【どっちが】おれがあいつであいつがおれで【どっち!】

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819名無し草
「うぅー…うぁぁ…」

そういえば、ゴムを着けなかった。バッグの中にあるのに。
トイレから帰ってきたFBが腹をさすって呻いているのを見て、ようやく思い出した。恨めしそうな視線を感じる。TVを見る振りをして顔を背けた。

「あのさー、俺アラサーだし、それなりに労って欲しいんだけど…」
「俺だってアラサーだべや」
「お前は腹壊さないでしょうが!」

ゴン、と俺の前に置かれるコップ。麦茶だった。FBは自分の分を一気に飲み干すと、倦怠感の化身のような動きで床に寝転んで、動かなくなった。その背中の上に足を乗せる。

「あ…いい高さだ」
「てめえぇ…」
「おい、動くなよ」

俺の足の下から素早く抜け出したFBが、今度は俺の腿の上に頭を乗せる。枕にされた。
つるりとした額に、自然と手が伸びた。円をかくように撫でてみると、目をぱちくりさせて俺の顔を見上げてくる。
眉、瞼、鼻、と辿って、最後に唇をつまんで引っ張る。

「むう」
「不細工になった」

…な、筈なのに、可愛いと感じてしまう。指をどけて、今度は唇を押し付けた。甘ったるいキス。
数分前の、爆発しそうなくらいの破壊衝動はどこへやら。戸惑ったように俺を見つめて、遅れて目を伏せたこいつを、決して傷付けたくないと思う。
その気持ちを言葉にしたら、俺らしくもないことを言ってしまいそうで。その代わりに、ゆっくりと唇の感触を味わった。
ちゅっ、と音を立てて離れると、何事もなかったかのようにテレビの中の高級イタリアンに目をやる。

「…そういうのも、できんじゃん、あほ」

スルーしようとして、つい、噴き出してしまった。