【リレー小説】マリコの悪夢は夜ひらく?【直木賞?】

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739名無し草:2011/10/28(金) 12:24:52.73
その姿をドアの影から真理子は見ていた。
風采のあがらぬくたびれきった中年従業員にぺこぺこ頭をさげる東條の姿。
それはなりふり構わず自分を全力でかばってくれる王子様のように真理子の目に映ったのである。
江原と勝魔の留守中のあのできごと・・・二人が結ばれたというのは、実は
真理子の妄想に過ぎないのだが・・・もあって、真理子は一方的に恋に落ちた。
740名無し草:2011/10/28(金) 15:31:28.58
出発に際して、真理子が東條の車に乗りたがってちょっとしたゴタゴタがあったものの、
何とか2台はホテルを抜け出した。東條の顔が蒼白になりあまりにも気の毒だったので勝魔が
気をきかしたのである。
「真理ちゃん、江原さんの車ならまだ食べ物があるわよ。」
胃の中が空っぽになってしまった真理子には抗いがたい誘惑だった。
深夜のことで道はすいていた。東條の車を江原は見失うことなく2台は順調に東京めざして
走っていた。

「さっきはごめんなさい。私急に気分が悪くなって・・・・あのぅ、もしかしたら、
悪阻かもしれないの」

\(◎o◎)/!\(◎o◎)/!\(◎o◎)/!\(◎o◎)/!\(◎o◎)/!

通常悪阻というのは妊娠2〜4ヶ月ごろである。
真理子の妄想のように、コトをいたした2〜4時間後ということはあり得ないのだが。

741名無し草:2011/10/28(金) 15:37:27.52
ラブホテルの従業員というのは、多少のことは見てみぬ振りをするのが暗黙の了解になっているが、
先日近くのホテルで17歳の少女の変死体が見つかり、殺人事件と断定されたということもあって、
冴えない中年従業員白河道夫はちょっと心配になった。
でも、通報するとなると色々と聞かれて金を貰ったこともばれるかもしれない。
でも、もしあの部屋で事件が起きてたとしたら、おれはどうなる……クビか?
どうせ退職金なんか貰えないだろうし、やっぱり見なかったことにしよう。

従業員は事務所に戻ると、夜勤の清掃係と警備係に言った。
大丈夫だ、なんでもない。
清掃係の仲瀬ゆとりは、若い警備係に見えないように白河をこづいた。
「きっとロクでもない客でしょう、部屋を汚しまくってるに違いないわ。
掃除する身にもなってよ。追加料金貰わなきゃやってらんないわ。
ちょっとアンタ聞いてるの?あたし1人で無理そうだったら手伝ってよね」
実はこの中年従業員と清掃係、どちらも既婚で子供もいたが、半年前から不倫関係にあった。
客のいない暇な時間を見つけては部屋に入り込み、短い逢瀬を楽しんでいたのである。
742名無し草:2011/10/30(日) 15:31:30.81
東條は考えていた。
あの異臭騒ぎの犯人は間違いなくアイツだ。なのに何故…?この事件にはなにか大きな組織が絡んでいるんだろうか?
全国指名手配にまでなった事件を揉み消ぜるぐらいだから、別人を犯人に仕立て上げることも可能だろう。
まさか俺が……そんなこと常識じゃあり得ない。でも、あり得ないことが現に起こっている、どうしよう!
あの江原という占い師の言うことは信用できるんだろうか?結婚相手は俺じゃないって断言してたけど…

確かに江原は、「東條」とは結婚しないと言い切った。
しかし、この男の本名が東條ではなく実は西郷であるということを江原は知らなかった。

東條の携帯に城見からメールが届いた。
城見のマンションの住所、そして鍵は管理人に預けてある、部屋には多少の現金が用意されている旨が記されていた。
東條はほっとした。

鬼島のところで清算すべき領収書がかなりたまっていたが、もう回収は無理だろう。
それに本当に鬼島が逮捕されれば、東條もとばっちりを受けてしばらくは仕事が来ないかもしれない。
自分のマンションは3人に提供すると言ってしまったが、また真理子が水漏れや異臭騒ぎを起こしたらどうしよう。

心配の種は尽きないが、とにかく城見の部屋で1人でゆっくり休めるということがありがたかった。
東條は背筋を伸ばし、ハンドルを握りなおした。もう少しで東京だ!
743名無し草:2011/10/30(日) 17:33:22.63
真理子の衝撃の告白を受けて江原の車内はしばらく重苦しい沈黙があった。
背中や腰の肉付きにかくれて目立ちはしないが、そういえば腹の辺もぱんぱんだ。
常人には思えぬ食欲もおなかに子供がいるとすれば納得いく。

声をあげたのは勝魔だった。「真理ちゃん、誰の子なの・・・・?」
744乙で〜すwww:2011/10/30(日) 17:41:11.48
やまぐちりこの子供です。
今、私オナニーしたいの.

真理子は急に裸になって、まんこをなで始めた。
745名無し草:2011/10/30(日) 19:11:00.23
真理子は恥ずかしそうに体を捩った。また車がバランスを崩しそうになる。
「やあねー、東條さんに決まってるじゃない、さっきカズちゃんたちが買い物に行ってた間に…んふふ」
江原が急ブレーキを踏んだ。

勝魔と江原はバックミラー越しに弱々しく視線を交わした。「スルーで行こう」
疲労困憊の2人に、もう突っ込む気力は残っていなかった。
勝魔は最後の力を振り絞って
「じゃあ後で妊娠検査薬を買ってらっしゃい。説明をよく読んでね」と言うと、大きなため息をついた。

真理子は、これから行く東條の家のことで頭がいっぱいだった。
東條さんは1人暮らしだっていうから、きっと散らかっているかも知れないわ。
しょうがないわねー、アタシが片付けてきれいにお掃除してあげるわん。
インテリアも新婚家庭に相応しくロマンチックなものにするのよん。
それにおいしいお料理も作って食べに来てもらいましょう。でも、お泊りはダメねw
銀行家と教師の娘として厳しくしつけられたアタクシですもの、
結婚前にズルズル同棲っていうのは、ちょっとまずいわね。
さっきは激情に流されてあんなことになってしまたけれど、
これからは東條さんのご両親にも、ちゃんとした娘だって認めてもらえるように頑張らなきゃ。
それにしても、この2人は邪魔よね。
これからベビーちゃんのお部屋も用意しなくちゃいけないんだから、あまり長居をされちゃ困るわ。
746名無し草:2011/10/30(日) 20:16:05.84
車は一般道を走っているため、食べ物を扱う店の前を通るたびに真理子は大騒ぎした。
「アタシじゃないの、赤ちゃんが食べたがっているの。ちゃんと食べないと赤ちゃんが栄養失調になっちゃう〜」
反論する元気も出ないほど疲れ気っていた勝魔と江原は、そのたびに前を走る東條に連絡して待ってもらった。

あちこち寄り道をしたため、東京に着いたのは収穫祭の翌日の夕方近くになっていた。
東條は自宅マンションの前で車を停め、勝魔の携帯に電話した。
「ここが僕のマンションです。部屋は702号室、鍵はさっき渡しましたよね。また連絡します」
とだけ言って走り去った。

江原は地下に入り、東條に言われた駐車スペースを見つけて車を停めた。
地下からエレベーターで7階に上がると、702号室はすぐに見つかった。
勝魔が鍵を開けて中に入ると、足元に宅配便の不在通知が落ちていた。
「後で東條さんに知らせないと」と言いながら拾い上げた江原は、あっ!っと小さく叫んだ。
その不在通知には「西郷様」と書かれていたのだ。
西郷って誰だ?同居人?誤配?まさか、東條さんって何か書く人らしいけど、もしかしてペンネーム?
いずれにせよ、自分が見た「西○真理子(旧姓林)」のことは、東條には黙っておこう。
747名無し草:2011/10/30(日) 21:17:26.03
当座必要なものを買い揃えると三人は心底ぐったりした。
東條のベッドは江原が使い、和室に真理子と勝魔が納まり、じきに三人とも安堵の深い眠りに落ちた。

翌朝。台所でかいがいしく動く真理子の姿があった。
んふふ。いつか東條さんと私とベビーがここで新しい暮らしをはじめるんだわん。
朝はやっぱりお味噌汁派かしら。焼き鮭に卵焼き、おじゃこやイクラがあればご飯を
たくさん食べられるわね。ん〜〜〜〜〜旅館のご飯みたいだわん。
お味噌汁のネギは焼き鳥のネギマ並みに太く、卵焼きは白身と貴美がじゅうぶんに混ざらず
白と黄がまだら。とても旅館料理とは思えぬできばえだったが真理子は満足した。
おなかがぐ〜〜〜〜っと朝ごはんを催促した。

まだおきてこない二人を待ちかねて真理子は炊飯器の炊きたてご飯をてづかみで
食べ始めた。新潟の新米はふっくらした色艶だ。
そうだ夜は栗ご飯にしましょう。食卓には季節感が大事だわん。
748名無し草:2011/10/30(日) 21:19:40.28
貴美⇒黄身です〜〜〜失礼しました
749名無し草:2011/10/31(月) 00:08:39.99
>>748
それより、数ページ前に変なのが挟まってるわよ。
真理子の妄想日記の切れっぱし?
750名無し草:2011/10/31(月) 15:15:47.56
食卓には真理子の用意した朝ごはんが並んでいた。その乱雑なことといったらどうだろう。
鮭の切り身は皮目を手前に丸皿に乗り、卵焼きはばらばらに花柄の洋皿に盛られ、
ランチョンマットはめくれ、スプーンが中央に放り出されている。
江原と勝魔はもそもそと食事を取りながら、小声で話をした。
「ねえねえ、本当に妊娠していないと思う? 男と女のことって、私うといのよね」
「待って、霊視してみるから」

・・・・・・・・・・・・
乱丁がありました。
744はこのあとのページとなります。
謹んでお詫び申し上げます。
・・・・・・・・・・・・
751名無し草:2011/10/31(月) 17:08:40.59
「やっぱり真理ちゃんのおなにーしか見えないよ。東條さんは間違いなくシロだよ。
真理ちゃんうっとりして幸せそうな表情してる・・・」
「想像妊娠っていうやつね?」
「だろうね・・・真理ちゃんにしばらく夢を見させてあげたいような気もするんだ・・・
本当に幸せそうなんだもの」

勝魔はちょっとしんみりした。
752名無し草:2011/10/31(月) 17:34:13.91
目を閉じた江原の眉間に皺が寄った。
「何か見えた?」 勝魔が身を乗り出した。
「玉子焼きに殻が入ってた、噛んじゃったよー。」
と言って江原は口元にティッシュを当てて吐き出した。
「真理ちゃんの料理って、ほとんど罰ゲームよね。調味料も油もどっちゃり使ってるし、
火加減というものを知らないのかしら、生焼けか黒焦げの両極端ね。
本人は東京の有名な料理教室に通いたいって言ってたけど、まずあのだらしなさを何とかしないと」
勝魔はキッチンの方に目をやった。
そこには調理器具や調味料が散乱し、まな板は汚れたまま放置、これから食べるつもりなのか、
フタを開けたコンビニデザートが流しのそばに危なっかしく傾いた状態で置いてある。
あの後片付けは自分達がせざるをえない。
さもなければ、ブックス・チョモランマのように、異臭騒ぎで通報されることになってしまう。

真理子が出したグラスには、脂ぎった指紋がベタベタと付いていた。
江原はそれには手をつけず、500mlのペットボトルから直接水を飲み、心を落ち着け、再び目を閉じた。

長い長い霊視の後、江原はやっと目を開けた。
「真理ちゃんは子供を生む。でも、今じゃない、何年も先のように見える。
それよりもっと気がかりなことがあるんだ。これは、カズちゃんにだけ話すんだからね。
前に霊視したら、同窓会名簿が見えて、西ナントカ真理子(旧姓林)って書いてあったんだよ。
だから僕は東條さんとは関係ないって断言してしまったんだけど、ねえ、これ見て」
と言って、西郷様と書いた不在連絡票を見せた。
「今日の午後ここに来るはずだから、その時に渡しましょう。でも、その霊視のことは絶対に内緒ね。
彼が知ったら全力で逃げるはずよ。そしたら私達、真理ちゃんを抱えて路頭に迷うことになるわ」

3杯目のご飯をよそいに行っていた真理子が戻ってきた。
私の作った朝ごはん、どうかしら?おかずがいっぱいで、まるで旅館みたいでしょ。
2人ともいっぱい食べてねー。東條さんも来ればいいのに。

そうだわ、あとでお買い物に行きましょう。この部屋は殺風景すぎるから、もっとかわいらしくしたいの。
素敵なソファを買って、その上には甘えん坊のトイ・プードルがお昼寝してるの。
でもその前にベビーベッドを買わなくちゃww
753乙で〜すwww:2011/10/31(月) 17:44:41.98
いや、その前にSEXしようよ
フェラチオもする?クンニもする?
69もする?
754乙で〜すwww:2011/10/31(月) 18:39:07.20
やろう
試してみようよ
おっぱい揉むよ
755名無し草:2011/10/31(月) 21:06:15.53
あら、駄目よ、おなかにはあなたの子がいるんですからね。
乱暴にしたら流産しちゃうわん。

朝っぱらから真理子の妄想はとどまるところを知らなかった。
756名無し草:2011/10/31(月) 22:24:09.65
真理子はダラダラと朝食を食べ続け、勝魔達がやっとキッチン周りを片付けると
次は10時のおやつ。何種類もの菓子をテーブルいっぱいに広げ、またダラダラと食べる。
そして勝魔達が片付け終わると、いそいそと立ち上がって昼食の準備…
そのあいだ東條からの連絡はなく、彼が来たのは夕食とデザートが終わり、
真理子が夜食のカツ丼を作っているところだった。

東條の家にあったコシヒカリの新米30kgは、すでに底を尽きかけていた。
実はこの米、鬼島が新潟へ講演に行った時に贈られたもので、東條の家にしばらく保管していたものだった。
この他にも貰い物の高級食品がどっちゃりあったのだが、真理子が1日でほとんど食べつくしてしまった。

東條は愕然とした。失業者となった今、このクリーチャーのエサ代をどうしたらいいんだろう。
757名無し草:2011/11/01(火) 12:01:33.75
お米が無ければパンを食べればいいじゃないの!?

真理子は自分の思いつきに感心した。
子どもの頃から読書家であったし中学時代に猛勉強したおかげで
私ったら頭いいわ♪こういう発想の奇抜さが作家として役立つと思うのよん。
通俗小説なんか下流の庶民が楽しむものよ。
私は国民的大作を執筆して日本を代表する作家となり、文壇に君臨して
大勢の知的なイケメンから崇拝されるんだわ。

真理子はウットリしながらキッチンのバックヤードを探しまくり、ちょびっと固くなりかけた
食パンを一本発見した。なんだ一本しかないのか。男の一人暮らしってこれだから困るのよ。
食料品の買い置きが乏しいったらありゃしない。

やっと発見した貴重な食パンを8cmほどの薄切りにスライスすると
少々汚れたオープントースターに放り込みトーストした。
焼きあがったのに握り拳大のバターをのっけて口に放り込む。
マリー・アントワネットのコスプレをした自分がお菓子を食べている姿を想像し
真理子はウットリした。
758名無し草:2011/11/01(火) 13:19:38.29

                   /   ノノ ノノノ ヾヽ、ヽ
               /   ノ) `      ´ i |
               i    {   ` , ,-,、´  i |  
              {    i     )-―-'(  i |  
                 ヽ   i     ⌒   } |_,,,. -‐- 、  
              __)), ,ノ人   、_,  ノ''"´   ,      \ 
                /       ` ー--,. '´   . : :`(      ゝ、
               /           : : :: :´: .         : :\ , ' ´_   ヽ
           /  r´: :       : : : :       ,. ' ´ ヽ>'´    ,'ヽ!
             / γ: :        ノ    _   ,, 、,, ,,__i  。 ./       ; ,!
           i   ir' " ヽ    ,,, ''' ´         `"7         :/ 
         i  |、 ° }, '                 ` y'         /
   "'''‐‐- ...,,,_|   ヽ、ー/           __    _/          /
             `'' -,,て          ´    ̄ ̄ /          ,イ 
             `''- 、_/            /    `  / ,!    _,
                     `''- ,,     ,..、_,,..イ´      i'´  `ゝ''"´
                    \_ ,,,,,...ゞ、_           |ー-/  
                           ミ〉       !r'´
                         ヽ   ミ/、 /|  i  i }
                             B/.../。ヾ!、,|  !´ 
                            ;iクノく 〈ノγ
759名無し草:2011/11/01(火) 13:50:02.43
江原は大きく身震いした。
真理子と東條の間に何があったのかを霊視しようとしたのであるが、
見えたのは便器を抱え込んで嘔吐する東條の姿だけである。
もう一度よく見ようと精神を集中させると、
いきなり真理子の裸体がどどーん!とばかりに飛び込んできた。
しかも淫らな空想にふけりながら自らを悦ばせている。
うわあああああ! 絶叫すると江原は白目を剥いてひっくり返った。
760乙で〜すwww:2011/11/01(火) 18:28:37.08
真理子はマン汁をなめていたwww
肉便器www
761名無し草:2011/11/01(火) 21:19:26.72
江原は失神してしまったので、最後のシーンはみていない。そこまで見てしまったら
AEDが必要な事態になっていただろう。
しばらくして正気をとりもどした江原は、このマンションを去る決意をしていた。
そもそも、江原は東京に出たかっただけで、真理子の尻拭いをしに東京に来たわけ
ではない。

真理子のほうでも、かわいく飾った新居を妄想している最中に江原の用足しの音が
聞こえてくると、殺意を覚えるほどむかついていた。
ハロウィーンにはかぼちゃやゾンビを玄関先に飾るのよん。
通りかかった人が、この中にはきっと仲のよい家族とセンスのいい奥さんがいる
のねと、想像することでしょうね。皆さん、羨ましいでしょ。
・・・・・ジョジョジョーーー・・・・チョピン。
ああ、本当にいやになっちゃう。いい加減気を利かして出て行ってくれないかしら。
それまだ幾たびもの窮地を救ってもらったことを忘れ、江原と勝魔をお邪魔虫の
ように思い始めた真理子であった。


762乙で〜すwww:2011/11/01(火) 22:46:21.22
おっぱいを揉んでよ〜んwww
763名無し草:2011/11/02(水) 02:00:19.17
実は、東條はさっきまで城見と会っていたのだ。
真理子をどう売り出すかについて相談していたのだが、主導権をめぐって対立していた。
鬼島と手を切った東條はほとんど無収入の状態で分が悪かったし、
真理子とは個人的には出来るだけ距離を置きたいと思っていたが、
自分の企画を横取りされるのは面白くなかった。

城見が言った。
「話は変るけど、『ブリオッシュ』の冬の特大号で京都特集をやるのに、人を探してるらしいんだ。
花京院家の茶会も取材したいらしいんだけど、東條さん、あそこの息子と知り合いですよね。」

東條は思った。
俺を京都に行かせて、その間に抜け駆けするつもりだな。
『ブリオッシュ』の特集ならギャラも期待できる…、城見が手を回したんだろう。
「花京院遊鶴はよく知っていますし、とてもいいお話ですが、こっちの話が先なので。
すいませんが他を当たってください。」

結局、今日の話し合いはまとまらないままだった。
764名無し草:2011/11/02(水) 02:03:42.65
たった1日で薄汚れてしまった自分の部屋、卒倒した江原、
そして真理子の食欲と奇怪な行動を目の当たりにして東條は思った。
やっぱり俺1人でどうにか出来る相手ではない。
東條は3人に向かって言った。
「僕は明日から仕事で京都に行きます。代わりに明日、城見という男が来ますので、ゆっくり話をして下さい」

そういうと東條は小走りに玄関へ向かった。
江原が追いかけ「東條さん、これ」と言って宅配便の不在票を渡すと、東條はさっと見て
「ああ、ありがとうございます。後で連絡して、実家に転送してもらいます」と言ってポケットにしまった。
靴のかかとを踏みながらせわしなく部屋を出ると、東條は城見に電話をかけた。
「やっぱり京都特集の件、お引き受けします。」

東條は真理子から離れられること、そしてまた花京院に会えることを思うと、
久しぶりに心が晴れ晴れとするのを感じた。
765 忍法帖【Lv=30,xxxPT】 :2011/11/02(水) 19:07:35.86
乳首をつままれた
766名無し草:2011/11/02(水) 21:36:05.50
美輪ママの店をほろ酔い加減で出たしまこは、千鳥足でブティックサンダーを訪れた。
丁度シャッターを閉めかかっていたツル子に、しまこは尋ねた。
「あのう、本屋の真理子さんを…」
ツル子はしまこをまじまじと見つめた。
収穫祭の異臭騒動以来テレビで放送され、風評被害からぶどうの里を訪れる観光客は激減。
またマスコミの餌食になるのはこりごりだ。ツル子は沈黙を守った。
ブティックには、店の奥からTV番組「大家族ビッチマミー」を報じる大音量で響く。

「何でしょうか?」小学校高学年の男の子が、しまこの前へ出てきた。
母親のツル美も警戒しつつツル彦の後ろから様子を伺った。
ツル子が娘のツル美に「真里ちゃんの…」と耳打ちするや否やツル彦がしまこの前に出た。

「本屋のオバちゃんならママの同級生だよ。中学校の制服もサイズがないから
学校から頼まれて御祖母ちゃんが特別に作ってあげてたんだよ」
真理子は学校が制服の特別注文を三田洋品店に頼んでいたのを知らずに育った。
「余計な事を言わないのよ」ツル美が息子を嗜めた。

ツル子はシャッターを閉めかけた手を止め、しまこをじっと見つめ語り始めたのだ。
767 忍法帖【Lv=30,xxxPT】 :2011/11/02(水) 23:52:36.46
篠田麻里子登場
768名無し草:2011/11/03(木) 20:46:38.17
 同じ頃、都内のセレブ御用達マタニティクリニックで癌田ウソが出産をしていた。
 「癌田様、おめでとうございます、かわいらしい女の子ですよ」
 ウソは息をはずませながら、生まれたばかりの自分の娘の顔を見た。
「ベビちゃん〜ベビちゃん〜うえるかむ〜♪」
 小声で歌って、急に歌をやめ、しげしげと目を見開いて、もう一度その赤ん坊を見た。
「ねえ、これ…本当に私の子供?」
 小顔のウソには似ても似つかない大顔、しかも、普通の赤ん坊でも見られない1.5頭身、
腹の中で育ちすぎていたせいか歯が生えかかており、しかも歯茎が出っ張っていた。
そして、ぱっつんぱっつんの腹と腕と脚を持っていた。
「これ…違う、ウソの子じゃない…」
「生まれたばかりの子供は皆そうですよ…」
 癌田は頭を抱えて思い起こす、そうだ、この子がお腹の中にいた時に見た、あのクリーチャー
に似ているわ…。
 あのクリーチャーの呪い?
 死産ということにして、どこかに置いてこれないかしら?
 パチンコの駐車場にはそういうのがたくさんいるって聞いたことがあるわ…。
769名無し草:2011/11/04(金) 21:38:32.29
クリーチャー真理子がそのクリニックに姿を見せたのも、偶然というべきか、必然というべきなのか。

勝魔が買ってきた妊娠検査薬はやはりシロ、妊娠していないことを示した。
真理子は尿で濡れた試験紙をしげしげと眺め、説明書をもう一度読み直した。
99%の確率で妊娠を判定すると書いてあった。
ふんっ、あてにならないのねん。
やっぱり産婦人科に行ってみようかしらん。

どうせならこの前女性週刊誌に出ていたセレブ御用達のクリニックよね。
そこで子どもを産んで、赤山学院幼稚園に入れるのよん。
770名無し草:2011/11/05(土) 08:48:21.86
腹に胎児ならぬ脂肪をかかえて威風堂々のっしのっしとクリニックに乗り込む
真理子であった。
771名無し草:2011/11/05(土) 16:00:43.77
クリニックの受付は真理子の姿に軽いパニックに陥っていた。
「どうしましょう、これがいわゆる野良妊婦っていうのかしら? あのおなかだともうじきに
出産だわね。こういう人がなぜウチみたいなところに・・・?」

待合にいた本物の妊婦たちは、真理子の悪臭に悲鳴をあげた。まだ悪阻の時期を過ぎていない者は
あわててトイレに飛び込んだ。
772名無し草:2011/11/05(土) 20:51:36.96
健康診断と勘違いして昨晩から絶食していた真理子は、眩暈を覚えた。
(といっても、いつものごとく「ちょっとなら大丈夫よね」と勝手に拡大解釈し、
深夜12時ギリギリまで食べ続け、翌朝も液体ならOKとスープや麺類を人の10倍は吸引したのだが…)

ああ、もうだめ! 真理子は空腹でしゃがみ込んでしまった。
ビックリしたスタッフ数人が駆け寄り、渾身の力で分娩室に運び込ぶと
「すぐに先生を呼んできますから、待ってください!」と叫んで逃げ出した
…ではなかった、医師を呼びに行った。

真理子だけになった分娩室に、赤ん坊を抱いたウソが忍び込んだ。
773名無し草:2011/11/06(日) 14:17:37.71
さあ、いきんでください! 今度は少し楽にーヒッヒッフーで痛みを逃してー
助産婦さんの指導のもと、真理子は顔を赤くしたり鼻息を噴出したりしたが、いつまでたっても
生まれる様子はなかった。
医師は苦い顔をした。今日分娩予定の患者がすでに陣痛室にいる。セレブ御用達のクリニックとして
ヘタな対応は出来ない。
大体野良妊婦?ってなんだ。今まで医者にかかったことのない妊婦がいきなり
出産しに来るなら、もっとほかに適当な病院がありそうなものだ。
医師はひらりと分娩台に飛び乗ると真理子の腹をぐいぐい押し始めた。
赤ん坊を押し出してしまおうというのである。
真理子は顔を真っ赤に、目は白黒させ、処女懐胎、処女出産に挑んでいた。

そして大量の便を出産したのである。その量は分娩台を溢れるほどであった。
阿鼻叫喚。

「浣腸していなかったのか! 早くここを始末しておかないと、次に間に合わないぞ」
医師は言い捨てて分娩室を出て行った。スタッフも慌てて掃除道具を取りに出ていった。
774名無し草:2011/11/07(月) 01:39:15.40
ウソの赤ん坊は粉ミルク1000mlを瞬時で吸引し、気持ち良さそうに眠っていた。
体重はすでに10kg。ウソの腕はすでに限界に達していた。
ウソは仕方なく赤ん坊を床に寝かせたが、赤ん坊は全く平気である。

実は3ヶ月ほど前からウソのマンションの1つに、バレリーナを目指す少女・草軽珠代が居候していた。
珠代の家は関西でも有名な資産家で、珠代は3歳からバレエを初め、ウソの大ファンであった。
ウソが仕事でよく京都に来るというので、父親にせがんでツテを探し、紹介してもらったのは数年前のことである。
その後珠代はバレエの勉強のために英国留学したのだが、突然休学し、家族にも告げずにこっそりと帰国していた。
彼女はウソに、日本人ボーイフレンドの子を妊娠してしまった、とだけ打ち明けたが、
それ以上は頑として話そうとはしなかった。
ウソは珠代の真面目な性格からして、相手はゆきずりの男などではなく、おそらくは以前からの知り合い、
しかも、珠代同様に育ちのいい、関西の資産家のぼんぼんではないかと見ていた。

3ヶ月前のある日、珠代はいきなりウソのマンションに押しかけてきて、泣き崩れた。
相手の方のことはもちろん大好きです。でも、私の家で結婚前に妊娠なんて絶対に許されません。
それに、それに…、私、どうしてもバレリーナになりたいんです。
そのためには、赤ちゃんがいては困るんです。でも、どうしたらいいのか…

自分には玉のように美しい子が授かると信じて疑わず、幸せな日々を送っていたウソは、
珠代の境遇に同情し、自分のマンションの1つを提供し、頻繁に見舞いにも訪れた。
ウソは、珠代がそのうちに諦めて実家に帰るとふんでいたのだが、
彼女は実家に帰るどころか、産婦人科にすら一度も行こうとしなかった。
ウソはだんだん彼女が煩わしくなって来て、自分の出産が無事済んだら、
彼女の実家に連絡して、引き取りに来てもらおうと考えていた。
775名無し草:2011/11/07(月) 01:40:48.20
ウソの携帯から「白鳥の湖」の着信音が鳴った。珠代からである。
「ウソさん、ごめんなさい。赤ちゃんのこと、よろしくお願いします。お世話になりました。」
一緒に送られた写真には、生まれたばかりと思われる女の赤ちゃんが映っていた。
新生児でありながら、まさに玉のように輝く美少女である。

ウソは慌てて珠代に電話した。
長い長い呼び出し音のあと、やっと珠代が出た。
「珠代ちゃん、赤ちゃんを私にちょうだい!
私の娘として、お姫様のように大事にするから、お願い!」
「ウソさん、本当ですか? でもウソさんの本当の赤ちゃんは?」
「いいから、お互いに何も言わない、何も聞かない、そういうことにしましょう。
でも、絶対に大切にするから、信じて。
ダーリンに連絡してそちらに人を遣るから、
珠代ちゃんはそれまで赤ちゃんのお世話をしてちょうだい。」
珠代は思いがけない展開に半ば呆然としていたが、とにかく自分の赤ちゃんを、
大好きなウソが引き取ってくれるということが分かって安心した。

それからほどなくして、ウソの夫が若い研修医を連れてやって来た。
珠代ま無謀にもたった一人で出産したのだったが、若くて体力があるうえに、
ほどなくして研修医の処置を受けられたのとで、大きなダメージを受けずに済んだ。

ウソの夫は若い研修医に相当な額の謝礼を払い、彼とその交際相手である助産師が
毎日このマンションを訪れて母子のケアをしてくれるよう頼んだ。
こうして、珠代に望まれずに生まれてきてしまった珠代の赤ちゃんは、思いがけずも
たっぷりの愛情と手厚い保護を受けることとなった。

ただし、彼女の出生届けは出されないままであった。
776名無し草:2011/11/07(月) 01:54:05.66
ブリブリブリー!
冷たい床で気持ち良さそうに眠っているウソの赤ん坊のオムツから爆音がとどろき、
同時に立ち上ってきた臭気は、鼻腔だけでなく目までも刺激した。
分娩室に隠れていたウソは、すでに真理子の便で瀕死のダメージを受けていたが、
最後の力を振り絞って巨大な赤ん坊の産着を脱がせて分娩台の上に横たえ、
脱兎の如くに走り去ると、病室にもどってジャケットを羽織り、帽子を目深にかぶって病院を抜け出した。

野良妊婦(?)真理子のせいで病院は深夜までパニック状態であり、
元から気まぐれでワガママなウソが勝手に退院したところで、誰も気にする者はいなかった。
777名無し草:2011/11/07(月) 10:11:48.28
「ハヤシ・・・マリコさんですね? ほら、お母さんそっくりの立派な女のお子さんですよ。
おめでとうございます。昨日は突然産気づかれたので、こちらでお産のお手伝いをさせていただきましたが、
実は病室がすべて満床なんですよ。申し訳ないですが、転院していただきたいのです。
ここの病院は本来紹介・予約でしか診られないのです。」

そう、真理子も女性週刊誌でそれを読んでいた。
ここで出産するために、一年以上前から予約するのだと。一年以上前ということは、
まだ妊娠する前からということである。

真理子は何はともあれ、このクリニックで産んだという事実に心底満足した。
「転院って・・・どこに?」
「ご主人様とご相談いただくのが一番ですねえ」
これは精一杯の看護師長のイヤミだったのだが、真理子は「ご主人様」の単語にアドレナリンを大量に噴出した。
やっぱり、運命の人っているのねん。


778名無し草:2011/11/07(月) 17:29:48.87
真理子は子どもを産んだわけでなく、ウ○コを排出しただけなので、元気そのものである。
アドレナリンを放出したせいで、余計に舞い上がってしまっている。
真理子はさっきから空腹を覚えていた。これから別の病院に入院しても、出される食事は小鳥の餌程度であろう。
真理子は赤ん坊を受け取るとタクシーで東條のマンションに帰った。
これから親子3人の生活が始まるのである。
早く東條さんに知らせなくては。
779名無し草:2011/11/07(月) 23:41:27.67
東條に電話しようとしたその時、見知らぬ番号からの着信音が鳴った。
真理子はいぶかしく思いながら「もしもし…」と出ると、
真理子さんですね。僕は東條の友人で城見と言います。
実は今日お宅におじゃまして、色々とお話を伺いたいのですが?
もちろん、東條の許可は取ってあります。

「東條の許可は取ってある」という言葉に、真理子は舞い上がった。
真理子は恥じらいながら答えた。
東條がそう言ったのでしたら、お受けしなければなりませんね。
でも…赤ちゃんがいますので、ゆっくりお話できるかどうか…。
あたくし、たとえ愛する我が子といえども仕事の場に子供を連れてくるのは
いかがなものかと思うんですのよ。
でも幸いあたくしの家にはベビーシッターさんがいますので、彼女にお願いすることにしますわ。

真理子の脳内では、東條のマンションは我が家、勝魔はベビーシッター、そして江原は運転手になっていた。
780名無し草:2011/11/09(水) 14:29:39.84
赤ん坊をつれて帰ってきた真理子には江原も勝魔も息がとまるほどびっくりした。
思わず手をとりあってしまったほどである。
真理子の留守に東條のマンションは二人の手で再度こざっぱり片付いていたものの、
真理子はぐるりと見渡して溜息をついた。これでは殺風景すぎるわん。
これから城見さんという主人の友人を迎えるのに、どうしましょう。
「ちょいと、シッターさん、私出かけるから、この子どもを預かっていてちょうだい。
それから運転手さん、ちょっと家具が必要なのよ。ベビーベッドとかね。
車を出してくれるかしらん。」
シッターさんだの運転手さんだのと呼ばれて二人はきょとんとした。
赤ん坊が火のついたように泣き出した。その声の大きさに二人は再度手をとりあって
震えた。
781名無し草:2011/11/09(水) 17:10:43.88
声の大きさもさることながら、
真理子が腕に抱えている赤ん坊そのものの大きさといったらどうだろう。
まもなく幼稚園に上がりそうな幼児である。しかも、顔の大きさは大人並みだ。
だが、顔つきやしぐさはやはり新生児のそれで、生後何日も経っていないように見える。
いったいこの巨顔巨体児はどこから来たのだろう?
やはり真理子は妊娠していたんだろうか?

勝魔と江原は思った。これ以上ここにいるのは危険だ。
勝魔が言った。
分かったわ。でもちょっとだけ待っててちょうだい。
さっき食料品を買ってきたのよ。新米の魚沼産コシヒカリ30キロとすき焼き用のお肉、
それにお刺身と、行列の出来るお店の鯛焼きも。
今ちょうど車から運んでこようとしてたところなの。
重くて大変だから私達に任せて、真理ちゃんはここでゆっくり休んでいてちょうだい。

2人は上着を羽織って玄関を出ると、脱兎の如くに駆け出した。
江原は車を急発進させ、やみくもに走らせた。
しばらく走ると、郊外の大型ショッピングモールが見えてきた。
勝魔が口を開いた。あそこでひとやすみしない?真理ちゃんに振り回されっぱなしで疲れたわ。
夜だってイビキがうるさくて眠れないし。
そうだわ、あそこの映画館に入りましょうよ。「八月の蝉」って映画、ぜんぜん流行ってないらしいから、
きっとガラガラよ。昼寝するのにちょうどいいんじゃない?
782名無し草:2011/11/11(金) 11:01:38.06
真理子がいつまで待ってもコシヒカリも肉も鯛焼きも戻ってこなかった。
待ちきれないのは真理子の胃袋で、さっきからグルグルキュルキュルと悲鳴をあげていた。
冷蔵庫のものをあらかた食べつくしてもなお悲鳴はやまなかった。

あの二人・・・変だわ。昨日の晩は二人きりだったわけでしょう? 何があったっておかしくないわ。
さっきなんか、私の見ている前で手を取り合っちゃって。
そういえば、ラブホテルに泊まることになったときだって、男部屋女部屋でわけたら、
勝魔のイヤそうだったこと。その後二人でどこかに行ったきりしばらく帰ってこなかったじゃない。
真理子は自分の下品な妄想が爆走するのを止めようともしなかった。
783名無し草:2011/11/11(金) 19:52:54.22
  映画館で眠るつもりだったが、払ったお金がもったいなくて、江原のいびきを隣に聞きながら勝魔はついつい映画を見入ってしまった。
 ワードなんとかの薪ちゃんのオヌヌメ映画とちょっと前にブログで書いてあったのを見たような気がする。
 ストーリーは不倫相手の妻の子供を愛人が誘拐して育てるというものだ。
 スクリーンに映し出される真理子が連れてきた赤ん坊とは全く異なる、かわいらしい子役の赤ん坊を見た時、勝魔ははっとした。
 
 ちょっと前まで経血スカートはいてなかった?しかもまだ一か月もたってないはずよ。
 あの赤ん坊はマリちゃんにそっくりだけど…でも、生理があった女に妊娠なんてありえない。
 それともあれは切れ痔スカートだったの?そ…それはさすがに考えたくないわ…
 ということは……やっぱりマリちゃん、子供を誘拐してきたのよ。大変……。
 今ですら全国指名手配の存在なのに……。私達このままだと、誘拐の共犯者としてつかまってしまうわ。
 
 江原を置き去りにして、勝魔は逃げ出した。
「ごめん、もう、限界」
784名無し草:2011/11/12(土) 21:59:24.36
究極のところ、女性は男性よりドライなのかもしれぬ。

八月の蝉の上映が終わって観客の立つ気配で江原は目がさめた。
膝の上には「ごめん、もう、限界」と走り書きのメモがあった。
仕方ないよな・・・江原も立ち上がり、さて、これからどこへ行こうかと
思案した。やみくもに追われるように(実際指名手配犯をつれていたので追われていたわけだが)
東京に出てきたものの、江原にどこといってあてはなかった。

不意に真理子の赤ん坊の泣き声が耳朶によみがえった。
真理ちゃん、腹減っているんだろうな。赤ん坊のミルクやオムツは足りているのかな。
「情けは人のためならず、か。それとも醜男の深情け、か・・・」

江原はドラッグストアで若い女店員に相談しながら当座必要そうなものを買い揃えた。
スーパーでも食料品を買い込んだ。おくさま印のブレンド米、オージービーフ、イカとタコの刺身、
薄皮あんぱんである。
785名無し草:2011/11/14(月) 14:03:07.87
江原が部屋に戻ると、そこは空き巣に入られたような惨状であった。
真理子が食べ物を探してそこらじゅう引っ掻き回したのである。
赤ん坊はというと、和室の真ん中に直に寝かされ、タオル一枚かけてもらっていなかった。
そして、新生児とは思えないような大きく野太い声で泣き続け、
パンパンに膨らんだオムツからは異臭が漂っていた。

「ちょっと、どこ行ってたのよ、食べ物は!!!」 まさに餓鬼の形相をした真理子が叫んだ。
江原の手から買い物袋を奪い取って薄皮アンパンをつかみ出すと、歯で袋を引きちぎって開け、
瞬時に呑み込んでしまった。
同じようにして10個のアンパンを吸引し終えると、やっと言葉を発した。
「コシヒカリは?お肉もお刺身も鯛焼きもないじゃない!カズちゃんが持って来るの?」
「カズちゃんはもう帰って来ないよ」
「どういうこと?」
「真理ちゃんがあんまりワガママだから、愛想尽かして逃げたんだよ。」
「何ですって、私が何をしたっていうのよ!」
「ここに来てからというもの、僕たちが買い出しに行って、真理ちゃんは勝手に食い散らかして、
僕たちが片付けてたでしょ。真理ちゃんはお金も出さないし手伝いもしない、
お礼すら言わないどころか僕達を邪魔者扱いして出て行って欲しそうに嫌味を言う、
なのに子供が出来たら今度は、僕達を運転手やベビーシッター扱い。カズちゃんじゃなくても怒るよ。」
「でも、私は妊婦で安静にしてなくちゃいけなかったんだから」
「妊婦だって、トイレを汚したらきれいにするとか、ペーパーを使い切ったら新しいのをホルダーにセットするとか、
自分が使った物を元に戻すぐらい出来るでしょ。
とにかく、カズちゃんは戻ってこないし、僕もこれが最後だ。」
786名無し草:2011/11/14(月) 14:04:23.01
「じゃあ、最後に車で近くのスーパーまで送ってくれない?すぐ食べられる物を買いたいの。」
「赤ちゃんはどうするの?チャイルドシートがないんだから、乗せられないよ」
「赤ちゃん?チャイルドシート?」
「ところで真理ちゃん、赤ちゃんはお腹空いてないの?母乳を飲ませたの?」
「はあ?」
「まさか真理ちゃん、帰ってきてからずっと放ったらかしなの!」
「え?だって、何すればいいのよー、ベビーシッターはいないし。」
そこで江原は初めて気が付いた。真理子には全く母性というものが感じられないのだ。
子供というモノを入手したという満足感はあっても、母になった喜びや子に対する慈愛というものがないのだ。
さらに江原は妙なことに気が付いた。この母娘の間にあるべきはずの絆、
本来ならば細くてかすかに光を帯びた絹糸のようなものが全く見えないのだ。
江原は考え込んだ。こんなことってあるんだろうか。
真理ちゃんが子供に全然無関心だから、糸が見えないんだろうか。
しかし、江原は霊視しようとはしなかった。
すれば即座に本物の親子でないことが分かったはずなのだか、前に恐ろしいものを見て
危うく命を落としかけたことがあったので、もう真理子の霊視はするまいと決めていたのだ。
787名無し草:2011/11/14(月) 17:20:13.42
「真理ちゃん、赤ちゃんのこと東條さんには知らせたのかい?」
「それが・・・何度かけてもつながらないのよ。新幹線の中で電源を切っているのかしらん」
東條が真理子の番号を着信拒否にしていることを知る由もない真理子であった。
788名無し草
「真理ちゃん、刺身と肉だったら僕がスーパーで並んで買ってきたのがあるよ」
並んで買ってきたの一言で真理子の目は一瞬輝いた。
江原は財布からレシートを引っ張り出すと、「真理ちゃんが一人で食うんだろ、
立て替えてきたよ」
「けち臭いことを言うわね。私、こう見えても、ケチじゃないわよ。そりゃ商家の生まれだから
計算は速いわよ。ブランドだって詳しい。
寄付だって喜んで出すほうよ。そのことを、あちこちの雑誌や新聞に何度も投稿したわ。」
真理子は口角泡を飛ばす勢いでまくしたてた。