【リレー小説】マリコの悪夢は夜ひらく?【直木賞?】

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1名無し草
真理子センセの悪夢。

うたた寝からさめると、そこは山梨の小さな町の本屋のレジの前。
腕にうっすらと涎の跡が。
やはり、ワインも、ジル・サンダーも、予約のとれない店も直木賞も
80年代からこっちの華やかな日々はすべて夢だったのだ。
ため息をついて、はたきで本棚のほこりを払う私。今月もかつかつ
の売上だ。

(勝手にリレー1)
客から注文があった、今人気抜群の鬼島佳苗先生の小説「婚活と練炭」を入荷した。
パラパラめくって、プロフィール写真をみると、
「なんか私と変わらない感じじゃない」とつぶやく。
また東京に出てみようかな。。。。
だめだ。
さっきの夢みたいに、一度でいいから、
しゃぶしゃぶとすき焼きと肉丼をフルコースで食べてみたい。
2名無し草:2011/08/14(日) 18:51:18.38
(勝手にリレー2)
あっお客だ・・・慌てて寝癖のついた髪に手櫛を入れ「いらっしゃいませ」
・・・高校で私の学年一個下だった人だ・・・
エリートの旦那を捕まえて結婚し、今は東京で普通の主婦をしているらしい。

「こんにちは、木木先輩。お久しぶりです。」
笑顔になると、真っ白の歯とキレイな歯茎が見えた。
定期的に歯医者に通って手入れしているのだろうか。
上から目線で見下すように私の身なりを値踏みしているようだ。
今日の私の服装といえば、横皺の寄った白Tシャツと前ボタンを必死でとめた紺カーデ。

(勝手にリレー3)
悔しいが、真っすぐの歯並びには負けた。
このままではいけない。
早くすっごい金持ちと結婚して、同窓会名簿に旧姓林と入れたいものだ。
あ、胸のボタンが取れかけだ。巨乳の威力はスゴい。
それにしても暑い。カーデは脱ぐとしよう。
え、ナニ?干し芋のカスが落ちたではないか。なんでこうなるワケ?
ピンポ〜ン♪
あれ、見たことない男性だ。うちなんかの本屋にも、
3年に1回位はこんなとびきり…ではないが、イケメンが来るのだ。
鏡がないけど、私イケてるはず。「は〜い、いらっしゃいませ♪」
3名無し草:2011/08/14(日) 18:52:52.26
(勝手にリレー4)
うんと乱雑に散らかった店内をしばらく無言で眺めてから、イケメン氏は訊ねた。
「『ブックショップ・チョモランマ』さんはこちらでしょうか?
あの有吉イ左和子先生の再来と呼ばれる、たいそう有望な作家のかたが
経営されていると聞いて東京から来たのですが。」


(勝手にリレー5)
「あっはいわたくしです。」といいつつ駆け寄る。
なにせ声には自信がある。
マリリンという渾名で呼ばれるていた程ねっとりとからみつくような官能的な声なのだ。
こういう時の為に爪と髪の手入れは抜かりなかった。
女の本当の価値はこういう細かい所に出るのよ。
4名無し草:2011/08/14(日) 18:53:46.78
(勝手にリレー6)
男は私が丹念に淹れた茶をちゅっとすすりながら聞いた
「あんたさぁ、真剣に小説書く気あんの?」
スカウトだ!瞬時にした私は(こういう所、私はとても勘がいい)
うんとじらしてから応えようと、すいと背中を伸ばした。
5名無し草:2011/08/14(日) 21:34:29.29
(勝手にリレー7)
すいと背中を伸ばしたのはいいけれど
伸ばしすぎた弾みで胸のボタンが弾け飛び
自慢の巨乳がポロリとはみ出してしまった。

しかも、生身の巨乳ではなく、ヨレヨレになったベージュ色の
ブラで、近所のスーパーの特売で買った安物だった。

6名無し草:2011/08/14(日) 22:10:12.89
(勝手にリレー8)
男は、突然のことに
ぶっ!!と、飲んだお茶を吐きそうな
仕草をし、おどけながら
「あんたさぁ、鬼島先生の本読んだ?」と
訊ねてきた。

「ええ・・・はい・・・」と、答えながら
私は、前かがみになりながら、胸元を腕で隠した。
7名無し草:2011/08/15(月) 00:07:46.94
(勝手にリレー9)
ぽっちゃりした赤ちゃんの様な私の指は
ヴィーナスの誕生みたいに胸のボロブラをうまく隠しているはず。
CAになった稲穂ちゃんが着けているらしいラ・ペルラのブラ、
いつか代官山のランジェリーショップにでも行って手に入れてやる。
「鬼島センセイ?」
私と似た美人の、あの本の紹介にあったセレブっぽい人だろうか。
どう答えようかとふと間があいた。
と、その時、イケメンだと思っていた男が言った。
「ここブックス・チョロランマさんですよね」

「いえ、ブックショップ・チョモランマです」
私の中にアリドリナンが増えてきたようだ。
8名無し草:2011/08/15(月) 05:26:57.04
(勝手にリレー10)
男は湯呑みを置くと静かに笑った。
白い歯がこぼれる。歯並びの良い男は好きだ。育ちの良さを感じる。
「すごいなあ、鬼島先生、今売れてる『婚活と練炭』とデビュー作『喪男キラー』が
直木賞候補になったってよ。選考委員の桐野夏生先生が大絶賛している」

ドクン…
私の中のアドレナリンが加速度をつけて増加した。
どうして、どうして私に似たこの女が都会で小説で成功してちやほやされて、私は田舎の小さな書店の
店長なの?どうして?おかしいじゃない?逆よ!
9名無し草:2011/08/15(月) 13:10:23.49
(勝手にリレー11)
ドクン…
私は思わず男に聞いた
「あのう、鬼島先生のあの噂は本当なんですか?本を売るためなら取材相手に
手料理をふるまったり編集者と寝たりするって、田中カス夫先生がエッセイで
書いてましたけど」

グウウウウー
いけない。怒りと嫉妬でお腹が空いてきた。
10名無し草:2011/08/15(月) 16:57:32.35
(勝手にリレー12)
キュ〜〜グルルルゥ〜〜〜
鄙びた小さな店内に響き渡るように
マリコのお腹から異音が発せられた。

《あああ・・・・こんな時に、お腹の虫が
きゃっ!!イケメンの前で、私のお腹ったら
なんなの??》
顔を真っ赤にしながら、マリコは咄嗟に
「いやぁ〜〜〜ん・・・恥ずかしいわ・・・
実は、ダイエットしようと思って
一昨日から、食事を抜いてるんですよぉ〜〜」と
甘えるように、ねっとりした声で男に言い訳をした。

本当は、ダイエットなどしてやいない。
お昼ごはんも丼鉢に2杯平らげ、その後に
芋切干をボリボリ5つほど食べたばかりなのであった。

「へ〜〜・・・・一昨日から、ご飯抜きですか?」
ニヤニヤしながら、男はマリコの体を舐めるように
じっとりと見回した。
11名無し草:2011/08/15(月) 18:40:09.37
「私の父は銀行家でしたし、母は女学校で教えていました。
子どもの頃からたいそう厳しく躾けられて育ったんですよ。
そんな食べ物に卑しい育ちではありませんことよ?」

本当は空腹でたまらないのだが、見栄を張って言ってみた。
12名無し草:2011/08/15(月) 18:47:55.48
「それよりまだ貴方のお名前を伺っておりませんわ。
ちゃんと名刺を出して名乗って挨拶するのもじゃなくって?」

(そして菓子折りくらい持参するのが当たり前というものだ。
もちろん普通の人には入手するのが難しい有名店のものをね、と心の中で付け加える)

男はやっと、誂えらしいジャケットの胸ポケットからプラダの名刺入れを出した。
染みだらけの薄汚れたテーブルの上に置かれた名刺には
  クリエイティブワードプロデューサー 東條純一郎

(東條眞理子・・・・思わず相手の苗字と自分の名前を組み合わせてみた。
少女小説に登場する令嬢の名前にふさわしい。
この名前が一流女流作家として書店の棚を飾ったり、直木賞受賞作家の名前として
報道されるんだわ・・・・・!)

13名無し草:2011/08/15(月) 20:04:41.25
デビューしたものの鳴かず飛ばずの作家…それが今の私。
作家だけでは生活を支えられなくて、地元のタウン誌に子供のお小遣い程度の
ギャラで記事を書いたり、スーパーのちらし作成を請け負ったり、母から受け
継いだこの小さな書店を切り盛りしてどうにか生活していた。

この10年、インターネットやら、パソコンやらが普及して、私がそれを使いこなせない
と知ると、タウン誌の仕事もスーパーの仕事も来なくなってしまった。

「クリエイティブワードプロデューサー 東條純一郎」

この男が私を一流女性作家として華やかな舞台に押し上げてくれるのかもしれない。
夢にまで見た一流のワインも、ジル・サンダーも、予約のとれない店も直木賞も
この手に入れることができるかもしれない。
チャンスだわ。
私は肉づきのよい身体を震わせた。
14名無し草:2011/08/15(月) 20:16:07.97
東條は、マリコに向き直り
「あんたさぁ・・・鬼島先生が枕営業してるって思ってるの?
田中カス夫は、ホラ吹きの大風呂敷で業界の鼻ツマミなんだよ。
ヤツは、鬼島先生に粉かけたのに、肘鉄砲食らわされて
逆切れして、あることないこと言いふらしたり
書き散らしたりしてんだ。」と、ため息をつきながら言い
「あ〜〜あ・・・・これだから、女って、ヤだよね〜〜」と
呟いた。
15名無し草:2011/08/15(月) 20:36:38.61
私は、東條に叫びたかったのだ。
『鬼島先生が、売れるために手料理を作ったり
自分を引っ張り上げ売り出してくれる人に体を投げ出したりしたのは
本当ですか??それが、事実なら私は喜んでお料理作ります!!
誰とでも寝ます!!』と。

決して、田中カス夫が鬼島先生を売春婦のように揶揄ったことに
「とんだ食わせ物ね、鬼島って」眉をひそめたのではなく、
寧ろその程度のことを行動に移すだけで自分が有名になれれば
喜んでこの体を投げ出そうと思い、それが事実かと
確認したかっただけだったのだ。
16名無し草:2011/08/15(月) 20:51:41.50
東條は、そんな私の胸の内を見透かし
上手くはぐらかすように
「鬼島先生のお料理上手はピカイチだからね〜〜。
ここだけの話なんですけどね。
あのグルメで有名なエロ作家の神様と呼ばれる渡辺ずんいち先生でさえもが、
料理研究家が作家になったと、鬼島先生を誉めそやして
愛人の大根女優の椛島奈緒美がヤキモチ妬いて
高級ワインを渡辺のツケで買い漁り、渡辺は肝を冷やしたらしいけど
渡辺先生も鬼島先生の手料理にメロメロになったらしいですよ。」と
マリコの胸元をみつめながらニヤリと笑った。
17名無し草:2011/08/15(月) 21:06:06.69
マリコは、鈴が震えるような甘い声でゆっくりと
東條に囁くように訊ねた。

「あなたも、鬼島先生のお料理をお召し上がったことが
ございますの?」

東條は、あっさり「ありますよ。だって、俺、先生の担当で
週に2回以上は、先生のマンションに行ってますから」と、のたまった。

「あ・・・・あら、まぁ・・・そうなんですか、鬼島先生は
どうしてそんなにお料理がお上手なのかしら?」マリコは、ドギマキしながら
訊ねた。

「あんた、コルドンブルーって料理学校知ってる?
鬼島先生は、その学校出てるんだよ。」
東條は、まるで自分がその学校出身者のような得意顔で
答えた。
18名無し草:2011/08/15(月) 21:17:39.89
コルドンブルー・・・・

コンドルは飛んでいく。。。。なら、知ってるけど・・・
コンドーム。。。。は、ここ数年見たことないわ・・・・
コナンドイル。。。。子供の頃読んだわ・・・

マリコの脳内は、初めて聞く単語に、少しでも
似たような聞いたことがあるような言葉を捜して
パンク寸前になった。
19名無し草:2011/08/15(月) 21:29:50.87
肩こりのコル、親分のドン、青のブルー マリコは必死で料理学校の名前を覚えながら、

男はおいしい料理と豊満な肉体があればイチコロなはずだとひとりごちた。
20名無し草:2011/08/15(月) 22:00:20.36
マリコの脳内に『ル・コルドンブルー』は、幸せの
パスポートを手に入れる場所として刻み込まれた。

「コルドンブルーに入りたいです!!子供の頃から
お料理には関心があり、弟の面倒をみながら
よくお料理を作りましたから、お料理を作ることは
大好きなんですよ〜〜〜」

満面の笑みを浮かべながら、マリコは
東條ににじり寄った。
21名無し草:2011/08/15(月) 22:15:29.40
東條は、マリコがクネクネ体を揺らしながら
コルドンブルー、コルドンブルーと連呼する姿を
憐れむように「あんたさぁ、コルドンブルーの学校は
日本に東京と神戸にしかないんだよ。
東京まで、通うか?
それと・・・コルドンだけど、普通の料理教室と違うよ。
基礎から上級までマスターするのに、受講料だけで
ざっと320万かかるよ。
あんたに、その金出せるの?」
22名無し草:2011/08/15(月) 22:57:19.96
(勝手にリレー)

320万…お高いワインが何本買えるかしら?
予約の取れないお寿司屋さんで、たっぷりとした大トロをたらふく吸引して、持ち込みのワインで舌を洗う。
こんな贅沢なディナーが何回できるかしら?

どうしましょう、ますますお腹が減ってきたわ。
青空文庫を中心に、無料で参加できる読書会を開催しております。なるべくコテを付けて参加して下さい。でも名無しもオッケーだよ♪カモンナーウ

【ケンカ乱闘】読書会スレ7【なんでもあり】
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/book/1312460718/
24名無し草:2011/08/16(火) 00:10:05.04
(勝手にリレー…私一体何番目?)

お金なんて出せない。目玉が飛び出るくらいだ。
それに大事なことを忘れていた。
カタカナに弱い私がワインや料理の名前を覚えられるのであろうか??
日本語でさえ、高島屋をタカマシヤ、靴下をツクシタと言ってたくらいだ。
カルベネなんちゃら、トタンジェとか言って、
ワインに詳しいCAの稲穂ちゃんに馬鹿にされたことがある。

それより、フードディレクター、いやワードプロデューサーは
ブックス・チョロランマ?と確認するほどお間抜けのようだが、信用できる人なワケ?
なんでも、ブログでPCと文章力を駆使する薪ちゃんとか、
ファッショナブルな男の子を助手にしているとか言ってたが
私にいったい何をして欲しいというのか。

妄想を膨らませるではないか・・・
25名無し草:2011/08/16(火) 01:38:39.60
とりあえず、お腹の虫を黙らせる為に
お茶を飲もう・・・

マリコは、麦茶の入ったグラスに手を伸ばし
ちゅっと口をつけゴクゴクと喉を鳴らしながら
飲み干した。

左手で、薄汚れたヨレヨレのブラが東條の目に触れないように
胸元を隠しながらも、(白い喉をのけぞらせながら
お茶を飲む様をみせつけたら、この男は欲情するかしら?)などと
考えながらマリコは妄想を膨らませた。

(急に押し倒されたりしたら、どうしましょう・・・
下着は綺麗だったかしら?)
期待と不安に胸が高鳴った。

「あんたさぁ・・・・」
「はい!!」
身構えたマリコに東條は続けた。

「あんたさぁ・・・・ちゃんと風呂に入って首洗ってるの?
垢が蛇の鱗のように首筋にびっしりついてるけどさ・・・」

26名無し草:2011/08/16(火) 02:39:49.65
(勝手にリレー27)
マリコは、怒りと恥ずかしさで真っ赤になった。
確かに、ここ二日ばかりお風呂に入っていないことは確かだった。

『生理中は入浴するな、お湯が穢れる』と
女学校の教師をしていた母親に命じられて以来
忠実にその教えを守っているのだ。

生理は今日で三日目だったはず・・・
慌ててマリコは立ち上がり、スカートの裾を直すふりをしながら
腰の辺りに目をやった。

(ホッ。。。。よかった、経血はついていないわ。。。)
安堵の表情を浮かべたマリコは、首筋の汚れを
指摘されたことも忘れ
「ところで、東條さんは何の御用で
このお店にいらしたのかしら?
まさか、本を買いに・・・じゃぁございませんわよね。
鬼島先生の担当とか仰いましたけど
お名刺には【クリエイティブワードプロデューサー】 と。
出版社の社員さんじゃございませんの?」
27名無し草:2011/08/16(火) 02:54:28.62
(勝手にリレー28)
「あははは・・・・」
東條は、白い歯をみせびらかすように
明るく笑い
「鬼島先生のブログ関係の担当してるんですよ。
小説とは違った鬼島先生の生活感溢れる毎日が
写真と共に垣間見ることができて、読者に評判がいいんですよ。
それから、『佳苗キッチン』という鬼島先生の料理ブログと
『カナリンファンクラブ』の運営も私が担っているんです。
『カナリンファンクラブ』は、狂信的な鬼島先生のファンが多くて
ちょっと異質な感じにはなってますがね・・・」
苦笑しながらも、東條は誇らしげに語った。
28名無し草:2011/08/16(火) 05:38:24.17
(勝手にリレー29)
ええっと、ぶろぐって…いんたーねっとの日記みたいなものなのよね?
独り言の方だったかしら?あれはツイスターだったかしら。
恥ずかしいことに私は今だにパソコンができない。
ウインドウスとインターネットの区別すらついていないのだ。
先日従妹の子が遊びに来て
「3ちゃんねるの山梨BBSに『ブックショップ・チョモランマ店長監視スレ』があって驚いたよ」
とか言っていたけど、よく理解できなかったわ。
29名無し草:2011/08/16(火) 07:36:52.78
そういえば、従妹が手土産に持ってよこしたロールケーキの残りが冷蔵庫にあるはずだ。
親戚へ子どもを遊びに行かせる際は、有名な菓子を手土産に持たせるのが
常識というものだ。
渡されてすぐ、ナイフを出す暇ももどかしく
手づかみでかぶりついたのだが、カステラもクリームも普通だった。
この男、いやもう親しく歓談する仲なのだからトージョーさんと呼んでいいだろう、
二人で分け合って食べて片付けてしまおうか。

「トージョーさん、お茶菓子を出さずに失礼しました。
いまロールケーキをお持ちしますわん。従妹の周りでは美味しいと評判で、
わざわざ取り寄せさせたんですよ。」
30名無し草:2011/08/16(火) 08:13:08.33
台所へ行くと名のある窯の作のはずだが、端がかけた皿に、分厚く切りわけたロールケーキを載せた。
口の中がよだれでいっぱいになる。
31名無し草:2011/08/16(火) 09:19:43.96
じゅるるるるるぅ〜〜〜

「あっ!!いけないっ!!」慌てて肉付きのよいムチムチした腕で
拭おうとしたが、だらしなく開いた口から涎がつつつーーーと、
ロールケーキに零れ落ちてしまった。

ロールケーキに染み込んだ涎は、そこだけが異様な色に変わり
まるで蜂蜜を塗ったようだった。

「誤魔化さなくっちゃ・・・」呟くと
マリコは、幼馴染の養蜂家に3年ほど前もらった
蜂蜜を垂らしてみた。

「うふっ♪なんだかお洒落になったわ。
早く、東條さんに食べさせてあげなくっちゃ・・・
私の涎が染み込んだケーキ。。。きゃぁ〜〜ん・・・
これって、間接キッス??」マリコの心臓は
喜びに打ち震え、ドクドク高鳴った。
32名無し草:2011/08/16(火) 12:02:08.52
「トージョーさん  これは、予約がなかなかできない店の宮古島ロールにマリコソースをかけたのよ」
と、出したのだが、ご存知ないのか狂喜乱舞しないのでガッカリ。

33名無し草:2011/08/16(火) 15:54:18.62
ガッカリした気持ちを紛らわせるため、麦茶のお代わりをぐびーと飲み干した。
34名無し草:2011/08/16(火) 16:10:37.84
(トージョーさんて、舌を噛みそうな難しい肩書きの仕事を東京でしている割には
流行のグルメに疎いのね…
よく顔を見てみれば一重まぶただし。
一重まぶたは男性の場合、しょうゆ顔で良いかもしれないけれど、
美しい女はやはり二重まぶたでなければならないものだ。
そう、この私のように。)

いつも商店街のおじさん連中から「目が大きくてぱっちりしてるね」と褒められる
自慢の大きな瞳で、パチパチ瞬きしてまつ毛を強調しつつ
トージョーさんを潤んだ眼差しで見つめてみた。
35名無し草:2011/08/16(火) 16:45:07.35
東條は、マリコの出したロールケーキを平らげると
「なんか、変わった味と匂いのするケーキですね・・・
これまでに食べたことのない不思議なお菓子でした。
どうもご馳走様」と、お皿をマリコの方に向かって差し出し
ペコリとお辞儀をした。

マリコは、東條が使ったフォークに、生クリームがタップリ
付いているのを見つめながら体が疼いてきた。

「あら、もう宜しいんですの?もう一切れお出しいたしましょうか?」
「いえ・・・もう充分頂戴いたしましたからお構いなく・・・」
「まぁ。。。。そうですか、では、お皿を片付けて参りますわね」

東條が使った欠けたお皿をひったくるように持ち上げると
マリコは台所に駆け込んだ。

そして、東條が使ったフォークに付いた生クリームを
丹念に舌をチロチロ蛇のように使いながら
舐めあげたのだった。

「私の涎を体に入れた東條さん・・・ラブ〜〜〜!!
その東條さんの唾液が私の体に入った。。。。
ああああ〜〜〜〜・・・・妊娠したらどうしましょう・・・」
恍惚の表情を浮かべながら、妄想に耽るマリコであった。
36名無し草:2011/08/16(火) 16:50:32.57
キモ…
(マリコじゃなくて>35が)
37名無し草:2011/08/16(火) 17:55:06.89
もしも女の子が生まれたら、親子というより女友達みたいな関係を持ちたいものだ。
一緒に食べ歩きをしたり、ショッピングをしたり、芸能人のゴシップで盛り上がったり、
ボーイフレンドとのデイトについて打ち明け話をしたり、
私が今まで持ちたくて持てなかった親友のような関係になりたい。

もちろん、私が娘の価値観や話題に歩み寄って合わせるのではなく
娘が私と同じ価値観・感性を持ってくれるのが当然だ。
娘とは母を無条件に愛し気遣い思いやり寄り添うものなのだ。
・・・私と母の場合は、母が厳しすぎたためそういう親密な母娘関係は持てずにいるのだが。
38名無し草:2011/08/16(火) 20:09:59.00
マリコは、かつて母の大学(今で言う専門校に毛が生えた程度の学校だけど)
時代のご学友の嫁ぎ先にお世話になったことを思い出した。

母と違って、そのご学友は、美しい女性だった。
優しくて、物腰も柔らかでスタイルがよく、お料理が得意だった。
私は、田舎から東京の大学に受験することになり
その豪邸に宿泊させてもらったのだ。

そこには、目を見張るような可憐な四姉妹がいた。

まるで、若草物語のような世界だった。
違うのは、若草物語が、貧乏な家庭が背景だったが
この四姉妹は、聡明で美しい母を持ち、立派な職業に就き
高給を稼ぐ父を持ったゴージャスな姉妹だったのだ。

私は、あの姉妹が羨ましくてならなかった。

あの姉妹とあの美しいオバサマの母娘関係が
究極の幸せで、人々の羨望を集めるのだ。

私は、あのオバサマになりたい!!
そして、私が生んだ娘は、あのオバサマの娘達のように
美しく我侭で可愛らしく賢くて誰からも愛されて・・・玉の輿にのるのだ!!
39名無し草:2011/08/16(火) 20:17:46.05
(勝手にリレー39)
台所でフォークを握り締めながら
まだ結婚もしていないのに
しかも生まれてくる子供が女の子だと
決まっているわけでもないのに
マリコは、自分と娘との幸せな関係を妄想し
ウットリした。
40名無し草:2011/08/16(火) 21:22:20.90
(勝手にリレー40)

トントン・・・トントン・・・
背中をつつかれ、マリコは、ハッ!と我に返り振り返った。

そこには、東條が立っていた。

「あっ、あっ、あなた!!失礼ですよ!!他人に家の台所に
勝手に上がりこむなんて!!」
マリコは、フォークを持った手を振り上げながら怒鳴り散らした。

あまりのマリコの形相に恐れをなした東條はオドオドしながら
「いや・・・すいません・・・・
あまりにも戻ってくるのが遅いんで、倒れているんじゃないかと
心配になって見にきたんですよ・・・・」と応えた。

「まぁ。。。。私のことを・・・・心配して下さったの?。。。」
マリコの脳内で『心配』と言う単語が『愛情の表れ』と勝手に変換された。
41名無し草:2011/08/16(火) 21:44:42.44
(勝手にリレー41)

マリコは、しおらしく俯いたあと
子猫が甘えるように
東條をウルウルと濡れた瞳で見上げ
「ごめんなさい。。。私ってば・・・・
貴方のそんな気持ちもわからないで勝手に怒ったりして・・・・
こんな私。。。。貴方の好きなようにして・・・・」と
優しく可愛らしい声を最大限に出し、東條の胸に
しなだれかかった。

42名無し草:2011/08/16(火) 22:00:36.71
(勝手にリレー42)

東條は、ふいにマリコに倒れ掛かられ
よろめいて台所のテーブルの角に頭を打ち
そのまま失神してしまった。

身長178cm、体重65キロのスリムな東條は
身長165cm、体重87キロの巨体のマリコに
覆いかぶされるように圧し掛かられ、苦しさに
失神しながらも呻いている。

東條が気を失ったことで、マリコは気が動転した。
倒れた東條に馬乗りになったまま
「東條さん!東條さん!!しっかりして!!
起きて!!返事して!!」と、叫び続けた。
43名無し草:2011/08/16(火) 22:42:45.55
(勝手にリレー43)
失神した東條はというと夢を見ていたのである。

自分が子供のオカピーで群れから少し離れて泉で水を飲んでいると・・・
水中から突然現れた巨大な母カバに襲われたのである。
「助けてママ、ママー僕一人でお出かけした罰なの?タ ス ケ テ(夢に中で更に意識が遠のく)」
44名無し草:2011/08/16(火) 22:57:42.59
(勝手にリレー43)

う・・・う〜〜〜ん

東條は、後頭部に鈍い痛みを感じながら
重い瞼を徐々に開けた。

「ここは・・・どこだ・・・?」

見上げた先に広がる天井は、煤で黒光りし
安っぽい蛍光灯の電球が眩しい。

その蛍光灯の傘には、蜘蛛の巣が張り
無数の埃が積もり、蜘蛛の巣は大きな灰色の塊に見えた。

再度、東條は「いったい・・・・ここは、どこなんだ?」と
思い出そうとした時に、ぬっと
マリコの大きな顔が目の前に現れた。
45名無し草:2011/08/16(火) 23:06:32.16
>>44

すいません!!
リレー番号、被ってしまいましたね。
でも、書いてる内容は、同じような感じです。
嬉っ!!
46名無し草:2011/08/16(火) 23:32:12.28
この男性は、将来私と結婚して可愛い娘を持つはずの
大切な相手なのだ。
生まれてくるであろう娘は、ミッション系有名私立に幼稚園から入れて
お嬢様として育てるつもり。
その大切な結婚相手(まだプロポーズもしていないが)をみすみす若死にさせるわけにはいかない。

何が何でも生きてもらうのだ!!!
さあ、マウス・トゥー・マウスの人工呼吸で
私の息を吹き込み、ゴージャスな結婚式へこぎつけねば!!!
47名無し草:2011/08/16(火) 23:49:04.90
マリコは、テレビで見た
救急救命士の人工呼吸のシーンを
思い浮かべながら、思いっきり空気を吸い込んで
東條の口に自分の口を重ねた。

きゃっ!!初めての感動的なキッスだわ!!
まるで、眠れる森の美女の逆バージョン。。。

私は、白馬に乗った王子様・・・
東條さんは、意地悪な魔法使いに魔法をかけられ
眠りに落ちた王女様・・・・

さぁ。。。。マリコ!!頑張るのよ!!
東條さんを眠りの森から救い出すのよ!!

ぐおぉ〜〜〜ぶひィ〜〜〜
マリコは、渾身の力を込めながら
東條に息を吹きかけた。

48名無し草:2011/08/17(水) 10:12:57.95
東條はハッと我に返った。
「あー。最低な夢見たぜ。何だよあのカバは。もうちっとで水中に引きづり込まれる所だった。ふー。」
すると頭上から「東條さん気が付いたのね。あらー良かったふふふ。」とくぐもった声がした。
見上げるとそこには夢の中にいたカバが化粧して仁王立ち!

「グエー夢じゃなかったんだーギャッ」と叫ぶなり一目散に逃げ出した。

残された真理子は「何なのあの男。礼も言わずに。これだから下流は嫌なのよ。」
と憤慨するのであった。
49名無し草:2011/08/17(水) 11:02:20.35
(勝手にリレー48)
「東條、アンタ使えないわねー。」
鬼頭佳苗はスワロスフスキー満載のスマートフォンに冷たく言い放った。
場所はアヘット・ヴァージン画報社の資料室。
今読んでいるのは2005年の25ansのバックナンバーで開いているページはウブカッタ・トゥ先輩の
書いた「デオン」だ。
執筆中の作品とは関係ないが、美形の誉れ高いウブカッタ先輩の書いた物で本になっていない文章を
読んでおきたかったのだ。
佳苗の今回の小説は非モテのデブスの心の叫びがテーマなので、東條にこれと言う女性の日記を入手
してくるよう頼んだのだった。

佳苗は思った。
「案の定襲われかけて逃げ帰って来たわ。でもその時の恐怖心をセキララに語って貰うのも悪くないわね。」
50名無し草:2011/08/17(水) 18:11:50.60
(勝手にリレー49)
「夢は夜見るもの」
 年老いた母はよく私に言ったものだ。
 夢という名の空想と妄想にふけり、それに暴走しがちになる私を戒める言葉として
使われていたようだ。
 しかし、近年は書店のレジの前で昼間からうたた寝する私を注意する意味も加わった。
 レジの前で見る夢は実にリアルだ。
 文学賞受賞作家としての華やかな生活、文壇バー、ちやほやしてくれるファン達、
セレブ達の奉仕活動の場で出会う美しく若い男達、テレビのキャンペーンガールとしての
活動。
 こんなにリアルのなのに、夢だ。これほど辛いことはない。
もう一度筆を持って小説を書かなくては。
国民作家と呼ばれるようにならなくては。
 私は原稿用紙をレジのすみから引っ張り出した。
 2年間通った甲府のカルチャースクールの小説講座で東京から来た槇という名の脚本家をして
いる講師に
「ハヤシさんの書く現代小説の登場人物の若い女性は昭和の匂いがしますね」
と言われてから久しく書いてはいない。
51名無し草:2011/08/17(水) 19:53:50.35
(勝手にリレー50)

あの薪って女・・・・実に、生意気だった。
大学時代、名古屋出身の女が
「名古屋では、特別腹が立ったり、頭に来た対象に
対してクソをつけるのよ。
例えば、クソババアとか、クソバカ女とか・・・
単に、ババア、バカ女って言うより、強烈な怒りを感じない?」と
笑っていた。

彼女は、名古屋の資産家の令嬢で、その可愛らしい口が
「クソババア」と言うことが大層面白く素敵にみえたものだった。

クソババア、クソババア・・・・

マリコは、薪の小生意気な口のきき方や男の目を意識した
歩き方、仕草等を思い出して腹が立ってきた。

その腹立ちは、空腹に変わり怒りも倍増した。

マリコは、芋切干の袋に手を伸ばしながら
「おのれ〜〜〜、薪!!近い内に、見返してやるぞ!!」と
誓ったのだ。
52名無し草:2011/08/18(木) 09:19:36.81
(勝手にリレー51)
 鬼島佳苗が薪から山梨に作家くずれの面白い独身女がいると聞いたのは半年前、
新作の小説のモデルにどうか、と密かに検討していた。
 彼女は山梨で小さな書店を経営しており、薪から聞く話によると、山梨BBSでも単独スレッドを
持つほど有名人のようだ。
 佳苗は自分のブログを更新しながら、このスレッドを覗き、楽しませてもらっていた。


『ブックショップ・チョモランマ店長監視スレ』

1:山梨の名無しさん
おまいらのアイドル、チョモランマ店長のマリちゃんについて語れ

2:山梨の名無しさん
あそこで本買わない、週刊誌「女性自信」の本の中にせんべいの破片はさまってたことがあった

3:山梨の名無しさん
>>2せんべいならまだいい、不乱巣書院の文庫本の本文に雨なのか汗なのかわからない水滴が落ちて乾いた
跡があった。

4:店内通路にベビカ置いて「日本語講座」を立ち読みしていた中国人嫁をはたき一本で追い出してたよw
SUGEEEEEEE!
53名無し草:2011/08/18(木) 09:59:45.22
5:山梨の名無しさん
あの店長、スーパー自然館の閉店30分前によく見かけるよ。
鮮魚コーナーの前に仁王立ちして、半額シール貼った刺身のパックを
どっちゃりカゴに放り込んでる。
あの巨体で狭い通路に立ちはだかられると通りにくくて困るんだよね。

6:山梨の名無しさん
商店街のパン屋のおばちゃんに「中にアンコの入ったメロンパンは置いてないんですか?」
って逆上して詰め寄ってるのを目撃したことある
おばちゃんおびえて怖がってたw
54名無し草:2011/08/18(木) 11:24:59.37
(勝手にリレー52)
せっかく山梨には稀なイケメンが来たのに頭打った拍子に変になったみたいで逃げてしまった。
早苗ちゃんのお土産のセリーヌのボーダーシャツを着たボディは刺激的過ぎたかしらん。
やっぱり40代といえば女の美しい盛りですもの積極的にふるまえば良かった。
男性に関して理知的過ぎる振る舞いも考え物だわ。
お腹が空いたけど昨日の残りの素麺に小皿に残った醤油かけて食べるのも飽きたわ。
そうだお櫃の中に赤飯が残ってたはず!
んんー美味しいー。赤飯は手掴みが1番。

55名無し草:2011/08/18(木) 21:15:22.87
(勝手にリレー53)
そういえば、赤飯って、お目出度い時に母が炊いてくれたわ・・・

私が初潮を迎えた時・・・デブでバカな弟が赤飯赤飯と喜んだことが
うざかった

次は、山梨では当時Aランクの公立高校に受かった時
その次は、日大に受かった時・・・・
それから、母は、私に対して何かあっても赤飯など
炊いてくれもしなかったし、無関心だった。

本当は、甘えたかったのに・・・・

母の大学時代の友人だった綺麗な女性。。。。
あのお母様と、美しく可憐で聡明なご令嬢達のように・・・・
子猫が優しい母親に無防備でお腹をむき出しにして
ゴロゴロ甘えるように甘えたかったのに・・・・・

マリコは、赤飯をお腹いっぱいに平らげながらも
胃袋がはちきてれ死んでも構わないと思いながら
若かりし日を回想しながら赤飯を手掴みで頬張るのだった。
56名無し草:2011/08/19(金) 08:10:22.22
(勝手にリレー小説54)
爪と指の隙間に入った小豆の皮を歯で取りながら私は考えた。
そういえば、今日は素敵なあの人と巡り会えたという特別な日ではないか。
この赤飯は単なる偶然ではない。神がこの出会いに祝福して用意してくれた聖なる赤飯なのだ。
過去を振り返って暗澹としている場合ではないのよ!
未来に向けてつき進まなくては。
57名無し草:2011/08/19(金) 08:36:19.52
(勝手にリレー小説55)
東條の報告を詳しく聞き終わると鬼島佳苗はゆっくりと立ち上がり窓から外を眺めた。真夏の太陽が圧倒的な強さで
光り輝いていて、眼下の人間はちまちまと動いていた。
「東條、来月は15日ごろに山梨行きね。」
東條の体が大きく跳ねた。さっきは脂汗まみれだった額はかわき、今度はわきの下に大きな冷や汗の汗染みが拡がった。
「また、行くのですか? あれ以上の取材が必要なんですか?」
「そうよ、どんな文章にもリアリティは必要だわ。ここはあなたに犠牲になってもらわなくてはね、西郷」
東條の体が再び大きく跳ねた。
西郷は東條の本名なのである。この名前が大嫌いだった。西郷といえば、西郷どん、子供のころから西郷どんと徒名されて
揶揄されてきた。男らしいといえばそうだが、東條も西郷どん同様に人一倍眉が太いのだ。
58名無し草:2011/08/19(金) 12:18:02.43
「さあカナちゃん、ママのところへいらっしゃい」

佳苗は愛犬のシーズーを抱き上げ愛しそうに頬擦りした。
ペット美容室から送迎車を寄越してもらいカットシャンプー等に気を遣っているため
長い体毛は絹のように光り輝いている。
最近は猛暑なため、朝5時に起きて朝の散歩させている。
ドッッグフードは良質なものをお取り寄せし、しつけ教室に通わせているため
見かけが愛くるしいだけでなくお行儀も良い、セレブにふさわしいペットと
いつも皆から誉めそやされているのだ。
59名無し草:2011/08/19(金) 13:02:26.74
東條は悩んでいた。
「またあの恐怖の館へ行けって・・・あの得体知れない女に会えと言うのか。」
あの後、夜毎カバともマナティーともつかない謎の生物に襲われる夢を見ているのだ。

「どうしょう嫌だと言ったらこの狭い業界では食べて行けなくなるし・・・
そうだ!幼馴染の京都の老舗料亭の跡取りの花京院を誘おう。あいつ見かけに寄らず冒険好きだからな。」
60名無し草:2011/08/19(金) 15:42:05.73
マリコは妄想していた。
「また店に、あのワードなんちゃらディレクターの男が来ないかしら?」
あの後、夜毎にあの男に押し倒されて迫られる夢を見ているのだ。

「どうしよう嫌だといって、あきらめられたらもったいないし・・・」自分のほうから迫ったことをすっかり
忘れていた。
「そうだ! 幼なじみでCAの稲穂ちゃんに相談しよう。あの子見かけによらず戦略的だから・・」
61名無し草:2011/08/19(金) 16:24:05.86
「まだ生理があるうちに急いで娘を産んでおかなくては。
娘の名前は何にしよう?私の名前・真理子から一文字取ってつけたいものだ。」

可愛く聞き分けのよい娘と二人、手をつないで東京の高級住宅街を散歩する。
血統書つきの小型犬を飼って娘と一緒に散歩させよう。
犬は最近流行りのトイプードル・アプリコットカラー。
飼い主に似て可愛い犬なんだから名前はマリーでいいかな。

「シングルマザーという道もあるが、やはり私は厳格な母から躾けられた身。
価値観はちょっとかためかな。
結婚してから出産というきちんとした手順を踏んでもらわないといけないワ。
そうすると、早くトージョーさんに告白して結婚しないといけないのよねん。」

幸い今は肉食女子の時代。女から告白して付き合うのもアリな時代なのだ。
62名無し草:2011/08/19(金) 18:05:30.56
ああそれにしてもこの鬼島程度で、小説家になれるのなら私にもなれたかもしれない。
そうすれば今ごろ結婚して娘をもうけて、子育てはお手伝いさんとベビーシッターに任せて、
毎日、予約のとれない店で知り合いの有名人と飲めや歌え、イケメンと酒場でデイトもできたはずだワ。

63名無し草:2011/08/19(金) 19:57:04.30
【全てを手に入れた女・・】あたしだって捨てたもんじゃない。
数年後、こう呼ばれて時代の寵児になるかもしれない。
デブがなにさ。ブスがなにさ。田舎者がなにさ。見返してやる。
絶対に見返して、あたしを馬鹿にした連中に復讐してやるんだ。



64名無し草:2011/08/19(金) 20:44:03.92
(勝手にリレー小説62)
そうとなったら、まず私の美しさに磨きをかけなくては。
奥の居間から店に移り、棚から本を取る。
「売り物には手をだしてはいけない」
これも母の教訓だが、一回くらい見て返す分には支障はないと思っている。
 多中逝子の「象顔マッサージDVD付」
 赤飯でカピカピになった手を洗い、逝子のDVDをセットした。
 専門のマッサージクリームを用意しろと言っているがニベアで代用した。
 DVDの声に言われるままに私の赤子のような無垢な指が動いてゆく。 
 以前このマッサージをした時に、従妹たちが大絶賛してくれたのだ。
「すごい、マリちゃん、ほうれい線が消えてるよ」
「ストッキングを被って後ろに引っ張ったみたいに肌が張ってるよ〜」
 東京にいるあの男は、私を忘れられなくて再びここに戻ってくる。
 そして、前回会った時よりも数倍美しくなった私の前にひれ伏すだろう。
 おっと、勝負下着も揃えなくてはならない、ニッセンや地元の商店街の
店のものでなく、東京の百貨店で質のいいものを購入した方がいいだろう。
65名無し草:2011/08/19(金) 20:50:34.33
汁サンダーには手が出ないけど、しゃれた洋服も必要かしら?
66名無し草:2011/08/19(金) 21:11:50.19
そういえば、私のこれまでの人生。。。
「見返してやるんだ!!」の一色だった。

一番、その思いが強かったのが中学時代。

私は、クラス中の皆に馬鹿にされ、嫌われ、蔑まれていた。

ブス、バカ、デブ、生意気、出しゃばり、グズ、臭い、汚い。。。。
だから、そんな連中と別れたくて、そんな連中が行けっこない高校に進学
しようと、自分でも驚くほど猛勉強したのだ。

努力すれば、成果は現れる。
私は、難関と言われた高校に合格した時
実感実証したのだ。

頑張れば報われる。

また、どんな手を使ってでも
汚いヤツと言われようが、頑張ろう!!

黒い炎をメラメラ燃やしながら
マリコは、握り拳を振り上げた。
67名無し草:2011/08/19(金) 21:40:28.94
夕方になっても蒸し暑い四条河原町
「お待たせー。」
声のする方を振り返ると花京院だった。また新しい車に乗っている。
「ポルシェ ボクスターか。俺が密かに憧れている素敵な車だ。」

「御飯食べる?」「うん。どこ行こうか。花京院に任せるよ。」
「僕の家に行かない?我儘利くし。」「ああ。お邪魔しょうかな。」

花京院の持てなしは満足の行くものだった。
胡麻豆腐にずんだの餡を掛けた小鉢に冷酒が良く会う。「ずんだ」とは枝豆の事だ。

鱧の3種盛り
梅肉和えに天麩羅そして炙った鱧をじゅっと甘醤油に付けた家庭料理も全て旨い。
「鱧は子供の頃よく母親が食べさせてくれたが一味違うな。」

「ちょっと遊んで見たから食べて見てー」と言われ、旬の炊き合わせだと思っていた蓋物を開けてみると・・・
鮮やかな赤い汁の中に鱶鰭の小島が浮いている。傍らの万願寺唐辛子の緑も美しい。
箸を付けると鱶鰭がほどけ中からフォアグラが顔を出した。
最上のフォアグラと絶妙の戻し加減の鱶鰭が舌の上で混じり合う。

「ああー旨い!しかしこれに冷酒は・・・」と不届きな事を考えていると、
「これが合うと思うよ。」といつの間にか用意された薩摩切子の魚子文酒杯に紹興酒が注がれていた。

「それで頼みって何?」
説明するより絵を見せた方が早いので東條は店に入る前にスマホで隠し撮りした女を見せた。
「この女に用があるんだけど怖いから付いて来てくれない?」
「半漁どんだねー。僕汚いの苦手だから駄目だー。」あっさり断られてしまった。



68名無し草:2011/08/19(金) 22:16:35.05
「いや、だからその、ビフォーアフターっていうか、醜いあひるの子というか、マイフェアレディっていうか、
この半魚人をどこまで変身させられるか、手伝ってほしいんだよ」
花京院は再度マリコの画像を検分するように見たあと、スマホを放り出した。
「だめだよ、この人いくつさ。ほうれい線もでてるし、首もたるんでる。相当いっているでしょ。もう無理だよ」
「コルドンブルーにも行かせようかと思うんだ」
「金を捨てるようなものだよ。コルドンブルーの前に一度うちの店に連れてきてみたら?」
ようやく花京院をここまで妥協させて、東條はほっと安堵のため息をもらした。

69名無し草:2011/08/20(土) 00:22:33.74
(勝手にリレーNo?  ナンバリング止めますか?)

8月の京都だった。
五山の送り火が全部灯され、夜空に幻想的な炎をちらつかせていた。
感動した! 
しかし、カバ女が大の字になって寝ている姿が浮かんで眩暈がしてきた。
真中に点を打ってやらないといけない。
舟形を見たら、あの女は田舎風大盛りの刺身の舟を思い出すに違いない。
いや、もうそれはいい。
そろそろ、東京に戻って鬼島先生と相談しなくては。
帰りはシウマイ弁当…ではなく、
注文しておいた美味しい出し巻きの入ったヒシ岩の弁当だ。
70名無し草:2011/08/20(土) 08:41:21.83
(勝手にリレー;ナンバリング止めるの賛成です。)

新しくなった鉄骨の恐竜の様な京都駅はどうも馴染めないな。
以前の田舎臭い雰囲気が懐かしい。
時間もあるし久しぶりにお多賀さんにお参りしてから帰ろうかな。
あそこの太鼓橋が子供の頃は登れなかったんだよな。罰あたりにもあの女の腹を思い出しちゃったよ。

美味しい弁当もあるしこりゃ最高だね。
ゴゴゴ・・・突然薔薇の香りが・・・

「花京院!やっぱり来てくれたんだ。」
「ふふ。UMAを見てみたくてね。」


71名無し草:2011/08/20(土) 09:01:30.55
送り火の鳥居がともるころには右大文字は火勢が衰え、一陣の夜風にさみしい気持ちになる。
花京院の子供のころにはおばあちゃんが盃の水に大の字を映して飲み、なんまんだなんまんだと
唱えていた。そのおばあちゃんも今大文字の煙とともにあの世に帰っていったところだ。

送り火を見たあとでは最終の新幹線まで時間の余裕がない。東條を追い立てるように車にのせ、京都駅送っていった。
「大文字焼き、よかったわ。ありがと。例の件もよろしく頼むね」

東條を見送った花京院の胸がモヤモヤっとした。
大文字焼き、ちゃうねん。山焼きやないんやから。これだから東戎は・・・
ちらっと見たスマホの女が頭をよぎる。若紫とはほど遠いご面相だった。そもそも、
品があらしまへん。うまいこと東條に丸め込まれてしもたなあ・・・

送り火に大好きだったおばあちゃんのことを思い出してしんみりしていた花京院は
急に東條に対してイケズな気分がわきおこってきた。
7271:2011/08/20(土) 09:34:17.58
うわわ、重なりましたので、71取り消します。
73名無し草:2011/08/20(土) 09:52:43.41
いいえ、こちらこそ済みません。
74名無し草:2011/08/20(土) 20:10:22.95
 楽園を追われた夢を見た。

 深夜、自宅のマンションの天蓋付きベッドの中で、佳苗は自分の泣き声で目を覚ました。
驚いたシーズーのカナが佳苗の体によじのぼってきて、なぐさめるかのように流れた涙を優しく舐めた。
 夢の中で、自分は鉄格子のはまった窓がひとつついた狭い部屋にいた。
これが拘置所とかいうものだろう。刑事ドラマでよく見た風景だ。
身に覚えがない罪で拘束された。どうやら「結婚詐欺師」という肩書がついたらしい。
詐欺といってもつきあった喪男奴隷達から少々高めの金品を受け取ったというだけで、その罪の名
がつくのなら、世の中の男女の半分近くがこの拘置所で拘束されなくてはならないと思う。
 不思議なことに自分の身が不自由になったことはさほどショックではなかった。
 佳苗にとって一番ショックだったのは、友人が差し入れてくれた雑誌の中身だった。
 最近エッセイを連載し始めた「un.un」の自分のページが、連載が軌道にのってきた週刊分春のエッセイも
そして対談のホステスをしている週刊浅日までもが、全て、あの山梨の書店の店長にすり替わっていたのだ。
 見るに堪えない下品な文章、貧困なボキャブラリー、そしてメディアを利用した佳苗への悪口。
 「嘘だ」と泣き叫んだ瞬間、現実に戻った。

 「ごめんねカナちゃん起こしちゃったね……………夢でよかった」
憎いわ、あの女、小説のモデルにしたら、ラストは彼女を不幸のどん底にたたき落とすというのはどうかしら…。
 佳苗は涙をふきながらほくそ笑んだ。
75名無し草:2011/08/20(土) 21:24:27.08
25 名前:山梨の名無しさん
  あの店長昔は小説書いていたらしいぞ

26 名前:山梨の名無しさん
マジっすか? あの顔でどんなの書いていたんだろう?

27 名前:山梨の名無しさん
  また聞きだが、えげつないのにそそらない官能小説だったらしい

28 名前:山梨の名無しさん

うわぁ それはまた強烈な オエッ

29 名前:山梨の名無しさん
あの店入ると妙な臭いがぷーんとするんだけど何だろう?
76名無し草:2011/08/20(土) 21:32:54.30
「ベビタン、ベビタン・・・べ〜〜ビ〜〜タァ〜〜ン」
舌ったらずなようで、二枚舌の可愛らしくない声の主
癌田ウソは、西瓜を服の中に入れたのかと思うほど
せり出したお腹をさすりながら、お腹の子供に話しかけていた。

「ベビタンはぁ〜〜、世界一幸せな子供として
ママとパパの下に生まれてくるんでちゅよ〜〜
ママは、芸能界では一番権力を持ってるし〜〜
パパは、政財界では顔でちゅからね〜〜〜
田舎者で意地悪で傲慢な作家の鬼島が
ママの悪口言ったり書いたりしてるけど
あんな女、いつか潰してやるんだから〜〜
ベビタンの為にも・・・・ねぇ〜〜〜ベビタン」
と、呟きながら
好男社から送られてきた
『ウソは嘘の塊』鬼島佳苗著の単行本を足で踏みつけ
玄関に向かって勢いよく蹴り上げた。
77名無し草:2011/08/20(土) 22:14:35.07
真理子は朝から胸騒ぎがしていた。

「今日あたり例の男が来るんじゃないかしら。何だか胸が苦しいわ。そうだあれあれ!」と言うなり
一張羅のUCLAのロゴ入りエプロンを誇らしげに身に付けた。
別に母校と言う訳では無い。
貰い物なのだがこれを付けているとアメリカの大学生になった気がするのだ。
胸騒ぎではなく昨夜腹いっぱいに詰め込んだポテトサラダで胸膨れしている事にも気が付かなかった。

「ヘアスタイルはどんなのが好きかしら?」
「オーソドックスなボブは淑女の基本だけどアップにしてうなじを見せつけるの効果的かも。」
真理子はオール28号の芋虫の様な指でくるくると髪をまとめ上げた。

残念な事に襟足のすぐ下には盛り上がった背油がある為うなじと呼べる部分は無かった。
女の白くて細い首筋の代わりに逆立つ黒光りした蛇の鱗があった。

78名無し草:2011/08/21(日) 00:36:51.64
鏡に映った自分の姿に真理子は満足した。

UCLAのエプロンを身につけ
髪をアップした私って、まだまだいけてる。

こんな田舎町で、UCLAのエプロンを持ってる(貰い物にせよ)
人なんていないんじゃないかしら。
もし、持ってたとしても私ほど、このエプロンが
似合う女はいないだろう。

真理子の妄想は次第に膨らんでいった。

「そうだ!あの人がいつ私の前に現れてもいいように
色々と準備しておかなくっちゃ♪」
鼻歌を歌いながら、真理子は台所へと向かった。
79名無し草:2011/08/21(日) 00:43:45.48
例の男との将来も是非占って欲しいわ。
私の運命の男かもしれないじゃない。
そうだ、幼馴染の珍味屋の倅の江原君が霊感が強くて、良く当たるって聞いたわ。
早速みてもらおう!
80名無し草:2011/08/21(日) 01:12:54.26
30 名前:山梨の名無しさん
  
  ブックス・チョモランマで異臭騒ぎ
  原因は、汚台所で生ゴミが腐敗した臭いだった

31 名前:山梨の名無しさん

   店長の毒ガスなんじゃないか?wwww
   どんだけ不潔なんだ

32 名前:山梨の名無しさん
  
  作家って、自分で名乗ってる『自称作家』なんじゃないのか?

33 名前:山梨の名無しさん

  手当たり次第、書き殴りの作品を投稿してたらしいぜ

34 名前:山梨の名無しさん

薄汚くあざとい男女を書く技には長けてるようだ
  だか、読後に不快な気分になる作品ばかりらしい


81名無し草:2011/08/21(日) 08:50:33.67
「男のハートは胃袋で掴め!(プリンセス佳苗著)」題名と著者名が著しく不一致である。
真理子の愛読書だ。
長い巻き髪を垂らし嫣然と微笑む著者近影を見るたび憧れる。
「私も絶対都会で成功してやる。そして素敵なお家にハンサムな夫、レストランに行けば周りの視線を集めるちょっとばかり目立つカップルなの。」

胡瓜とレタスを敷き詰めたボウルに魚肉ソーセージとハムで作った薔薇を添える得意のサラダを作ってみた。
緑の中に淡い桃色が映えてピエール・ド・ロンサールに美しい。
髪を結いあげた真理子の気分はプチトリアノンのアントワネットだった。
82名無し草:2011/08/21(日) 09:41:56.84
しかし上唇の端に、ポテトサラダのかけらがついていることに
気づかない真理子であった。
83名無し草:2011/08/21(日) 10:20:40.33
しかし、サラダをあっという間に吸引し、物足りないので残りの冷や飯にこれまた残りの味噌汁をかけてすすりこんだマリコは、激しい腹痛に襲われたのだ。

原因は、ボウルに残った汚れと、手を洗わずに料理した事だが、そんな事に気づく真理子ではなかった。
84名無し草:2011/08/21(日) 10:30:55.07
「痛たたた!お腹が痛ーい東條さん助けて。」
「ああ私天使になっちゃうのかしら・・・清らかなままで。」

食い過ぎで名を呼ばれる東條こそ良い迷惑である。
85名無し草:2011/08/21(日) 10:42:16.09
真理子はトイレに駆け込んだ。

「ああ すっきりしたらまたお腹がすいてきたワ」
86名無し草:2011/08/21(日) 11:17:58.04
忘れないうちに江原君に東條さんとの恋バナの件で電話しなくちゃ。
もしも結婚相手になる運命の男だって江原君が霊視してくれたら産まれて来る子供の
性別とかも聞いちゃおうかしら?ダメダメ。あたしったら欲張り。まずは東條さんとの
今後を占ってもらうわ。それからそれから先日、生理の時の血がスカートまでしみちゃって、
翌日忘れてて洗わずそのスカート履いて出かけて大恥かいちゃった。あーやだ、生理なんて
なければいいと、思ったのよね。だからついでに閉経の歳も霊視してもらおう。

相変わらず頓珍漢な真理子であった。
87名無し草:2011/08/21(日) 11:44:58.45
花京院遊鶴は自分の名が重荷だった。
母が根良女子大学の大先輩に当たる著名な日本画家の名をもじって付けてくれたのだ。

「僕は日本画は見るのが専門なんだよね。絵で誉められたのは小学1年の時の消防車だけなのに。」
「スマホの女・・・あれは運慶快慶の雷神みたいだったなあ。」

横でヒシ岩の弁当を食べていた東條が「お腹空かないの?」と聞いてきた。
ライバルでもある店の弁当は隙の無い美しさだったが朝はクロワッサンとコーヒーに決めている。

88名無し草:2011/08/21(日) 21:00:03.28
「よく来たねえ、マリコさん、そろそろ姿を現すんじゃないかと思ってた」
 電話をかけるのももどかしく、書店を臨時休業にして珍味屋にかけこむと、
エハラ君が売り物のビーフジャーキーを食べながら私を出迎えてくれた。
「あのね」
「説明しなくてもわかってる、マリコさん、今日はトージョーさんは来ないよ、
彼はね、今京都にいるよ」
 あいかわらずカンが鋭い。彼の霊感は便利だ。
「恋愛相談でしょ?わかってるわかってる」
「ちょっとぉ、今年は外人の彼氏ができる話はどうなったのよ、
もう今年も半分以上すぎたわよ」
 憤る私にエハラくんはビーフジャーキーをくれた。
「いや、そんなことよりも、マリコさん、すごいよ、今あなたに二人の男性の姿が見えるんだよ」
「なに?それ亡くなった父と祖父の霊?」
「違う違う、恋愛対象となる男の人のこと、一人は、そのトージョーさん、
彼はマリコさんにまた会いに来るよ。今日は来ないけど」
「で…一人は誰よ」
 私はビーフジャーキーをほおばる。こんなジャンクな珍味は好みではないが、
悔しいけど舌が美味しいと言っている。
「さっきふっと姿が見えたんだ…彫りの深い…インド人のような顔をしている…
でも日本人だ」
「へ?」
「言葉が聞こえる、『un.un』『カナエ』『徹夫』…名前か苗字が『テツヲ』
っていう人なんじゃないかな」 
 な…なんですって、私はたじろいだ。ここにも出てきたカナエという言葉…。
 い…いや、二人目の男テツヲ…って… 
 東條さんとテツヲ、二人に言い寄られる私……いやん…困っちゃう。
「マリコさん。妄想は家に帰ってからしてね」
エハラ君は困ったような顔をして言った。
89名無し草:2011/08/21(日) 21:35:22.16
ジャンジャカジャンジャカジャカジャカジャ〜〜〜ン
東條の携帯が鳴った。

着信音は、『葬送の曲』鬼島佳苗からだった。

深呼吸し、心を落ち着けてから東條は電話を取った。
「はいっ!!東條です!!」
鬼島は、思いがけなく優しい声で
「東條ちゃん?京都はどお?楽しくやってる?」と
訊いてきた。

「はいっ!先生のお陰で、大変有意義に過ごさせていただいております!」
「あら・・・それは、よかったわね。。。。なんて、この私が言うわけないだろ!!
何を油売ってるんだよ!!早く、山梨に行けって言ってるのに
まだ、京都にいるの?誰が、ウダウダ京都で遊んでろって言ったかな?
いい??今日中に、山梨に行ってあの計画を進めるのよ!!わかった?」
「は、は、は、はいっ!!」
汗を拭きながら、東條は携帯を握り締めながら
見えぬ相手に向かって、ペコペコ頭を下げた。
90名無し草:2011/08/21(日) 21:49:37.08
東條は、花京院のポルシェで、最終の新幹線に間に合うように
京都駅に送ってもらったにも拘らず、鬼島の怒った顔や
ブックス・チョモランマのブスデブ女の顔を交互に思い出すと
東京に戻ることが、嫌になり駅の前で立ち竦んでしまったのだ。

東條がボヤボヤしている間に、最終の新幹線は出てしまった。

駅前は、電気さえついているものの、殆どの店がシャッターを下ろし
歩いている人もまばらだ。

安堵とも後悔ともつかない溜息をつきながら、東條は
トボトボと駅前のホテルへ歩き・・・
そのあとの事は、疲れていて記憶がない。

ただただ、泥のように眠っていたかった。

その眠りは、鬼島からの携帯電話に破られたのだった。
91名無し草:2011/08/22(月) 09:48:28.52

16,17,18と
あたしの人生暗かった〜どうすりゃいいのさ、このあたし〜マリコの夢は夜開く〜
16,17,18と
あたしを見る目は酷かった〜過去がどんなにデブスでも〜マリコの股は夜開く〜

92名無し草:2011/08/22(月) 10:36:51.23
そう、確かに若い頃はデブス扱いされぜんぜんオトコにモテなかった。
でも40過ぎてから周りに「おキレイですね」「スラッとしておられますね」
と褒められるようになり、自分なりに自信がついてきたのだ。
二人のイケメン男性が私を巡って取り合いするのね・・・占いの結果を思い出しニンマリした。

別にデイトは夜でなくてもできるのよ。情熱的に求められれば夜でなくても(以下妄想ry
93名無し草:2011/08/22(月) 12:39:30.86
デブスだって女の武器を最大に利用すれば男は落ちるのよ。
東京の大学時代の1人暮らしの6畳間で私の中を通過していった男達は「きれいだね。」
「かわいいね。」って言ってくれた事もあった。
その時初めて目覚めた女としての自信。股さえ開けば・・・
そうよ。江原君だって言ってた。『徹夫』…名前か苗字が『テツヲ』 未知の夫かもしれない。
それに東條さんのあたしを見る目は女を欲する目だったわ!
悲惨なテーィーン時代は終わったの。40代でモテ時代が来てるに違いないわ。

真理子は昼に食べた夕べの残りのものの鮭が奥歯に挟まったままなので、カスを爪楊枝でほじくり
ながら、店番の椅子に座る。ふっと目にした埃を被った店の商品本『古代インドの愛の教典』を手に取り、彫りの深い
インド人のような顔立ちの『テツヲ』を想い、体が熱くなったのだ。

40代で
94名無し草:2011/08/22(月) 12:42:26.15
40代で、初めて女として開眼するのかしら??

きゃ〜〜〜〜

真理子は、身悶えた。

95名無し草:2011/08/22(月) 12:53:53.20
江原はため息をつくと、真理子が座っていた空間にファブリーズを噴霧した。

「やれやれ、昔から変な奴だったが…」
こちらの言葉を聞いて勝手に興奮する真理子から、汗だけではない異臭が漂っていたのだ。

風呂や洗濯の暇もないほど忙しいわけでもなかろうに、それとも江原が思うより事態は深刻で、水道代や洗剤代にも事欠くほど、真理子の書店は赤字なのだろうか?
96名無し草:2011/08/22(月) 13:26:38.17
東北から仕入れたばかりの珍味、いなごの佃煮を店頭に並べながら江原はもう一度念のために真理子の
霊視をもう一度してみた。
「おや、着物姿の真理ちゃんが視える。しかも高級な素材で仕上げた着物だ。
おや、今度は素っ裸でトドのようにような巨体で怪しげな視線でソファーに横たわる真理ちゃん。
無数のフラッシュがたかれてる・・。一体これは・・・・」
江原は吐き気を抑えながら頭を振った。 イナゴの足、羽を取った姿の甘露煮もグロテスクでは
あったが、世でもっとも怖ろしいグロを視てしまったのだ。
世界の珍味を扱う珍味屋の倅でもこれほどのグロ経験はなかった。

真理ちゃんの将来に何かかが起ころうとしている。それが吉とでるか凶とでるかまでは
江原にはわからない。来週にでも町内会の占いのボスであるオカマクラブ美輪のママに霊視の意味を
相談に行こうと決めた。実際1人で抱えるには重過ぎる症例だったのだ。

   
97名無し草:2011/08/22(月) 15:58:19.89
京都駅の階段に腰かけ、身も心も干からびていた東條はハタと立ち上がった。
え?朝か?花京院は朝はクロワッサンとコーヒーだとか言っていたが。
どこに消えたんだ?
UMAを見たいといっていたが、UFOにでも乗って山梨へ先回りか?

しかし、俺は朝ご飯にヒシ岩の弁当を食っていたのか…?
朝に仕出し弁当とは酔狂な。
これじゃ、ひょ〜亭の朝粥にでも行ってもよかった。

「はい、鬼島先生、今から戻ります!!」
ペラリと暖簾の様に薄くなった身体を前に進めた。
河馬女の豚足で腕押しされても肩すかしをくわせられるのは助かる。

八条口方向へ向かうと、
なぜか「おたべ」を混ぜた様なビーフジャーキーの匂いがしてきた。
98名無し草:2011/08/22(月) 20:06:15.18
35 名前:山梨の名無しさん
  
  ブックス・チョモランマの店長に、あの『微・ストリート』が
  取材申し込み

36  名前:山梨の名無しさん

えっ??うそ〜〜??『微・ストリート』って
  熟年読者モデルがヌードを晒すってグロい雑誌?

37 名前:山梨の名無しさん
  
  ブックス・チョモランマの店長自ら売り込んだらしい

38 名前:山梨の名無しさん

  カメラマン・・・・怖いもの知らずだな

39  名前:山梨の名無しさん

『微・ストリート』廃刊か?WWWWWW
99名無し草:2011/08/22(月) 21:26:27.22
「先生、おはようございます」
 秘書の破竹山は佳苗がオフィスに入ってくると微笑んだ。
 秋田美人の秘書は奥の応接室のドアを開ける。
「『un.un』の編集のテツヲさんがお待ちですよ」
 テツヲは長身の躰を革のソファに埋め、このオフィスの女主人が入ってくると皮肉たっぷりに挨拶した。
「よう、直木賞候補のセンセイ」
「テツヲさん、こんにちは、今日はエッセイとグラビアの打ち合わせでしたね」
「お前、un.unの連載が始まって俺の担当になってから、ますます綺麗になってくな」
 テツヲは佳苗に心にもない世辞を言う。
「会ったばかりの時はどんな芋ねーちゃんかと思ってたが、これも俺のお蔭だぞ」
 これはよくある、自分が美形と自覚している男があまり美しいといえない女を懐柔する方法だ。
彼女はテツヲと会った時から見通していた。
 こんな安いホストが使うような作戦にこの私がだまされるとでも思っているの?私は喪男奴隷を5人以上も
抱えているのよ、男の行動パターンなんて知り尽くしてるわ。
 佳苗は心の中でほくそ笑んだ。
 彼が担当している女性作家のほとんどをこのやり方で懐柔していることは、ネットの作家達のコミュニ
ティー内でも知れ渡っていた。
 ああ、あの女もこのやり方に騙されそうよね。男に対する免疫がなさそう。
 テツヲの前で身もだえしながら「ぶって、ぶって」とか言いそう。
 あの山梨の女…。
 佳苗はふと昨夜見た、拘置所の悪夢を思い出して笑顔を消す。
「どうした佳苗?とうもろこしの天ぷらの食べすぎか?」
「失礼ねえ、テツヲさん…」
 変だ。地位も立場も違う、生活している場も違う、容姿だって、年齢だってまったく異なる。
 …どうしてあの女が気になるんだろう。
100名無し草:2011/08/22(月) 21:48:56.40
51:山梨の名無しさん
>>37

いや、ちょっと違う、言いだしっぺは店長マリちゃん、実際に売り込んだのは
ブックス・チョモランマも参加している「駅前商店街青年部 アクセル01」の勝魔

52:山梨の名無しさん

>>51 勝魔って、「学習塾フンガー」の女塾長?
アクセル01って、町のイベントで変なコスプレしたり変な寸劇したりする集団だよね。

53:山梨の名無しさん

去年の夏祭りで青年部有志によるア・キ・バ48のコスプレカラオケはカオスだった。
夜店のカレーとポテトサラダで食中毒出たし…
101名無し草:2011/08/22(月) 23:58:47.78
54:山梨の名無しさん

アクセル01って、田舎の若手商売人の集まりにしちゃ成金爺婆臭いぜ。
山梨僻地からえっちらおっちら東京湾で屋形船に乗って宴会なんかするか?、
チョモランマ店長が乗ったら、半分沈んでたそうだ。
船頭に気を遣って、顔面溶解作曲家の四枝が必死で水をかき出してたという噂を聞いた。

フンガー塾長の野望もあるが、皆お互いにつるみあって甘い汁を吸うんだろ。

55:山梨の名無しさん

そういや、あのチョロいやチョモの店長、
スーパーのタイムサービスで超特価の牛肉をしこたま買い込んで、
すき焼き、しゃぶしゃぶ、牛丼…で食いまくり、翌朝は陶器の神様を拝んだらしいよ。
トイレの神様じゃなくて、あの、便器ね。
この間「上から下から」て題で、バッチィ、グロな文をコラムに書いてた。
おぞましいのは顔だけでおながいします。
身体なんて超絶無理〜〜!




102名無し草:2011/08/23(火) 00:19:52.37
商店街の老舗婦人服店「おしゃれの店 ブティックサンダー」のガラス戸に体当たりせんばかりの勢いで
真理子は駆け込んだ。右手には古ぼけた大きな財布を握り締めている。

経営者・三田(さんだ)ツル子は老眼鏡を外し椅子から立ち上がった。
「いらっしゃいませ・・・あら、本屋のマリちゃんじゃないの。
血相変えてどうしたの?まさかお母様に何か・・・」
「ツル子おばさん、こんにちは!違うのよ、母はびっくりするくらい元気。
私、こんど雑誌のグラビア撮影することになって、
その衣装が要るの。あ、経費で落とすから忘れずに領収書切ってね!」
103名無し草:2011/08/23(火) 00:29:18.90
ツル子は老眼鏡を落としそうになったが辛うじて受け止め、タオルハンカチで拭いた。
真理子の母とは商店街組合婦人部の昔馴染みで、真理子のことは子どもの頃から知っている。
母親が商売で忙しいため、娘の身なりにまで構ってやる時間と気持ちの余裕が無く
いつも目を覆いたくなるような服装をしていた。
いくら忙しくてもせめて清潔な身だしなみくらい整えてやらねば・・・
親の世話が行き届かない様子を可哀想に思っていたのだ。

「マリちゃん、老婆心からこんなこと言ってゴメンなさいね。
もしかして騙されてるんじゃないの?
芸能人でも何でもない普通の娘さんにグラビアなんて。
いかがわしい裸の写真や太ももの奥まで撮られたりしたら、お嫁にいけないじゃないの。」
(若くてキレイな娘さんならともかく、そのトシと顔と体型ではねえ
・・・というのは心の中でつぶやいた)
104名無し草:2011/08/23(火) 00:37:19.91
(ツル子おばさんは年寄りだから『微・ストリート』のこと知らないのね。
年寄りだけど決して悪い人じゃないのよ。母とは古い友人だし。)

「違うの!そんなのじゃない!
雑誌のカラーグラビアに載るんだから、モードっぽくて知的で美人に見える服が要るの!
黒のシンプルなワンピースとか白いテーラードジャケットとかね。」

(脱ぐ前の服を着たふだんの姿、というのに必要なのよ。
書店を切り盛りしつつ文化活動に奮闘する美人女流作家にふさわしい服が)
105名無し草:2011/08/23(火) 00:54:18.05
「マリちゃん、ごめんなさい。うちの店はサイズ15号までした扱ってないのよ。
マリちゃんだったらスーパーのLサイズコーナーのほうが」

話の途中で真理子は店のガラス戸に体当たりし、肩の痛みを感じつつ走り出た。
財布を握り締め、声を震わせて絶叫する。
「もういいわ!!!じゃあ着物にする!!!
着物は9号とか11号とか関係無いものね!
今から呉服屋へ行って高級な作家ものを別誂えで注文してくるわ!!!」

決して自分の洋服サイズを公言しない・認めようとしない真理子であった。
106名無し草:2011/08/23(火) 07:45:09.22
マリちゃんは決して悪い子じゃないのだけれど、おだてられて調子に乗ってしまい
ついやらかしてしまうことがあるんだワ。
グラビア撮影とか言って乗せられて、公園の茂みに横たわる写真など撮られなきゃいいのだけどねん。

ツル子はそう思いつつも携帯を手に取り、商店街婦人部と老人会カラオケサークルの友人達に
報告しなければとさっきのできごとをメールに打ち始めた。


いっぽう真理子は涙を浮かべ「趣味のきもの しま村呉服店」に飛び込んだ。
屋号はそうなっているが、実際の品揃えは作務衣や普通の婦人服婦人用品が主なのだ。
107名無し草:2011/08/23(火) 13:19:13.97
「完璧だわ!『しま村呉服店』で誂えた品格漂うお着物、それから『おしゃれの店 ブティックサンダー』の今年の新作
モテワンピ。この鎖骨が浮き出る胸元のカットが堪らないじゃない。若い子が好むセロリとかいうブランドのスーツにも負けない
スタイリッシュなジャケット。ちょっときついけど、世間があたしを望んでるんだから我慢、我慢。
ドスン、と大量の服を大人買いした荷物を床に置く。
真理子は興奮していた。「脱ぐシーンもあるかも・・かもって!どういう意味かしら。いいのよ見たければ見せてあげるわ。
だめだめ。両親にもらった大切な体を人様の前で晒すなんて出来ない。結婚前だし・・」
撮影シーンを想像し、ほとんど昇天するほどの精神状態に陥いる。
気分を落ち着かせるためにテーブルに置いてあったスーパー見切り品のカステラ2本をたいらげる。底に付いた
スポンジの残りをスプーンでこそぎとり、これから自分に訪れる幸運にめまいを覚える真理子であった。

いい事って一気に来るものなのよね。この好機を逃しはしないわ。
思えば長い年月だったわ。『微・ストリート』のグラビア撮影の申し込みは予感は的中したのね。才能とそこそこの愛らしい美貌を持った
このあたしが山梨の片田舎の本屋の店番で終わる訳がないのよ。
2人の超絶いい男とグラビア撮影キャーー!!なんかあたしに物凄い幸運の風が舞ってきたわ。鬼頭なんて最初から目じゃないのよ。
108名無し草:2011/08/23(火) 13:31:16.50

「鬼頭じゃなく鬼島だったわね。」売れ行きの芳しくない本屋でまた鬼島佳苗の小説「婚活と練炭」の予約が入ったのだ。
メラメラと燃える闘争心が沸く。
109名無し草:2011/08/23(火) 15:18:03.33
東條はひかりのない行く末に観念してのぞみに乗った。
「のぞみはないがひかりはあります…」
トィッターで見た駄洒落かよ。
背後からは相変わらずビーフジャーキーの匂いがしてくる。
俺のか背後霊か?!地縛霊か?
それとも大島紬を着た、呪いの猫バスがボケて暴走を始めたのだろうか。
時代を逆走するオバサンらしい。

恐山のイタコにナンツー関を呼び出してもらい、
こんな女どもに一刀両断のお言葉を吐いてもらいたいものだ。
鬼島先生のことも、きっとうまく料理してくれたに違いない。
嗚呼、なぜに天才は早死にするのか…
同じ重さなら、まだナンツーさんの方が良い。

そうか、鬼島先生とカバ女はドッペルゲンガーなのかもしれんな…
110名無し草:2011/08/23(火) 15:28:51.37
駅前の靴屋「付羅田」に真理子の姿があった。店頭の靴を試し履きしようとしたが
小さすぎるようで「ちょっと、もっと大きいサイズないの?」と上から目線で尋ねている。
「すみません。これより大きいのは置いてないのですが」
「ふんっ」真理子は鼻息を荒くしながらつま先の開いたサンダルに無理やり足をねじ込むと
「じゃこれにするわ。ヒールを履くと私の足ってふくらはぎがとても綺麗なのよねっ」と言った。

店員は、靴が真理子の重みに耐えかねて悲鳴をあげるのを聞いたような気がしたが、
このサンダルは、買い取ってもらわないともはや売り物にはならないと思い、作り笑いを
浮かべながらレジへ向かった。
111名無し草:2011/08/23(火) 16:57:50.53
買ったばかりの靴を抱えて家路へ急ぐと、目の前から覚めるような美人が歩いてきた。
ものすごい小顔である。
一瞬にしてただものではないことがわかる。
素材もいいのだろうが、贅沢に金と男の手によって磨きあげられたものである。
思わず立ち止まってみとれてしまう。なんて素敵なのかしら。
すれ違いざまに、真理子は思い切って声をかけてみた。
「あの・・・・」

その女のゆっくりと振り返る様も美しかった。
丹念に手入れされたデコルテの美しさといったらない。
また近くでみると目がこぼれそうに大きいのだ。
これほどの美貌、こんな女に生まれたなら、自分は今頃田舎で書店など経営していなかったはずだ。
真理子は脇にかかえた「付羅田」の包みを無意識に隠している自分に気付いた。

「私に何かご用ですか?」
女は自分を元宝ジェンヌで、銀座で産まれた座生さくらと名乗った。
112名無し草:2011/08/23(火) 17:03:18.73
真理子は自分に運がまわってきたことを確信した。
これから撮影に挑もうとする自分の目の前に宝塚女優があらわれたのだ。
彼女の美しさを観察し、彼女にいろいろ教えてもらえば、自分の撮影はきっと成功するに違いないのだ。
113名無し草:2011/08/23(火) 19:49:21.96
真理子は悩んだ。

ここで撮影のコツを聞くべきか、いや、自分のプライドにかけて
何も聞かず、自分を信じてこのまま撮影すべきなのか。。

綺麗にグラビアを飾りたい、でも、早く撮影して、カツオのたたきを思い切りほおばりたい。
真理子の葛藤は続いた。
114名無し草:2011/08/23(火) 20:23:59.92
とりあえず綺麗に映るためにはダイエットしなくては。真理子は決心するのだった。
115名無し草:2011/08/23(火) 20:24:54.32
「『un.un』の目玉企画といったら、占いとセックスとヌードだ」
 フォーションのアールグレイをRichard Ginoriのカップですすりながらテツヲは言った。
 グラビアの打ち合わせ、佳苗はまっすぐ瞳をテツヲに向けて話を聞いている。
「まあ、『un.un』て、ずいぶん品がよくない雑誌ですのね」
 とぼけてみる。
 もうセックスやヌードという言葉で赤面するような歳ではないが、テツヲは佳苗に対し、
「売れっ子作家になったものの、まだまだ垢抜けない田舎娘」としてのキャラを演じるのを要望しているのだろう。
「お前、あと20キロ痩せてグラビアに出てみないか?もちろんヌードだ」
 テツヲは強引に佳苗に企画をおしつけてきた。
「お前、痩せたら奄美勇気風な美人になるぞ、マガズンハウスが絶対痩せられるダイエットのコーチをつける
から3月で20キロ落として、ヌードになれ」
 佳苗はそう来たか…と思った。
 最近、読モとかいう素人がヌードを披露する雑誌が増えた。もちろん本職のモデルではないから美しくはないし、同じ
女性として、決して微笑ましく思えるものではないが、 誰得?とか自己満足としか思えない企画にたやすく乗せられる
愚かな女の多いこと…。そんな彼女たちと同じことができるはずがない。
「おことわ…」
 冷たく佳苗が言いかけた時、応接室のドアが大きく開いた。
 そこにはスイカ腹の色黒妊婦が仁王立ちしていた。
「ちょっとお!テツヲ!順番が違うじゃないのオ!今度の『un.un』のグラビア企画は癌田ウソの『妊婦ヌード』よっ!」
 破竹山がウソの腹をかばいながらも後ろからはがいじめした。
「すみません、変なのが入ってきたのを止められませんで…」
「離しなさいよ、佳苗が脱ぐ前にこのウソが脱ぐのオ〜」
ウソは泣き叫びながら破竹山に引きずられて部屋を退場していった。
116名無し草:2011/08/23(火) 20:39:32.13
真理子は、意を決して座生さくらに、『撮影のコツ』を聞くことを
選択し、座生に「失礼をお許しくださいませ・・・
実は・・・・」と、立て板に水を流すように
自分の言いたい事だけをダラダラと話し始めた。

座生は、目の前の大きな豚のような怪物女が
一方的にくぐもった声で濁流のようにとりとめもなく
自分に向かって信じられないことを話し出すのを
目を白黒させながら、金縛りにあったように
呆気にとられながら、ただ聞くしかなかった。

117名無し草:2011/08/23(火) 20:56:05.87
98:山梨の名無しさん

アクセル01に参加してる、自称脳学者喪木って脱税した挙句、開き直り発言で3チャンネルで祭りじゃん。
フンガー塾長もバイクで事故って休講三昧でさ。生徒が他塾に逃げてるしw

102:山梨の名無しさん

チョモの女店長、駅前の靴屋で無理やりブーツ履こうとしてチャックが壊れそうだったお。
アグー豚?っぽい名前のスッポリ履ける男物のモコモコしたのを買ってたけど去年の売れ残りだろw
あれって、マジ雪男w こんなに暑いのに、よくやるよなー。

111:山梨の名無しさん

本屋のイエティ店長、踝掻きながら赤山薬局でキンカン買ってたの目撃!
118名無し草:2011/08/23(火) 21:15:39.14
真理子は、微・ストリートに自分のグラビアが載ることを思い浮かべた。「あんな有名な雑誌のグラビアに
載ったら、読者モデルとして有名になれるかも。テレビから誘いが来るかもしれないワ。どうせだったら
映画のほうがいいナ」妄想はどんどん膨らむ。
真理子は先週の店の定休日に久しぶりに行ったシネコンで見た映画のことをおもいだした。
20代にはじめの海外旅行で行った厨国のある都市が舞台で日本の有名俳優が出演している映画だったから
期待して見に行ったのだった。
「なに これ意味が全然わからない」真理子は、ブツブツ文句をいいながら手にしたLサイズのポップコーン
を隣の迷惑も考えずバリバリと音を立てて食べたのだった。映画とはポップコーンを食べながら見るもの
なのだ。「あんな意味不明な映画より私が出演したほうがきっと面白いはずだワ」妄想はとどまることを
知らなかった。
119名無し草:2011/08/23(火) 21:17:54.09
座生は、真理子が言いたい事だけを言い終えると
一呼吸おいて「よく、わかりましたわ。
貴女が仰りたいことは、こうね・・・・」と
支離滅裂で、話があっちに飛びこっちに飛びする
真理子のヨタ話を簡潔にまとめ、更に真理子の
要望にまで応えた座生は、元宝ジェンヌで
娘役のトップにまで上りつめただけのことはある。

「初めての(その年で・・・失笑・・・などとは、おくびにも出さず)
グラビアデビューのお話に不安になられるのも無理ないわ。
先ず、そのお話が、そもそもホンモノかどうか確かめねばなりませんわね。
今ね、グラビア撮影をエサに強姦目的だったり、いかがわしい
AVに無理矢理出演させられたりって、恐ろしい事件が横行してますのよ・・・」
と、座生が語り始めた途端・・・・

強姦・AVの言葉に真理子は異様に反応し
「きゃぁ〜〜〜!!強姦されるの私??AVにHで色っぽい私の姿を
収められ、全国の人々に私のHを見られるのかしら??いやぁ〜〜〜ん。。。」
と、顔を歪ませながらも、手足をバタバタと嬉しそうに動かした。

「まぁ、貴女には、そんな心配はないと思いますが・・・・」と
小馬鹿にしたように座生は呟きながらも「お金目的かも知れません!!」と
大きな声で真理子に言った。
120名無し草:2011/08/23(火) 21:23:02.01
「お、お、お金??お金を沢山貰えるの?」
お金にも、異常に執着心のある真理子は
座生に訊ねた。
121名無し草:2011/08/23(火) 21:29:38.81

「いらっしゃあ〜い。エハラちゃんお久しぶりね。どうしたの?そんな青い白い顔して。
死相が出てるじゃなあい。」
『オカマクラブ美輪』のドアを押すと、まだ夕方の5時過ぎであったが、既にママが料理の仕込みのために
カウンターに立っていた。
先週、幼馴染の真理子の霊視以降、夜な夜な嘔吐を繰り返していた江原は寝不足である。
「まあ、座んなさいよ。」ママはさっきまで霊界の親友、田鍋聖子女史があちらの世界から遊びに来ており、2人
目の訳ありの早い訪問客を落ち着かせる。
「本屋の娘の真理ちゃんの事で来たのね。エハラちゃん、世にも怖ろしい霊視を不本意にもした時は
除霊効果抜群の昆布茶を飲みなさい。」トン、とテーブルにあったかい昆布茶を出す。
「流石ママ、そう真理ちゃんなんだけど〜・・あれは何だと思う?」テレパシーで視たものをママに送る。
「ぎゃあああ!!。これは怖ろしいわね。何なのこの妖怪の裸体は!真理ちゃんなのね。しかも毛も剃って
ないのね。ごめんなさい、そういうレベルのグロではなかったわ。けど、これは吉と出てるわ。
真理ちゃんの守護霊がこれを勧めてるの。あんまりに不憫な人生でしょ。だから世間にゲテモノだトドだと
怖れられても、彼女に自信をつけてもらいたいからグラビア撮影頑張りナって守護霊が励ましてるわ。
真実と彼女の思い込みが大幅にズレていても、デブスを苦にして反動で馬鹿食いされるよりはよっぽど
健康にもいいから、夢をみさせてあげて欲しいそうよ。慈悲深い御先祖様ね。」

江原はわかったようなわかんないような気持ちでママの話を聞いて、店を後にした。
とにかく、疲れていたのだ。
フォアグラにも勝るという味の、アンコウの肝、が明日入荷予定だ。
そっちに頭を切り替えて、今回の事を忘れようと決めた。家業の珍味屋は相変わらず繁盛している。

真理ちゃんの事は守護霊に任せよう。






122名無し草:2011/08/23(火) 21:47:26.23
112:山梨の名無しさん

おい、真理タソが座生さくらに話し掛けてたぞ

113:山梨の名無しさん

同じ人類に見えたか?見えない方に5000000000ジンバブエドルな!

114:山梨の名無しさん

真理タソ、べらべら喋りまくったと思ったらいきなりハァハァしながら巨体をくねくねしやがった。
求愛の踊りだな、うん。
123名無し草:2011/08/23(火) 21:56:36.20
120:山梨の名無しさん

おまいら、どんだけ店長好きなんだよw俺は熟女で才女で美女の勝魔塾長の方が好みだな

123:山梨の名無しさん

>>120
勝魔 乙

124:山梨の名無しさん

>>120
フンガー塾長 乙

127:山梨の名無しさん
>>120
(● ●)乙wwwwww
124名無し草:2011/08/23(火) 22:40:38.51
座生さくらはこのどうしようもない、豚のような女をみて冷静に考えていた。
お金がよほどほしいのかしら?何かに飢えているのではないだろうか。
そう思った瞬間、くすりと笑ってしまった。
さくら自身、歌舞伎役者とのスキャンダルを騒がれ、宝塚での生活に疲れ、
退団後に人目を避けるように親類を尋ねてきた田舎への旅であったが、退屈で辟易していたのだ。
刺激に飢えていたといってもいい。
関西でも東京でも言い寄る男はたくさんいたが、どれもさくらの気に入るものではなかった。

「本当にダイエットをし、きれいになりたいのならば私の知ってるエステティシャンを紹介しますわ」

さくらはさも親しい友人を紹介するかのように多中逝子の名を出した。
少し前に多中のDVDを買ったことがまた運命のように感じられた。

真理子はその言葉を聞くやいなや、書店へ戻り「臨時休業」の札をかけた。
人生の一大事なのだ。おら東京さいくだ。
125名無し草:2011/08/23(火) 22:49:01.55
真理子は東京へついたとたん、疲れを感じた。
隣にいる座生さくらは疲れもみせず、相変わらずとってもキレイ。
思えばさくらは真理子よりうんと年下なのだ。
心の中で彼女のことを「妹分なんだわ」と勝手に決めた。

さくらはそんな真理子の胸中も知らず、無邪気にいった
「ねえ、ワインでも飲みにいかない?」
どうしてそこで真理子が拒否できたであろうか。
とびきりの美女とワインバーへいけるのである。

そのバーは西麻布の一角にあった。
「私は銀座生まれだけど、麻布が好きなのよね」
さくらはそういいながらドアをあけ、ものなれた様子でカウンターへ座った。

そこへカウンターの中にいた初老の男が近づいてきて、こういった。
「さくらん、久しぶり。こないだのマルゴーどうだった?」
「んーイマイチだった」さくらはその可愛い口をとがらせた。
これか!
真理子はすかさずこっそり真似をしてみた。
カウンターの角でワイングラスを磨いていた若いバーテンはうっかりグラスを落とした。
ふふ、私の魅力ってすごいわね。

その後、そのバーテンは体調不良を申し出てしばらく店にでなかったのであるが、
それは真理子の知る由にない。
126名無し草:2011/08/23(火) 22:50:26.13
「女って男に押し倒されてなんぼよね」 真理子はひとりごちた
127名無し草:2011/08/23(火) 23:17:37.25
自分の妹のような女がマルゴーをイマイチなどと言ってのける。
その事実に真理子は驚愕した。
マルゴーくらい真理子でも名前は知っている。うんと高いワインなのだ。
「ねえ、それっておいしいの?」
真理子はさくらを見習って上目遣いに目をパチパチさせて初老の男に話しかけた。
男はその店のマスターだった。
「さくらちゃんはお気に召さなかったようですよ」
なんだこの豚は。しかし、この道30年のマスターは必死の思いで耐えた。
「マルゴー、まだ開いてない感じだった。ラトゥールはまあまあだったかな」
さくらはそういいながらシャンパーニュをオーダーしていた。
「真理子さんも飲めるわよね?」
128名無し草:2011/08/24(水) 00:53:23.88
「ハロ〜〜〜〜♪」また、一人客が入って来た。
(外人か?)真理子は、声のする方へ顔を向け
「きゃ〜〜〜ぎゃぁ〜〜〜!!癌田ウソだ!!うっそ〜〜!!!」と叫んだ。

マスターは、叫ぶ真理子を迷惑そうに一瞥すると、慌てて表情を和ませ
「これは、これは、癌田様・・・本日は、お一人で?」
揉み手をしながらウソを迎え入れた。

9センチのピンヒールで大きなお腹を突き出すように
ミニワンピの癌田は、真理子の叫びも無視し
当然のように、VIPルームに向かって歩きながら
マスターに挨拶した。

「やっだ〜〜〜!!マスターったらぁ〜〜〜一人じゃないわよ。
うふっ!ベビタンも一緒だからぁ〜〜二人なの〜〜きゃはははは〜〜〜」
テンション高くはしゃぎながら、指をヒラヒラさせた。

陶然とした表情で、真理子は癌田ウソに見惚れていた。
129名無し草:2011/08/24(水) 01:47:06.76
ウソの細く長い指の先には、ネイルサロンでスカルプされた
蝶や薔薇が美しく散らされ、ウソが手を動かすたびに
指先は輝きを増し、優雅な光がウソを包んだ。

「なんて綺麗な指なんだろう・・・・」
ウソの指から、真理子は自分の指に視線を落とした。

そこには、芋虫のような丸々と太ったずんぐりした
醜い指があった。

「今は、この指も体と一緒でポチャポチャしてるけど
痩せたら指もほっそりと美しくなるはず・・・」と
真理子は指を撫でながら「グラビア撮影の時には
あの爪も取り入れよう」と、ほくそ笑んだ。

だらしなく口を半開きにし、癌田を頭のてっぺんから
つま先まで眺め回している真理子を醒めた目で見ながら
座生さくらは「ここは、有名人がお忍びで来るお店なの。
椛島奈緒美や渡辺ずんいちも常連なのよ」と言った。

「ええっ??椛島奈緒美も来るの?私、椛島奈緒美のような
体になりたいって彼女がデビューした時から思っていたの。」
目を輝かせながら真理子は嬉しくなった。

なんだか、運がまわってきたみたい。

この女(座生さくら)の声をかけて正解だったわ。
130名無し草:2011/08/24(水) 06:25:02.88
 東京…美しい女達、高いワイン…。
ああ、ここで、シャンパーニュを飲んでいるだけで、すごい美人になった気がするわ。
真理子は文字通り、この世界に酔いしれていた。
 美人のように濡れてうるんだ瞳をゆっくりと動かすと、入口のドアが開き、美しい男が
入ってきた。
 白人とのハーフなのだろうか?彫が深い整った顔立ち、70年代に流行った濃い顔の美形だ。
 江原くんの言ってたテツヲというインド人に似た人もこういう顔なんだろうねえ、
私のダーリン……一体東京のどこにいるのかしら?と思った矢先、マスターが思わぬ言葉を言った。
「テツヲさんいらっしゃい、ずいぶんご無沙汰でしたね」
「癌田ウソいる?事務所に母子手帳落としていったんで届けにきたんだけど」
「テツヲ〜〜ここよお〜いるわよう〜」
 ケータイを片手にウソが手を振った。

 テツヲ…テツヲ…テツヲ…

 真理子は胸がはりさけそうになった
 やっと出会えた、私の運命の人…
 
131名無し草:2011/08/24(水) 09:49:54.72
真理子は胸がはりさけそうに思ったのだが、実際はりさけそうになっているのは
「おしゃれの店 ブティックサンダー」で購入したジャケットとワンピであった。

2サイズほど小さいものにギュウギュウ身体を無理やり押し込んだため、
白いテーラードジャケットの第一ボタンはどうしてもとまらなかった。
第二ボタンは辛うじてとまったが、裂けそうだと悲鳴をあげている。
前身頃には>>X<<型にひきつれたシワが寄り、後ろ身頃には「三」とも読める横皺、
二の腕部分にも細かい複雑な皺。
プリーツと呼べばよいのだろうか。それともドレープなのか。
現代アートを連想させる不思議なデザインの衣服に見えるのだ。
132名無し草:2011/08/24(水) 10:12:16.73
真理子の暑苦しい視線に気づいたのかテツヲがこっちを向いた。真理子の胸は高なった。
テツヲはそばまでやってくると期待に胸をふくらませた真理子にでなく、さくらにむかった
「座生さん お久しぶりです。鬼島先生はお元気ですか?」と声をかけた。
133名無し草:2011/08/24(水) 12:15:53.82
鬼島・・・と、聞いて
テツヲから母子手帳を受け取りに来ようと
9センチヒールでヨタヨタ歩いてきた癌田ウソは
血相を変えた。

大きな西瓜腹をぐいっと抱えながら
「ちょっと〜〜〜!!テツヲ〜〜!!
ウソの前で、鬼島の名前を出さないでくれる?
ウソは、あの女が大っ嫌いなんだからぁ〜〜〜」と
テツヲに迫った。

テツヲは、「ウソさん・・・未だ、あの記事のことで
ご立腹なんですね。」と、苦笑交じりでウソの肩を抱き寄せながら
「困った、可愛い子ちゃんだな。ウソちゃんは、世界一美しく
幸せな女性なんですよ。嫉妬されるのも貴女が幸せ過ぎるから
なんですよ・・・芸能界でも成功し、服飾デザイナーとしても
脚光を浴び、ご主人は超大手のゲーム機メーカーの御曹司。
しかも、人工授精じゃなく、普通にHして天使を身ごもった。
サイコロなら上がり、人生ゲームでも負け知らずの大富豪。
やっかまれない方が反対に怖いですよ。」と、ウソの耳元で
囁いた。
134名無し草:2011/08/24(水) 13:23:31.50
そんな光景を真理子はぽかんと口をあけたまま眺めていた
あんな綺麗な女とイケメンのツーショットをみたのははじめてた。
隣にいるさくらも同様に眺めながら、チロチロと赤い舌で時々唇をなめ、白い喉を鳴らしながら今は赤ワインを味わっている。
その様はエロチックで女の真理子でさえもうっとりするほどだ。
真理子はさくらに尋ねた。
「鬼島さんとお知り合いなの?」
さくらはつまらなそうに答えた。
「少し前にタカラヅカの話を聞かせてほしいって言われたのよ。
次の小説のネタにしたいからって。私をモデルにしたいっていってたけどね」
135名無し草:2011/08/24(水) 13:31:25.60
そこへテツヲが近づいてきた。
真理子の胸は高まった。
ジャケットとワンピがはりさけないように両手でしっかりと押さえている。
このしぐさは、真理子が羞恥心をもった素敵な女性であることをアピールできている気がした。

「また今度鬼島先生がさくらさんにお話をききたいそうです。僕もあなたとゆっくりお話したいし、
近々白金のフレンチでもいかがですか?セッティングしますから」
テツヲは真理子のことは完全に目に入らないかのようにさくらにだけ話しかけた。

これは女性の気を引くために男がよくとる手段である。
気になる女性の前で、わざと他の女にばかり話しかける。
もちろん、その女性の気を引くためだ。
なんと古典的な手法を使う男であろうか。
真理子はちょっと胸が熱くなった。厚くなったのではない。胸板が厚いのは元からだ。

136名無し草:2011/08/24(水) 13:45:00.97
一方、テツヲは座生さくらの隣にいる人間のなりをした物体に驚いていた。
鬼島先生で慣れたつもりだったが、上には上がいるもんだぜ・・・
鬼島先生を脱がして載せるより、こいつを載せたほうが面白いかもしれないな・・・
ダテに辣腕編集者として名を馳せているわけではなかった。
と、同時に長年の友人でもあるクリエイティブワードプロデューサーの東條が言ってたことを思いだした。
某女流作家の命で山梨にいる女に会いにいって、襲われて大変な目にあったという話であった。
137名無し草:2011/08/24(水) 13:56:33.82
なんでもその女は小さな書店を経営しながら、有名人になることを夢見ているということであったが、
とにかく驚くほどの醜女だったという。
今ここにいるこの女とどちらが上だろうか?
138名無し草:2011/08/24(水) 14:22:22.14
ぐーぐー鳴るお腹を押さえて真理子は少し慌てる。
「どうしてこの人たち何も食べないでお酒を呑むのかしらん」
シャンパングラスの脇に置かれた白い皿には、ほんの一欠けらのチーズと、
枝がついたままの干し葡萄がちょこんと置かれている。
山梨だと付け出しにハチノコが山盛りに出てくるのに、この店のといったらお飾りに過ぎない。
しかも、誰もがグラスを少し傾ける程度で、おつまみには手をつけないのだ。

すきっ腹にアルコールを入れたせいか、少し酔いが回ったようだ。
真理子は額に変な脂汗が垂れてくるのを、自分では気付いていなかった。
東京は節電しているのだろうか?妙に暑い。本当はジャケットを脱ぎたい。
だが、マダム三田がつぶやいた「マリちゃんは二の腕を出さない方が似合うわ」という教えを守る事にした。

その時、つんざく様な声で癌田ウソが叫んだ。
「マスター!ちょっと変な匂いがするんだけどぉ。新種のチーズ?」
139名無し草:2011/08/24(水) 14:47:19.66
マスターはうんざりしながらVIP席へ向かった
VIP席といっても小さな店なのでかんたんな仕切りを設けただけである。

この店はマスターが道楽半分ではじめたものである。
本業は輸入雑貨販売だったのが、趣味が高じて店を開くことのいなった。
珍しいワインがおいてあって、ワインのわかる面白いマスターがいる、というのでまたたくまに業界人の間で話題になったのだ。
ちょうどバブルということもあって、飛ぶように高いワインが売れた。
当時一番お洒落だった六本木のキャンディというイタリアンで食べてこの店に寄る、というのがちょっとしたステイタスにだった。
女流作家の盛瑤子や銅島洋子といった華やかな面々がよく訪れて騒いでいたものだ。
彼女らは世界中のあちこちに別荘を買ったと自慢をしていた。
あの頃はよかった。
今やこんなワインもわからないような若い女にクレームをつけられる始末だ。

140名無し草:2011/08/24(水) 14:51:47.88
すみません、チーズではないんです・・・マスターはへつらうようにしてウソの元にひざまずいた。
「ウッソー!しんじらんなーい!なんの臭いなのよ〜」
ウソは妊婦でありながらワインを飲んでいた。
「そのくらいにしておいたほうがよろしいですよ。赤ちゃんにさわりますから」
マスターはグラスを下げた。
ウソはふくれっ面をしながら席を立った。
「臭いの元はこの人だったのね!」と真理子の方を蔑むように見て扉をあけて出ていった。

真理子は悲しくなった。
ウソちゃんは可愛かったけど、性格が悪いようだワ。
こんな素敵なさくらさんを臭いだなんて、許せないことなんだワ。
141名無し草:2011/08/24(水) 15:10:35.16
それにしても空腹で倒れそうだ。
くらくらする。汗もかいたからシャワーを浴びたい・・・
それに気付いたさくらが美しい刺繍がほどこされたハンケチを鼻にあてながら優しく声をかけた。
「真理子さん、酔ったんじゃない?ホテルはすぐそこよ。
明日は多中先生から直々に象顔マッサージを受けるんだから早く寝たほうがいいわ」
142名無し草:2011/08/24(水) 15:33:45.16
小顔になれるという象顔マッサージ 目は二重で鼻の形もいいワタシだが、顔が大きいことだけは悩みだった。
これで小顔になってグラビアに載ればきっと男たちがほっておかないはずだワ。
酔いと空腹でフラフラしながら真理子は男に迫られるところを妄想した。
143名無し草:2011/08/24(水) 15:48:44.79
211 名前: 東京都名無区

妊婦のくせにワインをあおるウソに遭遇@西麻布のワインバー
なんか、他の席にいた別の妊婦に絡んでたっぽかった。
どっちもデカイ腹抱えて夜遊びかよw

212 名前: 東京都名無区

西麻布のワインバーって、ちょっと高飛車なマスターがいる所?
あそこってさ、バブル時代で止まってるっつーか終わってる希ガス。
前に行った時、渡辺ずんいち先生がホステス風の女と飲んでた。

213 名前: 東京都名無区

妊婦がワインって赤ちゃんヤバくない?
前に六本木のスタバで「子供は絶対赤山学院へ入れるんだ〜」って大声で話しててドン引きしたわ。

144名無し草:2011/08/24(水) 15:53:38.32
あら、化粧品を持ってくるのを忘れてしまったワ。
このままバタンキューで寝てしまったら、朝起きてお肌が大変なことになっちゃいそう。
地元の田舎ならそれでいいんだけど、流石に東京で
素敵な男性との出会いがあるというのに、そういうわけにもいかないわ。

洗顔はバスルームのボディソープを使えばいいし、
クリームは・・・ルームサービスでコーヒー頼んで、一緒についてくる
コーヒーフレッシュを顔に塗ればいいわね。
クリームなんだからコーヒーに入れようが顔に塗ろうが同じことだわん。
145名無し草:2011/08/24(水) 16:04:12.00
酔いにふらふらしながらも真理子はコーヒーフレッシュを顔に塗りたくった。
その白い顔はまるで祇園の舞妓のようではないか。
舞妓になった真理子・・・うっとりとした。
冷蔵庫をあけてみるとスナック菓子類がおかれていた。
お金をとるのだろうか?だまってりゃわかりはしないはずと真理子はポテトチップスを頬張った。
山梨で売られているものと同じはずだが、心なしかうんとおいしいと思った。
ベッドでゴロンとなりながらポテチをむさぼり、ビールを飲んでいるうちに眠気が襲ってきた。

妄想なのか夢なのか、真理子にはもう区別がつかなかった。
真理子は椛島奈緒美になっていた
最初はうぶだった女が熟練した技をもつ男性に絶頂を何度も味わわされる・・・
イヤよイヤよ・・・と子供のようにイヤイヤと首をふってもそのしぐさがまた男を刺激し、
何度も何度も求められてあっけなく達してしまうのだ。
ああ、また・・・


そこで真理子ははっと目が覚めた。
自分の見た夢が先日まで毎晩飽かずに愛読していた「愛の留置所」(略称は愛リュチ)のワンシーンのようだった。
渡辺ずんいちの話題作で、真理子の本屋でも飛ぶように売れたものだ。
146名無し草:2011/08/24(水) 16:12:58.22
テツヲさんに会ったもんだからあんなイヤラシイ夢を見ちゃったんだわ・・・と真理子は思った。
予言は正しかったのだ。
愛読誌である「女性エイト」を出そうとバッグを開けたところ、中から折りたたまれたメモが出てきた。
そこには携帯電話番号とともにこんなメッセージが書かれていた。

「ご連絡お待ちしてます。テツヲ」
147名無し草:2011/08/24(水) 16:25:40.78
一方、そのななめ向かいの部屋で座生さくらはゆったりとバスに浸かっていた。
バスタブには薔薇の花がたくさん浮かんでいる。
以前からさくらにしつこく言い寄っている男性からの贈り物だった。
さくらが東京へ戻っていると知るやホテルを調べてすぐさまボーイに届けさせたのだ。
さすが世界的にも有名な競走馬生産牧場を経営している一族の跡取りだけはある。
何度も求婚されているが、当然さくらはまだイエスの返事はしていない。
自分は元タカラジェンヌなのだ。焦らなくてもいいだろう。

それにしても山梨で変わった女に出会ったもんだわ・・・とさくらは思う。
相当醜いけれど、自分のまわりには今までいなかったタイプだ。
それにあの女には何か人を惹きつけるところがある。
148名無し草:2011/08/24(水) 16:36:05.41
136:山梨の名無しさん
会社の帰りにあの店寄ろうと思ったら定休日でもないのに閉まってた。何かあったのか?

137:山梨の名無しさん
>>136
夕方行ったときは、「臨時休業します。」って殴り書きに、あの店長の似顔絵らしきものが
書いた張り紙が出てたぞ。


140:山梨の名無しさん
友達が、駅であの店長がきれいな女の人といっしょに歩いているところを見たそうだ。
どっか出かけたのかも。
149名無し草:2011/08/24(水) 17:29:16.12
まだ昼の熱気が冷めやらぬ闇の中に男が一人立っていた。

見上げると、だらしなく斜めにかかる看板にはブックショップ・チョモランマとある。
ここがする人ぞする、いや知る人ぞ知る、分厚い身体で薄い小説を書く女の店か。

おや、なぜかソテツの木が置かれている。
沖縄のホテル気分になるとでもいうのか。
横には枯れた木だが、これは梅?滅茶苦茶にもほどがある。

閉め切られた店の中から漏れ出す悪臭が、周囲をセピア色に変えている。
臭いは元から断たなきゃダメダメ、いや、便器の黄ばみにサンポール女だな。
セピア色で美しいのは、昭和の思い出だけで十分だ。
150名無し草:2011/08/24(水) 21:03:20.58
230 名前: 東京都名無区

私も見たけど、ウソの奴ピンヒールだったよね・・・

231 名前: 東京都名無区

ウソなんかどうでもいい。俺はもう一人の妊婦に釘付けだった。
おまえら、服を着た牝のカバを見たことあるか?それも、バサバサのカツラをかぶって首に黒いウロコのあるカバだ。
151名無し草:2011/08/24(水) 21:20:41.21
 ああ…でもやっぱりスナック菓子一袋ではお腹がすくわ…。
お肉が食べたい。と真理子は思った。
 そういえば、デビューしたての頃、もらった原稿料で足立区のスタミナ園でどっさりお肉を食べたわ。
特大ハラミ…ミックスホルモン…今でもあの店はあるのかしら?
 いいえ、JOJO苑でもいいわ。
 夢遊病患者のようにふらりと、ベッドを降りると、バッグを持って真理子はホテルのドアを開けた。
152名無し草:2011/08/24(水) 23:56:29.84
ペタペタペタ。。。。

真理子は、ホテルのスリッパのまま路上を歩いていることに気づいていない。

道行く人の誰もが、真理子を見て「えっ?」と驚いたような顔をして立ち止まったり
振り返ったりする。

真理子は「いやぁ〜〜ね。。。私って、そんなに目立つのかしら?
美しいって、罪なことね。なんだか、煩わしいわ・・・」と
ちょっと怒った顔をしながら、呟いた。

自分では、ツンと澄ましたスカーレット・オハラになったつもり。

真理子の耳には、通りすがりの人達のヒソヒソ声や嘲笑は聞こえない。

「あ〜〜〜、そんなことよりお肉が食べたい・・・」
口金を留めていないので、真理子と同じようにだらしなく
バクバク開いたバッグを揺らしながら真理子は、夜の街を
徘徊するのであった。
153名無し草:2011/08/25(木) 00:44:44.63
238名前: 東京都名無区

>>231

オリ、見たど!!服着た牝カバ
スリッパ履いて、歩いてた
顔とウロコに白い液体つけてキモかった

239 名前: 東京都名無区

お気の毒様
今夜、悪夢に魘されないように祈ってやるよwww


154名無し草:2011/08/25(木) 08:08:49.93
お肉、お肉、お肉が食べたい・・・
ステーキ、焼肉、すき焼き、しゃぶしゃぶが食べたい・・・
もし食べ切れなかったらステーキサンドイッチにしてお持ち帰りして、次の日の
朝ごはんにしよう。朝から分厚いお肉のステーキサンド・・・

真理子が若かった頃、肉が好きなんて公言する若い女は眉をひそめられる存在だった。
若い未婚の女とは、おとなしくつつましく消極的で
男から告白されプロポーズを待つべき草食動物のような存在だったのだ。
真理子は若い頃「肉が好き。肉が食べたい。」と表立って言うことができなかった。
そういう勇気がなかったのだ。

しかし現代は肉食女子がもてはやされる時代。
焼肉店で女子会が行われても特に注目されることではない。
女から積極的に男に告白し、付き合いを始め、プロポーズして結婚しても良いのだ。

ああ、もっと遅く生まれたかった。
今の時代に娘時代を過ごし、若い頃から何の遠慮もなくバンバン肉を食いまくり、
男に交際を申し込んでデイトしたかった。
そうすればもっと若いうちに結婚して子どもを産めただろうに。
155名無し草:2011/08/25(木) 09:29:58.29
真理子はあてもなく深夜の街を徘徊していた
深夜のこととて、大抵の店は閉まっていた
たまに営業していると思しき店があっても、何の店かもわからないバーのような
看板もでていないところだ。
こういう店にはきっと有名な芸能人や文化人が集まっているのだろう。
真理子は歯ぎしりしたくなった。
私だって、かつては山梨にマリリン有りと言われた女。
高校生のころ、ラジオDJだってやっていたのだ。
156名無し草:2011/08/25(木) 09:33:17.77
もう今夜は諦めてコンビニで何かあさって帰ろうかと思いなおした瞬間、
目の前に焼肉屋があらわれた。
ずいぶんと小汚い店がまえだが、中は盛況のようだ。
迷わず木製の引き戸をガラリとあける。
中は肉を焼く煙でもうもうとしていた。
ようやく目が慣れてくると、狭い店内はほぼ満席であることがわかった。
カップルで来ている者もいる。
深夜に焼肉を一緒に食べている男女はデキている、というのは常識である。
157名無し草:2011/08/25(木) 09:38:19.21
そこへ店員が近づいてきて真理子にこういった。
「御予約頂いておりますか?申し訳ございません、当店は完全予約制でして・・・」
慇懃なもの言いではあるが、どこか見下すような態度だ。
深夜に女が焼き肉を食べて何が悪い!
某ジャニーズアイドルが公園で全裸で叫んだように、真理子も叫びたかった。

するとぬっと真理子と店員の間に男が割りこんできた。
男はぽっちゃりとして眼鏡をかけていた。
「このお嬢さんはお腹が空いてるみたいだから、僕のテーブルに招待しますよ」
「え、いいんですか、夏元さん・・・」店員は男を夏元と呼んだ。
真理子はあっと小さな声をあげた。
有名な作詞家の夏元康だ。
158名無し草:2011/08/25(木) 09:50:35.76
夏元は酔った勢いとはいえ軽い気持ちで真理子に声をかけたことをすぐさま後悔した。
なんだこのクリーチャーは。食っても食っても食い足りないというように肉をたいらげる。
ここの肉は決して安くはない。
店は汚くて旨いということで

焼けるのも待ちきれないというように、まだ生焼けのものもすいすいと腹へおさめていく。
夏元は一緒に来ていた女性漫画家のガーファンクル・フミと顔を見合わせた。
大食い選手権というものがかつてTVでもてはやされたが、この女が出ていたら間違いなく優勝できただろう。
真理子は目の前に有名人がいるのについついがっついてしまう自分の食欲がうらめしかったが、箸を動かす手はとまらなかった。

159名無し草:2011/08/25(木) 10:40:51.52
ガーファンクル・フミは夏元がこの女に声をかけた理由が少しわかる気がした。
キムチをつまみながら、なんとなくこの二人は体型が似ているわ、と意地悪くおもった。
夏元は業界でも相当の実力者であると同時に美食家で知られているが、美食家の宿命で相当な贅肉を身に着けていた。
女はやっとひとここち着いたのか肉を食べすぎて胸やけがする、と言い、キャベツを手づかみでむさぼるように食べている。
「ねえ、あなたみたところスリッパのままだけど・・・・」ガーファンクル・フミはさっきから気になっていたことを聞いてみた。
女は真理子と名乗ったが、スリッパの何が悪いのかしら、という顔をして、ガーファンクルを半ば無視するように夏元に慣れ慣れしく話しかけた。

「ねえねえ、夏元さん、私、朝焼けワンワンずっとみてましたぁ。オワンコメンバーに入りたかったのだわん。
今はあのBSU48をプロデュースしてらっしゃるんでしょ?私、一流の文筆家になることが夢だったんだけど、
本当はアイドルもいいなあとおもっていたの。BSUってクラスで10番目の女子集団なんでしょう?入れてもらえないかしら?
私でも楽勝だと思うし、水着や下着姿になるのも抵抗ない。脱ぐ覚悟だって出来てるんだもの」
160名無し草:2011/08/25(木) 10:49:15.53
ガーファンクル・フミはあまりの女の恥知らずな発言に言葉も出なかった。
こんなトドのような女がSBUに入れるなどと本気で思っているのであろうか?
身の程を知らないと言うのは恐ろしいことだ。

夏元は苦笑しながらガーファンクル・フミに救いを求めた。
「ガーファンクル先生、何かいってやってよ」

真理子があらっという顔をした。
夏元の隣にいる中年女はあの漫画家のガーファンクル・フミだったのか。
「習志野ラブストーリー」「ひいらぎ白書」など、真理子も夢中でテレビにかじりついてみていたものだ。
有名人にはめっぽう弱い真理子は焼き肉の油でてらてらとひかった唇を舐めながらガーガファンクルにむかってこういった。

「あの習志野ラブストーリー、みてたわ。カーンタ!っていうセリフが流行ったわよね。
当時地元であの女優さんに似てるってよく言われて困っちゃったわよ」
161名無し草:2011/08/25(木) 10:56:29.32
ガーファンクルは呆れて言葉もなかった。
よくここまで自信過剰になれるものだ。

真理子はキャベツに飽きると次は勝手にビビンバとクッパとナムル丼を注文した。
当然「大盛りで!」と付け加えることも忘れなかった。
どうせ明日、多中先生の象顔マッサージを受けるんだもの、多少の不摂生はチャラにできるわ・・・
それに昨日は座生さくらや癌田ウソといった美女のオーラを存分に浴びることができたんだもの
少し前までブックス・チョモランマでくすぶっていた自分とは違うのよ・・・

ビビンバ、クッパ、ナムル丼をむさぼりながら、真理子は自分の身の上と東京へ来たいきさつを二人に語った。
162名無し草:2011/08/25(木) 11:05:55.70
その頃、山梨のビジネスホテルの狭い一室で男はテレビをみながらベッドに横たわっていた。
せっかくこんな田舎まで来たのにとんだ無駄足だった。
行き違いで、ブックショップ・チョモランマの女は東京へ行ったという。

出版業界は今危機に晒されている。
ゆとり教育の結果か、日本人の教養度が低いのか、ケータイ小説だのライトノベルだの、
そんなものばかりがもてはやされて活字離れがすすんでいる。
難しい本はもう売れないのだ。
読者が求めているのは軽さだ。
軽薄であればあるほど望ましい・・・丸川書店の名物編集者、城見徹はそう考えている。
それなのに、文学賞に応募してくるのはやたら気取った文章で小難しいことを書きたがる連中ばかり。
城見は吹けば飛ぶような軽さをもつ作家を求めてきたのだ。

163名無し草:2011/08/25(木) 11:12:46.66
258:山梨の名無しさん
チョモの前でたたずんでる小太りのオッサンがいたよな
中を覗いたりして挙動不審だったぜ

260:山梨の名無しさん
>>258
俺もみた。目があって「ここの店主について教えてほしい」って言われたよ


261:山梨の名無しさん
>>260
mjd?なんかやらかしたのか、あの女

262:山梨の名無しさん
どうだろうな。とりあえずありのまま伝えておいた。ちょっと盛ってみたけどなwww
「期待以上だな」とかいっててそいつもちょっとキモかったぜ。
164名無し草:2011/08/25(木) 11:21:42.21
丸川書店での城見の待遇は悪いものではなかったが、城見は独立を考えていた。
丸川はユニークなワンマン社長であったが、どうもこの頃はその方針についてはついていきかねるとおもうようになってきた。
出版社を立ちあげたいが、いきなり大御所がそんな小さな会社のために執筆してくれるかわからない。
そのために新人を発掘し、自分が育てて自分のいいなりになる売れっ子を作らねばならない。
165名無し草:2011/08/25(木) 11:40:18.93
ブチブチブチッ 
ビリビリビリッ

すごい音をたてて真理子のきていた洋服は裂けた。
ちょっとお手洗いに行こうと思っただけなのに、なんということであろう。ボタンはすべてはじけ飛んでワンピースは二つに裂けた。
サンダーの服もおちたものね、と真理子はおもった。
何がモテワンピだ、「おしゃれの店 ブティックサンダー」のツルさんに文句言わなくっちゃ。
いやらしいようだけど決して安くはなかったんだし。

ガーファンクルは後ろから自分のもっていたカーディガンを真理子の背中にそっとかけて耳元でささやいた。
「元々きつかったのにたくさん食べたから破けてしまったのよ。今度からはサイズにあったものをお選びなさいな」
真理子はカッとなった。まるで私が大食い女かのような言い草ではないか。
「さっきのあなたの話によると、あなたは痩せたいのでしょう。よかったら僕の薬をわけてあげるよ」
夏元がポケットから錠剤を取りだした。
真理子は一瞬ドキッとした。これはいけないお薬なのじゃないのかしらん。
166名無し草:2011/08/25(木) 11:45:15.18
夏元はそんな真理子の表情をみて笑いながらいった。
「大丈夫だよ。これは友達の作曲家二枝さんも愛飲してるんだ。医師が処方したものだし安全だよ」
作曲家の二枝成影は真理子も知っている。そんな人たちが飲んでいるなら安心安全なんだわ。
この薬を飲んでいればどんなに食べて飲んでも太らないらしい。
これを飲むだけで痩せられるなんて、なんて素晴らしいのだろう。
167名無し草:2011/08/25(木) 13:27:23.29
夏元はこうもつけ加えた。
「この薬の効き目はすごいんだ。飲めば翌日にはかなり痩せている。
ただあまり薬に頼りすぎるのもよくないから、勝負時にだけ使うようにしたらどうかな。たとえばさっき言ってたグラビア撮影時とか」
ガーファンクル・フミはそんなやりとりをちょっと白けた気持ちで聞いていた。
デブ同士の連帯感というのは恐ろしいものだ。
ダイエット仲間という言葉もあるくらいだが、初対面のデブ同士、なにか惹かれるものがあるのだろう。

ガーファンクル・フミは漫画家ながらお茶ノ湯女子大を出ている才媛として、
また暴走族あがりのリーゼントの男が大手企業で出世していく様を活写した漫画、
「課長・嶋大輔」を描いている売れっ子漫画家が夫であることもあってかなりの有名人であり、
恋愛の巨匠とも呼ばれ、メディアでもひっぱりだこである。
そんなフミでもこのような女はみたことがなかった。行動が漫画チックにもほどがある。事実は漫画より奇なり。
そうだ、今度「un.un」のテツヲにこの話教えてみよう。きっと面白がるはず・・・
168名無し草:2011/08/25(木) 13:32:55.60
真理子は薬を有頂天で受け取ったが、店内の白い目に気付いて恥ずかしくなった。
イヤン、みんなが嫌らしい目で私をみているわ・・・
破れたワンピの間から、ニッセンのスマイルランドで買ったブラジャーがチラチラ見えているのかもしれない。
スマイルランドはL〜10Lまで揃ってるのが便利なのであるが、
どうしてもスッチーの幼なじみ稲穂ちゃんが愛用してるというラペルラには劣るわよね・・・。
169名無し草:2011/08/25(木) 14:07:01.71
夏元は真理子のためにタクシーを呼ぶように店員に言いつけ、タクシー代まで渡してくれた。
「こんなにしてもらっていいんですかあ?」真理子は上目遣いでぱちぱちと夏元をみた。
「ハハ、BSUにいれてあげることはできないですから、ほんのお詫びですよ」と夏元は笑った。
初対面なのに予約の取れない焼き肉屋でたらふく食べさせてくれて、ダイエットの薬までくれて、車まで回してくれた。
なんといい人なのか。

「また機会があればお会いしましょう」車に乗り込もうとする真理子に、夏元が手を差し出してきた。
「そうね、次はふぐがいいわ」真理子はそう言いながら手を握り返した。
ネチョっという音をガーファンクル・フミは聞いた気がした。

遠ざかるタクシーを見送りながら、ガーファンクルは夏元に尋ねてみた。
「どうしてあんなに親切にしてあげたの?」
夏元は何をいってるんだというような目でガーファンクルをみながら答えた。

「僕を誰だと思ってるんだい、僕は天才といわれるプロデューサーだよ。
常に商売のことを考えてるのさ。今、和牛が敬遠されてるのは知ってるね。
そう、これからの時代は豚!豚なんだよ。
養豚場48プロジェクトなんてどうだい?ちょっとぞくっとするだろう?」
170名無し草:2011/08/25(木) 14:09:06.48
自ら焼き肉を食べに来て、焼き肉屋にいながら和牛の時代は終わったと言い放つ男。
いったいこの男は天才なのか馬鹿なのか、ガーファンクル・フミには判断がつかなかった。
171名無し草:2011/08/25(木) 14:11:07.98
249 名前: 東京都名無区

みんな、騙されるな。そのカバは偽りの姿だ。本 当 は セ ミ だ

某焼肉屋で脱皮したのを見たぞ!

250 名前: 東京都名無区
ちょww漫画家のガーファンクルと一緒にいた、あれかww
なんか、アイドルになりたいとか脱ぐとかわめきながら、キャベツ食ってたが
172名無し草:2011/08/25(木) 14:45:00.29
真理子はホテルの自分の部屋へ入ったとたんベッドへ倒れ込んだ。
全身に焼き肉の臭いが染み付いていたが、今からシャワーを浴びる気にもならない。
ああ、なんと東京は素敵なところなんだろう。
私がちょっとふらっと歩けば素敵な男性がよってたかって私に御馳走したがるんだワ

ごろんと仰向けになり突き出た腹をさすりながら真理子は東條のことを思い出した
テツヲさんとどっちがいい男かしらん・・・
ぐふぐふげっぷげっぷぐふふふふふと笑いとげっぷがとまらなかった
173名無し草:2011/08/25(木) 15:59:19.68
翌朝、いくらたっても待ち合わせのロビーへ降りてこないので、さくらは真理子の部屋を訪れた。
「あら・・・もうそんな時間だったのぉ・・・?」
真理子はのんびりと言いながら、ベッドの上でワイドショーをみていた。

さくらは部屋の様子に驚いた。
部屋中、なんともいえない匂いが漂っている。
そしてたった一晩、数時間過ごしただけだというのに、ベッドはぐちゃぐちゃ、
雑誌女性エイト、ストッキング、ポテトチップスの袋、ビールの空き缶が散乱していた。
脱いだ服はボロボロになって椅子にかけられていた。

「着て行く服がないからここで待ってたの。ワンピもジャケットも破れてしまって。
よかったらさくらちゃんの洋服を貸してもらえない?」

さすがにさくらはムッとした。このアザラシ体型で自分の洋服がはいると思ってるのだろうか。
174名無し草:2011/08/25(木) 18:04:12.52
298 名前: 東京都名無区

>249 そういや、鹿浜の安売りで有名な肉屋横の電柱で
  西川海苔男みたいにツクツクボーシ突く突くボーシ、
  ツクツクスッチョンと腰を振る変わったセミを見かけたな。

175名無し草:2011/08/25(木) 19:36:16.59
さくらは不機嫌な表情を一瞬で収めた。さすが元宝ジェンヌである。
「私の服は貸せないけれど、お店ならご紹介できるわ。
あなたにきっと良く似合うと思うの」
さくらは自分の行きつけの店を思い浮かべた。
あそこでサイズがなくて恥をかけばいい・・・さくらは密かに笑みを浮かべた。
176名無し草:2011/08/25(木) 20:19:25.50
さくらの行きつけのブティックである『汁・サンダー』は、銀座の
路面店にある。

『急遽堂』『厭う屋』は、銀座生まれのさくらにとって
幼児の頃からの遊び場だったし、『涙・美豚』や『或る・魔亜似』
『得る雌』といったブランドは、赤ちゃんの時から馴染みがあり
さくらにとって、一般庶民が「老舗ブランド」「超一流」と
騒いだり垂涎の眼差しでそれらのブランドを語ったり、色めきたったりすることが
理解できなかった。

なので、真理子を『汁・サンダー』に連れて行くことにも
躊躇はなかった。
ただ、このカバのような大豚女に着れるような既製服が
ないんだよ!!と、豚女に思い知らせることだけが目的だったのだ。
177名無し草:2011/08/25(木) 20:29:33.52
真理子は、さくらに促され
黒塗りのハイヤーに乗り込んだ。

さくらは、運転席の後ろに、スルッと身を滑らすように
座ったかと思うと、グズグズしている真理子に
「早く、前の席に座って!!」と、命じたのだ。

真理子は、さくらさんって・・・・なんて優しいのかしら。。。。
この私に、一番見晴らしのよい、運転手さんの隣という
特等席に座らせてくれて。。。。やっぱり、気配りのできる
美しい才女は、違うわ〜〜と、感激した。
178名無し草:2011/08/25(木) 20:57:14.36
城見は、銀座の『婆・罵詈』での「秋・冬コレクション逸品会」で、しっとりとした
落ち着きのあるシルク製のお洒落なコートに袖を通していた。

「流石は、城見様でございますわ・・・・この小粋で、贅沢なほんの
数週間にしかお召しになることのできないこのコートが
これほどまで、しっくりお似合いになる方には、これまで
お目にかかったことがございませんわ・・・・」と、
婆・罵詈の女店長に煽てられ、城見はいい気分だった。

179名無し草:2011/08/25(木) 21:11:11.26
山梨の本屋にも会えず、今朝早く山梨を出て会社に直行しようと思ったのだが、
ふとモヤモヤした気分を解消しようかといつも覗くこの店に来てみたのだ。
180名無し草:2011/08/25(木) 21:16:27.96
その頃、山梨の商店街では真理子の不在を心配している老女がいた。
老舗婦人服店「おしゃれの店 ブティックサンダー」三田ツル子だ。
「マリちゃんは盆暮れ正月、クリスマスも休まず書店を開けていたのに。どうしたずら…」

昭和30年代の終わり頃、ツル子の娘ツル美と真理子は同じピアノ教室へ通っていた。
「ツルちゃーん、ピアノ行こう!」店先で元気良く呼ぶ真理子の声は商店街中に響いたものだ。
ツル子は針仕事の手を止めて、教室へ行くぎりぎりまでバイエルを弾くツル子に声を掛ける。
「マリちゃんが迎えに来てくれたわよ」しかし、ツル美は鍵盤から離れようとしない。

おしゃれの店は、大勢のお針子さんが所狭しと作業をしてる。
ドロップやキャラメル、小さな落雁などが入った缶が作業台の隅に置かれたいた。
口に小さな楽しみを運びながら、若いお針子さん達が手作業を続ける。
ツル子は、娘がいつも友達を待たせるのに気をもんでいた。
「マリちゃん、このカンカンからお菓子どうぞ」真理子はにぃと笑いお菓子を鷲?みにした。
十数人いたお針子達の三日分の楽しみが、ピアノの日にごっそり無くなっていたのをツル子は晩年まで知らなかった。
真理子はもう一度ありったけの声で「ツルちゃーん」と叫んだ。
ツル美は、ため息と共にバイエル下巻とまだ真理子には配られていないブルグミューラーの教本をレッスンバックに入れた。
181名無し草:2011/08/25(木) 21:35:01.02
二人を降ろしてハイヤーを発車させると運転手は、窓をあけた。
「ふーっ あれはいったい何の臭いだったんだろうか」 
182名無し草:2011/08/25(木) 22:41:25.28
「せんせえ、せんせえ」
 佳苗が自分のオフィスで執筆をしていると、提灯そでにかぼちゃブルマ、白いタイツ姿、ロココ調の白髪のウイッグをかぶり
でお伽話の王子様を思わせる格好をした若い男が入ってきた。
「あら?なあに?分春王子」
 小さな子供に返すように佳苗は答えた。
 分春王子は佳苗がエッセイを連載している「週刊分春」の担当編集者である。
 背がひょろりと高く草食系の小さな顔をしたいまどきのイケメンである。
 名門大学を出ているらしいが、コスプレ癖と、ゆとり世代独特のおつむのゆるさがどうも気になる。
「せんせえ、ききましたよ、ヌードになるって、それわぜったいいけません!」
「あら?そんなこと誰から聞いたのかしら」
「マ……、ははのいとこがマガズンハウスのかんけいしゃなんれす!」
「………」
「せんせえは、なおきしょうのせんこういいんの喜多方せんせえ、や美矢部せんせいにきにいられて、じかいは
ぜったいなおきしょうをとれるといわれているんです、だからヌードはらめです、けんいあるしょうをとるかた
がぬぐなんてやすっぽいことをしてはいけません」
「そぉねえ…」
 佳苗は微笑んだ。
「大丈夫、王子、私は絶対脱がないわ」
 王子は憤った顔をゆるめた。
 妻帯者であるはずなのに子供のような無垢さを感じるのは苦労を知らない育ちの良さのせいだろうか。
 サバイバルともいえる半生を送ってきた佳苗がイラっとくる所だ。
「きっと誰かが脱いでくれるわ…」
183名無し草:2011/08/25(木) 22:59:56.24
その頃、勝沼ぶどう里駅のベンチに新宿駅行きの切符を握りしめ、一人鼻息を荒くしている女がいた。
「一緒に『微・ストリート』の出版社へ行こうと約束していたのに、一人だけ先に東京に行ってしまうなんて
ビジネスパーソンとして失格だわ」
 フンガー塾長だった。
184名無し草:2011/08/25(木) 23:14:49.34
ツル子は、35年前に、サンダ洋装店をブティックサンダーに衣替えして、洋服の誂えをやめて
既製服の店にした。将来は、娘のツル美についでほしかったが、ツル美は、田舎のあかぬけない
洋装店を嫌い都会で結婚してしまったので、今では一人で店を切り盛りしているのだった。
「マリちゃんは、小さいサイズを無理して買っていったけどあれを着てどこかへでかけたのかね。
いつもの調子で食べたら、服がきついはずだけども」 熟年用のもっとゆとりのある服もあるのだが
真理子はそういうものをすすめると目を釣り上げて怒り、ボタンのはじけそうなジャケットを買うのだった。
185名無し草:2011/08/25(木) 23:38:47.82
フンガー塾長こと勝魔は駅前商店の青年部の仕事に飽き飽きしていた。
どんなに頑張っても「所詮女ずら」「だっちもねーこんいっちょし」とまともに取り合ってくれない年寄りが多いのだ。

真理子も時々洋服を買う「おしゃれの店 ブティックサンダー」のツル子がいい例だ。
インターネットで商品を売れば数十倍は儲かるといってるのに、
「ちょっと何を言ってるか分からないです」などというのだ。

いや、バカなのは年寄りばかりではない。
青年部主催で若い女性向けに「結局、女はキレイが勝ち」という主題で講演をしたら
「今日のお前が言うなスレはここですか?」など意味不明なこといわれたのだ。
186名無し草:2011/08/26(金) 07:10:53.51
どこか暗い部屋の中で、男とも女ともつかぬ声がする。
耳を澄ませてみると、それはオカマだった。

イジミ麻人の巧い表現を思い出した。
「おやじ、涅槃で待つ」の日翳おやじについての文だった。
「オカマだから変なのではない、変だと思ったらオカマだった」。
前置きが長くなってしまった…
「デブだからブスなのではない。ブスだと思ったらデブだった…」
とくるところだが、真理子は両刀使いだったのだ。

暗がりの声の主はおまつとヒーコ。
映画「ゴーストライター」の試写があるらしい。
大池真理子もやってきた。
この真理子はデブじゃない。大の字には点が無い。ファッションも隙が無い。
「あら〜素敵なチュニックね。身体に沿って綺麗なライン、フィット感がたまらないわ。
お洒落には1cmの手抜きだって命取りよね。」
「あのケチなフランス人ですら、子供服のサイズは、来年着られなくてもキッチリ合わせて、
服というものを身につけさせるのよ。」
「ソレ、洒落のつもり〜?」
彼らのお喋りはまだ続いている。

え?私?さぁ、誰でしょう。

そろそろ秋風も吹いてきたし、太陽に炙り殺されることもない季節。
冥界の此処田邦子、盛遥子、白酢正子、加糖和彦&安井かすみ夫妻…といった方々と
近頃日本から失われつつある、美学、美意識についてお話を伺いに行く途中だったが、
ちょっと寄り道してしまったのであります。
いや、では失礼!
187名無し草:2011/08/26(金) 07:47:47.08
真理子はハイヤーの助手席で身体をモゾモゾ動かした。
シートのクッションが効きすぎているのか、身体が深く沈みこんでしまい
座面が30cmほど沈下したような気がする。まあ気のせいだろう。
ふと運転手を見ると、若いイケメンだ。
いつか私も作家として成功し、文化人となってイケメン運転手付きハイヤーに乗る身分になるのね・・・
真理子はウットリした。

運転手の傍らには、ミネラルウォーターのペットボトルが置かれている。しかも飲みかけだ。
「運転手さん、私ちょっと喉が渇いたの。このお水いただくわ。」
イケメン運転手は驚きのあまりしどろもどろになっているが、私は素早くペットボトルを手に取り
太い指で小さなキャップをねじ開けた。
そうだわ、昨夜夏元先生が分けてくれた魔法の痩せ薬を飲もう。
せっかくさくらちゃんが銀座の一流ブティックに連れていってくれるのですもの、
太りすぎで合う服が無かったら困るワ。
妹分として私を慕ってくれるさくらちゃんに恥をかかせちゃう。
この薬で美しく痩せて、さくらちゃんみたいにハイブランドのファッションが似合う女になろう。

真理子は錠剤を口に放り込み、ペットボトルの水でぐびーと飲み下した。
188名無し草:2011/08/26(金) 08:10:25.96
 5年前、東京の外資系一流予備校「マツキンゼイエリート予備校」で青い瞳の上司に
 「ミズ・カツマ、you、使えねーからdismissネ〜」と言われて放り出され、逃げるように東京から近場の
山梨に移り住み、ko大学院卒という肩書だけを背負って駅前で小さな塾を開いてどうにかやってきた。
 そんな時、東京で作家をしていた書店の店長というふれこみの真理子の名を勝魔は知ったのだ。
 駅前商店街の田舎くささを変えるべく、この元作家に声をかけ、都会の文化的な空気を吹き込もうと勝魔は
企んだが期待はずれだった。
 作家らしい活動をしていたのは10年ほど前までで、今ではほとんど文を書くことすらしていないという。
 商店街で買った安い服を着たただの田舎のおばちゃんだった。もちろん東京の出版社とはほぼ絶縁状態だ。
 落胆していた勝魔に真理子は売れ残って返品し忘れていた『微・ストリート』を見せて言った。
「これ、このグラビアに出てる、元プチテレビのアナの仲井三保、私の大学の後輩だったのヨ、今でも時々会ったり、
メールを送りあう仲なの」
189名無し草:2011/08/26(金) 11:40:24.85
勝魔は前に3ちゃんねるのタラコ唇の元管理人の男と対談して言い負かされたことを
根に持っていた。
援軍がほしい。
元作家なら少しは使えるかと思っていたが、目の前の女は作家というよりただの
出たがりなおばさんだった。
しかし その出たがりミーハーなところ、もしかして使えるかもと勝魔は思った。

「あなた、グラビアに出たいの?『微・ストリート』程度の雑誌くらいなら
私でも知り合いのコネで出してあげられるわよ。
どう?こんなところでくすんでないで 一緒に東京に出ない?」
思いがけない勝魔の申し出に真理子はとまどった。
190名無し草:2011/08/26(金) 12:00:02.86
結局勝魔と合意をしたものの浮かれ気分でさくらに着いて上京してしまった真理子は
勝沼ぶどう里駅で勝魔と落ち合う約束も忘れてしまっていたのだった。
191名無し草:2011/08/26(金) 13:00:03.29
勝魔が勝沼ぶどう里駅でモンモンとしている頃、
その頃、真理子とさくらを乗せたタクシーはスムーズに「汁・サンダー」の前についたところだった。
車から降り立った二人の姿に、周囲からはどよめきが起こった。
「外国人力士だ」「やっぱり大きいなあ」

なるほど、間違われても仕方がない、真理子は浴衣姿だったのだから。

破けてしまった洋服はどう頑張っても着ることはできなかった。
さくらが相談すると、ホテルが「浴衣でよろしければ・・・」と好意で浴衣を貸してくれたのだ。
よくホテルや旅館等に寝巻がわりに置いてある、あれである。
かっぷくのいい真理子が着ると力士以外の何物にもみえないのは当然であった。

しかしそんな声は真理子には届いていない。
銀座のお洒落なブティックに舞い上がってしまっているのだ。

のっしのっしと店の前へ向かっていく真理子の姿を、外国人観光客がカメラや携帯電話で撮ろうとしている。
それに気付いた真理子は大胆にもポーズをとりはじめた。

192名無し草:2011/08/26(金) 13:04:40.20
久しぶりに花京院は東京に来ていた。

待ち合わせまでの時間潰しにと常宿である東京亡国ホテルのエステサロン・エルホラーノでマッサージと爪の手入れを予約していた。
ここは個室なので他の客と顔を合わすのは受付だけというのも気が楽なのだ。

サロンに入る寸前奇妙な胸騒ぎが花京院を襲った。
この場には相応しくない焼肉風味ポテトチップスの臭いまで漏れている。
臭いの元を捜すと、そこには予想をはるかに超える禍々しさを放ったスマホの女が!

真理子は痛いほど自分を見つめる男の視線を感じていた。
「あらーまただわ。本当に男が切れる暇が無いんだから。んもー。」
身悶えした拍子にメンズ用LLサイズのガウンがはだけた。

その瞬間花京院は先日東條が味わった恐怖を理解したのだ。
193名無し草:2011/08/26(金) 13:09:53.90
ふふふ、私の美しさって世界共通なのねん

真理子はニターっと笑っている。
周囲にはちょっとした人だかりができて、さくらは連れと思われるのも恥ずかしいので他人のふりをした。


「おや、この人だかりはなんだ・・・」
城見は買ったばかりの婆・罵詈のショッピング袋を手に奇妙な人だかりに近づいた。
「汁・サンダー」でイベントでもやってるのか・・・?

輪の中心にいるのは、太った浴衣姿の女である。
丸い顔丸い鼻・・・どこもかしこも丸い。女力士であろうか?
ニッタニッタと笑っている顔に愛嬌がなくはないが、どうしたってブスである。
そんなブスをカメラにおさめる外国人たちが口ぐちに「SUMOWrestler」などと言っている。
「女の力士なのか?おかしなものが流行ってるんだな」
城見は丸川書店へ帰ったら、社で出している雑誌「銀座スカイウォーカー」の編集者にこの話をして見ようと思った。
194名無し草:2011/08/26(金) 14:17:40.59
311 名前: 東京都名無区

銀座の汁・サンダー前に力士がいて、すげー人だかりだったけど。
あれは、誰だったんだろ?エロイ人教えて。

312 名前: 東京都名無区

あの時間銀座にいて遠くからチラ見だけど、暴力沙汰で引退した夜青龍かも。

313 名前: 東京都名無区

プァミリアに子ども服買いに行く途中で、娘が怯えて泣き出して困ったのよね。
あまりの異臭と変な人オーラが出てたから。
195名無し草:2011/08/26(金) 15:51:34.67
夏元はこう話していた。
「この薬の効き目はすごいんだ。飲めば翌日にはかなり痩せている。」と。
しかし、なんということだろう。
イケメンハイヤー運転手とペットボトル越しに間接キスしたのが効いたのか、
それとも真理子が常人とは異なる物体・・・いや体質なのか。

魔法の痩せ薬がもう効果を現し始めたのだ。
しかも、銀座の汁・サンダー前、大勢の野次馬の目の前で。
まるでSFXの映画をみるかのように、真理子の巨体がみるみる痩せていく。
196名無し草:2011/08/26(金) 16:03:14.74
おおおおおっ・・・・!!!群衆が大きくどよめいた。
先ほどの女力士が、梅久夢二の美人画に登場してもおかしくないホッソリした
たおやかな美人に変身したのだ。
「何コレ!?」「ウソー?」「信じられねー」「映画の宣伝か何か?」 野次馬たちは口々に叫びつつも真理子の美しさに魅了され、
さっきとは違った熱意でカメラを構え撮りまくっているのだ。

さくらは呆気にとられあんぐりと口をあけた。
しかし、痩せた真理子の美しさといったらどうだろう。
さすがに頭蓋骨の大きさだけは小さくならなかったようだが、 それを除けばモデルと称してもおかしくはない。
197名無し草:2011/08/26(金) 16:09:56.12
さくらはなんとか元宝ジェンヌの気概を取り戻した。
さっきのクリーチャーがこんな美しく変身できるなら、この私はもっと素晴らしい魔法を使えるはず。
変身の謎を解いてその秘術を活用し、この私は今よりさらに美しくなるのよ。
この真理子とかいう不思議な生き物と仲良くはやれないかもしれないが、
そこそこの関係を持つよう努力し、私の美と健康と永遠の若さに役立てよう。

「さあ真理子さん、こんな所でジッとしていないでお店に入りましょう。
馬車がカボチャに変わらないうちにショッピングしましょうね。」
198名無し草:2011/08/26(金) 16:17:25.51
真理子は浴衣の帯が激しく緩んでいるのに気がついた。
イヤン、これじゃ身体が見えちゃいそうだわ。大勢の人前でそんなことしたらお嫁に行けなくなっちゃう。
きっとお腹がすいて凹んできたから帯が余ってきたのねん。
まあいいわ、どうせさくらちゃんと汁・サンダーでお買い物するんだもの。
今は手で抑えておいて、お店に入ったら素敵な汁のお洋服に着替えればいいわ。
199名無し草:2011/08/26(金) 17:04:53.78
ああお腹がすいた・・・真理子はちょっぴり地元の商店街が恋しくなった。
「おしゃれの店 ブティックサンダー」へ買い物に行く度に、
おツルさんは暖かい笑顔で「マリちゃんいらっしゃい、山梨は猛暑で暑いったらないわね。」と出迎えてくれる。
200名無し草:2011/08/26(金) 17:07:07.72
小さい頃から真理子の好みを知り抜いているツル子は、気取りのない大きなガラスのコップに
麦茶をたっぷりと注ぎ、クリームパンやあんパンをお茶菓子に出してくれ
「さあ遠慮しないで食べてね。おばさん一人じゃ年寄りで食べきれないのよ、
残して古くなったら勿体ないでしょう。全部マリちゃんが食べてくれたら助かるわ。」
真理子の食べっぷりを「若い人は元気でいいわねえ」とニコニコ見守ってくれるのだ。

ああお腹がすいた
201名無し草:2011/08/26(金) 18:03:54.34
いま何か光って、花吹雪が落ちたのではなかろうか。
ん?ツル子おばさんの声が聞こえたわ。
「真理ちゃん、200個め記念のくす玉パンよ!」
あら、もう201個を食べちゃってるわ。
202名無し草:2011/08/26(金) 18:34:11.14
しかし真理子の耳にはそんな声が届くはずも無く、
オキアミを吸い込む鯨の勢いでちゅうちゅうとクリームパンを吸引し続けた。

「ああーやっぱりこれだわ。銀座羅生堂のクリームクロケットや敷居の高い老舗寿司屋で遠慮しながら60貫ぽっちしか食べられないシンコなんて目じゃないわ。」
人はやはり幼い頃の食の記憶が抜けないのだ。
203名無し草:2011/08/26(金) 21:59:50.90
「真理子さん、大丈夫?」
さくらの声にあわてて身を起こすと、あれっ?汁サンダーの店内ではなくて
さっきのホテルの部屋ではないか。
「汁サンダーは?」
間抜けな真理子の質問にさくらは優しく答えた。
「店内に入ったとたん あなた倒れたのよ。『おなかがすいたー』って言ってね。
お店に迷惑がかかるといけないからまたタクシーでここまで送ってきました」
あれは夢だったのか。
ああ、あこがれの汁サンダーまで行ってなんて馬鹿げたことをしてしまったんだろう。
真理子は悔やんでも悔やみきれなかった。
気がついたらさくらも部屋から消えていた。
204名無し草:2011/08/27(土) 01:22:03.97
「あああ。。。。恥ずかしい・・・・穴があったら入りたい・・・
どうか、汁・サンダーでのことが、夢でありますように・・・」
真理子は、羞恥心で身悶えしながらベッドの上でのた打ち回った。

その様子は、トドが銛で仕留められ、断末魔の叫びを上げながら
痛みと怒りで大暴れしているようだ。

のた打ち回るのに飽きた真理子は、ハッと我に返り
バスルームに飛び込んだ。

バスルームの鏡に映った自分の姿に真理子は愕然とした。

「う、う、うっそ〜〜〜!!!」
汁・サンダー店で、みるみる細く美しくなった私は
何だったの???

そこには、態度と同じくふてぶてしく太った醜い
いつもの真理子の姿があった。
205名無し草:2011/08/27(土) 01:50:00.57
東京亡国ホテルのエステサロンで、心地よいマッサージを受けながらも
花京院は、ロビーでの出来事を思い出すと憂鬱な気分になった。

あの醜い巨体の女が放った悪臭が
未だに鼻について消えないのだ。

香道も嗜む花京院にとって、あの悪臭を嗅がされるのは
拷問に等しい。

忘れようと思えば思うほど、あの女のことが頭から離れない。

しかも、鮮明に細かいことまでが思い出された。

確か・・・あの女、男物ののLLサイズのガウンを着ていたな・・・
そのガウンの下には、亡国ホテルの柄入り浴衣を着ていたようだ・・・

その後ろには、結構イケテル若い女が立ってたな・・・
巨体に向かって「銀座に行くわよ・・」とか
話しかけていたような・・・・

そうだ!!思い出したぞ!!

あの若い女・・・どこかで見たことあると思ったら・・・
ヅカを退団した『座生さくら』じゃないか・・・

はて?座生とあの臭い大きな女は、友達なのか?

花京院は、不愉快と不可解な気持ちに包まれた。

このあと、更なる不幸が花京院を襲うことになるとは
彼は、知る由も無かった。
206名無し草:2011/08/27(土) 02:53:07.37
「待ち合わせの時間まで、あと1時間か・・・」
呟くと、東條は乗り込んだハイヤーに
「東京亡国ホテルまで・・・」と、告げた。

「ぼ、亡国ホテルですか・・・はい、かしこまりました」
気弱そうな若いイケメンの運転手だった。

なんだ?この強烈な芳香剤は?
この運転手の好みか?
東條は、顔を顰めた。
207名無し草:2011/08/27(土) 04:00:44.72
思わず東條は、運転手に向かって
「ちょっと、君ィ・・・このニオイは何だね?」と
文句を言った。

「はい、申し訳ございません・・・
実は・・・」イケメンの若い運転手が話し始めた。

亡国ホテルから、二人の女性を銀座まで乗せたところ
強烈な悪臭が車全体に染み付き、消臭スプレーを一瓶空にしても
まだ消えなく、芳香剤を振りまいたのだと言うのだ。

「亡国ホテルから銀座まで、ほんの5分足らずでしょ?
いったいどんな女性達だったの?」
「それが、なんとも妙な関係なようで・・・
後ろの席にお座りになられた方は、若くて目が覚めるような美人でした。
ところが、僕の隣に座ったご婦人は、かなりの巨体でして・・・
その方が、申し上げ難いんですが、悪臭の原因で・・・
おまけに、僕のペットボトルに入った水を勝手に飲んでしまわれるし
散々な目に遭いましたよ・・・」運転手は、溜息混じりに
呟いた。
208名無し草:2011/08/27(土) 04:21:12.09
運転手の話を聞きながら、東條は胸がモヤモヤしてきた。
そのモヤモヤは、ムカムカに変わった。

さっきから気になる芳香剤のニオイに混じって
以前嗅いだことがあるような独特な悪臭が気になって仕方なかったのだ。

東條は、嫌な予感を振り払うように「まさか・・・あの女は
山梨にいるはず・・・そんな馬鹿な想像をするのはやめよう・・・」と
自分の考えを打ち消した。

209名無し草:2011/08/27(土) 08:10:08.35
花京院は足のマッサージが殊更好きである。
担当のか細い女性のどこにこんな力があるかと思う圧力を感じながらまどろんでいた。

夢の中で彼は草を食む子山羊であった。
群れから離れて気持ちの良い日差しを浴びていると、突然視界を黒い影がおおった。
「メエェー。あれれ急に寒くなったよ?」
ふと見上げるとそこにはママから聞かされていた伝説のビッグフットが!
「わあーん。助けてー僕一人でここに来た罰なの?ママ、ママー!」

「花京院様。花京院様どうなさいました?」エステティシャンが呼びかけた。
「はっ!夢だったのか・・・」
(クールで知的な美男子で通しているのにまずいぞ。涙とヨダレが出てるしー)
「えーっと」彼は恥ずかしさをごまかす為に話題を変えた。
「さっき受付にいた恰幅の良い女性も会員ですか?」
「いいえ、プラチナメンバーの・・・」と急に声をひそめ、
「他のお客様のお名前を出すのはタブーなのですが、花京院様にだけは・・ウフフ」
「勝魔様のお友達と言うことで特別にお受けいたしましたの・・」と言いながら男には絶大な効果がある付け睫毛をバタバタさせた。

(あの勝魔があんなビッグフットと仲良しなのか?!そっか。まあ取り合えずよかった。)


210名無し草:2011/08/27(土) 08:44:33.63
「しかも」とエステティシャンは言葉を続けた。
「ご一緒にお越しになったお客様はあの座生さくら様でしたので、芸能関係の方何だと思いますわ。」
(げげげ芸能?有り得ない。サーカス小屋かよ。シルクドソレイユ意外のさー。)

爪の手入れを終えた花京院は待ち合わせ場所のコーヒーショップへ急いだ。
と、そこには脂汗を滲ませ青ざめた顔の東條がいた。
211名無し草:2011/08/27(土) 11:14:16.00
花京院は、ただならぬ気配の東條に驚いた。
そういえば、少し前に東條が世にも珍しいドブス女の
画像をスマホで見せてくれながら、恐怖に引きつった顔を
していたことを思い出した。

「おい、東條・・・大丈夫か?
だいぶ顔色が悪いぞ」
花京院の言葉に東條は
「今日は、なんだか気分が悪くて・・・」と
元気なく答えるばかりだった。

「今夜は、17階の『家紋』に予約取ってあるんだが・・・
もう少し軽めの食事に変更するか?」花京院は東條をいたわりの目で
見ながら言った。
212名無し草:2011/08/27(土) 11:23:23.91
「お待たせー。あのな。さっきエステサロンでな。」
(興奮して子供口調になってしまった。)
「この前見せて貰ったUMA・・じゃなくて雷神様いやいや罰当たる・・スマホの女がいたんだよ。」


東條は漠然とした不安と恐怖が現実のものだった事を知った。
「ああーやっぱりそうだったのか。ねえすごい嫌な臭いしてたでしょ?」

「うん。ドリアンをシュールストレミングで煮しめたような臭いだったよ。」
香道を嗜む花京院は俗に悪臭と呼ばれる臭いまでも冷静に分析出来る能力を有していた。
213名無し草:2011/08/27(土) 11:35:21.49
そして気になることを思い出した花京院は東條に
「そういえば、京都に来た時、スマホに写った半漁人のような
不細工な女を見せてくれたよね。
アレ、まだ保存してある?あったら
もう一度、見せて欲しいんだが。。。」
東條の顔から血の気が引いた。

「花京院さん・・・ありますが・・・
まさか・・・似たような女を東京で見かけたんですか?」

「ああ・・・人違いかとも思うんだが、あそこまで巨顔で
髪もザンバラな醜い女は、そうそういないと思うんだが
念の為に、確認したいんだ」花京院は
東條が差し出したスマホの画面を見て
のけぞった。
214名無し草:2011/08/27(土) 13:55:25.03
真理子はエステサロン・エルホラーノで熱い視線を絡め合った若い男の事を思い出していた。

「確か予約しているカキョウインですが・・と受付で名乗っていたわ。」
「東京の男ではないイントネーションだったし・・・あの人どっかで見た気がするんだけど。」
「あっ。先月号の35ansの老舗を支える京の若ボン特集に載っていた人だわ!」

「んんーどうしたらいいの?見染められるって本当にある事なのねー。」
「この私に老舗料亭の若女将が務まるかしらん。でも彼と二人なら新しい時代を切り開いて行けそう。」

頭をフル回転させて妄想に浸っていた為に激しい空腹を感じ始めた。
215名無し草:2011/08/27(土) 20:36:47.86
真理子は、さくらに「さくらさん、私お腹が空いてたまらないの・・・
思いっきり色んなモノをイヤと言うほど食べたい気分なの。。。」と甘えた。

さくらは、自分よりかなり年上の醜い女が、己の醜さを自覚することなく
まるで、やんごとなきお姫様であるかのように我侭を言ったり
甘えて拗ねてみせたりすることに、面食らいながらも
内心、クククク・・・・面白過ぎるぅ〜〜〜と
まるで、珍獣をペットにしたような気分になっていたのだ。

「じゃあ、17階にあるバイキングレストランに行きましょうか?」
さくらの提案に、「きゃぁ〜〜〜!!ホテルのバイキング!!
嬉しい〜〜!!思いっきり食べまくるわ〜〜〜!!」
真理子は狂喜乱舞した。

216名無し草:2011/08/27(土) 20:49:28.64
さくらは、自分の部屋に戻り、椛島奈緒美に電話をかけた。

プルウルルルルルル・・・・
「はい・・・・なおはんでぇ〜〜〜しゅ・・・」
椛島は、仲良しの友人には、お茶目に対応するのだ。

「奈緒美さん・・・私・・・さくら・・」
「さくらちゃん、わかってるわよ。私は、相手毎に着信音使い分けてるから・・・」
奈緒美は、綺麗な澄んだ声で、鈴が転がるような甘い声で笑った。
「さくらちゃんからの着信の音は、涙のカノンなのよ・・・大好きな曲なの・・
で、どうしたの?」

「今、私・・・亡国ホテルにいるんですよ。。。
今から亡国ホテルにお越し願えたら・・・って、ご無理でしょうか?」
217名無し草:2011/08/27(土) 21:00:39.55
椛島奈緒美は、裸体に上質なシルクのガウンを纏い、
バカラのマッセナラージで、極上のワインを堪能していたのだ。

「えっ?今から?」奈緒美は、奈緒美の巻き髪を右手で撫でながら
奈緒美の首筋から胸を軽やかに左手で揉みしだく若いカリスマ和菓子職人の夫の
愛撫に「ああああ・・・・・だめぇ〜〜〜・・・」と、思わず声を出してしまった。
218名無し草:2011/08/27(土) 21:06:43.49
和菓子職人の夫の指は柔軟だ。

奈緒美は、ありとあらゆる場所に、繊細な和菓子を作るような指さばきで
感じる場所を弄られ、「あああああ・・・・いく・・・いくぅ〜〜〜」と
さくらに答えた。

コホン・・・と、咳払いして、さくらは
「奈緒美さん・・・亡国ホテル、17階バイキングレストラン『シーレ』で
お待ち申しておりますわ」と、電話と切った。
219名無し草:2011/08/27(土) 21:18:50.86
さくらからの電話を切って、奈緒美はチッと舌打ちをした。

可愛い世間知らずの元祖名門女子大生タレントとして
デビューした奈緒美は、いつまでも『可愛い子ちゃん』では
需要が無いと焦っていた。

そこへ、『極上の妻たち』という、危険な仕事をしながらも
妻を大切にする夫の哀しい物語の映画に出演し
素晴らしい濡れ場を体当たりで演じた奈緒美に、美味しい仕事は次々と
舞い込んだ。
220名無し草:2011/08/27(土) 21:27:30.05
そんな奈緒美にとって、ヅカ上がりで、その後パッとしない座生さくらなど
虫けらのような存在なのだ。

だが、さくらは、不思議な魔力があるのか
奈緒美が秘かに『お近づきになりたい・・・』と思っている
大物芸能人や、大物プロデューサー、超一流の政財界人と
懇意なのだ。
221名無し草:2011/08/27(土) 21:42:54.57
奈緒美は、いつまでも自分の胸に吸い付いている夫に
「悪いけど、今から、亡国ホテルで仕事なのよ。
カルダモンとニッキ(犬の名前)のお世話、ヨロシクね」と言い放つと
自分の衣裳部屋に消えた。
222名無し草:2011/08/27(土) 21:51:19.71
「バイキングレストランなんて宝塚音楽学校生だった時にホテル阪遅インテルナツィオナーレで食べて以来だわ。」
さくらは隣でワクワクしている真理子を見ながら無垢だったあの頃に思いをはせていた。

華やかな容姿の彼女がものうげにしている様子は周囲の目を集めた。
隣に女力士がいる事で更に物珍しさが増し、周囲にはちょっとした人だかりが出来ていた。
亡国ホテル始まって以来の珍事だ。
家紋に入ろうとした東條と花京院もその人だかりに気が付いた。

「すごいなあ何だろうね。」「レディ加賀が泊ってるらしいからそれじゃないかな。」
223名無し草:2011/08/27(土) 22:01:23.63
その頃、『オカマクラブ美輪』では香港から届いた空輸便に皆色めきたっていた。
2か月前、慰安旅行で行った香港の仕立て屋でオーダーした洋服が届いたからだ。
いかつい体をしたおネエたちがジャストサイズのシルクのチャイナドレスやアオザイをまとっている。
美輪のママはオーダーしたマリーアントワネット風のドレスを着て優雅に扇子を仰いでいる。
 「ママ、素敵、似合ってる」
 オカマクラブの慰安旅行に便乗して参加した江原は、旅先でつられてオーダーしたシルクのライトブルー
のチャイナドレスに身をまとい、店の備品のツインテールのウィッグを被った。
「まあ、ヒロちゃんお似合いよ、時々ここへきて着ていったら?」
 美輪のママも言ってくれた。
「あの時、マリちゃんも一緒にチャイナドレスをオーダーすればよかったのに、ジャストサイズで
素敵なお洋服を作れるチャンスだったのにね」
 慰安旅行に真理子も来ていた。最初は一緒にドレスをオーダーすると乗り気だった真理子だったが、
採寸の時に中国人の女性店員にクスリと笑われたのが気にいらなかったらしく「やーめた」と言って
店をふらりと出ていってしまった。

 あちこち探して、ペニンシュラのエルメスでショーケースの中のバーキンと小一時間にらめっこしていた
ところを捕まえた。
「いつもサイズが合わない服ばかり着ていたからなあ、マリちゃん…。ところで今どこにいるんだろう?」
 江原はもう一着オーダーした白いタキシードに着替える。きちんと採寸されて縫製されたタキシードはシルエットが
美しく、まるでテノール歌手のようだった。
「ママ、歌いたくなった『線の風にのって』入れてくれる?」
 カラオケマシンからイントロが流れ出すと江原はマイクを握った
「私の〜出腹の前で〜泣かないでください〜♪中に子供はいません♪妊娠なんかしてません〜♪」
「なにそれ、江原ちゃんのこと?マリちゃんのことお?」
 おネエ達は笑った。
224名無し草:2011/08/27(土) 22:01:59.40
亡国ホテル。。。。そこは、作家渡辺ずんいちとの思い出のホテルだ。

ずんいちには、随分お世話になったわ・・・・でも、お互いに
踏み台でしかなかったのよ。。。。

ずんいちにとって、金はかかったが、可愛らしく賢い由緒正しい家柄の
お嬢様タレントの奈緒美は、宝物のような存在だった。
ずんいちは、奈緒美が「欲しい」と呟いたモノを貢ぐことに喜びを感じていた。
奈緒美の喜ぶ顔が見たくて、高収入が得られる書きたくもない小説やエッセイを
書いたのだ。
ずんいちが得た印税の大半は、奈緒美の贅沢品に消えた。
しかし、それは、ずんいちにとって男の勲章だったのだ。
225名無し草:2011/08/27(土) 22:11:19.88
亡国ホテルの17階は、いまだかつてない熱気と活気と
驚きに満ち溢れていた。

バイキングレストラン『シーレ』の厨房はパニック状態だった。

普段は、上品な上流客しか来ない『シーレ』
だが、今夜は違う。

片っ端から、料理をバキュームカーにように
アレレレ???と、思う間もなく平らげる真理子に
人々は恐ろしくて近寄れないでいた。
226名無し草:2011/08/27(土) 22:24:59.56
真理子は可愛らしく飾り付けられケーキを一つ一つトングで取るのがもどかしかった。
「どうせ全部食べるんだから・・皿ごと持って行っても良いはずよ!どっこらしょっと」

ウエイターは目を疑った。
そしてちょっと気が遠くなりかけた。
女力士が両手に大皿を持って危なっかしい足取りで近づいて来たのだ。

227名無し草:2011/08/27(土) 22:31:59.83
ウエイターの驚愕も尻目に
真理子は、大皿を傾けると鯨もビックリの大口を開け
大皿をも飲み込むのか??という勢いで
さらに乗っていたケーキを一つ残らず吸い込んだのだ。
228名無し草:2011/08/27(土) 22:38:35.28
厨房では、各料理担当のシェフ達が、次々と空になる
大皿に料理を補充すべく、いつもの5倍以上のスピードで
調理に取り掛かっていた。

総料理長の島田伸介は「なんでやねん・・・こないなこと
前代未聞やん・・・ちっとも素敵やないやん」と、一人ごちた。
229名無し草:2011/08/27(土) 22:48:23.41
さくらはここに連れて来た事を後悔していた。

早く奈緒美が来てくれないかしら。
みんなさりげなくこっち見てるし、もう泣きそうなんですけどー。
あの三流タレント、最近じゃ文学作品に出ていっぱしの女優ぶってるけど全然演技の基本が出来てないのよね。
うまく作家に取り入ってる主役貰ってるけど所詮は素人のお遊戯じゃないの。
それなのに私よりもはるかに売れっ子だし結婚も・・・ああー結婚したい。
ちょっと前までは掃いて捨てる程数多の男たちがプロポーズしてくれたのに。
230名無し草:2011/08/27(土) 22:49:08.47
さくらに呼び出された奈緒美は、パリのウンガロで誂えた
スイス製の総レースのゴージャスなワンピースに身を包み
亡国ホテルにやってきた。

17階に降り立った奈緒美は、「鉄板焼きの家紋なら、ずんいちと
最高級のお料理と共に、最高級のワインを数え切れないほど食事した場所だけど
バイキングのシーレなんて、行ったことがないのよね・・・」と
バイキングレストランに自分を呼び出したさくらを恨んだ。
231名無し草:2011/08/27(土) 22:53:13.40
奈緒美が来るのを今か今か・・・と、さくらは
『シーレ』の入り口で待っていた。
232名無し草:2011/08/27(土) 23:02:28.02
さくらは、奈緒美のことを三流タレントで、ジジイの作家に身を投げ出した枕
女優と蔑んでいたけれど、高級なオートクチュールのドレスを纏った奈緒美が目の前に
現れた時、あまりの美しさに息を呑んだ。
この美しさといったらどうだろう・・・・奈緒美を見た誰もが、神々しさに
ひれ伏してしまうほどだ。

これは、奈緒美の持って生まれたものと、ずんいちという稀代まれなる
エロ作家に開発された内面からにじみ出る色っぽさに加え、年下の和菓子職人と
夫婦になった安定した余裕からくる円熟の美しさの融合なのだろうか。
233名無し草:2011/08/27(土) 23:06:43.28
真理子は、さくらが奈緒美に助けを求める電話をしているなど
知るよしもなかったが、次々と皿の上のケーキを大して咀嚼もせず
飲み込みながら、ふと奈緒美のことを思い出していた。
あんなにガバガバとワインを飲んで料理を美味しそうに平らげるのに
細っこいのは何故だろう、きっと何か秘薬を服用しているに違いない。
今度それなりのワインを飲ませて聞き出そう、そうすれば何を食べても
太らない身体を手に入れられるに違いない。おまけに高級ワインも
男たちがこぞって御馳走してくれるに違いない。

そう思うと真理子は安心し、デザートコーナーからもう一度厚切りの
ローストビーフをサーブしてもらおうと巨体を揺すりながら移動するので
あった。
234名無し草:2011/08/27(土) 23:09:30.22
「なおはぁ〜〜〜ん、お待ちしておりました。突然のお呼びたて・・・
どうぞ、お許しくださいませね」
さくらは、殊勝に奈緒美に頭を下げた。

「あらぁ〜〜、いいのよ〜〜。さくらちゃんから、お電話いただいて
嬉しかったわ。さくらちゃんが、呼び出してくれたお陰で
楽しい時間が過ごせそうだわ・・・うふふふふっ♪」

さくらと奈緒美は、お互いに思ってもいない不毛な会話を交わし
ニンマリ微笑みあった。
235名無し草:2011/08/27(土) 23:23:40.15
さくらは今日の自分の衣装選びを後悔していた。
一昨年のジャネルのコレクションなんて着て来なければ良かった。

奈緒美の鎖骨から胸に掛けて輝いているのはブルガリのアレグラのシリーズでもとびっきり上等の物だ。
様々な色石が幾重にもきらめいてレースのドレスと引き立て合ってとても美しい。
時計はアンティークのティファニーであろうか。
昔の女優が付けていた様な繊細な鎖にオールドカットのダイヤモンドが控えめな光を放っている。
さくらは10年前にファンからプレゼントされたカルティエのパンサーをそっとはずした。
パンサーのエメラルドアイが泣いたように見えた。
236名無し草:2011/08/27(土) 23:48:39.70
奈緒美の薄くラメまではたいた白いデコルテに一瞬敗北感を味わったが、
しかしさくらは気を取り直した。私のほうがうんと若くて、うんと可愛い
ではないか。成功しているとはいうものの大した学歴も無い、芋焼酎を
家で飲むことを公言してはばからない和菓子職人など、私の結婚相手には
ふさわしくない。
私が嫁ぐ家には茶室があるだろうから、お茶会の時に職人として
呼んでやろう。
そう思うと愉快な気分になったが、奈緒美にさとられないために
普通の女には望むべくも無い長いまつげが顔に影を作るのを確信しつつ
少しうつむきながら話しかけた。

「なおはぁ〜ん、さくら、困ってるんですぅ〜。」
237名無し草:2011/08/28(日) 00:38:50.54
真理子の食欲は留まる事を知らなかった。
食べていながらも腹が減り続けるのだ。
消化に費やすエネルギーが膨大なので「もっと肉を!もっと油を!もっと砂糖を!」と胃袋が叫んでいる。
せっかくエステに行って一瞬は薄まった臭気もいや増すばかり。

既に他の客は退散しており一人阿修羅の如く己の欲望と戦っていた。

丸まった背中は孤独な象のようだった。
「いいのよ、あのお薬をまた手に入れれば綺麗になれるんだから・・・」
「だってだってこんなに美味しんだもの。」
美味しい物を好きなだけ食べているのに何故か真理子は悲しくなってきた。
238名無し草:2011/08/28(日) 05:44:11.41
「シーレ」に入った奈緒美は生まれて初めて見た、修羅の光景に驚愕した。
「な…なんなの…あれは…」
 初めて見る光景だが、どこか既視感がある。
 夜に夫とDVDで見た日本の有名なアニメーションスタジオの代表作だ。
「えっと…あれは『賤と痴広の神隠し』の…、なんでも吸い込んでしまう化け物…」
 無表情なお面の下にものすごい口を隠していた化け物
「ああ、『顔だけ』だわ」
 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
 料理だけでなく、「シーレ」の「顔だけ」は大皿までも飲み込み始めた。
「危ないっ!」

 一方、東京行きの中央本線のグリーン車の中で勝魔は「峠の釜めし」をほおばっていた。
239名無し草:2011/08/28(日) 07:45:20.91
「シーレ」の阿鼻叫喚のありさまを他所に、
東條と花京院はサーロインステーキを食べ鮑を堪能し、
ラトゥールを含み、
デイケムで芳醇な時を過ごしていた。

花京院は鮑を食べると子供の頃を思い出す。
板前が仕込んでおいた鮑の煮物をこっそりと摘まんだ時、
固いと思っていたそれは意外にも柔らかかった。
「美味しいこれ何ぼでも入るー。」
妹とどっちが沢山鮑を食べられるか競争したのも懐かしい思い出だ。

怒られはしなかったが未だに家で鮑が出るとこの時の事を笑い話にされるのが敵わなかった。

240名無し草:2011/08/28(日) 09:15:24.56
勝魔は弁当を食べ終え、鞄の中から真理子に関する資料を取り出した。
彼女の過去を洗ってみたのだ。
実は過去に真理子は『シウマイ弁当を買っておうちに帰ろう』という小説を出していたが
あまり売れず、お金もなくなってきたので逃げるように山梨に帰ってきてしまったのだ。
本当はもっと東京にいてがんばりたかったらしいと教えてくれたのは江原であった。

誰か東京の男がぱっとしない彼女をそそのかしているようだけど、いったい誰なのかしら?
雑誌にまで出させてどうするつもりなんだろう。
私と同様彼女を利用しようとする人間がほかにもいるなんて・・・

それにしても真理子の携帯電話は繋がらないしメールも返ってこない。
イライラしながら勝魔は東京に着いてからの行動の順番を心の中で確認していた。
241名無し草:2011/08/28(日) 10:22:33.78
大皿を飲み込みかけた真理子はすんでの所で我に返った。
奥歯に固い物が当たった瞬間、一条の光が網膜を射たのだ。
それは彼女の僅か残ったプライドの光だった。
「いけない。私は若女将になるのよ。その前に綺麗な作家物の着物をまとった女流作家になるんだわ。」

固唾を飲んで見守っていた厨房スタッフは安堵の溜息を漏らした。
「ふうーはあーほおー」大勢の溜息は渦となって巻きあがり疾風となり
家紋にまで流れて込んだ。

シュトルム ウンツ ドランク
東條と花京院は突然店内を駆け抜けた風に不穏な気配を感じた。
242名無し草:2011/08/28(日) 16:37:36.71
花京院は微かに異臭を感じた。天性のものなのか香道やワインで鍛えられた
ものかは定かではないけれど、香りには敏感である。
デジャ・ヴ?そうこの異臭を以前にも嗅いだことがある。

そう、あれは今一番予約が取れないという京都建仁寺近くの料理屋だった。
木屋町の雑居ビルの1階でカウンターのみの小さな料理屋をっていた頃から
常連の花京院は、移転してからも季節ごとにテアトルとまで言われる
大将の料理を味わいに行くのを楽しみにしていた。
いつものカウンターの端の席についた花京院は、熱いおしぼりで
手を拭きながら
「あれ?今日お香焚いたん?珍しいやん?」と言うと
今日の料理のあれこれを弟子たちに指示しつつ、大将は顔を曇らせた。
「いや、ほんまえらい目にあいましたわ」
243名無し草:2011/08/28(日) 17:00:09.21
どうもくさやのような客が座ったらしい。客商売の大将はそれが
男か女かも明かさなかったが、花京院はお香の残り香の奥に、その
すえたような匂いを感じ取り軽く吐き気を覚えた。

京都ではその後、体臭のきつい力士が座り、土鍋で炊かれた〆のご飯の上に
宝石のようないくらをびっしり並べたものを他の客のことなどお構いなしに
吸い込むように食べるのを見たと噂になっていた。

京都に巡業に来る力士を何度も食事に連れて行ったことのある花京院は
その噂は噂にしかすぎないことを知っている。何故なら力士はタニマチに
食事に呼ばれるときはきっちり風呂に入り、髷を結いなおし来るからで
ある。
それに横綱、大関と言ってもほとんどが20代の若者、そんな匂いは
しない。礼儀もわきまえている。

しかし、その時の異臭がこともあろうに今「家紋」に漂ってきたのだ。
244名無し草:2011/08/28(日) 21:27:19.28
花京院の研ぎすまされた嗅覚は臭いの成分をガスクロマトグラフィーさながらに分析していた。
記憶の海を捜していると黒々とした塊に辿りついた。

「ああー見つけた」その瞬間ケンプの演奏するテンペストを聞いた時の様に切なくなり涙がこぼれて来た。

「逃げよう東條!」

245名無し草:2011/08/28(日) 21:41:50.77
「花京院・・・何か感じたんだね。」
長い付き合いなので鋭敏な神経の彼の行動には慣れっこだった。

「うん。勝てる相手じゃないかも知れないんだ。」
会計を済ませると入口の花を倒さんばかりの勢いで出ていく二人だった。

花京院の心の中では既に危険信号のワーグナーのワルキューレの騎行が鳴り響いていた。
246名無し草:2011/08/28(日) 22:12:03.72
17階のエレベーターの前で、花京院と東條は、エレベーターの停止ボタンを
押し続けた。
「早く、来てくれ!!エレベーター!!」

花京院は、亡国ホテルじゃなく
ホテル・オールド・コタニにすればよかった。。。と
後悔したが、後の祭りである。
247名無し草:2011/08/28(日) 23:33:50.89
「真理子さん。もうお仕舞いになさったら!」
さくらは奈緒美という援軍を得て強気の自分を取り戻していた。

奈緒美はというと、ローストビーフのソースをドレスに飛ばされそうになり、
緊張と心労で一夜にして老婆になった気分だった。
(もーう。だーかーら。バイキングレストランなんて気乗りがしなかったのよ。
第一私なーんにも口にしてないのよ。ペコグーなのよね。)
「ねえ。もうここクローズする時間じゃないの?早く出ましょうよ。」
248名無し草:2011/08/29(月) 06:32:52.77
奈緒美はバッグからケータイを持ち出し、アドレス帳を見てにこりと笑った。
(私のドレスを汚そうとしたこの悪質なクリーチャーを全力で排除してさしあげてよ。)
「ねえ、さくらさん」
「?」
「ねえ、あれを、プチテレビか、帝都テレビに売ってしまいましょうよ。
なにが悲しくてあのクリーチャーの面倒を見なくてはならないの?
もっとかわいい子猫とか犬とか他にあるでしょう?」
さくらは黙ってうなずいた。
 奈緒美はケータイを耳にあてると言った。
「プチテレビの知り合いに電話してみるわ」

 その頃、勝魔は有楽町駅に降り立ち、亡国ホテルに向かって鼻息荒く
驀進していた。
「臭うわよ、真理子さんの臭いよ、フンガー」
249名無し草:2011/08/29(月) 08:06:23.47
花京院は背後から近づいてくる強烈な臭いに絶望感を感じた。

基本は砂糖とアンモニア。
それに硫黄が入り、スマトラオオコンニャクとラフレシアのエッセンスそしてシュールストレミング・・・
その正体はこの世に唯一の物だ。

ディナーを中断させられた真理子は不満だった。肉が全然足りて無かった。
「あー。お腹減った。えっあらっ?エレベーターの前にいるイケメン、あの人達って!」
気が付くと夢中で駆け寄っていた。
頭の中では可憐な舞子あるいはジゼルであったが、
実際は獲物をみつけたカバの突進だった。



250名無し草:2011/08/29(月) 15:45:28.44
亡国ホテルに突然異変が出現した。
まさに疾風怒濤とでもいうべきであろうか。
どこからともなく不穏な嵐のようなフンガー吐息、
桃色ではない、ドドメ色の怪物の臭い息だ。
しかもどうやら、どこかからもう一匹が蠢いているようなのだ。
そんな途方もない大きな鼻の穴をした妖怪か?
北島二郎も負けるに違いない、荒い鼻息が感じられる。
恐ろしい、ひたすらに恐ろしい。
この亡国ホテルはどうなるのだろうか?
エレベーター前には、パニクった男や女達が逃げ道を求めて右往左往している。
251名無し草:2011/08/29(月) 17:19:58.59
その頃山梨では、珍味屋の江原と三輪ママが頭痛に襲われていた。

「もしもし、江原チャン?あたしよ、あたし。貴方大丈夫?」
「三輪ママ、ご無沙汰してます。ママこそ大丈夫?僕、昨夜からなんだかおかしいんだ」

江原は昨夜、黒い顔のギョロ目妊婦の幻を見た。次に印度人を脱色したような美男、ただし中年の、しかも自惚れと性根の卑しさのせいで邪悪なオーラを撒き散らしている男の幻。

そして今は胃もたれと膨満感、一抹の悲しみを感じていた。

「江原チャン、真理子ちゃんの身に何か起こるかもしれないわ。あたしたちは、「逃げ」ましょう。心をやられるわ」
252名無し草:2011/08/29(月) 18:06:33.71
真理子はどっちの男が自分相応しいか迷ったが「二兎を追うものは一兎をも得ず!ええーい決めたっと。」
取り合えず細身で力の無さそうな東條の手首をぎっちりと捕まえた。
「あわわわ。何でここでこんな目に会うんだよー。」

阿鼻叫喚のエレベーターホール。

奈緒美は「こーんな面白い光景滅多に見られるもんじゃないわーふふ」っと冷静にムービーに納めていた。
さくらはじっと東條を見つめていた。「素敵・・・」
東條もさくらを見つめ返した。
シルクシフォンが幾重にも重なったスカートのヘムラインが綺麗な足を見え隠れさせている。


253名無し草:2011/08/29(月) 19:16:10.93
311:山梨の名無しさん

今日もチョモランマ臨時休業かよ、てんちょどうしたの?

322:山梨の名無しさん

1〜2日の休業で心配してどうする、どうせ恒例の 食 中 毒 だろ明日には何事もなかったように店開けるぜ。

323:山梨の名無しさん

>>322 駅の目撃情報はガセなのかよ?きれいな女に菓子やるからおいでとか言われてふらふら
ついていったんじゃねえのか?

326:山梨の名無しさん

>>323 それたぶんそっくりな弟との見違えじゃないか?

328:山梨の名無しさん

プチテレビ、ニュース速報
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

331:山梨の名無しさん

>>328 東京の亡国ホテルで異臭さわぎって……?皇居近いのに警察は何やってるのオオオオ!
って、てめえ、山梨と店長と関係ないことであおるなよ

332:山梨の名無しさん

>>328 おい、ここの板、中継禁止な。夏休みはゆとりが湧いてたまらねーや。マリタンどこ行ったんだろーなー?
254名無し草:2011/08/29(月) 22:13:55.45
東條はグローブような手を手首から外すのも忘れ、真理子を追いかけて
頬をほんのりピンク色に上気させているさくらに目を奪われた。
そして思わずつぶやいた。
「なんてきれいなんだ。」

真理子は
「まあ、なんてストレートに思いを表現なさる男性なの。
このまま亡国ホテルのお部屋で今夜過ごすのかしら。そこらへんの
女ならオッケーするかもしれないけど、都会のいい女はちょっと
じらさないとね。」
255名無し草:2011/08/29(月) 22:42:59.32
その頃、鬼島は自身の料理ブログに書き込みをしていた。

子供の頃から、大人も舌を巻くような嘘をつくことに長けて、作文も上手だった。
ありもしない美談や、お涙頂戴の文章に
親や先生は、「なんて優しい思いやりにあふれた可愛い素直な
性格の子供なんだろう」と、褒めてくれた。

夏休みの課題の読書感想文も、図書館で過去に賞を取った
作品や、様々な本の後書きや書評などから、使えると思った文章を
ツギハギして纏め上げれば、簡単に書き上げることができる。

大人や先生なんて、騙すことはチョロイチョロイ。

鬼島はデパ地下で買ってきたお惣菜などをカラフルな
生野菜などをあしらったり、デザートを上手に組み合わせて
全く別のスイーツに変身させることが面白くてならなかった。


256名無し草:2011/08/29(月) 22:53:46.68
そんな鬼島の遊びを見ながら、薪は感嘆の声を上げた。

「すご〜〜〜い!!先生は、作家としても料理研究家としても
素晴らしい才能を持ってるぅ〜〜!!
薪、先生のサイン会で初めて佳苗先生に会った時、鳥肌が立つくらい感動して
涙が出てきちゃったの・・・こうして、先生のお仕事が手伝えるなんて
夢みたい」薪は、歯の浮くようなお世辞を転がした。

そんな薪に、まんざらでもなさそうに「私も薪ちゃんのお陰で
助かってるわ。貴女、時々間抜けな間違いをしてくれるけど
それでいいのよ。何もかも完璧だと、却って近寄りがたいと
思われちゃうでしょ」言いながら、フンと鼻で笑った。
257名無し草:2011/08/29(月) 23:21:50.50
真理子はネイルも何もほどこしていない芋虫のような太い指に
力をこめ、逃げないように東條の手首をぐいぐいと締め付けた。

そうだわ、東條さんとは2人で最初にパリに行こう。私パリなら
行ったことがあるのよ。田舎の商店街のイナゴ大食い大会で優勝した
副賞がパリだったのよ。
観光バスからおりてエッフェル塔と凱旋門をバックに写真もみんなで
撮ったし、三コッシーでフォー損の紅茶もうんと買って親戚に配ったんだ
から。
みんなハイカラな味がするって砂糖をたくさん入れて喜んで飲んでいたわ。
きっと東條さんはまるでパリジェンヌのように振る舞う私にもう夢中よ。
二人で生牡蠣をチュッとすすり、白ワインを飲むのよ。
そして夜は、シャンパンゴールドの上質のシルクのスリップで過ごすの。
そのあとは、きゃっ。

真理子の目はあらぬほうをむき、半開きの口からは、とめどなく唾液が
溢れ出していた。
258名無し草:2011/08/30(火) 00:09:10.86
花京院は真理子に手を取られ次第にコブラツイスト状にえらい体勢に持ち込まれた東條を見て動揺した。

一体どうしたら友人を救えるんだろう?
何かで気をそらさなくちゃ。
「餌か?何が効くんだ?この手の女が意外とロマンチストな事ってあるんだよね・・・」
隣で涙ぐみながら立ちすくんでいる美しい女性に目が止まった。
「そうだ。彼女なら!」

「お譲さん。僕と踊っていただけませんか?」
振り向いたさくらは「えっ?(あらら。この方も素敵。っていうかむしろ・・・)」変わり身の早さが無ければこの世界で生きてはいけない。
「ええ。喜んで」長い睫毛を伏せ口角をキュッと上げ1番綺麗に見える角度でうなづいた。
二人の華麗なパ・ド・ドゥに周囲の人々は息を飲んだ。

真理子は自分の分身を見ている様な気がした。
「あれは私だわ。」乙女の様な夢見る眼差し、頬に手を当てはにかむ巨体。

東條は自由の身になった。「今だ!」
259名無し草:2011/08/30(火) 00:53:12.54
東條は、脱兎のごとく走り出した。

逃げ出した東條を目の端に捉え
安堵の表情を浮かべた花京院だったが
背後に生暖かく、生臭い息を感じ振り向いた。

「ぎょぎゃえぇ〜〜〜〜〜!!!」

そこには、唇をきゅっとすぼめ突き出した『あひる口』をしている
つもりの真理子がいた。

真理子は、『あひる口』で、色っぽさと愛らしさを
演じているのだろうが、その姿はウ●コを堪えている
大きなゴリラにしか見えなかった。
260名無し草:2011/08/30(火) 08:18:04.53
さくらも負けてばかりはおられない。

「なんなのこの化け物は!どこまで欲張りなの?」
「食欲だけにして置いて頂戴よねー。」
「さっきの痩せっぽっちは諦めが付くとしても、この男性はお譲りできなくってよ!」
261名無し草:2011/08/30(火) 09:37:49.78
その光景を奈緒美はムービーに納めながらも、時々、身体にぴったり
張り付いた総レースの自分のドレス姿も映すことを忘れなかった。
ポーズは少しななめになり、くびれたウエストを強調する。
少しでも明るい場所を蛾のように探し、ライトの効果も計算する。

「待っててや、だんはん。帰ったら面白いもん見せてあげるわ。」

セリフ回しは相変わらずひどい。たかが一行で関西人をひかせる
イントネーションである。
262名無し草:2011/08/30(火) 11:03:05.66
姫君と化け物そして育ちの良さ故今一つ決断力に欠ける王子。
役者は揃った。

高みの見物を決め込む観客。

しかし勝負は意外にも早く付いた。

さくらの大きな瞳を縁取る長い睫毛、ほっそりしているのに筋肉の付いた体。
唇をキュッと結んで上体反らし片足を前に出して立つポーズ。

それらを目にした時、真理子は「駄目だ。この人だけには勝てない・・・」っと悟った。
(山梨ではマリリンと呼ばれ崇められていた私。
生まれて初めて自分より綺麗な女を見たわ。)

263名無し草:2011/08/30(火) 14:06:02.89
でもこのまま引き下がるわけにはいかないわ。
一体何のために田舎を後にして東京へ出てきたのか。

仕事で成功し、素敵なイケメンと結婚し、可愛い女の子を産み、
高級住宅地でお手伝いさんを置いてセレブ文化人となるためではなかったのか。

そう、ここで諦めず頑張るのよ!
地元商店街「エルメかばん店」の歳末大売出しの際、最終処分価格\2,980で購入した
エルメスのパチもん・・・いやコピー品のバッグ、
そのファスナーを閉めず開けっ放しの口に、真理子は太い手を突っ込んだ。
乱雑に散らかった中身をひっかき回し、目的のものをギュッと握り締める。

さあ魔法の痩せ薬の出番よ!
このお薬を使って美と成功と夫を手に入れるのよ!
水を探すのももどかしく、真理子は錠剤を口に入れボリボリと噛み砕いた。
264名無し草:2011/08/30(火) 14:12:46.09
自分ではチャームポイントと思っている大きな垂れ目の目じりにじんわりと
涙が滲み、長い下まつ毛を濡らした。
お母さん、どうして私をもっと遅く生んでくれなかったの・・・?
もし今の時代に青春時代を過ごせたなら、
スラッと高い身長・大きな垂れ目・肉感的な厚い唇に巨乳のこととて
モテモテで無敵の美女として、大勢の男から崇められたものを。

真理子の頬の贅肉を涙が一筋流れた。
それと同時に、魔法の痩せ薬が噛み砕かれ丈夫な胃へ到達した。
人間離れした消化吸収能力によって、魔法の成分が真理子の身体へ行き渡る。
265名無し草:2011/08/30(火) 15:08:40.87
さくらは思った。
あのお薬の入手ルートさえ掴めればあの化け物のような雌カバの面倒ともおさらばできるのよ。

そんなさくらの胸中を知ってか携帯を片手に奈緒美がボソッとつぶやいた。
「あー、あれは夏元デブ御用達の危ない痩せ薬だわねえ。」
266名無し草:2011/08/30(火) 17:01:53.92
そんなとき人気歌舞伎役者蕪屋蟹蔵(かぶらや・かにぞう)が、抜群の
スタイルのモデルと思しき女性を連れて通りかかった。
高級ホテルでもどこでもお構いなし、タンクトップにバンダナ、
ビーチサンダルといったいでたちで傍若無人な振る舞いの役者であるが、
芸はその態度に追いついておらず、陰で屋号をもじって「すずしろ屋」と
呼ばれている。

その蟹蔵がエレベーターホールで叫んだ。
「なんだよ、ひっでえなー、この匂い!下水かよ!」
すずしろ屋とはいえ、さすがに声は通る。

真理子はゆっくりと振り向き、くっきりとした顔立ちの蟹蔵にまた
目を奪われた。
267名無し草:2011/08/30(火) 17:41:18.31
真理子のターゲットから外れた花京院はこれ幸いとさくらと手に手を取って道行・・・いや違うまだこれからの二人である。
折よく扉の開いているエレベーターに飛び乗った。

エレベーターは二人っきり。
実は片隅に東條が乗っていたのだが目に入らなかったのだ。
扉を開けて待機していたのだって彼なのに・・・

「さっきのダンスは素晴らしかった。」
「いいえ。あなたこそヌレエフの様でしたわ。」
「今度京都の僕の家にいらして下さい。秋ともなれば茶会の季節です。」
「えっ!!お・お茶室をお持ちでいらっしゃるのかしら?」
(いけない。声がうわずってしまったわ)
(もの欲しげな女と思われやしないかしら?)


268名無し草:2011/08/31(水) 01:48:24.36
エレベーターホールに取り残された真理子。
「せっかく秘薬を飲んで大変身しようってのに。なんで居なくなるワケ?」
誰も見ていないなら飲まなければよかった。レストランに戻って、なにもかも忘れてもう一度最初から食べ直そう。
そう口の中で文句を転がしながら振り返ったその時、不穏な音が鳴り響いた。

グゥ〜。
嫌だわ。まだ食べたいけどそこまで空腹じゃあないワ。
ギュルル〜。
腹が絞られるように痛みが走る。額から汗が吹き出した。
ギョルルルルル〜。
まさか。あ、あの薬!

尻にヌルヌルした油みたいなのを感じる。だめだ!
辺りを見まわし、化粧室のプレートを発見するやいなや真理子は走り出した。
269名無し草:2011/08/31(水) 11:32:19.10
放送事故画像につき、只今24時間画像が停止しております。
270名無し草:2011/08/31(水) 12:30:03.52
環境映像

「世界の寄せては返す磯の波」をご覧ください。
271名無し草:2011/08/31(水) 12:52:14.21
実況 ◆ プチテレビ 292929 時間

532:名無し
おい、ついにプチ停波かwww

533:名無し
いつからこの映像流れてんの??いいとも見せろやww

534:名無し
なんかやらかしたらしい。デモ?イノウェイ?

535:名無し
あちこちの板で「ウンコ●スレ」立ってる。なにこれ。
272名無し草:2011/08/31(水) 13:53:52.97
536:名無し
おい、見たかよ!
誰かしらんが、ようやるわ。
シコシコ動画とプーつべに凄いのうpされてるぞ。
ちょっと言葉にはできんな・・・うっ。
273名無し草:2011/08/31(水) 14:42:10.95
はあーーー。
個室から出た真理子が大きな息を吐いた。

わざわざ腸内洗浄とかいって高いお金を出してダイエットする人がいるくらいですもの。
ダイエット如きに高いお金を出せない私のこととて、無い袖は振れません。
トイレに行って体重を減らすのはお財布に優しいのよん。

手を洗おうとしたが、「エルメかばん店」の最終処分価格\2,980で購入したエルメスのパチもんバッグ
が邪魔になり、横の洗面ボウルにどさっと置いた。
水道の蛇口が自動的に反応し、バッグの開けっ放しの口に水を注ぎ始める。


274名無し草:2011/08/31(水) 16:24:39.08
奈緒美は家に帰るなり体にしみ込んだ臭いを落とす為バスルームに飛び込んだ。
「んもー。お洒落して行ったのにー髪の毛にもあのクリーチャーの体臭が籠ってるわー。」

でもバスルームから出て乗ったヘルスメーターの数字が出かける前に比べ600グラム減っている事は嬉しかった。
「あらあ。これなら久しぶりにダーリンの作った練り切り食べてあげられそう。」
「速くあのムービーを見せてあげなくっちゃ!」

275名無し草:2011/08/31(水) 16:45:24.80
カリスマ和菓子職人の夫はムービーをみて驚愕し、更に奈緒美からの話を聞いて直感した。
恐ろしい女のようだが、しかし、職人の兜塚はこの女に自分の作った和菓子を食べてもらいたいものだ、と思った。
最近はヘルシーだのローカロリーだのと、甘くない和菓子を求めるものが多いが、本来和菓子は甘くてナンボ、のものだ。
兜塚はそういった風潮に実はうんざりしていた。
妻である奈緒美もほんのぽっちりとしか甘いものを口にしない。
276名無し草:2011/08/31(水) 18:01:56.09
奈緒美はお薄を立て、水の流れを表した涼しげな菓子を味わった。
愛おしそうに黒文字でちょびちょびと・・・
「んーん。おいちいわよーダーリン。」

(一度でいいから菓子鉢抱え込んで食べて見たいわ)
277名無し草:2011/08/31(水) 19:22:53.97
一方その頃、グラビアアイドルの早島莉子(はやしま・りこ)は、漫画家の伊藤洗車と対談していた。
伊藤洗車は、週刊分春で1コマ漫画を連載中である。

大柄な肉体にグラマラスな巨乳、白く脂の乗ったうなじ、二重瞼のセクシーな垂れ目、ぽってりとした肉感的な唇を持つ早島莉子は、ハイヒールを履くと数倍美しく見える脚を誇っていた。
278名無し草:2011/08/31(水) 20:44:22.97
ヤッホーニュース

■プチテレビ放送事故?■
プチテレビの、とくダワ!の中継コーナーの途中から数時間におよび、
「しばらくお待ち下さい」のテロップとともに環境映像などが流され放送が中断した。
VTR中のワイプに、本来ならスタジオゲストの顔が映るところ
なぜかレストラン前にて女性が走り回る動画が数分流れた模様。

PTVによると、下請の制作会社スタッフが練習用に作った素材を誤って使用してしまったとのこと。
知人から送られた動画の画質が、地デジに対応できるか調べようとしていたと苦しい言い訳。
メディアリテラシーのさらなる厳格化を求めたい。

(コメント)
:うんこオバサン事件でしょ?

:ホテルのロビーぽかった

:下痢ラ
279名無し草:2011/08/31(水) 20:45:12.62
 普段は穏やかな顔をした美輪ママが眉間にしわを寄せ、具合が悪そうに店のソファに横たわってから3時間後、
ゆっくりと起き上がり、カウンターの奥で心配そうな顔をしていた江原を見た。
「ああ、頭痛が消えてきたわ……それからわかったわ、江原ちゃん」
「私にもわかりました」
 美輪ママはフリルたっぷりのスカートをかき分け立ち上がった。
「子供だましのSFみたいでおかしいけど、宇宙か…時空のどこかに…地球と同じような星が存在しているのよ。
もちろん、そこには同じような顔、名前をした私、江原ちゃんもいるの…真理ちゃんもね」
 江原も返す。
「私はそこで人を見てお金を貰う仕事をしていますね。テレビに出ている姿も見えた、ママは大きなステージで歌を歌って
いた、退廃的なお芝居をしている姿も…私と一緒にテレビも出てましたね」
「鬼島佳苗は何故か犯罪者、そしてマリちゃんは…そこそこ成功した小説家なのよ」
 ママの話によると、その星のもう一人の自分の姿は美輪や江原といった能力者にのみ見えるのだ。
 ただ、能力を持たない真理子でも見えるらしい。
「真理ちゃんは昼間レジの前や、夜、布団の中で『夢』として見るのよ、リアルすぎる夢としてね」
 江原は思い出した。
 香港でエルメスのショーケースの高価なバーキンとにらめっこしていた真理子は後で少し泣きながらこう言ったのだ。
「夢の中の私は、こんなバッグたくさん持ってた、椎茸柄ペイントしちゃうほど、雑誌の読者プレゼントや、
震災ボランティアのバザーに気前よく出しちゃえるほどたくさん持ってた」
 でも手に持っていたバッグは「エルメかばん店」の合皮のバーキンもどきだった。それは、ぱっくりと口を
開け、中から飲みかけのペットボトルが数本見えた。
「どうして私、こっちの世界にいるんだろう」
「何言ってるの?真理ちゃん、こっちが現実なんだろう?」
 テレビに出て華やかな生活を送るもう一人の自分を見てしまった今となっては、真理子のその言葉が江原にとって重く
感じられた。だが、これが現実なのだ。入れ替われないのならば受け入れるしかない。
280名無し草:2011/08/31(水) 21:40:27.73
本屋を臨時休業して、東京で騒動を起こしたというのは、現実なんだろうか?それともそれもまたパラレルワールドでの出来事?
レジの前で涎たらしながら見た夢の一幕なのだろうか?
281名無し草:2011/08/31(水) 21:42:43.45
964 名前:無名草子さん :
夢オチなんて小説としては初歩的すぎるだろ
282名無し草:2011/08/31(水) 22:09:04.83
ああ、出すものを出したら猛烈にお腹が空いてきたわ。
真理子はたっぷりと水の入ったエルメスならぬ通称ヘルメシのバッグを
持ち上げ、本当ならシウマイ弁当がいいんだけど、この時間ならコンビニ
くらいしか開いてないわねと、心持ちすっきりした(本人比)下腹を
さすりつつ、巨体を揺らしながら悪臭に満ちた化粧室を後にした。
283名無し草:2011/08/31(水) 22:11:32.34
 いやいや、現実だ、真理子は急いで「エルメかばん店」のバッグから水をこぼした。
「私としたことが…くう…」
 背後から勝魔が近づいてきて、うなじに鼻息をふきかけた。
「捕まえた、真理子さん『微.ストリート』の出版社へ行きましょうよ…
それともポペラ社へ新進気鋭の水玉シロ先生に会いに行く?センセイの本
「ZOURIMUSHI」持ってるからサインしてもらいましょうよ」

284名無し草:2011/08/31(水) 22:12:19.70
 いやいや、現実だ、真理子は急いで「エルメかばん店」のバッグから水をこぼした。
「私としたことが…くう…」
 背後から勝魔が近づいてきて、うなじに鼻息をふきかけた。
「捕まえた、真理子さん『微.ストリート』の出版社へ行きましょうよ…
それともポペラ社へ新進気鋭の水玉シロ先生に会いに行く?センセイの本
「ZOURIMUSHI」持ってるからサインしてもらいましょうよ」
285名無し草:2011/08/31(水) 22:12:38.71
化粧室を出た真理子は、エレベーターへと向かおうと歩きはじめた。
しかし先ほどの醜態に加えて水びたしの鞄である。
さすがに身を隠したい気持ちでいっぱいになり、階段でひとつ下のフロアに降りた。
そして何食わぬ顔で、エレベーターに乗り込み颯爽とホテルを抜け出した。

トホホ。こんなはずではなかった。タクシーの中で真理子は少し泣いた。
そして宿泊しているビジネスホテルの部屋へ入るなり、冷蔵庫をあけビールをぐびっーと飲み干した。
ありったけの缶をあけながら、いつの間にか眠っていたようである。

気がつけば時計は翌日の昼。
風呂にも入らず化粧も落としていない、ひどい姿で目覚めた。

部屋のドアを叩く音が聞こえる。
重い体をひきずりながら覗いたドアスコープには、興奮に鼻をふくらませた勝魔が写った。
「えぇ〜なんでアンタが訪ねてくるワケ?」
286名無し草:2011/08/31(水) 22:39:30.03
東條は悲しかった。
心の底から花京院のことを愛していたからである。
東條がいくら真理子と身体を密着させようとかまわなかったが、
ウィーンの舞踏会のように軽やかに踊るさくらには殺意にも似た
感情を覚えた。
エレベーターに乗ってからも二人は熱い視線を絡めあっている。
こんなことならいっそ真理子に食い殺されたほうがよかったかもしれない。
自暴自棄の東條のこの考えがまさか現実になろうとは・・・。
287286:2011/08/31(水) 22:42:25.22
誤)東條がいくら真理子と身体を密着させようとかまわなかったが、
正)花京院がいくら真理子と身体を密着させようとかまわなかったが、

もう!お金払ってるんだから薪ちゃん、ちゃんと校正してよねっ!
288名無し草:2011/08/31(水) 23:07:11.32
懊悩する東條を尻目に花京院とさくらは二人の世界に入り込んでいた。

「あの・・・お茶会にわたくしなどがお伺いしてもよろしゅうございまして?」
さくらは踊っている時の華やかさとは打って変わりササユリの様に愛らしかった。

「勿論ですとも。僕がどちらへでもお迎えに上がりますよ。」
っと言ってから、先ほどから突き刺ささる熱い視線の持ち主を捜すと、

東條が涙ぐんでいた。


(へっ?あれ?やっぱり東條ってもしかして、ひょっとして、
まさかねー、そういえば言葉使いが微妙に女っぽいというか・・・)
289名無し草:2011/08/31(水) 23:38:47.05
癌田ウソは、大きな腹を抱えながら
ある悩みを抱えていた。

それは、大物お笑い芸人が893との関係を暴かれ
芸能界を追放されたことに関係している。

「ウソのところにも、警察は聞き込みに来るかしら?
いざとなったら、このお腹をさすってザッチーに苛められた時のように
嘘泣きして誤魔化せばいいかなぁ〜〜。ウソは、嘘泣きが超得意だし・・・
あ・・・こんな時の為に、毎年誕生祝をくれてやってる醜山の憲ちゃんに
連絡してみよう〜〜。それから、次はワインの会の椛島奈緒美にも。。。」

ウソは、長い悪魔のような爪を伸ばし
スマホを取り上げた。
290名無し草:2011/09/01(木) 00:02:27.74
いやいや、まさか長年の友人、そんなことがあるはずない、きっと東條も
さくらを気に入ったに違いない。
あらぬ疑いをかけたことと、今夜さくらを譲る気はないことを
心の中で謝りながら、プリッと上ったさくらの尻を東條に気取られない
ように花京院は撫でた。
291名無し草:2011/09/01(木) 00:34:17.29
花京院に、ツルンとさり気なく尻を撫でられたさくらは
「・・・あっ・・・」と、小さく声を上げた。

花京院が、ニヤリとさくらを悪戯っ子のように見つめた。

さくらの美しい白い肌がみるみる桜色に変わった。

(ほぉ〜〜〜・・・いまどき、なんと純情可憐なお嬢さんなんだ・・・
芸能人は、アバズレが多いと思っていたが・・・この娘はなかなかの
上玉・・・・)花京院は、久しぶりに気持ちが昂ぶってきた。

そんな花京院を見ながら東條は、泣き出しそうな気持ちを抑えていた。

花京院は、東條に気取られないように、さくらの体に触れたつもりだったが
東條は、しっかりと見ていたのだ。

(よし!!俺も男だ!!同じようにやってやる!!)
東條は、花京院の真似をしてさくらの尻を撫でた。
292名無し草:2011/09/01(木) 00:42:03.30
「なにすんのよ!!」怒りでさくらは顔を真っ赤にしながら
バシッ!!と、東條の頬をはたいた。

東條は、さくらに平手打ちを喰らいよろめいた。

細身の体は、ヨロヨロとそのまま床に倒れこみ
その姿は、年老いた痩せこけた鶏のようだ。

「なんだよ・・・なんでだよ・・・花京院が触ったら知らん顔で
俺が触ったら平手打ちかよ・・・」東條は、俯きながら
小声で呟いた。



293名無し草:2011/09/01(木) 01:10:40.13
勝魔の顔を確認した真理子は「チッ」と舌打ちした。
真理子は美女は伝染するという持論がある。せっかくさくらや奈緒美、
そして癌田など極上の美女と付き合って、見る人が見れば美女と言って
くれるかもしれないレベルまで来たのに、なんで今さらベムベラベロ
みたいな勝魔がたずねてくるのよ。いやドアスコープから見る勝魔は
半漁人のようである。居留守使ってやろうかしら。プンスカ。

しかし勝魔はリサーチ力がある。返事がないドアに向かって「真理子さん、
獅子屋のお赤飯買って来たわよ、炊き立てのを詰めてもらったから
まだほんのり温かいわ。それとリンゴ森堂の限定の栗大福、2時間
並んで買って来たの。それから・・・」勝魔が持ってきた餌、もとい
食べ物をまくし立てた。

真理子は猛烈な空腹を感じ、「まあ嬉しい」と猫撫で声で、勝魔を
空き巣に入られた直後のような部屋に招き入れた。
294名無し草:2011/09/01(木) 07:25:20.30
花京院はハトが豆鉄砲を食らったような顔になった。

情熱的且つ技巧的なダンスをしたバリエガータ・ディ・ボローニャの様に華やかなさくら、
頬を染めて恥じらっていたササユリの様に可憐なさくら、
今、東條をぶっ飛ばしたママンの様に強いさくら、



そのどれもが抗い難い魅力を放っている。


東條の心を思うと申し訳無かったが、
彼に恋愛感情を持つ事もさくらを譲ることも無理だった。
ようやく見つけたママみたいに素敵な女性だ。
花京院遊鶴は育ちの良い男性特有の軽ーいマザーコンプレックスの持ち主である。
295名無し草:2011/09/01(木) 09:10:05.15
勝魔は部屋に入ると、『長野 はくさい』と書かれた茶色のダンボール箱をどさっと置いた。
「3ちゃんねるのカキコによると、ハンドバッグ一つで出かけたってことだったので
従妹さんに連絡して着替えを用意してもらいました。
おそらく服塚の上層部にあるものを最近着ているでしょう、って従妹さんは荷造りしてくれたわ。」

蓋のガムテープを剥がすと、一番上にあるのは「趣味のきもの しま村呉服店」の畳紙。
先日誂えたお着物だ。
その下は「おしゃれの店 ブティックサンダー」で購入した黒ジャケットと白フレアースカート。
フレアースカートはお腹の贅肉が目立たなくてお気に入りなのよん。
下のほうには下着とストッキングの替えも、スーパーの袋に包んで入れてくれていた。

これでちゃんとした着替えができるわ。
真理子はヨレヨレになったホテルの浴衣をすぽんと脱いだ。
296名無し草:2011/09/01(木) 09:20:40.59
勝魔はてきぱきとホテル備品の日本茶を淹れた。
「実は週末、東北でボランティアに参加してきたの。
その時、男性ボランティアがご馳走してくださったお菓子が美味しかったものだから
真理子さんにも食べてもらおうかと思って買って帰りました。」
と話しつつ仙台の抹茶生クリーム大福とどら焼をテーブルに置く。

真理子は着替えながらどす黒い嫉妬が湧き上がるのを感じた。
私とあまり変わらないトシで、容姿もそれほど差が無いっていうのに
この人は離婚してからも彼氏に困らないのだ・・・
一体私のどこが悪いのか。何が足りないのか。

腹立ちを抑えつつも菓子を頬張る。むがむが。この女にはむかつくけど美味しいわ。
297名無し草:2011/09/01(木) 16:08:26.18
そういえば、東北の純朴そうな男たちを狙って肉食女子が婚活目的で
ボランティアに行っていると江原ちゃんに聞いたことがあるわ。
さては勝魔もそのつもり?男性ボランティアとお食事?
私も東北のおいしい海産物をどっさり食べて、おいしい日本酒をジャブジャブ
飲みたいわ。
あ、でも雪の降るところは苦手だわ、私、脂肪はたくさんついてるけど、
保温能力がまったくなくて駄目だもの。
寒さは苦手、震災のことを思って暖房なしですごそうとしたけど、
すぐに心折れて暖房つけちゃったもの(てへ)
それにね、東北の純朴な男もいいけど、やっぱり都会の男が一番……………。
298名無し草:2011/09/01(木) 16:56:32.14
夏の暑いのも苦手だから、
いちおう都会の男を本命に確保しておいて、
猛暑が我慢できなくなったら避暑地へ旅してそこの男とアバンチュール、っていうのもいいわねん。

避暑地の恋・・・!!!
白いノースリーブワンピにつば広の麦わら帽子をかぶり、ハイヒールのサンダルで
避暑地で知り合った男とひと夏の恋を楽しむ私♪
あ、ダメだわ。二の腕は出さないほうがいいのね。
カーディガンを羽織るとモッサリしたシルエットになってしまうのが困りもの。
じゃあノースリワンピにジャケットを重ねればいいわ。

その前に少しだけダイエットしておいたほうがいいわね。
299名無し草:2011/09/01(木) 18:20:39.71
「こちらの臭いでございますね。勿論当方でも出来るだけやってみますが・・・」
「お願ーい。大切なドレスなのー。」

奈緒美は懇意にしているクリーニング屋に来て貰い、
昨夜ドレスに付いた臭いを取ってくれる様頼んでいた。
「失礼とは存じますが、何か野生動物にでもお触れになりましたでしょうか?」
(うう。強烈だぜこの臭い。腐ったフルーツに獣臭、更に下水と温泉の臭いが混じってんぜ!)

さすが日本一と言われる白菜舎である。
花京院には及びもせぬが近いところ突いてる。
300名無し草:2011/09/01(木) 18:57:48.69
「そうねー。良い線かもしれなくってよ。」
ここは夫の店にも出入りしている関係で奈緒美は上得意なのだ。

あのあと何だか混乱していてさくらちゃんとも離れちゃったけどどうなったのかしらねえ。
さすがにダンスは素晴らしかったわ。
芸がある人はいいわねー。
私なんて美貌とスタイルだけですもの・・・
301名無し草:2011/09/01(木) 21:46:00.62
その頃、さくらの元には多中逝子から電話がかかっていた。
「ちょっとぉ、早くこないともう帰っちゃうわよ」
ばたばたとあまりにいろんなことが起きたので、すっかり忘れてしまっていたが、
当初の目的は、真理子に多中逝子の顔筋マッサージを受けさせるのが目的だったのだ。

「す、すみません、先生・・・」
「さくらちゃんがどうしてもっていうから、時間とったのよ」

多中逝子はご立腹であった。
それも当然であった。多中逝子本人からマッサージを受けたいという人はたくさんいるのだ。

さくらはもともと顔が小さいので「顔を小さくする」といったマッサージにはいまだに興味はないが、
年齢不詳の業界のカリスマに嫌われるのはやはりつらいことだ。

「どうしようもない女をきれいにするっていうあなたの熱意にほだされて時間をあけたのよ。
正直そういった救いようのない子をきれいにするのが私としては非常に興味があるし
早くつれてきて頂戴。」

そういって多中逝子は電話を切った。
さくらはあわてて真理子に連絡をとった。
302名無し草:2011/09/01(木) 22:13:15.49
オフィスのソファに座り、各田蜜代の「八月の蝉」を鬼島佳苗は読んでいた。
 薪ちゃんが本を買ってきて「良かったんですよ、先生」大絶賛したからだ。
 作家に対して、他の作家を褒めるようなことをするなんて…と佳苗は思ったが、空気を読めない子だから
声に出していうのはあきらめた。
 最近直木賞を受賞した作家らしいが、自分と作風が重なるような感じがして気になっていた。
佳苗のことを分春王子も、選考委員の美矢部先生も喜多方先生も次回作次第では直木賞受賞も夢ではないと言っていたが、
賞を取った後、この人と肩を並べて読者の取り合いをするのかと思うと今書いている喪女小説にも気合が入る。
 この小説にリアルな深みを入れる為にも早くあの山梨の書店の店長の日記を手に入れなくては。
 東條はいったい何をしているの、確か東京に戻ってきているはずよ。
303名無し草:2011/09/02(金) 07:49:22.35
さくらは田中逝子のご機嫌を損じたかも知れないと不安を感じていたが、
花京院とデイトの約束をした嬉しさの方がはるかに勝っていた。

お茶会は9月の祭日とおっしゃってたわ。
余り派手な物は避けて薄桃地に秋草模様の単衣にしようかしら?
それとも・・・
矢も盾も堪らず和箪笥を開けて着物を選びを初めてしまった。

(いつぞやのワントリー美術館でのお茶会で6月だと言うのに袷をお召しになった中年女性がいらしたわ。
おまけに帯も金襴緞子の花嫁さんみたいで・・・ククク物事を知らないと飛んだ笑い者になるのね。怖い怖い。)
304名無し草:2011/09/02(金) 08:14:26.18
花京院は浮かない顔をした東條を前に、
何と話を切り出したものかと考えあぐねていた。

すると東條の方から、
「あのさ。すごいお似合いだと思うよ。うん。」と言ってくれた。
どうみても敵う相手じゃないし愛する花京院の幸せの為なら身を引いても良いと彼なりの愛の表現だった。

ブラックホールバックスの紙コップを額に当てながら、
「ううー冷え冷えで気持ち良いー。俺いつも暑い時はこれ持って歩くんだよ。
会社に帰ってから受付の女の子に上げても喜ばれるしさ。一石二鳥って奴。」

花京院は絶句した。
(ええー!有り得なーい。汚いじゃないかよ。こんな事する人間じゃなかったはずなのに。
社会に出ると色々変わるんだなあ。)
305名無し草:2011/09/02(金) 19:47:19.50
しかし、今の花京院にとって、大切な人は
親友の『東條』から『さくら』に取って代ったのだ。

花京院の豪邸で催されるお茶会は、京阪神の財界人の
間では、有名なのである。

そこに招待を受けることは、トップクラスの人間として
一目も二目も置かれる存在であることを自他に認識させる
ことでもあった。

また、花京院の豪邸は、『京都の迎賓館』とも呼ばれているのだ。

花京院は、ブラックホールバックスの紙コップの中に
東條の汗がしたたり落ちるのを見ながら
「そうだ・・・お茶菓子は、兜塚に頼もう」と
思ったのだ。
306名無し草:2011/09/02(金) 19:58:48.75
花京院は、縋る様な目で自分をみつめる東條と視線を
合わさないように、明後日の方を向きながら
(さくらを京都に呼び寄せ、懇意にしている老舗の呉服屋で
さくらに似合う着物を誂えてあげよう・・・
そして、さくらの着物が引き立つように、兜塚に和菓子を創作
させよう・・・今回は、さくらを引き立たせる為に、兜塚の嫁の
椛島奈緒美も呼んでやろう・・・椛島とズブズブの関係だった
渡辺ずんいちも京都は札幌に似てるから好きだとか言ってたし・・・
老い先短いから呼んでやってもいいかな・・・ふふふ・・・)
などと、想像を巡らせニヤニヤ笑った。
307名無し草:2011/09/02(金) 20:59:26.81
(今度の茶会は跡取りとしての正式な披露を兼ねている。
それに加えて実質的な婚約発表の場にもなるかも知れない。)

亭主を務める彼は決めなくてはならない事が山の様にあった。
「ふふ・・・遊鶴じゃなくて働く鶴になっちゃうかも。」
308名無し草:2011/09/02(金) 21:47:31.78
「服着る前にもう一回シャワーを浴びていらっしゃい」
 勝魔は人よりやや大きめの鼻の穴をハンカチーフで隠しながら真理子を蹴とばした。
「まだ臭います」
 しぶしぶとバスルームに消えた真理子を見届けると、勝魔は洋服と着物の入った段ボールの
底に何か本らしきものがあったのを見つけた。
「何これ」
 引っ張りだしてみると2冊あった。
 1冊は真理子の数少ない著作のひとつ『シウマイ弁当を買っておうちに帰ろう』(絶版)だった。
「ああ、これ、私も昔、読んだわ…後味悪いエッセイですぐにブックオンに売ってしまったけど」
もう一冊は80年代の懐かしいデザインの大学ノォトだった。
 『プリンセスマリタンの日記』と表紙には黒マジックで太く書かれている。
 大学卒業直後の就職浪人時代から、広告デザイナーを目指し小さな広告代理店で小さな広告の仕事
をこなしていたところ、そこでたまたま珍獣マニアの出版社の編集者の目にとまり、遊びで書いた
『シウマイ弁当を買っておうちに帰ろう』が少し売れたところまでを真理子目線で、妄想たっぷりに
日記として綴ったものだった。
 間違いだらけの漢字と送り仮名、作家を目指していたとは思えない貧困なボキャブラリー、子供のように拙い
文だが、その突拍子もない妄想が勝魔を笑わせる。
「ああ、これをネタに『微・ストリート』へ売り込んでみようかしら?」
309名無し草:2011/09/02(金) 22:19:06.36
さくらにも悩みはあった。
髪をアップにし、粋な着物や肌の露出の多いドレスを着ると、たちまち
銀座のホステスに見えるのである。もちろん、そんじょそこらのキャバクラ
ではない、超高級クラブではあるのだが。
ホームタウンである銀座を歩いていても、水商売のスカウトにひっきり
なしに声をかけられ、たかだか「和・んこう」に刺繍入りのハンカチを
買いに行くだけなのに、数え切れないほどの名刺を渡されている。
すぐに捨てたいのであるが、最近はセキュリティーのためかゴミ箱が
見当たらない。
そんなとき真理子に会った。真理子はさくらの手にある名刺の山を見て
驚いた。
「ええっ!?私そんな声かけられたことないよー、テレクラのティッシュ
はたくさんもらうし、手をかざすだけで痩せられるとか、そういう
スカウトは何度もあるけど。」
310名無し草:2011/09/02(金) 22:37:25.24
さくらは「それはスカウトじゃないでしょ」と内心バカにしながらも
大きな瞳でまっすぐに真理子を見つめ「ニーズが違うのかもね」と
にっこり笑った。
真理子は納得し「そうそう、さくらちゃん、私すんごい靴フェチ
なの、今から一緒にムダダのミュール買いに行くの付き合ってぇ」
などと甘えた声で言ってくる。
さくらは「本当に本当にご一緒したいんだけど、これからバレエの
レッスンなの、最近踊ってないから身体がなまってしまって」
言うと真理子は「えー、私の小さいときバレエ習ってたのよ、最近
大人の女性がバレエ習うの流行だよね、私も行きたい、行きたい!」
どこまでオメデタイバカナカバなんだと怒りを通り越し、あきれた
ことを思い出していた。

そんな場合じゃないわ、あまり粋すぎず、皆に賞賛されるような着物を
選ばなくちゃ。お茶会の着物選びも大事だけど、洋服も何着もいるわよね。
タヌキィか明日ジュワンが無難かしら。
真理子のことなどすっかり忘れ、衣装選びに余念のないさくらであった。
311名無し草:2011/09/02(金) 23:12:11.05
そんなさくらに、花京院から電話があった。

「さくらさん、お茶会の件で、打ち合わせしたいことがあるんだ。
急な話で何なんだが・・・京都に来て欲しいんだよ。
明日、こちらに来れる?」

「え・・・明日ですか?・・・・」

「明日は、急すぎるかな?じゃあ・・・」と
花京院が言いかけた時
「今日じゃ、駄目ですか?」さくらは明るく可愛らしい声で
応えた。

花京院のハートは、完全に撃ち抜かれた。

312名無し草:2011/09/02(金) 23:58:06.97
さくらは、左手首を美しく翻し
時計を見た。
さくらの母親が「和・んこう」の外商に勧められ
購入したハリー・ウィンズドンだ。

先日、椛島奈緒美のティファニーに敗北を感じた
さくらだったが、母親の部屋でこの気品溢れる
ゴージャスな時計を見つけた時には、心が躍った。
それ以来、さくらは勝手に腕につけているのだ。
白く透けるようなほっそりした美しい腕に
その時計はよく似合った。

時計の針は、午後1時を少し過ぎたところを指している。
これから支度をし、『のぞみ』に乗れば、京都には遅くとも
午後5時には着くだろう。
こんな時間から、京都に行くなんて大胆なことを自分でも
言ってしまったことに、さくらは驚いていた。

(花京院さんに、アバズレだと思われたんじゃないかしら?
さくらは、少し後悔した。チンスケにアバズレと言われた
女優の伊東三咲のように、私も同じような仲間だと
思われはしないかしら?)でも、さくらは直ぐに首を振って
胸を張った。

私は、清く正しく美しくのヅカ出身なのよ。

あんな陳腐でどこの馬の骨ともわからない素性の
玉突き屋の奥さんになった女とは出自が違うんだから・・・・

さくらは、京都へ出かける準備を始めた。
313名無し草:2011/09/03(土) 00:49:18.16
そして多中のマッサージのことを思い出した。ここのエステは自分にはあまり必要がないのだ。
「さくらさんは小顔でいらっしゃるから。変化がわかりづらいのよ。
顔が大きくてお肉が分厚い人ほど見違えるようか効果があるのよ。」
とヨイショを交えて解約を阻まれていた。それならば見違える効果とやらを見せてもらおうじゃないの。

彼女は多中のサロンに、「友人がどうしてもと言うので今日の施術を譲りたい」と伝え、
そして真理子に電話をかけた。
「なかなか予約の取れないエステがあるんだけれど、わたくし予定ができてしまって。
とっても小顔になるらしいの。真理子さん変わりに行ってくださる?」
314名無し草:2011/09/03(土) 01:04:43.74
そのさくらからの電話を受けたのは、勝魔だったのだ。

真理子は、勝魔に「シャワーを浴びろ」と命じられ
しぶしぶシャワーを浴びたものの、お腹が空いてたまらなくなり
バスルームから、バスローブの前が太りすぎで
合わさらないままの状態で出ると、床に座り込み
勝魔が持ってきたお土産をむがむがと、再びむさぼり始めたのだ。

真理子は携帯がなっても、抹茶大福とどら焼きを両手に持ち
交互にパクついてる最中だったので、「ふがふが・・・出て、出て」と
勝魔に合図を送ったのだ。

その合図は、なんと足でだった。

豚足の先が欝血しているのは、サイズが合わない靴を
無理して履いている証拠だろう。
315名無し草:2011/09/03(土) 01:14:22.64
「ん、もう〜〜〜」と、憤慨しながらも、
豚足が指す携帯を取り上げ
「はい・・・」と、出ると
相手はよほど慌てているのか、言いたいことだけ言うと
電話を切ってしまった。

抜け目の無い勝魔は、象顔マッサージで一躍有名になった
多中逝子のことは知っていた。

べらぼうに高い料金と予約が取れないことで有名だったのだ。

勝魔は、無表情な男のマネキンを女に似せたような
逝子を内心、胡散臭い奴と思っていた。

だが、電話の主は、その主の代わりに象顔マッサージを受けて来て欲しいと
言うのだ。

電話の内容になど全く無関心で、勝魔に背中を向け
どら焼きに喰らいついている真理子を見て
勝魔は、「真理ちゃん、私が代わりに行ってあげるわよ」と
ほくそ笑んだ。
316名無し草:2011/09/03(土) 01:32:45.92
しかし自分が得をする情報を、真理子が聞き逃すわけがない。
口いっぱいの菓子を甘い炭酸飲料で流しこみ、こう言い放った

「あらそのエステは私が行くのよ。ゲフーッ。さくらさん、私とよっぽど仲良くなりたいのかしらん」

真理子はカットソーとフレアスカートを無造作に着て、ベッドに寝転びながら反動でストッキングをはいた。
エステを受けるからメイクも必要ないか。髪も梳かさずにジャケットを羽織り
「そういうことで。じゃあねぇ〜」と鞄を抱えて部屋を出てしまった。

勝魔は腹わたが煮え繰り返った。
田舎から服や菓子を運んであげたのは誰だっていうのよ。
エステを譲るどころか、お礼も言いやしない
こうなったら私も好きにさせてもらうわ!

段ボールにあった小汚いノートを手に、勝魔も部屋を出ることにした。
317名無し草:2011/09/03(土) 01:34:11.55
さくらからの伝言を頭脳明晰な勝魔は、メモになど書かず
頭に叩き込んだ。

なんでも、逝子から直々に象顔を受けられるのは
HPにある店舗ではなく、南青山にある逝子のマンションなのだそうだ。

3時からの予約には、まだ少し時間がある。

勝魔は、まだ大福を頬張っている真理子に
「私、ちょっと用事ができてしまって・・・
夕方には、ここに戻って来るから、一緒に夕食食べようね。
それまで、待っててくれる?」と言うと
真理子は、捨てられそうな犬のような悲しげな目をした。
勝魔は「真理ちゃん、これも置いていくから待ってて」と
賞日期限切れで、捨てようかと思っていたシュウマイ弁当を
鞄から取り出すと、真理子の前に置いた。

目を輝かせながら「わかった、大人しく留守番しているから
夕食の時間までには帰ってきてね」と、真理子は
シュウマイ弁当に手を掛けると包み紙を解くのも
もどかしそうに嬉々として弁当に夢中になった。

そんな真理子を半分、馬鹿にしたように見下すと
北島サブロー並みの大きな鼻の穴をフンガ〜〜と
開き、勝魔は南青山に向かった。
318317:2011/09/03(土) 01:36:40.81
すいません。。。。

317のことは、無かったことにして下さい。

316さんの続きで、話を進めてください〜〜〜。。。
319名無し草:2011/09/03(土) 08:04:12.50
さくらは新幹線のホームに立ち、
今日顔を合わせるかも知れない花京院の両親と妹に自分がどう映るかを案じていた。

妙齢の美女が物憂げにしている様子はたいそう人目を引いた。
ちょっと可愛い子なら声をかける輩もいるだろうが、
圧倒する美しさの前では遠巻きにながめているのが凡人には精いっぱいの行動だった。

(この白いヴァレンティカのワンピースにジャケットで良かったかしら?)
襟と袖口にビジューの飾りが付いた手の込んだ衣装は日本に1点しか入らなかった物だ。

320名無し草:2011/09/03(土) 18:11:26.20
グリーン車の指定席に腰を落とすと
さくらは、ジャケットを脱いだ。

321名無し草:2011/09/03(土) 19:54:46.99
  ああ、イライラする。
 多中逝子は美容の敵と知りながらもやめられないたばこをふかしながら、なかなか来ぬ客を待っていた。
 午前中だけでも、チョン・タンソクという還流スターや、ア・キ・バ48の痛野求美のような初めての上客の予約を
断るということをしてしまった。
 もっとも、二人とも整形疑惑があるタレントである。
 逝子の象顔マッサージはリンパを流す為に顔の表面に強い力をかける。その力で鼻に入れたプロテーゼがずれたり、
薄く削られた顎骨が折れてしまったりしたら、賠償沙汰になる。
 チャンリ〜ン
 逝子のケータイにメールが届く、開けてみると、さくらからだった。
 「先生…いまから先生のところへ伺う真理子さんです」
 画像が添付されていた。
http://hayashi-mariko.kirei.biglobe.ne.jp/files/51/12/1009/20090909101251_1.jpg
 「……………画面に顔がおさまらないほど大顔なのね」
 逝子は商売道具を入れたバッグから桐の箱を取り出した。
「今までお客様には一度も使ったことのない私の新兵器…もとい新美顔器……『逝の軽石』…」
 中から火山のふもとで拾ったようなでこぼこの軽石が出てきた。
「これをこの人に使ってみようかしら…自分で試してみたら、顔が傷だらけになったけど
この人なら大丈夫よね」
322名無し草:2011/09/03(土) 19:56:31.47
512 名前: 東京都名無区

亡国ホテルのバイキング行ったけど、二度と行かね。もーやだ。

513 名前: 東京都名無区

えー、亡国バイキング、悪くないけど、どーして?

514 名前: 東京都名無区

クサヤ出してるんだか、変な匂いがして食欲出なかった。
あとさ、すげー勢いで食べる三国人っぽい人がいてゲンナリ。
323名無し草:2011/09/03(土) 20:13:33.27
525 名前: 東京都名無区

>>512

ぎゃお!!ビンゴ〜〜〜!!
もしかして、見た?あの運子(ゲラ)オバサン
動画撮ってた女いたよね 元祖アバズレ

526 名前: 東京都名無区

亡国って、オールド・コタニより質が落ちたと思う


527 名前: 東京都名無区

514だけど、あれはクサヤじゃなくて
葱が腐った匂いだったようにも思えてきた
当分、亡国には行く気しないな
324名無し草:2011/09/04(日) 09:26:21.85
京都駅で再開した二人はそのまま花京院の家へと向かった。
家に付くとさくらは『小さな応接間』と、この家では呼ばれている部屋へ案内された。
幾分小さめではあるが贅を尽くした設えの部屋は特別な客だけが通される。

照明を落とした部屋に入った瞬間、正面の壁に飾られたフジタの絵が目に入った。
独特な肌の色、日本画と西洋画の融合、繊細なラインで描かれた乙女。

しばらく絵に見入っているとノックの音と共に静かに扉が腹いた。

花京院はなぜこれ程までに彼女に惹かれるのかがようやく分かった。
ムラーノグラスのシャンデリアに照らされて振り向いたのはイヴだった。
絵とさくらが同化して1枚の完成された作品になっていた。


325名無し草:2011/09/04(日) 10:28:20.97
扉が腹いた起こした?
「開いた」でしょ?ちゃんと更生してよね。全く!
326名無し草:2011/09/04(日) 11:01:19.03
鬼島佳苗は腹の中でつぶやくと、薪の昇給を取り消した。
世辞の言い方を心得ているし、鬼島の命令にはよく従う。
しかし、所詮それだけの、薄っぺらいつまらぬ女だ。
喪男奴隷を従え、彼らを糧にして咲き誇るベストセラー作家に側仕えできるだけ、ありがたいと思え。
327名無し草:2011/09/04(日) 20:11:22.70
>>325
それを言うなら、×再開 ○再会もだね
かっかしないで楽しく読もうよ
328名無し草:2011/09/04(日) 20:15:06.25
>>325
> ちゃんと更生してよね。全く!

校正でしょ
329名無し草:2011/09/04(日) 20:40:26.40
 真理子の乗ったタクシーは案の定、渋滞にまきこまれていた。
 たいした距離は進んでいないのに、タクシーメーターの数字だけがパッパと増えていく。
「私ね〜最近、孫に教わってインターネットやってるんですよ〜」
 白髪の60代後半と思われるタクシーの運転手がのんきに真理子に話しかける。
「シコシコ動画とか見るんですよ…」
「はあ」
 シコシコ動画?よく勝魔が話す意味不明のワードの中にそれがあったような気がする。
「お客さん、どっかで見たような顔だなあ…」
 真理子はどきりとした。
「え?女優さんに似てるとか?」
「ごめんなあ、ちょっと思い出せないんだよ、とりあえずシコシコでシコシコで見たんだよ」
 財布の中の全財産がタクシーメーターの数字とそれほど差がなくなってきた。
 タクシーの運転手には乗車賃のほかにチップを渡す。真理子はいつも心の中で決めていた。
なので、あともう少しでこのタクシーを降車しなくてはならない。
「ごめんなさい、ここで」
 勘定をすませ、いらないと言い張るタクシーの運転手にジュース代程度のチップを握らせると
降りて歩き出した。
「えっと…ここからどうしていけばいいのかしら」
 真理子は大東京でおのぼりさんの迷子になってしまった。
330名無し草:2011/09/04(日) 22:25:37.95
(なんだんだ・・・あのブスの大女は。。。。)

タクシー運転手は、真理子から無理矢理押し付けられた
皺くちゃになったお札を伸ばしたり
汗でじっとり粘った硬貨を数えながら呟いた。

「あっ!!思い出した!!あの女・・・
確か婚活詐欺で捕まった女だ!!
いやいや、毒シチューで捕まった女だ!!
あ・・・違うよな・・・
両方とも、刑務所の中だし・・・・
じゃあ、あの女達の姉妹か、親戚か?
それにしても、よく似てる。。。
そうだ!シコシコだった・・・シコシコで見た
おぞましくも奇怪なホテルでの動画だった!!
げっ!!今度こそ、思い出したぞ!!
亡国ホテルのグロ画像だった。
世にも気持ちの悪い○ん○垂れ流し女だ!!」

運転手は、真理子から受け取った紙幣や硬貨を
気持ちの悪くなった客用のゲロゲロ袋に投げ入れると
改めて真理子が座っていた座席に目をやった。

そこには!!!
331名無し草:2011/09/04(日) 22:53:46.77
タクシー運転手は、後部座席に目をやり
目を疑った。

真っ白なシートには、ベッタリと大きな真っ赤なシミが付いていたのだ。

「まさか・・・あの女。。。生理だったのか?
信じられん・・・」
運転手は、ショックだった。

先月もノルマを達成できず、手取りは少なかった。
こんな汚い座席では、新たな客を拾うこともできない。

「なんて最悪な日なんだ」運転手はガックリと肩を落とした。
332名無し草:2011/09/04(日) 23:05:18.25
735 名前: 東京都名無区

すごいもの見ちゃった!
大きな相撲取りかと思うようなデブスが
経血つけたフレアースカートはいて歩いてた

736 名前: 東京都名無区

まじ?食べ物の染みの見間違いじゃ?

737 名前: 東京都名無区

・・・・ウチのじいちゃんが泣いてた原因は
そりか・・・
333名無し草:2011/09/04(日) 23:27:12.91
花京院が、さくらに見惚れていると
花京院の妹が、『小さな応接間』に、お茶を運んできた。

お茶を運ぶなど、この家の家政婦の仕事なのだが
花京院の妹は、将来の姉になるかもしれない女の値踏みと
品定めに来たのだ。

334名無し草:2011/09/04(日) 23:48:34.48
「ようこそ〜〜、座生 さくらはん。
私、芸能界のことには疎いんですねん、あまり興味おへんしぃ〜〜
ほいでも、お目もじできまして、嬉しいわぁ〜〜
ところで、さくらはん・・・今夜は、どこにお泊りに
なりやすのぉ〜〜〜?」
花京院の妹の問いかけに
「榎家旅館に予約を入れてございます」
さくらは答えた。
335名無し草:2011/09/05(月) 00:11:29.54
どうでもいいけど京都弁ひどすぎww
336名無し草:2011/09/05(月) 00:26:41.79
>>335

すんまへん〜〜

京都弁直しておくれやすぅ〜〜〜

337名無し草:2011/09/05(月) 01:01:01.00
「おいおい、何やその変な京都弁。さくらさんがびっくりしてるやろ。」
花京院は妹をたしなめた。
妹はてへっと舌を出して肩をすくめ、
「さくらさん、ごめんなさい。本気にした?
こんな変な喋り方すんのは、テレビの中だけやでえ。椛島奈緒美とか〜。
ぶぶ漬けなんかも出ませんから、ゆっくりしてってくださいね。」と言うと、
兄に向かって意味深な目配せをして、部屋から出て行った。
338名無し草:2011/09/05(月) 01:09:35.96
スポットCMはいります!
>>336
楽しめる参考文献:
柏木圭一郎作、京都舞台の「名探偵・星井裕の事件簿シリーズ」
などいかがでしょう。
京都事情の解説や老舗名のもじりもございます。
339名無し草:2011/09/05(月) 02:39:54.85
「気を悪くした?」
花京院は、さくらをいたわる様に、そっと肩を抱き寄せ
優しい眼差しで訊いた。

「・・・いいえ・・・私が、花京院さんの妹なら
同じようにお茶目な悪戯を連れてきた女性にしてしまうかも・・・」
チロッと、可愛い舌を出しなが、さくらは
花京院の胸に顔を埋めた。
340名無し草:2011/09/05(月) 03:06:20.61
その頃、真理子は勝魔が山梨から持ってきてくれた
白いフレアースカートの腰の辺りに汚れたシミがついているのに
気付かず、ウロウロと北青山を歩き回っていた。

道行く人は、皆一様にギョッと目をむき
若い女性は顔を赤らめ、年配の女性は顔を顰め、
殆どの男性は目を背けた。

真理子は、またもや
「みんな、私の姿を羨望の眼差しで見てるのね・・
うふふふ・・・あの若いサラリーマンなんて、恥かしそうに
俯いちゃって・・・私って、罪な女よね〜〜〜」
と、大きな誤解をしながらルンルンと鼻歌しながらスキップした。
341名無し草:2011/09/05(月) 05:39:55.99
オープンエアーのトラットリアでホラー作家の祝井シマコと一緒にパスタをつついていた伸長社の
編集長泣瀬はいきなり目の前に現れた凶女を見て悲鳴をあげた。
 祝井もぼっけえ〜きょうてえ〜と言いながら写メに収め、年下の韓国人の夫に「すごいニダ〜見るニダよ〜」
とメールを送った。
342名無し草:2011/09/05(月) 06:29:33.35
さぁ、エステの時間も迫った。場所もすぐそこだ。
ずかずかと道を進む途中、真理子は立ち止まった。
あら、ここ有名な鯛焼き屋さんじゃないのぉ。しかも並んでないワ。
時計に目をやりつつも通り過ぎることはできないのである。

「こしあん、カスタード、あと金時芋あん、それと限定のずんだあんくださる」?
甘い匂いがぷーんとする。紙袋に包んでもらい、食べながら歩きだした。
鯛焼き4匹を飲み込むように口に押し込んだあたりでちょうど多中のマンションに着いた。

インターホンが鳴り「はい」と対応すると、逝子の部屋のモニターには
画面いっぱい、いや画面をはみ出した真理子が映し出された。
うわ、ブス!思わず口に出たのをビジネススマイルで押し殺し、
「お待ちしておりました。最上階へどうぞ」とオートロックを解除した。
343名無し草:2011/09/05(月) 16:22:51.63
マウンテンバイクでもなく、オートバイも無かった勝魔はやむなく徒歩で出掛けることにした。
骨折り損はもう結構。人間の2本の足、そう徒歩が一番コスパが良いもの。
しかし、ものの5分も行かぬうち、
バッグに入れた小汚い大学ノートから立ち上がる臭いに眩暈がしてきた。
ぷ〜んとする臭いにも鼻が慣れるのかもしれないが、あいにく勝魔の鼻の穴は大きすぎた。
口の中まで腐る様だった。
つまみにくいフンガー鼻をハンカチで押え、歩き続ける。
オープンテラスを通り過ぎると、やたら濃い女達の視線を感じたが、
それは気のせいだったろうか。
南青山辺りにやってきた勝魔はヨククウモックンで珈琲とシンガアールで休憩することにした。
腰かけて、ふと周りを見ると、編集者らしき男達が医療情報らしきコピーや写真を前に
額を突き合わせるようにして何か打ち合わせをしている。
あれは伸長社? 厳冬舎? 
勝魔はバッグの中の、シミだらけ、妄想だらけ、眼に☆入り美人マンガまで描かれた
醜悪だけど、なぜか宝の山に見えてきた古びたノートを大事に撫でるように掴んだ。
しかし、この臭い、どうしたものだろうか?
それともこれはチャンスなのだろうか?
344名無し草:2011/09/05(月) 20:25:30.31
鬼島佳苗の苛立ちは頂点に昇りつつあった。
東條はいったい何をしているのかしら?!
またどこかで色気づいているのなら許せない。
誰かの色事に巻き込まれているなら承知しないわ。
本筋はこっちなんだからねっ!
あの山梨僻地のセレブり女の日記を手に入れろと何度もせっついているのに…。
精査した資料がないと、小説にリアリティに欠けて陳腐になってしまうんだから。
これには私の作家生命がかかっているのよ。
東條は解っているの? もぉ〜、背尾君の方が信頼できたかもしれない。
抜け目ない誰かが眼をつけて、あのあばら家から盗んでいるかもしれない。
佳苗の白いブラウスは怒りでハルクのシャツの様に破ける寸前であった。
345名無し草:2011/09/05(月) 20:28:48.48
小説にリアリティに欠けて

小説にリアリティが欠けて
 by 薪のアシスタント
346名無し草:2011/09/06(火) 17:46:14.56
真理子はのっしのっしとマンションのエレベーターに乗り込み、
前にいた若い女性とぶつかりそうになった。
女性は怯えたように「アッ・・・すみません」と謝り、後ずさりした。
しかし狭いエレベーターの中のこととて、無愛想に振舞うわけにはいくまい。

真理子は口に頬張っていた鯛焼きを指差し、
「これは鯛焼きというお菓子です。中にあんこが入ってるんですよ。」
と上から目線で教えてあげた。
しかし若い女性はさらに後ずさりし、エレベーターの壁に背をつけ唖然としている。
(最近の若い子はファッションやダイエットばかり気にして、ものを知らないのねん。
私が若い頃はあんみつ屋へ通ったり色々な甘いものを食べまくったものだわ。)

347名無し草:2011/09/06(火) 17:54:07.16
不機嫌にむがむがしていると、鯛焼きの食べかすがこぼれて
エレベーターの床や真理子のジャケットを汚してしまった。
(どうせエステしてもらってる間はジャケットを脱ぐんだから、
食べかすがついていても別に構わないわね。)

エレベーターの壁に取り付けられている鏡を見ると、
ジャケットの右襟が内側へ折れ曲がってしまっている。
(これがアシメントリーというものだわ。知的な美女にはモード系ファッションがふさわしいわん。)

真理子は鏡の中の自分の顔(鯛焼きを頬張っている)から目をそむけ
「おしゃれの店 ブティックサンダー」のジャケットにウットリした。
348名無し草:2011/09/06(火) 19:27:33.02
鏡の前で、真理子は「そうだ!私、子供の頃
バレリーナになりたくて、バレーを習っていたのよ。
真っ白なスカートの私・・・まるで、白鳥みたい・・・
白鳥の湖でも踊っちゃおうかしら・・・」
思い立つと、自然に体が動く真理子は
ル〜〜ラ〜〜ラ、ル〜〜ラ〜〜ラ、ル〜〜〜ルル〜〜〜♪
と、片足をばたつかせ手を振り上げ
白鳥になりきってクルクル爪先立ちながら踊った。

エレベーターの片隅に追いやられた若い女性は
床にうずくまり泣き出していた。
349名無し草:2011/09/06(火) 19:39:49.78
クルクル回る真理子は、鏡を見ながら
「あれ?何?」と、ゴムのスカートをグルッと回すと
「やだっ!私ったらぁ〜〜〜・・・
アレが始まってたのね。全然、気付かなかった。
まっ、いっかぁ〜〜〜。」と、バッグから口紅を取り出すと
スカートに口紅で適当に○を描き、塗りつぶし始めた。

「これで、水玉模様のようで、わかんないわ。
私って、頭いい〜〜〜」口紅を振り回しながら
真理子はにっこり微笑んだ。

350名無し草:2011/09/06(火) 21:26:44.34
真理子は「そうそう、思い出したわ」と恐怖のあまり声も立てることが
出来ず、ただうずくまって涙を流す女性に、クルクル回りながらなおも
まくし立てた。
「甘いものは脳にきくわよねっ、思い出したわ、私甘味処でアルバイト
していたことがあるのよ。あんこの缶詰で、粒あんがみっちり入った
お汁粉だって作れるんだから。白衣なんて着ずに毎日大鍋いっぱいの
お汁粉を作っていたんだけど、何故か売れ残っちゃうから、アルバイト
とはいえ責任感の強い女の私が全部食べてあげてたのよ。それなのに
営業不振でやめて欲しいだなんて本当に失礼な店だったわ。」
351名無し草:2011/09/06(火) 21:56:11.35
若い女性は、ヒックヒック・・・・と、しゃくりを上げながら
「あ、あ、あのぉ〜〜・・・降ろして下さい・・・
こ、この・・・エレベーターから、降ろして下さい・・・」と
真理子に懇願した。

「だめよ!!」ピシャリと真理子は言った。

352名無し草:2011/09/06(火) 22:11:41.58
逝子はいつもジャケットを中途半端に腕まくりしているのだが、
モニターに映し出された真理子を見て、もう一まくりして、呼吸を
整えた。明日はオフだから良かったわ。あのジュンサイを採るための
たらいみたいな顔をマッサージしたらさすがの私も筋肉痛になりそう。
それにしても遅いわね。エレベーターが重量オーバーで緊急停止したの
かしら、うちのイスもあの体重支えられるかしら。
そんなことを考えつつも、てきぱきと象顔用クリームやめったに使わない
特大サイズのタオルを準備していた。
353名無し草:2011/09/07(水) 00:51:19.94
真理子は、怯えて泣いている若い娘に
「あなたは、私を誰だと思ってるの?
私の父は銀行家で、母は教師だったのよ。
今は、母が経営していた会社を任されている
実業家なの。片手間に、本も執筆しているのよ。
この選ばれた特権階級に生れ落ちた私の美貌を維持する為に
今から、多中逝子の象顔マッサージを受けに行くのよ。
セレブにしか受けられない施術を
こんな機会は滅多にないから、あなたにも見せてあげるわ。
付いていらっしゃい」と言った。

354名無し草:2011/09/07(水) 03:39:11.35
エレベーターのドアが開いた。
そのか弱そうな若い女は転がるように飛び出し、ドアは閉まる。
「何よ、今時のコは上昇思考ってのがないのね。
女なら絶対にセレブの仲間入りをしたいに決まってるのに。
今に後悔すればいいんだわ。」

最上階フロアに着いた真理子は、多中の部屋のベルを鳴らした。
「お待ちしておりました。林様。」
黒いハットとジャケット、薄いサングラスをかけた女が出迎える。
やっぱり東京は凄い。私は居る場所を間違えていただけ。
東京にさえ来れば、この生活ができる運命なのよ。

期待に興奮する真理子とこの大仕事に身構えする逝子。
二人の闘いが始まるゴングが鳴った。
355名無し草:2011/09/07(水) 08:53:59.54
某オカルト板

1:本当にあった怖い名無し
今日、都内の高級タワーマンションでこわい目にあった。今でも現実か悪夢か混乱してる

2:本当にあった怖い名無し
まず話してみて

3:本当にあった怖い名無し
2ゲット

4:本当にあった怖い名無し
友人宅に行こうとエレベーター乗ったら、大柄のおばさんも乗ってきて
血まみれのスカートで踊り出して、口の中見せながら(緑色だった)
お前も連れて行ってやるとか言われた。
本当に怖くてドアが開いた瞬間転びながら逃げた。
こけてストッキング破れるし、泣いて化粧は落ちるし、今は友人が一緒にいてくれてる。

5:本当にあった怖い名無し
釣りなら今のうちに白状しろよ

356名無し草:2011/09/07(水) 09:34:22.06
6:本当にあった怖い名無し
その高級マンションって、御塩先生で有名になったとこじゃない?

7:本当にあった怖い名無し
ちょww

8:本当にあった怖い名無し
>>1が幻覚見たのか、そのおばさんがラリってたのか、両方か、
そんなところだろうね。
スレチっていうか板違い。
357名無し草:2011/09/07(水) 11:59:58.47
勝魔はともかく落ち着いて珈琲を飲もうと、
そのノートをバッグの底に押し込み、臭わぬよう口をきっちりと閉めた。
真理子の、喉の奥まで見せたカバの様に口を開けたバッグなんて有り得ない。
あのパねぇダラはどこからくるんだ?…いけない!
「勝魔、きっと3ちゃんねるを見てるお」と忌み嫌ってるネラーに叩かれそうだ。

編集者達のヒソヒソ声がかすかに聞こえてきた。
耳の穴は鼻ほど開いてはいないが集音には長けている。
「まいりましたねぇ…」
「あれ、どれなん?つってアドレナリンも間違えるし、
言ってもすぐ忘れるんすよ。もうそろそろキテるんすかね。
ウィリスはブルースですよ。こっちはウィルスだってのに。
誤字も脱字もファイルなら修正も楽なのにさ。
汚い染みのついた殴り書きの原稿用紙だからねぇ。」
「テニヲハも怪しいし、化学記号はブランドロゴ扱いだな。」
「『イケメンどデイト』だけは間違えないよね。
俺達もデートの相手になってたりするんだわ…
お前も、そのへちゃむくれ顔でイケメンだとさ」
「笑えてきた〜!これ、オンじゃないよな?」

彼等は誰の話をしているのだろう…思いあたるような作家はいたっけ。
勝魔はもう臭いをものともせず、再びノートを取り出した。
扱いやすいバッグだ。すぐ股を開く、いや蓋を開けられる。
さて、このノートを読み直してみよう。特ネタがあるかもしれない。
きっとどこかの物好きに売り付けることができるに違いない。
358名無し草:2011/09/07(水) 19:49:46.32
12:本当にあった怖い名無し

なんかさ、今年ちょっとここでも話題になった「鮫島駅」の話と似てるよな

15:本当にあった怖い名無し

>>12 ちょ、おまwwwwww 「鮫島駅」のことはここでは禁句だぞw

16:本当にあった怖い名無し

タワーマンソンだったら、エレベーターにデフォでカメラがついてるはず。
おい、警備会社に勤めてるヤシいねーか?

19:本当にあった怖い名無し

自宅警備員しかいねーだろ。
こうやって都市伝説が生まれるんだろうなあ、「白いメリーさん」とか「トイレの
花子」さんとか

20:本当にあった怖い名無し
「エレベーターのマリーさん」?

25:本当にあった怖い名無し

>>20 いいね、それ。
359名無し草:2011/09/08(木) 00:20:38.63
** 読者の声のコーナー **

いつも楽しくお話を読ませていただいております。
かなりの長編になりそうですね。

登場人物も多く、それぞれの人物が個性豊かに描かれ
お話を盛り上げられて、とても面白いです。

花京院とさくらは、結婚するのでしょうか?
東條は、真理子と何処かで再び巡り会うのでしょうか?
鬼島先生は、直木賞を取るのかな?
癌田ウソの赤ちゃんは、男なのか、女なのか?
椛島奈緒美とその旦那は、花京院のお茶会で
さくらと渡辺ずんいちを前に、どんなリアクションするのかな?
などと、色々想像するだけでワクワクしちゃいます。
リレー小説を書いてる奥様達、これからも
頑張って下さいね。応援しています。

   東京都 可愛い奥様より
360名無し草:2011/09/08(木) 05:42:00.56
(顔がでかい…でかすぎる。しかも骨太っ!)
 逝子は心の中で叫んだ。
(とうとう象顔マッサージのしがいのある女が現れたわ)
「どうぞここにおかけくださいね」
 
 真理子の顔に軽くタオルをあてた後、秘密兵器「逝の軽石」で
逝子はゆっくりとマッサージをし始めた。
(う…うわあああああああああ)
 自分で試したときは顔が傷だらけになった「逝の軽石」で真理子の顔を
軽くなぞると、取れる取れる長年の垢。
(韓国の垢すり女になったみたいだわ)
 やがて顔だけで、グレープフルーツほどの大きさの垢の塊ができた。
 気持ち良いらしく、真理子は口をあけて眠っている。

 だが、なんということだろう、こんなに大きな垢がとれたにもかかわらず
顔の大きさはまったく変わっていないのだ。
(なぜ?なぜ?アンビリーバブル!)
 逝子の心の叫びは続いていた。
361名無し草:2011/09/08(木) 08:08:45.12
(人間じゃないわ・・・人間になれなかったクリーチャーなのね・・・)
逝子はバケモノを見るような目つきで真理子の寝顔をおずおずと眺めた。

その不穏な空気を動物的勘で察知した真理子は、パッチリと目を開いた。
「ヒィッ・・・・・・!!!」思わず後ずさりする逝子。
真理子は逝子の表情から、蔑みと嫌悪を読み取った。
見かけによらず繊細で傷つきやすい真理子は、そういう反応に耐えられずまくしたてた。

「あら、そんなにたくさん垢が取れたんですね。スゴイわん。
さぞかし私の顔は小さくなったことでしょう。嬉しい♪
最近は地球温暖化とかいう問題で、大気中のH2Oが増えてしまって
その汚れが皮膚についてしまったんだと思うんですよ。」
362名無し草:2011/09/08(木) 08:18:55.45
「・・・ハァ?H20が地球温暖化に関係あるんですか?」
美容に関係あることなら知識を仕入れねばならない逝子は、
この大女が唱える説に興味を抱いた。

(まあこの人ったら、いい大人の癖に全然ものを知らないのねん。
知識人の家庭に育った私が教えてあげなくては。)
真理子は逝子に対して優越感をおぼえ、大きな顔に大量の垢を貯めていた恥ずかしさを忘れた。
「実は私、顔が大きいのがコンプレックスだったんです。
顔が小さくなってあと少しだけ痩せさえすれば、きっと男性にモテモテで
ファム・メタールとして一世を風靡することができたと思うんですよ。」

「・・・ファム・メタールですか・・・どういう意味でしょうか・・・」
文脈からして美女という感じかしら、と逝子はうろたえた。

(まあこの人ったら外国語やカタカナ言葉に弱いのね。ファム・メタールも知らないなんて。)
真理子はさらに優越感に浸り、上から目線で逝子を気の毒に思った。
美容界の第一線で活躍しながら、こんな簡単な言葉も知らないなんて。
363名無し草:2011/09/08(木) 20:09:46.33
逝子は思った。
それにしても座生さくらとこの化け物とは、一体どういう関係なんだろう。
彼女ほどの小顔なら、こんな化け物を引き立て役にする必要もないだろうに。
H2Oやファム・メタールとやらに、その秘密があるのだろうか?
ならば、その秘密を聞きだすまでは、この化け物の機嫌を損ねないようにしなければ。
ああ、腕が痛い。一升餅どころか、一斗餅を捏ねているようだわ!
なのに全然小さくならないなんて……orz
この巨顔は、マンゴー鈴本のようにはならないわね。
まあいいわ、施術前と施術後の写真をちょこちょこっと加工して見せることにしましょう。
あとは絶賛しまくれば、なんとかなるわw
364名無し草:2011/09/08(木) 21:27:27.83
30:本当にあった怖い名し

タワマンって、象顔マッサージの自宅サロンの?
だったら、>>1はマジで板違い。でも災難だったね。

エレベーター乗ったら生臭い臭いと(女子ならわかるっしょ?)なんかホームレスみたいな変な臭い、おっさんを煮染めたような悪臭と、焼きたての今川焼きの匂いがまざってカオスww
365名無し草:2011/09/08(木) 23:06:12.50
逝子は、汚れたマンホール大の餅のマッサージをしながら、今日もう一人
初めてのお客の予約を入れてたんだわ、と思い出した。
朴島十椀子。セレブから転落して消えるかと思ったけど、美貌を武器に
貧乏なひょっとこ一家を養うなかなかの凄腕女性よね。雑誌にも
よく出ている。
彼女の顔なら元々小さくて整ってるし、そう力はいらないわね、
でもいじっちゃいけない箇所とか聞いておかないと、彼女のように
顔が商売道具だと、ちょっとでも不具合が生じて、訴訟沙汰にでも
なったら困るわ。
彼女のように美容のプロ意識の高い人に、いい加減なことは出来ない。

その点、この汚れたマンホール大の餅なら肉体的に疲れるけれど、
繊細さは求められない。脂肪の奥のリンパ腺らしきところに溜まりに
溜まった毒素を流し、あまりに疲れてくると、頬をきゅううううと
つねってやる。
「あら先生痛いわ」
「あなたのリンパはこの奥にあるんですよ。痛いのは毒素が動いて
流れ出している証拠よ、よかったわね。」
「顔も身体を同じく運動したがっているってことよねっ!」
「ええ、ええ、痛いのは美しくなるステップよ。」
そう言いながら、自分の気分で頬をきゅううううとつねってみる
年の割りにお茶目な逝子であった。
366名無し草:2011/09/08(木) 23:21:15.78
逝子は力をこめて巨大な顔をマッサージした。しかしどんなに全体重をかけようともビクともしない。
正直、インチキに施術しても顔を触った刺激で多少は血流が良くなり、
浮腫が取れて顔色も良くなるものだ。普通の人ならば。

訳のわからない講釈を話してした女は、今度はイビキをかいて眠っている。
心底嫌気がさした逝子はマッサージする手を止め、サロン用の部屋を一旦出る。
煙草を吸い、大きなため息をつき気分を切り替えた。

もう化粧でごまかそう。寝ている間が勝負だ。
すべての化粧品を通常の二倍、いや三倍は使っただろうか。
輪郭のシャドウは五倍は消耗しただろう。

「さぁ、林様。できましたよ。鏡でご覧ください。」
367名無し草:2011/09/08(木) 23:22:21.15
「逝子先生、今日初めてお会いして施術していただいて
こんな打ち明け話して良いのかしらんと思うのですが」
顔も態度も大きめな真理子にしては控えめな申し出である。
「エッどうしたの?」逝子は戸惑いつつ尋ねた。

「実は、知り合ったばかりの男性から携帯番号を書いたメモを渡されて、
デイトと申し込まれたんです。どうしたらよいのかしらん?
私は堅実な家庭に育って、父は銀行家で母は女学校教師でしたの・・・
そういうお誘いにアッサリ乗るような軽い女じゃありませんし、・・・」
368名無し草:2011/09/08(木) 23:28:09.24
逝子は思わすのけぞるような驚きをおぼえた。
こんなに人間離れしたデブスに男がデイトを申し込むとは、
なんと世界ビックリショーであることか。
しかもこのクリーチャーの不潔で身だしなみの整っていないこちといったら
どうだろう。
それでもデイトしたがる男性がいるとは・・・

このクリーチャーに男を惹き付ける魅力があるならば、
なんとしてでも解き明かして美容の秘術として活かしたい。
逝子のプロフェッショナルな意欲が目覚めた。
369名無し草:2011/09/09(金) 07:29:27.53
 祝井シマコ、新作はホラー、直木賞候補に向け意欲的(yahhoo!ニュース)

 最近、文学賞から遠ざかっていた祝井先生が再び賞獲得に向けて意欲的に動き出した。
「先日すごいものを見た。白いフレアスカートに経血をつけ、鼻歌を歌いながら北青山の道を
スキップしてゆく中年の狂女を。歌舞伎町に住んでるから変なのは見慣れているけど、こんな堅気
な街で昼間から見る狂女ってある意味衝撃だよ。インスパイヤされたよ。あのフクロツルタケ(白い猛毒キノコ)
のようなスカートの女が出てくる新都市伝説のホラーを書くことにした。賞?もちろん取りたいよ。
ケチなホラーの賞じゃなくてさ、ここはどーんと直木賞!年下の韓国人旦那に自慢したいしさ」(祝井談)
 祝井先生は本気のようだ。

 そのニュースをチェックし終えた薪は心の中で叫んだ
(佳苗センセイの強力なライバル登場…………面白くなってきたわ…)
 薪はブラックホールバックスのラテのグランデサイズを一気飲みし、ほくそ笑んだ。
370名無し草:2011/09/09(金) 08:44:31.39
祝井シマコが、呪井シマコに見えたよ〜〜(*^o^*)
371名無し草:2011/09/09(金) 11:54:05.70
「真理子さん、私、正直いって長い間この仕事やっていますけど、美人には飽き飽きしているの。
美人は何やっても美人なんだもの。やりがいに欠けるのよね。
それに最近の有名人はみんな整形してるので、私のマッサージを受けられない人も増えてきているのよ」

逝子は続けた

「どうかしら、聞けばお住まいは山梨だそうだけど、東京へ来た時は電話を下されば
優先的に施術させていただくわ。さくらさんのお友達ですし、お代は結構よ。
そのかわり、ビフォアフターの写真を撮らせてもらっていいかしら。
これからは、あなたのような人たちに宣伝したいのよ。絶望するにはまだ早いってね」

夢のような申し出であった。
カリスマエステティシャンでなかなか予約のとれないマッサージを優先的に受けられるのだ。
しかも、自分が磨けば光る宝石であると言ってくれているのだ。
372名無し草:2011/09/09(金) 13:09:18.96
逝子は思った。
最近の若い子の顔の小ささといったらどうだろう。
生まれついての小顔美人なんて、施術したところで効果は小さい。
しかも彼女達は移り気で、すぐに新しい美容法に飛び付き乗り換える。
私の商売もいつまで続けられるか分からないから、今のうちに何か新しいことを始めないと。
とは言え、あんな一斗餅のような巨顔は私一人の手には負えないわ、どうしましょう。
餅は餅屋、そういえば椛島奈緒美の夫が和菓子職人だったわね。
カリスマ和菓子職人ともなれば、自ら力仕事なんかすることも少ないかもしれないけれど、スタッフなら大鍋で材料を仕込んだりするはずよね。
体力はあるけど才能はなくて持て余してる、そんなのお弟子さんがいたら寄こしてもらえないか、今度聞いてみようっと。
あの巨顔女、口のまわりに餡子をつけながら来たところを見ると、和菓子好きに違いない。
っていうか、あの体形はただの無節操な大喰いかもね。
あら嫌だ、施術台がミシミシ鳴ってると思ったら、土台にヒビが入っているわ!
特注でもっと頑丈なのを用意しないとね。そうそう、抗菌抗臭加工もしてもらわないといけないわ。
373名無し草:2011/09/09(金) 14:00:49.10
真理子は鏡に見入った。
逝子によって濃いメイクをほどこされた顔は、まるで別人のようであった。
「わたしって本当は美人なのよね。目だって大きいし。
やっぱり環境って大事だわ。
山梨の店は畳んで、もう一度東京に出てこよう。
東京に新しい友達が何人も出来たことだし、きっと何とかなるはずよ。ふふふ」
真理子が微笑むと、パリンッと音を立てて鏡が割れた。
逝子は慌てて
「林様、申し訳ございません、お怪我はございませんでしたか!」と叫んで駆け寄った。
真理子は言った。
「鏡が私の美しさにビックリしたようですね。
でも大丈夫、怪我はありませんわ。ただ、ちょっと…お腹が空いたかしらん」
374名無し草:2011/09/09(金) 15:31:43.24
逝子は噴き出しそうになるのをこらえながら、
「本当に失礼いたしました。お詫びと言ってはなんですが、
この近くにおいしいパスタとケーキのお店がありますので、ご紹介しますわ。
申し訳ないのですが、もうすぐ次のお客様が来られますので、
私はご一緒できないんです。
でもお店はこのマンションの向かいですので、すぐに分かるはずですわ。
お店には連絡しておきますので、遠慮なく好きなものを召し上がってくださいね。」と言った。
食べ物と聞いて真理子が跳ねるように立ち上がると、高層タワーマンションがわずかに揺れた。
そこで初めて逝子は真理子のスカートに気が付いた。
「なんてこと!悪趣味な水玉模様だと思っていたら、経血のシミじゃない!
こんな格好で外に出すわけには行かないわ」
と心の中で悲鳴をあげながら物置にしている小部屋に駆け込むと、
大きなガウンが目に付いた。
これは以前に知り合いが某有名日本人大リーガーを紹介してやると言ったので、舞い上がって用意した物だったが、
結局その知り合いはいい加減なヤツで、その話は口からの出まかせであった。
逝子はそのことを思い出して苦々しい気分になった。
ガジラ竹井がツルピカ肌で小顔のイケメンになったら、かえって魅力半減かもしれないわね。
人間、顔も大事だけど中味はもっと大事だわ。
あの林という女、ちょっと変っているけど、外見を磨けば、それにつれて自然と洗練されて中味も良くなっていくんじゃないかしら?
そんなことを考えながら、逝子はガウンを持って真理子のところへ行った。
「林様、外は風が出てきたようです。これを羽織って行かれてはいかがですか?
これはガウンではなくガウン風のコートで、これをお召しになってサングラスでもかければ、お背が高くていらっしゃるから、
女優さんのように見えますわよ」と言いながら着せ掛けた。
逝子は心の中で祈った。「お願いだからガウンを脱がないでー。」
375名無し草:2011/09/09(金) 21:03:44.95
真理子は、逝子にガウンを着せてもらえながら
鷹揚に頷いた。

「そうね、私ってば、上背があるでしょ?おまけに、目も
日本人離れしているほど大きいし、足も日本人にしては珍しく
甲高で、ハイヒールを履くと脹脛がスッと伸びて、美しいったら
ないのよ。あなた、私の本当に美しさによく気づいたわね。
褒めてあげますわよ。おっほほほほほほ・・・・」
真理子は、先日会った、女優椛島奈緒美になった気分だった。

いや、椛島奈緒美なんてお呼びじゃない、
私は、ヅカの男役を前代未聞の速さで勝ち取り
ヅカ退団後は、美貌と知性と演技力で引っ張りだこの
奄美幽鬼に勝るとも劣らない美女の中の美女なのよ。。。

真理子の妄想は、膨らむばかりであった。

フンガ〜〜フンガ〜〜と、鼻息荒く
自己陶酔に耽っている真理子を
逝子は、改めて珍獣と思うしかなかった。
376名無し草:2011/09/09(金) 21:15:09.20
美容整形外科の低須クリニック院長低須かつやは、包茎、巨乳手術の手を休め昼食時にyoutubeをクリックした。
祝井シマコから送られた動画に釘付けになり即座にメールした。
「しまんこちゃん!この巨体の人、メス入れて何とかしたいよん」

祝井シマコは漫画家東原理恵子に電話を入れた。
「かっちゃんと私で面白物件見つけたわ。とにかく歌舞伎町会議どうよ?」
東原は震災後、福島へ漫画家軍団を束ねサイン会と子供向けBBQボランティアから帰ってきたばかりだった。
「いやー、しまんこちゃん。今日は疲れたわ。」
「あら、酒が足りなかった?りえ蔵は出版社ぶいぶい言わせて子供受け漫画持参したでしょ」
「かっちゃんが風呂も寄付したんだけどね、めちゃ臭い自己満足ボラ婆に現地が困ってるのよ」
377名無し草:2011/09/09(金) 21:32:08.05
*3ちゃんねる  (文芸・書籍サロン)

☆☆祝井シマコ先生に直木賞あげたい人、集まれ!その2☆☆

663 名前:この名無しがすごい! :2011/09/09(金)

ヤフーニュース見た?
我らが祝井シマコ先生、直木賞獲りに意欲的だね〜〜。イエ〜〜イ♪

664 名前:この名無しがすごい! :2011/09/09(金)

もしかして、祝井センセが歌舞伎町でみた狂女は
オイラが亡国ホテルで見たデブと同一??


665 名前:この名無しがすごい! :2011/09/09(金)

>>664

おい!祝井センセに、亡国のデブの話を教えてやれよ
直木賞に更に一歩近づくかもよ

666名前:664 :2011/09/09(金)

>>665

了解!!早速、祝井センセの事務所にメールするよ
378名無し草:2011/09/09(金) 22:56:32.92
真理子は逝子の部屋を出てエレベーターに乗った。
とたんに腹が鳴る。
何か食べる物はないかしら、とバッグの底をガサガサとかき回すと、サングラスが出てきた。
「あら、ずっと探していたサングラスが、こんなところにあったわw」
エレベーター内の鏡に自分の姿を映し、ポーズを決めようとしたところで1階に着いてしまった。
着くのがもう少し遅かったら、この鏡も粉々に砕け散っていたことであろう。
真理子はルンルンした足取りでエレベーターから降りた。
タワマンがまた揺れたが、そんなこと真理子は知る由もない。
外には黒塗りの車が停まっていて、男性がひとり人待ち顔で立っていた。
「そうだわ、あの車の前で写真を撮ったら、本物のセレブに見えるわ。
ついでにあの幸運な男性も、一緒に撮ってあげましょう」
真理子はガードマンに駆け寄ると携帯を押し付け、男性の隣に並んだ。
ガードマンはこの世の物とは思えない超弩級の迫力に後ずさりしそうになりながら、
震える手でシャッターを押した。
寝不足でぼんやりしていた男性は、訳が分からないままに写真を撮られてしまった。
真理子は機嫌よく携帯を受け取ると、勝魔にメールした。
ttp://hayashi-mariko.kirei.biglobe.ne.jp/files/43/07/1010/20100210100743_0.jpg
「女優さんを気取ってみました、ぱちり」
もっと色々と自慢したかったが、太い指ではこれだけ書くのが精一杯で、とにかく空腹に耐えられなかった。
379名無し草:2011/09/10(土) 01:04:31.98
逝子はため息をついた。
なんて肉厚な顔なの!リンパが、リンパ腺がどこにあるか分からない!!
が、前に見た「プロジェクトX 海底3000メートルの大捜索〜HUロケットエンジンを探し出せ〜」
を思い出し、自分自身を励ました。
大丈夫、リンパ腺はきっと見つかるはずだわ。
380名無し草:2011/09/10(土) 02:01:49.94
勝魔は意を決して、編集会議風の男たちに話し掛けた。
「あの、お話し中に突然失礼したします。
わたくし勝魔と申しまして山梨で塾を経営しております。
大変失礼ながら、そちら様のお話しが耳に届いて参りまして
もしかして出版関係のお仕事の方ですか?」

「はぁ、そうですが。何かご用でしょうか。」怪訝そうに答える男たちにひるまず勝魔は続ける。
「実はどうしても小説の題材にしてもらいたい人物がいまして…。
このノートご覧いただけます?田舎の小さい本屋の女主人の日記と夢物語なんですよ。
これを書いた女が変わり者で、小説になったら面白いと思うんです。
一度お話しする機会だけでも取り持っていただけませんか?」
381名無し草:2011/09/10(土) 02:16:10.08
相手が相槌をうつ間もなく、勝魔は喋り倒した。
男の片方はペラペラとページをめくるだけで、興味がなさそうだ。
しかし、もう一人の方は食い入るように読み出している。こちらの男ターゲットを絞ろう。
「さっき、その女から写真つきでメールが来たんですよ。
ご覧いただけます?」

先ほど送られてきた、ガウンとサングラス姿の画像を見せた。
「ちなみに、この方の名前は何ておっしゃるんですか?」その問いかけに
「林まり…」勝魔が言い終わる前にその男は立ち上がり握手を求めてきた。
「ぜひ、うちの先生の小説の題材にお願いしたい。詳しい話を進めませんか?」

あぁ、よかった。世の中には女神がいるんだ。いや大仏か?
勝魔の大きな鼻の穴を見つめながら男は胸を撫で下ろした。
東篠である。
382名無し草:2011/09/10(土) 06:56:43.06
しまんこちゃんの「ヤル気スイッチ」は男とハメる為だけににあると私は思っていた。
ところが、あの北青山の白い経血スカートの狂女がしまんこちゃんの小説家として
の「やる気スイッチ」を押してしまった。
「酒飲もうよ」と院長と私が誘っても
「ごめん、今はダメなの」とか言って家にこもっている。
 しまんこちゃんのライバルは、次回直木賞を取れるかもと言われている鬼島佳苗だ。
「婚活だあ、料理だあ、つまんないことを書きやがって、私の漁場をあさるんじゃないよ!」
としまんこちゃんはメールを送ってくる、もちろん若いダーリンのヌード画像付である。
自宅でえっちしてるか、小説かいてんのか、どっちかわからないのw
(東原理恵子 談)
383名無し草:2011/09/10(土) 10:18:36.71
真理子が立ち去った後も高層タワーマンションではぶきみな揺れが続いていた。
最新の免振システムの基部に亀裂が生じたのである。
特殊ゴムは1センチ平方辺り500tの荷重に耐えられるはずであった。
384名無し草:2011/09/10(土) 10:27:42.85
逝子は真理子の食欲を侮っていた。
亡国ホテルのバイキングレストランで大皿ごとケーキを平らげたことなど知るよしも無かったのだから無理もない。

ケーキ屋の従業員達は風呂上がりのレスラーが来店したことに驚愕していた。
「大きい!」「覆面レスラーも外ではサングラスだけなのね。」
「やっぱり格闘家ってがっしりしてるのね・・・」

大男は意外にも女言葉を発した。
「おほほほ・・・逝子先生から連絡ありましたかしらあ?」
「お・おかまレスラー?!」


385名無し草:2011/09/10(土) 11:25:29.32
朴島十椀子からだ。
真理子が帰った後、疲労困憊の逝子は5分だけのつもりで横になったのだが、
すっかり寝過ごしてしまったのだ。
どうしよう、早く次の朴島十椀子準備をしなければ!
息を整えて電話に出ると十椀子は言った。
「先生、お待たせして申し訳ありません。
マンションの下まで来ているんですが、
エレベーターが止まっていて上がって行けないんです。」
渾身の力で真理子の顔を揉んでいた逝子は、疲れで足元がふらつき、
揺れには気が付いていなかった。
「あら、どうしたのかしら?定期点検でなないし…」と逝子が言いかけると、
十椀子は、「あっ、動き出したようですわ。よかったー。
でも、並んでいる方がたくさんいらっしゃるようですから、
そちらへ着くにはもう少しかかりそうですわ。では、のちほど」
と言って電話を切った。
逝子は、慌てて室内を片付けて大量に消臭剤をまき、
真理子に紹介した店の責任者に電話した。
386名無し草:2011/09/10(土) 15:58:32.84
お洒落な場所に相応しく、その店の盛り付けも気取って小洒落たものだった。
大きな皿の中央に料理がほんのちょっぴり鎮座ましまし、ハーブだのソースだのが芸術的に散らしてある。
乾燥パスタなら、せいぜい50g程度。
もちろん真理子にとっては、一口分にも足りない。
逝子からの連絡を受けた責任者は、パーティ用の大皿盛りにして出すように厨房に指示した。
新しく用意されたパスタの皿は1kg相当。しかも食べ応えのあるクリーム系のこってり味だ。
これを食べている間に、次の対策を考えようという狙いだった。
387名無し草:2011/09/10(土) 16:17:04.04
しかし真理子は不満だった。
「ここはレジのところに掲載雑誌の切り抜きや、有名人のサインが
飾ってないわ。今、東京でキテル店じゃないのね。
高級ホテルで好きなものを好きなだけ食べる私にはふさわしく
ないのかも。でも逝子先生の紹介だからほんのちょっぴり食べてあげる」
と少し不機嫌になりながら、キレイに盛られたパスタ50gを飲み込んだ。


店の外では、今ここに「おかまレスラーが入ったのを見た」「いや、
あれはスッピンのタケコ・ゴージャスだ」「毒光さんの甥っ子の
キッツ・マングースだよ」「いやいや、あれは昔活躍したデンステロ
イヤーンが素顔に戻った姿じゃよ」とちょっとした人だかりが出来て
いた。
388名無し草:2011/09/10(土) 16:33:31.48
50gのパスタを飲みこんだ事で真理子の食欲に火が付いた。
いつものことであるが食べながら腹が減るのだ。

デジャブ?
「暑ーい。はああ何だか暑くなってきちゃったウフ。」と首をかしげガウンを放り投げ、
1番美しく見える角度で店主を悩殺した。
ボブの髪の毛が左半分を隠して神秘性が増すと真理子は信じている。
店主は別の意味でノックアウトされた。
料理を作る者が気絶しては駄目駄目である。
389名無し草:2011/09/10(土) 16:40:12.89
真理子のそばの席には、オシャレな女性4人グループがいた。
真理子はその中の一人を自分に置き換え、日本版SATCの主人公になりきっていた。
上品なネイルとアクセサリーで飾られた華奢な手が、金魚鉢のようなワイングラスをもてあそんでいた。
「いやだあ、あたしったら大事なことを忘れていたわん。
このお料理に合うワインを選んでもらわなくっちゃ」
390名無し草:2011/09/10(土) 17:34:22.03
情けない料理長に代わって、美人だが化粧っ気のない女性が現れた。
気絶した料理長兼店長の姉でマネージャーだが、
事実上はこの店の総責任者である。
着飾れば相当の美女になるはずだが、マスコミなどに派手に取り上げられ、
一時的に有名店になってすぐに飽きられるのを恐れ、
敢えてスッピンにひっつめ髪を通し、シミも隠さず目尻の皺も気にせずに
自然な笑顔を振りまくが、わざとサバサバ系を装うようなこともしない、
冷静で理知的な女性である。
真理子はマネージャーを見て思った。
「きれいな人だけど、化粧もしていない。女としては失格ね。
私なんて逝子先生のマッサージを受けてきたんだから。」
女マネージャーは失礼を詫びた。
「料理長が失礼いたしました。彼は連日の激務で、少々疲れていたようです。
ところで、他に御用はございませんか?」
真理子は優越感に浸りながら言った。
「お料理に合う美味しいワインを選んでくださらないかしら?」
マネージャーは聡明な女性であった。
真理子が貧乏舌で、ワインの知識もなければ、繊細な味覚の持ち主でもないことを見抜いていた。
「では当方で、お客様にぴったりのワインをご用意させていただきます」と言って下がり、
1人でワインセラーに入ると、「廃棄用」と書いてある木箱の中から赤、ロゼ、白を1本ずつ取り出し、
デキャンタに移し替え、見習いの若いソムリエを呼びつけて言った。
「ソムリエと言うのは、ベラベラと自分の知識をひけらかすのが仕事ではないのよ。
お客様に聞かれたことだけを簡潔に答えればいいの、分かったわね。」
若いソムリエはワインのラベルを見ながら、それが廃棄用だったとは夢にも思わず、
ただ、せっかくの知識が披露できないのを残念に思った。
391名無し草:2011/09/10(土) 17:37:09.46
子供の頃は葡萄を食べた後の皮を集めてジュースを作って遊んだわ。
ギューッと絞ったら汁が飛んで目に入って沁みて沁みて、
結膜炎起こした事があったわ。
あれは発酵しちゃってたのかしらん?
392名無し草:2011/09/10(土) 17:58:55.89
ブドウと言えば、隣の家の犬はブドウが大好きだったわね。
よく食べさせてあげたものだわ。
早死にしなければ、もっともっと食べさせてあげられたのに。
動物好きな私って、男の目にはかわいく映るはず。うふふー
393名無し草:2011/09/10(土) 20:40:20.86
これまでのあらすじ

山梨のショボイ潰れかけの本屋の店主(林真理子)は
小説家になることが夢だった。
但し、彼女が小説家になりたい動機は、売れっ子作家になり
印税で贅沢三昧な生活を送り、ブランド品を買い漁り
それを庶民にみせびらかすことで、優越感に浸りたいという
しょ〜もないことである。
これまでに、出版社に原稿を送りつけたものの
歯牙にもかけられず、作家になる夢は、夢のまま終わろうとしていた。

一方、直木賞受賞をかけて、画期的な作品を書きたいと野望に燃える
小説家鬼島佳苗は、山梨在住の本屋の店主が書いた雑文を目にし
「使えるかも」と閃き、鬼島のブログ関係を管理してくれている
東條を山梨に向かわせ、林真理子の身辺を探らせたのである。

一般人から見たら、東條は痩せた年寄りの雄鶏にしか見えないが
男日照りの真理子には、山梨の片田舎に現れた東條は、白馬に乗った
王子様であった。


祝井先生VS鬼島先生

394名無し草:2011/09/10(土) 22:56:05.51
しかし、片田舎のさびれた商店街においては
ブックショップ・チョモランマと店を切り盛りする真理子は
それなりに価値ある存在であったのだ。
同じ商店街の「おしゃれの店 ブティックサンダー」の三田(さんだ)ツル子、
表面上は仲良しの珍味屋の江原くん、『オカマクラブ美輪』のママ、
地元の狭い交際範囲の中ではそれなりにやっていけたのだ。

狭い井の中に巨体が納まりきらず飛び出して
東京という大海へ進出していった真理子、
その先に待っているのは成功か?それとも嘲笑かバケモノ専の見世物小屋か?
395名無し草:2011/09/10(土) 23:33:51.78
このあらすじのナレーションの間に
時々、ぶどうを食べる悲しげな犬の顔のカットが映し出された…

犬のシーンの意図:
絶対に自分に合わないものを食べさせられる動物の姿と
絶対に自分に合わない生活をしようとする女性のこれからの姿に重ねている>演出家談

なお、このワンちゃんが食べているブドウはブドウに似せてあるドックフードです
この時代に犬にぶどうを食べさせる人なんているワケないじゃないですか〜…と演出家Y氏は笑いながら語った
396名無し草:2011/09/10(土) 23:37:30.82
料理が次々と運ばれてきた。
真理子は1sのこってりパスタをわんこそばのようにすすり、
自分の顔と同じぐらいの大きさのミラノ風コトレッタを、
「薄っぺらいわね」と言いながら一口カツのようにつまみ、
15インチはありそうなラザーニャを、
お弁当用ミニグラタンのように平らげた。
が、飼葉のようなサラダは、表面の生ハムとチーズを食べただけで、
その下の野菜はほとんど手付かずだった。
料理の合い間に、3種類のワインも全て飲み干した。
もちろん、保存状態が悪くて廃棄処分にされかけていたなんて、分かるはずもない。
というか、色すらも見ていない。
脚付きのグラスに入っていれば、何だっていいのである。
一点の曇りもなく磨き上げられていたワイングラスは油でベトベトに汚れ、
すりガラスのように白くなっていた。
「お腹いっぱい、というわけではないけど、晩御飯の前だから、
お料理はこれぐらいにしておいてデザートにしましょう。」
397名無し草:2011/09/11(日) 06:52:34.69
東條に勝間はタクシーに乗せられ、鬼島のオフィスに連れてこられた。
きっと名の通った建築デザイナーの作であろう白で統一された瀟洒なオフィスに勝魔はため息をついた。
「印税ってすごいのね。塾講師するのが嫌になってくるわ」
 破竹山という秘書にオフィスの応接室に通された、手前のデスクには薪ちゃんと呼ばれる東條の同僚なのか
部下なのか、女の子がいた。
 不意に足元に何かを感じて勝魔が床を見ると、カナという名のシーズーが尻尾をふって勝魔をあおいでいた。

 同じ作家でも、黄ばんだ原稿用紙に一字も書けないあの、さえない山梨の小さな本屋の店長とはえらい違いね。
と勝魔は思った。
398名無し草:2011/09/11(日) 07:54:39.14
レストランのオーニングで日除けをされたテラスは黒山の人だかりになっていた。
「スッゲー!レスラーの食いっぷりってさすがだな。」
「カツレツ飲んでる!」
「指の太さ見ろよ。西瓜でも握り潰せそうだぜ。」
「さっきガウンをかなぐり捨てたのは試合開始の合図なんだぜーきっと。」
「あれってまさか女?スカートみたいのはいてるんだけど・・・」

真理子はサーブの仕方に不満があった。
(一皿一皿持ってこられても困るのよね。
ゆっくり食べるとすぐにお腹がいっぱいになって、小鳥の餌程しか入らないわ。)
399名無し草:2011/09/11(日) 09:02:14.04
真理子は帰り支度を始めた隣席のスレンダーな母娘が震えながら
手を止め、残していた2、3個のグリッシーニとフォッカッチャを同じく残された
ペリグリーノと一緒にグビっと吸引し、グフッと大きく息を吐いた。
ウェイターがあまりのことに恐怖でさっき床に落とした残り物の悪魔風チキンの小片と
プッタネスカをマリコの皿に手を震わせながら置いた。
「あら、すっごいイケメンね。おまけに気が利くなんてサイコー。」
ウェイターの顔はおののきで、ホラー映画のゾンビの様であった。
店内に客はもう一人もいなかった。
400名無し草:2011/09/11(日) 09:17:13.57
ゾンビといえば・・・真理子の食べっぷりこそ、六道の餓鬼そのものであった。
激しい咀嚼運動により揺れる顔面はファンデにひびが入り剥げ落ちはじめていた。
逝子が厚塗りしすぎたせいもあろうか。
口紅はとうの昔に落ち、滴る汗でアイメークもまだらになった。
401名無し草:2011/09/11(日) 09:28:11.36
食べる程にほとばしり出た例の臭いは北青山から表参道方面へと流れて行った。
丁度エッセイ・ミヤマで試着していた婦女子は突然襲いかかってきた悪臭に気絶寸前であった。
この店の服は特殊な加工が施されおり、ほぼフリーサイズである。
だからといって豊満な体が纏うのを許すブランドではなく、むしろ細い体にこそ似合うのである。

臭いは更に根魅美術館へと駆け抜けて行った。
折悪しく茶会が催されていた為に美しい着物を身に付けた女性の悲鳴が庭園に響き渡った。
美術館員は琳派の屏風絵を狙った何者かがが襲って来たのかと色めきたった。
402名無し草:2011/09/11(日) 11:11:11.27
ウエイトレスが12種類のケーキを並べた銀のトレーを運んできた。
本来ならこの中から1つを選ぶのであるが、真理子は黙ってトレーを奪い取った。
もっと間隔をつめれば30個はのせられるのに。
なんて小さいケーキなの!ナイフもフォークもないところをみると、手でつまんで食べるようね。
ナイフとフォークは、銀のトレーの下敷きになっていた…orz
満腹には程遠かったが、あまりガツガツして逝子に意地汚いと思われても困るので、そろそろ引き上げることにした。
支払いは逝子だから用はないのだが、何かないかとキャッシャーのあたりに寄ってみた。
そこには、きれいに包装されたパスタやソースなどが並んでいる。
もの欲しそうに見ていると、女性マネージャーがやってきて言った。
「林様、どうぞこれをお持ち下さい。
幅広でストライプの、とても珍しいパスタでございます。」
真理子は思った。
このきれいな色をいかして、玉ねぎとシメジとベーコンといっしょに炒めたらいいわね。
そして写真に撮って、ブログとやらに載せて自慢するの。
私だってブログが出来れば、鬼島なんかよりもっともっと人気が出るはずよ。
そうだ、勝魔に頼んで、ブログのやり方を教えてもらおうっと。
そう言えば、さっき写真を送ってやったのに、返事が来ないわね。
きっと嫉妬して僻んでいるんだわ。
403名無し草:2011/09/11(日) 11:16:41.11
真理子がレストランのドアを開け一歩踏み出すと、
群衆は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
404名無し草:2011/09/11(日) 13:00:23.00
真理子はこれは腹八分目ともいえない、腹六分目くらいね。
限られたセレブでないと受けられない逝子先生先生のマッサージも
してもらったし、これで痩せたらもうモテモテで困っちゃうじゃない。
きゃっ。
しかし、来た道を同じ道を通って帰ろうとすると、またあの甘い匂いが
ぷーんとする。
「こしあん、カスタード、あと金時芋あん、それと限定のずんだあん
くださる?」
店先でたい焼きを焼いているおばちゃんが「あら、さっきのお客さん、
うちのが気に入ってくれたのね」と愛想よく話しかける。
真理子は「象顔マッサージで別人のような美女に変身したのに、
どうして私ってわかるのかしら」と不思議に思いつつも、「そうはいっても
もともと私には美女の種がある。生まれつきの美女オーラを、こんな
おばちゃんでも感じたのね。」と納得した。
405名無し草:2011/09/11(日) 13:22:57.66
「毎週かあさん」の漫画原稿を受け取りに来た編集者が、東原理恵子に声を掛けた。
「先日は被災地へボランティアへ行かれたんですよね、先生」
手元のペンを片付けながら、東原はため息をついた。
「それがさー、現地はやっぱり大変だよ。色々ねー」

漫画家友達に声を掛け、出版社からは子供に人気の漫画本やキャラクターグッズもたくさん寄付してもらった。
行きつけの焼肉屋の好意で、出張バーベキューも行った。
現地の子供達も大喜びで盛況だった、と新聞記事にもなったのに。先生はなぜ浮かない顔をしているのだろう。
「現地ボランティアの若い男の子達がとっても疲れていてね…」

東原達漫画家集団がボランティアに入る前、被災地に山梨から女性2人組が訪れていた。
なんでも、商店街の本屋と塾長だと名乗り、パフォーマンスで皆を癒したいのだと言う。
被災地の青年があっけにとられていると、アイドルA系Bのコスプレ姿の中年女性が
突然避難所体育館の舞台によじ登り、ゲリラライブを始めたのだ。

体育館で横になっていたお年寄りが逃げ出そうと骨折し、昼寝をしていた赤ちゃんは火が付いた様に泣き出した。
ボランティア青年に、舞台から降りた似ても似つかないA系Bが息巻いた。
「地元の経済を回すためにも、これから呑みに行かないと!若い男達みんな呼んで来てよ」

406名無し草:2011/09/11(日) 13:29:31.02
真理子は逝子からあれほどまでに念を押された大切な約束を忘れていた。
ガウンを店に脱ぎ捨てたままだった。

大きな袋に入ったアツアツ焼き立ての鯛焼きを飲み込みながらショーウィンドウに映る自分の姿に満足していた。
何だか一日ですっかり都会の女に変身した気分だわ。周りの人達も近寄りがたいみたい。
でも今着ている服じゃまるで垢ぬけない田舎者みたい。
お洋服買ってみようかしら?


407名無し草:2011/09/11(日) 15:58:19.48
3ちゃんねる 掲示板@プロレス板

往年のスターについて熱く語ろう 第5ラウンド

475 名前:お前名無しだろ
今日、都内某高級タワーマンションの近くで見かけた女子プロレスラー、名前が思い出せない。
身長165cmぐらいで、顔が30cm以上あって、サングラスに黒っぽいガウン着てた。
もう現役じゃないからか、かなり肉がだぶついていたけど、すごい迫力だった。
一緒にいた友達は、女子プロにそんな人いないよ、って言うんだけど…。
408名無し草:2011/09/11(日) 21:28:17.69
800 名前: 東京都名無区

表参道で食事していたツレより入電、亡国ホテルの女 再び出現

812 名前: 東京都名無区

食べてたの?バキュームしてた?

814 名前: 東京都名無区

トレイに乗ったミニケーキ全てをバキュームした、トレイは食べなかったらしい。

817 名前: 東京都名無区

トレイ上のミニケーキ瞬殺かよ、おそろしい(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

821 名前: 東京都名無区

身柄確保して、テレビ帝都の「大食いちゃんぴょん」に売ってみない?

834 名前: 東京都名無区

誰があの巨体を止めるの?体重俺の2倍はあるぜ。
409名無し草:2011/09/11(日) 22:06:51.76
一方、京都では、花京院とさくらが
『痰熊』の個室で、食事を楽しんでいた。
410名無し草:2011/09/11(日) 22:45:38.00
料理長兼店長の姉でマネージャーはさきほどの珍客の忘れたかさ高い
黒いガウンを呆然と眺めていた。
真理子への対応でもわかるように普段は冷静な判断を下せる聡明な
女性である。自分の学歴をひけらかすようなことはしないが、弟が
甘ったれで致命的に経営のセンスがないのと反対に、アメリカでMBAも
取得している。

「あのルチャ・リブレの女子レスラーみたいなお客様が脱ぎ捨てた
この悪臭ぷんぷんのガウンはどうしたものかしら。うんと柔らかい
カスウエアのものみたいだから、新品を買って逝子先生のお届け
しましょう。でもこのサイズ特注かしら。すぐ取り寄せしなくちゃ。」
とてきぱき行動した。

そこに青い顔をしてよろよろ戻ってきた料理長、マッコウクジラの
抜け殻のような黒いガウンを見た途端、口を押さえまたその場から
走り去った。
411名無し草:2011/09/11(日) 22:56:56.87
先生へ

「呆然と眺めていた」のに「てきぱき行動した」というのはおかしいと
思います。間に「すぐ気を取り直して」などというセンテンスを入れたら
いかがでしょう。
先生、甘いものを召し上がらないと、風邪をひきやすく、脳にH20が
行き渡りません。
紹介がないと買えない「村上快震動」のクッキーをお持ちしました。
どうぞ召し上がってください。
一緒に国民的美人作家目指してがんばりましょう。

               偏執者 意地腹より 
412名無し草:2011/09/12(月) 08:06:02.96
鯛焼きを貪り食っていた真理子は、ふと恥ずかしさを感じた。

せっかく東京へ来て美しく変身したというのに、歩きながらものを食べるとは
なんと行儀の悪いことだろう。
セレブが食事するにはテーブルが必要なのだ。

ふと見れば、コンビニがある。コンビニの前には分別ゴミ箱が並んでいる。
ここなら平らだし、鯛焼きの袋を置くくらいのスペースはあるわねん。
真理子は鯛焼きがどっちゃり入った袋をゴミ箱の上に置き、
バッグの中を引っかき回してペットボトルのお茶を取り出した。
確か先月商店街の親睦会で配られ、飲みかけのまま放り込んでいたものだ。

片手に鯛焼き、もう片手にはペットボトルを握り締め
簡素なテーブルの上でささやかなおやつを楽しみ始めたのであった。
413名無し草:2011/09/12(月) 09:28:35.23
東條純一郎はこんな奇跡があるのかとホッとしていた。
労せずして手に入ったのだ。神の巡り会わせか…感動した!
しかし、この先を思うと感動どころではない、
カバ女に加えて鼻息の荒い半魚人まで相手にすることになりそうだ。
下手をしたら鬼島佳苗の鞭打ち拷問まである。
SMプレイは祝井しまんこ先生や中村ウサコ先生にまかせよう。
鬼島佳苗の要塞の様に冷たいオフィスへは牛歩戦術で帰りたいくらいだ。
あそこでは絶叫も外部には漏れない。「あ〜う〜」と呻くしかない。
しかし、ともかく手ぶらで帰らずに済む。
好きなのは手ブラと貝殻タンガーだが、それは秘密だ。

勝魔は鼻の穴をすぼめて、真理子の様子を伺うことにした。
真理子の携帯に「威風堂々」が鳴った。
414名無し草:2011/09/12(月) 09:47:44.00
真理子がコンビニのゴミ箱の上で『お3時』を味わっていると、
店から屈強な肉体を持った元自衛官と思しきイケメンが出て来た。
数々の困難な状況を乗り越えて来た彼をしても思わず後ずさりする食いっぷりであった。


415名無し草:2011/09/12(月) 09:51:53.27
思わぬことで興奮していた東條は鬼島に朗報をもたらそうと、
風速5m、いや勝魔の鼻息にすら吹っ飛ぶ、竹串に刺した出しジャコの様な身体を守るため、
急いでタクシーを拾い、佳苗の要塞の中にいたことを忘れていた。
眼の前に半魚人が携帯画面をその鼻息で曇らせているのを見て
我に返った。
416名無し草:2011/09/12(月) 10:27:21.66
食事を終え昨年の茶会の写真を見せてもらったさくらは内心驚いていた。
女性が全員和服なのは当然であるが、男性もその7割は和服姿だった。
政財界の著名人も茶人となっていた。

(和服の男性がこんなに大勢いらっしゃるのは昨年の中百家の御家元の御葬儀でしか見たことが無いわ!
あの時は女性の喪服も着物も帯も黒から黒白混じり、そして全て白の方までいらして面食らってしまった。
思っていたより大変なお宅なのね・・・)
417名無し草:2011/09/12(月) 10:29:09.84
真理子は鯛焼きを食べつくすと、ちょっぴり物足りなさを感じ
コンビニの中を覗き込んだ。
カウンターの上に「大震災義援 募金箱」と書いた白い箱が置かれている。
真理子は大震災のことを思うと、胸がはりさけそうな思いに襲われた。
涙が溢れ出して止まらず、すでに崩れていたメイクをさらに汚らしくドロドロにする。

大震災・・・
もしかすると、こういう美味しいものの食べ納めになるかもしれないんだわ。
私が今被災された皆さんのためにできること、
それは経済活動をすること。
自分の持っている最大の力、つまり食欲を被災された皆さんのために使います。

そう堅く決意した真理子はコンビニのドアへ突進し、
そこで呆然と立ちつくしているイケメンをたいそうな勢いで突き飛ばし
おにぎりとシュークリームをカゴいっぱいに買い込むのであった。
418名無し草:2011/09/12(月) 12:06:53.81
再びゴミ箱の上に食べ物を並べ満足そうに食べ始めた真理子は若者の集団に目が止まった。

(茶髪にピアス、どうみてもヤンキーね。
こういう子の為に、今私が払った消費税が使われるは我慢ならない。
どうせ焼肉チェーンか美容院に勤めているに決まってるわ。)
419名無し草:2011/09/12(月) 13:36:48.75
携帯からは何の反応もない。
真理子ががっついている時は音信不通になるのが常であったから
驚きはしないが、こんな大事な局面で食欲だけにかまけているなんて。
むしろ、そのレベルなら可愛いものだし、御しやすいというものだわ。
よし、好きにさせてもらうわよ!勝魔の鼻の穴が膨らんだ。

その頃、山梨のブティック・サンダーの三田ツル子はそわそわしていた。
真理ちゃんが疾走?…そら無理や…いや失踪?!
けどね、足はゾウのようだし、どこかでチンタラ動いているはずよ。
フンガー塾のカズちゃんが大きな段ボール箱を抱えて、
ブックショップ・チョモランマから出て行ったという話も聞いたわ。
その前、8月くらいだったか、あの前で怪しい男が立っていたとの噂もあった。
強面の牛ガエルみたいな奴で、チッと舌打ちしていたっていうから、
その筋の人?真理ちゃん、借金なんてしてたかしら?
まぁ、本も全然売れなかったみたいだしねぇ。
でもね、真理ちゃんが留守なのに臭いも強烈になってきたから怖いわ。
あれじゃファブリーズどころではないわよ。
みんな、迷惑してるみたいだし、中に腐乱死体なんかがあったらどうしよう!
誰か一緒に行って調べないと…

420名無し草:2011/09/12(月) 14:25:28.16
突然、城見徹は派手なクシャミをした。
夏に山梨の本屋に出かけて以来、鼻の調子がおかしい。
しかも常に身の周りが臭く感じられる。
あれから、店主に会えずじまいだ。
椅子から立ち上がり、彼はおぞましいとは思いつつ歌いながら、
この夏で数十個目の消臭力を取り換えた。
421名無し草:2011/09/12(月) 16:41:38.28
逝子は十椀子を招き入れた。
十椀子はかすかに残る異臭に思わず美しい眉をひそめたが、
すぐに営業用スマイルに切り換えた。
加齢と過労で少々くたびれ気味とはいえ、やはり美しい。
逝子は尋ねた。
「朴島さま、この象顔マッサージは、リンパ腺に働きかけて老廃物を流し、
本来の美しさを取り戻すものですが、
場合によっては少々強い力を加えることがございます。
もし、刺激に弱い部分がございましたら、あらかじめ教えていただけるとありがたいのですが。」
十椀子は軽く眉をひそめ、ちょっと困ったような表情を作ったが、
もちろん先ほど異臭をかいだ時にしたのとは全く別の表情である。
「まあ、先生、どうしましょう。わたくしは昔から肌が弱くて、
ちょっと強い力でマッサージをすると、すぐに赤くなってしまうんですよ。
例えば…」と言いながら、逝子が怪しいと睨んでいた箇所を次々と挙げていった。
逝子は提案した。
「朴島様のように様々な美容法を研究し尽くし、
ご自分でも実践なさっていらっしゃる方でしたら、
私が直接施術する必要もないでしょう。
私が詳しく丁寧にご指導申し上げますので、
朴島さまがご自身でなさってはいかがでしょうか?
もちろん必要であれば、私が手を添えてマッサージさせていただきます。」
逝子が求めているのはセレブな顧客、
十椀子にとって必要なのは、高級エステに通っているという事実、
そして出来るだけ経済的に美を手に入れること、この2つである。
422名無し草:2011/09/12(月) 16:42:48.60
十椀子は快諾し、マンツーマンのレッスンが始まった。
さすが朴島十椀子、美容にかける執念には鬼気迫るものがある。
何と言っても、彼女の細い方に一家の生活がかかっているのだ。
ほどなくして十椀子は象顔マッサージの要領を会得し、
複雑な構造の自分の顔に合うようにアレンジした独自のマッサージ法を編み出して帰って行った。
帰り際の雑談で、逝子がこの臭いに気付いていないのではないかと心配した十椀子は遠まわしに言った。
「高層階というのは眺めが最高ですけど、窓を開け放すことが出来ないのはちょっと残念ですわね。」
逝子は慌てて詫びた。
「申し訳ございません。お客様の中には色々な体質の方がいらっしゃいまして…。
マッサージをすると血行がよくなるというせいもございますが…(大汗)。」
十椀子は思った。
どんな人なのかしら?この体臭でも逝子先生が引き受けざるを得ないということは、かなりの大金持ちか有名人に違いない。
いつかお近づきになりたいものだわ。
423名無し草:2011/09/12(月) 17:47:25.97
さくらは花京院のお茶会の写真を見せられ少し憂鬱になっていた。
京都の花京院の家は格式高いが、お付き合いも大変そうである。
話すほどにわかるマザコンの花京院、それに先ほど顔を合わせたブラコン
気味の妹が小姑になるのも気がすすまない。
付き合っているときはお姫様扱いでも、結婚して嫁となるとその立場は
一変しそうだ。
さくらにはそれに対応できる能力は備わっていると自負しているが
その生活ではつまらない。

求婚の返事を待たせている世界的にも有名な競走馬生産牧場を経営
している一族の跡取りのことを思い出した。
あちらと結婚すれば、嫁と言っても、そんな気苦労はないだろう。
まさか北海道で馬の世話をするわけでもあるまい。
東京のうんと夜景のきれいで、みんなが羨ましがるような高級な
マンションに住んで、着飾って海外のレースを見たり、次期牧場経営者
夫人として華やかなパーティで挨拶したり、あちらのほうが自由になる
お金もありそうだし、ずっと気楽じゃないかしら。
そんなことを花京院がそっと握ってくる手を振り払うこともせず
考えているさくらであった。
424名無し草:2011/09/12(月) 18:10:04.08
イタリアン・レストランの女性マネージャーは、武田信子(のぶこ)という名前だった。弟は玄(げん)。
実は真理子と同じ山梨県出身である。
父親はT大出の秀才にして歴史オタク、母親は若い頃から評判の美人であったが、生活はいたって平凡であった。
(今時、高学歴エリートと美女のカップルなら勝ち組で上流、バラ色の人生〜なんてノーテンキなことを考えている人もいないだろうが。)
信子は母親の美貌と父親の頭脳を受け継いだが、
弟の方は母親ののんびりとした性格と父親の地味な容姿を受け継いだ。
信子が大学生の時に両親が事故で亡くなった。
優秀だった信子は遺産と奨学金でアメリカ西海岸に留学しMBAを取得した。
留学中に信子はイタリアン・レストランのシェフと知り合いになり、彼の料理にほれ込んで、
日本でフリーターをしていた弟を呼び寄せて弟子入りさせた。
性格が温厚という以外には取り立てて目立った才能がないように見えた弟だったが、
料理は性に合っていたようで、めきめきと腕を上げ、
姉が学業を修める頃には、ある程度の技術をものにしていた。
弟は日本に戻ると、小さなレストランに2年ほど勤め、その後は姉の尽力で亡国ホテル「シーレ」に入った。
姉の方は、予備校講師などいくつものアルバイトを掛け持ちし、人脈を広げ開店資金を貯めた。
425名無し草:2011/09/12(月) 18:11:37.16
長年の苦労が実りやっと開店にこぎつけたが、経営が軌道に乗ったと言えるには程遠かった。
信子達は山梨の自宅を担保に信用金庫から融資を受けていた。
彼女は大学時代に支店長の娘の家庭教師をしていたことがあり、支店長は彼女の能力を高く買っていた。
前に支店長一家が食事に来たときに、
支店長夫人と娘が、「そういえば、この近くに有名な多中逝子さんのサロンがあるんですってね。
私達も一度でいいから行ってみたいんだけど、誰かの紹介がないと無理なんでしょう。
信子先生はご存じない?ご近所だから逝子さんもここに来られるのかしら」
と言ったのを思い出した。
すぐに支店長にたしなめられて、ちょっと気まずそうにしていたけれども。

信子はスタッフの女の子に言った。
「新しいガウンと一緒に、この請求書をお届けしてね。
お客様の忘れ物に気付かずに失礼いたしました、と忘れずに言い添えてちょうだい。」
スタッフが、素っ頓狂な声を上げた。
「信子さん、これじゃランチ・セットの値段ですよ!一桁どころか二桁ぐらい違ってませんか?」
信子はいたずらっぽく笑っていった。
「これでいいのよ。」
426名無し草:2011/09/12(月) 20:08:06.68
「さくらさん。明日は着物を選びに行こうか?」
「呉服屋を家に呼んでもいいけど、外に出た方がいいよね?茶会に間に合うようにしないとね。」
優しく気使ってくれる花京院。
洗練された身のこなしも好ましく感じる。

趣味の良い絵画や家具丁度品そして日本では珍しいボールド天井の応接室。
それらを思い起こすと自分こそがあの屋敷に相応しい女であり、
他の女にとって代わられる事が耐え難くなってきた。

(自由にお金を使ってお洒落しても隣に立つ夫がずんぐりむっくりで碌に音楽の話も出来ない様では誰にも自慢できないわ。
奈緒美はきっとお腹の中で馬鹿にする。
いいわ。別に今日明日に決めなければならない事じゃないし、ゆっくり求婚者を篩にかければ・・・)
427名無し草:2011/09/12(月) 23:38:06.50
709 名前:お前名無しだろ
>>475
亀なんだけど、俺が見たのと同じ人かも。
レストランの前に人だかりが出来てたのに、
急にみんな蜘蛛の子を散らすように逃げ出すから
何事かと思ったら、プロレスラーみたいな大女が出てきたんだ。
ガウンは着てなかったけど、
赤い変な模様(血しぶき?)がついたような服着てた。
そいつが出てくると同時に、
店からむわっって生暖かく湿った妙な臭気があふれ出して吐きそうになった。
たしかに体はでかいけど、プロレスラーって感じではなかった。
答えになってなくてスマソ
428名無し草:2011/09/12(月) 23:50:23.48
武田玄は「シーレ」時代の元同僚と飲んでいた。
2人とも生気がなく、言葉も少ない。
「この間、すげえ客が来てさあ」と同僚がボソッと言った。
「俺んとこに来たやつの方がすげえぞ、ありゃあ人間じゃねえ。
料理を食うんじゃなくて吸うんだ。吸うんだぞ、お前、分かるか!!」
と玄が興奮気味にまくしたてた。
429名無し草:2011/09/13(火) 00:17:56.73
「いやあ。うちに来たのもすごかったぞ。
両手に大皿持って口を半開きにして近付いて来られた時はめまいがしたよ。
また臭いが半端じゃなくてさ。隣の家紋の客まで逃げ出す始末だよ。
クローズぎりぎりまで食っていて、ようやく出て行ったと思ったら・・・」

玄は尋ねた「何何どうしたんだ?」

「エレベーターホールで男性客にプロレス技仕掛けて落したんだぜ!
タゲられた御老人は気のどくだったよ。
相当体はなまってブヨブヨだったけど、あれは元レスラーだな。うん。間違いない。」
430名無し草:2011/09/13(火) 00:37:36.81
「レスラーだと?うちに来たのもレスラーだったよ。そうそうガウンを着てた。
で、その後ガウンを脱いで…」と言いかけて玄は口ごもった。
いくらレスラーとはいえ、女に睨みつけられて気絶したなんて言えない。
「それに、すっげー臭かった。まさか同じヤツか?
おまえんところはバイキングだから大赤字だな。
ま、お前の給料が減るわけじゃないからいいけどな、ははは…。」

玄は、自分の店こそ大赤字になっているということを知らないでいたw
431名無し草:2011/09/13(火) 01:28:53.19
マリコは自分の腹を見下ろした。
あら、ちょっとしか食べていないのに、お腹がぽっこり。
これじゃあ11号しか入らないわ。
いくら私の背が高いとはいえ、いい女は9号でなくっちゃ。
あのお薬を飲んでからショッピングに行けばいいわねw
432名無し草:2011/09/13(火) 01:46:23.70
まさか同じ客だとはお互い露知らず、元同僚は自分のところに来た客の
ほうがいかにひどかったかを玄に向かってまくし立てた。

「道路(みちろ)総料理長とシェフソムリエ炭崎(たんざき)がさー」と
元同僚が話を続けた。
「その女が入ってきた途端、あの臭いだ!と叫んだんだよ。
研修で京都の料理屋何軒か視察に行ったとき、カウンター割烹で
最後のイクラご飯を吸引する臭い臭い女がいて閉口したらしいんだ。
こっちの正体わかってるから店の主人も蒼白になって謝るし、せっかくの
料理の味はわからないし、さんざんな目に合ったと怒っていた。
そのイクラご飯吸引女が、また目の覚めるような美女連れてやってきた
んだから、2人とも混乱してたよ。でも本当の混乱はそこからだったん
だけどね。もう話すのも不快だからどんなだったかは詳しくは言わない
けど、食材は無くなるし、とにかくあとで、皿もグラスもスプーンも
フォークもすべて散乱しているし、食べ物は飛び散っているし、
かなりきつい臭いも残っているし、清掃係からのクレームひどかった
んだから。店を出た後もエレベータホールでひと悶着あったみたいだし。」
433名無し草:2011/09/13(火) 01:58:22.49
マリコは不満ではあるが11号ならぎりぎり許せたが、13号以上や
今はこじゃれた名前をつけている、Lサイズコーナーなどはそこで
買い物をする女性客を含め完全に軽蔑していた。
デパートのそんなコーナーを足を踏み入れるなんて、ふん、女として
終わっているわね。私なら恥ずかしくてそんなところ行かないわ。

しかし、いつも部屋着すらパツンパツンのものを無理やり着て、
周りを過呼吸にさせているマリコに、ジャージーなら両国行けば
よりどりみどりで、小さなサイズを買って自尊心を満足させることも
出来るのにと陰で言われていることは知る由もない。
434名無し草:2011/09/13(火) 02:13:57.41
玄は言った。
うちんとこの客は食いまくって悪臭撒き散らしただけで、暴力沙汰を起こさなかっただけましか。
それにしてもそのレスラー、年寄りに技かけたって、それ犯罪じゃね。
ライバル店の嫌がらせか?早く捕まるといいな。
うちは小さな店だから、ライバルなんていないのかなあー。

自分が気絶している間に、姉と他のスタッフがどれほど大変な思いをしていたか、
彼は全然知らない。
本当に頼りない駄目駄目な調理長兼店長である。
信子が聞いたら激怒するだろう。
435名無し草:2011/09/13(火) 09:19:58.49
真理子は表参道を歩いていた。
とある店のウィンドウに飾られたボーダーティーシャツに目が止まった。
「素敵!私に似合いそう。」と唸るなり勢いよくドアを開け入って行った。

「あれを試着したんですけど、展示品じゃなくて新品あるかしら?サイズは11号よ。」
といきなり不躾なお願いをした。
店員は「は、はい。ただいまご用意いたします。(11号って・・・うちの店で言うと38だけど、このお客様ハメンズの54・・・)」
中々二の腕が通らず肉を畳み込むようにして押し込んだ。
袖には無数の皺がより胸の形も胃もくっきりと浮かび上がっている。
ブラは先日買った補正用なので脇肉も全て寄せてある。

店員は(ああーさっきピリッっていったしー。臭いが。どうしょう。これは絶対にお買い上げいただかなくては!)
「とてもお似合いでいらっしゃますわ。お客様はお背も高くてお顔立ちも日本女性には珍しい位くっきりしておいでですもの。」

真理子も全く同感だった。
(そうよね。良く似合ってるわ。垂れ下った目はフランス人女優のゾフィー・マルゾーにそっくり。
もうちょっと痩せてミニカ・ペルッチ風になってもいいかもね。)
「これいただくわ。このまま着て行きたいから。今着ていた服をお宅の紙袋に入れて欲しいの。なるべくうんと大きいのにしてね。」

あとはスカートも買わなくっちゃ。
交差点を超えた所に『エッセイ・ミヤマ』と書かれた店があった。
一際カラフルな服は如何にも似合いそうに思えた。
少しばかり膨らんだお腹も綺麗におさまる。
紙袋も二つになって気分はプリティーウーマンだった。
436名無し草:2011/09/13(火) 09:31:51.64
プリティーウーマンだって歩いたり買い物して興奮すれば腹も減る。

『青山グリムパン店』の前を通った時甘い砂糖とバターの香りがした。
吸い寄せられるように店内に入ると高カロリーそうなパンが並んでいた。
普通の女性ならお昼には1個だけ。
あとはサラダのコーヒーで抑え体重を管理するはずであるがそうはいかない。
437名無し草:2011/09/13(火) 09:45:18.53
夕刻の表参道を、上はぴちぴちボーダー、下は経血水玉、
紙袋をブンブン振り回し、悪臭をプンプン撒き散らし、
大型類人猿のような姿勢で、異形のものがのし歩いて行く。
通行人は風上を探して逃げ惑い、勇気のあるものは口元をかばいながら
携帯を持った腕だけを真理子の方向に伸ばした。
たそがれの中を遠くから撮った真理子の映像は不鮮明で、
さながら「イエティ発見!」のようであった。
438名無し草:2011/09/13(火) 09:51:20.49
こうして表参道を歩いていると、真理子はずっと以前から東京の住人だった気がしてくる。
少し前まで山梨の小さな書店でくすぶっていた自分の人生は、まるで別人のそれか、遠い過去の出来事に思えた。
道行く人は皆自分をじろじろとぶしつけな視線で眺めてくるが、これは美女ゆえの宿命というものであろう。
私には都会の生活があってるんだわん・・・と真理子はつぶやいた。
439名無し草:2011/09/13(火) 10:12:57.62
そうよ、両親だって昔は東京に住んでいたって言うし、
私は東京人のDHAを受け継いでいるのよ!
440名無し草:2011/09/13(火) 10:21:30.23
夕刻になると少し肌寒く感じられた。
何か羽織り物が欲しい所だ。
(失敗したわ。逝子先生に貰ったガウン置いてきちゃった。あれ良く似合っていたのに。
ハッピーコート、キモノって何かしら?)
ユーラシアン・バザールと書かれた少々陰気な店に足を踏み入れた。
すると竜と目が合った。
ドラゴンは皇帝の証。高貴な者のみが纏うことを許され模様である。
袖を通すとジャストサイズ!
価格だってゼリーナのティーシャツに比べると断然お得。
益々トンデモない恰好であるが遠目には外国人観光客風にはなった。
441名無し草:2011/09/13(火) 10:27:26.67
近くを都知事の公用車が通りかかった。
節電節エネをアピールし、気さくな雰囲気を演出するため、車の窓は開けてある。
芥川賞作家で、弟は往年の名優。人気を嵩に歯に衣着せぬ発言も多く、何度も騒動を起こしている。
「うわ、くせえ!×××××、入国管理局は何やってるん…」
側近は慌てて窓を閉めた。
442名無し草:2011/09/13(火) 11:16:15.56
「ふんふんしかし外国人観光客も元に戻りつつあるな。」
知事は我が町東京の賑わいを好ましく思った。
しかし前方に竜の柄の土産物用着物モドキを風になびかせドデカイ外人が歩いているのにぶったまげた。
「うわっ悪趣味な奴。あの大きさからすると欧米人か?もっと良いもの買って金落としてくれよ。○国人よりゃましだけどよ。」
443名無し草:2011/09/13(火) 11:36:27.13
東條と勝魔の乗ったタクシーは渋滞に巻き込まれていた。
勝魔は暇つぶしに携帯から3ちゃんねるの鬼島佳苗関連スレを探してみた。
するとどうだろう、良くない噂ばかりである。
有名人に対する揶揄や中傷といったレベルではない、犯罪の告発のようである。
勝魔は急に不安になった。
ノートだけ取り上げられて体よく追い払われたらどうしよう。それどころか…
すると近くにコンビニが見えた。
勝魔はすかさず「すいません、あそこのコンビニに寄っていいですか?」と頼んだ。
東條は嫌そうな顔をしたが、どうせ車は動いていない。運転手に停めるように言った。
勝魔はコンビニに駆け込んでノートの一部分だけをコピーし、バッグに入れた。
大切なノートはビニールできっちり包み直し、山梨の自宅宛に宅配便で送ってもらった。
念のため、送り状は小さく畳んでバッグの底に隠しておいた。
そして、菓子パンと飲み物を持って、
「すいませーん、ずっとトイレに行きたくってー、それにお腹もすいちゃってー」
と言いながら車に乗り込んだが、東條はうたた寝していて、
勝魔が15分もコンビニにいたのに気付いていなかった。
444名無し草:2011/09/13(火) 12:04:39.54
勝魔はちょっとワクワクしてきた。
なんだかサスペンスドラマみたいになってきたわ。

彼女に与えられる役どころは美人探偵か、それとも死体Aか。
ただし、朴島十椀子が若かりし頃に演じたような死体の役は、まわってこないだろう。
445名無し草:2011/09/13(火) 18:26:38.79
タクシーの運転手は、さっきまで勝魔にまとわり付いていた臭いが
ほとんど消えているのに気付いた。
なんか臭いと思ってたけど、この女が屁をこきやがったんだな。
ま、しょうがねえさ、人間だもの。

そういや運転手仲間が言ってたけど、すっげえ臭い大女が乗ってきて、
シートカバーに血のシミを付けて下りてったとかで、
その運転手、それ以来ずっと不運続きで体調まで崩して休んでるとかなんとか。
気の毒になあ…
446名無し草:2011/09/13(火) 20:05:30.56
歩きながら菓子パンを頬張る姿を、子供連れの母親たちは子どもに見せない
ように我が子の目を塞いで足早に通り過ぎた。そしてこんなイエティがいる
ような世の中は物騒だわ、やっぱりアホ山学院でもノックアウト幼稚舎でも
いいからセキュリティーのしっかりしている学校をお受験させましょうと
堅く決心するのであった。
しかし傍目から観るとイエティであるが、本人は「ティンパニーで
定食を」のヒロイン気分である。
しかも『青山グリムパン店』で買った菓子パンはたった3個。
砂糖、バター、カスタードクリーム、ジャムがうんと入ったデニッシュは
3個で1000円したからである。
マリコはこんなの田舎じゃ「マリちゃんいくらでもいいから持って行ってよ、カビが生えたらもったいないから」とくれたのに、やっぱり東京の
物価は高いわね、だから東京の女は痩せてるのよと腹立たしかった。
447名無し草:2011/09/13(火) 20:07:58.19
↑いくら機械音痴で携帯の写真もボケボケしか撮れないからって
改行くらいしろよ、バーカ。
448名無し草:2011/09/13(火) 20:26:10.70
さくらを目の前にした呉服屋の店主は愛想良く対応しながらこんな事を考えていた。
(またこのボンはとんでもない別嬪さんを連れて来はったもんや。
こないなおなごが若女将にならはったら、あの店も怖いもん無しやでーヘヘ。
もちーと若かったら舞子にしてもええなあー。芸子になったら克津乃以来の上玉になるでー)

花京院は何をあてても似合うさくらに鼻の下を伸ばし切っていた。
(綺麗だなー。紅型の訪問着も良かったけどこの加賀友禅も良く似合う。)
さくらも鏡に映る自分の姿に、そして自分にメロメロの彼に満足していた。


449名無し草:2011/09/13(火) 20:42:23.03
あら、もう夕飯の時間ね。そういえば勝魔ちゃんはどうしたかしら?
さっき写真は送ったけど、やっぱり実物を見せてあげたいわんw
逝子が渾身の力で揉みまくった成果が現れてきたのか、真理子の顔はすこぉーしだけ上がってきた。
だが傍目には、ビミョーに引き攣れて変形し、化け物度合いを増したようにしか見えなかった。
真理子は勝魔に電話した。
450名無し草:2011/09/13(火) 20:57:43.52
【編集部よりお詫びと訂正】
>>443から445ページは、>>397ページの前に入ります。
読者の皆様にはご迷惑をおかけいたしました。
451名無し草:2011/09/13(火) 20:59:40.77
>>450
バカだね。黙って訂正して、何事もなかったように知らん顔してりゃあいいのに。
読者なんてバカだから気付かないわよwwwww
452名無し草:2011/09/13(火) 21:20:47.57
>>451
そうそう、誤字脱字チョモランマ、チョロランマも一緒一緒。
誤植だと開き直ればいいだけだし、どうせ下流の読者は行ったことも
ないだろうし平気wwwww
453名無し草:2011/09/13(火) 21:23:23.34
鬼島佳苗が現れ、満面の笑みで勝魔に歩み寄った。
「真理子さん、お待ちしておりましたわ!!」
454名無し草:2011/09/13(火) 21:26:36.22
「違います!! 私は林真理子の友人で勝魔と申します。
林さんと私は、体形も顔も性格も、ぜんっぜん似ていません」
と勝魔は必死で否定した。
勝魔と鬼島が同時に東條をにらみつけた。
455名無し草:2011/09/14(水) 01:02:28.23
勝魔に電話をかけながら真理子は思った。
なんてこと!アタクシとしたことが。
せっかくセレブな方々にお会いしたと言うのに、ツーショット写真を撮るのを忘れたわ。
あー、勿体ない。それに、すてきな盛り付けのお料理の写真も…。
今度からは絶対に忘れないわ。そして、おしゃれなブログで紹介するの。
林真理子が行った店、食べた物、そして素敵なファッション、みんながこぞって真似するんだわ

それにしても勝魔はなぜ電話にでないの?
まだ拗ねてるのかしら。やあね、根に持つなんて大人気ない。
456名無し草:2011/09/14(水) 01:39:14.72
オロオロとする東篠を無視して、二人はソファーに向かい合わせに座った。

「勝魔さん、あなたは大変ビジネスのお話が分かる女性だとお見受けいたします。
ですので、単刀直入にお聞きしますわ。
あの林という女の日記をお持ちなんですって?」
「はい。日記と夢小説、あと普段の行動を細かくお伝えできますね。
これが日記の一部です」勝魔はさっき取ったコピーを差し出した。
日記帳そのものが手に入ると思っていた鬼島は、少しがっかりしたが
このしたたかな女を継続的に子分にしておく方が、何かと便利だろうと考えた。

「それでは勝魔さん、契約をしましょう。わたしはある女の半生を小説にしたいんです。
あなたにそのモデル、あくまで架、空、ですよ。その女の資料集めを依頼します。
月々の情報料はこの位でいかがかしら。」
電卓にはかなりの金額が提示されといる。
「少々無理なお願いをするときもあるでしょうけど、お渡しする金額の分、
しっかり頼みますよ。あとこの件は極秘でお願いしますね。」

勝魔は無言で頷いた。そして、かなりの金額の小切手を
リサーチ準備費用として手渡され、興奮に鼻の穴を膨らませる。
「鬼島先生、どうぞよろしくお願いします!!」
457名無し草:2011/09/14(水) 05:21:52.20
勝魔の心の声 
(うふふ、この好機のがすものですか。さあ、報酬ももらったし、真理子さんを
回収して山梨に帰るとするか)

 その頃、三輪ママの店で三田ツル子と江原はテーブルの上のものを見て
ため息をついていた。
「東京で異臭さわぎだって、真理ちゃん、やっぱりそこにいるんだよ」
「いつも持って歩きなさいとお母様がいつも言ってたのに」
 テーブルの上、そこには「超消臭力 携帯用」が置いてあった。
458名無し草:2011/09/14(水) 06:06:37.42
真理子の携帯電話が鳴った。勝魔からである。
「ちょっと〜遅いわよ。アンタ今まで何してたワケ?」
「ごめん、ごめん。東京って広いわねぇ。何だか道に迷ってて〜。
それよりあの写真なによ?オシャレじゃないの〜。
ねぇねぇ。ご飯食べながら話聞かせてよぅ。
わたし迷子だから、あなたのホテルで合流しましょ?いいかしら?」

勝魔はヨイショでまくし立て、自分のペースに持ち込む。
どこかで食事して、何とか丸めこんで今晩中に山梨に連れて帰ろう。
田舎生活のネタも大事な資料になるんだから。

「わかった。あなたって本当に田舎者ね。私は東京とハダが合うみたい。
仕方ないわね、じゃあホテルの部屋で待ってよねん。」
真理子は上機嫌で電話を切った。
459名無し草:2011/09/14(水) 07:58:18.96
『青山グリムパン店』で買ったデニッシュは美味しかったけど、たった三個じゃ物足りないわ。
せっかく東京の街を歩くのですもの、長めのフランスパンを小脇にはさんで
歩くのがおしゃれだと思うのよん。
道行く人はきっと私を東京山の手生まれ育ちだと、羨望の眼差しで見ることでしょう。

真理子は、フランスパンを三本ほど左脇にはさみ右手に持ったパンを貪り食う
自分の姿を想像し、ウットリした。
460名無し草:2011/09/14(水) 08:24:17.58
真理子は明治通りとの交差点で新宿方面へと方向を変えた。
昔この辺には八角亭という美味い焼き肉屋があったのだが、
当時の事を知る人は原宿に別れを告げ代官山などへ越してしまった。

道行く若い女の子の服装を見て真理子は呆れてしまった。
「お洒落の町と聞いていたのに揃いも揃って古着の様な安っぽい服ばっかり・・・」
自分の滑稽さや醜悪さ不潔さにも、
古着に身を包んだ女の子達の滑らかな肌や鉛筆の様にまっすぐで細い足の美しさにも気が付かないようだ。

なんだか腹が立って来てこれからの日本の行く末を憂慮しつつフランスパンをバリバリ齧った。
竜柄のコートを翻し片手にブランドの紙袋、脇差かわりにフランスパンを挟んで歩く怪人を夕日が照らしていた。



461名無し草:2011/09/14(水) 08:51:15.67
ああ、東京って素敵!
そうだわ、写真は撮り損ねたけど、東京での体験を書きとめておかなければ。
勝魔の持ってきた箱に、愛用のペンと原稿用紙は入っていたかしらん。
やっぱり原稿は手書きよね、機械で打ち出した文章には情緒がないわ。
でもブログって手書きじゃできないのかしら?

実は、真理子はまだ人のブログというものを見たことがなかった。
462名無し草:2011/09/14(水) 09:02:46.39
男が大きなくしゃみをした。今度は噂のせいじゃない。
山梨のあのけったいな本屋、ブックス・チョロマンタ、いやチョモランマのせいだろうか、
あの強烈な匂い…辺りの空気を揺るがすようだった。
そのせいか時代のせいか、すっかり鼻がきかなくなった城見徹は
独り言を言いながらクサっていた、いや文字通り、どこか腐ったかもしれん。

分厚い身体で薄い小説を書くという女店主、身体は重いが中身は軽い?!
なら、完璧だ!時代は軽さだ、薄くてペラい文体だ。これは使えるに違いない。
いまだ目の当たりにできぬ店長がいったいどんな人物なのだろう。
もう一度、山梨へ出掛けるべきだ…

俺は丸川書店を去る。厳しい時代だがブレークスルーはここにある。
フットワークの軽い俺が、自分に課したハードワーク、
厳冬舎、いい名前じゃないか。

そうだ、携帯用の超消臭力を10個ほどネット注文しておこう!
463名無し草:2011/09/14(水) 09:24:24.71
鬼島は東條に勝魔の鼻腔…、じゃなかった尾行を命じた。
「まず、林真理子が泊まっているホテルを探し出しなさい。
そして、彼女がホテルから外出したら、逐一報告しなさい。
どこの何という店に入ったとか、店から出てきてどこを歩いているかとか。
この目で彼女の姿を見ておきたいの。連絡はメールでいいわ。
くれぐれも彼女には見つからないように気をつけなさい。」
東條は「はいっ!」と答えると、逃げるようにオフィスを出た。

鬼島はスタッフを帰すと、地味で野暮ったい服に着替えて外出した。
464名無し草:2011/09/14(水) 10:06:51.75
呉服屋は腹の中では如何に儲けを出すかのみを考えていた。

「ボンとこのお茶会やったらお譲はんは皆さん振袖でしゃろ。
まさか小紋や付け下げゆう訳には行きまへんやろ。
訪問着やったら結婚しはってからでも何ぼでも着る機会おます。
この大振袖やったら披露宴の御色直しかていけまっせ。」
(あかんあかん。要らんこと言うてしもた。御色直しにはまた違うの買うてもろたらええのんや・・・)

「さくらさんはどうなの?この大振袖嫌い?」
「嫌いだなんて。とても素敵だわ。でも9月のお茶会なら単衣物じゃないと(きっと着物に詳しい御婦人ばかりだもの恥をかく訳にはいかないわ)・・・
大振袖の単衣って大袈裟過ぎの様な気が・・・訪問着の方が目立ちすぎなくて良ろしいんじゃなくて?」
花京院は控えめな事を言うさくらにまたまたぐっときた。
恋愛の初期は何でも良く見えるマジックかもしれない。

「じゃあ。決めよう。茶会はこっちの加賀友禅の訪問着。初釜に大振袖。」
店主大喜びである。
465名無し草:2011/09/14(水) 10:31:33.77
さくらは我に返った。この訪問着は一体いくらするんだろう?
もちろん、着物だけというわけにはいかない。帯がもっと高いことも珍しくない。
シャネル・スーツはおろか、奈緒美のドレスやハリー・ウィンズドンを全部合わせた額を、さらに大きく上回るかもしれない。
ま、待ってください、花京院さん。
素敵な着物に見とれてぼうっとしてしまいましたが、お値段も聞かずに決めるわけにはいきません。
もちろん、自分で払う気なんかさらさらないが、こんな高価なものを当たり前のように貰う女だと思われては困る。
それに、こんなものを受け取ったら、求婚に応じたと思われても仕方がない。
466名無し草:2011/09/14(水) 10:55:45.77
花京院は身もだえした。なんて奥ゆかしい女性なんだー!
でも、彼女の言うことも一理ある。ちょっと先走りすぎたかもしれないな。
にやけたり考え込んだりしている花京院に呆れながら、店主は言った。

なら、一つ紋の無地はどうでっしゃろ。
お嬢さんに一番よう似合う色で染めさせていただきます。
腕のいい職人さんがいるんですが、その人が染めた無地は
下手な振袖よりもよっぽど見栄えがすると言われています。
お茶会に着て行っても、決して恥ずかしいことありません。
その他の小物は、反物が染め上がって来てから、ぼちぼち相談していきましょか。

そう言って店主は出血大サービス価格を提示し、さくらと花京院は快く受け入れた。
467名無し草:2011/09/14(水) 11:07:16.09
花京院は店主に、帯と小物を見繕っておいてくれるように頼んだ。
店主は「かしこまりました」と答え、(初釜用も婚約発表用もご婚礼用も
全部ご用意させていただきます)と腹の中でそろばんをはじいた。
468名無し草:2011/09/14(水) 11:31:45.46
さくらは思った。
「京都といえば、栗東に近い。
あまり派手なことをして、競走馬関係者の耳に入っては困る。」
469名無し草:2011/09/14(水) 11:35:26.99
呉服店「ぜに亀」の店内にいた年配の婦人客が連れの老婦人に囁いた。
「おかしおすなぁ。いま空耳か、店の奥からなにか聞こえましたんえ。」
「どうおしやしたんどすか?」
「石原葬儀社の秋山さんみたいなお方が算盤はじいておられるみたいですの。」
「あの、大阪弁で『あっこはん、もっと儲けはらなあきまへんで』とか、
お言いやすお方どすか?」
「すんません。こんな老舗やのに、私が聞き間違えてしもたのかもしれませんわ。」
470名無し草:2011/09/14(水) 11:39:44.29
ボンボン育ちの花京院は値段を見て物を買う習慣がなかった。
自分のポルシェボクスターに匹敵する物をまだ婚約もしていない女に買い与えたら、
母親がどう思うかまで考えが至らなかったのだ。
ここは店主言う通り押さえておいて正解だったのである。

「今度の茶会では僕が亭主を務めるんだよ。大学の茶会ではやったことあるけど家では初めてなんだ。
急いで主菓子や道具を決めなければ行けない。
菓子職人は呼びよせてあるから良かったら一緒に来てくれる?
正客は前総理の朝晴氏にお願いしてあるんだ。」
471名無し草:2011/09/14(水) 12:40:11.19
真理子と勝魔は偶然にも同時にホテルに戻った。
おしゃれなブティックで買い物した真理子は、財布が心もとなくなっていたので、
コンビニ弁当などを買い込んで部屋で食べるつもりだったが、勝魔は反対した。
(狭い密室でこいつと食事なんて何のバツゲームだよ)
「私が奢るから外に食べに行きましょうよ。でも、私うっかりしてカードを忘れて来たの。
2万円までなら出せるから、どこかの食べ放題でも行きましょうよ。」
カードを忘れたなんてもちろん嘘である。

真理子は舌打ちした。
ほんっと田舎者はけち臭いわね。東京で会ったセレブ達とは大違い。
まあいいわ、もうすぐ私は東京に出てくる。これは私の壮行会ね、うふふ。
「ほんとう!じゃあ、さっきホテルの近くで見かけた焼肉万福(まんぷく)に行きましょう。
食べ放題飲み放題で、お一人様9800円って書いてあったわ!」
472名無し草:2011/09/14(水) 12:54:42.65
東條は佳苗にメールした。
「2人はホテル近くの万福という食べ放題の焼肉屋に入って行きました。」
東條のあとを付かず離れず尾行していた佳苗は全てを見ていた。
が、東條に「了解、仕事を片付けてそちらにむかいます。間に合うといいけど」
フロントを見ると、ちょうど担当が交代し、頼りなさげな感じの初老の男性一人だけになった。
佳苗はすかさず髪を掻き毟ってボサボサにし、顔の半分を隠した。
そしてフロント駆け込むと、「すみません、林です。忘れ物しちゃって、鍵下さーい」と言った。
フロント係は、林という名のすごいデブスがいるとは聞いていたので、
「ああ、この人かあ」と思いながら、何の疑いもなく鍵を渡してしまったが、その後で思った。
そこまで酷くはないだろう。みんな口が悪いなあ。
473名無し草:2011/09/14(水) 13:40:16.13
真理子の部屋に入ったとたん、鬼島は気絶しそうになった。
マスクを忘れたわ。うちに一酸化炭素対応のガスマスクがあったのに…。
ハンカチで鼻と口を押さえながら、鬼島は部屋を物色した。
なんて散らかった部屋だろう。本人はどこに何があるか分かるのかしら?
鬼島は『長野 はくさい』の段ボールの底から「超消臭力 携帯用」を見つけた。
新品未開封が2本と使いかけが1本ある。迷った末に使いかけの1本を噴霧した。
すると、なんということでしょう、部屋に充満していた悪臭がみるみる消えていくではありませんか。
吐き気のおさまった鬼島は、念を入れて部屋中を探しまわった。
きれい好きな彼女は、物色しながら無意識のうちに部屋を片付けていた。
474名無し草:2011/09/14(水) 15:38:44.51
兜塚は妻の奈緒美とともに四畳半の茶室で待たされていた。
茶会は別邸で催されるのだがこちらにも二畳の小間とここの二つが作られている。
妻を同行する事は乗り気ではなかったが奈緒美のたっての願いを拒絶することは出来なかった。
奈緒美は思いもよらず茶室に通され、
いささか華やか過ぎる自分の服装を後悔していた。

そこへ花京院の家族と共にさくらが入って来たのには心底驚いた。
互いに一言も発しはしなかったが上下関係を明確にされた屈辱で頬が紅潮した。
475名無し草:2011/09/14(水) 16:16:07.53
さくらは「お宅へ戻る前にデパートに寄りたいの。」と頼んだ。
昨日渡した菓子折り一つで再び訪問することは憚られたからだ。
母親への土産ではまるで婚約者のようなので、妹への可愛いプレゼントを捜した。
スイス製ローンの刺繍ハンカチはクラシック過ぎる気もしたが自分も大好きな品なのでそれに決めた。

妹に渡すと意外なほど喜んでくれた。
「綺麗ー!ねえねえ見てーお兄様。お花がいっぱいよ。」
そしていたずらっ子の目になりこう言った。
「ありがとうございます。お ね え さ ま。」
476名無し草:2011/09/14(水) 16:46:10.91
駆け引きの多い芸能界に居るさくらは妹の率直な喜び方に心を打たれた。
なんだか涙まで滲んできそうだった。
(私・・・いつの間にか汚れてしまったのかしら。
人の気持ちを天秤にかけるような真似が当たり前になっていたのかしら。)
477名無し草:2011/09/14(水) 19:00:36.97
京女を侮ってはいけない。花京院の妹は斎王代も務めた正統派の京女である。
(ちなみに遊鶴は祇園祭の稚児を務め、正五位を授かっている)
いまどきぶぶ漬けを勧める京都人などいないが、ぶぶ漬けメンタリティは
数百年やそこらで廃れるものではない。

花京院の妹は京都(というよりは京都の上流社会)の生活にうんざりしていた。
こんな古臭くてややこしいところ、もういやや。一人で東京か外国に行って好きに暮らしたいわ。
お兄ちゃんの結婚ついでに、財産分与してくれへんやろか。
私は何にもいらん。東京か外国に100坪ほどの小さいマンションと株と現金が少々、
あとは京都に帰ってきたとき泊まるのに、もひとつ小さいマンションがあれば、とりあえずは十分や。
さくらはーん、家のことはたのんまっせー
478名無し草:2011/09/14(水) 19:45:53.77
花京院の母律子はさくらを見て、
まあまあ可愛らし子やけど宝塚音楽院卒言うことは学歴と呼べるもんはないんやな。
親せきからうるさく言われるのはかなんわ。
お友達の硬軟大学の学長さんにお頼みしてその辺なんとか形付けてもらおか・・・
スイスのフィニッシングスクールに行ってたことにでもして。

自分の家も厳密な階級社会から見れば一段も二段も下に位置することは棚に上げてそんなことを考えていた。
479名無し草:2011/09/14(水) 20:21:48.80
律子はあれこれと考えをめぐらせていた。
兜塚さんの奥さんみたいに大学と名の付くところを出ていてくれたら、
同志舎の大学院の聴講生にでもしてもらえるんやけどなあ。
とにかく、孫が生まれたら絶対に同志舎。男なら祇園祭のお稚児さん、女なら斎王代。
これだけはしっかりやってもらわんと。
そや、さくらさんの歩き方、とりあえずあれから直してもらわんとな。
こんな狭い家で宝塚の大舞台みたいにばっさばっさ歩かれたらかなわんわ。
それに、洋服の時はいいけど、着物の時まであないに背筋ピンと伸ばして顎上げて歩いたら、いい笑いもんやわ。
それからあのお化粧と爪もなんとかしてもらわんと…(ry
480名無し草:2011/09/14(水) 20:45:39.72
律子は世間知らずの息子が心配であった。
さくらに高価な着物を買い与えようとしていたことは、呉服屋から
連絡が入っていた。

(花京院の奥様のお耳に入れんと、いきなりお届けして機嫌損ねたら、
これから京都の街で商売が出来ひん、そうでのうても小さい街ですぐ
噂が広まるさかい、気ぃつけな、あー怖い怖い。)

律子は、さくらは見た目の愛らしさとは違って、かなりしっかり
していると見抜き、これなら嫁にしてやってもいいと上から目線で考えて
いた。息子はデレデレとなんでも買ってやろうとするだろうが、
嫁になるんやったらちゃんと教育せな、あんまり贅沢して、よそさん
より目立ったらあかん。そうゆうて貧乏くさいのはあかん、
そのさじ加減が東京の子にわかるやろか。

花京院の妹は、母の目がイキイキとし、いつもにも増してしゃっきりとした
背筋を見ながら「おー、怖。早いとこパリのデザイン学校の手続き
済まさな。こんなんに巻き込まれたら大変や。」と考えていた。
妹はサンマルコ小学校から同志舎中学を受験し、そして同志舎大学の
英文科を卒業するという今のところ京都のごくノーマルな道を進んでいる。英文科なのに何故パリかというと、幼馴染の老舗の和菓子屋の一人娘が
お菓子作りの勉強という口実のもと、パリに行ったというだけの理由で
ある。
481名無し草:2011/09/14(水) 21:03:14.31
「ぜに亀」の番頭は猪田珈琲の常連だった。
角砂糖3つ、ミルクもたっぷりめに入れた甘いコーヒーを飲むと疲れがとれて頭がシャキッとするのだった。
店内は静かで、隣の席の客の話し声がかすかに聞こえてくる。
カジュアルだが品のある身なりの紳士が二人、馬の話をしているようだ。馬主か?
馬主にはとうていなれないが競馬好きの番頭は、思わず聞き耳を立てた。
どうも競馬の話ではなく、競走馬牧場経営者の跡取り息子の話らしい。
「婚約者はすごいべっぴんさんらしい」「宝塚出身のタレントだとか」
「名前はナントカさくらって言ったかな」という言葉が途切れ途切れに聞こえてくる。
482名無し草:2011/09/14(水) 21:24:11.49
番頭は見た目は髪の薄い板田利夫似の小さなおっさんだが、心は
おばちゃんであった。最初は商売のためにちょっとした噂話を
客と交わしていたのだが、今はおしゃべりが好きで好きでたまらない。
どうも隣の紳士が話している女性は花京院のお坊ちゃんが連れてきた
別嬪のような気がする。「さくらさんは宝塚出身だから着物もやっぱり
華やかなのが似合うなー」と言っていたはず。
いや、そんな偶然が、あるだろうか。
途中から甘いコーヒーのことも忘れ、番頭の身体は二人の紳士のほうに
傾いていくのであった。
483名無し草:2011/09/14(水) 21:41:50.61
女たちの思惑も知らず鶴遊は兜塚の菓子見本帳をさくらと共に見ていた。
親たちはここは試練と一切の支度を任せる事にした。
「若旦那様、若奥様」という呼び方に戸惑う様子のさくらがまた可愛らしかった。

関西方面へ進出する為の絶好の機会を得られた兜塚も張り切っていた。
東京では正統派和菓子店というより『和風スィーツ』扱いなので、
お茶事には避けられる傾向にあった。
自信はある。老舗菓子店にも負けない意匠を凝らした和菓子の数々を認められたかった。

484名無し草:2011/09/14(水) 21:45:46.32
番頭は服飾評論家の壱田ひろみと仲が良かった。
(といっても男女の仲ではないw)
二人を結び付けているのは、着物、
そして甘い物と噂話が大好きという共通点であった。
485名無し草:2011/09/14(水) 22:18:40.01
焼肉万福は、本来は食べ放題をするような店ではなかった。
だが、狂牛病騒ぎ以降ずっと経営が思わしくなかった。
持ち直したかと思うと、世間では口蹄疫、生肉による食中毒、汚染飼料など
新たな事件が発生し、まさにジリ貧状態であった。
オーナーは地元信用金庫から追加融資を断られ、覚悟を決めて背水の陣を敷いた。
果たして、9800円の食べ放題・飲み放題は大成功であった。
雑誌に紹介された当初は連日満員御礼で、それから数ヶ月経った今も、
週末は「予約の取りにくい店」と言われている。
今日は平日なので多少の空席はあるが、それでもまずまずと言っていいの客の入りだ。
オーナーは、今度こそ大丈夫だよな、とつぶやいた。
486名無し草:2011/09/14(水) 22:23:50.21
花京院家で華やかなお茶会が催されると聞きつけた奇想K子は何とか
そこに招かれたいものだと身もだえしていた。
彼女は京都好きをこじらせて、いや、京都好きがこうじて、京都の
うんと年下の男と、夏は暑くて冬は寒い手入れの大変な町家を
手に入れ、京都在住という肩書きを手に入れたエッセイストだ。
「そんなことまでして京都に住まはらへんかてええのに」とやんわり
京都人から拒絶されているのを気付いているのか気付いていないのか
定かではないけれど、今のところは機嫌よく暮らしている。
錦市場でどんなに安くて美味しいといわれても下仁田ねぎには目もくれず
九条ねぎ、桜島大根を軽く蹴飛ばし聖護院大根を購入する徹底ぶりである。
しかし料亭で使われている鱧は韓国ものが主流、季節を先取りした早松と
呼ばれる松茸は北朝鮮のものであるというのに、わざわざ「京都のもの」、
「京都のもの」と新興宗教のお題目のように唱えている。
487名無し草:2011/09/14(水) 22:54:20.54
さくらは今ここに居る事が半分夢の様だった。
亡国ホテルで真理子に辟易としたこと。
花京院と踊ったパ・ド・ドゥ。
誘われるまま飛ぶように京都に来た事。
たった2〜3日の事とは思えなかった。

(私、今幸せなのかしら?)
しかし心の中に言い知れぬ暗雲が押し寄せて来た。
その正体はすぐそこに迫ってきているようで怖くて堪らなかった。
(この人と離れちゃいけないんだわ!)
488名無し草:2011/09/15(木) 00:21:38.01
万福でまんぷくになるぞー、おー! 
真理子はかわいく叫んでこぶしを振り上げ、店に入っていった。
489名無し草:2011/09/15(木) 01:06:32.29
席についた真理子と勝魔は、まずビールで乾杯した。
料理の注文は真理子が率先してオーダーをする。
「タン塩2、上ロース2、上カルビ2、…2、〜〜、…2、ご飯大2、テールスープ2、とりあえずはコレで」
メニューを閉じ、勝魔に渡し「あなたは何にする?」と言い放った。
え?二人分じゃなくて自分の分だったの?
「えーっとチシャ菜をひとつ、あとは真理子さんのをつまむわ」勝魔はすでに食欲がなくなった。
「何よ、人のをアテにしないで。どうせ注文の仕方もわからないんでしょう。
お兄さん、さっきの注文全部3にして持ってきてね」

ボーイは女性二人では多いですよ、と言いかけたがこの大女では仕方あるまい
かしこまりました。と下がろうとした瞬間に呼び止められた。
「あとビール大、いいえピッチャーで持ってきてね」
490名無し草:2011/09/15(木) 01:38:45.35
程なくして、ビールと肉類が運ばれてきた。
真理子は皿ごと傾けて、網いっぱいに肉を乗せながら話し出した。

東京に来てから出会った著名人たちの名を並べ、自慢話のスタートだ。
勝魔はテーブルの下でICレコーダーのスイッチを押す。
喋れ、喋れ。そして私の金となれ!

真理子は網の上の肉を、箸で一周グルリと掴み小皿のタレをたっぷりつけた。
肉とタレとご飯を一気に口に放り込んでビールで流し込む、なんという幸せ。
食べるスピードも喋るスピードもどんどん加速するではないか。
491名無し草:2011/09/15(木) 01:49:58.71
ボーイは、3ちゃんねらーだった。
しかも、彼の祖父は、奇しくも真理子に
座席シートを汚されたタクシードライバーだったのだ。

ボーイは、動悸を抑えながらオーダーシートを
大急ぎで厨房に持って行くと、トイレに駆け込んだ。

トイレの個室に入り、ポケットから携帯を取り出すと
『3ちゃんねる』の掲示板に早速書き込みをした。

579 名前:名前のある名無しさん@├\├\廾□`/ :2011/09/15(木)                ,, -―-、       
             /     ヽ   
       / ̄ ̄/  /i⌒ヽ、|    オエーー!!!!
      /  (@)/   / /          
     /     ト、.,../ ,ー-、       
    =彳      \\‘゚。、` ヽ。、o   
    /          \\゚。、。、o
   /         /⌒ ヽ ヽU  o
   /         │   `ヽU ∴l
  │         │     U :l
                    |:!

女怪人2人組に遭遇〜〜〜!!!
492名無し草:2011/09/15(木) 02:23:49.11
テーブルの上の皿はいつの間にか空である。
食べ放題だから一皿に乗っている量が少ないのよ。ケチね。
「すみません、ファミリー赤肉セット2つ、ファミリーホルモンセット2つ。ご飯大2つ。ビールをピッチャーで」

「それでね、マッサージ行ったじゃない?どう?」
「すごいわ、まるで別人よー。ねぇ、さっきの話とその変身ぶり。
山梨のみんなに自慢しちゃいなさいよー。
丁度明日、収穫祭の集まりがあるじゃない?みんな驚くわよ!」
勝魔はそれとなく話を誘導する。真理子はそうねぇ、と肉とご飯を飲み込みながら思案した。

二度目の注文のオーダーシートを厨房に投げ入れたアルバイトの女子大生は
柱に隠れてケータイを取り出した。今流行りの「イイッター」である。

大食いオバサン来店。店長青ざめてる。高級感だいなし〜。
2010/09/14 iitta mobile
493名無し草:2011/09/15(木) 07:00:31.36
厨房は勿論大わらわ。
本日予定分の肉は既に出尽くし、翌日分を切り始めた。
これが無くなったら冷凍庫から出さなくてはならない。
上手く解凍しないとドリップが出てしまい焼いた時の味が落ちてしまう。
すると店の評判が落ちる。それでは困るのである。
店長はどんどん減って行く肉を見て心配になってきた。
「噛んだ時にジュワワーと肉汁(にくじゅう)が出る美味しい肉が自慢なのだ。
『にくじる』と言うお馬鹿タレントが多いせいか店でもそういう客が多いのには困ったもんだ。」
494名無し草:2011/09/15(木) 08:30:19.32
店長は腹をくくった。
翌日分は他のお客様に、あの客には冷凍肉を出そう。
あの勢いでは、味なんか分かっていないはずだ。
せっかく付いた顧客を逃すわけにはいかない。
495名無し草:2011/09/15(木) 08:49:14.88
クズ肉をかき集めて、超大盛りチャーハンを作れ!
他にも何でもいいから腹にたまるものを用意しろ!
肉を食うペースを落とすんだ!
絶対にこの店は守ってみせるーーー!!!

店長はまるで、巨大火災を前に部下達を鼓舞する消防隊長のようであった。
果たして、東京大空襲の火災にも匹敵するような真理子の食欲を
彼らは制圧できるのであろうか、
そして彼ら全員、無事に生還できるのであろうか…
          <次週へ続く>
496名無し草:2011/09/15(木) 09:10:04.54
「当店のスペシャルサービスでございます。」という言葉と共に真理子の前に出された超特大メガ盛りチャーハン。
「えっスペシャルサービス?」真理子はこの魔法の言葉に弱かった。
勝魔は見ただけで気が遠くなりそうだった。

山盛りチャーハンの上には脂身で作ったビーフカツレツも乗っている。
497名無し草:2011/09/15(木) 09:17:58.99
衆人環視の中カツレツを頬ばった『じゅわわーん』そりゃあさぞかし肉汁たっぷりな事だろう。
「美味しい!今まで食べた中で1番美味しいトンカツだわ!」感動した。

店長は自分の判断が正しかったことを認識した。
牛と豚の区別もつかない客だったとは・・・トホホ
498名無し草:2011/09/15(木) 09:34:30.81
特大のスーツケースを転がし、店長の妻が裏から入ってきた。
店がこんなときに海外旅行か、それとも夜逃げか?
妻がスーツケースを開くと、どよめきが起こった。
中には「スーパー業務」で買ってきた肉と焼きソバがどっちゃり入っていた。

真理子の体臭に気付いたフロア・マネージャーは、
「初めていらした女性グループのお客様に特別サービスです」と言って、
空いた個室に2人を移した。
ここの換気扇は特に強力でよく効くのである。

最初に真理子達が座っていた席は、犬が喰い散らした後のように汚かった。
499名無し草:2011/09/15(木) 09:44:09.19
フロアマネージャーは名刺を渡して言った。
よろしければ、お名前をお伺いできますか?
林さまと勝魔さまでございますね、ご利用ありがとうございます。
次からは前もってお電話いただければ、良いお席をご用意させていただきます。

すぐに2人の名前がブラックリストの筆頭に載ったのは言うまでもない。
しかも、とばっちりを受けて勝魔まで「予約が取りにくい」客になってしまった。
500名無し草:2011/09/15(木) 09:45:15.14
個室に移る途中もスタッフがトンカツを盗み食いしやしないかと目を光らせる真理子であった。
501名無し草:2011/09/15(木) 09:55:37.52
東條は店の外で見張りを続けていた。
「2人はまだ店にいます。先生は何時ごろ来れますか?」とメールを送った。
502名無し草:2011/09/15(木) 10:19:08.75
鬼島は「まだ分からない」とだけ返信した。

ないわ、日記がない。あの2人のどちらかが持ってるのかしら。
じゃあ他に何かないかしら。

あら、これは何の薬?
あの女、情弱そうだけど病弱ではないわよね。もしかしてダイエットサプリ?
これを持って帰って調べてみましょう。何か分かるかもしれないわ。

鬼島は例の薬をポケットに入れた。
503名無し草:2011/09/15(木) 10:26:48.40
「律子はん。遊鶴の連れて来た子ー可愛いなあ。」
姑のすずであった。
年は取ったが若い頃はとびきりの美人だった事は十分に伺い知れる。
「二人並んだらほんまにお内裏様のようや。私もようやく安心して参らして貰えます。」

(いつもは婆様仲間とやれ芝居見物やれ温泉巡りと元気なのに、しおらしい事言わはっても・・・
ほんまにもうええ加減お父さんのとこへ・・・)
律子は心の中に本心を飲み込み、
「はんまですねー。可愛らしい子ですわお母さん」と言って置いた。
504名無し草:2011/09/15(木) 10:43:42.14
律子は結婚後ながい間子宝に恵まれなかった。
その間、このはんなりした京都弁でチクチクと嫌味を言われたことを忘れていない。

両親の結婚10年目にやっと授かった遊鶴は、みなからベタベタに甘やかされて育ったのだ。
505名無し草:2011/09/15(木) 10:51:23.15
未来の姑と大姑の静かなるバトルも知らず、
若い二人は庭園を散歩していた。
怒涛の様に押し寄せる感情のまま行動していた二人は未だ正式な求婚をしてもされてもいない事に気が付いていた。
花京院は急に不安になってきた。
(茶会や着物や菓子やと細かい事ばっかり進んで肝心な事がまだやった。
さくらさん応じてくれるやろか・・・何と切り出したら良いものか・・・)
ところが意外な程言葉はすらすらと出て来た。

「さくらさん。僕と結婚して頂けますか?」
さくらは(ようやく言って下さったわ。ただ連れまわして自慢するだけの女なのかも知れないなんて考えちゃったわ。)
506名無し草:2011/09/15(木) 11:59:59.72
 チェンジしたばかりの炭焼の網の目が全く見えなくなるほど肉でふさぎ、
真理子はきょろきょろと個室を見回して人目がないのを確認してから
小さな声で勝魔にささやいた。
「あのね、カズちゃん、アクセル01の会合とか、他人の前では見せられなかったんだけど」
「?」
 勝魔はジンジャーエールをストローで飲み干しながら挙動不審の真理子を見た。
「カズちゃんだけに秘密の技を見せてあげる」
(………いまさら何やるんだよ、この大食い女)
「ぜーーーたい、他の子には内緒だよ、指切りねえ」
 小学校の少女の様に小声で言うと、背骨をピンと伸ばし座った。
 くちびるをあひる口にすると真理子はすうううううううと深呼吸をした。
(ぃええええええ!エエエエエエエエェ!)

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
すぽん すぽん すぽん すぽん

 勝魔は焼き肉屋でそこにはあるはずのない大損の掃除機の吸引力のようなものを見た。
網の上の焼き肉が宙を浮き、真理子のアヒル口に吸い込まれている様を。
(人外!人外だよ、この女、クリーチャーだよ、モンスターだよ)

「ね?こうすると、箸を使わなくていいし手も汚さないから、便利だよ!」
(そんな問題じゃねーだろ)
勝魔は泣きながら詳細をスマートフォンにメモした。
507名無し草:2011/09/15(木) 12:13:29.81
花京院家を訪れる者があった。律子の親友、悦子である。
2人は根良女子大の同級生で、悦子は滋賀県にある格式の高い寺に嫁ぎ、
今ではその寺附属の幼稚園園長もしていた。
悦子はまず仏間に上がって花京院家の先代にお参りし、すずの好きな洋菓子を供えた。
(すずに限らず、京都人は実は新しもの好きである。
 奇想K子は何か勘違いしているようだが)
そして、律子ではなくすずに向かって
「本当にご無沙汰しております。今日は園の用事があって出て来たんですが、
思ったより早く終わったので、お参りに寄らしてもらいました」と丁寧に挨拶した。
(こういうところは、超保守的である)
すずは気を良くし、
「まあまあご丁寧に、ありがとうございます。
律子はん、せっかくやからカフェーでも行って来たらどうや。」と2人を送り出した。

外へ出ると悦子はあたりを憚りながら言った。
「うちは人が多くて電話でもなんでも筒抜けやから、わざわざ出て来たんや。
あんな、檀家さんに馬の調教師をしてはる人がいてな、その奥さんの話やと
ある牧場の後取りさんとこで縁談が進んでるらしいんやけど、
そのお相手が……、どうもあの子らしいんや。」
508名無し草:2011/09/15(木) 12:41:40.69
個室のドアの隙間から、3ちゃんねらーのボーイが覗いていた。
彼はその世にも恐ろしい光景を、ケータイに収めることに成功した。
509名無し草:2011/09/15(木) 13:19:00.60
すずの許可を得て出て来たとはいえ、遅くなれば嫌味を言われる。
律子と悦子は近くの猪田珈琲に入った。もちろん知り合いだらけである。
悦子は女子大時代の思い出から少子化で園児が減っていること、そして猪田珈琲のケーキの味まで、ペラペラと喋りまくった。
動揺している律子は、適当に相槌を打つだけでよかった。
はた目には、花京院の女将と友人がお喋りに興じているようにしか見えなかった。
律子は心の中で、悦子の気遣いに感謝した。
510名無し草:2011/09/15(木) 14:25:32.67
勝魔は聞いた。
「麻生さくらってキレイだった?そういえば大牧場の御曹司と付き合ってるってスクープされてたけど、結婚するのかなあ」
真理子はムッとした。
「何ですって、あの女、亡国ホテルでイケメンと踊ってたわよ。あの男は牛飼いってかんじじゃなかったわね。
ってことはー、その牧場の御曹司はフリーになるわけよね。私がいただいちゃおうかしらん。
そうしたらお肉が食べ放題だわww
あ、でも、東條さんのことはどうしよう。ああん、こまっちゃうー!」
511名無し草:2011/09/15(木) 14:48:27.35
勝魔は思った。

−−こいつ、競馬の事はご存知ないのね、当たり前だけど。
牧場といえば酪農と肉牛、つまり食い物の事しか思いつかない。まったくもう、短絡的なんだから−−
512名無し草:2011/09/15(木) 15:34:43.23
でも面白いのでからかってやる事にした。
「そうよ。カウボーイよ。広い大地を馬に乗って駆け廻ったらあなたももっとスマートになってアメリカ女みたいになるわよ。」
「アメリカ!アメリカって言ったらUCLAの本場じゃないの!エプロンよエプロン。」
「へっ???(訳分かんないわ)」
予想のはるか上を行く真理子の反応に勝魔は「駄目だ処置なしだわー」と思った。
513名無し草:2011/09/15(木) 16:03:40.78
すずの膝には『週刊サタデイ夏の合併号』が乗っていた。
こう見えても週刊誌は大好きである。
食品偽装問題は自分たちにとっても死活問題なのでファイルを下働きの子に命じて作っている位だ。

サタデイには「牧場主の御曹司、元タカラジェンヌとついに結婚か!?」と見出しが乗っていた。
「ふーん。阿保らし。馬屋さんごときが・・・」と言うと猫足のテーブルの上にポーンと置いた。
子機を手にすると女中に命じた。
「遊鶴に私の部屋へ来るように言って頂戴。」

「お婆ちゃん。何?」
すずは「あのな」と言いながら振り向いた。(鶴ちゃんは好きなおなごに他の男と噂が立っていることを知ったらどない思うやろ。)
そこには満面の笑みを浮かべた遊鶴が立っていた。普段物事に動じないクールな彼には珍しい事だ。
後ろにさくらも。

どうやら焦らされたりせず、色良い返事をもらえた様である。
514名無し草:2011/09/15(木) 19:11:54.57
その頃、件の牧場では馬たちが集団ヒステリーを起こしていた。
飼育係たちは、野犬でも入り込んだか、それとも巨大地震の前触れか?
と色めき立ったが、ほどなくして厩舎は落ち着きを取り戻し、みなほっと胸をなでおろした。
が、跡取り息子だけはなぜか嫌な胸騒ぎを覚えていた。

同じ頃、東條の背中にゾクゾクッと悪寒が走った。
515名無し草:2011/09/15(木) 19:44:10.36
「いけない、UCLAのエプロンは山梨に置いてきてしまったわ、取りに戻らなくちゃ……」
 真理子は山梨とつぶやいた後、大粒の涙をこぼした。
「………そういえば明日は収穫祭だったわね、思い出させてくれてありがとう、カズちゃん」
 そうだ、収穫祭、皆今年の秋に採れたものを集まり料理して食べる。小さな町のささやかな祭。
 ぶどう農家の人はぶどうをふるまい、米農家のお米はお寿司や炊き込みごはんにしてふるまわれる
山梨には海はないけど、見栄っ張り気質なので、寿司屋の店数だけは全国上位クラスだって、ローカルを
紹介するミノ・紋太の番組でやってたわ。そお、山梨の人はお魚が大好き。しかも鮮度を求められる
お寿司に目がないのよ。
 農家ではないけど、美輪のママが年に一度だけ収穫祭のためだけに特別に作ってくれるフランスパンのラスクや、
「このジャンクな味がやみつきになるんだよね」と言いながら江原くんが新米で作ってくれるスパムおにぎりも
美味しい。これがないと秋が来たような気がしない。
 毎年真理子はUCLAのエプロンをつけて、つまみ食いをしながら、収穫祭を手伝っていたのだ。
516名無し草:2011/09/15(木) 19:49:52.09
仔馬  お母さん、こわいよう、誰かがぼくたちを食べに来るよう!
母馬  大丈夫よ。その化け物が好きなのは、脂身たっぷりの牛さんや豚さんだから、私達は大丈夫よ。
517名無し草:2011/09/15(木) 20:22:41.47
お馬さんは化け物の事を侮っていた。
牛さん豚さん羊さん鯨さん・・・そして馬刺しも大好物だったのだ。

真理子の脳内では「フランスの田舎町でペザントルックの村娘が籠いっぱいの葡萄を運んでいる姿」に誤変換されていた。
518名無し草:2011/09/15(木) 21:44:25.87
競走馬生産牧場のオーナーは、息子とさくらの交際を快く思っていなかった。
さくらの人柄が気に入らないのではない。
気に入らないのは、「さくら」という名前だった。
言うまでもなく、さくらとは馬肉を指す意味でも用いられる。
勝負の世界では、何かと縁起を担ぎたがる人も多い。
現に、2人の交際がスクープされたときに、競走馬関係者から嫌味を言われたのだ。
牧場の嫁の名前が「さくら」では、聞こえが悪すぎる。
519名無し草:2011/09/15(木) 22:00:53.34
勝魔は言った。
そうよ、明日は収穫祭よ。早く山梨に帰りましょう。
今ならまだ最終便に間に合うわ!
520名無し草:2011/09/15(木) 22:47:37.56
「でも待って。みなさんに挨拶もなしに帰ったんじゃ嫌な女と思われないかしら?」

「何人かとは連絡先を交換してるんでしょ?それならいつでも会えるじゃない。
それに相手の顔色ばっかり見ていたら忙しいアナタは予定がこなせないわよ
それに特に告げずに最終便で帰る女、カッコイイと思うわ。都会的よ。」

「そうね。そうよね。収穫祭に私が出ないなんて、会が盛り上がらないわ。
みんなにトーキョーの様子も教えてあげたいし。
じゃ、このテーブルの食べちゃったら帰りましょ。」

帰るという言葉に勝魔は胸を撫で下ろした。
真理子は肉を更に加速して食べはじめた。
まだまだ皿は並んでいるが、すぐのうちに無くなるだろう。
521名無し草:2011/09/15(木) 23:16:11.06
佳苗は、探すのを諦めた。収穫は、例の薬だけだ。
もう一度「超消臭力 携帯用」を自分の服に吹き付けて臭いを取り、こっそりと部屋を出た。
幸いなことに、さっきのフロント係は接客中だった。
「どうもー」と言ってフロントに鍵を置くと、小走りに出て行った。
フロント係は思った。
ちょっとぽっちゃりだけど、かわいいもんじゃないか。
だいたい最近の若いもんは、小顔でガリガリに痩せたのがかっこいいと思ってるみたいだが、
あんなのどこがいいんだか、まったく。

ホテルから少し離れたところで、
佳苗はバッグに入れておいた高価な薄手のコートを取り出して羽織り、
変装用の野暮ったい服を覆い隠した。
「よかった、ほとんど皺になってないわ」
コートの表面を撫でながら、東條に電話した。
「やっと着いたわ。今どこ?」
焼肉屋の近くの物陰から東條が手を振った。
522名無し草:2011/09/15(木) 23:29:14.32
万福の店長が個室に入ってきた。
「もしよろしければ、裏メニューの特製やきそばをご用意させていただきますが」
真理子は大喜びだが、勝魔は何も食べていないのに胸焼けがしてきた。
これから山梨に帰るんじゃ、途中でお腹が空いてしまうわ。
何かお腹にたまるものをちょっと食べて行かないとね。

ほどなくして、ボーイが2人がかりで小山のようなやきそばを運んできた。
油でギラギラと輝く麺の上には、例の脂身で作ったビーフカツレツが乗っていた。

うれしい!店長さんは私の好物を覚えてくれたのね。
もしかして私にきがあるのかしら〜
523名無し草:2011/09/15(木) 23:50:25.00
名前など改名させればいいではないか。
競走馬生産牧場のオーナーはそう思った。
ネーミングのうまい馬主にアイデアをもらって、占い師にでもいいのを
選んでもらおう。
所詮名前なんて番号みたいなもの、「いくら」でも「おくら」でも
大した問題ではない。呼び続けているうちに「さくら」という名前を
みんな忘れるだろう。
栗東に出張だといった息子はちゃんと仕事をしているんだろうか。
基本的には田舎者の息子が牧場が発展するに従い、どんどん付き合いが
派手になっていくのを案じていた。
種兄弟と祇園で遊んでいるのだろうか。
有名な種豊騎手、名前だと子沢山のようなのに、いまだに子どもに
恵まれないのはタネが・・・、いやいや、人様のこと、まあ関係ない
とはいえ、あの遺伝子を受け継ぐものがいないのは残念だと、馬の
生産者らしいことを考えていた。
524名無し草:2011/09/16(金) 00:03:03.48
でもこのままでは山梨に帰れなくなってしまう。
勝魔はイライラしながら時計を見ていた。
真理子もは肉を食べつつも明日の収穫祭のご馳走が楽しみでたまらない。
そうだ、いいことを思いついた。

「とっても食べたいんだけど、私最終便で帰らないといけないんですの。
これ持って帰るんで包んで頂戴よ」

食べ放題の店で持ち帰りたいといいのは非常識極まりない発言である。
しかしこれで打ち止め、となればありがたい話である。
「かしこまりました。すぐに。しかしこれは特別なサービスですので
持ち帰りのことはシークレットでお願いいたしますね。」
オーナーはいそいそとテイクアウトの準備を進め、二人は帰り支度を始めた。
525名無し草:2011/09/16(金) 06:55:31.56
東條と佳苗が息をひそめて店の物陰で待っていると、5人前ほどの折詰を入れたと思われる風呂敷包みを
下げた巨体の女と普通体型の女がいそいそと出てきた。
「あれです」
「あああ……思っていた通りよ、私が求めてる小説の喪女のモデル………」
 いや、思った以上の喪女ぶりだ。きっと処女に違いない。
 佳苗は笑みをうかべた。
「祝井が遭遇した狂女とも共通点があるわね。あの女、それをモデルにして小説書くとか言ってたわ……」
 振り向き東條の顔を見ると冷たく言い放った。
「山梨で引き続き尾行をして、彼女の行動を報告してちょうだい。それから、勝魔にも気をつけて、あの女が裏切って
祝井に情報を売らないように監視して」

 その頃しまんこちゃんは…
 自宅で年下の夫といちゃいちゃしながら、ファンからメールで送られてきたシコシコ動画のリンクを見て狂喜していた。
 「亡国ホテルの大食い女」
 「タワーマンションのエレベーターの女」
 「万福の恐怖のバキューム女」
 この人間業とは思えない女の行動に
 「うわ、なにこれ〜面白すぎる」
 と叫んだ。
526名無し草:2011/09/16(金) 07:28:31.68
「ふーん。お兄ちゃんほんまにあの人と結婚することに決めたん?
(他人の前では『お兄様』だが家の者だけの時だと鶴ちゃんと呼ぶ時もある妹だ)
この前一緒にバリ島に行ったイタリア人はどないするん?
ローザンヌでスカラシップとって英国ロイヤルバレエ団行った子は?」

遊鶴は答えた。
「あの人たちはみんなお友達や。」

わかっているくせに妹は驚いた振りをして兄を困らせる。
「えーっ旅行の事、お父さんもお母さんも知らないのよね。
うちなんだか急に親に隠し事してるの心苦しくなってきたわ。どうしょうかなあ。」

「どないして欲しい?」

「お願いがあるのよ。フランス行きの事応援して欲しいの。
嫁入り前の娘がって・・・お母さんが反対なの。
外国留学なんて普通の事なのに世間体ばかり気にするのよ。
お婆ちゃんより古くさいわ。
このままずうとお嫁に行くまで家に居るなんていやや。」
527名無し草:2011/09/16(金) 08:11:14.06
呉服屋は思いがけない電話を受けて驚くやら嬉しいやらで天にも昇る気持ちだった。
花京院の大奥様から電話がきたのだ。

「この前、孫が見ていた大振袖と訪問着ちょっと家まで持ってきて頂戴。
それと一つ紋な。染めは未だやろからうちの紋に変えておいて。
紋は知ってるやろけど前総理の朝晴さんとおんなじ『違い釘抜』や。」
528名無し草:2011/09/16(金) 08:32:04.30
しまこの元に担当編集者から電話が入った。
明日山梨で祭りがあるんですが、行ってみませんか?

しまこは地方の祭りが大好きだった。
都会の日常生活にはない野卑な活気に満ちている。
男や女のシンボルをイメージした御神体なんかが出て来た日には、
興奮のあまり全裸になって踊り出したくなるぐらいだった。

「いくいくいくー!!!!!」しまこは絶叫した。
年下夫と編集者は、それぞれ自分の都合のいいように解釈をした。

昔の地方の祭りの中には、夜になると若い男女が自由に愛を語らうことを許されることもったというが、
いまどきそんな風習の残っているところはほとんどないだろう。
529名無し草:2011/09/16(金) 08:40:40.16
すずは嫁いでから数十年の間ずっと女紋を使っており、
未だにこの家の紋を使ってはいない。
しかし律子やさくらにまで同じ事をさせる気は無かった。
530名無し草:2011/09/16(金) 08:43:56.26
真理子と勝魔はホテルに戻った。
鬼島に鍵を渡した初老のフロント係はたまたま奥にいて、別の若い係が応対した。
2人が部屋に行ったあと、若いフロント係は言った。
すげーデブス! それにあの臭い。清掃係が逃げ出すかもな。

初老のフロント係は思った。
やれ小顔だダイエットだ、消臭だ抗菌だ、まったく最近の若いもんは…
531名無し草:2011/09/16(金) 09:12:04.17
勝魔に部屋の鍵を開けさせている間に、真理子は万福で貰った折り詰めを床に置き、
風呂敷の結び目を解こうとしていたが、芋虫のような指ではなかなかうまくいかない。
「真理子さん、それは後よ!最終便に間に合わなくてホームにポツンと佇む女なんて、格好悪いでしょう!」
それもそうだ。
真理子は慌てて荷物をまとめた。
勝魔はさっきより部屋が片付き、悪臭がかなり消えているのに気付いた。
あら、こんな時間にお掃除に来てくれたのかしら?

ゆっくり考えているヒマはない。
勝魔は「超消臭力 携帯用」を取り出して自分と真理子にたっぷり吹きつけ、部屋を出た。

エレベーターに乗ると、また真理子はうずくまり風呂敷包みと格闘し始めた。
諦めた勝魔はロビーに着くと、真理子をソファーで待たせ、代わりにチェックアウトをしに行った。
宿泊料金はチェックイン時に現金で払ってあったが、ミニバーの利用代金が3万円近くになっていた。
勝魔はチッと舌打ちして、自分の財布から補填した。
早くあの小切手を換金しないと。でも、山梨で換金すると目立つかしら…
532名無し草:2011/09/16(金) 10:24:12.67
兜塚は主菓子に干菓子それに引き出物の羊羹の注文まで受けて張り切っていた。
茶会前の一週間は東京の店に出ている暇はないな。
いよいよ俺も上流階級の客をつかめるチャンスが来たか。

気がかりなのは奈緒美だった。
浮かない顔したと思ったら不機嫌になったり女は本当に分からない生き物だ。

帰り際に奥様から「お茶会にはあなたもいらしてね。」と言われたけれど、
客として行けばよいのか・・・それとも職人の妻として行くのかしら・・・
どっちしても新しい着物を誂えなくっちゃ。
それからお顔のメンテだわ。
533名無し草:2011/09/16(金) 12:31:57.04
奈緒美は和服も良く似合った。
「外道の妻たち」に出演した時は、巌下志摩子や片瀬りをにも見劣りしないと言われた。
534名無し草:2011/09/16(金) 12:43:51.48
おしゃれの店ブティックサンダー店主・三田ツル子は
今かいまかと孫の帰郷を待ちわびていた。
毎年収穫祭の時期に、娘のツル美が孫・ツル彦を伴って戻ってくるのだ。

葡萄の取れる秋は、毎年大勢の観光客で街が賑わう。

ミスぶどう娘になると、目玉イベント「乙女の葡萄踏み」を任される。
エプロンスカートを身につけ、樽の中に入ったぶどうを素足で踏むのだ。
樽にはパイプが取り付けられていて、脇に置かれたバケツに葡萄汁が注がれる。
遠い昔、ツル美が「乙女の葡萄踏み」に選ばれた年があった。
大勢の観光客が寄って来ては、ツル美の姿を写真に撮ったものだ。

「ツルちゃーん!私も手伝うずら」手を振りながら、真理子が後方で叫んだ。
はちきれんばかりのエプロン姿の真理子が、ツル美のいた樽に乱入して来た。
葡萄がブチブチと音を立て、パイプから滝の様に葡萄汁が流れ出てバケツがひっくり返った。

カメラ片手の観光客が蜘蛛の子を散らすように、その場からいなくなってしまったのだ。

その年を境に、商店街では真理子にご馳走を出し、収穫したばかりのワインを振舞った。
もちろん、「乙女の葡萄踏み」が開催されている時間帯に限ってだが。



535名無し草:2011/09/16(金) 13:00:01.26
佳苗としまこ、二人の女が真理子に対して並々ならぬ興味を示していた。
が、二人の真理子に対する態度はかなり違っていた。
佳苗は、デブスの喪女として徹底的に見下していた。嫌悪感を通り越して殺意すら抱いていた。
もしかしたら、同族嫌悪というものかもしれない。
一方しまこは、もとから異形のものやタブーというものにどうしようもなく惹き付けられる
という性癖の持ち主であった。
「人目?なにそれおいしいの?」と言わんばかりの真理子の解き放たれた自由な精神に、
羨望とも嫉妬ともいえるような感情を持つことはあっても、決して佳苗のように蔑む気持ちはなかった。
この、羞恥心や保身とは無縁の狂女のに対する強い執着心は、一種の「愛」と呼べるかもしれない。
ああ、もう一回あの女に会いたい!
「あああ、もう一回!!!!!」
そう叫びながら、しまこは夫の上で激しく腰を振った。
536名無し草:2011/09/16(金) 13:13:55.21
東京から山梨に向かう最終便は、焼肉の臭いが充満していた。
運良く取れた指定席を探し当て座るやいなや、真理子は風呂敷を引きちぎった。
中から現れたのは焼肉丼である。
ご飯の上にびっしりと敷き詰められたのは、「スーパー 業務」で一番安い豚バラ肉で、
かかっているのは「ゑ腹やきにくのたれ 業務用」であるw
走ったらお腹が空いちゃったあ、と言って真理子は食べ始めた。

家にたどり着いた勝魔は、ベッドに倒れこむと、そのまま死んだように眠った。
体じゅうにまとわりついた焼肉の臭いは気になったが、もうシャワーを浴びる余力はなかった。
537名無し草:2011/09/16(金) 14:47:44.09
すずは呉服屋が持ってきた大振袖を見て、自分の娘時代を思い出していた。
「綺麗やねえ。こんなん似合う頃にもう一度戻りたいわ。」

嫁入りの為に母が用意してくれた沢山の着物はまだ大切に箪笥にしまわれたままである。
総疋田絞りの振袖など今の物より出来が良い位だ。
孫娘に譲ろうとしたが着物よりフランスのものばかり欲しがる子で、
春と秋の新作受注会で何着もオーダーいている。
(さくらはんなら着こなせるかも知れへんな。
せやけどおばあさんのお下がりなんて嫌がるやろな。)
538名無し草:2011/09/16(金) 16:26:51.54
強面の男がシウマイ弁当を買っていた。
普段はこんな脂肪と炭水化物だらけの弁当は買わないのだが、
なぜか今日は朝からこんなものが食べたくなった。
やはり鼻のせいか味覚が狂っているのかもしれない。
しかし、本能にまかせることにした。
男の姿、動きはやたらゴツゴツしていた。

いや、ここまで重いとは思わなかった。
山梨まで腰がもつだろうか?
しかし、どうしてもこれは必要なのだ。
城見徹の風貌は戦闘地帯を生き延びてきた傭兵のようでもある。
年は食ったが人も食ってきた、大丈夫だろう。
胸にはいざという時のため、手榴弾型で遠くまで投げられる
超強力な、アルティメイト消臭力が詰め込まれていた。

なぜか最近売り上げが増えたエスパー化学の株価は急上昇していた。
539名無し草:2011/09/16(金) 16:42:55.22
第一章「真理子、おら東京さ逝ぐだ」完

CM
ルールルルル、ルルルルル、ルールルルッルルルル♪
ルールルルルー♪ チョーショーシューリキー♪
by モゲル・ハナレイロ君
エスパー化学


第二章「真理子、収穫祭に逝く」
540名無し草:2011/09/16(金) 16:45:31.14
 自分のお腹の鳴る音で真理子は目を覚ました。
いつもなら、起きたら顔を洗わずにいの一番で、タイマーで炊き上がったほかほかの御飯を
昨日の残りのおかずで三杯食べるところだが、ぐぐっとそれをこらえた。
 何しろ、今日は収穫祭。
 イベントの手伝いをするだけでタダ飯にありつける素敵な日なのだ。
 ぶどうもお寿司もワインも、スパムおむすびも、ラスクも、栗の炊き込みご飯も皆タダ!なんて素敵なの。
 真理子はうきうきと布団から起き上がり、パジャマ姿のまま店の扉を開けると、なぜか目の前に
長髪のウィッグにチャイナドレスに身をつつんだ江原君が佇んでいた。
「うわ、一体どうしたの!」
 真理子は江原を急いで店に入れた。
 江原は思いつめたような顔をして手に握っていたちらしを差し出した。
「今年…ミスぶどう娘コンテストが10年ぶりに復活するって知ってる?」
 10年前、つまらぬフェミ団体の横やりで潰されたミスぶどう娘コンテストのことは知っていた。
「今年から、ミスの応募要項がかわって、年齢、既婚未婚、性別、国籍、制限がなくなったんだ…
それに当日飛び込み参加も歓迎だって」
 それって、もはやミスとは言わないのでは…いくら情弱の真理子でもそのことはつっこめた。
 まあ、地方のぬるいイベントだから、こういったことは大目に見なくてはならない。
「俺…それに出たいんだ、マリちゃん、そして、ミスターぶどう娘になりたいんだ」
「素敵ね、今はやりの女装男子ねっ!江原ちゃん」
「ライバルは同じ商店街の整体師の薬しんごだ」
 ちょっと待って、年齢制限がなくなったということは、自分も応募できるということじゃない?
真理子はちらしを見ながら考えた。
541名無し草:2011/09/16(金) 18:03:32.65
京都の朝はコーヒーとパンだ。
意外かもしれないが、美味しいパン屋がたくさんある。
旦那衆が好みの食パンやバゲットを買っていくことも珍しくない。
今日は猪田珈琲ではなかった。ウシロダ珈琲店本店に「ぜに亀」番頭の飽山と壱田ひろみの姿があった。
二人は時折、世間話にスイーツ、何より大事な商売上の情報交換を
朝のうちにするのが常であった… 単に歳を取って早起きになったせいかもしれないが。
壱田ひろみは仕事柄もあるが、関西財界人とも交流がある。
番頭の飽山にとっては有難い存在だ。
「え?花京院さんのぼんが結婚?どこのお人やの?」
「なんでも宝塚歌劇に出てはったさくらさんというお方らしいでっせ。」
女優時代もあったひろみは興味津津であった。
京都も長くなったとはいえ、飽山と壱田は大阪出身であるためか、
彼らの関西弁はフュージョンになってしまっている。
しかし、奇想圭子が無理に京都弁を話そうとするほどの違和感はない。
「そら、大変やなぁ。さくらさんも勝手が違うとこにきはったら
気ぃ遣うて、ゆっくりできんやろね。」
「そやけど、あんたんとこが儲けはるのにはよろしいやん。」
下世話になり過ぎたかと、ひろみは方向を変えることにした。
「花京院さんのお嬢ちゃんはどうやの?美華子ちゃんやったかいな。
名前が違うてるかもしれんけど。おめでたい話、聞いてはる?」
「どうですやろなぁ…まだ聞いてしまへんで。」
「私ちょっと思たんやけど、ほれ佐々木酒造のぼっちゃん、佐々木駱駝之介さん、あの人どうやろか。
あ、弟さんもいはったね。サンマルコ小学校も一緒やったとか。
あのゴキブリ茶色の制服が嫌やとかいうてはったの覚えてますけどな。
古い造り酒屋さんやし、つり合いもとれるし、ええんと違うかなぁ。」
彼らの話は暫くあちこちへと飛んで行った。
ちょうど火曜サスペンスの背景が高台寺から5秒で嵯峨野に変わるような感じである。
その中に、ある呉服店の息子が、山梨の女性のストーカーにあったという
好奇心をそそる話もあったが、彼らの関心はまず着物の売り上げを増やして
京都に活気をもたらすことであった。
542名無し草:2011/09/16(金) 18:23:34.48
牧場の御曹司・大石鞍之介の携帯が鳴った。父の馳太郎(はせたろう)だった。
馳太郎は酔っ払っているのか、一方的にまくし立てた。
「いいか、さくらは駄目だ。結婚したいなら改名してもらえ。
『いくら』でも『おくら』でも『さわら』でも何でもいいが、さくらはゆるさん。
それから、子供が生まれたら必ず馬に関係のある名前をつけるんだ、分かったな」

鞍之介は頭を抱えた…orz
宝塚にはめずらしく、「座生さくら」は本名であった。
543名無し草:2011/09/16(金) 18:51:40.56
「江原君がチャイナドレスなら、私は何を着ようかしら?」
ゆうべ東京から帰ってきて放りっぱなしにしてあったエッセイ・ミヤマの紙袋が目に入った。
スカートだけを買うつもりで入ったのだが、そのフィット感が気に入って、
他にも、ノースリーブドレスとしても着られるジャンパースカートを購入していた。
544名無し草:2011/09/16(金) 19:55:59.58
特殊加工のドレスをハンガーに掛けて当てて見るとスレンダーに見えた。
「あらっ似合う。やっぱり都会の水で洗われると女は見違えるほど垢ぬけるってほんとなのね。」
真理子は自分の姿に大満足した。

しかし実際に着て見ると限界を超えて膨れ上がった体の凹凸がくっきりと表れてとんでもない状態になっていた。
545名無し草:2011/09/16(金) 20:08:52.18
数ヶ月前から、鬼島の周辺を不審な男がうろついていた。
これといって特徴のない中年の冴えない男で、就職情報誌を持ってきょろきょろしながら歩いている。
リストラされたのだろうか?
いや、そうではない。
実は彼は刑事だった。しかもかなり有能な。
相手に警戒心を抱かせるようでは捜査にならない。
彼は、街の雑踏に溶け込んで存在感を消してしまうことが出来た。

警察は鬼島の男性関係と金の出入りを調べていた。
売れっ子作家として稼ぐようになるかなり前から、たいした仕事もしていないのに、
不自然に金回りがよかったのだ。

実は去年起こった複数の不審死について、いったんは自殺として処理されたのだが、
後になって遺族から再調査の要望が出ていた。
死因の共通点は、睡眠薬と練炭。
独身男性でそこそこの貯金があり、小太りの女と付き合っていたという点も同じであった。
546名無し草:2011/09/16(金) 20:50:20.04
プリーツの伸びきってしまったドレスを見ながら真理子は思った。
昨日はちょっぴり食べ過ぎたかしら。
帰ってから夜食を食べたのがよくなかったわね。
そうだわ、こんな時こそあのお薬よ。
あれさえあれば、水着審査だってバッチリだわ。
ミスぶどう娘は貰ったわー、ほーほっほっほっ!

うそ、薬がないわ!
真理子はバッグをひっくり返し、服のポケットを探り、思いつく限りのところを探したが、薬はなかった。
ああ、どうしよう。
そうだわ、夏元さんに連絡して、また貰えばいいんだわ。
今すぐに電話したいけど、もうすこし焦らすのもいいかもね。

仕方ない、今年のミスぶどう娘は諦めましょう。
それに、コンテストに出ている間は料理を食べに行けないし…
ああ、お腹すいた
547名無し草:2011/09/16(金) 21:24:24.16
壱田ひろみは時々「うひょひょひょひょ」と特徴的な笑い声を立てつつ、
飽山と飽きることなく噂話に花を咲かせた。
その斜め後ろには朝からビールを飲みながら聞き耳を立てるビックリ顔の
女性がいたが、それは女優山村銀杏であった。話の内容にビックリした
のではなく生まれつきの顔である。
「ああ、ママが生きたはったら、この話でいくつも殺人事件書かはった
のに、残念やわ〜。」
彼女の母はミステリー作家、故山村遺産。亡くなった今も、京都を舞台に
した原作がどんどんドラマ化されている。彼女の原作には必ず銀杏を
使うという契約があるのかわからないが、最初は親のコネと陰口を
叩かれていた。しかし銀杏は体重と同じくドラマでの存在感もぐんぐん
増して、今では山村遺産ミステリーには欠かせない女優である。
548名無し草:2011/09/16(金) 21:36:57.32
さくらの改名候補
「いくら」・・・子沢山な感じでよい
「おくら」・・・ねばりがあってよい
「さわら」・・・元の「さくら」と同じく春らしくてよい
「ねくら」・・・よくない
「まくら」・・・NGワード 絶対ダメ、ダメったらダメ
549名無し草:2011/09/16(金) 23:12:23.45
今の若い親たちから見れば信じられないかもしれないだろうが、
子供の名前、特に女児の名前というのは、昔は驚くほど適当に付けられていたのだ。
現に、大石馳太郎の末の妹は、大雪の日に生まれたので「雪子」と名付けられたが、
1歳になるころ近所の(といっても山一つ隔てたところであるが)婆さまが特級酒下げてやってきて、
うちの孫娘と同じ名前でややこしいから変えてくれと言うので、夕子という名前にしたのだ。

馳太郎は、「いくら」は冗談にしても、どうせ芸能人なのだから
適当にハイカラな名前に変えればいいだけのこと、縁談自体は順調に進むだろうと思っていた。
550名無し草:2011/09/17(土) 00:26:02.26
花京院は祖母の計らいで自分が見立てた着物がさくらの元に来た事を単純に喜んでいた。
「やっぱりさくらさんの物になる運命だったんだね。」

さくらは(お母さんはちょっと大変そうだけどお婆ちゃんとは注意深く接すれば仲良く出来るかも知れないわ。
お年の割にお元気過ぎる位だけど・・・)などと考えていた。

妹は妹で兄との共同戦線で留学がうまくいきそうでホクホクしていた。

律子はさくらをこの家に相応しい嫁に躾けなければいけないと思うと何だか興奮してきて、
最近の体調不良もどこかへ飛んで行ってしまった。
551名無し草:2011/09/17(土) 06:49:53.68
「おはようございます」
 勝魔が真理子の店に入ってきた。
「農家からお米が届いたので炊き出しやります。イベント広場に集まってください」
勝魔は出身大学のマークの入ったエプロンをつけていた。あのペン先が二つ重なるモチーフが校章の東京の名門私立だ。
 着ている服は動きやすいパンツルックだが、真理子は勝魔の顔がいつもと違うことに気がついた。
「おはよ、カズちゃん。今日はやけに化粧が濃いのねえ、つけまつげをつけてどうしたの?」
「ああ、わたくし、今日、ミスぶどう娘に出ることになりましたので…。賞品は有名デパートの賞品券と
大阪・神戸グルメツアー(ただしバス旅)ですし」
 真理子はグルメツアーというところにピクッと反応した。
(そ…それは捨てがたいわ…)
「真理子さんも参加なさったら?今年は国籍と既婚未婚も問わないそうで、農家の中国人嫁集団もミスにエントリー
したそうですよ、そうそう、あなたと一度もめたことのある、アクネス・チョンもエントリーしているみたいです」
 アクネス・チョン…彼女はこの本屋の狭い通路にベビカをとめて、「日本語講座」をいつも立ち読みしている女だった。
 はたきで追い出したことが何度かあった。
552名無し草:2011/09/17(土) 07:18:01.86
あの女、本当は日本語ペラペラなのにわざと舌っ足らずなしゃべり方しているんだわ。
おまけに子持ちのくせにハイソックスなんか履いて可愛子ぶって気に入らないのよね。
負けてられないわ。
これ以上日本の文化に侵略させてなるものですか!
イベントにも○国人の芋娘を使う町内の広告屋もどうかしてる。

注;○内には適当な数字を入れ・・・ピンポーンあっ誰か来た
553名無し草:2011/09/17(土) 08:22:06.72
猪田珈琲からの帰り道、律子は悦子の言葉を思い出していた。

大石牧場の息子さんはさくらさんにご執心らしいんやけど、そのお父さんが
結婚したいなら改名しろって言うてるんやって。
「さくら」以外なら「いくら」でも「さわら」でも何でもいいって、むちゃくちゃやわあ。
あの縁談は無理やな。

さくらと鞍之介の交際はスクープされていたが、改名の話は極秘情報である。
檀家からの信頼の厚い悦子だからこそ知りえた秘密である。

律っちゃんにしたら面白ないやろうけどな、別に結婚詐欺や不倫してたわけやないし、
ここは二人の好きにさせてあげたらどうやろ。

最初ははらわたの煮えくり返る思いだった律子だが、改名の話を聞いてちょっと気の毒になり、
悦子の言うことももっともなので、ここは助言に従うことにした。

結婚前のことは知らんかったことにしてあげましょ。
でも結婚してからは、花京院の嫁として恥ずかしないように、しっかりやってもらわんとな。
554名無し草:2011/09/17(土) 09:22:21.86
すずは孫娘の美華子に教えてもらった写メで見つめ合ったり笑ったりしている二人の様子を撮っていた。
「お友達みんなに送信しないと・・・えーとこれ一斉送信できたやろうか・・・
美華ちゃーん。ちょっと教えて頂戴。」
555名無し草:2011/09/17(土) 09:28:21.84
真理子は決心した。私も出るわ!
そうとなったら今からダイエットよ。
朝ごはんはシメジのお味噌汁にサラダ、あとカッテージチーズも添えましょう。
あら、カッテージチーズって白カビが生えてるんだったかしら?
まあいいわ、チーズだってもともと腐ってるようなもんだし。


【注意】読者の皆さんは決して真似をしないで下さい。 
556名無し草:2011/09/17(土) 09:35:34.26
アクネス曰く「我参加選美大賽、獲得一等奨品!」
557名無し草:2011/09/17(土) 09:39:24.08
ダイエットと言いながら、真理子はしなびたレタス1枚の上にチーズをどっちゃり盛った。
シメジの味噌汁はベーコン入りである。
558名無し草:2011/09/17(土) 10:42:25.95
駄目だわ。全然足りない。
第一ミスコンの最中に貧血で倒れたりしたらみんなに迷惑けてしまう。
でも倒れそうになった私を抱きとめてくれる人が現れるかも知れないわねー。
東條さんにカウボーイそれにまた新しいイケメンが加わったりしたら困っちゃう。

もう少しだけ栄養付けておこうっと。
そうだ。お赤飯一升だけ冷凍して置いたはず・・・
559名無し草:2011/09/17(土) 10:42:38.95
「そうだ。加圧ダイエットとかいうのが効果があるって聞いたワ。」マリコは、物置にあった自転車の
チューブをもちだし、パジャマの上から太ももにぐるぐると巻いた。
「これで公園を5週すればバッチリだワ」


◎読者の皆さんは決して真似しないで下さい。
560名無し草:2011/09/17(土) 11:00:11.73
ポーンポポポーンと威勢の良い花火の音とともに今年の収穫祭が始まった。
町の広報車が「ミス葡萄娘コンテストの参加者はお集まり下さーい。」と拡声器で知らせている。
絶好の祭り日和だ。
海外からの取材陣も2件程来ることになっている。
どうも日本の伝統的な祭りと勘違いしたようだ。
561名無し草:2011/09/17(土) 11:41:16.67
花魁道中のような一行がやってきた。
オカマクラブ美輪のママと店の“女の子”達だ。
ママのドレスは、エッセイ・ミヤマのプリーツである。
もちろん女の子たちは遠慮してミヤマは着ない。
562名無し草:2011/09/17(土) 11:58:13.68
町内の老人会の婦人部は揃いの浴衣に団扇を手にし、
おてもやんの様に頬を真っ赤赤に染めてメインストリートに繰りだした。
563名無し草:2011/09/17(土) 12:48:04.70
10年ぶりのミスコン復活に主催の商店街もやる気まんまんで、
特別審査員として山梨出身の往年のアイドル田原坂歳彦と元サッカー選手現在プータローのナカータを呼んでいた。
564名無し草:2011/09/17(土) 13:33:46.07
ミスコンの司会者にはフリーアナウンサーの古田美保が呼ばれていた。
プロ野球選手と結婚したが子供はおらず、地方へも気軽に出かけるので重宝されているのだ。
(世の中には、子供がいてもしょっちゅう家を空けて遊び歩いている作家もいるが)

公園を1周しただけで息切れしはじめた真理子は、下腹部にかすかな違和感を感じたが、空腹で運動をしたせいだとしか思わなかった。
やーめた。
真理子は家に戻るとプリーツが伸びたドレスに着替え、会場へと向かった。
565名無し草:2011/09/17(土) 13:57:57.75
634:山梨の名無しさん
明日は収穫祭だね。ミスコンが復活するらしいけど、まさか店長は…gkbr

635:山梨の名無しさん
確かに未婚だけど、年齢制限に引っかかるでしょ。

636:山梨の名無しさん
>>635 今年から、年齢・性別・国籍・既婚未婚すべての制限がなくなったらしい。
半世紀前のお嬢さん達まで出るらしいよ。

637:山梨の名無しさん
無茶しやがって、、、
でも「地球外生物はお断り」にしておいてほしいよな。

638:山梨の名無しさん
大丈夫でしょ。店はずっと臨時休業のままみたいだし。

639:山梨の名無しさん
収穫祭じゃいろんなものがタダ食いできるから、絶対に帰ってくるさ。

640:山梨の名無しさん
>>639
マリタソに早く帰ってきてもらいたいんですねw
566名無し草:2011/09/17(土) 19:40:28.26
(真理子が着替えるほんの少し前…)

「なに…この祭りは神事ではなく、単なる村おこしだと…?」
 早朝、勝沼入りした祝井シマコは誘った編集者に向かって怒った。
「すみません…同じ日に甲府で行われる神社の祭りと勘違いしてまして…」
「ここには、私の×××(男性器の隠語)のご神体はないのっ?夜の夜這いはっ!
村人の裸の体と体のふれあいはっ?ないと言うの〜〜!」
 東原理恵子と低須クリニック院長の酒の誘いを断って昨日の夜は早く寝た(旦那との
エッチはしたけど…)のに、こんなひどい目に合うとは…。
 泣き出しそうになったシマコの耳に瀕死の豚が息を荒くしながら近づいているような
音を聞き物陰に隠れた。
 パジャマのズボン上に自転車のチューブを巻いた巨体の女がハアハアと息も絶え絶えに
走っていたのだ。
「出…でたあああ……こんな朝っぱらから、ボンレス緊縛女!この町は朝からSMプレイをするのかっ!」
 祝井は急いで携帯電話で動画を撮る。
「ん?この女…、昨日シコ動で見た女と同一人物じゃないか?」
 祝井は携帯をしまい、女の後を追いかけると、彼女が小さな書店に姿を消すのを見た。
「この女…ここに住んでるのか…」
 そして、しばらくして、女が着替えて祭り会場に向かう姿を見届けると、シマコは編集者に言った。
「甲府の祭りに行かずに、今日はここの祭りを見ていくことにするわ」
567名無し草:2011/09/17(土) 20:16:31.71
しまこは失禁せんばかりに喜んだ。
この現代日本でこんな禍々しいものにお目にかかれるとは!

ふと自分が身を隠していた木を見ると、女性のシンボルにそっくりな洞があった。
しまこは思わず手を合わせて頭を下げた。
すると足元に小さなキノコが生えているのが目に入った。
小さいなりに形の良いのをひとつ選んで取り、その洞に差し込んだ。
今はこれで勘弁してくださせえ。
次に来る時には立派な松茸を持ってきてお供えしますんで。
568名無し草:2011/09/17(土) 21:26:06.68
夜の祇園、一見お断りのお茶屋バー「金(きん)」には、ほろ酔い加減の
有名人が集まりだしていた。作家の我修院騒(がしゅういん・さわぎ)」は
両手に舞妓を座らせ、先に着ていた顔なじみの種騎手や鞍之介相手に馬の
話をくどくど繰り返し苦笑いされていた。
泥酔状態の蕪屋蟹蔵、スタイル抜群のホステスらしき目のぱっちりした
女性と一緒に入店したが、いつの間にか女性は姿を消し、一人になって
灰皿にウォトカ入れあおっている。
少し不機嫌な椛島奈緒美を笑わそうと必死になる和菓子職人の夫。
カウンターだけのバーは空席があと2つ。
そこに奇想K子が年下の京男の夫を連れて入ろうとしていたが、少し
オネエの入ったオーナーに「いっぱいやし、また今度ねぇ。」と
やんわり、しかしきっぱり断られていた。
K子は「こういうイケズなとこが京都よね、やっぱりいい街だわ」と
感激して、花見小路に打ち水をしながら、夏暑く、冬寒い家に帰るので
あった。
さあ、役者は揃った。
ここに花京院はさくらを連れてくるのだろうか。
鞍之介の反応は?
韓流ドラマならここで、二股がバレる直前で花京院か鞍之介を交通事故に
会わせ記憶喪失にでもするところだが



569名無し草:2011/09/17(土) 22:43:57.68
あら、花京院さん、おひさしぶりい。

オーナーの声を聞いて奈緒美の顔色が変った。
が、入って来たのは花京院は花京院でも、美華子の方であった。
美華子は酔っているのか足元が覚束なかった。
育ちはよさそうだが頼りない感じの青年がオロオロしながら後をついてきた。
兜塚ははじかれたように立ち上がり挨拶した。
それがまた奈緒美を苛立たせた。
美華子は荒れていた。留学の話を認めてもらえなかったのである。
応援すると約束したはずの兄も役に立たなかった。
兄の行状は京都じゅうに知れ渡っており、何の切り札にもならなかったのだ。

兜塚にうながされ奈緒美も挨拶した。
美華子は据わった目で奈緒美の顔を見つめた。
このふたり誰やったっけ。そうや、お菓子屋さんと糀島奈緒美や。

お菓子屋さーん、奈緒美さーん、あたしなー、東京に行きたいねん。
パリが駄目なら東京でもええわー。
もうお兄ちゃんもさくらさんもアテになれへん。
なあ、力になってくれへんか?

そのとき鞍之介は我執院の目を盗んでさくらにメールしていた。
ここ数日何度も電話やメールをしているのに、一向につかまらないのだ。

美華子の言葉を聞いて、鞍之介は「えっ?」と顔を上げた。
同時に、奈緒美の目が妖しく光った。
570名無し草:2011/09/17(土) 23:04:41.16
したたか酔っていた美華子はなおも続けた。

そらお兄ちゃんはええわ、好きなことばっかりして。
結婚かて好きになったんが東京の人でも、おばあちゃんもおかあちゃんも
反対しはらへん。
そやのに、あたしは女やから言うて、京都から出してくれへんやんか。
さくらさんかて中学出て、すぐ宝塚行かはったんやろ。
あたしかて、一回一人暮らししてみたいんや。

うわーん。

美華子は号泣した。連れの男は困った顔をしてうつむくばかり。
老舗の扇子屋の息子で、サンマルコ小学校から美華子の子分的存在の
幼馴染である。
571名無し草:2011/09/17(土) 23:37:43.24
華京院のご主人も奥様も大奥様も、みんな雲の上のような人達だけど、この娘ならお近づきになれるかも。
さくらが嫁いでも嫁がなくても、この娘と仲良くなってもならなくても、決して損にはならないわ。
「美華子さん、どうなさったの。よかったら話してみて」
「あたしなあ、京都から出たいねん。でもお母さんが許してくれへん」
さくらの二股を不問に付すことに決めた律子だったが、
実の娘がそんな恥さらしなことをしては大変と、手綱を引き締めることにしたのである。
「でも、お父さんとおばあちゃんは最初は賛成してくれたんや。
なあ、なんか適当な学校を紹介してくれへん?
デザインでもスイーツでも、なんでもええわ」
「なんでもって…、すぐにはお返事できませんが、色々と聞いてみますね。
それまではお母様が心配なさるといけないから絶対に内緒ですよ」
「ほんま?ありがとう! うわー、さくらさんより頼りになるわあ。
なんか、こっちのほうが本物のお姉さんみたい。じゃ、お姉さん、さいならー」
とはしゃぎながら美華子は帰っていった。
572名無し草:2011/09/17(土) 23:40:48.56
鞍之介は、ちょっと失礼します、と言って席を立つと、兜塚夫妻に近づいた。
「すみません、わたくし大石と言います。奈緒美さんの大ファンなんです。」
奈緒美も大石鞍之介とさくらの交際がスクープされたことは知っていたが、
さくら自身がはぐらかして教えてくれなかったし、週刊誌の映像は小さくて不鮮明だったので、
大石という平凡な苗字を名乗られても、全く気がつかなかった。
美華子の件があって機嫌を直した奈緒美は、口が軽くなっていた。
「まあ、ありがとう。実はね、主人が京都で大きな仕事を引き受けることになったの。
さっきのは、花京院家のお嬢さんでね、お兄様の縁談が進んでるそうで…」
兜塚は心配になって奈緒美をつついた。
「なあに、ダーリン、ちょっと待っててね。でね、そのお相手は私の大親友の座生さくらちゃんなのー。
もしかしたら、そのご婚礼のお菓子も任せていただけるかも知れないわー」
そこまで聞けば十分だ。
鞍之介は「どうもお邪魔しました。実は母が兜塚さんの和菓子の大ファンなんです。
東京に戻ったら、また買いに行かせていただきます。」と礼儀正しく挨拶すると、店の外に出てメールを打った。
「花京院さんとのこと聞きました。直接会って話がしたい。連絡下さい。大石鞍之介」
573名無し草:2011/09/18(日) 00:26:34.48
鞍之助の様子がおかしいのに気付いた種豊は、心配なので自宅につれて帰ることにした。
玄関で靴を脱いだ種はズボンの裾があまって、まるで長袴のようである。
玄関の上がりかまちに座り込んでしまった鞍之介は、ぽつりぽつりと語り始めた。
話を聞いた種はそばにあった長い靴べらを振り回して思いつく限りの悪態をついたが、
その姿は忠臣蔵ごっこのようであまり迫力はなかった。

「おれさあ、本気だったんだ。親父に改名させろって言われて、親子の縁を切ってもいいとまで思ってたんだ。
それなのに…」
574名無し草:2011/09/18(日) 00:33:23.10
その頃花京院家では早速律子がさくらを教育していた。

「さくらはん。梨を剥いておくれやす。」
しかしエプロンを貸してくれるでもなく、手を洗う石けんやタオルも出してはくれない。
戸惑っていると、すずが「まあまあ律子はん。もう嫁いびりどすか?はい。これしなはれ。」
と言って自分の前掛けをさくらの腰に巻いてくれた。
そして「この家の梨の剥き方はこうするんや。」と言って見本を示してくれた。

リビングでは父親と遊鶴がそんなことも知らず、
仲人を誰に頼むべきかを相談していた。
「茶会の正客を朝晴さんに頼んで置いて仲人を別の人にしたのでは顔を潰すことになるやも知れないな。
中央政界を的に回して良い事は一つも無い。
かといって京都の人間をないがしろにするのもまずいな。
ここは仲人を朝晴氏、乾杯の音頭をやな・・・
それよりお前、他の女は大丈夫やろうな。すっぱり切ってこれからは合う事もいかんぞ。
結婚前に遊んで置くのは必要な事やけどな。」
父は全てお見通しであった。

その時サイドテーブルに置かれたままのさくらの携帯がなった。
「さくらさんに持って入ってやるわ。」と遊鶴は携帯を取った。
見るとも無く目に入った相手の名は・・・
「ぱかぱかさん」となっていた。
「ふふ。さくらさんってお茶目やなあ。」

575名無し草:2011/09/18(日) 00:42:43.41
さくらはそろそろ花京院家をおいとましようとしていた。
すずや律子はせっかくうちの子が誘たのに、うちの客間泊まらはった
いいのにと引き止めた。
それでも榎屋旅館を予約していることを知って、あそこやったら
さくらさんも休めるし。今日はよう疲れはったやろ。
ぼん、ちゃんと送ったげ、あんたは今日は送り届けただけで
ちゃっちゃっと帰ってきなはれや。
すずも律子も腹の中では
「今のうちだけやで、榎屋だの椿屋だの泊まれるの、おんなじ京都で
そんなとこ泊まったらなに言われるかわからへんわ、最後やと思って
泊まりよし」親切の仮面をかぶったイケズである。
障子ばっかり張替えてんとK子よ、ここで修業するがよい。

ほなおあばあちゃん、おかあちゃん、さくらさん榎屋さんまで
送っていくわ、送り届けてちゃんとお部屋入らはったとこまで
確信して、で、さっき友だちから電話かかってたし祇園行くわ。
(すず:外から見届けるだけやで、入ったらあかんで!)
(律子:言うて聞くような子やあらへん、どうせ祇園にさくらさんと
    出ていくんやろ」


        まず母の1勝である。






576名無し草:2011/09/18(日) 00:44:31.27
美華子は思った。
今回のことは奈緒美ねえさんに任せることにして、さくらねえさんには他で頑張ってもらいましょ。
それにしても役に立たんなあ。
577名無し草:2011/09/18(日) 00:55:33.68
うるさいのから解放されてようやく二人きりになれた。
すぐ先に大変な生活が待ち構えているが、
今が1番幸せな時である。

「ふう」と小さくさくらがため息をついた。
「気を張っていて疲れたんじゃない?大丈夫?さあ二人で乾杯しに行こう。」
「あらっ大丈夫?さっき約束してらしたのに・・・ふふふ」
578名無し草:2011/09/18(日) 01:10:18.21
さくらは疲れていた。本音を言えば、宿に戻って休みたかった。
それに調べたいことがあった。

律子はさくらにアルバムを見せてくれた。
さくらさん、これは遊亀が祇園祭の稚児になったときの話や。
隣にいるのは従兄弟の寛ちゃんで、禿(かむろ)を務めてくれはったんや。
二人ともやんちゃでな、悪さばっかりしてたんよ。
うちの廊下で通し矢ごっこしておじいさんにゲンコツもらったりな。
あ、これは美華子が斎王代になったときの写真や。
白塗りもおはぐろも絶対いやや言うて大変やったんやでえ。

さくらは焦った。かろうじて聞き取れたのは「祇園祭」と「稚児」ぐらいだ。
かむろ、とおしや、さいおうだい、なにそれ〜〜〜?
さくらは京都のことを地方都市の一つにすぎないと思っていたが、これではまるで外国である。
「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」という言葉があるが、とても聞ける雰囲気ではない。
律子にこの先ずっと嫌味を言われるだろう。

さくらはこれらの外国語の意味を調べたかったのだ。
579名無し草:2011/09/18(日) 01:13:24.14
美華子は酔っ払った頭で考えた。あれー奈緒美さんて気さくでなんか
あかぬけしたはるやん。サバサバしたはるし。
お菓子屋さんのダンナさんも面白そうで優しそうや。
なんかダンナさん東京で和菓子やる前に世界のお菓子修業して
結構有名やったらしいやん、いいやん。コネあるはずやわ。と
奈緒美夫妻の妹分を名乗るようになるのに10分もかからない。

それに比べたら、なんかさくらさんしじっとり絡めるような目ぇして
きはるねんなあ。しおらしくしたはるけど、まあお兄ちゃんがメロメロ
やししゃーないかー。こちらではしっかりさくらの小姑となった。

あれ、なんか前を馬が1頭走っていった気がする、鞍之助におんぶされた
種騎手が騎乗し、種のムチが当たる前から涙が滂沱と彼の頬を流れている。

上がりかまちに座ったままの鞍之助に種豊は「まだ何も彼女としゃべって
ないんやろ、直接聞かなわからんこともあるやん。」と励ましていた。
それを元天然アイドル妻が立派な柱の陰からそっとのぞいていた。
580名無し草:2011/09/18(日) 01:16:06.63
父親と母親は遊鶴の友人関係(もちろんガールフレンド)について話していた。

「この前大学の友達とダイビング行くゆうてたけど、あれ外国人の女とみたいや。
関空で見かけた人が居てな。」と父が言えば、
母も「高校まで一緒のバレエスクールに通ってた子にも、イギリスまで行ってデイトしてたんや。ほんまにあの子は。」
(せやから美華子をパリへ留学させられへんのや。信用してないわけやないけど・・・)


581名無し草:2011/09/18(日) 01:16:17.58
はい、音声入ります。
では、山梨からお伝えします。

収穫祭はクライマックスへと進む。
葡萄の房も揺れているが、祝井しまこの乳房も尻も揺れていた。
マリコの贅肉はもっと揺れていた…。

地元民と観光客の期待と興奮に膨らんだ会場の雰囲気は最高潮に達しつつある。
ブティック・サンダーの三田ツル子もわくわくしながら、娘と孫を連れて現れた。
「おばあちゃん、今日のイベントでは何が一番楽しみですか?」
レポーターのマイクがツル子の前に突きだされた。
「あら、見たことあるわ、この人…行方不明の奥川さん!?
エッ!えらいことやがな、こんなとこで疾走したはるやないの。」
582名無し草:2011/09/18(日) 01:30:44.06
律子の「ほんまにあの子は…」の後には「誰に似たんやろ」という言葉が省略されている。
花京院のあるじも、昔は名うての遊び人だった。
583名無し草:2011/09/18(日) 02:20:33.74
祭りの会場は異常な熱気に包まれていた。
コンテストの参加者がとんでもない人数に膨れ上がってしまったからだ。
特別養護老人ホームからも数人の参加者があった。
数ヶ月前、メイクアップアーティストの神月レイコがやって来てレクチャーをしたのだ。
彼女のメイク法は独特で、顔を半分ずつメイクするので有名だ。
まず片側半分に、マッサージをほどこし、下地、ファンデ、ポイントメイクと重ねていく。
それが終わると、また反対側も同じようにマッサージから始めるのだ。
神月レイコのメイクのおかげで、ご婦人方は装う楽しみを思い出し、
ホームの雰囲気が明るくなったと評判だった。
このホームに入所している真理子の母親も、
メイク法を覚えた介護師さんにきれいにしてもらいエントリーした。

参加者が増えすぎたので、水着審査は取りやめになってしまった。
真理子は、運が向いてきたわ!と思った。
が実際は、別のウンがすぐそこまで迫ってきているのだった。



みんな、逃げてーーーー!
584名無し草:2011/09/18(日) 05:33:22.12
老若男女入り乱れたミスコンテストはもはや、日曜日の長寿番組「NNKのどじまん大会」の地方予選にも似た
状況になっていた。
 参加者が200名を超えた為、ステージでは、エントリーした者が一人一人出てくる度に合格不合格の鐘を
鳴らし選別していった。
 合格した者達はミスの決勝に参加する権利を得る。
 いち早く、合格を決め、決勝が始まるのを待つ集団がいた。
 地元の公立高校のチアリーダー部の少女たち、東京の大学や地元の大学に通う女子大生たち、そして、
アクネスをリーダーとする中国人嫁集団も含まれていた。

 山梨の農家も例外にもれず、深刻な嫁不足で、3年ほど前、中国の農村地域から、何人か若い中国人の嫁を
もらった。
 30代後半から50代前半の喪男に嫁いだ20代の若い中国嫁達は嫁いで間もなく跡継ぎを産み、ほこらしげに
その成果をベビーカーに乗せて祭りに現れ、若さと美貌を喪男旦那だけに独占させておくのは惜しいとばかりに
愛嬌を特別審査員やステージに詰め寄る男達にふりまいていた。
 特別審査員の田原坂歳彦は、彼女達に興味があるようだったが、おネエ疑惑のある元サッカー選手は
興味がないらしく、きれいどころの20代のオカマに合格の鐘を鳴らしていた。
585名無し草:2011/09/18(日) 07:31:05.06
外国の取材班はこの『OMATURI』が手もとの資料とは著しく異なることに不安を感じていた。
『OMIKOSHI』も『JINJYA』も『NINJYA』もいない。

仕方がないのでコンテストの模様を撮影していた。
日本女性はしとやかで控えめだと聞いていたが、東洋人の感覚ってのはあてにならないなと思っていた。
次から次へと変わったいきものが出てきて、それはそれで退屈しなかった。

それを見ていた町会長は「うちの町もいよいよインターナショナルでグローバルになってきたずら。これからずら。」
とひとりごちた。
586名無し草:2011/09/18(日) 10:34:53.35
さくらは迷った末に祇園への誘いを断った。

お母様の耳に入ったら大変だわ。遊鶴さんって有名人みたいだから。
それより、忘れないうちにあの外国語をぐぐらないと。
えっと、かぶらと…あとは何だっけ、そういえば美華子ちゃんが言ってたブブなんとかも…

有名なのは遊鶴だけではない。
花京院一族の言動は一瞬にして町じゅうに知れ渡るのだが、さくらはまだそのことを知らないでいた。
ボンボン育ちの遊鶴は子供の頃からそんなもんだと思っていた。
二人は宿の前で長い長い立ち話をした後、遊鶴はひとりで祇園へ行くことにした。
587名無し草:2011/09/18(日) 14:53:07.86
部屋に戻ったさくらは、バッグから携帯を取り出した。
「ぱかぱかさん」こと鞍之介から、何度もメールや電話が来ていた。
最新のメールを見ると、
「花京院さんとのこと聞きました。直接会って話がしたい。連絡下さい。大石鞍之介」とある。
さくらは鳥肌が立った。
あの人、まるでストーカーだわ!ずっと私のことを尾行して調べてたのね。
さくらは怒りと恐怖で震えが止まらなかった。
588名無し草:2011/09/18(日) 15:50:42.28
♪ 高らかにファンファーレが鳴り響く ♪
各馬いっせいにスタートしました


……じゃなかった、鞍之介は携帯に飛びついた。
待ちわびたさくらからである。
電話に出ると、さくらは一方的にまくし立てた。
「二度とお会いしません。結婚なんてもちろんありえません。
今度またストーカーみたいな真似をしたら、警察に言いますからね!」
鞍之介はおろおろしながら言った。
「ス、ストーカーなんてしてないよ…」 言いたいことはたくさんあるのに、言葉が出てこない。
見かねた種が電話を代わった。
「僕は騎手の種豊と言います。さくらさん、誤解です。彼はストーカーなんかしていません。
花京院のぼんの縁談なんて、とっくに京都じゅうに知れ渡ってますよ。」
種はちょっと大げさに言った。
「京都という町や花京院家がどういうものか、全然知らないようですね。
もし彼と結婚したら、あなたの一挙手一投足は全てうるさい京都の年寄り連中に監視され、
いちいちケチをつけられることになるんですよ。お姑さんから聞きませんでしたか?
まあ、そういうことをハッキリ言わないのが京都人ですがね。
あなたが誰と結婚しようと僕には関係ありません。
ただ、鞍之介は本気です。あなたのためなら親父さんと縁を切る覚悟も出来ています。
どうです、最後にもう一度だけ会って、ちゃんと話を聞いてやってもらえませんか?
今は花京院家ですか? 榎屋?
なら僕の家に来ませんか? 僕の妻がNKタクシーでそちらまで迎えに行きます。」
589名無し草:2011/09/18(日) 15:52:58.59
鴨川の河原にも秋らしい風が吹き始めた。
高野川と賀茂川が合流して鴨川になるまでの、上賀茂あたりの川べりが「ぜに亀」番頭飽山の好みだ。
朝も時間があれば散歩している。時には両平渚、仏田正輝に古林豪らのロケにも遭遇する。
生来の野次馬、飽山にはもってこいだ。
「そういうたら、この前ウシロダ珈琲で山村銀杏みたいなおなごはんがおったな。
テレビで見るよりは痩せてたし違うかもしれん。わしはやっぱりぽっちゃりめが好っきゃ。」
突然四条室町辺りになった…こんな時は狩谷警部が、そら、おらんやろ。
しかし、飽山は小さな祠のある路地の先に知り合いの顔を見つけた。
花京院の料亭で仲居頭をしている中村鼻緒だ。
「ぐははは…おはようございます」「えらいはよおすな」
「えらいご無沙汰してます。お変わりおへんか?」
鼻緒は飽山の古くからの知り合いだ。
彼女は花京院よりも古い料亭旅館で長年勤めあげ、その後花京院の所に引き抜かれたのだ。
「なんですの、その大きい荷物!」
「グハハハ、見えますか〜?これ、山梨の収穫祭で買うてきましたんや。」
「ネコでもカバでも、配達頼まはったらよろしのに」
「そらそやけど、葡萄も勝沼ワインもはよ持って帰りとぅてな。
口が卑しいさかい、困りまっさ。お客さんとも話の種になるし甲斐もありますがな。甲斐の国、ブォハハ。」
飽山は山梨と聞いて、20年も前か、あの呉服屋仲間の山梨女ストーカー事件をまた思い出した。
「花京院さんとこも、近々賑やかなことになりそうどすな。」
「へ?私がちょっと休みもろてる間に何かありましたんか?あそこの坊ちゃんも派手なことしてはりますさかいな。
まだ一人前やないのにスポーツカーを乗りまわさはるわ、祇園に出入りしゃはるわ、あんなことしたら不細工や。
まるで今成さんですがな。顔がささん様に、身の丈に合うた車にして、家業の勉強に精出してくれはらんと馬鹿にされますわ。
ただでさえ、よう考えたはるエエ割烹も増えてきたんやし、胡座かいてたら、やっていけませんわ。
親御さんらも甘やかしたはるのもあかんわなぁ…」

「ほなまた、店にもきとぅくれやす。」
二人はお互いにそう言って別れた。心中『あんな高いとこ行けるかいな』と共々ぼやきながら…。
590名無し草:2011/09/18(日) 16:08:01.05
種の家に行くと返事はしたものの、さくらは迷っていた。
少し時間がある。そうだ調べ物をしないと。
だが、種の言ったことがショックで、調べるべき「外国語」をすっかり忘れてしまった。
とりあえず「祇園祭」を調べてみると、「稚児」の項目があった。

長刀鉾の稚児
現在では唯一、生身の稚児が乗る。他の鉾では人形となっている。
(中略)
2000万円とも言われる費用がかかるため、京都市内の資産家等の家庭から
禿(かむろ)と呼ばれる家来役の少年2名と共に選ばれ、
祭りの年の6月頃に発表される。
(中略)「正五位少将」(大名と同等)の位を授かり……

「に、にせんまん…?」 さくらは絶句した。
さくらが勝手に想像していたのは、
子供達が揃いのはっぴを着て太鼓や笛を鳴らす地方のお祭りだった。
591名無し草:2011/09/18(日) 16:18:38.62
友人の恋を応援したかったが故の発言であっても種の考えはあさはかであった。

さくらは元タカラジェンヌである。
人から注目されないとしぼんでしまう花なのだ。
宝塚に居る時も口うるさいオバサマ方の心を掴むんで離さない技術はダントツだった。
ホテル阪遅インテルナツィオナーレのスィートルームに連泊して見に来る客もいたのだ。
京都で1番手ごわい女の花京院すずが味方につけば怖いものなしである。
592名無し草:2011/09/18(日) 16:36:06.61
さくらのこころは揺らぎ始めた。
私のために家を捨てる、なんて素敵な響き。遊鶴さんにそんなことが出来るかしら?

だが、花京院家も大石家もいずれ劣らぬ資産家。捨ててもらって困るのはさくらのほうであろうww
593名無し草:2011/09/18(日) 16:49:11.43
しかしすぐに冷静になって無一文の鞍之助を想像してみた。
「ダメ。全然ダメ。」
花京院と違ってダンスも出来なければ洗練された会話もできない。
綿と絹の区別も付かない彼には興味が湧かなかった。
話と言えば馬の繁殖とレースの事ばかり・・
第一父親と縁を切るってどういうことなの?
つまり反対されているのよね。失礼しちゃうわ。
594名無し草:2011/09/18(日) 18:21:10.93
無一文になったのに贅沢が忘れられない花京院遊鶴、というのも想像するだけで恐ろしい。
いずれにせよ、鞍之介も花京院も蟹蔵も親の七光りがなければただの人である。

愛のために全てを捨てる、なんて話は宝塚行って見れば十分だ。
595名無し草:2011/09/18(日) 19:33:28.17
律子は遅くなっても帰ってこない美華子が心配だった。
今までどんなに遅くなっても夜の11時を超えることは無かった。
「少しきつく言い過ぎやったかなあ。」

自分の青春時代を思い出すと学業優先の真面目な根良女子大生ではあったが、
親元から離れて自由を謳歌していた。
今の夫とディスコに行ったりスキーも教えてもらった。ハワイの別荘に大勢で押し掛けたりもした。
そして勿論他にも男友達はいた。

(1年という期限付きなら許しても良いかもしれへん。
お母さんも可愛い子には旅をさせろいうやろ。厳しいばかりではあかん言うてはったし。
かわいそなことした。美華ちゃんはよう帰ってきて頂戴・・・)
596名無し草:2011/09/18(日) 21:28:47.98
真理子の番が迫っていた。が、別のものがもっと近くまで迫っていた。
真理子は脂汗を流しながらトイレを見た。
コンテスト会場から1分のところにある女子トイレの前には行列が出来ている。
まともに並んでいては私の番に間に合わない。そうすれば、棄権と見なされてしまう。
が、ステージで「決壊」してしまっては大変である。
真理子は意を決してダッシュした。目指すは女子トイレではなく、人のほとんどいない男子トイレである。

         ××××××××××!
文字ではとても現せないような音と、そして強烈な臭いに、中にいた男達が飛び出してきた。
その後しばらくして、すっきりした顔をした真理子が出てきた。
先ほどの男のひとりが、「あれって、美輪の女の子だよな、きっと」と言った。

真理子は駆け出した。その姿を皆が目玉をひん剥いて凝視した。
真理子は背中に熱い視線を感じながら、そして太ももの裏側にスースーする風を感じながら駆けた。


ドレスの裾がパンツのウエスト部分のゴムに挟まり、巨大な尻が丸見えになっていた。
597名無し草:2011/09/18(日) 21:40:50.17
三田ツル子の孫ツル彦は「今年のお祭りは何かがたいそう違う」と感じていた。
ツル子御祖母ちゃんは、いつもと同じ様に楽しそうにしているけれど
自分だけが感じる違和感を、母ツル美にも祖母ツル子にも告げなかった。

本当は今年の収穫祭には来たくなかった。
赤山学院小等部5年のツル彦は、クラスメイトに内緒で中学受験塾三谷大塚に通っている。
今日は組み分けテストの日。御三家中を目指す2つ上のクラスへの足がかりなのに。
今年のお祭りは、「金ちゃんの仮装大賞」みたいに奇抜な格好の人が集まっているだけだ。
こんなのを見るために、わざわざ東京から来る価値があるんだろうか?

「赤山ってさ、お笑いタレントの子がうんといるんだろ?」
6時間目が終わって制服のままで三谷大塚へ行くと、塾メイトが馬鹿にしたようにからかう。
そんな下流な質問をする奴等と同じクラスにいる自分が悔しい。
ツル子御祖母ちゃんには会いたいけれど、仮装大賞は勘弁だ。

幼稚園の頃、お受験教室「ぱんだ会」へ通っていた。
「まるを半分にすると、どんな形ですか?」先生が問題を絵に描いて黒板に書く。
ツル彦は得意になって手を挙げて答えたものだ。「半月です」
「では、まるを三つに分けると、どんな形でしょうか?」
少しツル彦が困っていると、有名お笑いタレントの子が叫んだ。
「僕んちの車のマークと同じだよ。ベンツだ!」

パンダ会の先生は苦笑しながらも、「そうですね」と答えた。
ベンツ君とツル彦は、赤山小で同じ学年だ。
「絶対、違う中学へ行くんだ」ツル彦は入学式でベンツ君に遭遇した時から決めていた。

しかし、御三家中を目指すツル彦のライバル達は、難関塾SOPIXに大半が通い
今日も公開テストを受けている事を、ツル彦は知らなかった。
598名無し草:2011/09/18(日) 23:08:35.79
「ただいまー」
律子ははじかれたように玄関へ向かった。
そこには遊鶴に寄りかかるように涙で化粧がとれた美華子が立っていた。
「美華子なあ酔い潰れてくだ巻いとった。あんな頼り無い男が一人付いとるだけじゃ危ないわ。」

「女の子が何してるんや!花京院の家のもんはみんなに見られるんやで!おとうさんに恥かかしたらあかんやないの。」先ほどまでの反省も忘れてきつく叱ってしまった。

てっきり「それが嫌なんや!」と口応えすると思ったらただ涙を流すだけであった。
遊鶴も美華子もそんなことは痛い程、誰よりも強く感じている。
小さい頃から野放図に好き勝手やっているようでも、「しゃあないなあ」で済まされる範囲のやんちゃだった。
599名無し草:2011/09/18(日) 23:43:58.50
花皇の社長は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
B&Gのファブリンズを真似てエセッシュという消臭剤を作ってみたのだが、
消臭剤だけに売れ行きが芳しくないw
なのにエスパー化学の超消臭力が急に売り上げを伸ばし、株価も急上昇だという。
しょうがない、もっと宣伝に力を入れよう。
そうだ、主婦は寒竜ドラマが好きらしいから、その時間にCMを流そう。
600名無し草:2011/09/19(月) 05:38:12.02
ミスコンの予選は真理子の出番になった。
真理子がステージの真ん中に出てくると、往年のスター田原坂歳彦と、元サッカー選手ナカータが不思議な
顔をして見つめている。
(ああ…見つめられている。しかも、二人のイケメンに……芸能界のスターとの不倫の恋もいいかもしれない…
でもトシちゃん、頭がずいぶんさみしくなっちゃたわねえ、ナカータ選手は体はセクシーだけど、顔が
私好みではないわ…もう少し濃い目の顔がいいかしら、あのテツヲさんみたいに…)

 ドレスの裾がパンツのゴムにはさまり、へそまで隠れるパンツが丸見えだったのと、加圧トレーニングの
つもりでしめつけた自転車のチューブの跡が太ももに赤くそのまま残っていたのである。

 諸君は「NNKのどじまん大会」の謎をご存じであろうか。予選通過者の中にかならず、のどじまんの基準に
達さない歌唱力の人間が一人、場の盛り上げ役として入っていることがあることを。
 ナカータは徹夜明けの目をこすりながら。
「ああ、この子も女装男子ね、相撲部屋の子かしら?ごーうかーく」
 と鐘を鳴らしてしまった。
 真理子はあっさりと本選に参加することが決まってしまった。
 ライバルはアクネスやかわいい女子学生たち、どうする真理子!
601名無し草:2011/09/19(月) 08:46:11.95
一方エスパー化学はというと、前から案の出ていた超消臭力のラインナップ強化を実行し、
従来のレギュラーサイズと携帯用に加えて、
ファミリーボトル、詰め替え用、業務用10リットル、車のドアポケット用、
さらにはランドセルにぶら下げられる「防犯ブザー付き」まで、次々と売り出した。
山梨の収穫祭では「超消臭力 新商品発売記念キャンペーン」が行われていた。
602名無し草:2011/09/19(月) 08:46:21.66
アグネスは中国人妻達を集めて作戦を練っていた。
「ここからはハニトラ作戦で行くのよ!あんたはあの田原坂担当。あんたは町内会長。あんたは・・・」
と投票権を持つ人物にターゲットを絞ることにした。

肝心なのは決定権を持つ男を籠絡することであるあるよ。
この方法が日本人の男には1番有効なのだ。
603名無し草:2011/09/19(月) 09:01:17.57
しかしアグネスさえ知らぬ秘密があった。
町内会長の木下は実は○国から親の代に帰化していた人物である事を・・・
そして町役場の出納係も下水処理場の工場長も・・・

注:○には適当な漢字を入れてお読み下さ・・・
604名無し草:2011/09/19(月) 09:03:30.02
超消臭力のキャンペーンをやっているテントの前を通りかかったツル美は思い出した。
ああ、ちょうどいいわ、携帯サイズを1本買って行きましょう。
携帯サイズを買うと、ランドセル用(防犯ブザー付き)がプレゼントとしてついてきた。
「ランドセル用防犯ブザーなら、もう持ってるのに。じゃあこれは塾用のカバンに付けましょうね。」
605名無し草:2011/09/19(月) 09:53:40.57
【編集部からのお詫びと訂正】
602ページおよび603ページに間違いがありました。
アグネス → アクネス

なお、多数の読者の方からご指摘をいただいている
『あれもころも日記』の「松茸のざく切り」についてですが、
作者と管理人は今のところ訂正する気はないそうです。
606名無し草:2011/09/19(月) 10:14:30.64
2次審査は衣装を替えなければならない。
ここで真理子は自分の姿に気がついたが、
スカートがめくれあがっている程度では全ッ然動じなかった。
そして何を着るにしても譲れない一点があった。
勿論UCLAのエプロンをかけることだが、
一張羅で大切にしていたとは言え既に10年以上も経過しているので元の紺地は羊羹色にあせていた。

アクネス達は自慢の曲線美を見せつける為に大胆にも腰までスリットの入ったチャイナドレスだ。
女装男子たちはリオのカーニバル風で大変華やかである。
ナカータの眠気もふっとんだ。

607名無し草:2011/09/19(月) 10:28:27.39
「そうだ さっきスカートがめくれていたおかげで、ピンヒールをはいた私の
美しいレッグラインに審査員の目が釘づけだったワ。エプロンの下で
脚線美をアピールできる衣装といえば・・・」

真理子の脳裏に恐ろしい妄想が沸き上がった。
608名無し草:2011/09/19(月) 14:44:31.84
真理子はこの世の終焉を引き起こしかねない恐ろしい計画を企てながら商店街を歩いていると、
三田ツル子が声をかけた。
あら、真理ちゃん、帰ってきたのね。ちょうど良かった、秋の新作が入荷してるの。寄ってかない?
ミヤマのドレスで気取って歩きながら、真理子は店に入っていった。

ツル子 「あらー素敵じゃない。」
真理子 「ふふん、東京のエッセイ・ミヤマで買って来たプリーツのドレスよん」

ツル子(プリーツなんてどこにあるのかしら?真理ちゃんカタカナに弱いから、また何かと勘違いしてるのね…)
    「そうそう、このワンピースどうかしら?S〜Lフリーサイズなんだけど…」
真理子 (わあ、かわいいじゃない。紫色に白の水玉、清楚で可憐な私にぴったりw
     それに、紫色ならミスぶどうのイメージにもぴったりだわ。
     スカート丈が長すぎるから、ちょっと詰めて…時間がないから切っちゃいましょうw)

実はこの服、ツル子が特別に取り寄せたたXXXLに別のタグを付けたものである。
服を買ってルンルンしながら帰っていく真理子の広くて丸い背中を見ながら、ツル子はつぶやいた。

真理ちゃん、もう東京へなんか行かないで、ここで静かに真面目に暮らしなさい。
毎日お店をきれいに掃除して、毎日お風呂に入って清潔にして、真面目に生きていればきっと良いことがあるよ。
そう言えば、アクネスちゃん達の近所に後添いさんを探している人がいたっけねえ。
お舅さんもお姑さんはもういらっしゃらないそうだから、真理ちゃんにどうかしら?
609名無し草:2011/09/19(月) 14:55:08.31
グキッ!
ピンヒールでふくらはぎを強調しながら歩いていた真理子は転倒した。

「あーん。ヒールが粉々にーどうしょうー。」
可哀そうにヒールは粉砕骨折しており修復不可能だった。
急いで片足ケンケン飛びをしながら店に帰りついた。
靴箱から別の靴をさがすが、開けても開けても中からは干からびたサンドウイッチが出てくるばかり。
ようやくフラダのメッシュのミュールが出て来たのでそれを履くことにした。
610名無し草:2011/09/19(月) 15:01:41.05
−−−−−−−【ニュース速報】さきほど地震が発生しました。 山梨県 震度2 なお津波の心配はありません−−−−−−
611名無し草:2011/09/19(月) 15:04:13.00
真理子のルンルンとケンケンが引き起こした振動は山梨県全域に伝わったが
さいわいにして超高層ビルはないので惨事にはいたらなかった。
612名無し草:2011/09/19(月) 15:20:21.41
−−−−−−−【ニュース速報】訂正いたします。 富士5湖を観光中の方は念のため湖岸から離れて下さい。繰り返します。−−−−−−

613名無し草:2011/09/19(月) 15:38:00.44
真理子は大昔に家庭科で使った裁縫箱を引っ張り出してきた。裁ちばさみは茶色く錆びついている。
力ずくで切ろうとするが、なかなかまっすぐに進まない。それでもなんとか切り終えて着換えると、
左側は膝下、右側は腿の中ほどというアシンメトリーになっていて、
しかも切り口はフリンジというよりは野良犬にでも襲われたようなボロボロ具合であった。
真理子は長めの前髪で顔の左半分を軽く隠しながら、鏡に見入ってウットリした。
アンチメトリー…、都会の言い女にはぴったりだわんw
真理子はUCLAのエプロンを付けフラダのミュールを履き、再び会場へと向かった。
もちろんご馳走にありつくためである。

そのころアクネス達は水餃子を作っていた。
彼女たちの故郷は寒冷で降水量が少ないので米作りには適さない。
日本の焼き餃子よりもずっと厚い小麦粉の皮に、たっぷりの香りの強い野菜と少量の肉を包んだ水餃子は、
安い材料でお腹を満たしてくれるご馳走であった。
水餃子の出店は、安くて美味しくてお腹が膨れる上に、
彼女たちが器用に生地を捏ねて伸ばし餡包んでいくさまはちょっとしたパフォーマンスで、
しかも餃子包みも体験させてくれるというので、たくさんの人が集まっていた。

真理子はつぶやいた。「おいしそう、でもアクネス達の店なのね、どうしようかしら。」
614名無し草:2011/09/19(月) 15:48:10.69
フラダのミュールのメッシュは、伸びきるだけ伸びきってそれでもはちきれそうな真理子の足の甲肉は
まるで、メッシュのタコ糸にくるまれた焼豚のようだった。

真理子が水餃子の誘惑に負けそうになったその時、アクネスの連れていた赤ん坊が突然大声で
泣き出した。
615名無し草:2011/09/19(月) 15:50:38.83
水餃子の出店の前には、
水餃子 6個250円 12個400円 食べ放題1500円!!!
餃子包み体験(材料費12個分込み)500円  と書いてある。

皮が厚いので女性なら6個でちょうど、男性でも12個食べればお腹いっぱいになるので、
食べ放題はほとんど冗談のつもりで書いたのである。
現に運動部らしい体格のいい男子高校生達も、「お前やってみろよー」とお互いに言いながら、
結局は6個か12個入りしか買っていかなかった。
616名無し草:2011/09/19(月) 15:53:01.94
アグネスは赤ん坊をあやしながら、特設授乳室のある公民館へ行ってしまった。
こんなところに赤ん坊を連れてくるなんて非常識ね、とブツブツ言いながら、
今がチャンスとばかりに水餃子の店へ突進した。
617名無し草:2011/09/19(月) 19:07:11.16
美華子はシャルルドゴール空港に降り立った。
生まれて初めてのビジネスクラスは窮屈だった。
しかし自由な生活への期待感の前にはそんなことはどうでも良かった。
嬉しくて眠れなかったので小さなシートでも平気だった。

律子が「思えばこの子らは小さい時からお行儀の良い子で周りもそれを当たり前やと思うてた。
考えて見ればレール通りに歩かされて可哀そうやったなあ。」と感傷的になってくれたのが幸いした。
そのかわり学生らしい質素な生活をすることを条件とされた。
質素とは言えどそこは花京院基準なので充分な広さのアパルトマンも用意されていた。

空港まで家族全員で見送ってくれた時、
ゲートをくぐる寸前「おかあちゃん。きっと泣いているやろうなあ・・・悪い事したなあ。」
と思って振り向いたら既に兄たちと笑いながら去っていくところだった。
「なあんや。気ぃ抜けるわ。」



618名無し草:2011/09/19(月) 20:09:22.52
ゲートを出たところには、老舗和菓子屋「兎屋亀短」の一人娘、兎屋虎子が
迎えに来てくれていた。
ソルボンヌ大学、コルドンブルーに通っているといえば聞こえはいいが、
どちらも短期の聴講生のようなものである。
それでもタクシーの黒人運転手に、スーツケースをトランクに入れるのを
指示し、行き先を告げる虎子を美華子は感心した。
「いやー、虎ちゃんもうフランス語ペラペラやん。」
虎子はすまして答えた。
「世界中、どこ行っても京都弁や、それで通じんねんで。」
二人はまるで北山から河原町のタクシーの車内のように、しゃべった。
そのうちに左手に白く浮かび上がるサクレクール寺院見えて来て、
いよいよ、パリ市内である。アパルトマン暮らしの前に、少し滞在する
予定のプラザ・アテネまで渋滞に巻き込まれたが、美華子はちっとも
イライラしなかった。

プラザ・アテネといえば、のちに日本人女性が朝食が一人でパンを
食べつくし、朝早くからボーイがブーランジュリーに買いに走り回った
ことから日本女性が宿泊する際はパンを余分焼いているという都市伝説が
ある。
619名無し草:2011/09/19(月) 20:40:06.97
ツル美は、反抗期入り口の息子ツル彦が、山梨に着いてから無口なのを気にしていた。

育ち盛りの息子の好物、餃子の文字が目に入った。
「ねえ、水餃子の食べ放題に挑戦しない?美味しそうよ」
苦虫を噛み潰した様な顔のツル彦が小さな声でつぶやいた。
「イヤだ…。つか、食べ放題って貧乏臭いし」
「そうね」とツル美は自分の提案を恥じた。

高校の修学旅行で、わんこそばを体験したのをふと思い出した。

「もう勘弁って時は、お椀に蓋を被せて下さいね」の説明が終わるや否や物凄い勢いで食べだしたのが真理子だった。

「店員さん、遠慮しないでお蕎麦入れてくださいね!」威勢良く真理子が叫ぶ。
「ハイ」の掛け声で、すとんとお椀に一口サイズの蕎麦が入る。
「ハイ」ツルっ。「ハイ」ズルっ。「ハイ」ズズっ。「ハイ」むがむが……。

女子生徒が皆お椀に蓋をして、体育会系の数人と真理子だけが箸を動かしていた。
アメフト部の副主将がちらっと柔道男子に目をやったが、顔は既に青い。
「俺苦しいーーー」柔道部主将が根を上げた。
鯖、鯖のサバコールが女子から掛かった。女子サッカー部主将鯖への熱いコールだ。

花形選手の運動部員を尻目に、余裕で食べていたのが真理子だ。
ネクラでいつも本を読むふりをして、ねっとりした視線で男子を見つめる姿が男女ともに怖がられてた。
そんな真理子がダークホースとして、わんこそばチャンピンに躍り出たのだ。

なでしこ鯖が脱落し、アメフト部副首相も戦線離脱。
「そろそろ移動時間です。トイレを済ませて各自バスへ」のアナウンスを物ともせず
一心不乱に蕎麦を食べ続けていたのが真理子だった。

山梨へ戻るバスに真理子の姿がない。
「マジかよ、まだ食ってんのかよ」男子が呆れたように声を上げた。
クラスを代表してツル美が呼びに行くと、真理子はなごりおしそうに箸を置いたのだった。
620名無し草:2011/09/19(月) 20:57:59.08
【編集部からのお詫びと訂正】
618ページに間違いがありました。
プラザアテネ → ブタザアテネ

固有名詞を間違うなんて、なんということだろう。
牡蠣の種つけてロープ巻きつけて海に沈んで来なくっちゃ。
ヴィーナスと間違われるかもねっ、きゃっ!

621名無し草:2011/09/19(月) 22:02:33.15
ツル彦、じゃあ一緒に餃子を作りましょう。作りながら中国の地理の復習をしたら、きっと記憶に残って忘れないわよ。
ツル美は家のリビングに塾オリジナルの大きなプリントを貼っている。
先週までは中国の地図に地形・気候・人口・主要都市・産業などを書き込んだものを貼っていた。
もちろん、ひとつの単元が終われば新しいのに貼りかえるので、日本地図が何年も貼りっぱなしなんてことはない。

ツル彦は、「勉強になるなら」と言って参加することにしたが、実を言うと内心では、勉強にかこつけて
母親と一緒に面白そうなことをできるのが嬉しかったのだ。

小柄な中国人嫁が優しい声で話しかけてくれる。
「あなたは何歳ですか?背高いですね、中学生と思いました。」と言われてツル彦は気をよくし、
「お母さん、ヘタクソだなあ、僕の方が上手だよ」などと軽口を叩き、子供らしい笑顔を見せてくれる。

ツル美は、「よかった、楽しんでくれてる。連れてきて良かったわ」と、ほっとした瞬間、
ツル彦の笑顔が消えた。
近づいてくる不気味な地響き…もしや!
ツル美は覚悟を決めて振り返った。
622名無し草:2011/09/19(月) 23:10:32.36
そのころ祭り会場のはずれで、ひとりの男がうろうろしていた。
年齢不詳、坊主頭、小太り、白のランニングに下駄履き、スケッチブックを持ち
背負った大きなリュックには青い傘が差してある。

お、おまつりっていうのは  こ、ここかな? 
は、はなびはあるのかな?
な、なかったら  お、おむすびでもいいな 
ぼ、ぼくは  お、おにぎりがすきなんだな
623名無し草:2011/09/20(火) 00:00:39.14
「はい 食べ放題お願い」 真理子は、くしゃくしゃになった1000円札と500円玉を出した。

「女の人には多すぎる」と言おうとした中国人嫁は、真理子の威圧感に負けて「はいではこちらに」
とテーブルに案内した。すぐに運ばれてきた水餃子を真理子は食べるというよりも吸引すると
言ったほうが良いスピードで片付けはじめた。

その食べっぷりにしばらく呆然としていた中国人嫁だがはっと気づくと作りおきした餃子がなくなるところだった。

「早く おかわりちょうだい まだまだ食べれるワ」と真理子の声が飛ぶ。

赤ん坊を抱いてもどってきたアクネスが真理子のもとへやってきて
「すみません。お客様 もう 餃子オシマイです」

真理子は激怒した。「あんな なんで赤ん坊なんか連れてくるのよ。だから餃子作るのが遅いんだワ」
624名無し草:2011/09/20(火) 00:23:51.89
アクネスは水餃子の出店の片隅で、あやしい飲み物を売っていた。
実は彼女の夫は結婚当時すでに50歳に近かったのに、すぐに子宝に恵まれ、
その後もずっとラブラブなので、彼女の作る料理に秘密があると言われていた。
彼女は拙い日本語を逆に利用して、
「これ、奥さん、きれいになる」 「これ、旦那さん、元気なる」という
いかようにも受け取れる曖昧な表現で、自家製のスープやお茶を結構な額で売っていた。
(これは薬事法に抵触している可能性が指摘されている)
中味はというと、体に良いものではあるが即効性はないので、飲み続けなければ効果はない。

「あなた子供いないから分からない。子供たからもの、いつも一緒にいるのが大切ね」
この言葉が真理子の逆鱗に触れた。
「食べ放題って書いておきながらおしまいってどういうことよ!嘘つき、詐欺、ドロボー、金返せー!」
顔を真っ赤にしたアクネスは怒鳴った。
「○△□×☆◎!」
他の中国人嫁達がいっせいに餃子作りを再開した。


アクネスはこっそり「アクネス・ドリンク おなかすっきり」をテーブルから下ろした。
625名無し草:2011/09/20(火) 00:43:25.36
日本の焼き餃子と同じぐらいの大きさで、しかも皮の厚みが倍以上もある水餃子が、
まるでタピオカのように吸い込まれていく。
餃子の具には、「アクネス・ドリンク おなかすっきり」、要するに緩下剤が混入されていた。

中国人嫁は震え上がった。幼い頃聞かされた残虐な日本人の話を思い出したが、
いま目の前にいる化け物の恐ろしさといったらどうだろう!
彼女たちは必死で餃子を作り続けた。
まるで、餃子がなくなったら次は自分たちが食べられる番だと思っているかのように。

「ミスぶどう娘コンテストの決勝が始まりまーす。出場者のみなさんはお集まりくださーい」
626名無し草:2011/09/20(火) 06:44:16.48
 ああ、時間がない…。
 呼び出しを受けて、水餃子を作っている中国嫁のうち決勝にエントリーされた者が数名ぬけた。
 真理子も決勝に選ばれているのだ。行かなくては。
 こうなったら…カズちゃんとお母さん(後で叱られた)と江原君にしか見せたことのないこの技で
 真理子は唇をあひる口にすると、深呼吸をした。
 その場にいた中国人嫁からアイヤー!という悲鳴があがった。
 作ったばかりの水餃子が宙を舞い、真理子の唇の中にすぽんすぽんと入っていくではないか。
「あぢあぢあぢぢぢぢぢぢ」
 水餃子の汁が高温で真理子の唇と口内を襲い、やけどを負ってしまった。
 水餃子吸引はちょっと無謀だったかしらん。あら、私のチャームポイントの肉厚のあるセクシーな
唇が、より大きくなってセクシー度が増したんじゃないかしら?
 真理子は「ごちそうさま」と言って店を出ると、バッグからピンクの口紅を出し塗り、さらに強めに
グロスを入れた。
「ああ…これで私、完璧な美人になったんじゃない?ミスぶどう娘、優勝間違いなしじゃないかしらん?」

 すこし間をおいたところで、動向を見ていた、祝井シマコはステージに向かう真理子を尾行し続けた。
627名無し草:2011/09/20(火) 08:38:01.85
遊鶴は朝から水屋横の道具室にこもりっきりだった。
もちろん傍らにはさくらもいる。

昨夜鞍之助と決着を付けた事は一生胸の中にしまったままになるだろう。
(最後は「君の幸せを祈るよ。」と言って下さってほんとに助かったわ。
でもあんなに泣きじゃくられたのでは、幾ら何でも興醒めよねえ。)

「さくらさん。この小桶短佐ゑ門の黒楽どう思う?」
真剣なまなざしで遊鶴が尋ねた。
「私・・・お茶碗はよくわからないの。ごめんなさい。恥ずかしいわ。」
があああーん!
(なんて。正直な人なんだ。知ったかぶりされるよりずーといいよ。さくらさん。)
628名無し草:2011/09/20(火) 09:17:54.26
ツル美のせっかくのアイデアが仇となってしまった。
この恐ろしい経験と中国の地理が一緒になってツル彦の記憶に刻み込まれてしまったのだ。
が、彼がそのことを知るの次のテストの時である。
このことははたして彼の第一志望である開閉中学の合否にどんな影響を及ぼすのであろうか?

そのころ、同じく予選を通過した勝魔がA系Bのコスプレ姿で真理子を待っていた。
629名無し草:2011/09/20(火) 09:47:59.39
男がようやく屋台のそばへやってきた

ここは、なにかな?
す すいぎょうざ?

そ それは、おにぎりよりおいしいのかな?
630名無し草:2011/09/20(火) 09:58:10.73
中国人嫁 「6個250円、12個400円ね」
男    「お、お金がいるの? ここここまったな」
ツル彦  「おじさん、僕の作った餃子食べる?」
男    「あ、ありがとう」
ツル彦  「おじさん絵が好きなの?あとでそのスケッチブック見せてよ。
      ぼくも絵が好きなんだ。中学受験が終わったら、絵を習いたいなあ。」
631名無し草:2011/09/20(火) 10:07:05.51
鞍之助は腑抜けのようになって河原町を歩いていた。
(はあー。僕はもう2度と恋なんてしないぞ。仕事に生きるんだ。)
するとその前を恐ろしく足の綺麗な女が通り過ぎた。
超ミニスカートから伸びた細い足、ブルネットの髪を風になびかせている。
鞍之助は足にはうるさいのだ。

思わず声をかけた。
「ハ、ハロー」
美女が振り向き応えてくれた「??ボンジョルノ」
彼女は昨夜花京院から別れを切り出された傷心のイタリア娘アレッサンドラであった。

めでたしめでたし

632名無し草:2011/09/20(火) 10:09:22.72
餃子を食べ終わった二人は一緒に祭りを見て回り、ツル子の家に行ってスケッチブックを一緒に見た。
そのなかの一枚はスワン湖の花火を描いた見事な貼り絵で、ツル彦が息を呑んで見とれていると、
男は「あ、あげるよ。ぎ、ぎょうざのおれい」と言ってツル彦に贈った。
それから、二人で油性ペンを持って大きなカレンダーの裏に一緒に絵を描いた。
この商店街の祭りを題材に水餃子を吸い込む化け物やコンテストの様子などを細かく描きこみ、
その上から色紙やちらしなどを千切って貼っていった。
633名無し草:2011/09/20(火) 10:29:59.83
アレッサンドラは派手な外見に似合わず、自然や動物が大好きな、陽気で優しい女性だった。
二人はすぐに意気投合し、(中略) 3ヵ月後には「おめでた婚」を発表し、
「さくらから鞍之介を略奪した」として彼女はちょっとした有名人になり、
さくらのプライドをひどく傷つけることにるのを、今は誰も知らない。
634名無し草:2011/09/20(火) 10:46:14.02
どちらかというと、イヤむしろかなりぼんやりしていて数字に疎い鞍之助には気が付かれなくて幸いだった。
アレッサンドラのお腹の子の本当の父親は・・・

取り合えず当人同士が幸せならば結構な事である。
真実はアレッサンドラと神様だけが御存知なのだから。
635名無し草:2011/09/20(火) 11:57:38.89
見知らぬ男をつれて帰ってきたツル美親子を見てツル子は驚いた。ツル美は、用心深く普段ならそんな事は絶対しないからだ。
ツル美は、目の前で真理子のバキューム食いを目の当たりにして、学生時代のトラウマが蘇ってきたのだ。ツル彦の為にも
なんでもいいから、あの光景を忘れたかったのだ。
そしてツル子は、孫とその男がカレンダーの裏に創り上げた景色を見て目を瞠った。
636名無し草:2011/09/20(火) 14:04:58.02
も、もしやあなたは、あ、あの有名な…
別にツル子は男の口調を真似ているわけではない。
ツル子の様子に状況の変化を察した男は、「ど、どうも、ご、ごちそうさまでした」
と言って逃げるように去って行った。
637名無し草:2011/09/20(火) 15:14:04.96
こうして真理子は、かの有名な琺瑯きよし画伯の作品におさまったのである。
638名無し草:2011/09/20(火) 15:32:38.31
あっけにとられていたツル子は、改めてその絵を見た。
「あれまぁ これは、マリちゃんじゃないか」 
食べ物を啜り込む化物は、裾がギザギザになっていた水玉模様のスカートを纏っていた。
639名無し草:2011/09/20(火) 16:11:23.78
鞍之介は、アレッサンドラのお腹が目立たないうちにと慌てて、それでも
牧場の跡継ぎ、うんと豪華な披露宴をとりおこなったのであるが、
イタリアでオーダーしたボリュームのある薔薇の精のような純白の
ウェディングドレスを着た新婦を皆賞賛した。
アレッサンドラは没落したとはいえ、貴族出身のなかなかの家柄である。
それを後日美容院で読んでいた「家族画報」で見たさくらは奥歯に亀裂が
入るほどかたく歯を食いしばった。
イタリア出身のモデル、アレッサンドラがイタリアで知人のデザイナーに
ドレスをオーダーしてもとりたててどういうことでないが、さくらは
「もっとゴージャスで、もっと人から羨ましがられる披露宴をするわ!」と
決心した。あれほど可愛いと評判だったさくらも、最近心なしか
頬がたるみ、腰周りに肉が付いてきたようである。
さくらは美容院の鏡を覗きながら、先日の真理子の失態も、日頃の
不義理も都合よく忘れ、逝子に象顔マッサージの予約の電話をしようと
していた。
640名無し草:2011/09/20(火) 19:15:34.40
アレッサンドラはスタイル抜群の美人だったが、モデルとしてはあまりぱっとしなかった。
ところが、宝塚出身女優から恋人を略奪したということで一躍有名人になった。
が、出自も性格も良いので、略奪やデキ婚については、すぐに誰も話題にしなくなった。
彼女は趣味が多彩でしかもどれもハイレベルなので、奥様モデルとして雑誌やテレビで引っ張りだことなり、
ガーデニングや北イタリアの家庭料理の本、妊婦用ヨガのDVDなども発売された。
噂によると、次は子供服や生活雑貨のオリジナル・ブランドを立ち上げる計画らしい。

一方さくらは元気がなかった。
京都について勉強しようと、奇想K子のエッセイや京都検定のテキストなどを読んでみたが、
律子たちの話すことの半分も理解できないので、京都行きは苦行であった。
唯一の楽しみは、見本として届けられる兜塚の和菓子である。
彼の和菓子にはまってしまったさくらは、東京にいる間も足しげく店に通っていた。
641名無し草:2011/09/20(火) 20:37:56.23
ボンクラの鞍之介はまんまと騙しおおせたが、
そこは年のこう。両親や祖父母はアレッサンドラのお腹の子に疑問を抱いていた。

あの日まで、さくらさくら、さくらと結婚出来なければどうのこうのと言っていた息子である。
「言うべきか迷っていたけど、アレッサンドラさんのお腹の子は月数が合わないんじゃないかい?」と祖母が言う。
祖父は「こんなに大袈裟に売りだされた以上、今すぐに離婚という訳にもいくまい。」
 「あさはかな事をしたわい。馬主仲間に知れたらそれこそいい笑い物だ。」と嘆く。
父親は内心「こんなことなら、名前に難癖などつけなければよかった。」と後悔していた。
母はただひたすらに息子が不憫でならなかった。

やはり神様は御存知であった。
642名無し草:2011/09/20(火) 22:28:48.32
 「外資系の進学塾にいたことがあって、アメリカのジャンクな食べ物には慣れている私ですが、これは別格
ですね」
予選落ちした、勝魔と江原はミスコンのステージの前の観客席で、スパムおむすびをほおばっていた。
「ね、日本とアメリカの文化の融合ですよ。マリちゃんにも食べさせてあげたいけど、まさか決勝に残る
なんてねえ」
「まわりの引立て役として残されたんでしょうよ、可哀想に…、あ、おむすび3つだけ残しておいてあげましょう」
 ミスコン決勝の前の休憩中にステージで地元の若者有志によるよさこいが始まった。
黒を基調とした揃いの衣装に金色のねじり鉢巻き、鳴子を持って金髪、茶髪の男女が勝沼の民謡をディスコ
アレンジしたものを軽やかに舞っている。
なかには十代後半と見られる若い金髪の女の子が同じ衣装を身に着けた髪の毛の後ろが長い幼い息子と一緒に踊るほほえましい
姿も見られた。
「マリちゃん、こういうの嫌いなんだよねえ。集団で楽しんだり、家族づれで楽しんだりするのが苦手なんだね」
「あ、言えますね」
 勝魔は真理子がアクセル01に入ってからの挙動を思い出して納得した。
 集団行動がとにかく苦手な女だったのだ。

643名無し草:2011/09/21(水) 00:17:10.18
コンテストの決勝は、各自がパフォーマンスを披露することになっている。
合否および優勝・準優勝は、審査員の判定と客席の反応によって総合的に決定されるという、
きわめて曖昧なルールである。
最初は中国人嫁たちだ。
アクネスの「プランA ハニトラ作戦」は、反応がイマイチだったので、
平均年齢かなり高めの観客達を懐柔することにした。

まだあどけなさの残る若い嫁が出てきて、自分の生まれ故郷の民謡を歌った。
はっきり言って上手いのか上手くないのか分からないが、みんな義理で手拍子を取る。
歌い終ると、故郷を思い出したのか彼女は感極まって泣き出した。
「パパー!ママー!うわーん!!」(もちろん芝居である)
審査員も司会も、思わずもらい泣きしそうになる。会場からは割れんばかりの拍手で、もちろん合格だ。

次の嫁は、雑技団並みの芸で会場を沸かせた。
上体を反らし、ブリッジの姿勢からさらに体を曲げ、足の間から顔と手を出し
ニーハオと手を振ってさらに餃子を包み始めたのだ。
特に美人というわけでもないが、会場からの拍手喝采を受けて彼女も合格した。

次はアクネスの番である。彼女は「長押の花」という古い歌を、甲高い調子っぱずれの声で熱唱した。
若い世代は知らないだろうが、数十年前に一世を風靡した歌で、観客達は青春時代に帰って一緒に歌った。
田原やナカータはナニソレ状態であるが、客席の反応を無視するわけにもいかず、これも合格。

中国嫁達を全て合格させてしまったので、その後からは審査を辛めにせざるを得なくなった。
なぜなら、合格者に贈る賞品の数が決まっているからである。
そのため、まさに「ミス」に相応しいような若くてかわいい女の子たちが、次々と落とされていった。

真理子は焦っていた。アクロバット嫁の餃子をスルーしてしまうほど焦っていた。
彼女はパフォーマンスの準備をしていなかったのだ。
どうする真理子、伝家の宝刀「遠隔バキューム」を披露するのか!
644名無し草:2011/09/21(水) 10:15:43.69
真理子もかつては地元ラジオのDJとして活躍していたこともあるが、
あれは普通の現役女子高生という肩書きで好き勝手喋っていればそれだけでうけたものだ。
人前で披露できるようなパフォーマンスなど、真理子が持ち合わせているわけがなかった。

「私の取り柄は色白もち肌とかパッチリおめめだから、パフォーマンスなんてないんだワ
ああいったものは男にもてないデブスがやればいいのよ。
私みたいな美女はただ立っているだけで立派なパフォーマンスになるはず・・・・」

緊張したせいか、またトイレにいきたくなったが、女子トイレは相変わらずの行列ぶりであった。
2度目のこととて、真理子は慣れた様子でまた男子トイレに駆け込んだ。
用を済ませて手を洗っていると隣には、田舎には似つかわしくない都会的風貌の男がいて
鏡の前でフンフンと鼻歌をうたいながら髪を整えていた。
誰かしら・・・あ、作曲家の二枝成影じゃないの!
彼は「AM11」の司会もやっていたから、真理子はすぐにわかったのだ。

そう思うが早いか、真理子は猛獣のように、二枝を押し倒し馬乗りになって叫んだ。

「薬を出すのよ!夏元さんに聞いたわ!あなた持ってるんでしょ!!!!」
645名無し草:2011/09/21(水) 12:57:30.35
アレッサドラの疑惑はじきに鞍之介も知ることとなった。
愛情が深ければ深いほど裏切られた時の落胆と絶望は大きかった。

しかし一縷の望みを抱いていた。
生まれた女の子は西洋と東洋の美しい融合、天使のような可愛らしさだった。
牛の様に広がった鼻、小さな奥二重の彼の遺伝子の影響を受けていないことは誰の目にも明らかだった。
科学的な検査の結果も彼には過酷なものだった。

鞍之介が出した結論は大石家の跡取りを弟に譲り、
アレッサンドラとイタリアの地でやり直す事だった。

646名無し草:2011/09/21(水) 13:08:31.35
疑惑を嗅ぎつけた週刊誌の手から逃れるのは最善の方法だった。
ホイホイ持ち上げていたのに、
一瞬にして手のひらを返した様に晒し物にされるのだけは避けたかった。

元々畑仕事や動物好きの二人はナポリ近郊の村で農園を経営し、
日本からの観光客相手のレストランでつつましやかではあるが幸せな日々を過ごした。
647名無し草:2011/09/21(水) 13:51:01.90
読者のお便り

アレッサドラとかいう人がだれだかわかりませんが、どうしてこの件だけ未来の話になっているんですか? 
(赤ん坊が生まれたってことは何ヶ月か未来?)
648名無し草:2011/09/21(水) 13:56:48.12
観客席にいた勝魔は、携帯が鳴ったのに気づいた。「もしもし 今取り込んでいるだけど・・ええええっ」
手短に電話を済ませそうとした勝魔は、驚きに思わず声を出した。アクセル01の集まりにいつも高い
ワインを差し入れてくれた、代王産業の2代目若社長が、使い込みで解任になったというのだ。
649名無し草:2011/09/21(水) 14:06:57.51
その頃男子トイレでは真理子と二枝の格闘が続いていた。
格闘と言っても一方的にやられているのは二枝だ。
やっとのことで個室へ逃げ込んで鍵をかけると女は「こら!開けなさい!」とドアを叩いている
この勢いではすぐに蹴破られるだろう。

二枝は扉を抑えながら、どうもあの怪物は女のようだ。
なぜ男子トイレに女がいるのか?
そしてなぜ俺を襲っているのだろうか?
と疑問を抱いた。

扉からはメリメリという音がしている
木製のドアだから、裂けたらかなり危険だろう
自分は作曲家であるから、指は商売道具だ
ケガでもしたら大変だ

「わかった、わかったから、やめないか!薬が欲しいならあげる。
ただし僕は今はそんな大量には持ってない」
650名無し草:2011/09/21(水) 14:23:19.14
>>647
お便りありがとうございます。

アレッサンドラというイタリア女性は元は花京院遊鶴の親密な友人でした。
彼女に関しては大石鞍之介との結婚、マスコミの寵児となってもてはやされたこと、
出産までも8カ月およびイタリアへ渡ってからの3年間を早送りで記載しております。
物語の登場人物が非常に多くなり、読者の皆様の混乱を招いた事を作家一同ここにお詫び申し上げます。
651名無し草:2011/09/21(水) 14:27:31.75
「最初から出してくれればいいのに・・・」とぶつぶつ言いながら、真理子は二枝から薬を受け取った
これを飲んででればきっと優勝間違いなしだわ

二枝は恐怖のあまりがくがくと震えていたが
彼は若くもなくさほどイケメンではないので真理子の興味をひくこともなく
あっさりと解放された

真理子はルンルン気分で男子トイレを出た
そこへちょうど勝魔がやってきて、真理子に近づいてこう言った
「代王産業の若社長が使い込みだって!」
興奮しているのか、鼻の穴が数倍膨らんでいる

和代ちゃんは悪い子じゃないんだけど、興奮するとこうなるのが悪い癖なんだわん
いつも何か興奮してるんだもの
652名無し草:2011/09/22(木) 05:44:54.43
ああ、カズちゃんは、アクセル01で一番金まわりのよかった代王産業の若社長がいなくなって、いままで
みたいな贅沢なお遊びができなくなるのが怖いのね。
 カズちゃん、子供三人もいて、二回も離婚しているから、お金のことに関しては、怖いほど厳しいもの。
 うふふふ、この薬を飲めば私は絶世の美女になって、ミスぶどう娘に選ばれるの。
 そして、このコンテストを見た男達に求愛されるんだわ、もちろん、その中の資産家の男と結婚すれば
アクセル01の資金問題は解決するじゃない。

 「てんちょう……薬…ドーピングよくないよ…反則あるよ……」
 わざと話すたどたどしい日本語、真理子が振り向くと息子を抱きかかえたアクネスがいた。
 自分が先ほどまでやっていたことを棚にあげて、人がいい目に合おうとすると徹底的に叩く。
あの国の人たちの特徴である。
「なによっ!ここはいつから南京オリムピックの会場になったの?」
「ごめんごめんそうだったあるね、薬だめだったら、美輪ママのとこの女の子、皆失格になっちゃうね
あの子たち女性ホルモン打ってたりするね」
 アクネスは謝った。
「おわびにこれあげるね、『アクネス・ドリンク おなかすっきり』ここにいるわたしの仲間、皆飲んでるね
美人になってるね、まいにち旦那さん喜ばせてあげてるね」
653名無し草:2011/09/22(木) 09:10:40.34
【読者からのお便り】
こんにちは、連載いつも楽しみにしています。
ところで、第>>628回目の最後に
そのころ、同じく予選を通過した勝魔がA系Bのコスプレ姿で真理子を待っていた。
と書いてあるのに、
>>642回には
予選落ちした、勝魔と江原はミスコンのステージの前の観客席で、スパムおむすびをほおばっていた。
>>648回には
観客席にいた勝魔は、携帯が鳴ったのに気づいた。
と書いてあります。
勝魔さんは合格だったんですか?不合格だったんですか?


【編集部からのお詫びと訂正】
ご指摘ありがとうございます。
言葉の省略や順序の不適切さで、分かりにくい表現となっていましたので、
下記のように訂正させていただきます。
読者の皆様には大変ご迷惑をおかけいたしました。

【正】
>>642
合格した勝魔と予選落ちした江原は、ミスコンのステージの前の観客席で、
スパムおむすびをほおばっていた。
勝魔の出番は最後から3番目、その次が真理子、最後は東京から帰省中の女子大生だ。
この女子大生は町内会長の孫娘で、小顔のスラリとした美人、優勝候補者の一人である。
>>648
観客席で出番を待っていた勝魔は、携帯が鳴ったのに気づいた。
654名無し草:2011/09/22(木) 11:04:35.51
真理子は「いいのよん、許してあげるわ」と言ってドリンクを受け取ると、二枝から奪い取った薬を口に放り込み、
バリバリと噛み砕いてドリンクで流し込んだ。

真理子の体内で異変が起こった。
二枝の薬と「アクネス・ドリンク お腹すっきり」、そして真理子自身の胃液が混じり合って
複雑な化学変化を起こしたのだ!
655名無し草:2011/09/22(木) 11:53:33.86
 ミスコンの司会フリーアナウンサーの古田美保は顔いっぱいに営業スマイルを浮かべて話し出した。
「エントリーされたみなさま、ため息が出るほど素敵ですねえ。さて、ここで嬉しいお知らせです
勝沼学園高等学校の放送部とIT部のコラボによる収穫祭の映像が今、シコシコ動画で生放送配信中です」
 アシスタントの女の子が持ってきたipadを受け取ると、美保は画面を観客に見せる。
「こうして、インターネットに繋がっている端末で見ることができます…」
 ipadの画面に美保の顔が映り、そこへ「美保、前より太ってね?」という白い文字が流れていった。

 一方、真理子がカギをかけずに出かけていったブックスチョモランマに不審な人影があった。
「どうして、ぼくがこんなことしなければならないんれすかあ」
 白いちょうちん袖のジャケット、同じく白いかぼちゃブルマーとタイツ、金色の靴を履いた中世の王子風ファッションの
男、週刊分春の編集者分春王子が、狭い書店に不法侵入していた。
 王子は脚立によじ登ると、天井近くの万引き防止用のミラーの横に小さなライブカメラをとりつけた。
「これも直木賞の為よ、カメラもう少し右ね」
 王子の片手に握られたスマートフォンから、佳苗の声がもれた。
「こう…ですか…」
「そう…OK…うわあ、東京からもはっきりと山梨にいる王子の素敵な姿が見られますよ」
 王子は薄い笑いをうかべながらライブカメラに向かって手を振った。
656名無し草:2011/09/22(木) 12:44:53.99
774:今日も名無しのペンダコさん
  みんな「マリ悪」リレー、ちゃんとついていってる?
  俺アップアップしてきた。
  バトン渡されてもソレ、いま物干し竿状態。俺の竿は…
775:今日も名無しのペンダコさん
  アホ!筆持って書かんかい。
  けどホンマや、前を読むだけでも眼ェ凝るわ、わし老眼やさかいな。
  それにどうも解らんねんけどな、花京院一家、あれ誰が元ネタや?
  オリジナルやろけど、どうもスッと続けられんねん。
  わしが無知、無教養ちゅうだけか?
  娘が離婚しよったから言うわけちゃうけど、
  さくらがあんなとこ行っても、そらうまいこと行くわけないわな。
  鞍之介と外人のアレレなんちゃらかて、ようわからん。
  マリコと絡まんから、もっと脇でええやん。
776:今日も名無しのペンダコさん
  るせぇな、スピンオフなら、ジジイ、あんたでおK。
  好きに書きゃいいんだよ!
777:今日も名無しのペンダコさん
  三田ツル子、うまいよね。オリジナルでもなんかリアルな存在感、イイ!
  ほのぼの親娘でくると信じてたら、孫がまさかの上昇志向!?
778:今日も名無しのペンダコさん
  ガーファンクル・フミ、旦那の漫画「課長・嶋大輔」、超ウケタ!負けたー!
779:今日も名無しのペンダコさん
  泡沫キャラ、がんがれ!
780:今日も名無しのペンダコさん
  奇想K子、嫌がられてるみたいでワロタ。
  旦那K大工の院卒だけど京男じゃないはず。
781:今日も名無しのペンダコさん
  お前ら、うぜー!
  ただでさえ、カオス状態だ。チャッチャと書きゃいいんだよ!
657名無し草:2011/09/22(木) 13:41:02.40
決勝は順調に進み、真理子の順番になった。
勝魔は舞台裏でダンスの練習をしていた。
優勝候補の女子大生は勝魔の教え子なので、「先生かわいいー!」と、歯の浮くようなお世辞を言った。

真理子はステージに上がり、ボソボソとした声で自己紹介を始める。
司会がいくつか質問をするが、微妙にかみ合わない。
「林真理子さんはどんなパフォーマンスを披露して下さいますか?」
ええっとー、と真理子が言いかけると、客席からどよめきが起こった。
彼女の体がみるみるうちに萎んでいき(決して引き締まったわけではない)、
11号サイズぐらいの普通の大柄なおばさんになったのだ。
顔はというと、骨格は痩せようがないので大きさはそのままで頬だけが垂れ下がり、
肌の色はどす黒く、まるで病人のように生気がない。
効果が現れたわ! 真理子は得意になってポーズを決めた。
と、その瞬間、大きな爆発音と同時に、強烈な悪臭が会場を多い尽くした。
悪臭の元は真理子で、その正体は、餃子に入っていたニラやセロリなどの香りの強い野菜、
それに腸壁にこびりついて残っていた様々な物質などが作り出した、おそろしい有毒ガスである。

そして、爆発音と同時に真理子の体は一瞬にして元に戻ったのだが、
真理子はそれに気付かずにポーズを決めたままである。
658名無し草:2011/09/22(木) 14:26:25.40
ブックショップ・チョモランマから店長らしき臭いの跡を追っていた城見徹は
遥か先の方から異臭が立ち上がったのに気づいた。
胸元、腰のポケットから手榴弾型のアルティメット消臭力を瞬く間に取り出して、
臭いの方向へ力を込めて次々と放り込んだ。
659名無し草:2011/09/22(木) 18:01:26.40
外国の国営放送局は「侵略される日本!○国人賛成権でもうオワタ」特集に急遽祭りの模様を差し込んで放送した。
コンテストに出てくる人々を見て勘違いしたのであるが無理もない事だ。
「日本では予想以上に崩壊が進んでいる。」
「これは人間なのか?」
660名無し草:2011/09/22(木) 19:05:39.27
コンテスト会場から離れた商店街では、ちょうど炊きたての栗ご飯が出来上がった所だ。
前町内会長夫人の武田信子は、真理子の姿が商店街に見えない事を心配していた。

「ああ、町内会長の木下さんに収穫祭の重大申し送り事項を言い忘れたずら!」
鼻眼鏡になった老眼鏡を持ち上げ、青くなって周囲の若い衆を呼んだ。
「ミスぶどう娘にマリちゃんを出しちゃダメだ。観光客が帰っちまうだよ」

かつでイベント会場に猪のごとく乱入した真理子を誰も止められず、
祭がめちゃくちゃになった話も風化してしまったのだ。
亡き夫を含め代々の町内会長が伝えてきた、収穫祭の大切な申し送り事項なのに。
それを伝えそびれてしまったショックで信子は倒れんばかり。

「誰かー、救急車を!」炊き出しを手伝っていた男子中学生が叫んだ。
信子はその中学生の耳元に、やっと搾り出した声でこう言った。
「マリちゃんをぶどう娘の会場へ…行かせては…いかん…ずら」
661名無し草:2011/09/22(木) 22:41:22.34
時すでに遅し、真理子のおかげで会場はパニックになっていた
町内会長の孫娘があまりの臭いで卒倒してしまったので、町内会長は叫んだ
「中止だ中止だ!なんだっつーだ!撤収するずらーーーー」
阿鼻叫喚の騒ぎであった。

真理子は一瞬何がおきたのかはわからなかったが、
自分がここにいてはまずいのではないかという動物的勘が働いた。
いつもぼーっとしていて鈍いようにみられるのであるが、真理子は自分の損得勘定には案外鋭いのだった。
そこへ勝魔が飛び込んできた
「真理ちゃん!逃げるわよ」
「逃げるってどこへ・・・・」
「東京よ!代王んとこに本格的に調べがはいったらこっちにとばっちりがくるかもしれない」
「えええ・・・こんな田舎の小さな商店の使い込みに大げさよぉ」
勝魔は真理子ののんびり加減に腹がたった。

「代王んとこはそりゃ田舎企業だけれど、地元じゃ優良企業だっつんで知名度は高いし、
ほら、真理ちゃんの家の障子が破れた時だって、うちは紙問屋だからって気前よくタダで修理してくれたでしょ?
ああいうのもややこしいわよ。さっさと逃げるに限るわよ」

勝魔もさすがに競争の激しい教育業界きっての元外資系予備校にいただけはあった。
言うが早いか真理子にスパムおむすびをくわえさせて反論させないようにし、
強引に真理子の手をひっぱってすたこらと会場を後にした。

勝魔はこの騒ぎ、当分ほとぼりが冷めるまで帰ってこれないかもしれないな・・・と思った。


662名無し草:2011/09/22(木) 22:55:48.86
真理子は勝魔に腕をひっぱられて全力で走った
といっても日ごろから自転車に乗って塾や駅前商店街青年部の営業にいそしんでいる
勝魔の体力にかなうはずもなく真理子の足はもつれている

かずよちゃん、相当びびってるわ・・・・真理子はスパムおにぎりをほおばりながらぼんやりと考えていた

代王産業は地元では有名な企業であった
もともとは古くからの紙問屋だったのだが、先代社長がなかなかのやり手で
印刷産業にもかかわるようになり、役所の印刷物などを一手に引き受けて会社をかなりの成長させたのだった。
若社長はどこかのんびりしながらも人当たりもよく、いつもアクセル01の活動を応援してくれて
地元では予約がとれないので有名な食堂「ら・べったら」の漬物てんこもりコースなどをご馳走してくれたものだ。

そういえば、あの店にはアクネスも子連れできていてひと騒動あったことを思いだした
元々いつも自分の本屋で立ち読みだけして買わないことを快く思っていなかった真理子であるが、
なんとアクネスは「ら・べったら」に子連れで来店してきたのだ

田舎の食堂とはいえ「ら・べったら」は地元ではなんといってもうんと有名で予約がとれないような名店なのである。
そこへ鼻をたらした子供をつれてくるとは言語道断であった。

663名無し草:2011/09/22(木) 23:01:35.88

「ちょっとォ、アクネス、あんた子連れでこんな店に来ていいと思ってんのぉ?」
真理子はずいずいとアクネスのテーブルへ近づいていって文句を言い放った。

「どして そんな いちわる いう?」 アクネスは子供を抱えながらたどたどしさを装った日本語で毅然と反論してきた。
「ニポンジン、よゆう なさすぎね。 子は宝ね。みんなの宝ね。
子供泣く、まわり、あやす、みんながぶくぶくバーしてあやせば問題ない。それ当然ね」

あまりの言い草に真理子は腹が立った

「あんたねえ、何年も日本にいてなんでそんな日本語下手なのよ!
いっつもうちの店で日本語講座立ち読みしてるくせに!帰りなさいよ」

アクネスは泣きながら子供を抱えて帰っていった。
664名無し草:2011/09/22(木) 23:14:03.82

その時、たしかに真理子はまわりから「よく言ったねえ」とほめてもらったことを覚えている。
なのに、数週間後、アクネスが勝手なことをしたせいで、真理子は逆境にたたされたのだ。

地元のコミュニティ誌「WAIWAI山梨」の人気コーナー僕の私のかんげいごと」(考えごと)に
アクネスの投稿が掲載されたのだ!

「子連れでレストランに行ったらだめなんずら?」と題したそれは話題を呼び、
狭い町内のこととて、アクネスをいじめたのは真理子であるとまたたくまに知れ渡ったのだ。

真理子をかばってくれる人もたくさんいたが、中国人嫁たちの機嫌を損ねては困る連中もいて
いろいろと大変なことになったのだった。
665名無し草:2011/09/22(木) 23:17:26.67
あの時は珍味屋の江原や三田ツル子、
それに美輪ママたちがとりなしてくれて、いつのまにか話題にのぼらなくなっていったが
あのときのことを思い出すと真理子は今でもいやな気持ちになるのだ。

「今日はアクネスに勝てたはずだったのに・・・」と真理子はひとりごちた。

「真理ちゃん、さ、ついたわよ!」
二人はブックショップチョモランマの前に来ていた。

「適当に着るものとかもって、出てくるのよ!3分でね。」勝魔はそう真理子をせかした。
666名無し草:2011/09/22(木) 23:22:28.82
扉を開けて、真理子はあっと声をあげた
店内がひどく荒らされているのだ。

「カズちゃん・・・」真理子は和代を手招きして惨状をみせた。
「真理ちゃん、これは・・・」

「カズちゃん・・・私ってなんて罪な女なのかしら。
これは俗にいうスカートってやつよね?美女はつらいわ・・・
きっと今日のコンテストで私を見初めた人が侵入したに違いないんだわん」

勝魔はそれはストーカーでしょ、と間違いを指摘した。
塾講師という職業柄、真理子のこういったいい間違いはいつも我慢ならないのだった。
特に真理子はカタカナに弱いのだ。

「そんなわけないでしょ、コンテストも中止だし、これは泥棒じゃないの?」
「でもレジは開けられてないし、本も盗まれていないし・・・」真理子はきょろきょろとあたりを見回した。
「お金が無事ならいいじゃない、時間がないわ、さ!早く!」
勝魔はそういって真理子に荷造りをさせ、駅までまた走ったのだった。
667名無し草:2011/09/22(木) 23:29:38.99
その様子を分春王子は電柱の陰から隠れてみていた。
まだ胸がどきどきしている。
あやうく自分が店から出てくるところへ帰ってきた彼女たちと遭遇するところだった。

あの様子では盗撮用カメラが見つからなかったようだ。
しかし、すぐ荷物を抱えて出て行ったということは、当分店には戻らないのだろうか?
だとしたら、自分のしかけたことはすべて無駄だったわけだ・・・
また鬼島先生に叱られてしまうな・・・
668名無し草:2011/09/22(木) 23:38:24.12
ここで 尾行する というひらめきが分春王子にあればよかったのだが、
それがおもつかないところが分春王子が分春王子たるゆえんであった。

一方、同業者である城見徹は臭いの元をたどりながらさまよっていた
669名無し草:2011/09/23(金) 00:23:00.45
城見が投げた消臭力は一定の効果を奏した。
彼に続き、超消臭力のキャンペーンガール達も商品を総動員して消臭活動に当たったおかげで、
悪臭騒ぎは間もなく鎮静化したが、城見は嗅覚がおかしくなり真理子を見失ってしまった。
670名無し草:2011/09/23(金) 06:48:24.94
真理子と勝魔が「勝沼ぶどうの里駅」に向かって道を歩いていると、側面に「美味しさは幸せ 江原珍味店」
と書かれた古いタイプのステップワゴンがすっと通過して目の前に止まった。
 運転席の窓が開き、江原が顔を出した。
「ほとぼりがさめるまでここを離れるんだったら、ぼくも連れてってくれない?車もあるし、食糧もあるよ」
 車のトランク部分を指さす。珍味の名前が入っている段ボールが数個入っていた。
 この緊急時に救いの手は貴重だ。勝魔は真理子に承諾をとるまでもなく、ステップワゴンの後部シートに乗り
こむと、顎で真理子に早く乗るように指示した。
 段ボールをひとつ開けてみると、女装用のチャイナドレスと、スピリチュアル関係の本が数冊入っていた、それ以外
の段ボールは珍味の袋がぎっしりと入っていた。

 城見徹は編集者であるが、もう一つの顔があった。国から派遣された調査員だった。
 アメリカのペンタゴンと日本の内閣情報調査室から共同で依頼があり、中国が40数年前に開発して、失敗作の上に
食事と維持費がかかりすぎるという理由で、素性を伏せて中国にゆかりのある日本人夫婦に養女として託した人間兵器
の追跡調査である。
 調査の結果、山梨で生存しているらしいということがわかり、その詳細を確認させに、城見を山梨に行かせたのだ。
671名無し草:2011/09/23(金) 12:50:46.29
美華子は親友の虎ちゃんと自由を謳歌していた。
パリを拠点としてヨーロッパ中を旅行しまくっていた。

「なあ美華ちゃん。週末どこ行こか?」
「うちな。青の洞窟見たこと無いんや。いっつも波が荒くて船が出なかったんや。」
「いやあ。かわいそうやんなあ。そんなら再チャレンジしよかー。」
ローマ経由でナポリへ行った二人は途中で可愛らしいレストランへ入った。

「あのマダム見たことあるんやけど、誰やったやろ?」
そこにいたのは京都時代の倍も体重が増えていそうな、
しかし何倍も幸せそうなアレッサンドラであった。
672名無し草:2011/09/23(金) 14:14:04.16
アレッサンドラの体重は2倍近くになっていたが、膝から下は相変わらずすらりとしたままだった。
673名無し草:2011/09/23(金) 16:07:57.47
アレッサンドラも自分を見つめる視線に気が付いた。
そして美華子をみつけるとお茶目な表情でウィンクして見せた。
美華子もようやく思い出した。

「美華ちゃん。知ってる人なん?」
「うん。ちょっとな。」
奥から出て来た日本人男性が抱いている赤ん坊を見て美華子は「あっ!」と小さな声をあげた。
674名無し草:2011/09/23(金) 16:27:57.09
読者からのお便り

いつも楽しく読んでいます。
登場人物の城見徹さんは丸川書店から独立に備えて
軽薄な文章を書ける人を探していたから真理子を追っていたと思うのですが
(>162-164あたり。)
いつのまにスパイだなんてことになったのでしょう?

また、花京院一家やアレッサンドラとかいう人たちにまったく興味がないのは
私だけでしょうか?
オリジナルキャラだし真理子と絡まないなら登場する意味もないと思うのですが。
675名無し草:2011/09/23(金) 16:29:46.12
東京新宿方面に向かう電車の中に、他の乗客とは全く異質な二人が乗車した。
くたびれ、放心した顔つきの男と、異様な服装で頬の紅い、女にしか見えぬ男らしき者。
席は離れていたが、二人とも同じように茶色っぽく汚れたよれよれの服を着ていた。
疲労困憊を癒すかのように、揃って齧っていたのは杉林軒「月の滴り」であった。
薄汚れたブルマー姿の男の荷物棚には土産用大箱入りの紙袋が置かれていた。
「しまった!脚立をチョモランマに忘れてきた!」

その頃、ブックショップ・チョモランマの前では、放置された脚立を使って
ツル子が植木ばさみを持ち出し、枯れた梅の木や、鉢植えソテツ、粗末な松の手入れをしていた。
「またマリちゃんが疾走、いや失踪したわ。
江原君もいないなんて、二人が駆け落ち?そ〜んなことはないはずよ。
それにしてもこの脚立、前からあったかしら?よく壊れなかったものだわ。」と言いながら、
ふと足元を見ると、1枚の名刺が落ちていた。
「厳冬舎 代表取締役社長 城見徹」、誰かしら?
マリちゃん、うんが向いてきたのかしら? 便秘症だったけど」
676名無し草:2011/09/23(金) 17:55:27.14
>>674
【編集部より】
お便りありがとうございます。
ご指摘の登場人物についてですが、ネタバレになりますので詳しくは申し上げられませんが、
既にお気づきのように、主人公を語る上で、セレブ・京都・貴族などは必須アイテムでして、
このサブキャラ達は、近い将来きっと読者の皆様に楽しんでいただけるような役割を演じることになると思いますので、
それまで今しばらくお待ち下さい。

(ぶっちゃけた話、主人公の行動があまりにも常軌を逸脱した恐ろしいもので、
執筆者達は、真理子の登場する場面を1ページ書くごとに三日三晩うなされるという、
文字通り身を削るような思いをして作品をこの世に送り出しているので、
本筋の方はなかなか進まないんです。どうぞご理解下さい。)
677名無し草:2011/09/23(金) 18:17:50.44
ある日の管理人薪のつぶやき

takigi-uso800
京都には信じられないスペシャルなプロの美女や、うんとすごい世界が
存在するんです。普通の女にはわからないことを先生は書いて下さって
ます。
678名無し草:2011/09/23(金) 18:44:57.47
 真理子を乗せたステップワゴンは勝沼インターから中央自動車道に入り、大月ジャンクションを抜け、東京に向けて
走り続けていた。
 騒動で疲労したためか、しばらくは大人しく後部シートで眠っていた真理子だったが、空腹と尿意で目を覚ました。
「あのね、江原君…」
「言わなくてもわかってる、談合坂サービスエリアで食事でもしようか」
 うわ、と真理子は歓喜し、口の中に唾がたまるのを感じた。
 車の免許を持たない真理子にとって高速のサービスエリアは行きたくても行けなかったB級グルメスポットなのである。
東京より近い場所にあるのに、車を持ってない為行けなかったグルメの聖地…、サービスエリア…。
「信玄おやきと…甲州鳥もつ煮……、胡麻ソフト…」
「はいはい」

 先ほどから、勝魔はスマートフォンにかじりつき、三人で泊まれる安い宿を検索していた。
679名無し草:2011/09/23(金) 19:01:13.57
江原には野望があった。
真理子たちを助けたいという思いも嘘ではなかったが、
江原もまた東京へ出てみたかったのだ。

父親から受け継いだ珍味屋の商売は悪くはなかったが、
自分の霊感の強さがどこまで都会で通用するか、試してみたかったのだ。
そして自分の長年の夢でもある、歌手になりたいという思い、これも捨て切れなかった。
680名無し草:2011/09/23(金) 19:13:23.41
分春王子はさっきから視線を感じていた。
好奇の視線ではない。悪意のこもった刺すような視線だ。

東條は怒りに体を震わせていた。
鬼島先生、私に勝魔の林の尾行を命じておきながら、
こんなチャラチャラしてぼーっとしたのまで寄こすとは。
よっぽど私のことが信用できないんですね。ああ、いいですよ、分かりました。

「林は収穫祭りで問題を起こして逃走、と見せかけてこっそり戻って来て、今も自宅に隠れています。
近所の洋品店から年配の女性(たぶん知り合い)が来て留守宅の様子を見る振りをして、
こっそり世話をしているようです。」と嘘のメールを送ってやった。
鬼島は分春王子に「彼女は家にいる、張り込みを続けること」とメールを送った。
もう日も暮れかけてるというのに本屋のそばから離れられない王子を残して、
東條は車で東京に戻ることにした。

談合坂サービスエリアに近づきた時、東條は急に空腹を覚えた。
そうだ、朝からずっと尾行していて、何も食べていなかったんだ。
681名無し草:2011/09/24(土) 10:55:40.73
ーーーお話の途中ですがここでクイズですーーー

分春王子は今どこにいるでしょう?

1.電車の中
2.本屋の前
3.その他
4.わからない

682名無し草:2011/09/24(土) 19:33:38.90

管理人 「あら、こんなところに原稿用紙が1枚落ちてるわ。>>675ページ?
675ページならもう掲載されたはずよね。ページの番号を打ち間違えたのかしら。
じゃあ、これは一体どこに入るの?まあいいわ、どうせ誰も気付かないわよ。」

薄暗がりの中で分春王子が見張りを続けていると、「ちょっと」と声をかける者がいた。
振り返ると、警察官だ。こういう祭りの時は空き巣や飲酒運転などが増えるので、警戒して見回っていたのである。
王子が焦ってしどろもどろになっていると、頭上から「あ〜ら王子さま〜、ここにいたの〜」と野太い声がした。
美輪ママの店のナンバーワン、さゆりちゃんである。ナンバーワンと言っても人気ではなく、
身長が190pもあって一番高いのだが、さらに10p近いヒールを履いているので、すごいといったらない。
警察官は、「お、お知り合いでしたか。な、なら結構です。」と後ずさりし、脱兎のごとく逃げていった。
さゆりちゃんはにっこり微笑みながら、「助けてあげたんだから、お店に来てよねえ」と言って王子を引きずって行った。
二人が店に着くと、すでに祝井しまこが来ていて、美輪ママや女の子達と盛り上がっていた。
その光景の恐ろしさと言ったらどうだろう。さながらサバドのようであった。
約1時間後、王子はトイレに立つ振りをして逃げ出し、なんとか東京へ帰る最終便に間に合った。
683名無し草:2011/09/24(土) 19:34:08.74
いっぽう嗅覚がおかしくなった城見がきょろきょろしながら歩いていると、遠くに大きなリュックを担いだ男が見えるではないか。
坊主頭にランニング、リュックには青い傘…琺瑯きよし画伯だ!
琺瑯きよし画伯は人嫌いで有名で、インタビューや作品集の出版はもちろん、会ってもらうことすら出来ないのだ。
城見は、ぜひ新しい出版社から作品集を出したいと思い、
「がーはーくー!まってくださーい、おはなしがしたいんでーす!」と叫びながら駆け出した。
道路を走ったのでは追いつかない、そうだ、畑の中を突っ切って行こう!
城見が他人の畑を踏み荒らしながら走っていくと、急に足元の地面が消えた、と思ったらそこは肥溜めだった。
畑の持ち主が怒鳴りながら駆けて来たが、城見の気の毒な姿を見るて爆笑し、
畑に入ったことは水に流し、ついでに城見の体と服もきれいに熱いシャワーで流してくれた。
いたたまれない城見は、最終便で東京に帰らないといけないから、と言って、
乾燥機の中からまだ乾ききっていない服を取り出して着ると、逃げるように帰って行った。
684名無し草:2011/09/25(日) 00:08:20.20
美輪ママはしまことすっかり意気投合して盛り上がっていた。
気分がいいから、今晩は久しぶりに歌っちゃおうかしら、と言って美輪ママはマイクを持った。

♪しまんこちゃんのためなら エンヤコラ ♪まりちゃんのためなら エンヤコラ 

歌もお年をとった分、深い声と表現力が素晴らしく、お客さんたちは何度か泣いちゃいました。
685名無し草:2011/09/26(月) 05:35:07.66
 談合坂サービスエリアの駐車場に停まるやいなや、真理子はスライドドアを開けて一人で飛び出して行った。
 車内に取り残された江原と勝魔はあっけにとられていた。
「そんなにガツガツしなくても食べるものは十分にあるのに…」
 江原はあきれながらシートベルトを解除した。
「運転している時に感じたから言ってあげようと思ってたけど…マリちゃんの運命の人が…このサービスエリアにいるから
………て…もう遅いか…」
686名無し草:2011/09/28(水) 05:25:45.50
江原「真理ちゃん…本当の戦いはこれからだ!」

(未完)

リレー作家さん達の次回作にご期待ください。



【次回予告】
「課長・嶋大輔」
暴走族あがりのリーゼントの男が大手企業で出世していく超娯楽傑作
ご期待ください。
第一話「謎の新人OL真理ちゃんあらわる」
687名無し草:2011/09/28(水) 09:45:38.25
談合坂サービスエリアのフードコートで蕎麦をすすりながら東條は考えた。
もう鬼島のところには戻らない。でも、この後どうしよう。
花京院のところで雇ってくれないかな、いやいや、それは男のプライドが…。
でも、この業界に残るのは難しいだろうなあ。
そうだ、最後の大勝負だ。
「あれ」をネタに小説を書くんじゃなくて、「あれ」に小説を書かせたらどうだろう。
あの欲望と勘違いは、他人が100%描き切れるようなもんじゃない。
それに、あの外見なら、マスコミも面白がってもてはやすだろう。
あのマルコ・デラックスだって、あっという間に忘れ去られてしまうさ。

せっかく素晴らしいアイデアを思いついたのに、なぜかその瞬間、
東條の背中にぞくぞくっと悪寒が走った。

そのころ真理子は、お土産物コーナーの試食品を片っ端から平らげながら、
フードコートにしようかレストランにしようか迷っていた。
688名無し草:2011/09/28(水) 12:27:30.44
真理子は迷っていた。フード・コートとレストラン、どちらも抗いがたい魅力だ。

取り合えずフード・コートにしましょw 私って実は庶民的な味も嫌いじゃないのよね。
東京ではいろんな美食を楽しんだから、たまにはこういうB級グルメもいいかしらんw
とルンルンしながら、まずは鶏モツを注文しに突進しかけたその時、なんとなく見覚えのある姿が…!

東條さぁ〜ん、もしかして私を追いかけてきたの? こんなところで会うなんて、偶然というか、もう運命ね!!
よかったじゃない、勝沼まで行く手間が省けて。私達これから東京に行くの。もちろん、ご一緒してよろしくてよ。
車を運転しない真理子は、高速道路やサービスエリアに上りや下りがあることなど知らないので、
東條が東京から来て、そしてここからUターンすると思っているのだ。

蕎麦をすすっていた東條は思わずむせこんで吐き出してしまい、なぜか涙まで滲んで来た。
やっぱり花京院のところへ行ったほうがよかったかも…orz

真理子はその様子を見ながら、
やだぁ、涙を流すほど喜んでいるわ。それにしても一度口に入れたものを出すなんて勿体ないわね。
厳しい母にしつけられた私には、決して出来ないことだわ。
689名無し草:2011/09/28(水) 19:28:21.35
読者のおたより

真理子さんの言葉遣いがなんかお上品すぎてキャラに合ってない時があるんですけど・・・
いくら気取っても言葉遣いは気取れないと思うのですが。
690名無し草:2011/09/28(水) 23:39:26.93
東條はバクバクする心臓を押さえながら思った。
とりあえず何か食べさせて、その間にこっちの体勢を立て直さないと…。
「ま、真理子さんでしたね、お久しぶりです。ここの名物の鶏もつ煮、食べませんか?」
普通の人なら「はあ?」というような話の展開であるが、真理子は何のためらいもなく応じた。
まあ、おいしそう。是非いただくわw

東條はカウンターで鶏もつ煮20人前を待っていると、勝魔と江原もやって来た。
東條の姿を見つけた勝魔は、あっと驚いたが、すばやく目配せし、互いに知らん振りを決めこんだ。

もつ煮を持った東條、そして勝魔と江原が同時に真理子を見つけて近寄っていく。

すると、真理子のそばにいた若い女子大生風のグループから「ええー、うそー!」という声が上がった。
3人は、真理子がまた何かしでかしたのかと身構えた。

グループの1人がスマホを見ながら叫んだ。
「鬼島佳苗が殺人容疑で逮捕だってー、もと交際相手の男性を殺害って、うそー!」

東條と勝魔は凍りついた。
691名無し草:2011/09/29(木) 06:51:32.02
事実を確かめるべく、自分のスマホでヤッホーニュースにアクセスした勝魔は
再び驚いた。
「山梨・収穫祭で異臭騒ぎ、異臭の元をばら撒いた女を全国指名手配。先月の
東京亡国ホテルの異臭騒ぎに関与か?似たような女が防犯カメラで確認される」
 そこには、亡国ホテルで吸引する真理子の画像がアップされていた。
「……ちょ………本当に逃避行になっちゃった……どうしよう…」

 嫌いだし、性格も合わないが金だけは持っている友達のドクター輪田にでも
頼ろうか…それとも……。
692名無し草:2011/09/29(木) 20:21:00.70
「それにしても、今年の祭は訳わかんなかったわね」
しまこに気を許した美輪ママが、グラス片手に語りだした。
「ぶどう娘にはね、私達みたいなのは出場資格すらないのよ。ホントはね…」

今でこそ、葡萄の収穫を誇る村であったが、その昔は散々であった。
腹を満たす米や野菜以外の、農産物として果物を育てるのは苦難が伴った。
なかなか実らない葡萄。ワインなぞ外来の酒の存在すら知られない時代。
生糸を増産する近県と異なり、村は貧しかった。
真夏であっても、一度茹でて硬くなった素麺を翌日も食べるのは常識だった。

ぶどう祭の「乙女の葡萄踏み」で若い女が葡萄を踏むのは少女に限られていた。
大ナタでざっくり切られた葡萄の枝は、思いのほか鋭い。
葡萄を踏みながらも、踵や足首は切り傷が耐えないが、ぶどう娘は笑顔を絶やさない。
不機嫌な態度をとれば、村から野麦峠を越えて奉公へ出されてしまうからだ。
奉公先で暴行されて命からがら故郷に戻ったが、親から勘当された少女。
真面目な性格ゆえに、奉公に励みすぎて肺を病んで命を落とした子。

祭とはいえ、本来ならば決して茶化してはならない行事だったのだ。

「そうね、何十年か前にマリちゃんがおかしな方向に持っていっちってね」
693名無し草:2011/09/30(金) 00:15:05.82
同じ頃、城見も指名手配のニュースを知って愕然としていた。
なんてことを…
彼は慌てて電話をかけた。相手は極秘プロジェクトの上司で、コードネームはDBS13。
ちなみに彼らの調査対象はDBS00、そして城見はDBS49である。
彼らは暗号を交えて話した。
リアルミシュランがうんとルンルンで、胸躍らせない女がいようか…
ややこしいので普通の日本語に直すと、
DBS49(城見) なんでDBS00が指名手配にされてるんですか。DBSプロジェクトはもう終わりだ。
DBS13(上司) サミットが近くてテロ特別警戒中なんだ。都知事のごり押しという噂もある。
DBS49(城見) このままでは、DBS00の調査に支障をきたします。早急に何とかしてください。
DBS13(上司) DBS09が、官房長官に会いに行った。こちらも全力を尽くしている。
694名無し草:2011/09/30(金) 01:01:10.07
20人前の鶏もつ煮を吸引しようとする真理子を、勝魔はすんでのところで押し留めた。
こんなところを見られたら、すぐに通報されるに違いない。
「真理子さん、たしか外に美味しい屋台があったはずよ、行ってみましょう」と言って、
鶏もつ煮のトレーを掴んではなさない真理子を、3人がかりで外に引きずり出した。
人気のないベンチまで来て真理子を座らせると、3人はこそこそと相談を始めた。
勝魔は代王産業のことがあるから、警察には関わりたくない。
東條の方も、鬼島と真理子の2人の犯罪者に関わりがあると思われるのは困る。
真理子を警察に突き出すことは2人にとって得策ではないが、ここに放置して逃げれば、
あることないことでっち上げて、2人を窮地に陥れるに違いない。
すると、江原が自信たっぷりに言った。
「心配しなくていいよ、嵐はすぐに過ぎ去る。息を潜めてじっとしていれば大丈夫。嵐の後は快晴だよ!」

疲労とショックで気が昂ぶり、まともな判断能力を失っていた2人には、江原の言葉が神のお告げのように聞こえた。
「そうよ、隠れましょう。でも、どうやって?真理子さんを隠すのは無理よ!」
勝魔が絶望的な悲鳴をあげた。
すると城見は言った。
「まず痩せる。そして消臭剤の風呂に入れる。それだけで別人になれるはずだ。」
「ところで東條さん、私達お金があまりないのよ。私達これからどうすればいいかしら?」
「出版関係の知り合いで、城見徹という男がいます。彼に頼んで、雑用などを回してもらいましょう。
決してわりのいいアルバイトとは言えませんが、身元を詮索される心配はありません。
住まいは…、しかたない僕のアパートを提供しましょう。僕はしばらく実家に戻ります。
実家と言っても都内ですから、心配はいりませんよ。」
東條は、いざとなれば城見に「指名手配犯、独占インタビュー!」として真理子を売ればいい、と考えていた。
695名無し草:2011/10/04(火) 00:12:12.90
>>694
ちょっと薪ちゃん、下から8行目は「すると城見は」じゃなくて「すると東條は」でしょ!
早く直しなさいよ。
696名無し草:2011/10/04(火) 06:55:08.03
勝魔と東條と江原が話し合っている間に、東條の携帯の着メロが鳴った。
 なんと、もう一生鳴らないと思っていた「葬送の曲」だった。
 東條は恐々と着信のボタンを押すと、これもまた一生聞くことのない
と思っていた恐ろしい声が聞こえてきたのだ。
「何しているの東條!こっちは大変よ、誤解した報道陣がこちらに押しかけて大変なんだから
王子はまだ電車の中にいるみたいだし、早くこっちに戻ってきてよ!」
 鬼島の声だった。
「あの…」
「ああ、あの報道見たのね、あれは同姓同名の別人よ」
 鬼島佳苗の話によると、かおりんというハンドルネームでWEB小説「DV夫との24か月」「君は薔薇薔薇」
を連載していた本名・喜島香奈枝という女が外資系会社に勤める夫を殺害して逮捕されたらしい。
「ちなみに私の方はペンネームが鬼島なの、もう〜〜同じ名前だったから誤解されて大変。早く戻って
東京に戻ってきてよ」
697名無し草:2011/10/07(金) 20:19:16.33
東條は意を決して言った。もうこの鬼島に仕えるのはいやだ。俺は男なんだ。言うときは言うんだ。
鬼島佳苗、あんたは醜い雌豚だ。俺の取材の都合のいいところだけつまみ食いして、好き勝手に
書きちらして、目も通されずにゴミ箱に捨てられる資料の山。どれだけ汗水流して集めたと思うんだ。
自分で取材しないから、なにごとも伝聞だから、また聞きだから、薄っぺらいんだ。

しかし、東條の口から漏れたのは「田舎の父が・・・かえってこいというので・・・」
ともごもごくぐもった声だった。
鬼島にはお見通しだった。「東條、いや、西郷、何言ってるか、自分でわかってるの?」
698名無し草:2011/10/08(土) 01:08:52.46
鬼島は続けた。「あんたの実家って東京じゃない、笑わせんじゃないわよ」

東條は腹をくくった。俺も男だ、がつんと言ってやる!
携帯を持ったままサービスエリアの中の騒がしい場所に移動し、
「もしもーし!先生?聞こえないんですけどー。で、電波が……」と言いながら通話を切ってしまった。
そして、すぐさま城見に電話をかけた。
「もしもし、城見さん?東條です。ご無沙汰しています…」
が、動揺のあまり頭が混乱して、次の言葉が続かない。
「ああ、東條さん。お久しぶりです、前に鬼島先生のところでお会いしましたっけ。」
「その名前は言わないで下さい…」
「ってことは東條さん、鬼島先生とは…。最近よくない噂ばかりだしね。
もうひとりの薔薇薔薇キジマと混同してるやつもいるけど、練炭キジマの方も時間の問題だって話だよ」
「え…………」
「ところで、練炭キジマに頼まれて変な女を追いかけてるらしいけど、どう?」
「う…………」
「まさか、知ってるの?どうだろう、これから僕と組んであれを売り出さない?絶対に大当たりすると思うよ。
今どこ?これから会えない?必要なら金も用意するから言ってくれ。」
「………じゃ、じゃあ、食べ物を用意しておいてくれ。質はどうでもいい、とにかく肉と炭水化物だ。」
「と、東條さん、まさか一緒にいるのか?全国指名手配されたはずだぞ!
まあいい、とにかく僕のマンションに来てくれ。悪いようにはしない。住所は……」
699名無し草:2011/10/08(土) 01:27:24.24
美輪ママの話を聞きながらシマコは思った。
次の作品のタイトルが決まったわ。「山梨女」よ。
あの女の溢れんばかりの脂肪、臭気、食欲、色欲、強欲、怠惰、憤怒、傲慢、嫉妬…、
何事に対してもすっかり淡白になってしまった現代の日本人に比して、
この女の持つ強い負のパワーといったらどうだろう!
何としてもこれを描きたい。書かれたその活字から耐え難い悪臭がたちのぼるような、
そういう真に迫った作品を産み出したい。
文学賞なんてどうでもいい。審査員にうけなくてもいい。
文学史上の汚点と言われるような、エログロナンセンスの極みのような作品を書いて、世間を震撼させてやる!

シマコは紅潮した顔で言った。
「ねえ、ママさん。その人のことをもっと聞かせて。ご両親のこととか、幼い頃の話とか」
700名無し草:2011/10/08(土) 09:07:56.63
真理子は一瞬で鶏もつ煮を吸引してしまうと、ぶうぶう言った。
何よ、外には何もないじゃない。早く中に戻って食べましょう。
江原が言った。
「真理ちゃん、欲しい物は何でも買ってきてあげるから、ここで待ってて。
僕達はこれからしばらく、あまり目立たないようにしたほうがいいみたい。なんだか感じるんだ。
あ、ほら見てごらん、真理ちゃんの運命の人が戻ってきたよ。」
701名無し草:2011/10/08(土) 10:10:54.42
美輪ママは水割りを作りながら遠い目をした。
私は地元の人間じゃないから古い話は知らないんだけど、でもこの数年だけでもいろいろあったわねえ。
中国人嫁と騒動を起こしたこともあったし、そうそう、最近じゃボランティアで店のママをやるって言い出してねえ。
なんでも、夕方の6時から8時までママをやって収益を全て被災地に有益な形でおくるって言うから、
どうせお店もヒマな時間だし、被災地のお役に立てるなら、とOKしたんだけど、
最初の3分で店の食料みんな食べ尽くしちゃって、さらに電話で大量に追加注文したのよ。
食料って言ったって、おつまみの他に、うちの女の子達の夕食や夜食用にピザとかチャーハンとか牛丼とか、
業務用のを大型冷凍庫に大量にストックしてあったのに、全部食べちゃったのよ。
その間に来たのは学習塾の勝魔先生だけで、しかもジュース一杯だけ。
ここの収益でナントカの衣装を誂えて、被災地に慰問に行こうなんて相談をしていたわ。
そういえば、その時は着物で来たんだけど、カウンターの中にいる間も、ずっと腕にバッグをかけたままだったわ。
そうだ、さゆりちゃんがあの時の写真を撮ってたわね。
さゆりちゃーん、しまんこ先生に真理ちゃんの写真みせてあげてー!
702名無し草:2011/10/08(土) 11:00:53.34
さゆりちゃんがママに呼ばれたので、代わりに鶏頭理恵蔵(とりがしらりえぞう)が王子のテーブルにやって来た。
身長ナンバーワンのさゆりちゃんとは対照的で、こちらは小柄でぽっちゃりと愛らしいく人気ナンバーワンだ。
理恵蔵が「はじめましてー、りえぞ…」と挨拶しかけると、王子はあたふたと立ち上がり、
震える手で鬼島から渡された経費入りの封筒から枚数も確かめずに紙幣を取り出してテーブルに置き、
最終便に間に合わないといけないから、と言って逃げるように出て行った。

チョモランマに脚立を忘れてきたことに気付いたのは、間もなく東京に着こうという頃であった。
703名無し草:2011/10/08(土) 11:22:20.49
はじめましてー、ナンバーワンのさゆりでえーす!
私、しまんこ先生の大ファンなんです。こんなところでお会いできるなんてうれしいー。
先生は私達のこと、馬鹿にしたり化け物扱いして面白がったりしませんよね。
私達ってそういうの、敏感に分かっちゃうんですよ。
あの女はサイテー。自分のこと棚に上げて、私達に対していつも上から目線なのよ。
で、都合のいいときだけすり寄って来て、歯の浮くようなお世辞を言うの。
ママは苦労人で人間が出来てるから嫌な顔は見せないけど、本当はすごーく迷惑してるのよ。
この前ボランティアでママをやった時も、1人で食べまくったうえに8時になっても帰らないから、
ママが、配達に来た江原珍味店の若旦那さんに頼んで、「辛楽」ってラーメン屋にアフターに連れ出してもらったのよ。
その後に隣町の美容整形クリニックの先生が来てねえ、あそこにいる理恵蔵ちゃんのお客さんなんだけど、
最後にぜーんぶ払ってくれたの。あの女の飲み食いした分から他のお客さんの分まで全部よ!
まあ、そのおかげでうちの女の子達が感激してあのクリニックに行くようになったんだから、広告料だと思えば安いもんよね。
私? んふふふ…、ヒ・ミ・ツw
あら、ごめんなさい、私ったら1人でしゃべりまくっちゃって。そうそう写真よね。
と言ってさゆりは携帯を取り出した。
704名無し草:2011/10/08(土) 12:45:58.26
ほら見て、この写真よ。この着物、きっと貸衣装ね。
裄丈も身丈も全然足りないから、腕はむき出し、おはしょりもほとんどないわ。
大きい服を探すのが大変なのは私もよく分かるわ。でもね、サイズの合わない服ってみっともないでしょう。
私のドレスはね、この前みんなで香港に行った時にオーダーして作ってもらったの。素敵でしょ。
あの女ったら一緒についてきたのに、オーダーメイドのお店には行かないで、
40号の偽ブランドテーシャツを買って、ぱっつんぱっつんで着てたんだからww

美輪ママがたしなめた。
ちょっとさゆりちゃん、言いすぎよ。誰にだって欠点はあるわ。完璧な人間なんていないのよ。
真理ちゃんはちょっと食いしん坊で、ちょっと空気が読めないところがあるけど、悪い子じゃないのよ。
きっと良い環境に恵まれて、良い影響を受ければ、もう少し変れるんじゃないかしら?

しまこは慌てた。
ちょっとー、あれが変ってしまったらつまらないじゃないのー!

さゆりは小声でしまこに言った。
あの女のことを知りたいなら、商店街のブティック・サンダーに行くといいわよ。
あそこの三田ツル子さんなら昔のことも知ってると思うわ。たしか娘さんがあの女と同い年だったはずよ。
あと、珍味屋の若旦那と学習塾の勝魔塾長も仲がいいみたい。と言っても本心はどうか知らないけど…
705名無し草:2011/10/09(日) 02:28:14.04
「東條さん、今どこにいるんですか?」
「談合坂です。
向こうは友人らしき男女2人と一緒で、たまたまサービスエリアで会ったんですよ。
皆これから東京に向かう予定です。」
「そうか。東京まで高速で来るのは危険かもしれない。
適当なところで下りて一般道を通ってきた方がいいな。
ちょうど男2人女2人になるから、どこかのラブホに泊まって、
明日の昼頃こっちに着くようにしたらどうだ?」
「ラ、ラブホテルですか、彼らと……。
でも身元を詮索されることもないだろうし、いいかもしれませんね。
俺、昨日からろくに寝てないし、もう限界…。彼らにそう提案してみますよ。」

「えええ!東條さんが私の運命の人ですって?
やっぱりね、最初に会ったときからそんな気がしてたの。
ついに同窓会名簿に、東條真理子(旧姓 林)と載せる日が来るんだわあ」
「待ってよ、真理ちゃん。運命と言っても結婚とは限らないよ。
真理ちゃんの運命を大きく変えるってことだよ。
多分いい方に変わるんだと思うけど、結婚とは違うかも。
同窓会名簿には、東條ではない別の文字が見えるような気がするんだ。」
勝魔は小さく鼻で笑った。「外国人の恋人が出来るって話はどうなったのよ、ふんっ!」
勝魔の鼻息で、戻って来た東條が思わずよろめいた。
「真理ちゃん、本人には運命のことを言っちゃだめだよ。
意識しすぎると変なふうに引きずられちゃうからね。
真理ちゃんも深く考えすぎないで、でも調子に乗りすぎてもダメだよ。」

東條はトレイに信玄おやきを山盛りにして戻ってきて勧め、
江原に「すいませんが、飲み物も買って来たいので手伝ってもらえませんか?」と言った。
東條は歩きながら、検問などを避けるため、高速を下りて一般道経由で東京に行くこと、
時間を調整するために人目に付きにくいラブホに泊まること、
その際に何としてでも真理子と同室にならないように協力して欲しい、
ということなどを手短に説明した。
706名無し草:2011/10/11(火) 11:32:05.58
東條は知らなかった。すぐ後ろに真理子がついてきていることを。
真理子は信玄おやきだけじゃ物足りないわん、私の食べたいもの、何か売っているかしらん。
真理子にとってSAは近くて遠いB級グルメパラダイスなのだ。
そして真理子の耳は「ラブホ」「真理子と同室」などの単語をしっかりキャッチしたのだった。
707名無し草:2011/10/11(火) 14:01:38.58
えー、どうしましょう!いきなりホテルに連れ込まれて押し倒されるのかしら?
女なら押し倒されてナンボよね。
でも、いくら運命的な再会を果たしたとは言え、
銀行家と教育者を両親に持つこのわたくしを手に入れるのに、
それはちょっと安っぽいんじゃないかしら?
女というのは、男にどれだけ気と金を遣わせるかによって値打ちが決まる、
というのが真理子の持論である。
そうだわ、いちゃいちゃしながらたーっぷり焦らして、
最後の最後に「だーめっ」って言うのはどうかしら?
そして次はちゃんと東京で、なかなか予約の取れないレストランで食事をした後に、
高級ホテルの夜景のきれいなお部屋に誘われるの、
もちろん薔薇の花束と高級ワインも忘れないでね、東條さーん!
そうだわ、それまでにあのお薬でダイエットして、また逝子先生のマッサージを受けて、
それから素敵なドレスもいるわね、ああワクワクしてきたわあ。
真理子はこっそりフードコートへ戻って行った。
興奮したらお腹が空いてきちゃった。
708名無し草:2011/10/11(火) 17:40:41.92
東條さんったら、真理ちゃんのこと何も分かってないのね。
たったこれだけのお焼きで足りるわけないじゃない。
真理ちゃんったら、トイレに行ったにしては遅いわね、まさか……!

週末のフードコートは混んでいたが、真理子の小山のような背中はすぐに見つかった。
勝魔は渾身の力で真理子の丸太のような腕を掴み、「大事な話があるの」と言って外へ引きずり出した。
「な、なに?大事な話って?」
「えっと」と言いながら勝魔は必死で考えた。
「町内会長達が激怒して、あなたを探しているらしいわよ。
電車には乗ってないから高速だろうって見当つけて、サービスエリアを探しているらしいわ。」
と口から出まかせを言った。
「欲しい物があるなら買ってきてあげるから、お願いだから車で待っててちょうだい」
709名無し草:2011/10/11(火) 19:36:34.90
偶然は恐ろしい。そのサービスエリアにいままさしく町内会長の車が入ってきたのである。
もし、この混雑の中で町内会長と真理子がばったりでくわすことがあれば、それはもう、
偶然ではなく必然であろう。
町内会長の車の中では東京の孫(祭見物に山梨に遊びにきていたのである)が
「おじいちゃん早く早く、もらしちゃうよ」と叫び、町内会長はトイレ近くに停めるべく
必死に空きを探していた。
孫は金に染めた髪を振り乱し「もれるもれる」と叫び続け、その横にはやはり金髪の彼女が
付け睫毛の重たい瞼を閉じ、いかにもうんざりといった風情だった。
710名無し草:2011/10/11(火) 21:54:58.49
町内会長の木下は、親が始めた廃品回収業を継いで事業を大きくし、
今ではちょっとした資産家で、美人でインテリの嫁を貰い、上流を自認している。
娘と息子が1人ずついて、娘は地元で結婚し、その娘は赤山大に通っていた。
そう、今回のコンテストの優勝候補だった美人女子大生である。
息子はというと、変な下流の女に引っかかってデキ婚し、東京へ行ってしまった。
いまだに嫁は気に食わないが、何と言っても孫はかわいい。
ましてはじめての男の孫で、木下家の跡継ぎでもあり、金髪でもいとおしくてならなかった。
711名無し草:2011/10/14(金) 14:35:10.21
木下が車を停めるがはやいか転がりだすように孫は飛び出してゆき、彼女のほうも、
「一服してこよーーーっと」と車を出て行った。
孫の姿を目で追っていた木下はフードコートからなにやらもみ合いながら出てくる二人を
見つけた。それが真理子と勝魔だとわかった瞬間、木下はあわてて突っ伏して
顔を隠した。真理子と関わりたくない人間にはこの種の反射行動能力がことあるごとに
アップしてゆくのである。
なにも木下が隠れなければならない理由はひとつもないにもかかわらず、とっさに
こうした行動をとったうらには、やはり股間を押さえながら走っていった孫や
愚鈍そうな表情でタバコの煙を鼻から出している彼女を心の奥で恥じる気持ちが
あったのだろう。
712名無し草:2011/10/15(土) 09:11:25.99
勝魔がステップワゴンに真理子の体を突っ込んでスライドドアを閉めた瞬間、パトカー数台が駐車場に
侵入してきたかと思うとここからやや遠くに停まり、慌ただしく数人の警官がフードコートの方に
消えていった。
 車の後部座席のガラスはスモークが張ってあり、真理子の巨体は覗き見ることはできない。
 「もしかして間一髪?」
 江原が一人戻ってくると、運転席に乗り、勝魔にも中に入るように言った。
「一般道降りるから。それからは東條さんの車の誘導に従うからね。東京行くよ」
 真理子を探し出せないままの警察を置き去りにして、三人を乗せたステップワゴンは東條の車に誘導され、
談合坂を後にした。
「お…お腹すいた…」
 勝魔はテング印のビーフジャーキーの袋を荷台の段ボールから取り出すと、真理子の口の中につっこんだ
「もごもご」
713名無し草:2011/10/15(土) 23:50:08.24
ビーフジャーキーっておいしいんだけど、肉汁がないのよね、にくじゅうが
それにしても、満福の焼肉のおいしさといったら。
特別裏メニューの豚カツやお弁当、思い出しただけでも涎が出てくるわジュルル

東條の車について高速を下りると、何やら怪しげなネオンが光る建物群が現れた。
こ、これってもしかして…! 真理子は汗ばんだ手でジャーキーを握り締めた。
果たして、東條の車は「ホテル グレープ」という紫色の建物の前でしばらく逡巡するかのように停まった後、
ゆっくりと入っていた。江原もだまってそれについていく。
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!

勝魔はバックミラー越しに江原に目で訴えた。
「ちょっと、どういうこと」
「大丈夫、心配しないで」
そこへ真理子の巨顔が割り込んできて、馬のように歯をむき出して、
歯に挟まったジャーキーの繊維をせせった。
「ちょっと、真理ちゃん、危ないからバックミラーをふさがないで!」
この状況で舞い上がらずに要られる女がいるだろうか?
女というものは、押し倒されてナンボである。
ああ、でも私は銀行家と旧制高校教師の娘、そんなに安っぽい女ではないわ、
どうしましょう〜真理子が身をよじると車体がバランスを崩しかけた。
「真理ちゃん、お願いだからじっとしていてー!」
714名無し草:2011/10/16(日) 09:21:49.68
ペニス一郎「宅配便でーす」
715名無し草:2011/10/18(火) 19:38:37.31
宅配便で届いたのは京丹波の松茸だった。三輪ママは一通り皆に披露した。京立派な、傘の開きの少ない、つぼみとよばれるものだった。
都・とり市特選のラベルの貼られた籠に裏白を敷き、3本の松茸が鎮座していた。
716名無し草:2011/10/21(金) 11:22:42.10
真理ちゃんがいたら、松茸ご飯にして食べさせてあげたのにねえ・・・三輪ママはため息をついた。
こんな3本ぽっちのちょびっとだったら、一口で完食しただろうけど
きっと大喜びで吸引したに違いない。

もちろん松茸の味や香りなどわかるわけなく
単に季節の高価な食べ物、というだけで有難がるのが真理ちゃんなんだけど。
717名無し草:2011/10/23(日) 11:55:36.73
 でもでも、ああ、40数年も、この処女を守りとおしてしまったのだ。
もういいわよね、捧げてもいいわよね。
 東條さんだったら、私、捧げてもいいわ……。
 江原くん…江原くんでもいいけど、やっぱり私は都会の洗練された男によって、女になりたいの…。
本当ならこんな高速インター近くの場末のラブホテルではなくて、一流ホテルのスィートじゃないと嫌だけど…。
 きっとこのような安いホテルには下品にけばけばしい飾りが施してある部屋にでんと円形のベッドが置いて
あるのよ。
 そして安そうなベッドサイドのチェストには下品な大人のおもちゃやら、避妊用具が入っていたいりするのよ。
そして、テレビをつけるとアダルトビデオが……唐突に始まったりするのね。
きゃあーーー。
 大昔、はやばやと彼氏を作って処女を捨てた同級生などから聞いた情報だけど、今でもラブホテルの中身なんてそう
変わってないに違いない。
 ここでどうふるまうかで、普通の女と、私のような選ばれた女との差が出てくるのよ。

 脳内でぐるぐる回る妄想に圧倒され、真理子は古いCPUを載せたパソコンのようにフリーズしてしまった。
718名無し草:2011/10/23(日) 17:36:04.00
真理子と同室になりたくないのは、東條だけではなかった。
幼馴染とはいえ、江原もまっぴらだったし、勝魔にしても、あの狭苦しい空間に充満するであろう
真理子の異臭を考えると鳥肌がたった。
719名無し草:2011/10/24(月) 01:12:57.62
色々妄想してたらお腹すいちゃったわん

真理子はガサゴソと身動きし、車は大きく揺れた、
勝魔がふと見ると、真理子はアルミホイルを被せた盥を膝に乗せているではないか。
「真理ちゃん、それは何?もしかして大型トラックのタイヤを外してきたの?」

「あら違うわよん。さっき鶏もつ煮を買おうと思って注文したら、
80人前しか残ってないっていうじゃないの。やっぱり田舎はダメね。
トレーの在庫も56パック分ぽっちしか無いっていうから、お鍋ごとテイクアウトしてきたの。
お店の売り子は『お鍋ごとお渡ししますから、どうかこれでご勘弁を、どうかお引取りください、
お鍋はついでの時に返却してくだされば結構ですので、どうかこれでお許しください』
なんて言って震えて泣いてたわ。」

真理子は口元によだれを溜めつつ鍋にかぶせたアルミホイルをビリビリッと引っ剥がした。
720名無し草:2011/10/24(月) 08:04:26.60
あら、お箸が入ってないわ。お店の人、入れるのを忘れちゃったのねん。
鍋ごとテイクアウトするならば、割り箸をつけるのが当たり前ではないか。
真理子は大鍋いっぱいの鶏もつ煮を前に考えこんだ。

銀行家の父と女学校教師の母から厳格な躾をうけて育ったアタクシのこととて、
食事の際はお箸を美しく操るものだ。
しかし・・・アジアのどこかの国では手掴みでものを食べるのが普通だ、と聞いたことがあるわ。
どこかの国では高貴な方も手で食べ物をつまんで食べるのね。
じゃあアタクシがお箸ナシで食事しても良いってことだわ。

満足げな笑みを浮かべた真理子は、キャッチャーミットのように大きな手を鍋に突っ込み
わし掴みにした鶏もつ煮を口へ運び始めた。
721名無し草:2011/10/24(月) 10:27:08.07
東京で1人暮らしをしていた頃、真理子にまったく男っ気がなかったわけではない。
ゲテモノ好きか、それとも競争率の低さに目を付けたのか、それとも単なる体目当てか。
デブ専と呼ばれる人達にとっては、あのポチャポチャした質感がたまらないらしい。
が、真理子の場合はそのぽちゃぽちゃした質感の肉を、ロクに洗っていない表皮が覆っていたし、
確かに胸囲は大きいが、アンダーとトップの差は小さく、せいぜいBカップといったところなのは、
当時も今も変らない。
下心を抱いて真理子の部屋を訪れ、臨戦態勢にまで持ち込んだ男はいたが、
実は初志貫徹を果たした男はゼロであった。
ただし分厚い脂肪層のせいで感覚の鈍っている真理子は、
「うーん、よく分かんないけど、最初のうちってきっとこんなものよね」と勝手に解釈していた。

その数回の経験の後、何事もないままに20年の歳月が流れ、真理子は東條という王子様を前に、
過去の数回の男性関係(笑)をリセットし、脳内では清らかなヲトメになっていた。
真理子自身はセカンド・バージンのつもりであるが、実際は本物の処女であるwww

江原が言った。
「2人とも心配しないで。僕達は紳士だよ。
ただ、疲れちゃってこれ以上運転するのは危険だから、ちょっとだけ仮眠したいんだ。
僕と東條さんはどの道を通って行くか相談したいから一緒の部屋にするけど、
僕達のこと誤解しないでね、ははは…」

勝魔はうなだれた……orz
そうだわ、どこかで超消臭力を買ってこないと…
722名無し草:2011/10/24(月) 15:32:27.30
ラブホの周囲は何軒かの同業ホテルのほかはラーメン屋、焼肉屋が数軒と、あとは
田圃である。目当てのドラッグストアは近くにはなさそうだった。
勝魔は江原に車を出してくれるよう懇願した。江原もことがことだけにイヤとは言えない。
なにしろ江原の車も異臭がしみついてしまって、このままでは食品を扱う店の車としては
ありえない事態になってしまっている。

そして、東條と真理子が取り残された・・・・
723名無し草:2011/10/25(火) 20:34:01.20
【異臭騒ぎでしょうか?】ブックショップ・チョモランマ店長監視スレ pgr2【いいえオナラです】

1:山梨の名無しさん

前スレに引き続いて おまいらのアイドル、チョモランマ店長のマリちゃんについて語れ
マリちゃん現在行方不明なのだが……

2:山梨の名無しさん

数日前 元宝ジェンヌと思われる女性と共に東京へ行く

同じ頃に亡国ホテルにて女性テロリスト?と思われる者による異臭騒ぎ

ふらりと山梨に戻ってくる

勝沼の収穫祭にて謎の異臭騒ぎ、異臭の発生源近くにマリちゃんを見たとの情報アリ

夕方 全国指名手配

マリちゃん行方不明 ←今ここ

タイーホの速報入る

5:山梨の名無しさん
談合坂のサービスエリアでバイトしているツレからメールが。
真理ちゃんらしい人が大鍋を持って黒い車に乗り込む姿が見られたそうだ


10:山梨の名無しさん
>>5
チョモてんちょ、車の免許持ってないから、中央道から逃げるルートは思い浮かばなかったな。
ということはテロリストも複数いるってこと?
724名無し草:2011/10/25(火) 20:56:03.05
真理子は勝魔の留守に入浴することにした。真理子たちの部屋の風呂はベッドから丸見えなのだ。
女同士とはいえ、真理子といえど恥ずかしい。
浴室は二人でも入れるように、広めのつくりで、たっぷりと張ったお湯にざぶんと飛び込むと
お湯がざーざー溢れた。真理子はお湯を出しっぱなしにして手足を伸ばした。疲れた体にお湯がしみ
わたるようだった。真理子はつい、うたた寝をした。そして気づいたときには、
なにやら排水溝がつまってお湯が浴室から溢れていたのである。
排水溝はなにやらで詰まったのではない。真理子の首筋から大量の黒いウロコが
湯でふやけて剥がれ落ち、浴槽を溢れ出て排水溝に詰まったのである。
725名無し草:2011/10/25(火) 21:26:25.20
ダブルベッドの枕元の電話がけたたましく鳴った。
漏水の件に違いない。
真理子は服を着るのももどかしく、隣の東條の部屋を力いっぱいノックした。
てっきり江原が帰ってきたものと思ってドアをあけた東條は真理子を見てびっくりした。
真理子から事情を聞くと東條はうなった。
指名手配されている真理子をホテルの従業員に合わせるわけにはいかない。
ホテルから通報がいき警察が来れば自分も事情聴取されるだろう。
真理子とラブホにいたことが世間に知れたら・・・東條は失神しそうだった。
銀行家の父と高校教師の母を持つ真理子も深刻な溜息をついた。
私は厳しい躾を受けて育ったのに・・・東條さんがこんなところに連れ込むから・・・
726名無し草:2011/10/26(水) 12:05:42.75
「仕方ない、じゃあ林さんは布団の中にもぐりこんで隠れてて。僕が対応するから」
「きゃあ!ベッドで待っててですって、どうしましょうw」
真理子がベッドにもぐりこむのと同時に、従業員がやって来た。
リストラされたサラリーマンだろうか、くたびれたスーツ姿の中年男性である。
東條はドアを半分だけ開けて応対した。
「すいません、ちょっと水が溢れてしまって。自分で拭きますから雑巾か何かもらえませんか?
それからこれ…取っといてください」と言って1万円札を数枚握らせた。
仏頂面だった従業員は急に揉み手になり、さっそく両腕いっぱいに古いシーツやタオルを抱えて戻ってくると、
「使ったタオルは廊下に出しといてくださいねー、
じゃ、どーもー、失礼しまーす」と言って帰って行った。

東條は這いつくばって部屋にあふれ出した水を拭き取り始めた。
それにしても、ユニットバスでもないのに、なんで水が溢れるんだ?
浴槽の外にも排水口があるはずだろう。
そう思いながら見に行くと、排水口があったと思われる場所には黒い油糟のような物が堆積し
まわりに溜まった水は灰色ににごり、いくつもの泡が消えずに残り、悪臭を放っていた。
「ひぃぃ!」
東條は逃げ出そうとしたが下半身は石のように固まって動かない。
必死で上半身を捩ろうとしたその拍子に、汚水で濡れた床で足がすべりひっくり返ってしまった。
ゴンッ! 鈍い音がした。
ああ、意識が遠ざかっていく…。たしか前にもこんなことが…
727名無し草:2011/10/26(水) 12:35:25.45
江原と勝魔は、「超消臭力」を探していた。
大型ホームセンター2軒とコンビニ3軒に寄ったが、全て売り切れだった。
ここ数日の異臭騒ぎに加えて、3ちゃんねる掲示板の複数の板にある「買ってよかったもの」スレで、
次々と「超消臭力、超オヌヌメ」と推薦され、掃除板には単独スレまで出来てしまったからである。

2人が諦めかけたその時、遠くに一軒の小さな薬局が見えた。
シャッターを下ろして店じまいをしている。
江原はアクセルを踏み込んだ。

果たして、もう廃業したほうがいいんじゃないかと思われるような寂れた店の奥には、
ホコリをかぶった「超消臭力」のダンボール箱(30本入り)が、忘れられたように置いてあった。
江原と勝魔は汚いダンボール箱にすがりつき、涙を流さんばかりに喜んだ。
江原は叫んだ。
「30本も手に入るなんて。やっぱり僕が行った通りツイてるでしょう。」
勝魔は思った。
(また霊視ごっこなの…。だいたい、あの女と一緒にてツイてるなんてありえないでしょ!)
「さあ、早く帰りましょう。真理ちゃんがまた、お腹空いたーって出て来たら大変だわ!」
728名無し草:2011/10/26(水) 20:37:50.26
羽毛布団にすっぽりもぐった真理子の耳には低い男の声は届いていたが、会話の内容まではわからなかった。
じきにドアが閉まる音がして、それからがさがさ、ばたばたと床掃除をしているらしき音が聞こえた。
真理子には掃除している人が東條なのかホテル従業員なのかはわからない。
銀行家の父と高校教師の娘が、ラブホで顔を見られるわけにはいかない。
息をひそめて布団の中でじっとしているより他なかった。

きっとそのうち、東條さんが優しく・すばやくベッドにすべりこんでくるのだわん、
(///ω///)テレテレ♪こんなことや\(◎o◎)/!あんなこと、真理子はめくるめく妄想のうちに
いつしか眠りについていた。

江原と勝魔が戻ってきたとき、ベッドの上では真理子が浴室では東條が倒れていたのである。


729名無し草:2011/10/27(木) 00:40:37.34
戻ってきた江原は男子部屋をノックしたが誰も出ない。
江原と勝魔は目を見合わせた。
意を決して女子部屋をノックしようとすると、ドアがすっと開いた。
鍵が掛かっていない!?
中にはいると、ムッとするような湿度と匂い、そして布団の中からは大きなイビキ。
ま、まさか! 2人はゴクリと唾を飲んだ。
するとバスルームの方からかすかなうめき声が聞こえた。
慌てて駆け寄ると、そこには汚水まみれの東條が頭を抑えながら起き上がろうとしていた。
江原が声をひそめて言った。
「真理ちゃんは寝ているよ。僕は東條さんを男子部屋に連れて行くから、カズちゃんはここの後始末を頼むよ。
さっき買ってきた超消臭力と食料はここにおいておくね。」
「分かったわ、ここを片付けたらそっちに行って、今後のことを相談しましょう。」


「東條さん、大丈夫? はい、冷たいお水」 江原がペットボトルの蓋を取って差し出した。
東條は震える手で受け取って口に運ぶが、大半がこぼれて行く。
「ぼ、ぼく、どこで何をしてたんでしょう?」
「バスルームで倒れていたんですよ。掃除でもしてたんですか?」
「思い出した。あの女が水が溢れて大変だって言うから部屋に行って、
僕が代わりに従業員に謝って、あの女は布団かぶって隠れていて、その後掃除していて…
そ、そうだ、僕、服は着ていましたか?」
「その格好で倒れていたんですよ」
「ああ、よかった。無事だった。前にチョモランマで押し倒されて気を失ったときには、
馬乗りになられて、く、唇を……うっ!」
東條は口を押さえてトイレに駆け込んだ。
730名無し草:2011/10/27(木) 10:40:14.78
布団にもぐりこんだ真理子は思った。
あら、嫌だわ。東京でセクシーな高級下着を買ってくるのを忘れたわ。
こんな下着じゃロマンチックじゃないし、そうだわ、すぽんと脱いじゃいましょう。

真理子は着ていたものを全て剥ぎ取り、みだらな妄想にふけり始めた。
彼女は全身でズンイチ小説のヒロインになりきっていた。
右手だけは、小説のもう1人の主人公である中年エロ親父を演じながら……

そして、いつのまにか涎を垂らしながら寝入ってしまった。


イビキに混じって妙な声が聞こえてくる。
ぐぅわあああ〜、 んふふ、あぁっ、ごゎああああ〜!!
不気味な音に身震いしながら、勝魔は濡れた絨毯の上にありったけのタオルをかぶせ、足で踏んで水を吸い取った。
汚れたタオルを全部廊下に出し終わったところで、小山のような布団が動いた。
「あらー、カズちゃん、戻ってきたの?」と言いながら真理子が起き上がると、
布団がめくれて上半身があらわになりかけ、彼女は慌てて胸元を隠した。
(やだ、私ったらなんでこんな格好なの? そういえば東條さんがベッドで待っててと言って…)
「ねえカズちゃん、東條さんは?」
「さあ、男子部屋にいるんじゃない。」
(そうか、カズちゃんが戻ってくるから、気を利かせて戻ったのね。
私が寝ていたから、起こさないでいてくれたんだわ、優しいのね。
それにしても体が火照ってなんだか変な感じ、キャー恥ずかしい!)
真理子は完全に、夢と現実の区別がつかなくなっていた。

「そうだわ、真理ちゃん、お夜食を買ってきたわよ。
私は明日のことで江原君に用事があるから、ちょっと隣の男子部屋に行って来るわね」
731名無し草:2011/10/27(木) 12:43:16.47
勝魔はそう言い捨てると、テーブルの上に風呂敷包みをドサッと放り出し
部屋を出て行った。

あら、これは何かしらん?四角い形と大きさからすると、座布団を風呂敷で包んだような・・・
真理子は太い指で風呂敷の結び目をほどこうとしたが、生来の不器用さのため
なかなかうまくいかないのだ。
えーい面倒臭い、こんなの引きちぎっちゃえー!
どうせこんな安物の風呂敷、使い捨てなんだから破っていいのよ。

ビリビリと引き裂いた風呂敷を床に投げ捨てるのももどかしく、中の箱の蓋をあけると
732名無し草:2011/10/27(木) 12:47:08.36
・・・・・・・
中身の生臭いことといったらどうだろう。
腐臭の一歩手前とも呼べる臭気に、真理子は食欲をかき立てられた。
なんと、座布団大の箱の中身は
白ご飯をどっちゃり詰めた上にイクラを敷き詰めてあった。
「まぁ、イクラ弁当ね!美味しそう!なまものは早く食べてしまわなきゃ♪」
真理子は舌なめずりすると、手づかみでイクラ弁当を食べ始めた。
733名無し草:2011/10/27(木) 15:16:50.04
胃の中のものを全部吐ききって少し楽になった東條に、江原は話しかけた。
「ポットがあったからお湯を沸かしておいたよ。少し冷めてちょうどよくなってるから、さあ、飲んで。
うち珍味屋だから、消化に良さそうな食べ物は今はないんだ。
必要なら後でコンビニに行って買ってきてあげようか?」
江原のかいがいしさに東條は警戒した。
東條のおびえた顔を見て江原は言った。
「心配しないで、僕にそのケはないから。
ただ、真理ちゃんに気に入られちゃったみたいで大変だなあと思ってさ。
僕さ、実はちょっと霊感があるんだ。何でもかんでも分かるわけじゃないんだけど、
最近の真理ちゃんのことは、なぜかとってもハッキリ分かるんだよ。
東條さんは真理ちゃんの運命の人だよ。サービスエリアに着いた時に感じたんだ。」
東條はまた頭を強くぶつけたような気がした。眩暈がする…
「運命って言っても赤い糸で結ばれていて結婚するわけじゃないんだよ。
結婚する人は、おそらく別の人だ。東條さんじゃない。
ただ、真理ちゃんの運命を大きく左右するってことなんだと思うよ。きっと良いほうに。」

江原は目をつぶって神経を研ぎ澄まそうとした。
(同窓会名簿が見える。文字がはっきり読めない、でも東郷真理子じゃないことは確かだ、
??真理子…旧姓林…、最初の字は「西」かな、それとも「酉」か「茜」かも、
後の字は…画数が多い字みたい、うーん、分からない。
最近ちょっと細かい字が読みにくいんだけど、霊視にも老眼ってあるのかなあ?
734名無し草:2011/10/27(木) 17:23:57.29
城見にDBSプロジェクトの上司から連絡が入った。

話はついた。
あの異臭騒ぎの指名手配犯は「外国籍、性別不詳、自称プロレスラー」で、
逮捕後すぐに不法滞在で即刻国外退去、ということになった。
マスコミにも手を回した。
実は外交官特権がらみで詳細は明かせないというふうにほのめかしてある。
練炭キジマの逮捕が近いから、異臭騒ぎはすぐに忘れられるだろう。
735名無し草:2011/10/27(木) 17:42:09.88
深夜。
ダブルベッドの上では真理子が、ソファの上では勝魔がぐっすり眠っていた。
真理子の寝返りで下敷きになったら命にかかわると判断したからである。
その判断は正しかった。

夜食に食べたイクラがよくなかったのか、突如真理子は猛烈な腹痛に襲われた。
トイレに駆け込む間もなく、真理子はベッドの上にリバースした。
ぐぇぇぇぇええええ!!!!

もつ煮もビーフジャーキーもイクラもベッドの上に飛び散り、その惨状はベッドの
真上の鏡にも映り、惨状の二乗で女子部屋は地獄の有様だ。

ホテルの事務所ではけたたましく警報が鳴った。同時に真理子たちの近くの部屋から
苦情の電話が入った。
「すごい悪臭がするんですけど!! もしかして、近くの部屋で硫化水素の自殺を図ったんじゃ
ないですか? とにかくすぐ来て!!」
夜警のアルバイト社員はおろおろした。事務所には防毒マスクはもちろんのこと、
マスクすらなかったのだ。
736名無し草:2011/10/27(木) 21:23:57.22
同室の勝魔はもちろんのこと、東條も江原も飛び起きた。目がちかちかするような悪臭である。
そして、こういう場合どうしたらよいか、勝魔と江原はすでに学習済みである。
なんたって、その日の朝、ぶどう祭りの異臭さわぎのどさくさから逃げてきたのだから。
「逃げなくちゃ!!」
737名無し草:2011/10/27(木) 23:58:32.45
3人は男子部屋に集まり、逃げる準備を始めた。
「もう無理よ、真理ちゃんは置いていきましょう!」 勝魔が泣きながら訴えた。
「でもー、僕には明るい未来が見えるんだけどなあ」 江原はためらいがちに言った。
「なら真理ちゃんはアンタに任せたわよ!!!」 勝間は怒鳴った。

東條の携帯が鳴った。
「あ、もしもし、城見さん?どうも…、えええ!
異臭騒ぎの犯人が逮捕って、まさか、何かの間違いでしょう!
だってあの女はここに…、え?別人?外国人レスラー?そんなはずは…
はあ、分かりました、じゃあ後ほど…」
東條は2人に言った。
「異臭騒ぎの犯人がつかまったって。マスコミ発表はまだらしいけど。
いったい何がどうなってるんだか」
江原は小鼻を膨らませて得意そうに言った。
「ほら、僕の言ったとおりでしょう。」
「でも…一体どういうことよ。この世の中に他にも真理ちゃんみたいなのがいるってこと?」
「とにかく真理ちゃんは今、ものすごくツイてるんだ。一緒にいても大丈夫だよ。」
「でも、この臭いは無理よ。そうだわ、超消臭力を全部使って、あとはお金で何とかしましょ。」
3人はタオルに超消臭力をしみこませて口元を覆い、意を決して真理子の部屋に戻った。
幸いなことに、吐き気のおさまった真理子は一応服を着ていた。
「真理ちゃん、大丈夫?私達がここを片付けるから、真理ちゃんは男子部屋にいてちょうだい。
さっきコンビニで買ってきたデザートが冷蔵庫に入ってるから」
勝魔に言われて、真理子は隣の部屋へ突進した。
「ああ、お腹が空いた。デザートがあるなら、最初から出してくれればいいのに、
もしかして自分達だけで食べるつもりだったのかしら?」
738名無し草:2011/10/28(金) 00:00:02.80
3人は部屋の掃除に取りかかった。
まずは汚れたシーツをはがし、コンビニで大量の食料品を買い込んだときに入れてもらった
大きなレジ袋に押し込んで、バスルームに放り込み、超消臭力を噴霧しまくった。
東條は人目を気にしながら廊下にも噴霧して歩いた。

そこへ先ほどの中年従業員が現れた。
「ちょっと、お客さん、何やってんですか!」
東條はしどろもどろになりながら言い訳した。
「すみません、彼女の具合が悪くて吐いてしまったんです。
でも、きれいに掃除して、ほら、消臭剤も撒いてるからもう大丈夫です。
そうだ、これ…」
と言って、東條は財布を取り出し、入っていた紙幣を全部男の手に押し付け無理やり追い返した。
男は明らかに東條を疑っていた。

「やばい、俺が疑われている。やっぱり逃げよう!」
739名無し草:2011/10/28(金) 12:24:52.73
その姿をドアの影から真理子は見ていた。
風采のあがらぬくたびれきった中年従業員にぺこぺこ頭をさげる東條の姿。
それはなりふり構わず自分を全力でかばってくれる王子様のように真理子の目に映ったのである。
江原と勝魔の留守中のあのできごと・・・二人が結ばれたというのは、実は
真理子の妄想に過ぎないのだが・・・もあって、真理子は一方的に恋に落ちた。
740名無し草:2011/10/28(金) 15:31:28.58
出発に際して、真理子が東條の車に乗りたがってちょっとしたゴタゴタがあったものの、
何とか2台はホテルを抜け出した。東條の顔が蒼白になりあまりにも気の毒だったので勝魔が
気をきかしたのである。
「真理ちゃん、江原さんの車ならまだ食べ物があるわよ。」
胃の中が空っぽになってしまった真理子には抗いがたい誘惑だった。
深夜のことで道はすいていた。東條の車を江原は見失うことなく2台は順調に東京めざして
走っていた。

「さっきはごめんなさい。私急に気分が悪くなって・・・・あのぅ、もしかしたら、
悪阻かもしれないの」

\(◎o◎)/!\(◎o◎)/!\(◎o◎)/!\(◎o◎)/!\(◎o◎)/!

通常悪阻というのは妊娠2〜4ヶ月ごろである。
真理子の妄想のように、コトをいたした2〜4時間後ということはあり得ないのだが。

741名無し草:2011/10/28(金) 15:37:27.52
ラブホテルの従業員というのは、多少のことは見てみぬ振りをするのが暗黙の了解になっているが、
先日近くのホテルで17歳の少女の変死体が見つかり、殺人事件と断定されたということもあって、
冴えない中年従業員白河道夫はちょっと心配になった。
でも、通報するとなると色々と聞かれて金を貰ったこともばれるかもしれない。
でも、もしあの部屋で事件が起きてたとしたら、おれはどうなる……クビか?
どうせ退職金なんか貰えないだろうし、やっぱり見なかったことにしよう。

従業員は事務所に戻ると、夜勤の清掃係と警備係に言った。
大丈夫だ、なんでもない。
清掃係の仲瀬ゆとりは、若い警備係に見えないように白河をこづいた。
「きっとロクでもない客でしょう、部屋を汚しまくってるに違いないわ。
掃除する身にもなってよ。追加料金貰わなきゃやってらんないわ。
ちょっとアンタ聞いてるの?あたし1人で無理そうだったら手伝ってよね」
実はこの中年従業員と清掃係、どちらも既婚で子供もいたが、半年前から不倫関係にあった。
客のいない暇な時間を見つけては部屋に入り込み、短い逢瀬を楽しんでいたのである。
742名無し草:2011/10/30(日) 15:31:30.81
東條は考えていた。
あの異臭騒ぎの犯人は間違いなくアイツだ。なのに何故…?この事件にはなにか大きな組織が絡んでいるんだろうか?
全国指名手配にまでなった事件を揉み消ぜるぐらいだから、別人を犯人に仕立て上げることも可能だろう。
まさか俺が……そんなこと常識じゃあり得ない。でも、あり得ないことが現に起こっている、どうしよう!
あの江原という占い師の言うことは信用できるんだろうか?結婚相手は俺じゃないって断言してたけど…

確かに江原は、「東條」とは結婚しないと言い切った。
しかし、この男の本名が東條ではなく実は西郷であるということを江原は知らなかった。

東條の携帯に城見からメールが届いた。
城見のマンションの住所、そして鍵は管理人に預けてある、部屋には多少の現金が用意されている旨が記されていた。
東條はほっとした。

鬼島のところで清算すべき領収書がかなりたまっていたが、もう回収は無理だろう。
それに本当に鬼島が逮捕されれば、東條もとばっちりを受けてしばらくは仕事が来ないかもしれない。
自分のマンションは3人に提供すると言ってしまったが、また真理子が水漏れや異臭騒ぎを起こしたらどうしよう。

心配の種は尽きないが、とにかく城見の部屋で1人でゆっくり休めるということがありがたかった。
東條は背筋を伸ばし、ハンドルを握りなおした。もう少しで東京だ!
743名無し草:2011/10/30(日) 17:33:22.63
真理子の衝撃の告白を受けて江原の車内はしばらく重苦しい沈黙があった。
背中や腰の肉付きにかくれて目立ちはしないが、そういえば腹の辺もぱんぱんだ。
常人には思えぬ食欲もおなかに子供がいるとすれば納得いく。

声をあげたのは勝魔だった。「真理ちゃん、誰の子なの・・・・?」
744乙で〜すwww:2011/10/30(日) 17:41:11.48
やまぐちりこの子供です。
今、私オナニーしたいの.

真理子は急に裸になって、まんこをなで始めた。
745名無し草:2011/10/30(日) 19:11:00.23
真理子は恥ずかしそうに体を捩った。また車がバランスを崩しそうになる。
「やあねー、東條さんに決まってるじゃない、さっきカズちゃんたちが買い物に行ってた間に…んふふ」
江原が急ブレーキを踏んだ。

勝魔と江原はバックミラー越しに弱々しく視線を交わした。「スルーで行こう」
疲労困憊の2人に、もう突っ込む気力は残っていなかった。
勝魔は最後の力を振り絞って
「じゃあ後で妊娠検査薬を買ってらっしゃい。説明をよく読んでね」と言うと、大きなため息をついた。

真理子は、これから行く東條の家のことで頭がいっぱいだった。
東條さんは1人暮らしだっていうから、きっと散らかっているかも知れないわ。
しょうがないわねー、アタシが片付けてきれいにお掃除してあげるわん。
インテリアも新婚家庭に相応しくロマンチックなものにするのよん。
それにおいしいお料理も作って食べに来てもらいましょう。でも、お泊りはダメねw
銀行家と教師の娘として厳しくしつけられたアタクシですもの、
結婚前にズルズル同棲っていうのは、ちょっとまずいわね。
さっきは激情に流されてあんなことになってしまたけれど、
これからは東條さんのご両親にも、ちゃんとした娘だって認めてもらえるように頑張らなきゃ。
それにしても、この2人は邪魔よね。
これからベビーちゃんのお部屋も用意しなくちゃいけないんだから、あまり長居をされちゃ困るわ。
746名無し草:2011/10/30(日) 20:16:05.84
車は一般道を走っているため、食べ物を扱う店の前を通るたびに真理子は大騒ぎした。
「アタシじゃないの、赤ちゃんが食べたがっているの。ちゃんと食べないと赤ちゃんが栄養失調になっちゃう〜」
反論する元気も出ないほど疲れ気っていた勝魔と江原は、そのたびに前を走る東條に連絡して待ってもらった。

あちこち寄り道をしたため、東京に着いたのは収穫祭の翌日の夕方近くになっていた。
東條は自宅マンションの前で車を停め、勝魔の携帯に電話した。
「ここが僕のマンションです。部屋は702号室、鍵はさっき渡しましたよね。また連絡します」
とだけ言って走り去った。

江原は地下に入り、東條に言われた駐車スペースを見つけて車を停めた。
地下からエレベーターで7階に上がると、702号室はすぐに見つかった。
勝魔が鍵を開けて中に入ると、足元に宅配便の不在通知が落ちていた。
「後で東條さんに知らせないと」と言いながら拾い上げた江原は、あっ!っと小さく叫んだ。
その不在通知には「西郷様」と書かれていたのだ。
西郷って誰だ?同居人?誤配?まさか、東條さんって何か書く人らしいけど、もしかしてペンネーム?
いずれにせよ、自分が見た「西○真理子(旧姓林)」のことは、東條には黙っておこう。
747名無し草:2011/10/30(日) 21:17:26.03
当座必要なものを買い揃えると三人は心底ぐったりした。
東條のベッドは江原が使い、和室に真理子と勝魔が納まり、じきに三人とも安堵の深い眠りに落ちた。

翌朝。台所でかいがいしく動く真理子の姿があった。
んふふ。いつか東條さんと私とベビーがここで新しい暮らしをはじめるんだわん。
朝はやっぱりお味噌汁派かしら。焼き鮭に卵焼き、おじゃこやイクラがあればご飯を
たくさん食べられるわね。ん〜〜〜〜〜旅館のご飯みたいだわん。
お味噌汁のネギは焼き鳥のネギマ並みに太く、卵焼きは白身と貴美がじゅうぶんに混ざらず
白と黄がまだら。とても旅館料理とは思えぬできばえだったが真理子は満足した。
おなかがぐ〜〜〜〜っと朝ごはんを催促した。

まだおきてこない二人を待ちかねて真理子は炊飯器の炊きたてご飯をてづかみで
食べ始めた。新潟の新米はふっくらした色艶だ。
そうだ夜は栗ご飯にしましょう。食卓には季節感が大事だわん。
748名無し草:2011/10/30(日) 21:19:40.28
貴美⇒黄身です〜〜〜失礼しました
749名無し草:2011/10/31(月) 00:08:39.99
>>748
それより、数ページ前に変なのが挟まってるわよ。
真理子の妄想日記の切れっぱし?
750名無し草:2011/10/31(月) 15:15:47.56
食卓には真理子の用意した朝ごはんが並んでいた。その乱雑なことといったらどうだろう。
鮭の切り身は皮目を手前に丸皿に乗り、卵焼きはばらばらに花柄の洋皿に盛られ、
ランチョンマットはめくれ、スプーンが中央に放り出されている。
江原と勝魔はもそもそと食事を取りながら、小声で話をした。
「ねえねえ、本当に妊娠していないと思う? 男と女のことって、私うといのよね」
「待って、霊視してみるから」

・・・・・・・・・・・・
乱丁がありました。
744はこのあとのページとなります。
謹んでお詫び申し上げます。
・・・・・・・・・・・・
751名無し草:2011/10/31(月) 17:08:40.59
「やっぱり真理ちゃんのおなにーしか見えないよ。東條さんは間違いなくシロだよ。
真理ちゃんうっとりして幸せそうな表情してる・・・」
「想像妊娠っていうやつね?」
「だろうね・・・真理ちゃんにしばらく夢を見させてあげたいような気もするんだ・・・
本当に幸せそうなんだもの」

勝魔はちょっとしんみりした。
752名無し草:2011/10/31(月) 17:34:13.91
目を閉じた江原の眉間に皺が寄った。
「何か見えた?」 勝魔が身を乗り出した。
「玉子焼きに殻が入ってた、噛んじゃったよー。」
と言って江原は口元にティッシュを当てて吐き出した。
「真理ちゃんの料理って、ほとんど罰ゲームよね。調味料も油もどっちゃり使ってるし、
火加減というものを知らないのかしら、生焼けか黒焦げの両極端ね。
本人は東京の有名な料理教室に通いたいって言ってたけど、まずあのだらしなさを何とかしないと」
勝魔はキッチンの方に目をやった。
そこには調理器具や調味料が散乱し、まな板は汚れたまま放置、これから食べるつもりなのか、
フタを開けたコンビニデザートが流しのそばに危なっかしく傾いた状態で置いてある。
あの後片付けは自分達がせざるをえない。
さもなければ、ブックス・チョモランマのように、異臭騒ぎで通報されることになってしまう。

真理子が出したグラスには、脂ぎった指紋がベタベタと付いていた。
江原はそれには手をつけず、500mlのペットボトルから直接水を飲み、心を落ち着け、再び目を閉じた。

長い長い霊視の後、江原はやっと目を開けた。
「真理ちゃんは子供を生む。でも、今じゃない、何年も先のように見える。
それよりもっと気がかりなことがあるんだ。これは、カズちゃんにだけ話すんだからね。
前に霊視したら、同窓会名簿が見えて、西ナントカ真理子(旧姓林)って書いてあったんだよ。
だから僕は東條さんとは関係ないって断言してしまったんだけど、ねえ、これ見て」
と言って、西郷様と書いた不在連絡票を見せた。
「今日の午後ここに来るはずだから、その時に渡しましょう。でも、その霊視のことは絶対に内緒ね。
彼が知ったら全力で逃げるはずよ。そしたら私達、真理ちゃんを抱えて路頭に迷うことになるわ」

3杯目のご飯をよそいに行っていた真理子が戻ってきた。
私の作った朝ごはん、どうかしら?おかずがいっぱいで、まるで旅館みたいでしょ。
2人ともいっぱい食べてねー。東條さんも来ればいいのに。

そうだわ、あとでお買い物に行きましょう。この部屋は殺風景すぎるから、もっとかわいらしくしたいの。
素敵なソファを買って、その上には甘えん坊のトイ・プードルがお昼寝してるの。
でもその前にベビーベッドを買わなくちゃww
753乙で〜すwww:2011/10/31(月) 17:44:41.98
いや、その前にSEXしようよ
フェラチオもする?クンニもする?
69もする?
754乙で〜すwww:2011/10/31(月) 18:39:07.20
やろう
試してみようよ
おっぱい揉むよ
755名無し草:2011/10/31(月) 21:06:15.53
あら、駄目よ、おなかにはあなたの子がいるんですからね。
乱暴にしたら流産しちゃうわん。

朝っぱらから真理子の妄想はとどまるところを知らなかった。
756名無し草:2011/10/31(月) 22:24:09.65
真理子はダラダラと朝食を食べ続け、勝魔達がやっとキッチン周りを片付けると
次は10時のおやつ。何種類もの菓子をテーブルいっぱいに広げ、またダラダラと食べる。
そして勝魔達が片付け終わると、いそいそと立ち上がって昼食の準備…
そのあいだ東條からの連絡はなく、彼が来たのは夕食とデザートが終わり、
真理子が夜食のカツ丼を作っているところだった。

東條の家にあったコシヒカリの新米30kgは、すでに底を尽きかけていた。
実はこの米、鬼島が新潟へ講演に行った時に贈られたもので、東條の家にしばらく保管していたものだった。
この他にも貰い物の高級食品がどっちゃりあったのだが、真理子が1日でほとんど食べつくしてしまった。

東條は愕然とした。失業者となった今、このクリーチャーのエサ代をどうしたらいいんだろう。
757名無し草:2011/11/01(火) 12:01:33.75
お米が無ければパンを食べればいいじゃないの!?

真理子は自分の思いつきに感心した。
子どもの頃から読書家であったし中学時代に猛勉強したおかげで
私ったら頭いいわ♪こういう発想の奇抜さが作家として役立つと思うのよん。
通俗小説なんか下流の庶民が楽しむものよ。
私は国民的大作を執筆して日本を代表する作家となり、文壇に君臨して
大勢の知的なイケメンから崇拝されるんだわ。

真理子はウットリしながらキッチンのバックヤードを探しまくり、ちょびっと固くなりかけた
食パンを一本発見した。なんだ一本しかないのか。男の一人暮らしってこれだから困るのよ。
食料品の買い置きが乏しいったらありゃしない。

やっと発見した貴重な食パンを8cmほどの薄切りにスライスすると
少々汚れたオープントースターに放り込みトーストした。
焼きあがったのに握り拳大のバターをのっけて口に放り込む。
マリー・アントワネットのコスプレをした自分がお菓子を食べている姿を想像し
真理子はウットリした。
758名無し草:2011/11/01(火) 13:19:38.29

                   /   ノノ ノノノ ヾヽ、ヽ
               /   ノ) `      ´ i |
               i    {   ` , ,-,、´  i |  
              {    i     )-―-'(  i |  
                 ヽ   i     ⌒   } |_,,,. -‐- 、  
              __)), ,ノ人   、_,  ノ''"´   ,      \ 
                /       ` ー--,. '´   . : :`(      ゝ、
               /           : : :: :´: .         : :\ , ' ´_   ヽ
           /  r´: :       : : : :       ,. ' ´ ヽ>'´    ,'ヽ!
             / γ: :        ノ    _   ,, 、,, ,,__i  。 ./       ; ,!
           i   ir' " ヽ    ,,, ''' ´         `"7         :/ 
         i  |、 ° }, '                 ` y'         /
   "'''‐‐- ...,,,_|   ヽ、ー/           __    _/          /
             `'' -,,て          ´    ̄ ̄ /          ,イ 
             `''- 、_/            /    `  / ,!    _,
                     `''- ,,     ,..、_,,..イ´      i'´  `ゝ''"´
                    \_ ,,,,,...ゞ、_           |ー-/  
                           ミ〉       !r'´
                         ヽ   ミ/、 /|  i  i }
                             B/.../。ヾ!、,|  !´ 
                            ;iクノく 〈ノγ
759名無し草:2011/11/01(火) 13:50:02.43
江原は大きく身震いした。
真理子と東條の間に何があったのかを霊視しようとしたのであるが、
見えたのは便器を抱え込んで嘔吐する東條の姿だけである。
もう一度よく見ようと精神を集中させると、
いきなり真理子の裸体がどどーん!とばかりに飛び込んできた。
しかも淫らな空想にふけりながら自らを悦ばせている。
うわあああああ! 絶叫すると江原は白目を剥いてひっくり返った。
760乙で〜すwww:2011/11/01(火) 18:28:37.08
真理子はマン汁をなめていたwww
肉便器www
761名無し草:2011/11/01(火) 21:19:26.72
江原は失神してしまったので、最後のシーンはみていない。そこまで見てしまったら
AEDが必要な事態になっていただろう。
しばらくして正気をとりもどした江原は、このマンションを去る決意をしていた。
そもそも、江原は東京に出たかっただけで、真理子の尻拭いをしに東京に来たわけ
ではない。

真理子のほうでも、かわいく飾った新居を妄想している最中に江原の用足しの音が
聞こえてくると、殺意を覚えるほどむかついていた。
ハロウィーンにはかぼちゃやゾンビを玄関先に飾るのよん。
通りかかった人が、この中にはきっと仲のよい家族とセンスのいい奥さんがいる
のねと、想像することでしょうね。皆さん、羨ましいでしょ。
・・・・・ジョジョジョーーー・・・・チョピン。
ああ、本当にいやになっちゃう。いい加減気を利かして出て行ってくれないかしら。
それまだ幾たびもの窮地を救ってもらったことを忘れ、江原と勝魔をお邪魔虫の
ように思い始めた真理子であった。


762乙で〜すwww:2011/11/01(火) 22:46:21.22
おっぱいを揉んでよ〜んwww
763名無し草:2011/11/02(水) 02:00:19.17
実は、東條はさっきまで城見と会っていたのだ。
真理子をどう売り出すかについて相談していたのだが、主導権をめぐって対立していた。
鬼島と手を切った東條はほとんど無収入の状態で分が悪かったし、
真理子とは個人的には出来るだけ距離を置きたいと思っていたが、
自分の企画を横取りされるのは面白くなかった。

城見が言った。
「話は変るけど、『ブリオッシュ』の冬の特大号で京都特集をやるのに、人を探してるらしいんだ。
花京院家の茶会も取材したいらしいんだけど、東條さん、あそこの息子と知り合いですよね。」

東條は思った。
俺を京都に行かせて、その間に抜け駆けするつもりだな。
『ブリオッシュ』の特集ならギャラも期待できる…、城見が手を回したんだろう。
「花京院遊鶴はよく知っていますし、とてもいいお話ですが、こっちの話が先なので。
すいませんが他を当たってください。」

結局、今日の話し合いはまとまらないままだった。
764名無し草:2011/11/02(水) 02:03:42.65
たった1日で薄汚れてしまった自分の部屋、卒倒した江原、
そして真理子の食欲と奇怪な行動を目の当たりにして東條は思った。
やっぱり俺1人でどうにか出来る相手ではない。
東條は3人に向かって言った。
「僕は明日から仕事で京都に行きます。代わりに明日、城見という男が来ますので、ゆっくり話をして下さい」

そういうと東條は小走りに玄関へ向かった。
江原が追いかけ「東條さん、これ」と言って宅配便の不在票を渡すと、東條はさっと見て
「ああ、ありがとうございます。後で連絡して、実家に転送してもらいます」と言ってポケットにしまった。
靴のかかとを踏みながらせわしなく部屋を出ると、東條は城見に電話をかけた。
「やっぱり京都特集の件、お引き受けします。」

東條は真理子から離れられること、そしてまた花京院に会えることを思うと、
久しぶりに心が晴れ晴れとするのを感じた。
765 忍法帖【Lv=30,xxxPT】 :2011/11/02(水) 19:07:35.86
乳首をつままれた
766名無し草:2011/11/02(水) 21:36:05.50
美輪ママの店をほろ酔い加減で出たしまこは、千鳥足でブティックサンダーを訪れた。
丁度シャッターを閉めかかっていたツル子に、しまこは尋ねた。
「あのう、本屋の真理子さんを…」
ツル子はしまこをまじまじと見つめた。
収穫祭の異臭騒動以来テレビで放送され、風評被害からぶどうの里を訪れる観光客は激減。
またマスコミの餌食になるのはこりごりだ。ツル子は沈黙を守った。
ブティックには、店の奥からTV番組「大家族ビッチマミー」を報じる大音量で響く。

「何でしょうか?」小学校高学年の男の子が、しまこの前へ出てきた。
母親のツル美も警戒しつつツル彦の後ろから様子を伺った。
ツル子が娘のツル美に「真里ちゃんの…」と耳打ちするや否やツル彦がしまこの前に出た。

「本屋のオバちゃんならママの同級生だよ。中学校の制服もサイズがないから
学校から頼まれて御祖母ちゃんが特別に作ってあげてたんだよ」
真理子は学校が制服の特別注文を三田洋品店に頼んでいたのを知らずに育った。
「余計な事を言わないのよ」ツル美が息子を嗜めた。

ツル子はシャッターを閉めかけた手を止め、しまこをじっと見つめ語り始めたのだ。
767 忍法帖【Lv=30,xxxPT】 :2011/11/02(水) 23:52:36.46
篠田麻里子登場
768名無し草:2011/11/03(木) 20:46:38.17
 同じ頃、都内のセレブ御用達マタニティクリニックで癌田ウソが出産をしていた。
 「癌田様、おめでとうございます、かわいらしい女の子ですよ」
 ウソは息をはずませながら、生まれたばかりの自分の娘の顔を見た。
「ベビちゃん〜ベビちゃん〜うえるかむ〜♪」
 小声で歌って、急に歌をやめ、しげしげと目を見開いて、もう一度その赤ん坊を見た。
「ねえ、これ…本当に私の子供?」
 小顔のウソには似ても似つかない大顔、しかも、普通の赤ん坊でも見られない1.5頭身、
腹の中で育ちすぎていたせいか歯が生えかかており、しかも歯茎が出っ張っていた。
そして、ぱっつんぱっつんの腹と腕と脚を持っていた。
「これ…違う、ウソの子じゃない…」
「生まれたばかりの子供は皆そうですよ…」
 癌田は頭を抱えて思い起こす、そうだ、この子がお腹の中にいた時に見た、あのクリーチャー
に似ているわ…。
 あのクリーチャーの呪い?
 死産ということにして、どこかに置いてこれないかしら?
 パチンコの駐車場にはそういうのがたくさんいるって聞いたことがあるわ…。
769名無し草:2011/11/04(金) 21:38:32.29
クリーチャー真理子がそのクリニックに姿を見せたのも、偶然というべきか、必然というべきなのか。

勝魔が買ってきた妊娠検査薬はやはりシロ、妊娠していないことを示した。
真理子は尿で濡れた試験紙をしげしげと眺め、説明書をもう一度読み直した。
99%の確率で妊娠を判定すると書いてあった。
ふんっ、あてにならないのねん。
やっぱり産婦人科に行ってみようかしらん。

どうせならこの前女性週刊誌に出ていたセレブ御用達のクリニックよね。
そこで子どもを産んで、赤山学院幼稚園に入れるのよん。
770名無し草:2011/11/05(土) 08:48:21.86
腹に胎児ならぬ脂肪をかかえて威風堂々のっしのっしとクリニックに乗り込む
真理子であった。
771名無し草:2011/11/05(土) 16:00:43.77
クリニックの受付は真理子の姿に軽いパニックに陥っていた。
「どうしましょう、これがいわゆる野良妊婦っていうのかしら? あのおなかだともうじきに
出産だわね。こういう人がなぜウチみたいなところに・・・?」

待合にいた本物の妊婦たちは、真理子の悪臭に悲鳴をあげた。まだ悪阻の時期を過ぎていない者は
あわててトイレに飛び込んだ。
772名無し草:2011/11/05(土) 20:51:36.96
健康診断と勘違いして昨晩から絶食していた真理子は、眩暈を覚えた。
(といっても、いつものごとく「ちょっとなら大丈夫よね」と勝手に拡大解釈し、
深夜12時ギリギリまで食べ続け、翌朝も液体ならOKとスープや麺類を人の10倍は吸引したのだが…)

ああ、もうだめ! 真理子は空腹でしゃがみ込んでしまった。
ビックリしたスタッフ数人が駆け寄り、渾身の力で分娩室に運び込ぶと
「すぐに先生を呼んできますから、待ってください!」と叫んで逃げ出した
…ではなかった、医師を呼びに行った。

真理子だけになった分娩室に、赤ん坊を抱いたウソが忍び込んだ。
773名無し草:2011/11/06(日) 14:17:37.71
さあ、いきんでください! 今度は少し楽にーヒッヒッフーで痛みを逃してー
助産婦さんの指導のもと、真理子は顔を赤くしたり鼻息を噴出したりしたが、いつまでたっても
生まれる様子はなかった。
医師は苦い顔をした。今日分娩予定の患者がすでに陣痛室にいる。セレブ御用達のクリニックとして
ヘタな対応は出来ない。
大体野良妊婦?ってなんだ。今まで医者にかかったことのない妊婦がいきなり
出産しに来るなら、もっとほかに適当な病院がありそうなものだ。
医師はひらりと分娩台に飛び乗ると真理子の腹をぐいぐい押し始めた。
赤ん坊を押し出してしまおうというのである。
真理子は顔を真っ赤に、目は白黒させ、処女懐胎、処女出産に挑んでいた。

そして大量の便を出産したのである。その量は分娩台を溢れるほどであった。
阿鼻叫喚。

「浣腸していなかったのか! 早くここを始末しておかないと、次に間に合わないぞ」
医師は言い捨てて分娩室を出て行った。スタッフも慌てて掃除道具を取りに出ていった。
774名無し草:2011/11/07(月) 01:39:15.40
ウソの赤ん坊は粉ミルク1000mlを瞬時で吸引し、気持ち良さそうに眠っていた。
体重はすでに10kg。ウソの腕はすでに限界に達していた。
ウソは仕方なく赤ん坊を床に寝かせたが、赤ん坊は全く平気である。

実は3ヶ月ほど前からウソのマンションの1つに、バレリーナを目指す少女・草軽珠代が居候していた。
珠代の家は関西でも有名な資産家で、珠代は3歳からバレエを初め、ウソの大ファンであった。
ウソが仕事でよく京都に来るというので、父親にせがんでツテを探し、紹介してもらったのは数年前のことである。
その後珠代はバレエの勉強のために英国留学したのだが、突然休学し、家族にも告げずにこっそりと帰国していた。
彼女はウソに、日本人ボーイフレンドの子を妊娠してしまった、とだけ打ち明けたが、
それ以上は頑として話そうとはしなかった。
ウソは珠代の真面目な性格からして、相手はゆきずりの男などではなく、おそらくは以前からの知り合い、
しかも、珠代同様に育ちのいい、関西の資産家のぼんぼんではないかと見ていた。

3ヶ月前のある日、珠代はいきなりウソのマンションに押しかけてきて、泣き崩れた。
相手の方のことはもちろん大好きです。でも、私の家で結婚前に妊娠なんて絶対に許されません。
それに、それに…、私、どうしてもバレリーナになりたいんです。
そのためには、赤ちゃんがいては困るんです。でも、どうしたらいいのか…

自分には玉のように美しい子が授かると信じて疑わず、幸せな日々を送っていたウソは、
珠代の境遇に同情し、自分のマンションの1つを提供し、頻繁に見舞いにも訪れた。
ウソは、珠代がそのうちに諦めて実家に帰るとふんでいたのだが、
彼女は実家に帰るどころか、産婦人科にすら一度も行こうとしなかった。
ウソはだんだん彼女が煩わしくなって来て、自分の出産が無事済んだら、
彼女の実家に連絡して、引き取りに来てもらおうと考えていた。
775名無し草:2011/11/07(月) 01:40:48.20
ウソの携帯から「白鳥の湖」の着信音が鳴った。珠代からである。
「ウソさん、ごめんなさい。赤ちゃんのこと、よろしくお願いします。お世話になりました。」
一緒に送られた写真には、生まれたばかりと思われる女の赤ちゃんが映っていた。
新生児でありながら、まさに玉のように輝く美少女である。

ウソは慌てて珠代に電話した。
長い長い呼び出し音のあと、やっと珠代が出た。
「珠代ちゃん、赤ちゃんを私にちょうだい!
私の娘として、お姫様のように大事にするから、お願い!」
「ウソさん、本当ですか? でもウソさんの本当の赤ちゃんは?」
「いいから、お互いに何も言わない、何も聞かない、そういうことにしましょう。
でも、絶対に大切にするから、信じて。
ダーリンに連絡してそちらに人を遣るから、
珠代ちゃんはそれまで赤ちゃんのお世話をしてちょうだい。」
珠代は思いがけない展開に半ば呆然としていたが、とにかく自分の赤ちゃんを、
大好きなウソが引き取ってくれるということが分かって安心した。

それからほどなくして、ウソの夫が若い研修医を連れてやって来た。
珠代ま無謀にもたった一人で出産したのだったが、若くて体力があるうえに、
ほどなくして研修医の処置を受けられたのとで、大きなダメージを受けずに済んだ。

ウソの夫は若い研修医に相当な額の謝礼を払い、彼とその交際相手である助産師が
毎日このマンションを訪れて母子のケアをしてくれるよう頼んだ。
こうして、珠代に望まれずに生まれてきてしまった珠代の赤ちゃんは、思いがけずも
たっぷりの愛情と手厚い保護を受けることとなった。

ただし、彼女の出生届けは出されないままであった。
776名無し草:2011/11/07(月) 01:54:05.66
ブリブリブリー!
冷たい床で気持ち良さそうに眠っているウソの赤ん坊のオムツから爆音がとどろき、
同時に立ち上ってきた臭気は、鼻腔だけでなく目までも刺激した。
分娩室に隠れていたウソは、すでに真理子の便で瀕死のダメージを受けていたが、
最後の力を振り絞って巨大な赤ん坊の産着を脱がせて分娩台の上に横たえ、
脱兎の如くに走り去ると、病室にもどってジャケットを羽織り、帽子を目深にかぶって病院を抜け出した。

野良妊婦(?)真理子のせいで病院は深夜までパニック状態であり、
元から気まぐれでワガママなウソが勝手に退院したところで、誰も気にする者はいなかった。
777名無し草:2011/11/07(月) 10:11:48.28
「ハヤシ・・・マリコさんですね? ほら、お母さんそっくりの立派な女のお子さんですよ。
おめでとうございます。昨日は突然産気づかれたので、こちらでお産のお手伝いをさせていただきましたが、
実は病室がすべて満床なんですよ。申し訳ないですが、転院していただきたいのです。
ここの病院は本来紹介・予約でしか診られないのです。」

そう、真理子も女性週刊誌でそれを読んでいた。
ここで出産するために、一年以上前から予約するのだと。一年以上前ということは、
まだ妊娠する前からということである。

真理子は何はともあれ、このクリニックで産んだという事実に心底満足した。
「転院って・・・どこに?」
「ご主人様とご相談いただくのが一番ですねえ」
これは精一杯の看護師長のイヤミだったのだが、真理子は「ご主人様」の単語にアドレナリンを大量に噴出した。
やっぱり、運命の人っているのねん。


778名無し草:2011/11/07(月) 17:29:48.87
真理子は子どもを産んだわけでなく、ウ○コを排出しただけなので、元気そのものである。
アドレナリンを放出したせいで、余計に舞い上がってしまっている。
真理子はさっきから空腹を覚えていた。これから別の病院に入院しても、出される食事は小鳥の餌程度であろう。
真理子は赤ん坊を受け取るとタクシーで東條のマンションに帰った。
これから親子3人の生活が始まるのである。
早く東條さんに知らせなくては。
779名無し草:2011/11/07(月) 23:41:27.67
東條に電話しようとしたその時、見知らぬ番号からの着信音が鳴った。
真理子はいぶかしく思いながら「もしもし…」と出ると、
真理子さんですね。僕は東條の友人で城見と言います。
実は今日お宅におじゃまして、色々とお話を伺いたいのですが?
もちろん、東條の許可は取ってあります。

「東條の許可は取ってある」という言葉に、真理子は舞い上がった。
真理子は恥じらいながら答えた。
東條がそう言ったのでしたら、お受けしなければなりませんね。
でも…赤ちゃんがいますので、ゆっくりお話できるかどうか…。
あたくし、たとえ愛する我が子といえども仕事の場に子供を連れてくるのは
いかがなものかと思うんですのよ。
でも幸いあたくしの家にはベビーシッターさんがいますので、彼女にお願いすることにしますわ。

真理子の脳内では、東條のマンションは我が家、勝魔はベビーシッター、そして江原は運転手になっていた。
780名無し草:2011/11/09(水) 14:29:39.84
赤ん坊をつれて帰ってきた真理子には江原も勝魔も息がとまるほどびっくりした。
思わず手をとりあってしまったほどである。
真理子の留守に東條のマンションは二人の手で再度こざっぱり片付いていたものの、
真理子はぐるりと見渡して溜息をついた。これでは殺風景すぎるわん。
これから城見さんという主人の友人を迎えるのに、どうしましょう。
「ちょいと、シッターさん、私出かけるから、この子どもを預かっていてちょうだい。
それから運転手さん、ちょっと家具が必要なのよ。ベビーベッドとかね。
車を出してくれるかしらん。」
シッターさんだの運転手さんだのと呼ばれて二人はきょとんとした。
赤ん坊が火のついたように泣き出した。その声の大きさに二人は再度手をとりあって
震えた。
781名無し草:2011/11/09(水) 17:10:43.88
声の大きさもさることながら、
真理子が腕に抱えている赤ん坊そのものの大きさといったらどうだろう。
まもなく幼稚園に上がりそうな幼児である。しかも、顔の大きさは大人並みだ。
だが、顔つきやしぐさはやはり新生児のそれで、生後何日も経っていないように見える。
いったいこの巨顔巨体児はどこから来たのだろう?
やはり真理子は妊娠していたんだろうか?

勝魔と江原は思った。これ以上ここにいるのは危険だ。
勝魔が言った。
分かったわ。でもちょっとだけ待っててちょうだい。
さっき食料品を買ってきたのよ。新米の魚沼産コシヒカリ30キロとすき焼き用のお肉、
それにお刺身と、行列の出来るお店の鯛焼きも。
今ちょうど車から運んでこようとしてたところなの。
重くて大変だから私達に任せて、真理ちゃんはここでゆっくり休んでいてちょうだい。

2人は上着を羽織って玄関を出ると、脱兎の如くに駆け出した。
江原は車を急発進させ、やみくもに走らせた。
しばらく走ると、郊外の大型ショッピングモールが見えてきた。
勝魔が口を開いた。あそこでひとやすみしない?真理ちゃんに振り回されっぱなしで疲れたわ。
夜だってイビキがうるさくて眠れないし。
そうだわ、あそこの映画館に入りましょうよ。「八月の蝉」って映画、ぜんぜん流行ってないらしいから、
きっとガラガラよ。昼寝するのにちょうどいいんじゃない?
782名無し草:2011/11/11(金) 11:01:38.06
真理子がいつまで待ってもコシヒカリも肉も鯛焼きも戻ってこなかった。
待ちきれないのは真理子の胃袋で、さっきからグルグルキュルキュルと悲鳴をあげていた。
冷蔵庫のものをあらかた食べつくしてもなお悲鳴はやまなかった。

あの二人・・・変だわ。昨日の晩は二人きりだったわけでしょう? 何があったっておかしくないわ。
さっきなんか、私の見ている前で手を取り合っちゃって。
そういえば、ラブホテルに泊まることになったときだって、男部屋女部屋でわけたら、
勝魔のイヤそうだったこと。その後二人でどこかに行ったきりしばらく帰ってこなかったじゃない。
真理子は自分の下品な妄想が爆走するのを止めようともしなかった。
783名無し草:2011/11/11(金) 19:52:54.22
  映画館で眠るつもりだったが、払ったお金がもったいなくて、江原のいびきを隣に聞きながら勝魔はついつい映画を見入ってしまった。
 ワードなんとかの薪ちゃんのオヌヌメ映画とちょっと前にブログで書いてあったのを見たような気がする。
 ストーリーは不倫相手の妻の子供を愛人が誘拐して育てるというものだ。
 スクリーンに映し出される真理子が連れてきた赤ん坊とは全く異なる、かわいらしい子役の赤ん坊を見た時、勝魔ははっとした。
 
 ちょっと前まで経血スカートはいてなかった?しかもまだ一か月もたってないはずよ。
 あの赤ん坊はマリちゃんにそっくりだけど…でも、生理があった女に妊娠なんてありえない。
 それともあれは切れ痔スカートだったの?そ…それはさすがに考えたくないわ…
 ということは……やっぱりマリちゃん、子供を誘拐してきたのよ。大変……。
 今ですら全国指名手配の存在なのに……。私達このままだと、誘拐の共犯者としてつかまってしまうわ。
 
 江原を置き去りにして、勝魔は逃げ出した。
「ごめん、もう、限界」
784名無し草:2011/11/12(土) 21:59:24.36
究極のところ、女性は男性よりドライなのかもしれぬ。

八月の蝉の上映が終わって観客の立つ気配で江原は目がさめた。
膝の上には「ごめん、もう、限界」と走り書きのメモがあった。
仕方ないよな・・・江原も立ち上がり、さて、これからどこへ行こうかと
思案した。やみくもに追われるように(実際指名手配犯をつれていたので追われていたわけだが)
東京に出てきたものの、江原にどこといってあてはなかった。

不意に真理子の赤ん坊の泣き声が耳朶によみがえった。
真理ちゃん、腹減っているんだろうな。赤ん坊のミルクやオムツは足りているのかな。
「情けは人のためならず、か。それとも醜男の深情け、か・・・」

江原はドラッグストアで若い女店員に相談しながら当座必要そうなものを買い揃えた。
スーパーでも食料品を買い込んだ。おくさま印のブレンド米、オージービーフ、イカとタコの刺身、
薄皮あんぱんである。
785名無し草:2011/11/14(月) 14:03:07.87
江原が部屋に戻ると、そこは空き巣に入られたような惨状であった。
真理子が食べ物を探してそこらじゅう引っ掻き回したのである。
赤ん坊はというと、和室の真ん中に直に寝かされ、タオル一枚かけてもらっていなかった。
そして、新生児とは思えないような大きく野太い声で泣き続け、
パンパンに膨らんだオムツからは異臭が漂っていた。

「ちょっと、どこ行ってたのよ、食べ物は!!!」 まさに餓鬼の形相をした真理子が叫んだ。
江原の手から買い物袋を奪い取って薄皮アンパンをつかみ出すと、歯で袋を引きちぎって開け、
瞬時に呑み込んでしまった。
同じようにして10個のアンパンを吸引し終えると、やっと言葉を発した。
「コシヒカリは?お肉もお刺身も鯛焼きもないじゃない!カズちゃんが持って来るの?」
「カズちゃんはもう帰って来ないよ」
「どういうこと?」
「真理ちゃんがあんまりワガママだから、愛想尽かして逃げたんだよ。」
「何ですって、私が何をしたっていうのよ!」
「ここに来てからというもの、僕たちが買い出しに行って、真理ちゃんは勝手に食い散らかして、
僕たちが片付けてたでしょ。真理ちゃんはお金も出さないし手伝いもしない、
お礼すら言わないどころか僕達を邪魔者扱いして出て行って欲しそうに嫌味を言う、
なのに子供が出来たら今度は、僕達を運転手やベビーシッター扱い。カズちゃんじゃなくても怒るよ。」
「でも、私は妊婦で安静にしてなくちゃいけなかったんだから」
「妊婦だって、トイレを汚したらきれいにするとか、ペーパーを使い切ったら新しいのをホルダーにセットするとか、
自分が使った物を元に戻すぐらい出来るでしょ。
とにかく、カズちゃんは戻ってこないし、僕もこれが最後だ。」
786名無し草:2011/11/14(月) 14:04:23.01
「じゃあ、最後に車で近くのスーパーまで送ってくれない?すぐ食べられる物を買いたいの。」
「赤ちゃんはどうするの?チャイルドシートがないんだから、乗せられないよ」
「赤ちゃん?チャイルドシート?」
「ところで真理ちゃん、赤ちゃんはお腹空いてないの?母乳を飲ませたの?」
「はあ?」
「まさか真理ちゃん、帰ってきてからずっと放ったらかしなの!」
「え?だって、何すればいいのよー、ベビーシッターはいないし。」
そこで江原は初めて気が付いた。真理子には全く母性というものが感じられないのだ。
子供というモノを入手したという満足感はあっても、母になった喜びや子に対する慈愛というものがないのだ。
さらに江原は妙なことに気が付いた。この母娘の間にあるべきはずの絆、
本来ならば細くてかすかに光を帯びた絹糸のようなものが全く見えないのだ。
江原は考え込んだ。こんなことってあるんだろうか。
真理ちゃんが子供に全然無関心だから、糸が見えないんだろうか。
しかし、江原は霊視しようとはしなかった。
すれば即座に本物の親子でないことが分かったはずなのだか、前に恐ろしいものを見て
危うく命を落としかけたことがあったので、もう真理子の霊視はするまいと決めていたのだ。
787名無し草:2011/11/14(月) 17:20:13.42
「真理ちゃん、赤ちゃんのこと東條さんには知らせたのかい?」
「それが・・・何度かけてもつながらないのよ。新幹線の中で電源を切っているのかしらん」
東條が真理子の番号を着信拒否にしていることを知る由もない真理子であった。
788名無し草
「真理ちゃん、刺身と肉だったら僕がスーパーで並んで買ってきたのがあるよ」
並んで買ってきたの一言で真理子の目は一瞬輝いた。
江原は財布からレシートを引っ張り出すと、「真理ちゃんが一人で食うんだろ、
立て替えてきたよ」
「けち臭いことを言うわね。私、こう見えても、ケチじゃないわよ。そりゃ商家の生まれだから
計算は速いわよ。ブランドだって詳しい。
寄付だって喜んで出すほうよ。そのことを、あちこちの雑誌や新聞に何度も投稿したわ。」
真理子は口角泡を飛ばす勢いでまくしたてた。