほど歩けばいい。
城は、町の中心の高台にあるんだ。

それまでは、立ち並ぶ石造りの家が、
後ろの山脈と、町中に咲く花に彩られているのを、眺めて愉しめる…


こうして貴下と旅ができて、うれしいな。
毎年のことなんだ。此処へ来るのは。
それが、山の陰影から通行人の表情ひとつまで、
新しい生彩を見せるのは、貴下が隣に居て、一しょに旅をしているからじゃあないかな。


ふふ…
40名無しさん@お腹いっぱい。:2010/07/31(土) 09:44:40
up !
41名無しさん@お腹いっぱい。:2011/01/19(水) 13:25:33
プラズマクラスター効果なしwww
http://twitter.com/saramura6/statuses/6688087715352576 
42名無しさん@お腹いっぱい。:2011/11/16(水) 20:43:44.24
この親でも殺されたかのような暴言
悪態かはたまた自虐か
バランスを持たぬ者しか生きてゆかれぬ暴力のサイト。
あらゆる醜悪が言論蜂起するニュース速報(嫌儲)。
ここは妬みと嫉妬が産み落としたインターネッツのソドムの市。
移民のレスに染みついたνの臭いに惹かれて、
低俗なアンカーが集まってくる。

次回「ガリは人間の出来損ない」。
嫌儲民が飲むニュー速のコーヒーは苦い。
43名無しさん@お腹いっぱい。:2011/11/16(水) 20:46:35.20
だよな。ビアンカ厨は完全に頭おかしい

そもそもビアンカ程度の女なら、温泉目的の小旅行をかね、城を抜け出して会いに行って、
少しやさしくすれば喜んで寝るだろうよ。
そして別れ際に生活の足しにって200Gも渡せば涙を流して「また絶対会いに来てね。あなたと一緒に冒険したあの時が一番楽しかったわ」
みたいに言うような売女ビッチであることは明々白々。
44名無しさん@お腹いっぱい。:2011/11/16(水) 20:48:25.86
・男が貧しくなったから
・女の質が下がったから
・結婚しなきゃいけない風潮が無くなってきたから
・結婚が明らかに男に不利に傾いたから
・仕事や娯楽の時間が増えて暇が無くなったから
45名無しさん@お腹いっぱい。:2011/11/16(水) 20:50:14.14
「親離れしない」ってのは、核家族化が進行した70年代〜今に至るまで叩かれまくる事が多いが、
経済的には極めて合理的な考え方なんだけどな。
親族同士近くに住んで互助するなんて人類史のほとんどの期間、
地域で行われてきた事だ。非難される筋合いがどこにある?


ドライブ・・・高速往復数千円+燃料代数千円+食事+etc
CD離れ・・・中身はワンパターン。 飽 き た 。
飲み会離れ・・周りは年上ばっかりで、ひたすら接待役。怒られ役。カネは取られる。行くのも嫌だ。
新聞離れ・・・ヘンタイ毎日みたいな記事を読む必要なし。


今の団塊の世代はマジ腐ってんな
自分たちだけが今後も美味しい思いする事しか考えてないし
過去に自分たちが経験した美味しい事も美談?として語り継ぐだけで
将来を担う後輩に同じ思いをさせてやろうって気が全く無いもんな


そもそも若者なんて人数少ないし資産保有率も割合も上の世代に比べるとカスみたいなもん
若者世代の消費が景気に影響を与えるなんてできるわけがない
結局上の世代の責任を押し付けられてるだけ
46名無しさん@お腹いっぱい。:2011/11/16(水) 20:51:17.94
アメリカという国が成し遂げた最も偉大な事って何か知ってる?
それは「金持ちも貧乏人も同じ値段の物を買うシステムを作った事」なんだってさ。

アメリカが出現する前は、全ての物は金持ち用に高い物と、貧乏人向けに安い物に別れていた。水に至るまで貧乏人向けの物は金持ちは飲まなかったのだ。そして金持ちは絶対に量産品を手に取る事は無かった。
このコンセプトがアメリカのもたらした工業化社会の到来で変わった。今は俺らと天皇が飲むコーラは同じで、値段も同じだ。
ゲイツの発言はこの事を踏まえているのだ。現代社会では、金持ちになるという事は、ある一定レベル以上にいってしまうと「数を沢山買う」という事にしか繋がらなくなってしまって。誰も量産品(ハンバーガー)から逃れられないのだ。

これは良い悪いという話とは別の議論。
47名無しさん@お腹いっぱい。:2011/11/16(水) 20:54:13.23
再生数至上主義者たちは子供達だったんだな
なんで必死にミリオン目指してるのかと思ったら
お金払えない代わりに再生数やコメで貢献してるつもりになってたのね


「仮面ライダー」や「ガンダム」と同じだよ。
内容的には全くの新シリーズと言っても違和感なく、
新シリーズとして売り出すことは可能、それを作ることも可能、
だが既に固定客のついてる看板をつけた方が、「より一層」売れる。
だから付けてる。


こういうのたまに居るな
すげえ不快なんだけど表立って批判してるわけでは無いから処断に困るケース
本人は面白い&相手も喜んでるとか思って書いてるキチガイか
対応に困るいやがらせを心得た周到な荒らしだな


Amazonでも何でもそうだけど、
アンチが間違ったことを書いても信者が訂正するから
結局は正しい意見のほうが多くなるよ。

そういう自浄作用が機能しないのは、
そのサイト自体が過疎ってる場合だけ。


カプコンより任天堂の方が一枚上手だったってこと
イワッチメントみたいな屈辱的な周辺機器や値下げなどを飲ませて買った気でいただろうが
任天堂にしてみればMH3Gの発売とMH4の発表した時点でカプコンの役目は終わったって事
カプの要求素直に飲んだのだからライセンス料もほとんどとれないソフトを優先して生産する義理はない
MH3G買えない人に自社製で儲けの出るマリオやマリカ買ってもらうつもりだろうな
一通り売ったとこで来年は仕切り直しの新ハードかな
48名無しさん@お腹いっぱい。:2011/11/16(水) 20:56:04.56
DSの需要=スマホ需要という事に気付かず、
ボタンをメタリックカラーに染めるとか
立体機能だとか訳のわからん機能を詰め込んで
悦に浸ってた岩田と、それを支持していたボンクラ株主と、任天堂信者・・・

結局、にわか株主は金しか見て無いし、
任天堂信者は岩田が時代の寵児として持ち上げられる、
つまりテレビや新聞などの既存のマスメディアでの扱いしか興味を示してなくて、
彼らのバックにある名声の裏の原資が何なのか、見ようともしないのよね



マリオのブランドで売れたさ
けどな、子供の頃は難しいが故にすごくハマったさ
難しいのがクソゲーというのは間違い
ゲームは難しいステージをクリアできた時の達成感が一番嬉しい
これはソニー任天堂云々の問題じゃない
確かに難しすぎるのはいけないよ
でもある程度の難易度で、難しいけどクリアできた時の感覚が最高
MHP2Gやヨッシーアイランドがそうだね
そして上手くなってゆく感覚が大切
「俺上手いわ」じゃない
「俺上達してるわ」が大切なんだ
RPGにレベルアップがあるとすればマリオ系アクションゲームのパラメータはプレイヤー自身だ


ハードもそうなんだけど、任天堂はこれまで広告にかまけて
ネットワークインフラとシステムに投資してこなかったのがかなり致命的だと思う。

PS3と360は、HD競争やってたのと同時にネットワーク拡張・強化戦争もやってたんだぜ。
任天堂はこれに完全に乗り遅れて、もう10年程度の遅れが出てる。
これを挽回すんのはもうほぼ不可能。
このネットワークサービスが貧弱ってのも、スマホに食い荒らされる原因になってるんじゃない?
スマホは土台に強力なネットワークと課金システムがあるんだから。
ここなんとかしないと詰むぜ。というか詰んでる。
49電脳プリオン 忍法帖【Lv=40,xxxPT】(3+0:8) 【30.5m】
歴史?