一般学生バトルロワイアル Part6

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1したらば携帯しか書き込めないんで誰か新スレのURL書いてください
漫画やアニメ、小説等の一般生徒キャラクターを集めて
バトルロワイヤルを開催してみる参加型リレー小説スレッドです。

専用したらば
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/11074/

まとめwiki
http://www11.atwiki.jp/akitobr

基本sage進行、テンプレは>>2以降
2名無し草:2010/09/16(木) 09:28:04
【大前提】
超能力者や魔法使いが派手に闘う華やかなバトロワパロディが主流になる中で
あえて原点回帰ということで全員が等しく特殊能力を持たない一般人であることを重視しました

舞台は大東亜共和国で、参加校は全て大東亜共和国にあるというif設定です
霊能力や魔法、現実離れした身体能力等のない世界観を想定して下さい(バトロワ原作に準拠)
よって、参加キャラクターも超常現象のない現代日本が舞台である作品のキャラのみです

【基本ルール】
全員で殺し合いをする。ゲームに参加するプレイヤー間での反則はない
ただし、この一般学生ロワイヤル特別ルールとして
『チーム戦』を導入
他校の参加者が全員死ねば、残り人数が複数でもプログラム終了
(最後まで生き残った学校が優勝)
優勝校の特典は今のところ生存と大東亜共和国総統色紙のみです。
【能力制限】
 基本、一切なし
 ただし、原作のギャグ描写はあくまでギャグということを頭に入れておくこと。
【支給品について】
 麻薬などの人格を改変するものは禁止
3名無し草:2010/09/16(木) 09:29:13
【スタート時の持ち物】
 衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許可。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
 「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。
 「地図」 → 禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
 「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
 「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。写真はなし。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
 「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム
(※政府は殺し合いをさせたいわけですから、そういうアイテムが多いことを忘れずに)

【作中での時期】
 12月クリスマス前です。
4名無し草:2010/09/16(木) 09:30:07
 卒業生:阪東秀人
高校三年:神楽、春日歩、榊、滝野智、美浜ちよ
     赤坂理子、伊藤真司、高崎秀一、三橋貴志
     桐島ヒロミ、坊屋春道、銛之塚崇
高校二年:一条かれん、沢近愛理、周防美琴、塚本天満
     鳳鏡夜、須王環、桑原鞘子、千葉紀梨乃
高校一年:伊藤誠、桂言葉、清浦刹那、西園寺世界
     栄花段十朗、川添珠姫、宮崎都
     加東秀吉、花澤三郎、宝積寺れんげ、藤岡ハルヒ
中学三年:川田章吾、杉村弘樹、七原秋也


【作中での時間表記】
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24
5名無し草:2010/09/16(木) 09:31:09
参加者一覧

5/5【BAMBOO BLADE】(室江高校)
 ○栄花段十朗/○川添珠姫/○桑原鞘子/○千葉紀梨乃/○宮崎都
5/5【School Rumble】(矢神学院高校)
 ○一条かれん/○沢近愛理/○周防美琴/○塚本天満/○播磨拳児
5/5【あずまんが大王】※学校名不明
 ○神楽/○春日歩/○榊/○滝野智/○美浜ちよ
5/5【バトル・ロワイアル】(城岩中学/城岩学園)
 ○相馬光子/○川田章吾/○杉村弘樹/○七原秋也/○三村信史
5/5【School Days】(榊野学園)
 ○伊藤誠/○桂言葉/○加藤乙女/○清浦刹那/○西園寺世界
5/5【今日から俺は!!】(軟葉高校)
 ○赤坂理子/○伊藤真司/○高崎秀一/○田中良/○三橋貴志
5/5【クローズ】(鈴蘭高校)
 ○加東秀吉/○桐島ヒロミ/○花澤三郎/○阪東秀人/○坊屋春道
5/5【桜蘭高校ホスト部】(桜蘭高校)
 ○鳳鏡夜/○須王環/○宝積寺れんげ/○藤岡ハルヒ/○銛之塚崇
計 40人/40人

【書き手の注意点】

トリップ必須。荒らしや騙り等により起こる混乱等を防ぐため、捨て鳥で良いので付け、専用したらばの予約スレにトリップ付きで予約してください。
無理して体を壊さない。
残酷表現及び性的描写に関しては原則的に作者の裁量に委ねる。
但し後者については行為中の詳細な描写は禁止とする。
6名無し草:2010/09/16(木) 09:31:55
【読み手の心得】

好きなキャラがピンチになっても騒がない、愚痴らない。好きなキャラが死んでも泣かない、絡まない。
どうしても我慢できないときはどこかにある専用の場所でひっそりと思いのたけをぶちまけて下さい。
ロワスレの繁栄の為、できる範囲で作品には感想をお願いします。
【予約に関してのルール】

* したらばの予約スレにてトリップ付で予約を行います
* 予約期間は基本120時間です(日数に変換すると5日間)
* 予約時間延長(最大2日)を申請する場合はその旨を予約スレで報告
* 修正期間は審議結果の修正要求から最大2日(ただし、議論による反論も可とする)
* 予約時にはトリップ必須です。また、トリップは本人確認の唯一の手段となります。トリップが漏れた場合は本人の責任です。
* 予約破棄は、必ず予約スレで行ってください。
* 延長申請がない場合でも、再予約は最低1日待ってあげて下さい
7名無し草:2010/09/16(木) 09:35:10
【NGについて】

* 修正(NG)要望は、できれば名前欄か一行目にその旨を記述してください。
* 協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
* どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。

『投稿した話を取り消す場合は、派生する話が発生する前に』

NG協議の対象となる基準
1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
4.荒し目的の投稿。
5.時間の進み方が異常。

上記の基準を満たしていない訴えは門前払いとします。
例.「このキャラがここで死ぬのは理不尽だ」「この後の展開を俺なりに考えていたのに」など
  ストーリーに関係ない細かい部分の揚げ足取りも×

* 批判も意見の一つです。臆せずに言いましょう。
ただし、上記の修正要望要件を満たしていない場合は修正してほしいと主張しても、実際に修正される可能性は0だと思って下さい。
* 修正要求ではない批判意見などを元にSSを修正するかどうかは書き手の自由です。
* 誤字などは本スレで指摘してかまいませんが、内容議論については「議論用スレ」で行いましょう。
* 「議論用スレ」は毒吐きではありません。議論に際しては、冷静に言葉を選んで客観的な意見を述べましょう。
* 内容について本スレで議論する人がいたら、「議論用スレ」へ誘導しましょう。
* 修正議論自体が行われなかった場合において自主的に修正するかどうかは、書き手の判断に委ねられます。

ただし、このような修正を行う際には議論用スレに一報することを強く推奨します

* 展開予想、ネガティブな感想、主観的な意見は「毒吐きスレ」でお願いします。毒は溜め込まずに発散しましょう。
* 議論スレと正式に分離したことで毒吐きでの感想は過激化している恐れがあります。見る必要性もないので、書き手は見ないことを推奨します。
8名無し草:2010/09/16(木) 09:38:53
というわけで新スレたてたよ。みんな気づいてくれると嬉しいであります。
◆xXon72.MI.さん、仮投下スレへの投下乙でした。
おそらくこっちに再投下するものと思うので、感想はその際に!
9名無し草:2010/09/16(木) 23:18:18
スレ立て乙
10名無し草:2010/09/17(金) 03:01:26
スレ立て乙
11 ◆xXon72.MI. :2010/09/17(金) 20:46:08
スレ立て乙でした
それでは、仮投下スレの方に投下したものをこちらにも再投下します
12惨劇の跡、死闘の後 ◆xXon72.MI. :2010/09/17(金) 20:47:06
「オイ」
「はい?」

阪東秀人は、一条かれんが村役場に隠した武器探しが一段落したところで、美浜ちよに声をかけた。

武器の方は、結局ボウガン以外には、ワルサー用の9mmパラベラム弾が何箇所かに分けて隠されていたくらいで、他に武器らしい武器を見つける事は出来なかったが、
ひとまずボウガンと銃さえあれば、たとえ銃器で武装した者に襲われても、応戦することが出来るだろう。
それだけの武器は確保した。
そこで阪東は、そろそろ行動を開始しようと考えた。

「俺は一度、向こうに戻る」

阪東は親指で、かれん達の居る(居たと表現すべきだろうか)家の方を指し、そう言った。

「おまえはここに……」
「あっ、あのっ!」

そして、ちよはこの場に残るよう言おうとした阪東の言葉を、全て言い終わる前にその内容を察したちよが遮った。

「わ、私も一緒に行っちゃ駄目でしょうか?」

そう言って、上目遣いに阪東を見上げるちよの、小動物のようなつぶらな瞳には、早くも涙が浮かんでいる。
阪東が「いや、すぐに戻る」と言っても。

「そ、それでも、い、一緒に!」

と、役場に残る事に必死で抵抗した。
ちよは、たとえ短い時間でも一人きりにはなりたく無かったのだ。
13惨劇の跡、死闘の後 ◆xXon72.MI. :2010/09/17(金) 20:49:48
現在、絶賛稼働中の死体製造機といった様相を呈しているこの島の、
多少時が経っているとはいえ、すぐ傍と言ってもいい場所で死人が複数出ているこの場所で一人きりになってしまったらと思うと。
例えるなら、険しい崖に架かる、風にゆらゆらと揺れているつり橋の真ん中に置いて行かれそうになっているような、そんな、どうしようもない不安をこの時ちよは感じていた。
そうなってしまえば、きっと一人では前にも後ろにも、一歩も踏み出せないだろう。
今のちよには、自分の前で手を引いてくれる存在が必要だったのだ。

「フゥ…。好きにしな」

そんなちよの様子を見た阪東は、一言そう言うと、ちよに背を向けて村役場を出ようと、出入り口へ向かった。

「は、はい!」

そしてちよは、親鳥について行くカルガモの雛のように、阪東の後を追いかけた。

(ま、別にいーだろう)

阪東は、ちよの足音を背後に感じながら、まずは加東秀吉の死体がある草むらへ向かった。
なにも、阪東は絶対にちよを村役場に置いて行きたいと思っていたわけではなかった。
この時の阪東の目的は、死んでしまった他の連中の荷物を回収することであり、
それは、ちよを連れていても出来る事だ。
居なくてもいいのだから一人でやろうと思っただけで、ちよが来たいと言うならば、別に好きにさせてもいい。
ただ、ちよは死体というか血に対して明らかに、何らかの精神的な傷――トラウマを負っている。
死体を目の当たりにして、また取り乱されては面倒だ。
だから、それはそれで面倒ではあったのだが、阪東は秀吉の死体のある草むらの手前に着た時点で振り向いて言った。

「おまえはここで見張りだ。何かあったら教えろ」
「あ、はい。わかりましたー」

阪東は、最初に秀吉の死体を確認した時と同じように、しかし今度は見張りという仕事を与えて、ちよを草むらの手前で待たせた。
そして、自分は秀吉の死体の元へと進んで行く。
14惨劇の跡、死闘の後 ◆xXon72.MI. :2010/09/17(金) 20:51:21
そうして秀吉の死体の所に到着した阪東が改めて秀吉を見下ろすと、
秀吉の死体は、当然ながら阪東が最初に確認した時から動くこと無く、
そのままの形で草むらの中に突っ伏していた。

「さて……」

それでは、荷物の回収だ。
この時間帯、日は既に沈み、もう辺りは徐々に薄暗くなってきていたが、まだ手元や足元も見えないほどには暗くない。
ほんの2〜3時間前に殴り合った、どうやら鈴蘭高校の後輩らしい秀吉がこんな事になってしまった事に、阪東も思うところが無いわけではないが、
ともかく、今の内に荷物を回収してしまおう。

そう考えた阪東が、まずは秀吉が身に付けたままになっている防弾チョッキを脱がせようと、
秀吉の上着を掴んだ時、どこからか“がぁー”とも“ぎゃー”ともつかぬような鳥の鳴き声が聞こえてきて、阪東は一度手を止めた。
阪東は最初、荷物さえ回収できれば特に死体を動かすつもりは無かったのだが、
カラスについばまれるこの死体のイメージを思い浮かべてしまい、気が変わった。

(カラス校の生徒がカラスに食われる……か、シャレにもならねえな)

先ほどの鳥の鳴き声がカラスのものだったのかどうか、阪東には分からなかったが、
ともかく、秀吉を一条かれんや赤坂理子のいる家へ運ぼうと、秀吉の死体を持ち上げかけた阪東は、
もう暗くて見えにくくなっているものの、秀吉の着ている服の腹から下に赤い大きなシミがあった事に気付き、
そして、見張りをしているちよの事に思い至ると、そこで今一度その手を止め、ちよに向かって言った。

「今から死体を運ぶ。血ィ見んのが嫌なら、こっち見んなよ」
「えっ、あ、はい……そうします」

阪東の声に一瞬振り向いたちよだったが、阪東の言葉に弱々しく返事をし、すぐに背を向けた。
元々怖がりだったちよは、この島で血塗れの死体を目にしてからというもの、
完全に血に対するトラウマが心の中に出来上がってしまっている。
それを、ちよ自身も自覚はしていたのだ。
15惨劇の跡、死闘の後 ◆xXon72.MI. :2010/09/17(金) 20:52:42
「オシ……」

ちよが後ろを向いたのを確認し、阪東は改めて秀吉の死体の頭側へかがみ込むと、
背中側から脇の下に手を入れて秀吉の上体を持ち上げ、そのまま引き摺るようにして移動を開始した。

そして、ちよはそんな阪東の方をなるべく見ないように視線を外しながら、後に続いた。
しかし……。

ズルズル
ズルズル

前を行く阪東が引き摺る物にどうしても視線を引き付けられ、ちよは何度もそれを見てしまいそうになった。

「……っ!!」

というか、少し見てしまった。
ほんの一瞬だけだったが、視界に血の赤が入ったとたん、ちよの心臓はまるでビックリ箱を開けたかのように跳ね、ちよは慌てて目を瞑った。
駄目っ。
見ちゃ駄目ですー。
そう自分に言い聞かせ、ちよは目を瞑ったまま阪東の足音や死体を引き摺る音を頼りに歩を進めた。

ほんの少し血が視界に入っただけだというのに、ちよの心臓はバクバクと高鳴り、
身体からはあちこちから冷や汗がタラタラと流れ出て、呼吸もはぁはぁと若干過呼吸気味になっていた。
しかし、すぐに目を瞑ったのが良かったのか、それ以上の症状は出なさそうで、
そうなると、音を頼りに歩いているちよにとっては、心臓の鼓動や呼吸音が邪魔にも思えてきた。

(もう大丈夫だからー、早く治まってー)

そんな風に考える余裕も出てきたちよだったが、それならば今一度、視線を逸らせた状態でもいいから目を開けた方が、この場合は良かったのかもしれない。
16惨劇の跡、死闘の後 ◆xXon72.MI. :2010/09/17(金) 20:54:02
「バカ、止まれ!」
「え?」

阪東の声にちよが目を開けたその時には既に、阪東の目的地だった家の壁が、
文字通りちよの目と鼻の先にまで迫っていた。
そして、そのタイミングで気が付いても、ちよにはその壁におでこをぶつける以外、選択肢が残されていなかった。

ゴチン

「あぅ〜〜〜〜〜〜」

おでこをぶつけた瞬間、ある種小気味いい音が頭蓋骨を通じて頭の中に響き、ちよはぶつけたおでこを押さえて涙目でうずくまった。
そして、突然のことに混乱しながら、ちよは慌てて状況把握のために、周囲の状況と自分の状態を照らし合わせて考えた。

(……あ)

そしてちよは、自分の呼吸や心臓の音が気になりだしてから、そちらに気を取られて阪東の足音を聞いていなかった事に気が付いた。
そんな状態で歩いている内、阪東が目的地に到着したのにも気が付かず、その家の壁に激突してしまったというわけだ。

「うぅ……」

そうと分かると、とたんに気恥しさが込み上げて来た。

「オイ、おまえ何やってんだ?」

阪東の足音が近づいてくる。
がんばれちよちゃん!
君は強い子だ!

「な、何でも無い、です。大丈夫です!」
17惨劇の跡、死闘の後 ◆xXon72.MI. :2010/09/17(金) 20:55:29
ちよはそう言いながら、出来る限りの勢いを付けて立ち上がった。
具体的には、ちょうど駅などにある登りのエスカレーターくらいの勢いで。
それほど大した勢いではなかった。

「ったく。ま、血も出てねーし、大丈夫なんだろーな」

秀吉の死体を一度玄関の中に置いた阪東は、ちよに近づくと、彼女の前髪を片手で無造作に掻き揚げて、先ほどちよがぶつけたおでこの辺りを見ると、そう言った。
そこは出血もしていないし、コブも出来ておらず、少し赤くはなっているが、このくらいならすぐに引くだろうと思われる程度だった。
先ほどのちよの台詞は明らかにただの強がり、虚勢だったろうが、どうやら本当に大したことはなかったらしい。
ちよは確かに、そのおでこを強かにぶつけたものの、頭がそのまま壁打ちでもしているボールの様に勢いよく跳ね返ったのが良かったようだ。

「じゃ、今度はここで見張りだ。何かあったら声を上げて知らせろ」
「うぅ、はいー」

ぶつけたところを乱暴に触られて少し痛んだのか、軽くうめき声を上げたちよだったが、
阪東の言いつけには素直に頷いた。
そうして、阪東は家の中へと消えると、ちよは一人家の外に取り残される形となった。
一人になるのが嫌でついて来たのに、結局は外で一人待つ事になってしまった。
心細さを感じるちよだったが、しかし、血を見る事が出来ないのでは、どの道、惨劇の跡に立ち入るなど無理というものだ。
仕方なく、ちよは阪東が戻って来るのを玄関の外で待つのだった。

(あ……)

すると、ちよは家の中から何やらガサゴソという物音が聞こえてくるのに気が付いた。
もしかしなくても、阪東が何かしている音だ。
何をしている音なのかはあまり想像したくないが、その音は村役場に一人でいては聞けなかったであろう自分以外の人がそこにいる証しであり、孤独感を紛らわす効果はあった。

(……やっぱり、ついてきて良かったです)

ちよはホッと一つ、小さなシャボン玉のような溜息をついた。

18惨劇の跡、死闘の後 ◆xXon72.MI. :2010/09/17(金) 20:57:07
一方の阪東は、秀吉の死体をその家の、玄関から一番近い部屋に運び込むと、いよいよ秀吉の死体から防弾チョッキを脱がせにかかった。

(……どうやら、この防弾チョッキが不良品だったってワケじゃ無さそーだな)

この時、家の中ではもう手元を見るのも難儀なほど暗く、また、家の電灯も点かなかったので、
支給品の中にあったランタン(電池式で光の広がるライトのような物だった)で防弾チョッキを照らしながらながら、ついでにじっくりと観察して見たのだが、
するとそこには、チョッキを貫通している穴以外にも、他の銃弾を防いだ跡があることが分かった。
阪東は、その防弾チョッキがどの程度の銃弾まで防げるのかなどは知らなかったが、
大砲のようなもので撃たれても平気だとは思わないし、どこかに限界があり、
防げる銃弾と防げない銃弾があるのだろうという事は、漠然とだが理解できる。
そして、秀吉はその限界以上の威力を持つ銃弾にやられたのだろう。

(だが、防げる弾は防げるみてーだし、ま、使うべきだな)

秀吉の死体から防弾チョッキを脱がせ終えると、阪東はそう考えてこの家にあったタオルを拝借し、その防弾チョッキの貫通している穴の周りに付いた血を拭った。
それで、その血の跡は幾分目立たなくはなったが、しかし、全く分からなくなるほどには落ちそうにない。

(チッ……俺が着るしかねーか)

阪東は、秀吉がこれを着ているのを見て、なぜそれを一緒に居る女に着せないんだよと怒りを覚えたものだったが、
しかし、現在阪東と行動を共にしているちよは、血に対するトラウマを心に抱えている。
この、血が付いた防弾チョッキを着せるわけにはいかないだろう。
なら、阪東が着るしかない。
阪東は、一度ジャケットを脱いで、防弾チョッキに袖を通し、その上にジャケットを羽織ると、外から血の跡が見えないように前を閉じた。

(いざとなりゃあ、俺が盾になればいい)

ふとそんな考えが頭に浮かび、阪東は、いつから自分はそんな殊勝な考え方をする人間になったのだろうかと苦笑した。
そして、ひとしきり笑うと、すぐに頭を切り替える。
19惨劇の跡、死闘の後 ◆xXon72.MI. :2010/09/17(金) 20:58:33
(しかし、わからねーな。こいつを殺したヤツは、なんで防弾チョッキを置いて行ったんだ?)

ちよのように血に対する恐怖や嫌悪感を持っているのか、
それとも、血で汚れた物を着るのを嫌った単なる綺麗好きか。

(ま、何にせよ、使えるモンは使わせてもらうまでだがな)

阪東はその後、他の秀吉の支給品や、一条かれん達の支給品もすべて回収すると、
血に濡れてしまっていたかれんと理子のデイパックの中身だけを、汚れていない他のデイパックに移してまとめ、家の外へ出た。

「あ、阪東さんー。もう外は真っ暗ですよー」
「ああ、そうみてーだな」

玄関の外で待っていたちよの言う通り、表はもう薄暗いどころではなく、真っ暗になっていた。
街灯も点かない今の沖木島では、特にその暗さが際立つ。
そんな外の様子を見て、阪東はランタンの明かりを消した。
とたんに、まるで辺り一面に墨汁をぶちまけたように、視界が真っ黒に染まる。

「あれ? 消しちゃうんですかー?」
「ああ。のん気に明かりなんか点けてたら、他のヤツに見つかっちまう」

しかし、その状態でしばらく動かずにいると次第に目が慣れてきて、
月明かりや星明かりによって、どうにかお互いの顔を確認できるくらいにはなって来た。
足元の道路もこれなら何とか見える。
こういう時には、人間の順応力と言う物を実感できるというものだ。

「よし、戻るぞ」

そうして、阪東は短くそう言うと、村役場へと向かって歩き出した。
村役場へ戻ったら、まずは一度落ち着いて、回収した支給品の整理をしたい。
20惨劇の跡、死闘の後 ◆xXon72.MI. :2010/09/17(金) 21:00:08
まあ、場所は村役場でなくても良かったのだが、死体が3つも転がっているこの家で落ち着けるとは思えなかったし、その次に近い建物が村役場だったというだけの話だ。
村役場にも塚本天馬の死体があるのだが、先ほどまで村役場に居た時には、
役場では死体のある部屋にさえ入らなければ、不思議とその死体の存在は意識せずに済んでいた。
建物の造りのせいか、それとも役所という建物の役割から来る精神的な差なのか。

「戻ったら、荷物の確認だ。お前も手伝えよ。それから、これからの事も考えてーな」
「はいー」

ちよは、もちろんといった感じで頷き、阪東の背中を追いかける。
そして、二人は村役場へと戻って行ったのだった。


【C-3  村役場/一日目 夕方】


【阪東秀人@クローズ】
【状態】:疲労(中)、精神的ショック(中)、肉体損傷(中)
【装備】: クロスボウ(矢:12本)、防弾チョッキ、ワルサーP38(弾数8/8)
【所持品】:支給品一式×5、鉄パイプ、トラロープ、鎌、9mmパラベラム弾×12、
     アイスピック、整髪料、取っ手付き麺棒
【思考・行動】
1:荷物を整理し、これからの事を考える
2:襲ってくるなら誰であろうと叩きのめす
  ただし余程の事が無い限り殺す気は無い
3:この島から脱出する

21惨劇の跡、死闘の後 ◆xXon72.MI. :2010/09/17(金) 21:01:06
【美浜ちよ@あずまんが大王】
【状態】:精神的ショック(血に対するトラウマ)
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式
【思考・行動】
1:荷物を整理し、これからの事を考える
2:島からの脱出について考える


そうして村役場に入って行った二人の影を、ジッと見張る人物がいた。
三橋貴志だ。

三橋は銛之塚崇との死闘の後、まずはその戦いの疲れを癒すため、
ともかく一息つける場所を探して、地図でいうとC-6にある観音堂に向かい、
そこでしばらく休憩をした。
三橋が観音堂を選んだ理由は、政府の人間がおり禁止エリアになっている鎌石小中学校を除けば、それまで居た場所からかなり近い所にある建物だったからだ。

同じくらいの距離にあり、昼までそこで寝ていた無学寺を選ばなかったのは、
春日歩(三橋の頭の中では大阪)の死体があり、流石の三橋も死体の横で一休みしたいとは思わなかったということがある。
ま、茶でも淹れてくれるか、マッサージでもしてくれるなら、考えなくもねーけど、
でも死体だしナ……。

また、三橋は自分をこんなプログラムなんぞに参加させた政府に復讐を果たすため、そして仲間達のため、まずはプログラムで優勝し、確実に島を出ることを目指しているので、
休憩が済めば、次なる標的を探して行動を再開することになるわけだったが、
その時には、周りに何も無い無学寺よりも、鎌石村の端にある観音堂の方が良いだろうという理由もあった。

そして、完全に日が暮れるまでには鎌石村を見回っておきたいと考えた三橋は、
観音堂での休憩を早めに切り上げ、次の標的を探して鎌石村を軽く探索した。
三橋は当面の間ターゲットとすべき相手を、他校の、殺し合いに乗っている連中だと見定めており、
家の中に閉じ籠もり隠れているような奴は、もうしばらく放っておいてもいいだろうと考えていたので、家を一軒一軒見て回るような事はしなかった。
22惨劇の跡、死闘の後 ◆xXon72.MI. :2010/09/17(金) 21:02:31
そういうヤツは、三橋の仲間にとっても、とりあえず当面の間は脅威とはなりえない。
ゲームの後半で、ゆっくりと探し出して料理すればいい。
それよりも、積極的に参加者を殺して回っている存在は放置していると自分の仲間を殺してしまうかもしれないので、早く見つけて、優先的に始末する必要がある。
もちろん、殺し合いに乗っていない他校の連中も、後々隠れられてしまうような事を考えれば、見つけた時に容赦なくやるべきだが、
最終的には、殺し合いに乗っている者は三橋一人だけで、後は殺し合いに乗っていない者と軟葉の生徒だけ、という状況になれば理想的だ。

そんな考えの元、鎌石村内を見て回っていた三橋は、辺りが暗くなって来て、
流石にこれ以上当ても無く歩いていても仕方ないか。
この鎌石村には、積極的に動いているような人は居ないのかもしれない。
と思い始めた頃、視界の隅に一瞬だが、一つの灯りを捕らえた。
それは、阪東が消す直前のランタンの明かりだった。
これは、玄関を出る前に灯りを消していなかった阪東のミスだろうが、
それで三橋は阪東達を発見することが出来たのだ。

(さーて、どうするか)

しかし、ここで三橋は珍しく迷った。
阪東達に襲撃をかける事に躊躇があるわけではない。
問題は、タイミングだ。

(そろそろ、だよな)

支給品の時計をちらりと確認すると、時刻は18:00直前。
1日に4回あるという放送の直前だった。
23惨劇の跡、死闘の後 ◆xXon72.MI. :2010/09/17(金) 21:04:00
【C-3  村役場の近く/一日目 夕方】

【三橋貴志@今日から俺は!!】
【状態】右腕付け根に刺し傷(軽傷だが少し痛みはある)
    背中の右側に幅十数センチの切り傷(軽傷だが痛みはある)
    どちらもひとまずの手当て済 
    精神的疲労(中) 静かに深く怒り 表面的には精神安定
【装備】S&W M10(6/6)、S&W M10の予備弾(14)、鉄扇(重さ600g程度)
    グロック17(5/17)、FN M1906(2/6+1)、ダイナマイト
【所持品】支給品一式、シュノーケル、水中ゴーグル、十徳ナイフ、割り箸一膳
     水と食料のみ2人分
【思考】
基本:
軟葉高校の他の仲間たちはどう考えても人殺しなどできない。
だから、仲間を守るためには、他の学校の人間を殺すことも仕方ない。
全てが終わった後、プログラムの関係者全員に復讐する。

1:村役場に入って行ったヤツら(阪東とちよ)を殺す。だが、その前に放送は聞くべきか?
2:殺し合いに乗っている他校の生徒は優先して始末する
3:あいつら(坂持)に復讐する方法を考える
24 ◆xXon72.MI. :2010/09/17(金) 21:09:14
以上、投下完了です
仮投下スレに投下したときにコピペをミスしていたところは直しました(こちらだと>>19の部分です)
それ以外はノータッチです

随分久しぶりに書きましたが、今までどんな書き方をしてきたのかなど、色々と忘れてしまっている所も多くて苦労しましたw
25名無し草:2010/09/20(月) 07:01:11
ちよのトラウマは今後どんなふうに出てくるのか気になるな。
そして阪東ちよコンビに迫る三橋! これは次の展開にwktkせざるを得ない。
投下乙でした!
26名無し草:2010/09/21(火) 04:51:08
これは阪東ちよコンビ大ピンチか
放送後の三橋は加速するのか減速するのか
27名無し草:2010/09/22(水) 22:28:59
あずまんがのキャラが出るSSとは珍しい
期待期待
28名無し草:2010/09/25(土) 11:39:29
とりあえず、高崎杉村れんげの三人をなんとかしねぇと…
29名無し草:2010/09/25(土) 11:53:04
>>28
いまなんとかしてる おそくてすまん
30名無し草:2010/10/04(月) 06:56:50
智 だれか たのむ
31名無し草:2010/10/04(月) 21:05:22
まあ、自己リレーさえ気にしなければ何とかならなくも無いんですけど
今ある予約のが来てから、全体を見つつ考えようかなーと
というわけで、新予約がんばれー
32 ◆.b1wT4WgWk :2010/10/05(火) 21:09:05
予約分前編落とします。登場人物は鳳・高崎・杉村・宝積寺です。

先にお断りしておきますが、予約して全編書き切ってから、自分の描写したレッドブレイバーの衣装と仮面が
アニメ版のもので、漫画の原作版とちがうものになっていたことに気づきました。
したらばに仮投下できないため、もう後戻りできないのでとりあえずこちらに落とします。

今までの作品を読みなおした限りでは、衣装の描写が細かく出てくるものはありませんでした。
アニメ版で背中に黒鞘の刀を背負っているのと、漫画版で竹刀を使っているのとが唯一矛盾の出そうな点だったので、
黒鞘の刀の描写は消してあります。竹刀についても言及していません。
とはいえ本来原作準拠で皆さん書いてらしたはずなので……申し訳ないです。
これは結構大きなミスだと思うので、問題ありとの指摘が入るようならば、速やかに修正か廃棄のどちらかで対応します。

なお、支援なき場合さるさんくらうところまで落とした後、いったん時間あけてもう一度続き落とします。
少し投下時間の間隔があくかもしれませんがご了承下さい。
33<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/05(火) 21:12:47
正式タイトルはこちら(また長すぎた……):<"The pretender" 鳳凰の赤い棺>前編


I'm the voice inside your head 俺はお前の頭の中に響く声
You refuse to hear お前は聴こうとしないが
I'm the face that you have to face 俺のツラはお前が見てるそのツラと同じ
Mirrored in your stare 俺は鏡に映るお前自身だ
I'm what's left, I'm what's right 俺はとり残されたものだが、真実でもある
I'm the enemy 俺はお前の敵だ
I'm the hand that will take you down 俺はお前を引きずり降ろすもの
Bring you to your knees お前に膝を折らせるもの

So who are you? それでお前は一体誰なんだ?
Yeah, who are you? そう、お前は
Yeah, who are you? お前は一体誰なんだ?
Yeah, who are you? なあ、お前は誰なんだ?

-----

 神塚山山腹、午後12時20分。風にあおられた冬枯れの木々の枝が、ガサガ
サと乾いた音をたてる。冷たく湿った黒土の上に降りつもり地に還るのを待つ落
葉を踏みしめて、ある男が木々の陰から陰へと身を潜めつつ何かを追っていた。

34<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/05(火) 21:14:27
 その男の風体の異様は、葉のない木々の内にあって酷く浮いている。機械的な
運びで動くその足は、金の膝当ての下から足首までつややかな赤い脚絆に包まれ
ていた。赤地に金の手裏剣十字が輝くベルトを締めた腰から脚絆の下まで、黒の
スウェットスーツに覆われている。その光沢のある布地は上半身にもまたぴたり
と貼りついていて、男には肌の露出している部分がない。上半身を守るのは金の
縁取りのある赤の肩甲、同じく金の装飾のある赤い胸甲とその下に繋がり胴を守
る前当て、そして両腕の肘関節近くから手首までの手甲で、これもまた金に縁ど
られたつや出しの赤だ。頭部は黒い?のついた戦国の武将の兜を思わせる仮面に
覆われており、脇立てよろしく二本の赤い角がはり出して主張している。眉間の
大きな赤い手裏剣十字は兜の前立てのように見えるが、これがちょうど剣道の面
の物見と面金をもとにしたような白銀の面頬と兜とを繋いでいた。この仮面に守
られた男の顔は、外からまったくその造形がうかがい知れない。長い白のスカー
フで覆われた首もと、薄い柔らかな布と仮面の僅かな隙間から、これだけがプロ
グラムの参加者である印とばかりに、ちらりと銀の首輪がのぞいていた。

 男が身に纏うのは、悪と戦う正義のヒーロー――超剣戦隊ブレードブレイバー
の主役たるレッドブレイバー――のコスチュームだ。見事な精度で造形された逸
品ではあるものの、軽い発泡ポリエチレン材でできているそれらには無論、銃弾
や刃を防ぐ力などない。ならばなぜ彼がこんなものを身につけているのかと言え
ば、それはひとえに自らの正体を知られずにすむ、というメリットからだ……と、
少なくとも彼自身は思っている。
35<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/05(火) 21:15:28
 そんな鳳が追っているのは、仲間とおぼしき三人だ。宝積寺れんげと、彼女と
合流したと思われる、まだ見ぬ二人。直前に彼が葬った男の残した得体の知れな
い機械は、正午ちょうどのプログラム参加者たちの位置情報を示す。その情報が
機械に追加されてすぐ、最も近くに表示された三つの光点の追跡を始めた彼だっ
たが、その時点ではまだ視界に追うべき者の姿をとらえていなかった。それでも
鳳が追跡に踏み切ったのは、女性である宝積寺の存在が彼らの移動速度に影響す
るだろうと判断したからだ。今すぐ追いかけはじめれば、身軽なこちらの方が有
利。それが鳳の考えだった。

 そして今まさに、彼は追跡対象の姿を目にしている。山腹の木々の根元で、三
人は少しばかり足を止めていたのだった。極力彼らの目に映らぬよう、木々の陰
に身を隠しながら鳳はそこへと近づいていく。

 相手方は男が二人、どうやら一人は宝積寺を抱いており、足を止めたのも走る
うちにずり落ちかけた彼女をもう一度抱えなおすためのようだ。が、その男たち
は明らかに桜蘭のものとは違う黒の詰め襟を身に着けているうえ、二人の制服も
同じ生地ではない。

(……どういうことだ? これは学校対抗のチーム戦のはず……なぜ他校生がつ
 るんで行動している? 彼女をわざわざああやって抱きかかえて逃げているの
 も解せない……命を奪うつもりならあんな真似をする必要はないはずだ、足手
 まといが増えるだけだというのに)
36<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/05(火) 21:17:02
 他校の生徒が宝積寺をつれて逃げているという事実は、彼にとってまったく理
解しがたいことだった。このプログラムは言わばチーム戦であり、自分の仲間以
外を保護することにメリットなどありはしない。何らかの利用価値があるという
のであれば別だが、宝積寺は誰の目にも戦闘の役には立たないだろうとわかる女
性だ。この島の外であれば金銭目的の誘拐の理由に十分なりそうな彼女の出自も、
ここに閉じ込められたままでは何の価値も持たない。もし彼女が仲間でなければ、
どこかで出会ったときに自分は必ず彼女を葬るだろう、それが普通だと鳳は思う。

 実のところ、彼の思う「普通」は多分に利に走りすぎた判断であり、この島に
いる全ての人間に適用できるものではない。この世の多くの「普通」の人間が、
他者の生死すら完全なる損得勘定で割り切ることができるかと問えば、答えは否
だ。放り込まれたのが戦場であったとしても、生きるためもしくは誰かを生かす
ために他の誰かをあっさりと殺せる「普通」の人間は――言い方を変えるなら、
「庶民」は――そう多くはない。できることなら誰の命も(そしてできるなら、
自分自身の命も)奪いたくないと考える者も一定数存在して当然である。例えば、
すでにこの世を去った藤岡ハルヒのように。

 ……だが、それは今の鳳に理解できる考えではなかった。もし彼の傍に仲間が
いれば、また少しは違ったのかもしれないが。

 木陰から三人の様子をうかがう鳳が二人の男の行動に納得のいく理由を探しあ
ぐねていたそのとき、ふいに宝積寺れんげの悲鳴があたりに響く。

「ひ……、あ、や、ぃやあああああああああああああ!」

 男の内の一人に抱きかかえられたままの彼女の目は、その黒い制服の肩越しに
自分たちを追う赤い悪魔の姿をとらえたのだ。冬の冷たい空気を切り裂く悲鳴に
全員の動きは一瞬止まった。
37<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/05(火) 21:18:08

「どうした、何が……!」

 宝積寺を抱えた男の緊迫した声が悲鳴に続き……そしてハッと何かに気づいた
ように後ろをふりむく。もう一人もそれに習うように同じ動きをした。真っ青な
顔をした宝積寺のほっそりとした指先は、目視可能な距離まで彼らに近づいてい
た鳳を――正確に言うなら、木の陰に隠れ切らなかった、レッドブレイバーの仮
面から生えた赤い角を――真直ぐに指していたのだ。その指先をたどって彼のほ
うにふりむいた詰め襟の二人は、すぐに異常事態に気づく。無機質な赤い円錐状
のもの。それはほんの一瞬で木の陰に引っ込んだが、はっきりと彼らの目に映っ
た。表情を硬くした男たちだったが、それからの行動は速かった。宝積寺を抱え
た男が大木の陰に身を隠すと、低く叫ぶ。

「杉村くん、ここに身を隠して銃を構えるんだ!」
「っ、高崎さん、でも!」
「いいから構えるんだっ! 急げ!」
「……っ、はい!」

 男たちが動いたそのとき、鳳は木陰に隠れたままイングラムを構えなおしてい
た。その動きは杉村と呼ばれた男よりも速かったものの、難しい距離なので弾を
撃つことができない。今いる場所から宝積寺以外の人間を撃って彼女を回収し、
自らは無傷でこの場を去る……それをこなすだけの自信はさすがの鳳にもなかっ
た。

(何という失策だ……)
38<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/05(火) 21:19:20
 胸の内で彼は呟く。そのまま鳳と杉村は銃口をお互いに向けあって膠着状態に
陥ったが、杉村のほうは少しすると高崎と呼ばれたもう一人の男の指示により、
銃を構えた状態でわずかずつ後ろに進みはじめた。もともと、彼らのいるあたり
は木が密集している。三人がその陰から陰へと移動することは、杉村の銃による
牽制があれば難しくはない。逆に、鳳の隠れた場所は移動をためらわせる立地だ
った。彼が身を隠す広葉樹の隣には幹の折れた哀れな大木しかなく、三人を追う
ためには一旦その身を相手の銃口に晒す必要がある。杉村は明らかに緊張にこわ
ばった顔をしているが、構えたアサルトライフルを降ろそうとするそぶりはない。
様子からしていきなり撃ってくることはなかろうと判断できるものの、それを絶
対と信じられるほど鳳は能天気ではなかった。

(いっそ……全員殺してしまえば……)

 苛立ちのつのる鳳はそのとき、『宝積寺ごと撃ってしまえ』と囁く心の声を聞
いた。トリガーにかけた彼の指に力が入る。ここで宝積寺がいなくなったところ
で、鳳と環と銛之塚が生きていれば桜蘭の生徒は三人だ。ルール上は、他を全て
葬ればそれでも問題ない。確かに彼女は鳳家にとって大切な取引先のお嬢様だが、
事を成すにはいつだって犠牲はつきもののはずだ……そんな危うい考えが彼の胸
を黒く染めはじめる。

 ……けれども彼は、今にも引き金を引きかけながら踏みとどまった。これはチ
ーム戦だ。いくら彼女が足手まといにしかならなくとも、ここでは「生きている」
ということそれ自体に価値がある。自分の仲間を殺せば分が悪くなるのは自分自
身ではないか……胸の内に湧いた凶暴な何かを諌めるように、鳳はすう、と大き
く息を吸った。

(駄目だ、今撃つわけにはいかない)
39<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/05(火) 21:20:54
 そうしてもう一度、鳳はトリガーにかけた指の力を加減した。その間にも少し
ずつ開いていく三人との距離を詰める方法など、もはやありはしない。鳳はつく
づくと自分の不明を恥じた。身につけている衣装が装飾過多であることを理解し
ていなかったわけではない。それでもあの瞬間の彼は、かぶった仮面から突き出
た角に意識をやる繊細さを失っていた。そのこと自体、いつもの鳳からすればあ
りえない話だ。自分自身の愚かしさに心の中で彼は唾を吐く。

 偵察中の自らの不注意を嫌悪する鳳だったが、実のところ彼の犯したミスはそ
れだけではない。身を隠すのに折れた古木の横の木を選んだことも明らかに失敗
であったし、そもそももっと前の時点で彼は根本的な間違いを犯している。本当
は、三人を追いかける前にコスチュームを脱いでさえいれば、「鳳鏡夜」に戻っ
てさえいれば……それですべては上手く回ったはずなのだ。仮面と衣装を着けて
人を襲った姿を宝積寺に見られたと知っていながら、それを脱がずに彼女を保護
しようとするなど、誰の目から見ても馬鹿げている。

 だがしかし、鳳はその決定的な判断ミスに気づいていない。それをミスだとす
ら感じていない。これは実におかしなことだった。賢明な彼ですら、この異常な
環境下では重要な判断を誤るということだろうか? ……その問いの答えは否、
だ。桜蘭高校ホスト部に君臨する「鳳鏡夜」は、そんなに迂闊ではない。彼はあ
くまでも冷静沈着で、いつも自分が何をすべきか正確に判断できる人物だ。その
彼がいま、これほどの誤りを犯している。それはつまり、「鳳鏡夜」がすでに正
常ではないことを示していた。
40<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/05(火) 21:24:20
 木々の陰に隠れて遠ざかり、見えなくなっていく三人の姿から視線は外さぬま
まに、鳳はきつく唇を噛む。仮面の下で眼鏡の奥の瞳は苛立ちに灼け、秀麗な容
貌は言い知れぬ怒りと沸き立つ暴力的な衝動に歪みつつあった。が、その表情が
人目に晒されることはない。この仮面をつけたままでいれば、彼がどんなに彼ら
しからぬ表情をしたところで誰もそれを知らず……この偽物の鎧を纏ったままで
いれば、彼がどんなに彼らしからぬ行動をとっても、誰にもそれを知られること
はない。かつて鳳のその造作を愛してやまなかった宝積寺れんげが、彼の姿を見
て悲鳴をあげたように。

(……不愉快だ)

 鳳は苛つきを隠さない。彼の足もとの地面は、幾度も小刻みに叩きつけられた
彼の靴の踵で抉れている。身体にピタリと貼りついたその衣装。正体を隠すため
に自ら袖を通したそれは皮肉にも、彼自身すら知らずにいた危うさ――今まで、
彼が「鳳鏡夜」であることによって抑えられ、最奥で眠りについていたそれ――
を引き出しつつあった。ふつふつと湧き上がる黒い感情を抑えるための何かが、
今の鳳にはない。彼が彼自身として在るための支えであり、時に溢れ出そうとす
る危ういものを抑える枷になっていた「鳳鏡夜」という立場そのもの。それはこ
の隔絶した地において、彼が桜蘭の人間と対峙するとき以外に守る必要のないも
のであり……仮面と衣装を身につけ続けている以上は、桜蘭の人間を前にしてす
ら守る必要のないものである。
41<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/05(火) 21:26:00
 彼がプログラムの始まったときに脱出ではなく優勝を望んだのは、この戦いが
チーム戦であったからだ。他を全て排斥すれば自分の仲間を連れて無事に帰りう
るという事実は、鳳にとって天啓だった。脱出という方法をとってしまえば、彼
の一族の社会的地位が危うくなる。それは仲間の命と天秤にかければ軽いものだ
――だからもし、これが昨年度までのプログラムの形式であれば、彼は脱出方法
を練っていたに違いない――が、そうでなければ絶対に避けたい事態であった。
そういう意味では、初めに優勝という目的を掲げたときの彼は紛れもなく「鳳鏡
夜」だったと言える。そして「鳳鏡夜」は目覚めて最初に出会った人間……善良
な庶民の鑑たる田中良を、自らの目的のために何の躊躇いもなく葬った。

 しかし、もし彼に衣装と仮面が支給されていなかったとしたら、彼はあれほど
易々と田中を屠ることができただろうか。別の誰か……「鳳鏡夜」の特徴からは
ほど遠い、誰か別の人物に変身できていなかったとしたら、彼は今のように殺人
を重ねられていただろうか。

 彼は、人を殺して失うものが何もないと思えるほど愚かではなかった。たとえ
仲間とともに生還できたとしても、そのために他者の命を奪った事実は消えない。
誰かを殺して生き残って桜蘭へ帰ったところで、それは本当の意味で元に戻るこ
とではない。そのことを彼は確かに知っていた。そのうえで人を殺める決意をし
た彼に与えられたのが、その姿を隠す仮面と衣装だった。彼自身に自覚はないが、
「鳳鏡夜」は「どこの誰でもないもの」に変身したからこそ、その手をあれほど
簡単に汚せたのだ。どれだけ彼が血にまみれても、その仮面を外さなければ桜蘭
の仲間たちに知られることはない。「鳳鏡夜」が何かを失うことはない。衣装を
初めて着たとき彼はこう思った。誰にも中身を知られたくない、特に環には……
と。こんなものを着ていたと馬鹿笑いされるのが嫌だから、というのが彼の自覚
する表向きの理由だが、本当は自ら血に汚れようとする自分を仲間と親友に知ら
れたくなかっただけにすぎない。
42<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/05(火) 21:27:03
 そうしてどこの誰でもなくなった鳳は、自分の仲間である宝積寺の目の前で桐
島ヒロミを襲った。それは彼が「鳳鏡夜」であったなら、決してできなかったこ
とだ。その時点ですでに歪みつつあった鳳は、放送によって藤岡の死を知ったこ
とでさらに崩れた。「鳳鏡夜」として選んだはずの目的の一端が欠けたことで、
彼はよりいっそう「鳳鏡夜」から遠ざかる。今や、その本来の目的すら一時の衝
動に引きずられて忘れかけるほどだ。彼自身も気づかぬうちに、彼はとりかえし
のつかないところまで歪んでしまった。「鳳鏡夜」は、正義の味方の仮面と衣装
を棺にその命を失おうとしている。

 すっかり視界から三人が姿を消したあと、鳳は耐えかねたように木の幹を拳で
ひとつ殴った。そうして全身を苛む感情の波をどうにか沈めたあと、デイパック
に手をやり、中から「東亜くん」をとり出す。宝積寺との合流に失敗した今、も
っともメリットのある次の目的地はどこか。すでに「鳳鏡夜」ではない男は、か
つてそうだった頃の自らをなぞるように、努めて冷静になろうとしていた。

(……合流に失敗した今、彼らが向かった北西に進むのは得策ではない。違う方
 向にあって、何らかの利益を得られそうな場所に向かうべきだ。とすると、平
 瀬村か分校の跡地が妥当だろう。村ならば民家から物資を調達できるだろうし、
 分校も防災用品などが残っているかもしれない)

 思考を巡らせながら、彼はもう一度機械の表示を見る。すると分校跡に、3つ
の光点が固まっていることに気づいた。

(ふむ……三人が学校内で固まっているというのは、普通なら仲間同士の可能性
 が高い。……まあ、先ほどのような例外は存在するかもしれないが。この表示
 だと全員校舎内にいるようだ。休息のために入るか、何か物資の補給のために
 寄った可能性はあるな。もしそうだとすれば、まだ40分程度しか経っていな
 いし、校内にとどまっているということも考えられる)
43<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/05(火) 21:28:10
 この鳳の考えは決して的外れなものではない。といっても実際には、彼の見た
3つの光点は室江高校の川添と栄花、榊野学園の桂のものである。だが、ちょう
ど鳳が宝積寺らを追跡している最中に、室江高校の桑原も川添らを追跡していた
のだ。この時点ではまだ起きていない事実だが、桑原は今から二十分後に分校で
他の三人と合流することになる。それからすぐに川添と桂が一戦交えることにな
り、最終的に桂が川添に敗北する形で逃走する。そのため、現時点から四十分ほ
どで、分校内に残る人間はちょうど室江高校のメンバー三人になるのだった。も
ともと栄花を手当てするため分校に入った彼らは、校舎内からすぐに移動しよう
とは考えていない。そのため、今から一時間強が過ぎたころ――つまり、鳳がこ
の場所から歩いて分校にたどり着くころ――には、分校内でまさに鳳の考えた通
りの状況がくりひろげられていることになる。

(……この三人の中に桜蘭生が含まれているとすれば、環と銛先輩ということに
 なるが……考えにくいな。いくら能天気なところのある環とはいえ、こんな状
 況で他の学校の人間と一緒に行動するほどとは思えない。銛先輩ならば余計に
 それはあり得ないだろう。とすると、ここにいるのは他校生であると見た方が
 いい。それなら全員命を奪ってしまおう。まあ、もし利用できそうならそれで
 も構わないが)

 鳳はさらに思考を巡らせて、そう結論づけた。そこにいるのが他校生である確
率が高い、という点まではこれもまた正しい考えなのだが、賢明な読者諸氏はす
でにお気づきだろう。鳳は、相手が仲間三人で組んでいると予想しているにも関
わらず、三人に襲われて自分が敗北することを想定していない。いくら彼が強力
な武器を携えているとはいえ、相手がそれ以上の武装をしていれば意味がないと
いうのに。今の鳳はかつてより遥かに暴力的であり、自己の力を過信しがちだ。
44<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/05(火) 21:29:35

「……よし、行ってみるか」

 呟いた鳳の口もとに一瞬、冷たい笑みが浮かぶ。だが、仮面の下の表情は誰に
も知られることなく消えていく。正義の味方のコスチュームを身につけ、右腕に
マシンガンを携えた奇妙な男は、再び僅かに歩調を早めた。


----


 神塚山山腹、午後1時12分。不気味な追っ手から逃走してきた男女三人は、
枯れた蔦の葉が入口を隠す横穴を山の北西の斜面で見つけた。幸い数人が中で過
ごせる広さのそこに彼らは潜り込み、腰を落ち着けようとしている。

「もう……追ってきてはいないみたいだな……」
「……みたいですね」

 入口から顔を出して周囲の様子に気を配りつつ、高崎はぽつりと呟いた。それ
に反応した杉村が、構えていた銃口を下げながら答える。どちらともなく、ほっ
と安堵の溜息がこぼれた。幸いにして、彼らを追ってきた謎の人物はもうついて
きてはいないようだ。まるで何かの特撮番組のヒーローのような姿をしていたあ
の男は、その手に確かにマシンガンを持っていた。少し前に聞いた銃声もおそら
く男の銃によるものだろうということは、彼らにも容易に想像がつく。
45<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/05(火) 21:30:40
 そして出会ったときからずっと怯えている彼女――高崎の腕の中で青ざめたま
ま小刻みに震えている、れんげという女の子――の様子も、あの男から逃げてき
た直後だったからだとすれば無理もないことのように彼らには思えた。あの異様
な風体の男に襲われて怖くないはずがない。あのとき彼女が木の陰からのぞいて
いる角にすぐ気づけたのも、すでにその姿を見ていたからだと思えば納得がいく。
高崎は抱き上げていた彼女を近くの木の根元にそっと降ろすと、優しく話しかけ
た。

「れんげさん、アイツはもう追ってきてないから安心していいよ。君がアイツに
 気づいて声をあげてくれたから、無事に逃げることができた。ありがとう」
「……ぁ、あ」
「……まだ怖いかもしれないけど、これだけは言っておくよ。信用してもらうの
 は難しいと思うけど、俺たちは君に何かするつもりはないんだ。できるだけ誰
 も傷つけないでいたいと思っているしね」
「……」

 話しかけてくる高崎の真摯な態度に、怯えて揺れていた彼女の瞳も少しずつ光
をとり戻す。その様子を見た高崎は、さらに彼女を安心させるため、杉村に同意
を求めた。

「なあ、杉村くんだってそうだろう?」
「ええ、もちろん……さっきはどうしても構えざるを得ませんでしたけど、俺は
 本当ならこういうものは絶対に使いたくないです」
「……っ、」

 そう言って杉村は、あの男と対峙したときに荷物からとり出して以来、ずっと
手に持ったままだったアサルトライフルを軽くたたいてみせる。それを見た彼女
はほんの一瞬身だけを硬くしたが、杉村の言葉を信じたのか、取り乱したりする
ことはなかった。まだ身体の震えはおさまっていないようだったが、目の前の女
性は少しずつ落ち着いてきていると男たちは確信する。
46<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/05(火) 21:32:12
「……れんげさん、もし君が嫌でなければ俺たちと一緒に行動しないか? その
 ほうが危なくないと思うし、もしどこかで君の学校の仲間に会ったらそこで別
 れればいい」

 ゆっくりと、あくまでも紳士的に紡がれた高崎の言葉を聞いた彼女は、まだ震
える身体を抱きしめながらも小さく頷いた。きちんとした会話をするのはまだ難
しいようだが、少なくとも意思の疎通ができる程度に回復したらしい様子に、高
崎は優しい笑みを浮かべる。それから高崎は、二人にむけてこう提案した。

「杉村くん、れんげさん、俺はここで少し休んで行き先を決めてから山を下りる
 のがいいと思うんだ。この場所ならすぐには見つからないし、しばらく居ても
 大丈夫だろう」
「俺もそれに賛成です、怖い思いをしたれんげさんのためにもそのほうがいいと
 思います」
「……は、い」

 杉村はすぐに賛同し、それに続くように小さな同意の声が上がる。それを聞い
た高崎はこう続けた。

「よし……じゃあもう昼すぎだし、食事をとっておいたほうがいい。食べながら
 地図でも見て、この先のことを考えよう」

 高崎の指示でデイパックから食料をとり出した三人は、それぞれ無言のまま口
をつける。隣に腰を下ろした彼女の食が進んでいない様子を見て、杉村は声をか
けた。

「れんげさん、食欲がないのはわかりますけど、食べておいたほうがいいと思い
 ますよ。こういう状況では、体力がものをいうでしょうし」
「そう、ですわね……」
47<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/05(火) 21:33:38
 少しずつ言葉が出てくるようになった彼女は、杉村に返事をして握り飯を口に
運ぶ。そんな二人の姿を見た高崎も口を開く。

「そうだ、ちょっと確認してもいいかな? さっきの君の呼びかけとこのリスト
 によると、れんげさん、君は桜蘭高校の人ということでいいんだよね? ええ
 と、名字は……」
「……ほう、しゃくじ、ですわ」
「そうか、そう読むんだね。最初に会ったときに一度自己紹介はしたけど、あの
 時はあとが滅茶苦茶だったから……改めてもう一度名乗っておくよ。俺は軟葉
 高校の高崎秀一。よろしく、れんげさん」
「あ、俺ももう一度。城岩中の杉村弘樹です。よろしくお願いします」
「……宝積寺、れんげと申します。桜蘭高校に通っておりますわ。これからどう
 ぞよろしくお願いいたします」

 仕切り直し、といった体での互いの自己紹介が終わったことで、緊張のとけた
三人にやっと和やかなムードが漂った。宝積寺も普段のあの独特のテンションを
とり戻すには至らないが、会話に参加できるまでに回復したようだ。そのまま食
事を続けたあと、彼らは話を始める。

「ところで……さっきの放送、ちゃんと聞けなかっただろう? あのとき録った
 ものをもう一度聞いておいたほうがいいと思うんだ」
「あ……そうでしたね。今出します」
48<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/05(火) 21:34:33
 そう言って杉村は、ポケットから手のひらにおさまる大きさの細長い機械をと
り出すと、再生と書かれたボタンを押した。それは彼の支給品である、小型ボイ
スレコーダーだ。三人は銃声から遠ざかるために必死で走っている最中に放送を
聞くことになり、立ち止まっているだけの時間がなかった。そのとき、たまたま
自分の支給品にボイスレコーダーがあったことを思い出した杉村が、咄嗟に録音
ボタンを押したのだ。そういう理由で高崎と杉村は放送の細かい内容を覚えてい
ないし、宝積寺はまだ精神が恐慌状態にあったため、そこに気を配る余裕がなか
った。

 ……ただし、彼らは全員、あのとき呼ばれた自分の学校の仲間の名だけははっ
きりと記憶している。聞こうと思わなくても耳に滑り込んでくるその名前に凄ま
じい喪失感を覚えながらも、足を止めることはできなかった高崎と杉村の心中は
……そして目の前で自分の犯したミスによって命を失う人間を見た直後に、その
名前を聞くことになった彼女の心中は、想像するに余りあった。

 レコーダーの少し割れた声の告げる禁止エリアを地図に記し、リストをとり出
して呼ばれた名前に印をつけながら、まず杉村が相馬と三村の名に言葉を失い、
次に田中の名を聞いた高崎が打ちのめされる。そして最後に、藤岡の名を耳にし
た宝積寺がびくりと肩を震わせた。すでに聞いていたものとはいえ、心のどこか
で聞き間違いだと信じていた仲間の名が本当に呼ばれていたことを知った三人は、
それぞれ大切な友人たちを失った悲しみと対峙することとなった。

 杉村は二度その名を聞いたにもかかわらず、いまだに相馬と三村の死の実感が
わかないでいる。命を落とした二人は杉村にとって最も親しいとまでは言えない
相手だったものの、その死が彼を呆然とさせたことには変わりない。それぞれ異
なる種類のものだが、どちらも強靭さを感じさせる人間であったためか、彼らと
死とが杉村の中で結びつかなかった。特に三村のほうは一際鮮烈な光を放つ男だ
ったので、余計にその死が信じられない。その事実をいかにして受けとめるべき
か……彼は困惑するばかりだった。
49<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/05(火) 21:35:37
 高崎は腕っ節は強くなくとも芯の通った善良な男だった田中を思って瞼をふせ
る。彼は守りたかった仲間の一人を、知らぬ間にすでに失っていたという事実に
曰く言いがたい悔しさを覚えた。そして呼ばれたのが……この状況を脱する逆転
の策を思いつきそうな三橋や、いざという場面で頼りになる伊藤の名でなかった
ことにほんの小指の先ほどの安堵を覚え、そんなふうに無意識で人に命の重さに
優劣をつけた自分自身を許せなくなり、唇を噛んでうちひしがれた。

 宝積寺は思い込みと我侭で人を傷つけた自分を許し、新たな道を示してくれた
藤岡を思って、はらりと涙を落とした。目の前で人が襲われるところを見た彼女
の胸には、嫌でも「死」の重みがのしかかる。彼女の理解した「死」は恐怖であ
り、痛みであり、無惨に失われることそのものだった。自分のせいで襲われなが
ら、自分を逃がして死んでいった男の最後の姿が脳裏に浮かぶ。愛しい藤岡の死
がまるで、自らが犯した罪に対して与えられた重い重い罰のように思えて、宝積
寺は次々と落ちる涙を止められなかった。

 ……それから十数分。重い沈黙を破るように、高崎が動く。ポケットからとり
出したハンカチをそっと宝積寺に差し出すと、努めていつも通りの声音を装って
彼はこう言った。

「二人とも、このあとどこに向かうか決めないか。禁止エリアが増えていくとい
 う決まりがある以上、ここにずっと隠れているわけにはいかなくなるだろう」
「……ええ」
「それに……れんげさんの呼びかけに反応した人たちも来るかもしれないですし
 ね。まあ、俺たちのように脱出を希望する人なら一緒に行動すればいいんです
 が……」

 杉村はそこで言葉を呑んだ。高崎のハンカチで涙を抑えていた宝積寺の身体が、
大きく傾いだからだ。それまで声をあげずに泣いていた彼女は、耐えていた何か
が溢れ出してしまったように、嗚咽した。
50<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/05(火) 21:36:58
「れ、れんげさん! だいじょうぶですか?! ごめんなさい、俺、貴女を責め
 るようなつもりは……」
「違い、ます。違、う、ですの……」
「れんげさん……」
「わ、たくし、ほんと、……ばか、な、こと……、わた、く、が、あん、な……
 あんな、こと、しな、け、ば……あの、かた、は……っ!」

 自分を責めて涙を流す宝積寺に、杉村も高崎もかける言葉を持たなかった。彼
らが合流する前、彼女に何があったのか二人には知る由もないが、あの放送の時
の彼女の言葉がふっと彼らの頭に浮かぶ。『ここにおられる不良のコスプレをな
さってる方』、と彼女は言った。宝積寺が叫び声をあげた時、きっと彼女の傍に
は他の誰かが居たに違いない。その人物が今はおらず、彼女がこうして泣いてい
るという事実……そこから導きだされる答えはひとつしかない。

「……れんげさん、落ち着いて下さい。何があったのかは何となくわかりました。
 俺、無神経なことを言ってしまって申し訳ないです」

 杉村は彼女に謝罪の言葉をかける。その言葉に宝積寺が泣きながら顔を上げた。
 
「い、え……いい、え、あな、たが、わるい、では、あり、ませ、のよ……わる、
 のは、わた、くし、です、わ」
「でも……」
「わた、くし、あの、かた、……こ、殺、して、しまっ、た……!」

 その悲痛な叫びは、小さな洞の中に奇妙なほど響く。何か声をかけなければ、
と焦った杉村を高崎が止めた。今の彼女にはどんな言葉も届かないだろうことを
高崎は感じ取っていた。犯した罪の重さに押しつぶされかけながら、絶望の涙を
流す彼女には。だから彼は、ただそっと彼女の背中を撫でた。彼女が泣き止むま
で、ずっと。
51<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/05(火) 21:38:21


-----


 いったいどれだけの涙を流しただろうか。半刻ほども泣き続けた宝積寺は、し
ゃくり上げながらももう一度、高崎のハンカチで涙を拭った。それから少しして、
彼女は泣きはらした顔を毅然とあげてみせる。

「……ご迷惑を、おかけして、申し訳、ありません、でしたわ。高崎、さま、ハ
 ンカチは、洗って、お返し、します」
「いいよ、そんなこと気にしなくて」

 涙が出尽くしたのか、落ち着いた様子の宝積寺に高崎は安堵する。その横で、
杉村もほっと息を吐いた。宝積寺の濡れた目がいつのまにか、新たな光を宿して
いたからだ。その光は、彼女が自分なりのやり方で絶望のむこうがわへとたどり
着いたことを示していた……そのやり方が正しかったのか否かは別として。

 宝積寺は自分の呼びかけに対して、襲いかかろうなどという発想を持つ人間が
集まって来るなどとは思いもしなかった。彼女の生きてきた世界に、そんなタチ
の悪い人間は存在してこなかったし、これからも存在しないのだと思い込んでい
たのだ……が、ここではその思い込みこそが罪だ。世界は本当はそんなに優しく
はできていないし、易しくもできていない。理想を求めて桜蘭に訪れた彼女にそ
れを教えた鳳が、再び彼女に鉄槌を下したという事実は……運命の皮肉としか言
いようがなかった。激しい後悔と自責の念が渦巻く胸を震わせながら嗚咽した宝
積寺は、激しい絶望にもう消えてしまいたいとすら思った。

 けれど、自らの罪に押しつぶされそうになったそのとき……彼女は思い出した
のだ。藤岡ハルヒが自分にむけた笑顔を。
52<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/05(火) 22:38:02
 藤岡はかつて、勝手に他人に求めた理想を裏切られて泣く彼女に手をさしのべ
た。たとえ間違えたとしても、もう一度やり直せることを教えてみせた。あのと
きの藤岡が、今また彼女に優しく囁きかけたのだ。

(……間違えても、やり直せることなら、あるかもしれませんわ)

 自分がどれだけのことをしたか、自分の思い込みがどれほど愚かだったか。そ
れを思い知った彼女はそれでも……まだ自分にはやり直せることがあり、できる
ことがあると信じたかった。自分のために失われた命はとり返せないけれど、そ
れを償うことはできる。そう、信じたかったのだ。

「わたくし、本当に……本当に、馬鹿なことを、してしまいましたの……せめて
 何かさせていただきたいですわ……あの方の、ために」
「れんげさん……」
「あの方の、名前は……存じ上げませんけれど、皆さんの学校の方、ではない、
 のですわよね。桜蘭の方、でも、ございません」
「……そうか、残りの五校のどこかの……男性かい? それとも女性?」
「男の方、ですわ……」
「そうすると、この矢神学院高校の播磨拳児くんか……鈴蘭高校の桐島ヒロミく
 んのどちらかということになるかな。放送で呼ばれた人は、彼ら以外みんな女
 性のようだし」
「ええ……わたくし、ちゃんと、お伝え、しなければ、いけないと、思うんです
 の。あの方の、お友達に……何が、あったのか、わたくしが、何を、して、し
 まったのか」
「……」
「それから、せめてあの方に……お墓を、作って差し上げたいと、思います」

 そう言い切った宝積寺の瞳はまだ涙に潤んでいたが、その表情は驚くほど晴れ
やかだった。高崎と杉村が、息を呑むほどに。
53<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/05(火) 22:39:13
 ……本当は、命は失われてしまえば償えない。失われた命を同じ命でもって購
えると信じる復讐者はいつでも存在するが……それもまた真実ではない。やり直
せない、とりかえしのつかない、とりもどせないものもこの世にはある。藤岡は
それを彼女には教えなかった。藤岡自身は恐らく、とてもよく知っていたことだ
ったけれど。

 しかしながら、それを教わらなかったからこそ……今、宝積寺れんげは立ち直
ろうとしているのだった。彼女の縋るものは真の希望ではあり得なかったが、そ
れでも一人の世間知らずの少女に生きる意味を与えるには十分なものである。

「……じゃあ、決まりだ。残りの五校の人を見かけて、その人が話のできそうな
 人だったら、似た人が仲間にいないか聞いてみよう。だとすると、人が集まる
 ようなところに行ったほうがいいかもしれない……といっても、ここに居るの
 はさすがにまずいと思うけどね」
「……はい」
「それなら、このホテルの跡はどうですか? こういう場所なら休むために寄る
 人も多いと思います。ここからでもあまり遠くないし。もしうまく誰かと合流
 できなかったとしても、北へむかえば鎌石村があるし、西にむかえば平瀬村が
 ありますから」
「うん、俺は杉村くんに賛成だ。れんげさんはどうかな?」
「わたくしも、それでよろしいと思いますわ」

 ……かくして彼らの行く道は決まり、山腹の穴から出た三人は北西にあるホテ
ル跡を目指して歩きはじめた。そのゆく道に何が訪れるのか、まだ今は神のみぞ
知る。
54<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/05(火) 22:40:14
【F4東端 山腹/1日目 午後】

【杉村弘樹@バトル・ロワイアル】
【状態】:疲労(小)
【装備】:AK47(30/30)
【所持品】:支給品一式、棒(竹)、 拡声器
AK47の予備マガジン×2、ボイスレコーダー 
【思考・行動】
1:れんげの希望を叶えつつホテル跡へ向かう
2:高崎についていく
3:七原達と合流したい
4:高崎がプログラムに乗るようであれば全力で止める
5:銃はできるかぎり使わない

【高崎秀一@今日から俺は!!】
【状態】:疲労(小)
【装備】:トカレフTT-33 マガジン(8/8)
【所持品】:支給品一式 花火セット 冷却スプレー
【思考・行動】
基本:どんな形であれ仲間を守る
1:れんげの希望を叶えつつホテル跡へ向かう
2:杉村と共にプログラムからの脱出を考える、無理と判断した場合には
  仲間の命を最優先
3:三橋と伊藤に恩を返したい
4:できれば花火は三橋に渡したい
55<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/05(火) 22:41:55

【宝積寺れんげ@桜蘭高校ホスト部】
【状態】: 疲労(中)
【装備】:なし
【道具】:デイバッグ、支給品一式 本人確認済み残り一つ
【思考・行動】
1:あの方の仲間に全て伝えて、お墓をたててさしあげたい
2:もう一度やり直せること、できることをしたい
3:生きていたい


前編は以上です。後編も今日明日中に投下します。
56<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 10:34:20
予約分後編落とします。登場人物は川添・桑原・栄花・鳳です。
正式なタイトルはこちら:<"The pretender" 鳳凰の赤い棺>後編


What if I say I'm not like the others? 私が他の人たちとは違うって言ったら、どうしますか?
What if I say I'm not just another one of your plays? 私があなたの玩具になった他の人たちとは違うって言ったら?
You're the pretender 貴方は、ニセモノです。
What if I say I will never surrender? 私が絶対に屈しないって言ったら、どうしますか?

We are not permanent 私たちは永遠じゃない。
We're temporary, temporary 私たちは儚い、儚いモノ。

-----

 平瀬村分校校舎内保健室、13時35分。カーテン越しに冬の陽が差し込む保
健室には三人の姿があった。一人はベッドに寝かされた満身創痍の矮躯の少年、
一人は伸ばした髪を背に垂らした長身の少女、一人は短く髪を切りそろえた短身
痩躯の少女。それぞれの名は、栄花段十郎、桑原鞘子、川添珠姫という。三人全
員が室江高校剣道部のメンバーであった。

 先ほど襲いかかってきた桂を退けたばかりの川添と、彼女たちと合流するため
にかなりの距離を走ってきた桑原はどちらも疲労しており、栄花の様子を見なが
ら自分たちも休息をとるべくこの保健室に戻ってきている。とり忘れていた食事
をしようと、川添は自分の、桑原は桂の置いていったデイパックに手をかけたと
ころで、桑原が桂から逃げる途中で転んだせいで泥まみれの自分の手を見て言っ
た。
57<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 10:35:39
「……うわっ! 何か今まで忘れてたけど、さっきので手とか服とかドロドロー。
 洗ってこよっかな」
「あ、水道、止まってます」
「えーっ、そっかあ」
「なので、ダン先輩も血とかあまり拭いてあげられなかったんです」
「あー……」
「最初はペットボトルの水を使おうとしたんですけど、この先のことを考えると
 足りなくなったらって思ってしまって……」

 そう言いながら川添は、自分の飲み水を栄花の傷の手当に優先してしまった自
分がひどく嫌な人間になったような気がして少し俯いた。が、返ってきた桑原の
返事は明るい。

「そーだよね、飲む水はもったいないもん。しょうがないよ」
「……はい」

 その言葉に少し救われた気がして、ほっ、と川添は息を吐く。桑原の明るさは、
こんな酷い状況でも失われていない。桑原自身は知る由もないが、その事実はと
もすれば不安に苛まれて沈みそうな川添を、優しく勇気づける。

「あ、でもさあ、あの人……桂さんが荷物置いてっちゃったじゃん? この水を
 使っちゃうのはどうかな? ああー、けどやっぱりせっかくだからとっといた
 ほうがいいかな、あたしの神社に置いてきちゃったし、飲める水だし……」
「そうですよね……」
「……あっ! そうだ! ここちっさいけど学校でしょ? もしかして貯水タン
 クとかあるかも!」
「……あ」
「学校って地震の時とか人集まったりするじゃん。そういうのありそうな感じじ
 ゃない?」
「はい」
58<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 10:36:34
 桑原に言われるまでそのことにまるで思い至らなかった川添は、自分よりひと
つ年上の彼女を頼もしく思う。この、少しだけ素っ頓狂なところのある、明るく
て強い先輩を守ると決めたけれど、自分のほうが支えられているところもたくさ
んあるのだ、と川添は胸の内で言葉をこぼす。桑原は何かを考えるようにしてし
ばらく黙ったあと、もう一度口を開いた。

「……よーし、あたしちょっと探してくるよ! ダンくんの怪我、ばい菌とか入
 ったらやばいしね」
「それは、ダメです! 一人は危ないです、サヤ先輩」
「うん、けどダンくん一人にしとけないじゃん?」
「それは……」

 桑原の言葉を間髪入れず否定し、一人で行こうとした彼女を止めようとした川
添だったが、冷静な桑原の返答に言葉を呑む。

「だからさ、タマちゃん、ついててあげてよ」
「……それなら私が行きます、サヤ先輩が残って下さい」
「ううん、タマちゃんがここに残ったほうがいい。だってもし保健室に誰か悪い
 やつ来たらさ、あたしよりタマちゃんのほうがダンくんのこと守れるでしょ?
 さっきだってタマちゃん、私のこと守ってくれたじゃん。今度はダンくんのこ
 と、守ってあげてよ」
「……でも」
「だーいじょーぶ! 心配しないで。ちょっと探してみて見つかんなかったらす
 ぐ戻るからさ。ホントになかったら、さっきの桂さんの水使っちゃお。あたし
 おなかすいちゃったし、そんなに長くガマンできないもん。ぜったい早く帰っ
 てくるからさ!」
「サヤ先輩……」
「タマちゃん、私なら何かあっても絶対逃げ切れるからさ、ホントだいじょぶだ
 よ。足には自信アリだし! ……ね、だからここに残っててよ」
「……」
59<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 10:37:28
 真剣な顔でそう言った桑原に、川添は口をつぐんだ。おどけた口調ではあった
が、今の桑原からは絶対に譲らないという強い意志が感じられて、川添はそれ以
上反対する言葉を続けることができなかった。それに……桑原の言うとおり、自
分は栄花も守る必要があるのだ。自分で動けない状態である彼を一人にはできな
い。仕方なく川添は、肯定の言葉を返した。

「……わかり、ました。気をつけて、下さい」
「うん! じゃあタマちゃん、ダンくんをよろしくね!」

 そう言って桑原は、川添と栄花を置いて保健室を出た。残された川添は、何か
胸がざわざわと鳴るのを感じながら、その背を見送る。桑原の右手に握られた真
剣が、鈍く光った。


-----


 一人で保健室を出た桑原鞘子は、ほう、とひとつ息を吐いた。身軽なほうがい
いだろうと荷物は全部置いてきてある。唯一、身を守るための武器としてあの桂
が置いて逃げていった刀を右手に、彼女は歩く。

(タマちゃん、心配してたなあ……)

 先ほどの川添との会話を思い出し、桑原は少しだけ唇の端を持ち上げた。桑原
が川添の静止にも関わらずわざわざ一人で出てきたのには、川添に彼女が言った
内容以外にも理由があったからだ……つまるところ桑原鞘子は、少しの時間だけ
独りになりたかったのである。川添にはいつも通りの明るい態度で接したつもり
だが、本来傷つきやすいところのある彼女だ。人に見せたくない顔や、人に知ら
れたくない思いというものがある。胸の内にぐるぐると渦巻く複雑な感情にけり
をつけてから、あの保健室に戻りたいと桑原は思っていた。
60<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 10:38:29
「なんか……くやしーなあ……」

 誰もいない廊下で、俯きがちに桑原はぽつりと呟く。その声は板張りの床に吸
い込まれるように消えていった。

 ……川添は、桂に襲われかかった自分を守るために戦ってくれた。使ってはい
けないと言い含められていたあの突きを使ってまで。あのとき、転んだのが自分
ではなく川添だったら、自分は桂と戦って勝てていただろうか……そんなことを
桑原は考える。

 川添は、一人で出ていこうとする桑原を止めた。それなら自分が行く、とまで
言った。それはつまり、自分が一人で行くほうが、桑原が一人で行くよりも危な
くないと思っているということだ。川添は無意識であるが、桑原よりも自分の実
力が高いことを確信しているし、桑原を自分が守るのだと思っている。もちろん
桑原に自分が支えられている部分もあると川添は気づけていたが、それは戦いの
中のことではない。あくまで精神的な部分だった。

 そんな川添の気持ちを、桑原は敏感に感じとっている。もちろん、そういう川
添に対して悪感情があるというわけではない。自分より川添のほうが剣の腕にお
いて勝るという紛れもない事実を、ちゃんと桑原は認めている。初めは思ったほ
どすぐにはうまくならないもどかしさに、癇癪を起こして剣道部を辞めようとし
たこともあった彼女だが、やっていくと決めてからは自分なりに懸命に皆ととも
に戦ってきたし、少しずつでも実力を伸ばしてきたつもりでいた。
61<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 10:39:55
 だが……ここにいる限り、「少しずつ」の成長では間に合わない。今、この瞬
間の実力が必要だった。襲ってくる相手は、彼女が強くなるのを待ってはくれな
い。ひとつの大会で負けて、その次の大会までに練習して強くなり、以前に負け
た相手に勝つ……そういう世界とはまるで違う。だからこそ川添は桑原を守り、
桑原を一人にしないようにと心配する。ここはゆっくり一緒に成長していける世
界ではないから。川添に守られなければならない自分が、桑原は悔しかった。

 しかし、それでも桑原は川添に守られてばかりではいられない、と思う。自分
は川添より弱いかもしれないが、いくら川添でも一人では勝てない相手だってい
るはずだ。そういうときに自分が力になれるはず、そう桑原は考える。彼女の右
手に握られた刀が、窓からの淡い光を反射して光った。真剣を持つことは怖い。
それでも、自分はこれで戦えるようにしなければならない。

「……だいじょーぶ、あたしはやれる!」

 しっかりと顔をあげ、窓の外の校庭を見つめながら彼女の発した言葉は、ガラ
スの窓を柔らかく震わせ、響いた。


-----


(えーと、水って言ったら屋上だと思うんだけど……でもなあ、ここって……)

 水の貯めてある場所といえば、で最初に桑原が思い出したのは、屋上だった。
一般的に都市部の学校の屋上には防災用の貯水タンクが備えつけられているので、
彼女のようにこの場所を最初に思い出す者は決して少なくないだろう。
62<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 10:40:49
 ところがこの分校は施設としてかなり小規模であった。建物も彼女たちが通っ
ていた室江高校のような鉄筋コンクリート造りではなく、横に長い平屋のような
形をしている。小さな島の学校施設、それも本校ではなく分校とくればそうした
形式も珍しいものではない。桑原も先ほど校舎外に出たときに建物全体を目にし
ているので、この分校に屋上と呼べる場所がないことをすぐ思い出して、他に水
の貯めてありそうな場所はないかと考えはじめる。

(うーん、ああいう屋上にあるやつみたいなのがあるとしたら校舎の裏かなあ。
 ああいうんじゃなくて、家に置いてある防災グッズみたいな感じでペットボト
 ルとかだったら、倉庫とか? どっちにしろ外に出たほうがいいかも)

 そう的外れでもない推理から、桑原はいったん校舎の外に出て、裏手を探して
みることにした。保健室から近い表の出入口から外に出ると、建物の壁に沿って
歩き、裏へと向かう。途中、古びた倉庫を見つけた。幸い扉の鍵は開いていて中
に入ることができたので、彼女はその中に足を踏み入れる。

(うわっ、ごっちゃごちゃだなー……)

 長らく使われていない倉庫は、中身が全く整頓されていない。きょろきょろと
見回しているうちに、桑原は妙なものを見つけた。倉庫の右奥の壁の端、銀色の
古びたバケツに放り込まれたらしい、茶色っぽいような、黒っぽいような長いも
の。

(なんだろアレ、モップには見えないし……)

 当初の目的だった水のことを一瞬忘れて、床の細々したものを踏みつけ、大き
いものをまたいで桑原はそれがある場所に進んでいった。そうして目の前に立っ
た彼女が見つけたのは……一丁のボルトアクションライフル。
63<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 10:41:37

「これ……!」

 ボディが木製の厳つい姿をしたそれは、栄花が隠したモシン・ナガンM189
1/30だった。もっとも、桑原はそれが誰のものであったかなど知らないのだ
が。彼女はそれにおそるおそる手を伸ばした。よく見れば、バケツの底には予備
の銃弾まである。まさかこんなものがあるとは想像もしなかった桑原は、しばし
の間、小銃の前で惚けていた。

「……よし、行こう! 水、水!」

 数分が経って、やっと銃身から手を離した桑原は、急に声をはりあげた。非常
に物騒なものとご対面しなければならなかった彼女は、沈んでいく気分をどうに
か上向かせようと、声を出すことで自分を鼓舞したのである。一瞬、自分の持つ
刀より強力な小銃を武器として持っていくことも考えた桑原だったが、とりあえ
ずは水のほうが先だ、と思い直す。水が見つかってから、これを持って保健室に
戻っても構わないはずだ、と考えた彼女は結局何もかもそのままにして倉庫を出
ると、さらに歩いて裏手へと回った。そして……そこで彼女の探していた貯水タ
ンクとご対面することになる。


-----
64<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 10:42:19


「うーん……」

 貯水タンクの周りをグルグルと回ってみて、下のほうにあるバルブらしきもの
を見つけた桑原だったが、そのバルブには針金が巻き付けてあったため、手を出
せずにしばし考え込む。おそらく非常時以外に勝手に開けられては困るというこ
とで巻いてあるのだろう、手でそれをとり去ってバルブを回すのには苦労しそう
だったが、ペンチか何かの道具があれば簡単に外せそうではあった。

(あ……! そっか、さっきの倉庫に何かあるかも!)

 じっとバルブ部分を見つめていた桑原は、先ほどライフルを見つけたあの倉庫
のことを思い出す。かなり色々なものが雑多に詰め込まれていたあの倉庫内なら
工具もどこかにしまってありそうだ、と考えた彼女は、すぐに来た道を引き返し
た。もともとそれほどの距離でもないので、彼女ならば走れば10分とかからな
い。もう一回踏み込んだ倉庫の中で工具箱らしきものを見つけた彼女は、そのフ
タを開けるとお目当てのペンチをとり出し、先ほどのライフルが放り込まれてい
たバケツに手を伸ばす。バルブを開けて水を出したら、それを運ばなければなら
ないので、ちょうどいいと思ったのだ。かなり汚れているようなので、洗うのに
いいものは何かないかとあたりを見回すと、ちょうどタワシが転がっていた。そ
れを拾った桑原はバケツから小銃と銃弾を出して壁に立てかけ、タワシとペンチ
をバケツに放り込んで引っ掴み、倉庫の入口から出る。

 ……その時だった。何かが破裂するような、パパパパパパパ……という音が響
く。桑原はすぐにそれが、銃の音だと気づいた。もともと自分に支給された武器
も銃だったし、今も倉庫の中で見てきたばかりだ。それに先ほど桂に襲われても
いる彼女は、何ものかの襲撃だということを瞬間的に理解し、その素晴らしい反
射神経で身体を捻ると、倉庫の中に身を隠そうとした。
65<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 10:43:04

「ぐっ……!」

 が、わずかに遅い。連射された弾のひとつが彼女の左脇腹を抉った。痛みに耐
えながら倉庫内に戻った桑原だが、このままでは袋の鼠だ。急いで奥の壁に立て
かけた銃のところまで戻ると、それを持ち上げる。銃を手にすることも撃つこと
も恐ろしかったが、そんなことを言っている場合でないのも彼女は重々承知だっ
た。すぐさまモシン・ナガンを構えてはみたものの、傷を負った身体で4キロの
重みのある銃を持ち上げて撃つのはかなり難しい。そこで彼女は近くにあった大
きな木箱に銃身を預け、その箱の陰に座った状態で入口にむけて照準を合わせた。
脇腹の痛みがもたらした咄嗟の行動だったが、結果的にそれが正解となる。

 数秒後、戸口に立った陰はマシンガンを構えており、その銃口を倉庫の中に向
けて闇雲に撃ちまくろうとした。しかし、数発が倉庫の壁に撃ち込まれたところ
で、その銃撃が止まる。陰になって桑原の側からは顔の見えない敵が持っていた
マシンガンはイングラムM10。発射速度の速さに定評のあるその銃は、ほんの
1秒半で装弾を撃ち尽くしてしまう。撃った陰の男はそのことを失念していた。

 そして、それは桑原にとっての僥倖だ。動きの止まったおかしな形の陰に向か
って、彼女は思いっきり引き金を引いた。その弾丸は陰の男の左肩に命中する。
男のうめき声を聞いてすぐ、彼女は傍らに置いていたバケツの中からとり出した
タワシを自慢の強肩で男の顔めがけて力いっぱい投げつける。男がひるんだその
隙に彼女は身ひとつで飛び出し、戸口を塞いでいた男に体当たりして外に出た。

(っ、いた、い……! タマちゃん、ダンくん……!)
66<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 12:11:41
 左脇腹から止めどなく流れ落ちる血液は、彼女の走るあとに小さな染みを作っ
ていく。傷口を押さえてその出血量を見た桑原は、一瞬ゾッとする。他人の身体
からも、そしてもちろん自分の身体からも、これほど沢山の血液が流れるところ
など見たことがなかった。痛いを通り越してもはや熱いような、異様な感覚の傷
は、彼女に「死」が近づいていることを告げていた。

(ダメだ……これであたしが戻ったら、タマちゃんたちが……!)

 自分が走ったあとに落ちる血で逃げた方角が分かってしまう今の状況で川添た
ちのいる保健室に戻れば、次に襲われるのは彼らだ、と気づいた桑原は、校舎と
はまるで別の方向に逃げることを選んだ。それは彼女なりの精一杯の抵抗だった。

 ……男がひるんだとき、もう一発撃っていればよかったかもしれない。桑原は
思う。彼女には二度引き金を引くことはできなかった。次に撃てば本当に殺して
しまうかもしれなかったから。一発目は無我夢中で撃った。それが当たってしま
って、よかったと思うと同時に傷のせいばかりでなく血の気が引いた。自分は人
を殺しかけたのだ。戦わなければ、自分も川添たちを助けなければ、そう思って
いた彼女だったが、人を殺す覚悟まではまだ持てていなかった。だから倉庫から
逃げ出したとき、銃をどうしても持ってこられなかった。重すぎる銃を持って走
ればすぐに追いつかれてしまうだろうという理由もあったが、一番の理由は……
自分にはもう絶対にそれが撃てない、という確信だった。

(ゴメン、タマちゃん、ダンくん……! 逃げて、お願いだから……!)

 桑原は必死で走った。傷を負っているとは思えない速さで。その背中を、桑原
が捨てた銃を持ったあのおかしな……だが見覚えのある姿の男が追ってきている
のを知って、男を引きつけるようにわざと振り返りながら。

67<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 12:13:14
-----


 鳳鏡夜は左肩からこぼれ落ちる血を忌々しく思いながら、凄まじいスピードで
分校の敷地外へと走り出ていく女を、こちらも走って追っていた。まったく、こ
このところ彼は失策続きだ。苛々と唇を噛みながら足を前へと動かす鳳の右手に
は、倉庫の中に置きっぱなしになっていた、女の撃った小銃がある。まさかあん
なタイミングで自分のマシンガンが弾切れになるとは、鳳にとってもまったく予
想外だった。先にあの不良の男を撃っていたのもあって、気づかぬうちに弾数が
だいぶ減っていたのだろう。弾の無駄遣いにはゆめゆめ気をつけなければ、と自
分に言いきかせながら、彼は走った。

 宝積寺たちとの合流に失敗したあと、分校の敷地に入るか入らないかのところ
まで来たとき、鳳は長い髪をした背の高い女が走っているのを見た。彼女はその
まま倉庫らしき建物の中に入っていく。女が刀らしきものだけ持って走っている
様子だったので、銃があれば戦闘になっても大丈夫と判断した鳳は、敷地内に踏
み込んだあと、物陰に隠れながら少しずつ倉庫に近づいてマシンガンを構えると
出入口の様子をうかがった。

 しばらく待っていると、女が刀以外にも何か持って出てきた。鳳の目には特に
武器のようには見えなかったので、躊躇うことなく引き金を引く。目にもとまら
ぬ速さで連射された弾が女に牙をむいた。蜂の巣にできるかと思ったが、彼の予
測よりも女の反応が早く、一発当たっただけに終わる。手負いで倉庫に逃げ込ん
だ女をさらに追いつめようと、鳳が倉庫の入口から中に弾を撃ち込もうとしたと
ころで、あの弾切れだ。しかも、まさかあの中に銃があったとは思わなかった彼
は、女が撃った一発を右肩にまともに受けてしまった。その痛みと衝撃に呻く鳳
の仮面をかぶった頭部に、渾身の力で投げられたタワシがぶつかり、ひるんでい
るその隙に女は彼に体当たりをかまして走り出ていった、というわけだ。
68<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 12:15:19
 そのまま女を逃がして校舎内を調べることも考えた鳳だったが、あの「東亜く
ん」の位置情報が表示されてから随分時間が経っていることを思うと、他の二人
が中にいる可能性は依然として高いといえども確実ではない。それに、自分に手
傷を負わせた女に対する強い怒りもあって、彼は倉庫の木箱の上に置かれた小銃
と横に落ちていた予備弾を引っ掴んで彼は彼女を追った。

 女は鳳を気にするようにちらちらと時折後ろをふりむく。地面に点々と続く血
のあとを見る限りかなりの重傷だというのに、それを感じさせない足の速さだっ
た。それでも僅かずつ、女の足が鈍っているのはわかる。傷を負い、銃という余
計な重りを抱えたまま、若干の足枷となる衣装を身に着けた鳳と、身ひとつで血
を流しながら走る彼女の距離は次第に縮まっていた。

(……追いつくのは時間の問題だな)

 鳳は仮面の中で嫌らしい笑みを浮かべ、踏み出す足に力を入れる。枯れ木の連
なる中を前へ前へと進む彼は、獲物を追う獰猛な獣のようだった。


-----


「サヤ先輩……!」

 保健室で桑原の帰りを待っていた川添は、校舎裏のほうから聞こえてくるパパ
パパパ……という連続的な銃声に驚いて立ちあがったものの、栄花を一人置いて
出ていくことを躊躇って一瞬、足が止まった。桑原に何かあったらという思いと、
ここを空けている間にもし誰かが栄花を襲ったらという思いとが交錯する。そう
やって彼女が迷っているうちに、今度は短い銃声が響いた。二度目のそれを聞い
た川添は、そこで決断する。
69<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 12:16:28

(今危ないのはサヤ先輩だ……!)

 しっかりと手に刀を握った彼女は、一度だけ寝台で眠ったままの栄花のほうを
振り向いた。

「……ごめん、栄花くん」

 そう呟いた川添は、キッ、と顔を引き締めると、保健室を飛び出して校舎裏へ
と走る。その表情と足取りには、仲間を守るという強い意志が滲んでいた。

 数分後、校舎裏にたどり着いた川添が見たのは、学校の敷地の外へと風のよう
に駆けていく桑原の背中と、それを追う者の姿だった。すでにずいぶん遠くなっ
ていた2つの背中だったが、川添の目にはきちんと背格好を判別できる大きさで
あり、そのことが余計に彼女を混乱させた。桑原を追って走っていた人間は、彼
女がよく知る正義の味方の姿をしていたから。

「レッド……ブレイバー……?」

 見間違えるはずもないあの姿。赤と黒のコントラストも美しいあの衣装に、背
中に背負った竹刀。彼女が愛してやまないレッドブレイバーが、今桑原の背を追
って走っていた。正義の味方のレッドブレイバーが桑原を襲うだなんて、そんな
馬鹿なことがあるだろうか? 予想もしないものの登場によって、川添は目の前
の光景を正しく飲みこむことができなくなっていた。

(なんで……レッドブレイバーがサヤ先輩を……? 違う、大体なんでここにレ
 ッドブレイバーが……そんなことって、)
70<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 12:17:47
 そもそも特撮ヒーローのレッドブレイバーがこんな場所にいること自体おかし
いし、レッドブレイバーというキャラクター自体が作り物である以上、本物であ
るはずもないのだが、あまりにも突然の異様な光景に川添の思考は混乱をきたす。
とはいえ、このまま校舎裏に突っ立っているだけではどうにもならないことも理
解している川添は、ともかく後を追わねばと走り出した。

(わからない、けど、とにかく……サヤ先輩、無事でいてください……!)


【栄花段十朗@BAMBOO BLADE】
【状態】:重症 後頭部に強い打撲(手当て済み)
【装備】:
【所持品】、デイパック、筆記用具、時計、コンパス、地図、狙撃用スコープ
【思考・行動】
0:………
1:分校やその近くで争いが起きた場合、なんとかしてそれを止める
  そしてその方法を考える。それ以外での接触はなるべく避ける
2:室江高のメンバーと合流する。

※栄花のその他の支給品は用務員室に隠されています


-----


 はぁ、はあ、と荒い息を吐きながら桑原は走っていた。段々と意識も薄れかけ
ている。脇腹からの血はいっこうに止まらないどころか、だらだらと余計に流れ
出ていくばかりだ。最初は撃たれたところが熱くてたまらなかった彼女だが、今
は体中が妙に冷えて、冷たくてたまらない。もう限界が近い、と自分でもわかる
状態だった。弱気になりかけた桑原だったが、それでも足を止めることはしない。
71<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 12:19:36
(あたしはやれる、あたしはやればできる子だ……!)

 もう声を出すこともできなかったが、いつものように自分に言い聞かせて彼女
は走った。できる限りあのおかしな格好の男を学校から遠ざけなければならない。
自分の命が尽きるそのギリギリまで絶対に足は止めない。桑原はそう誓って足を
動かす。本当はこれだけの重傷で走っていること自体が脅威だ。意志の力で彼女
は不可能を可能にしていた。自分では知らないうちに。

(あたしは、やれる……まだ、はしれる、)

 走りに走って、たくさんの腐った落ち葉と土を踏みしめて。いつしか彼女は自
分の身体が一歩一歩空に浮くような、おかしな感覚を感じていた。世界がゆっく
りと白みはじめ、音が遠ざかっていく。桑原鞘子は、「死」に向かって真直ぐに
走っていた。最後まで止めないと決めた足は、フワフワとたよりない地面を踏ん
だ。もう自分が何をしているのかもわからずに桑原は、それでも足を前に出す。

(あたしは……)

 彼女が次に右足を前に出した時、ズガァアン、と銃声が響いた。銃口から撃ち
出された弾は、真直ぐに彼女の背中の真ん中を貫き……桑原は前のめりに地面に
倒れ、動かなくなった。それが、桑原鞘子の最期だった。


-----


 鳳鏡夜は、荒くなった息を整えながら自分の撃ち殺した女に近づいた。あれか
らどれだけの距離を走っただろう。時間にして10分程度のことだったはずだが、
ずいぶんと長い時間、長い距離を走ったように思えた。
72<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 12:20:43
 女は最後まで足を止めなかった。次第にその身体がぐらぐらと揺れるようにな
り、ほとんどスピードがなくなっても、絶対に足を止めようとはしなかった。

 彼女がそうやって命がけで走った理由を、鳳は知らない。銃を持って追ってく
る自分を恐れて逃げたのだろう、その程度にしか思わないし、思えない。かつて
の鳳なら、分校にいる仲間から自分を遠ざけるためにそうしたのだ、ということ
に気づいて途中で分校に戻っていたかもしれない。だが、今の鳳にはそういう考
えは浮かばなかったし、女の死んだ今、それはどうでもいいことだった。

 倒れた女の脇に回り込んだ鳳は、彼女の身体を足でごろりと転がして仰向けに
して制服を確認する。女がどこの誰なのか、本当なら生きているうちに確認して
おくべきだったと鳳は思う。が、彼が追いついたときにはもう、彼女はまともな
状態ではなかったように見えた。これ以上本気の追いかけっこを長引かせるのも
馬鹿馬鹿しいと思ったから、絶対に外さない位置から撃ち抜いたのだ。最後、女
と彼の間にはほとんど距離がなかったから、それはあまり難しいことではなかっ
た。

(……これでは、学校名を判別するのは無理か)

 彼女の着ていた制服には、学校名を判断するのに使えそうな校章が見当たらな
い。せめて校名がわかれば、今何人の生徒が生きているのかも自ずと判明するの
で都合が良かったのだが、鳳の思い通りにはいかなかった。仕方なく女から離れ、
もう一度分校内を確認しようと来た方向へ向き直った彼は、そこに予想もしなか
ったものを見る。

 ……そこには、ひとりの少女が立っていた。

 鳳が殺した女と同じ制服を着た、小柄な少女。鞘から抜き放たれた真剣の構え
には、一切の隙がなかった。冬の傾いた太陽の光が降りそそぐ刀は、何か艶かし
さすら感じさせる輝きを放っている。その全身から発せられる殺気に、鳳は気圧
された。
73<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 12:22:00
(なんだ、この女は……!) 

 息を呑んだ鳳は、慌てて小銃を構えなおす。それを見ても少女は微動だにしな
い。こちらを恐れている様子など、微塵も感じられなかった。そのまま二人は睨
み合い、数秒ののちに少女が口を開き……細く冷たい、高い声が言葉を紡いだ。

「……レッドブレイバーが、サヤ先輩を撃つわけがないんです」

 いったい、この女は何を言っているのだろう。鳳には少女が口にした言葉の意
味がまったく理解できないまま、立ち尽くした。


-----


 川添珠姫は必死で追いかけた。桑原と、その後を追うレッドブレイバーの姿を
した男とを。それでもすでに開いていた距離と、もともとのリーチの違いは大き
かった。走っても走ってもなかなか二人には追いつけず、レッドブレイバーの背
中だけをずっと視線の先にとらえていた。彼女と男との距離がある程度離れてい
たことによって男が彼女の存在に気づかなかったことは、運がよかったと言える
のかもしれない。そして彼女たちの走ったその林の湿った黒土の地面が、三人の
足音を柔らかく吸っていたことも。

 川添の目に映っていた男の背中は、スピードが落ちるとともに次第に大きくな
り、ある瞬間、急に止まる。男の腕が持ち上がり、肩が動く。スローモーション
で再生されるように、ひとつひとつの動きが鮮明に川添の目に焼きついてゆく。
まだ走り続けていた川添珠姫は数秒後……その生涯で聞いた音の中で、一番悲し
い音を聞いた。

 ズガァアン……
74<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 12:25:28
 その音の次に聞こえた、ズザァ、という音。男の向こうで桑原が地面に倒れる
音。川添珠姫が桑原鞘子という大切な先輩の命を救えなかったという証の音。桑
原鞘子が川添珠樹と栄花段十朗という大切な後輩を守るために自分の命をかけた
証の音。追いついて、何とかして桑原を守りたいと願った彼女の思いは届かない。
彼女の目の前で大切なひとつの命が奪われ、川添珠姫は永遠に桑原鞘子を失った。

 川添の足は一瞬、止まる。絶望的な喪失感が彼女を襲う。間に合わなかった、
間に合わなかった、間に合わなかった! あと少し、あとほんの少し早く自分が
走り出していれば。いや、あのときやっぱり自分が一人で出ていくべきだったん
だ……! 自分のとった行動の何もかもが後悔になる。とりかえしがつかないそ
の喪失。川添珠姫は泣き叫んでしまいたかった。胸の中で濁った感情が出口を探
して激しく暴れる。そのとき、男が桑原に近づき……足で、彼女の身体を転がし
た。川添の目に映ったその行為が全てを決める。正義の味方の姿を借りた男がこ
ともなげにやってみせた、死者を……桑原を冒涜する行為が。

 ……川添珠姫の中に濁流のように渦巻いていた名前のない悪感情の塊はその瞬
間、「怒り」に姿を変えた。

 この男は、許すべきではない。川添の身体の細胞のひとつひとつが、その身を
流れる血液の一滴一滴がそう叫んでいる。桂のときのように、鞘に納めたままの
刀で立ち向かおうとはもう思えなかった。絶対に仕留めてしまわなければならな
い相手だと直観した彼女は、男がこちらを振り向く前に、刀の鞘を捨て去ってい
た。

「……レッドブレイバーが、サヤ先輩を撃つわけがないんです」

 ライフルを構えた、レッドブレイバーの格好をした男に向かって、川添は言っ
た。その小さな身体に充満する全ての怒りと、憎しみとをこめて。
75<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 12:27:24
「……レッドブレイバーが、サヤ先輩を足蹴にするわけがないんです」

 超剣戦隊のレッドブレイバーが、正義の味方のレッドブレイバーが、彼女の最
高のヒーローのレッドブレイバーが、桑原を銃で撃って殺すなど絶対にあり得な
いし、あってはいけないことだ。あまつさえ、死んだ彼女を足蹴にするなど……!

 川添は、目の前の男の所行の全てが許せなかった。桑原を殺した、その事実だ
けでも許しがたいというのに、この男はよりもよってレッドブレイバーの姿をし
ている。レッドブレイバーの姿で、銃を構えている。レッドブレイバーの姿で、
桑原を足蹴にした……! 川添にはそのすべてが、桑原の命とレッドブレイバー
に対する最低最悪の侮辱に映った。

「レッドブレイバーのニセモノの貴方を、私は絶対に許さない……!」

 そう言い放った彼女が、ぐっと足に力を入れた瞬間、それまで半分放心状態だ
った鳳は慌てて引き金にかけた指をグッと曲げる。しかし、川添が気合一閃踏み
込むのが、わずかに早かった。

「きあああああああああああああああ!!!」

 川添は鬼神のごとき気合を林に響かせ、目の前のニセモノの胴を薙ぎはらおう
と刀を振った。その気合を追うように、男の銃から鉛玉が放たれる。その弾が川
添の左の二の腕を掠め、彼女は体勢を崩す。川添の刀は鳳の衣装の左脇から前当
てにかけてと、その中の身体の表面を切り裂くにとどまった。振り抜いた刀を彼
女がもう一度構えなおそうとするそのほんの一瞬に、男はもう一度間合いをとっ
て銃口を彼女に向ける。
76<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 14:01:11
 が、彼女はひるまない。間合いをとられたなら、もう一度踏み込めばいいだけ
だ。「ニセモノ」の撃つ銃弾など彼女は怖くなかった。そんなものが自分を傷つ
けることができるはずがない。そんなものに屈するなどあり得ない。彼女は自分
の剣を信じた。修羅を宿すという……そして彼女自身がレッドブレイバーを宿し
ていると信じる、その剣を。凄まじい怒りの中でなお、彼女は剣士だった。本能
に導かれるように、彼女の頭脳は素晴らしい早さで男の持つ銃の長さを見極める。
その長さより近くに踏み込めば攻撃を封じてしまえると彼女は知っていた。

(ここで、踏み込む……!)

 そのまま自分に可能な限りのスピードで男の間合いへと踏み込もうとする彼女
を、男の銃弾が襲う。それは地面を強く踏み込んだ彼女の左足の腿を貫く。彼女
は弾が腿を貫通する衝撃を感じた。が、そこに痛みはなかった。怒りと戦いの興
奮に全ての針がふれ切ってしまっている彼女の脳は、アドレナリンの分泌により
痛覚を麻痺させていた。この男を絶対に許してはならない。目の前の男に自分が
正義の鉄槌を下さねばならない……! 川添が考えていたのは、ただそれだけ。
だから彼女は技を繰り出す瞬間、叫んだ。あの正義の技の名を。

「……アトミックファイアーブレードぉおおおっ!」

 その力のこもった声とともに彼女の凄まじい突きが男の喉元に入る直前、ボウ
ン、という銃声が響く。男の持っていた小銃の銃口は先ほど撃った反動で下を向
いていた。彼女が男に最も近づいたそのとき、本当に偶然に彼女の下腹にぶつか
る形で押しあてられ……その瞬間を逃さなかった男が引き金を引いたのだった。

「がぁっ……!」
「か、はっ……」
77<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 14:02:05
 男の持っていたのが剣ならば、その全長より近くに踏み込めば彼女を傷つける
ことはできなかった。できたとしても、的確に振り上げることのできないその刃
に勢いはなかっただろう。けれども、男が持っていたのは銃だった……彼が、レ
ッドブレイバーのニセモノであったからこそ。

 彼女の渾身の突きが男に炸裂し……男は後方に飛ばされて背中を古木にしたた
かに打ちつけて倒れた。そして川添は下腹に受けた凄まじい衝撃に、ばたりと地
面に伏した。


-----


 ……数十秒後、先に立ちあがったのは鳳だった。女の剣先は彼の生身の皮膚や
肉を傷つけることなしに、首輪に刺さったのだ。鳳は喉に大変な負荷を受けたも
のの、その命を首輪に守られることになった。喉元を押さえながら、鳳はふらふ
らとした足取りで倒れたままの女のもとに向かう。用心のために銃は手から離さ
なかった。あれほどの攻撃を仕掛けてきた女だ。いくら倒れているとはいえ、油
断は禁物に思えた。

 ぐったりと地面に倒れたままの女は荒い呼吸をしていたが、まだ生きていた。
これなら具合がいい、と鳳は彼女に問おうとする。しかし、喉に受けた一撃がま
だかなりのダメージを彼に残しており、まともな言葉を発することができずにゲ
ホゲホと咳こむばかりだった。

「……」

 女は無言でその様子を見ている。苦しそうに息をしながらも、ただひたすらに
きつい目で鳳を睨みつけていた。忌々しい女だ、と鳳は思う。この喉では言葉も
出ないし、必要な情報を聞き出せないならさっさと殺してしまおう……と彼が再
び銃を持ち上げたとき、それは起こった。
78<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 14:03:05
ピー、ピー、ピー……

 小さな機械音。連続して鳴り続けるそれは耳障りで、鳳は音の発信源を探す。
そしてすぐに気づいた。それは、彼の喉にはまった首輪から鳴り響いている……!

(何だと……!?)

 鳳は慌てて自分の首輪に手をやる。彼の首の真っ正面にくる部分の金属が、彼
女の刀の先によって抉られ、傷ついていた。その傷に手を触れたとき、ハッと鳳
はあることに気づく。

(まさか、首輪を壊そうとしたと判定されたのか……?!)

 それは十分にあり得ることだった。表面に傷がついただけとはいえ、あれだけ
の力を首輪にピンポイントで加えたのだ。剣に鞘がついていた桂のときと比べて、
力が一点に集中するぶん遥かに威力も高い。彼の喉が受けたダメージもさること
ながら、首輪それ自体の受けた衝撃も尋常なものではなかった。首輪に起爆装置
が内蔵されていて、あるレベル以上の衝撃を受けたときに爆発するようになって
いるとすれば、装置の事実誤認による爆破が起こったとしてもおかしくはない。

(そんな、ばかな……)

 鳳は仮面の中の顔を蒼白にしながら、首輪を掴んで引っぱり、闇雲に喉をかき
むしった。そんなことをしてもどうにもならないとわかっていながら、そうする
しかなかった。止まらない機械音は次第に大きくなっていく。追いつめられて叫
ぼうとする彼の喉からは、言葉にならない音が咳に混じってこぼれ落ちた。

「あぐ、がはっ……が、ァ……!」
79<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 14:06:02
 それから数秒ののち、バァアン、という大きな音が響き……鳳鏡夜は、その命
を失った。最後の言葉を口にすることすら、許されることなく。あとには、首か
らとめどなく血液を吹き出す醜い死体と、転げ落ちた角の生えた仮面と荷物、そ
して彼の携えていた小銃一本が残されるのみだった。

 魔王と呼ばれた男には相応しくない、三流の悪役程度の終わり方で落とした命
は……すでに「鳳鏡夜」ではなかった男には似つかわしいものだったのかもしれ
ない。


-----


 川添珠姫は、おびただしい量の血液を吹き出す傷痕を片手で押さえながら身体
を起こす。痛みはあいかわらず訪れなかったが、身体が怠く、うまく動かなかっ
た。あまり残された時間は長くない、と彼女は自覚する。

 川添は地面を這うようにして、倒れた男のところへ向かった。首輪の爆発か、
もしくはそのあとに地面に倒れた時の衝撃だろう。男のかぶっていたレッドブレ
イバーの仮面は転がり落ち、本来の男の顔が晒されていた。

「やっ、ぱり……ニセ、モノ……」

 結果的には自分が殺してしまった男。川添に後悔がないと言えば嘘になった。
誰かの命を奪うような真似はしたくなかった、本当だ。それでもあのとき、川添
は手加減を忘れたし、剣を鞘から抜いて構えた。最後、突きが首輪に当たったの
も偶然だった。男は首にレッドブレイバーの白いスカーフをしていたから、首輪
の位置が川添にはよく見えなかったのだ。本当は、あの喉元を貫いて、殺してし
まおうとしていた。どうしても、許せなかったから。絶対に、許せなかったから。
80<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 14:07:05
 桂のときとは違って、抜き身で使用した刀の先は欠けていた。切っ先の一点に
全ての力がかかり、首輪も破損したのだから、刀にも影響が出るのは当然だろう。
それだけの力をこめた、本当に一切の手心を加えずに放った突きだった。

 これでよかったのかもしれない。一次の激情に駆られてだけれど、殺してしま
おうと思うほどに許せない人間を相手にしたのだから、これでよかったのかもし
れない。川添は死の縁にたたずむ自分を許すように、心に言い訳をする。本当に
これでよかったのだと思い込めるほど、自分が勝手になれないことは知っていた
けれど。

「ごめん、なさい……」

 涙を浮かべて呟いた彼女の謝罪は、誰へのものだったろうか。自分の突きでそ
の命を奪った男に対するものだったのか、それとも。

 木の幹を支えに何とか立ちあがり、川添は桑原のもとへと向かおうとする。け
れどもその足はもつれ、彼女の身体はその場に崩れてしまった。

「サヤ、先輩……栄花、くん……」

 うわごとのようにその小さな唇からこぼれるのは、つい数十分前まで一緒にい
た剣道部の仲間の名前だった。自分が間に合っていたら、もっと早くここに着い
ていたら助けられたかもしれない桑原のこと、そして保健室にひとり寝かせたま
まにしてきてしまった栄花のこと。彼女の脳裏に浮かぶのはその二人の姿ばかり
だった。

「わたし、まもれ……なくて、」

 ごめんなさい、と声なくわずかに動いたあと、彼女の唇は永遠に閉じられる。
それが室江高校剣道部のエース、川添珠姫の最期だった。
81<"The pretender"> ◆.b1wT4WgWk :2010/10/06(水) 14:11:29
【G4東 林の中/1日目 午後】

【桑原鞘子@BAMBOO BLADE 死亡】
【鳳鏡夜@桜蘭高校ホスト部 死亡】
【川添珠姫@BAMBOO BLADE 死亡】

※鳳の死体横にモシン・ナガンM1891/30(0/5)が落ちています
 予備弾35発および、鳳の他の持ち物も付近にあります
※川添の死体横に二尺七寸の日本刀(先が欠けています)が落ちています
※川添の他の荷物と、桑原の持っていた桂の荷物は全て保健室にあります
※桑原の持っていた三尺五寸の日本刀は、分校敷地内の倉庫の内部にあります
※桑原のレミントンM700(5/5)予備弾丸20、その他の支給品
 (デイバック、食料、水、ランタン)は鷹野神社に隠してあります

※桑原の血痕が、分校裏手からG4東の林の中に向かって点々と続いています

-----

以上、投下終了です。長々とスレ占領して申し訳ありません。
誤字脱字問題点などありましたら、ご指摘お願いいたします。

なお、7日の夜にこちらにこられない場合、次にこられるのがおそらく9日になるので、
何らかの指摘があった場合の反応が遅れる可能性がありますことを先にお伝えしておきます。
82名無し草:2010/10/07(木) 16:34:41
こんな長編を・・お疲れ様です

とうとうバンブレから死亡者が そして鏡夜、まさかの相打ち
本来の冷静さを失っていく鏡夜の心理描写もさることながら、
おそらくほとんどの読者が期待していたであろうレッドブレイバーVS珠姫を実現させるなんて
動悸が止まらない回でした。本当に乙です!
83名無し草:2010/10/07(木) 20:41:22
長編投下乙!
やっぱり期待はしていたけど、見事にブレイバーとタマの対峙を書ききってくれたと思う
サヤも仲間のためによくがんばった!
84名無し草:2010/10/09(土) 10:40:24
これで次の放送に行っても問題なさそう…かな?
85名無し草:2010/10/09(土) 19:00:27
そうですねえ
他に夕方まで行っていない人もいますけど、他の話との兼ね合いを考えると死者は出ないでしょうし、禁止エリアだけ決めて放送書いちゃいましょうか?
86名無し草:2010/10/11(月) 18:33:35
異論も出ないし誰か書いちゃえ!
87名無し草:2010/10/12(火) 04:11:37
禁止エリア決めちゃえば問題ないと思います、あと智だけだし。
エリアの場所は一応、まずはしたらばで話し合いかな?
88名無し草:2010/10/16(土) 12:21:55
数えてみたら最新話で生存者が半数切ったんだな。
放送ごとにだいたい10人逝ってるし、いいペースだw
89名無し草:2010/10/16(土) 16:17:36
残るは19人かあ。結構進んだね。
3人生存が4校、2人生存が3校、1人生存が1校ってなると、
今後は少ないとこから潰しにかかったりするマーダーも出そう。
90名無し草:2010/10/16(土) 20:17:28
www
91名無し草:2010/10/16(土) 22:59:28
これまでの殺害数はホスト部が7人、バンブーが6人、スクラン3人、スクイズ3人、今日から2人か。
ホスト部の戦果は自殺1を含む上にマーダー2人を失ってるし、バンブーが優勝候補筆頭だなw
92名無し草:2010/10/21(木) 21:14:09
もしかしてまとめwikiって機能してない?
最新のSS更新してなくね?
93名無し草:2010/10/22(金) 11:28:50
更新してた管理人がいなくなっちゃったからね
94名無し草:2010/10/25(月) 14:10:37
みんな今までありがとう!
95名無し草:2010/10/26(火) 17:31:51
管理人さんが新規ページ誰でも作れるようにしてくれればいいんだけどなあ。
そしたら自分たちで編集できるじゃん。
96名無し草:2010/10/26(火) 19:07:01
@WIKIに申請すれば管理人引継ぎの手続きできるよ
97名無し草:2010/10/31(日) 13:16:41
立候補はおらんかね
98名無し草:2010/10/31(日) 22:44:32
それって前の管理人の承認とか無くてもできるの?
99名無し草:2010/11/01(月) 00:02:17
出来るよ。むしろ管理人氏に連絡つかない場合の措置だと思われる。
100名無し草:2010/11/01(月) 01:36:30
101名無し草:2010/11/03(水) 20:15:56
引き継ぎたいが、自分は海外規制を受けてるのでwikiの管理者には適してない。
このまま立候補ないんだったらどっかで募ろうか、管理者。
過疎スレとかみんなのしたらばとかで。誰かやってくれたりしないかなあ。やっぱり無理かな……。
102名無し草:2010/11/03(水) 23:25:24
とりあえず管理人さんに連絡してみてはどうだろう?
ここの事は忘れてても連絡は取れるかもしれん。
103名無し草:2010/11/06(土) 18:55:42
うーむ、連絡とってみるか。
104名無し草:2010/11/06(土) 19:25:10
管理人さん宛に以下のようなメールを送ろうと思うのだけど、どうかな?

-----

こんにちは。こうした形で突然ご連絡させていただく非礼をお許し下さい。

現在一般学生ロワ本スレにてwikiの更新が滞っているということで若干の議論が持ち上がっています。
現実生活が忙しければwikiの更新が遅くなることは仕方のないことだと思いますが、本スレでこうしたことが話題になっている以上、
スレ住民は恐らく管理人さまの何らかの反応が欲しいと思っているのではないかと考えます。
そういうわけで、このメールに気づかれたら本スレのほうに状況説明等の書き込みをお願いできれば嬉しいです。

-----
105名無し草:2010/11/06(土) 20:41:24
おお、乙です。
大体OKだと思うけど、
「連絡なければ管理人引き続きの手続きを行うかも」
みたいな文を付け加えた方がいいかも。
106名無し草:2010/11/07(日) 06:18:22
ちょっと直してみた。

-----

こんにちは。こうした形で突然ご連絡させていただく非礼をお許し下さい。

現在一般学生ロワ本スレにてwikiの更新が滞っているということで若干の議論が持ち上がっています。
現実生活が忙しければwikiの更新が遅くなることは仕方のないことだと思いますが、本スレでこうしたことが話題になっている以上、
スレ住民は恐らく管理人さまの何らかの反応が欲しいと思っているのではないかと考えます。
そういうわけで、このメールに気づかれたら本スレのほうに状況説明等の書き込みをお願いできれば嬉しいです。
なお、もしも10日以上本スレに管理人さまがいらっしゃらないようであれば、wikiの引き継ぎ手続きをおこなう可能性があります。

-----

こんな感じ? いちおう「10日以上」にしたけど、期間こんなもんでいいかな? もっと長いor短いほうがいい?
107名無し草:2010/11/07(日) 13:13:18
それでOKかと。
>>100の手続きでも「10日程待っても管理者から連絡がない場合〜」となってますし。
108名無し草:2010/11/07(日) 23:04:16
なんか頭のいい文章だなあ
109名無し草:2010/11/08(月) 09:13:12
以下の通り管理人さんにメールしました。
wikiからの確認メールが来たので、メールアドレスとホストだけ消してコピペします。

------------

■お名前
一般学生ロワ本スレ106

■件名
一般学生ロワまとめ管理人さまへ

■本文
こんにちは。こうした形で突然ご連絡させていただく非礼をお許し下さい。

現在一般学生ロワ本スレにてwikiの更新が滞っているということで若干の議論が持ち上がっています。
現実生活が忙しければwikiの更新が遅くなることは仕方のないことだと思いますが、本スレでこうしたことが話題になっている以上、
スレ住民は恐らく管理人さまの何らかの反応が欲しいと思っているのではないかと考えます。
そういうわけで、このメールに気づかれたら本スレのほうに状況説明等の書き込みをお願いできれば嬉しいです。
なお、もしも10日以上本スレに管理人さまがいらっしゃらないようであれば、wikiの引き継ぎ手続きをおこなう可能性があります。

■@wikiへコピーの送信
なし

■お問い合わせ時刻
2010-11-08 09:09:40

--------------
110名無し草:2010/11/08(月) 16:31:08
あとは連絡待ちだな
111名無し草:2010/11/09(火) 04:41:06
メール書いた106だけど、wikiの管理人連絡ページによると、

* *確認メールは @wiki ( [email protected] ) から送られます。
* *管理人に確実に連絡が取れる保障がありません。(スパムメール扱いになってしまうことがあるようです)

っていうことなんで、100%管理人さんの手もとにメールが行くって保証はない。
でもまあ、無事連絡ついたらいいなあ……
112名無し草:2010/11/09(火) 18:05:19
まあそれでも引継ぎは出来ると思う。
問題は立候補者なわけだが……
113名無し草:2010/11/10(水) 00:26:54
募集地域:日本国内

職  種:一般学生バトルロワイヤルまとめwiki管理人
 
*************【 急 募!! 】*************

前職者行方不明(?)のため後継者募集中です!
あなたも過疎ロワのwikiを守る地味だけれど大切なお仕事をしてみませんか。
一部ネット上ではネ申として崇められる可能性もあるお仕事です。
お部屋であいている時間にできるので、副業にピッタリです。

時  間:不定期に数時間、ただし週1〜2程度は当該wikiと本スレの確認必要
     (実働はたまにある新作投下の際の更新がほとんど。荒らし発生時のみ若干の対応を求められます)

勤務地:自宅PC前

給  与:住民による限りない「乙」の気持ち

採用条件:
・ロワwikiの管理の仕方がわかる人 ※未経験でも大歓迎!
・荒らし耐性がそれなりにある人 

頑張れば頑張っただけ住民の感謝が得られます!充実感のあるお仕事です!
114名無し草:2010/11/15(月) 01:31:13
なんというか、さみしいな。
115名無し草:2010/11/18(木) 06:16:44
下がりすぎあげ
116106:2010/11/19(金) 21:53:23
10日たったけど管理人さんから本スレに連絡ないね。
ちなみにこちらが送ったメールアドレスにも連絡ないんだ。

このまま管理人に立候補する人が出なければ、みんなのしたらばとか、どこかで募集するしかないと思うんだけど……。
だれかできそうな人はいないですか? 自分は以前書いた通り、規制の問題があって難しいです。
117名無し草:2010/11/25(木) 08:58:57
保守る
118名無し草:2010/11/27(土) 12:42:44
ほしゅ
119名無し草:2010/11/27(土) 19:34:24
誰か立候補いないのかぁ?
120106:2010/11/27(土) 20:52:29
やっぱりなかなか難しいのかな……誰かいらっしゃいませんでしょうか。
もし本当に立候補がなければ、やっぱり募集をかけることを考えたいと思うんですが、いかがですか?
121名無し草:2010/11/28(日) 22:46:38
管理のやり方とか全く知らんからなぁw
122名無し草:2010/11/29(月) 00:43:27
手間掛かるだろうけど新規でwiki借りてみたら?
123名無し草:2010/11/29(月) 01:27:27
じゃあ>>122頼む
手間はかかるだろうけど
124106:2010/11/29(月) 02:11:29
>>122
実はやってみようとしたんですが、これも無理でした。
海外からだと新規でwiki借りるのもできないらしく……なんどやってもうまくいかない。
それに、むしろ運営自体は前のwikiを受け継ぐほうが楽なんじゃないかと思うんですよね。
すでに規制なんかは前の管理人さんがかけてあるわけだし。
125名無し草:2010/12/06(月) 01:22:21
ほす
126名無し草:2010/12/06(月) 14:07:46
もしかしてこのままなら終了の流れ?
127名無し草:2010/12/06(月) 22:47:38
ゴクリ…
128名無し草:2010/12/07(火) 20:04:22
ume
129名無し草:2010/12/08(水) 04:30:56
>>126
少なくとも書き手の1人としてそれは嫌なんで、このまま管理人立候補がないようなら、
みんなのしたらばおよび毒吐きでどなたかやっていただけないか聞いてみようと思います。
それでも無理なら、また何か考えます。
130名無し草:2010/12/08(水) 20:39:32
おk
131名無し草:2010/12/13(月) 21:38:54
とりあえずクリスマスまでに管理人立候補がなければしたらばに訊きにいってみることにしたいと思います。
そんなわけでみなさん、よろしくお願いいたします。
132名無し草:2010/12/14(火) 11:27:38
いや、もう聞きに行っていいと思う。
ここでは一ヶ月前から募集して候補者上がらないわけですし。
133名無し草:2010/12/14(火) 17:56:29
>>132
なるほど、そうかもしれないですね。
したらばがPC規制されてるんで帰国する際に書き込みをと思ったのですが、それでは遅いのかも。

ちょっと今日は難しいですが、今週中に管理人募集の文章を考えてこちらに書いてみるので、
検討ののち、申し訳ありませんがそちらでしたらばに書き込んでいただけませんか?
134名無し草:2010/12/15(水) 11:09:23
>>133
了解です。えと、書きこむのは過疎ロワ住人スレになるのかな?
135名無し草:2010/12/16(木) 12:28:40
>>134
そうですね。過疎ロワスレでいいと思います。
むしろ意図的に誤爆するスレに誤爆っていうのも考えましたが、
なんかふざけた感じになってしまうかなあという気がしまして。
あとは訊いてみてもよさそうなところというと、過疎ロワのチャットくらいでしょうか。
これも自分は規制されていて入れないのですが……。
136名無し草:2010/12/16(木) 12:30:18
文面用意しました。こんな感じで大丈夫でしょうか。
ーーーーー

過疎ロワ住人スレの皆様へ

突然こうした内容をスレに書き込みますことをご容赦下さい。

現在「一般学生バトルロワイヤル」のまとめ管理人が行方不明となっており、
次期管理人を引き受けてくださる方を募集しております。

本来、こうした問題は該当ロワの住人の間で解決するのが筋とは思いますが、
まごうかたなき過疎にくわえて住人の海外規制やまとめ管理経験者の欠如といった問題もあり、
どうしても次期管理人を見つけることができません。

しかし、このまま当企画が風化するのをただ待つというのは、今も残る住民の希望に反します。
あくまでも我々はこの企画を続けていきたいのです。

そうした事情から、まとめwikiの次期管理者を引き受けてくださる方をもっと広範囲に募るべきだと考え、
このスレに書き込ませていただきました。何とぞご理解のほどよろしくお願いいたします。

当ロワの現在のまとめwikiは以下の通りです。
あわせて、wikiの管理を引き継ぐ際の流れを説明したページもはっておきます。ご確認の上、ご検討いただけましたら幸いです。

なお、この譲渡の流れのうち「1. 譲渡要望を管理者と直接行っていただく」まですでにおこなわれており、
それでも現管理人と連絡がとれなかったためこうした状況に陥っておりますことをつけ加えておきます。

一般学生バトルロワイヤルまとめwiki
http://www11.atwiki.jp/akitobr
@wikiのアカウント譲渡について
http://www1.atwiki.jp/guide/pages/1433.html

一般学生バトルロワイヤル 住民一同
137名無し草:2010/12/17(金) 01:22:41
大丈夫かと思います。
138名無し草:2010/12/17(金) 11:31:27
そお?
139名無し草:2010/12/17(金) 12:43:14
書き込んできた。
140名無し草:2010/12/18(土) 12:07:01
過疎ロワスレの反応を見てきたが、管理のやり方は聞いてくれれば教えるけど
管理人はここの住人がやるべきじゃないかって感じだな
どうする?
141名無し草:2010/12/18(土) 14:23:44
てか、元々選択肢なんて
ここの誰かがやるor諦める の2択だろうに
初めて管理人やるんでやり方教えてください。ならともかく、管理人やったこと無いからやってください。
で反応があるわけが無いよね
142名無し草:2010/12/18(土) 15:53:28
まあそうですよね。
文面書いたものですが、来年秋以降なら管理人は引き受けられますので、
それまでどなたか何とか繋いでいただけませんか?
新規ページを作れる状態になれば住民で更新は可能だと思うし、微力ながら地図の更新などはさせて戴きます。
143名無し草:2010/12/18(土) 16:00:22
すみません、過疎ロワスレ見たらログインメンバーにしてもらえれば編集可なんですね。
だとすればその作業さえしてもらえれば、編集はできる限りやらせていただきます。
なお、これから飛行機に乗るのでしばらく返信不可です、すみません。
144名無し草:2010/12/18(土) 20:02:59
実際問題としてここ、例の文面考えた人以外に住人いるの?
まったく読んでない俺があの人の必死さにちょっと心動かされかかったのに
肝心のこのスレにwikiを借りてくるって行動を起こす人がいないってどういうことなんだ?
145名無し草:2010/12/19(日) 08:41:50
>>122-123
この流れが答えな気がする。
海外の人には悪いが、あの人しか企画に協力的な人がいないのかもね。
146名無し草:2010/12/19(日) 13:54:24
てか、>>113見る限り、海外の人以外は何か勘違いしてないか?
wikiってみんなで編集できるのが最大のメリットなのに、更新を管理人だけの仕事だと思ってるあたりがさ
更新を一人で担わなきゃならないなんて言われたら引き受ける奴なんていないだろうよ
147名無し草:2010/12/19(日) 15:09:37
海外の人が告知に来てくれたけど、自分は既に別のロワのやってるから新規で借りるのはやらないけど
他の住人が新しく借りたり、編集の仕方を学びたいってのなら
http://www1.atwiki.jp/guide/pages/1064.html
ここを見てみるといいよ。参考になると思う。

とりあえず、今のここのwikiが編集できないのは、管理人の設定でログインアカウントしか編集できないって設定になってるからで
新規でwiki借りたら基本的に皆で編集できるはず。書き手の方、書き手じゃなくても一般学生ロワを支援したいって方が複数いるのなら
誰か試しにwikiを借りてみるといいよ。 その人一人に編集を任せきりにしないようにね。
148147:2010/12/19(日) 21:11:37
ちなみに、読む前に適当な捨てアド取得して試しに借りてから読むといいよ。
基本は他ロワのをパクればひな型くらいならすぐできるはず。
借りてみてから質問したいことがあれば、ここに書き込めば気付いたときに教えるよ

リレーSS企画ってのは皆の協力が必要なんだから、このロワの住人がwikiを用意した方がいいと思う。
149名無し草:2010/12/20(月) 00:36:05
そもそも、ここにはオレみたいに様子を見に来た部外者しかいないんじゃねーの?
存続させたい住人がいるなら名乗りをあげると思うけどね
150147:2010/12/20(月) 00:57:07
自分も海外氏(仮名)の過疎ロワスレへレスをみてここにきた部外者なのですが
少しでも企画を進めようって意思がある方がいたら新wikiを借りることをオススメします。

最新話まで収録されていないまとめサイトでは、はっきり言って新規の書き手は絶対につきません。
まぁwikiを借りたから必ず来るってものでも無いですが、何もしないよりは良いかと。

別に新wikiを借りたからって一日二日で全話収録は無理でも、過疎ロワ(失礼かもしれませんが)の投下ペースならのんびりやっても間に合うと思います。
wiki収録の話題をこのスレで交換し合えば、少なからず活性化に繋がると思います。

まとめwikiってのは”支援”サイトなので、書き手読み手問わず一般学生ロワを楽しもうという方がいたら、借りてみたらどうでしょう?

長文失礼しました。
151名無し草:2010/12/20(月) 12:34:10
住人がWikiを借りろっていっても、肝心の住人自体がいないからいくら勧めてもしょうがないんだよ…
152名無し草:2010/12/21(火) 21:09:33
wiki未収録のSSってどれ?
レス番とタイトルの指定を頼む
153152:2010/12/21(火) 21:51:44
あと、時系列順って、オープニングの次は21話の「政府連絡文書」でいいのか?
154名無し草:2010/12/21(火) 22:29:47
155名無し草:2010/12/21(火) 22:46:42
海外(仮)です。便宜上もうこう名乗ります。短期ですが日本に戻ってきました。
自分はこの企画が好きだし、楽しんで書いてるからできるところまではやりたいなと思ってます。
この企画を運営していくために自分のできることをやりたいだけで、同じことを他人にも求めようとは思ってないです。
だけど、自分の居住地域というどうにもできないハンデのせいで、やりたいことをやるために他人の手を借りざるを得ない。
そういうときに、このロワの人たちに手伝ってもらえるならそれが一番よかったんだけど、
それは多分他の住人さんそれぞれに事情があって、どうにもならなかったんですよね。

だから、他の人の力を借りるしかないと思って、今回みたいな方法をとってみたんです。虫のいい話だったと思ってます。
でも、いろんな方がすごく真摯な反応をしてくださって、そのことはとてもありがたかったです。
むこうのしたらばで反応してくれたり、このスレに来てアドバイスをしてくださる方たちにはすごく感謝してます。

自分は他ロワのためにwikiに近いものを作って運営したことあるぶん、経験がない人に比べてずっと負担が少ない立場なんで、
本当なら次期管理人にも立候補できてたはずだったんですよね、海外に住んでさえいなければ。
いま自分が日本に住んでさえいればとっくに解決してた問題だったのになと思うと口惜しい限りです。

こういうことになってもやっぱり、今後も自分は、読み手さんがいるならまだ書きたいです。
できればまた一緒に書いてくれる人が戻ってくるか、新しく来てくれたらいいなと思います。難しいでしょうけど。

この問題が起こる前は少なくとも自分以外に少数でも住人がいたのは確かだったので、問題を解決したいと思ったんです。
でも結局この先、自分だけが書いて読むロワになってしまうのなら、誰かの手を煩わせて続けるのは違うんじゃないかとも思うんですよね。
156海外(仮):2010/12/21(火) 22:51:01
>>154
>>152-153をちょっと今確認してきます、すみません!
ありがとうございます! 自分が>>155書いてる間にこのレスが来てたので、気づきませんでした。
本当にありがとうございました! こうなったからには遅筆だけどこの先も書いていきたいと思います。
お手を煩わせて申し訳ありませんでした。ありがとうございました。
157154:2010/12/22(水) 01:15:26
wiki編集した人へ

<"The pretender" 鳳凰の赤い棺> 前編
<"The pretender" 鳳凰の赤い棺> 後編
<"The pretender" 鳳凰の赤い棺> 後編2

↑これ、後編が1ページじゃ収まらなかったってことかな?
該当作の作者さんさえ良ければ、前編・中編・後編に修正できるし、他のタイトルに変えることもできるけどどうする?
158名無し草:2010/12/22(水) 01:40:06
>>157
編集者=作者です。後編が1ページでおさまらなかったのでこうしました。
前編・中編・後編にしていただけると大変ありがたいです。ありがとうございます。
159名無し草:2010/12/22(水) 01:51:21
>>157
なおしてくださってありがとうございました!
160名無し草:2010/12/22(水) 01:55:37
タイトルは修正した
一応編集作業は終わったけど、突貫なんでどっかおかしいところあったらテキトーに修正よろしく
あと、デザインとかで要望あれば、言ってくれれば出来るだけ応じるんで
161名無し草:2010/12/23(木) 02:51:07
>>160
すみません、本当にありがとうございました!
デザインとかはもうあれで十分見やすいし、大丈夫です。
もしまた何かあったらご連絡させていただきますね。本当にありがとうございました!
162名無し草:2010/12/24(金) 20:57:36
やるもんだのう
163名無し草:2010/12/26(日) 22:12:34
>>160超おつです!
164名無し草:2011/01/09(日) 11:17:54
寒中お見舞い申し上げながら保守
165名無し草:2011/01/18(火) 00:29:11
放送書いちゃおうかなって言ってた人まだいるかな? と思いながら保守
166名無し草:2011/01/22(土) 16:15:14
書こうと思ったなら書いちゃえばいいんじゃね
167名無し草:2011/01/24(月) 04:10:04
そうだね。まだだいぶ時間かかるけど書くと思う。
168名無し草:2011/02/02(水) 02:15:59
ほしゅ
169名無し草:2011/02/06(日) 03:44:12
170名無し草:2011/02/06(日) 07:12:23
ちんこ
171名無し草:2011/02/07(月) 18:29:37
イワパレス
172名無し草:2011/02/07(月) 23:37:14
放送まだかな
173 冒険の書【Lv=1,xxxP】 :2011/02/13(日) 01:09:34
今書いてるよ ちょっと時間かかりそうですまん
冒険の書の規制にやられてんだけどこれで書き込めるかな?
書けてくれないと相当困る……
174 冒険の書【Lv=1,xxxP】 :2011/02/13(日) 01:15:52
お、専ブラじゃなければ名前欄!ninjaで書き込めそう。
専ブラからじゃないと投下がつらいけどしょうがない。
名前欄が常にこれになっちゃうとトリップはアレにしてもタイトル入んない気がする……
175名無し草:2011/02/17(木) 03:50:15
折り返し地点まで来たんだなぁ……と、しみじみ思ってみたり
176名無し草:2011/02/22(火) 06:27:30.60
保守るんだぜ
177名無し草:2011/02/28(月) 02:49:15.11
来月ぐらいには書きあがりそうかね?
178名無し草:2011/03/06(日) 07:55:19.79
そのつもりでリアルと戦っています……
179名無し草:2011/03/09(水) 13:56:59.09
応援してるよ
180名無し草:2011/03/20(日) 09:00:58.25
元気か?^^
181名無し草:2011/03/22(火) 04:47:24.67
おそくてすまん
4月半ばまでには確実に落とす予定。みんなげんき?
182名無し草:2011/03/24(木) 20:38:15.01
元気っす。放送きたら頑張るよ。
183名無し草:2011/03/31(木) 10:57:27.52
4月から加速来るかもしれんぞ…
184名無し草:2011/04/05(火) 22:06:41.97
ちんこ
185名無し草:2011/04/14(木) 07:20:14.87
ラストほしゅ
186名無し草:2011/04/14(木) 22:39:22.33
いよいよ放送か!
187◇.b1wT4WgWk代理 第二放送 1/4:2011/04/16(土) 03:19:40.19
 百舌が一声、高く鳴く。吹きすさぶ風に巻き上げられた朽葉の踊る校庭。元は白茶けた色をしていただろう乾いた土に、夜の帳の近づく空で
主張を始めた月がまだ弱い光を投げかける午後六時少し前。打ち捨てられた学舎の歪んだ影はまるで化物のように見えた。
 校舎の一室、そこだけ神経質なほどに掃除の行き届いた空間に男はいる。建物の様子にはそぐわない最新鋭の機器が並ぶその部屋。それなり
に立派な椅子の上で足を組む男は軍服を身につけ、どこから持ち込んだのかわからないフライドチキンの最後に残った皮と肉とを骨から毟りと
るように齧り、ご丁寧にべろりと人さし指と親指を舐めてから、嫌気のさすような純白のナプキンで指先と口許を拭きとった。品のない笑みを
浮かべながら男は放送用のマイクをまだ少し油染みた指でひと撫でする。彼の腕にはまった時計の秒針は退屈なリズムで、しかし順調に時の進
みを告げていた。
 午後六時。きっかりその時間にマイクの電源は入れられ、男は口を開く。鶏を食べるのには使わなかった左手に、白い紙束。全島に流れる放
送の最初の一声は、型通りの挨拶だった。

「――はーい、皆さんこんばんは〜。」

* * *
188◇.b1wT4WgWk代理 第二放送 2/4:2011/04/16(土) 03:20:07.91
 ――はーい、皆さんこんばんは〜。調子はどうだー? 担任の坂持です。今ちょうど午後の六時になりましたー。そろそろ日も暮れたしなぁ、
だいぶ暗くなってきただろー。夜襲にはちょうどいい時間帯がやってくるぞー。各自油断しないようになー。よーし、それじゃあ、まずは禁止
エリアからいっちゃうぞー。先生、二度は言わないからな、注意しろー。

 まず、今から一時間後。午後七時はFの2だ。
 次は三時間後、午後九時はEの8な。
 最後に、五時間後の午後十一時。これはIの4。

 ――以上! ちゃーんとメモしたかー? 忘れてうっかり首輪が爆発! なんてことになるとみっともないぞー。死ぬんだったらちゃーんと、
華々しく戦って死ぬように!
 はーい、次はこれまでに死んだ人の名前を読みあげまーす。一回目の放送と同じように、名簿の上から順に学校ごとに読んでくからなー。自
分の学校のお友達が減ってないかちゃんと確認しろー? 減ってたらその分他の学校の生徒を殺せばいいからなー。
189◇.b1wT4WgWk代理 第二放送 3/4:2011/04/16(土) 03:20:36.17

 室江高校、川添珠姫さん、桑原鞘子さん、
 矢神学院高校、一条かれんさん、
 …………高校、榊……さん、神楽……さん、
 榊野学園高校、伊藤誠くん、清浦刹那さん、
 軟葉高校、赤坂理子さん、
 鈴蘭高校、加東秀吉くん、
 桜蘭高校、鳳鏡夜くん、銛之塚崇くん。

 うーん、ちょーっとマイクの調子イマイチだけどな、我慢してくれよー。先生もできる限りの努力はしてるんだぞー。今回は合計で十一人と。
ペースが落ちてないようで何より。優秀な子たちばっかりで先生は嬉しいぞー。このままどんどん他校の生徒を殺すようにー。君たちが生き残
りを目指すにはそれしかないからなー。殺られる前に殺るんだぞー。別の学校の生徒と動いてる子も多いみたいだが、お互いが敵同士だってこ
とをくれぐれも忘れないようにー。
190◇.b1wT4WgWk代理 第二放送 4/4:2011/04/16(土) 03:21:07.88
 ……いやー、皆が頑張っているのを見て先生はすっごくいい気分だー。この調子で最後までやり遂げるんだぞー。先生は心からお前たちを応
援してるからなー。それじゃあ皆、元気でなー!

* * *

 ――ブツリ、という不愉快な音とともに放送は終わりを告げる。マイクのスイッチをオフにした坂持は、作業を続ける部下の兵士たちにちら
りと目をやったあと、ニタニタと笑いながら適当に選んだ生徒の盗聴器の音源に耳を傾けた。

『……ふ、ふふふ、ふふふふふ』

 壊れた女の笑い声がヘッドホンから漏れてくるのを聴きながら、水のコップに口をつけて坂持はふう、と満足の溜息を吐いた。

『ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……』

 耳を侵す声に坂持は唇を舐める。寒風の窓を叩く音が上機嫌の男の耳に入ることはなく……殺伐とした島の中、この部屋にだけ、歪んだ平和
が満ちていた。
191名無し草:2011/04/16(土) 23:50:11.58
投下おっつん!
192】◇.b1wT4WgWk代理:2011/04/17(日) 22:16:32.09
こんばんは。放送に繋がる話として予約していた桂言葉の話を落とします。
前回の放送のときと同じく代理投下スレにレスごとに分けて要請して来ようかと思ったのですが、
ラウンジクラシックは改行規制がここより厳しい上、投下依頼の際のフォームの分で改行が削られるため、
依頼するレス数があまりにも増えてしまうので、アップローダーにテキスト形式であげたものを投下します。
テキストの内容を本スレに再度代理投下していただくか、そのまま読んでいただくか、どちらかでお願いします。
もし本スレへの再投下が必要ということであれば、テキストを投下用に25行程度で区切ってまたアップします。

http://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0069.txt
193名無し草:2011/04/18(月) 00:06:50.77
投下乙でした

ただ>>192のテキストは、残念ながら文字化けしてしまっているみたいで読めませんでした
194◇.b1wT4WgWk代理:2011/04/18(月) 04:11:24.11
テキスト形式のファイルが文字化けしたみたいなので、pdf化したものをzipにしてみました。読めるか試してもらえると助かります。
たぶんテキストのほうもエンコーディングをUnicodeあたりにかえてもらえれば読めるんじゃないかと思うんですが、ちょっと定かでないです。

http://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0070.zip
195名無し草:2011/04/18(月) 18:58:49.77
>>194乙です
pdf読めましたので、代理投下します
 一間流造の小ぶりな本殿の縁の下、並ぶ縁束の陰に身を隠すようにして放送を待つひとりの女がいた。
彼女の名前は桂言葉という。黒い長い髪が風にさらりと流れる。狂気をはらんだ美が静かにそこにうずく
まり、緩やかな笑みを浮かべていた。少し前に金髪の二人組と別れたときよりも、機嫌は随分とよいよう
に見える。それもそのはず。桂は先ほど、この神社で面白いものを見つけたのだ。

 彼女が歩き続けてたどり着いたその神社は、神のおわすところとして尊ばれるに相応しいだけの年月を
重ねてきたのだろう、という風情であった。鳥居をくぐって足を踏みいれたそこに人の気配はなかったが、
それでも用心して隠れるところを探した桂は、本殿の階の裏側に隠された黒いデイパックを目にする。彼
女にそれが誰の持ち物なのか知る術はなかった。実際のところ、それは室江高校の桑原鞘子のものであっ
たのだが、彼女にとっては全くもってどうでもいいことだ。問題は中に何が入っているか、である。

 ためらうことなくそれに手を伸ばした桂は、袋の口を開けてみて驚く。中には立派なライフルと二十も
の予備弾丸、そして食料や水といった支給品のほとんどが手つかずでおさめられていたのだ。

 ――こんなところに荷物を置いていく人がいるなんて、幸運です……。

 微笑みながら桂はデイパックの中からライフルをとり出してみる。3〜4キロはあるだろうか、彼女に
はずしりと重く感じられた。持って歩くのには少々邪魔だが、荷物と一緒に背負うのなら何とかなりそう
だ、と判断した桂はそれを自分のデイパックにしまうと、中にあった桑原の食料と水に手をつける。放送
のある午後六時までに少しばかり腹ごしらえをする必要を感じたのだ。ごく簡単に食事を終えると、彼女
は腕にはめた時計を確認しながら地図と名簿をとり出した。時計の針が午後六時をさす。ジジッ、という
耳障りな音。桂言葉は開始された雑音まじりの放送に耳を傾けた。


* * *


 ――は……ぃ、皆さんこ……んは〜。調子はどうだー? 担任の坂持です。今ちょうど午後の六時にな
りましたー。そろそろ日も暮れたしなぁ、だいぶ暗くなってきただろー。夜襲にはちょうどいい時間帯が
やってくるぞー。各自油断しないようになー。

 よーし、それじ……あ、まずは禁止エリアからいっちゃうぞー。先生、二度は言わないからな、注意し
ろー。

 まず、今から一時間後。午後七時はFの2だ。
 次……、三時間後、午後九時はEの8な。
 最後に、五時間後の午後十一時。これはIの4。

 ――以上! ちゃ……とメモしたかー? 忘れてうっかり首輪が爆発! なんてことになるとみっ……
もないぞー。死ぬんだったらちゃーんと、華々しく戦って死ぬように!

 はーい、次はこれまでに死んだ人の名前を読みあ……まーす。一回目の放送と同じように、名簿の上か
ら順に学校ごとに読んでくからなー。自分の学校のお友達が減ってないかちゃんと確認しろー? 減って
たらその分他の学校の生徒を殺せばいいからなー。

 室江高校、川添珠姫さん、桑原鞘子さん、
 矢神学院……う校、一条かれん……ん、
 …………高校、榊……さん、神楽…………ん、
 ……かき野学園高校、伊藤誠くん、清浦刹那さん、
 軟葉高校、赤坂理子さん、
 鈴蘭高校、加東秀吉くん、
 桜蘭高校、鳳鏡夜くん、銛之塚崇くん。

 ……ん、ちょ……とマイクの調子イマイチだけどな、我慢してくれよー。先生もできる限りの努力はし
てるんだぞー。今回は合計で十一人と。ペースが落ちてないようで何より。優秀……子たちばっかりで先
生は嬉しいぞー。このままどんどん、他校の生徒を殺すようにー。君たちが生き残りを目指すにはそれし
かないからなー。殺られる前に殺るんだぞー。別の学校の生徒と動いてる子も多いみたいだが、お互いが
敵同士だってことをくれぐ……も忘れないようにー。

 ……いやー、皆が頑張っているのを見て先生はすっ……くいい気分だー。この調子で最後までやり遂げ
るんだぞー。先生は心からお前たちを応援してるからなー。それじゃあ皆、元気でなー!

* * *


「……ふ、ふふふ、ふふふふふ」

 桂言葉は笑った。おかしな形に唇をつり上げたまま、ただ、息を漏らすように。黒く長い睫毛に縁どら
れた、その大きく美しい瞳は光を映さず漆黒に沈む。瞳と同じ色をした髪が月明かりを映して艶やかに光
った。もとより白い肌はいっそう抜けるように白く……制服の胸元を強くおさえる華奢な指は震えている。

 迫る夜の帳の中、神社の境内で浮かび上がる桂の姿は花のように美しい。その艶やかな花はしかし、薄
い硝子でできた壊れやすいものだった。すでにどこかが欠けはじめていた大輪の花は、ぱりん、と透明な
音をたてて散ってゆく。瞬きひとつせぬままに、桂はずいぶんと長い間、ひとりで笑い続けた。


* * *


 ――ねえ、あなたいま、なんておっしゃったんですか? とてもおかしなことを私、聞いた気がするん
です。ねえ、ねえ、おかしいですよね、誠くん、すごく、すごく、すごく、おかしいです、よね。

「ねえ、誠くん、おかしいですよね……」

 なんなんでしょういまのは。ああ、おかしい、ほんとにほんとにおかしい。ふふふふふふふふふふふふ、
ねえ、いまなんておっしゃったんですきこえませんでした、もういっかいいえやっぱりけっこうですきき
たくありませんそんなこともう、にどとぜったいになんておかしなことをおっしゃるんでしょうしんじら
れませんどうしてなんでなんですかそんなことがあるわけないでしょうなにかのまちがいにきまっていま
すだってそんなのありえないじゃないですかそうでしょうまことくんがわたしをおいていくはずがないの
にだからきっとこんなのはぜんぶうそでうそでうそでうそうそうそ、
 ――うそ。そう、嘘。

「ああ……そうですよね、ぜんぶ、嘘なんですよ、だって誠くんが私をおいていくなんてありえません、」

 私のことを愛してくださっているあの誠くんが。どこかで私のことを待ってらっしゃるんですよね。ふ
ふ、大丈夫です誠くん、私が絶対に見つけてさしあげますから……。それにしても、ずいぶんと質の悪い
冗談ですね。誠くんが亡くなっただなんて。坂持さん、でしたっけ。こんなことをするなんて少しおかし
いんじゃないでしょうか。政府の方がこんな嘘をつくなんて、一体どういうおつもりなんでしょう。

 そういえば、清浦さんも名前を呼ばれていたような気がします。ああ、そうでした、だとすると、誠く
んのことは嘘だとして、うちの学校の私以外の方はもういらっしゃらないということでしょうか。それな
らそれでいいのかもしれませんね。誠くんは私を愛してくださっているけれど、とても素敵な方ですから、
他の女どもがおかしなことを言い出さないとも限りませんし。誠くんは私だけ見て下さればいいんです。
誠くんは私のものなんです。だって私と誠くんは相思相愛ですもの。私がいれば誠くんは大丈夫なんです
もの。他の女なんていらないです。そうでしょう?

 ……あ、なあんだ、そういうことなんですね。誠くんが他の誰かにとられたりしないように嘘をついて
くださったんです、あの坂持さんという方は。亡くなったということにしてしまえばみんな、誠くんに近
づこうなんて考えは捨てますもの。ふふ、いいですね、これなら私しか気づきませんもの。誠くんをこの
世で一番愛している私しか。おかげで誠くんを探すのが少し楽になります。それにうちの学校の方達はも
ういなくなって下さったんですし、残りは――他の学校の女の方ですね。
 他の学校の女が誠くんを見つけて興味を持ってしまったりしたら少し厄介かもしれません。殺してしま
いましょう。そうですよね、誠くん。私は誠くんだけいれば幸せですし、私だけいれば誠くんも幸せです
もの。目障りなもののない、素敵な世界。きっと誠くんも褒めてくれます。残りの男の方は誠くんに訊い
てみなくては。だって……きっと誠くんはそんなこと言ったりしないとは思いますけど、もしも男の方に
手をかけたことで乱暴で可愛らしさのない女だと思われてしまったら辛いですし。私が誠くん以外の方に
心を動かすなんてありえませんし、そんなことは誠くんもちゃんとご存知なんですもの。そうでしょう?

 ……誠くん、どこにいらっしゃるんですか? かくれんぼにしては長過ぎます。そろそろ出てきてくれ
たら嬉しいのですけど、でも、きっと私に見つけて欲しいから隠れてらっしゃるんですよね。うふふ。私、
ちゃんと探します。待っていてくださいね。私が見つけたら、誠くんは絶対、私にあの少し照れたような、
優しい笑顔を見せてくれるんですよね。そして私の名前を呼んで、抱きしめてそっとキスしてくれて……
ふふ、……あら。

 あっちの、林の中……。誰か、いますね。遠くてよく見えませんけど、女、だった気がするんです。殺
してしまわなければいけませんね、誠くん。もうすぐ迎えにいきますから、少しだけ待っていてください。


【G‐6 鷹野神社境内/1日目 夜】
【桂言葉@School Days】
 [状態]:喉に軽いダメージ(治癒しつつあります)
 [装備]:ワルサーP38(9/8+1)、ワルサーP38の予備マガジン×5、鉈、レミントンM700(5/5)予備弾丸
20
 [道具]:相馬光子のデイパック、支給品一式、相馬光子の首輪
 [思考の基本]:全ては誠くんのために。優勝狙いだが最終的にどうするかは誠次第
1:伊藤誠との合流。
2:女は殺す。誠の無事と意思を確認するまでは男は殺さない。ただし誠を害する可能性がある者は何をしてで
も殺す。
※誠の死を嘘だと思っています。普通に会話はできます。すでに狂人の世界に足を踏みいれています。
※何か彼女にとって衝撃的な出来事があれば元に戻るかもしれません。
※桑原鞘子のデイパックは、武器と食料と水一食分の抜かれた状態で神社の本殿の階の下に隠されたままです。
202名無し草:2011/04/18(月) 19:07:50.96
以上、代理投下完了です
◆.b1wT4WgWk氏、乙でした

言葉が面白いことになってきましたね
今後が楽しみになる話でした
203名無し草:2011/04/18(月) 21:04:54.95
うぽつ
誠が死んだときはいやな予感がしてたんだが
やっぱりこうなるよね
この調子でもっと投下があれば良いな
204名無し草:2011/04/19(火) 12:32:44.01
投下乙!
これでもはや言葉を止めることは出来そうにないな!
205名無し草:2011/05/01(日) 17:47:55.86
新しいほうのwikiの管理人です

まずは◆.b1wT4WgWk氏、投下乙です
で、質問なんですが、氏が投下したSSがwikiに収録されてないのは何か理由あります?
こっちで設定をミスってて編集不可になってるようであればすぐに対処するんで言ってください
206 ◆.b1wT4WgWk :2011/05/03(火) 05:31:54.52
>>205
◆.b1wT4WgWkです。返信遅れて申し訳ないです!
実は1週間ほど前、むこうでwikiの更新をしようとしたところ、海外のホストからの編集禁止を示すようなエラーが出ました。
たしか新しいページの作成中だったと思います。確認用のランダムの英数字を打ち込んで、更新したあとの画面です。
エラー時に出た画面をハッキリ覚えていませんが、こちらのホストの数字と「海外〜」という文言が出ていたのは確かです。
あと、「ホストを個別に許可したい場合は連絡を〜」というような文言も出たと記憶しています。

リアルの都合で丁度GWあわせでこちらに短期の帰国が決まっていたので、帰国したら編集できるから……と思い
ひとまずそのときは編集を諦めました。30日の便で出て1日に着いたので帰国直後に編集をしたんですが、
こちらのスレの確認をしていなかったので今そちらの書き込みに気づきました。
なんかスレ見てあわてて編集したみたいな形になったうえ、連絡が遅くなってしまってほんとに申し訳ないです。
207 ◆.b1wT4WgWk :2011/05/03(火) 05:33:03.02
>>205 (長くなったので分けました)

エラー時にキャプチャでもとっておくかそちらにすぐに連絡をとればよかったのですが、
そのあとリアルがたて込みまして、つい「帰国時まで待とう……」と先延ばしにしてしまった次第です。
もしエラーについての詳細が必要であれば、15日以降はむこうにまた戻りますので、
そちらで編集時に出る画面のキャプションをとってこのスレに投下するようにします。

なお、私のホストは以前のwikiでもほぼ同じ画面が出ていたように思います。
それで以前の管理者さんに私のホストのみ規制解除する、という方法をとってもらおうとしたのですが、
そのときに自分のホストが繋ぐたびに変わるタイプのものだったことが判明し、結局お流れになったのでした。
もしかしたらそのときの自分の書き込みにエラーの詳細があるかもしれないので、ちょっと探してみます。
208名無し草:2011/05/03(火) 15:17:17.03
wiki管理人です

了解です
こっちで設定をミスって編集できない状態になっていたのかと思って
その点だけ確認しておきたかっただけだから、お気遣いなく

海外からの編集をOKにするといろいろ問題があるので、今度からは気がついた時はこっちで編集しときます
209名無し草:2011/05/10(火) 14:38:25.20
まんまんペロペロ
210名無し草:2011/05/15(日) 16:18:19.93
連絡フォームからメンバー登録すれば編集できるようになると思うけど。
211名無し草:2011/05/21(土) 18:03:58.77
見てる人はそこそこいるみたいだし
◆.b1wT4WgWk氏が海外から編集できるようになる方法をアドバイスするよりも
氏や管理人さんが編集しなくても誰かが編集するようにしたほうが早いだろ

つーか、ここの住人、wiki編集しようって気持ちが無さ過ぎ
212名無し草:2011/05/25(水) 09:14:30.19
たまに見てるけど特にここの住人ってわけでもないんだぜ
おそらく住人と呼べそうなのはほとんどいなくなったんじゃないか?
213名無し草:2011/05/28(土) 18:15:50.40
まだ終わらんよ
気長に行こうぜ
214 忍法帖【Lv=3,xxxP】 :2011/06/06(月) 14:35:17.49
the
215 忍法帖【Lv=3,xxxP】 :2011/06/06(月) 14:35:32.20
the
216 忍法帖【Lv=2,xxxP】 :2011/06/06(月) 21:07:45.33
the
217名無し草:2011/06/07(火) 10:47:12.98
もう未完終了でいいや…
218 忍法帖【Lv=2,xxxP】 :2011/06/07(火) 20:59:35.23
????
219 忍法帖【Lv=3,xxxP】 :2011/06/07(火) 21:38:20.47
?`?F?b?N
220 忍法帖【Lv=3,xxxP】 :2011/06/07(火) 22:29:01.90
the
221 忍法帖【Lv=3,xxxP】 :2011/06/08(水) 03:47:26.76
?e?X?g
222名無し草:2011/06/08(水) 06:54:24.36
223名無し草:2011/06/08(水) 12:25:16.32
まあ、もう少し見たいかな
224名無し草:2011/06/08(水) 13:17:59.25
225 忍法帖【Lv=3,xxxP】 :2011/06/08(水) 13:46:46.50
(^o^)
226 忍法帖【Lv=2,xxxP】 :2011/06/08(水) 14:52:43.64
test
227 忍法帖【Lv=3,xxxP】 :2011/06/08(水) 15:00:08.81
?e?X?g
228 忍法帖【Lv=3,xxxP】 :2011/06/08(水) 16:48:59.68
aaaaaa
229 忍法帖【Lv=2,xxxP】 :2011/06/08(水) 22:05:24.68
(^o^)
230 忍法帖【Lv=3,xxxP】 :2011/06/09(木) 02:04:52.26
test
231名無し草:2011/06/09(木) 02:47:18.32
うんこ
232名無し草:2011/06/14(火) 20:24:14.99
予約キター!!
狂王の行方はいかに
233名無し草:2011/06/14(火) 21:03:18.18
この組み合わせは、どうなるんだ?!
234名無し草:2011/06/16(木) 20:11:48.70
予約キターw
235 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 03:11:19.69
投下します。
236 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 03:16:16.57
 それを聞いた時、花澤三郎は始め自分の耳を疑った。
 次いで、あの下品な男がなにかの間違いを犯したのだと思った。
 訂正の言葉を待ってみたが、何事も無く午後六時の定時放送は終了した。
 それからしばらく、三郎はじっと待ちつづけた。幾ら待っても何もおきなかった。
 やっと、三郎は理解した。その瞬間、全身から力が抜けた。

 膝が砕けて尻もちをついた。
 伏せられた顔は相変わらずの無表情、しかし常のそれとはどこか違う。
 口からポツリと、言葉が漏れでる。
「殺せなかったのか」
 あの姑息な縛めが、プライドをかなぐり捨てた行為が。
 全く無意味なものだったと三郎は知った。
 そして今までの卑小な達成感が幻だったことを突きつけられた。
 伊藤は死んでいなかったのだ。
237 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 03:19:58.45
 放送の際、伊藤という性は一度読み上げられてはいた。
 だがそれは榊野の伊藤であり、軟葉の伊藤ではない。
 嘘をつく男だとも思えなかった。だとするなれば。
 あの状況でどうやったのかはわからないが、伊藤は逃げ延び、生き残ったのだ。

「ふふふ……ふふふふ」
 その事実に三郎は痙攣するようにわらった。落とした肩が小刻みに揺れる。
 三郎は、疲れていた。
 だけどその見事な道化ぶりに、三郎の意思とは無関係に口からわらいが溢れてくる。
 小さな、わらい声だった。

 決意した筈なのに。覚悟した筈なのに。
 卑怯者だと、最低だと、自らを貶めてもそれにすらなれないでいる自分が。
 あまりにも馬鹿馬鹿しく、どうしようもなく情けなく。
 そして……。
238 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 03:23:16.41
(オレは……あいつが生きていたことに喜んでいる!)
 偽らざる感情だった。
 伊藤が生きている事を知った瞬間、花澤三郎は、安堵、したのだ。
 焼き付けた、伊藤の顔が目に浮かぶ。無様だった。
 最低ですらない、何者にもなれない自分。何の意味も見出せない存在。
 身体が弛緩し、心も萎んでしまっていた。
 三郎は湧き出る衝動に身を任せて、静かにその場でわらい続けた。
 地に墜ちた鴉は、死ねなかったのだ。

 しばらくして、三郎は歩き出した。
 デイパックとショットガンを気だるげに持ち、ふらふらとおぼつかない足取りで。
 どこという目標もなく、冷たい風をその身に受けてただ歩くだけ。
 花澤三郎は完全に道を見失っていた。
239 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 03:29:09.22

 現在、三郎は東崎トンネル付近にいる。坊屋春道と別の道を行き、なおかつまた遭遇しないようにと進
んだ結果、島を北上する事になっていた。村を出て道なりに歩いて途中、無学寺にも立ち寄っていた。
 それまでずっと、休む事無く歩き詰めだったので少し休憩しようとしての事だった。

 しかしだ。夕焼けに染まる古寺、開け放たれた玄関口。そこから覗く、床に横たわった大きな影。それ
を見て何があったか、その影がなんなのか察する事のできない三郎ではなかった。
 気づいたときには駆け出していた。
240 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 03:32:56.89
 なんでそうしたのか三郎自身にもわからない。走りながら、あそこにいるのはまずい、何が潜んでいる
かわからない、だからあそこで休むのはやめておくべき、無用な危険はさけるべき、理由は幾らでもでて
きたが本当の所は三郎にはわからなかった。三郎の奥まった部分が理解を拒否したのだろう。
 そして息が切れて立ち止まっている間に、放送が始まったのだ。

 死者の名前を読み上げる前に、禁止エリアが発表されたのは三郎にとって運が良かった。辺りの暗さも
ありデイパックからペンや地図を出す暇はなかったので、命に関わる禁止エリアと、伊藤の事にだけ集中
して記憶しようとした。後で休憩もかねてゆっくりと状況を整理しようとしたのだが……。
241 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 03:36:33.24
 自分が今いる場所は二十一時に禁止エリアになる、それはしっかりと理解しておく事が出来た。だから
目標はなくとも三郎はのろのろと移動している。死ぬわけにはいかなかった。今のまま死ねば本当にこれ
までの三郎の行動は無駄になる。それは考えるだけでも恐ろしい事だった。
 だが、それだけだ。まともに物を考える余裕は三郎にはもうない。

 今の三郎の心はガタガタだった。
 いつ殺されるともしれない恐怖。不甲斐ない自らに対する苛立ち。結果を出せない事への焦り。
 いままで碌に休んでおらず、食事すらとっていない。喧嘩の疲れも残ったまま。
 目立った傷こそないが心身ともに疲労がピークに達していた。
 それに加えて、これまで三郎を支えていたものは自分の手で投げ捨ててしまっており、三郎の心の支柱
は既に取り払われている。いつ潰れてもおかしくなかった。
242 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 04:02:02.87
 それでも立っていられたのは義務感と生への執着は残っていたからだ。
 しかしそこに追い討ちをかけたのが伊藤の生存という事実。断腸の思いで行った卑劣な行いが無為なも
のだった事への脱力感は言うに及ばず、伊藤が生きているということは三郎の行いを知っている人間が生
きているという事だ。まさしく生き恥である。三郎はもう前に進むことも、後ろに下がることもできない。
 しかも性質の悪いのは、断ち切ったはずの逃げ道が中途半端に残っている事だ。
 伊藤が死んでさえいれば偽りの覚悟も固まったのだろうが、生き残ったおかげで三郎にとってのいわば、
救いというものが目の前にぶら下がってしまった。これが余計に三郎を迷わせる。
243 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 04:05:22.54
 後戻りすることができる、そういう思考の余地が残れば残るほどそれは無視できる人間は少ない。弱り
きった三郎にとってはなおの事だ。そしてその猶予が心の腐敗を加速させる。
 見事な位に底なし沼の袋小路にはまりこんでしまっていた。
 伊藤真司は殴り合いにこそ負けたが、花澤三郎の心に決定的な傷を負わせる事に図らずも成功していた。
 結果だけを見るのなら花澤三郎は、伊藤真司に敗けたのだ。それも完膚なきまでに。

 そんな三郎が、
「う、を」
 明かりもつけずに夜の中を歩いていれば、足元が疎かになるのは当然のことと言えた。
244 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 04:08:52.87
 なにかに三郎の足がぶつかり、体勢を崩して倒れる。手をつく暇なく地面に身体を打った。
「ァタタ……」
 荷物を手放して身体をさする。足に妙な感触の何かが触れていた。
 転んだ痛みに顔をしかめつつ足元に視線を向け、思わず目を見開いた。
 大柄な人間のピクリとも動かない姿がそこにあった。その脇には血濡れの刀。
 思わず手で触れようとし、すぐに引っ込めた。足も慌てて持ち上げる。
 死んでいた。足から伝わった情報は三郎にそれを教えた
 いきなりの事態に一瞬息が詰まるが……それだけだった。
(…………こんなもんか)
 それが三郎の自然に出た感想だった。
 急速に三郎のどこかが冷え始める。
 萎んだ心になにかが注がれていく。
(こんなもんなのか)
 目の前の人間の無造作な死に様に、三郎は何故だか肩透かしをくらった気分だった。
245 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 04:12:53.19
 人を殺せない事に苦悩していた三郎の前に現われた、明確な、目に見える死。
 手の届くところまで近づいたそれは、あまりにも……呆気なく感じられた。
 妙な感じだった。吐き気もなにもない。恐ろしくも無い。麻痺しているのだろうかと訝しむ。
 しかしあれやかれやと頭で考えていた何もかもが、この実感に比べれば意味の無いように思える。
 死体は、あくまで死体でしかなかった。そう思えた。
 今まで自分は、何を恐れていたのだろうか? そうも思えた。
 だから目の前で人間が死んでいる、という事実よりもその男が着ているものに意識が向いた。
 少し距離を置いて膝立ちになり、改めて死体を眺める。
 見覚えのある制服だった。
「この格好……藤岡と同じ……?」
 そこまで言った直後に、
「――グ?!」
 背後から衝撃。また地面に顔をうずめる。
246 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 04:17:56.04
 何かが、三郎を背中から押し付けていた。
 いきなりの事態に三郎は反射的に身を捻り、
(ん?)
 肘にぶつかった何かはあっさり、三郎の背中から滑り落ちた。
 その呆気なさに、混乱しかけた頭がすぐに立ち直った。
 一息で体勢を立て直しその何かを視界にいれる。
(……こいつか)
 人間だった。それもすぐそこにある死体と同じ制服を着た男。
 男は三郎に背中を向けて、左肘をついて身体を持ち上げようともがいていた。
 しかし力が入らないのか、うまくいっていない。
 その姿を見て、三郎は完全に落ち着きを取り戻した。
(怪我か)
 目の前の様子やさっきの不意打ち、この場の状況を考えるにその可能性は高かった。
 よく見れば男の右肩に染みのようなものが窺える。息も荒い。
247 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 04:20:39.10
 そうなると、解らないことが幾つかあった。
 この男が何故怪我を押して三郎を襲ったのか。
 襲うのならば何故三郎が転んだときにそうしなかったのか。
 そもそも何故今まで息を荒げる男の存在に気が付かなかったのか。
 不審な点は多々あったが……、
(まあ、なんでもいい)
 さっきから、妙に心が冷めていた。
 目の前の怪我人を見ても、心に波風はたたない。
 きっと今の自分は分校跡で出会った少女と同じ目をしているのだろう。
 望んでいたものをとうとう手に入れたのだ。
 反撃される恐れも無い。
 もし武器があるなら不意打ちの時点で使っていた筈。
 今なら……殺せる。そう思った。
248 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 04:23:45.37
 落としたショットガンを見る。思考。
 怪我人に必要はないと判断。
 首を振って、腰を持ち上げる。
 もがく男に近づき、脇腹に爪先を入れた。
 ひっかけて持ち上げ、仰向けにする。
 そのまま男に馬乗りになった。
 マウントポジション。やれる。
 腕を振り上げる。
 振り上げて、止まった。

「――――えか」

 掠れた声。
 平坦な口調。
 月の光。
 眼下の瞳。
 そして。

「――――お前か」

 三郎は、震えた。

 三郎は一気に男から飛び退いた。
249 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 04:26:31.69
 落とした荷物は無視して、急いで距離を取る。
 間違いなく、三郎の方が有利な体勢だった。
 しかし、身体は勝手に動いていた。
(何なんだ……?!)
 三郎にも初めての体験だった。
 自分の咄嗟の行動に理解が追いつかない。
 異常な感覚、三郎の経験が行動させた。

 その間に男の身体が少しづつ、持ち上がっていく。
 男が身動きするたびに、三郎の動きは束縛される。
 息苦しさを覚える程に、目の前の男に三郎は気圧されていた。

 男は膝を立て、震えながらも立ち上がった。
250 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 05:01:28.62
 やっと手に入れた落ち着きはもう、三郎には残っていなかった。
 何故、何故、何故。そればかりが頭に浮かぶ。

 気づいた時には手が届く距離まで近づかれ、見下ろされていた。
 今まで体験した事の無い強烈な視線が三郎に突き刺さっている。
 眼を見れば、相手の器量の見立てはできる。
 しかし男を直視することが、三郎にはできなかった。
 町の不良の威圧とも、分校跡で体験した鋭い殺意とも違う。
 三郎が未体験のなにか。強烈で、そして純粋ななにかが塊となって三郎を圧している。
 動きたくても動けなかった。完全に、相手に支配されていた。

 嗄れた声が三郎に問いかける。
251 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 05:04:03.52
 平易でがらがらの、恐ろしさの欠片も無い語り口。
 しかし三郎はその裏の剣呑な輝きを感じとっていた。

「お前が、ハルヒを」

(ハルヒ……?)
 ハルヒという単語。三郎には聞き覚えがあった。
(…………ッ?!)
 目の前の男と、先程思い出した藤岡……ハルヒ。
 同じ制服。三郎を襲った訳。男の異様な気配。
 一つに繋がっていた。
 思わず男を見上げて、慌てて否定する。
「ご、誤解だ。オレは何も」
 自分でも解るほどみっともない声が出ていた。
 見上げた男の顔は黒く塗り潰されて窺えない。
 男は見下ろしたまま、再度言う。
 相反するものが混じり合った、その声で。

「話せ。お前の知っている事を、すべて」


 □ □ □
252 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 05:07:53.09
 もしかしたら、逃げる気になれば逃げられたのかもしれない。
 だが三郎はそうせず自分の知っている全てを男に話すことにした。
 藤岡ハルヒとの出会いと別れ、そして七原秋也のことも。

 男は三郎が話し始めてからは腰を降ろして、体育座りの格好で三郎の話を黙って聞いていた。
 それに伴って三郎が感じていた重圧も嘘のように消えた。
 対する三郎は男の正面であぐらをかいて、できるだけ詳細に藤岡ハルヒとの関わりを説明した。
 普段の三郎ならいざ知らず、今の三郎に抵抗する気力は残されていなかった。
 そして、三郎は楽になりたかったのだ。

「…………これで、オレと藤岡との話は全部です」
 それだけ言って、三郎は話し終えた。長い話でもなかった。
253 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 05:11:30.05
 三郎の話を聞き終えた男は、立ち上がって歩き出した。何も言わず、地図を握り締めて。
(信じてくれたのか……?)
 自分の話を信じてもらえる自信はあまりなかったのだが、どうやら杞憂のようだった。
 今の男の行動自体は予測していたので、今度は三郎が男に言葉を投げかける。

「さっきも言いいましたが、死ぬかもしれないですよ」
 男は三郎の言葉には反応しなかった。夜の中に姿が紛れてだんだんと見えなくなっていく。
 さっき、というのもハルヒと別れた場所について話したときだ。
 三郎がハルヒを置いていったのは平瀬村の民家だ。そして先程の放送で平瀬村の中心部は禁止エリアに
指定された。地図で言えばF2エリア。ハルヒと別れたのがそのエリアかどうかは三郎にはわからないが、
それでも男に対してその辺りで別れたと説明した。
 その瞬間、男の雰囲気が変わったのを三郎は覚えている。
254 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 05:14:44.56
 恐らく、この男は何があっても平瀬村に向かう。その時三郎はそう察した。

 遠ざかっていく背中。
 返事が無いのを解っていても三郎は声をかけずにはいられなかった。
「どうして、そんなに」
 それ以上は声にはならず。
 そして男は暗闇の向こうに姿を消した。
 最後まで、三郎に男は手を出さなかった。眼中に無いのだろう。

 三郎はうなだれた。改めて、自分の不甲斐なさを直視させられた。
「オレって奴は……」
 やはり、続きは言葉にならない。
 結局、何もできなかった。今までどおりに。
 平瀬村で、分校跡で、禁止エリアで、氷川村での時のように。
 ただ、今までとは違うものもある。

「よっ、と」
 三郎は立ち上がった。風が肌寒かった。
255 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 05:17:39.06
 改めてもう一度、さっきの言葉を口にする。
「どうしてそんなに……か」
 男の行動の理由はわかる。藤岡ハルヒに関係していたのだろう。
 ただなんで死んだ人間の為に自分の命を賭ける事ができるのか。
 男の行動は、三郎に一人の男の事を思い出させた。
「マサがこの島にいたら、死んでもあいつの所にいくかも知れないな……」
 マサとは、このプログラムに参加していた男の親友のことだ。
 もうこの世にいない親友のために命を投げ出せる男だったと、三郎は思う。
 死んだ男の名前は、加東秀吉。三郎と鈴蘭一年戦争の覇を争った男。
 先程の放送で名前が呼ばれていた。あの放送は特別集中して聞いていたから間違いはない。
 さっきまでは秀吉の事を考える余裕はなかったが、今は違う。
256 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 05:20:51.83
 男の事はひとまず置いておいて、死んだ戦友に思いを巡らせる。

「あいつは……どう、生きたんだろうな」
 プログラムが始まった当初は、秀吉も三郎と同じ選択をするだろうと思っていた。
 馬鹿すぎて優勝する考えまで至らなかったもしかしたら、なんてあの時は考えもした。
 だが七原秋也との出会いで、その考えを改めることになった。
 それに加東秀吉に初めて顔を合わせた時、確かこう言われていた。
「上にシッポ振るよーなヤローには、だったか」
 死んでも負けるわけにはいかない。そういう風な事を言っていた。
 その言葉はよく覚えていた。三郎の転機になった言葉だったから。
 だとしたら、多分。加東秀吉はそのようにしたのだろう。
 馬鹿すぎる程のバカヤローだった、加東秀吉は。
 そして鈴蘭高校はそういうバカヤローの集まりだった。
257 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 05:23:10.42
 だからこそのカラスの学校。男を磨く聖地と言われるのである。
 それだけではない。どいつもこいつも。
 三郎の知っている男たちは、みんな揃ってバカヤローだった。

 それに思い至った時、思わず三郎は屈みこんで頭を抱えた。
 思い出すだけで、顔から火が出そうだった。
「オレって、凄いカッコわりーな……」
 自分がその男たちを救い出す、そんな風に考えた。
 その結果がこの様である。また一人仲間が死に、自分は誰も殺せていない。
 今までの醜態を思い出して屈んだ姿勢のまま身悶えする、が。
「……これじゃさっきまでと変わらねーか」
 そう言って、また立ち上がった。
 気を取り直す為に、深呼吸を一回二回。
258 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 06:01:20.78
 それ位できるほどには、三郎は気を持ち直していた。

 放送時とは比べ物にならないぐらい、三郎の精神状態は快復していた。
 藤岡ハルヒに限定してとはいえ、今まで溜め込んだものを強制的に外に出したことが良かったのかもし
れない。
 マイナス感情が消えたというわけではないが、気持ちの整理が少しはついた。一人で悶々と考え込むよ
り、それを口に出して誰にでもいいから喋ってしまった方が楽になれるのだ。
 事実、最初の一言を出した後は、もう自然と止まらなくなっていた。三郎は逃げられなかったというよ
りは、逃げなかったのだ。そのおかげか、ずいぶんサッパリとした心持になっていた。
 いうなれば袋小路の壁を無理矢理ぶち壊され底なし沼から強引に引っ張り上げられた、そんな感じだっ
た。だが、それ以上に三郎にいい影響を与えた要素があった。

「ふぅ……行くか」
259 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 06:04:25.85
 息を一つついて、自分の荷物に近づき手にとる。
 日本刀には手をつけない。三郎にはどうせ使いこなせないのだから。
 三郎は男の後を追う事を決めていた。
 男の存在は、確実に三郎に変化をもたらしていた。
 三郎は男の姿に、自分に欠けているものを見出していたのである。
 それは暗闇の中にあった三郎に光明をもたらすものだった。
 
 度重なる失敗に、三郎は自分の矜持を捨てた。
 しかし孤高の鴉が誇りを捨ててしまったら、一体何が残るというのだろう。
 あの男は自分の心に従って無心に行動していた。
 仲間であろう亡骸を放っていったことも、自分の死も省みずに平瀬村に向かった事も。
260 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 06:07:51.47
 理由、命を賭ける理由。男はそれを持っているのだ。そこに最低なんて御託は無い。
 譲れない、何者にも変えられない理由が男の胸の中にあるからだ。
 持つ者と持たざる者、その勝敗は明らかである。
 黙って去っていく男の背中を見て、三郎はそれに気づく事ができた。

 そこに三郎は希望の光を見た。
 三郎は覚悟を決める以前の、生きる理由を持っていなかったのだ。
 だから誰も殺せない。チャンスを生かすことができない。
 自分の中に確たる意思が無いのなら誰も殺せなくて当然だった。今のままならこれからもそうだろう。
 何故ならこの島で今現在生きている誰もが死を望んでいない。
 ここまで生き残った者ならなおさら生への執着、あるいは仲間への想いは強いだろう。
 そんな連中に中身の無い覚悟で勝てるわけが無いのだ。
261 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 06:10:12.57
 三郎にも仲間を救いたいという想いはある。しかしそれは結果には結びついていない。
 弱い。弱いのだ。三郎は自分の仲間はそういった助けは必要ないのだという考えが頭の隅にあったのだ。
 そこには切実さ……欲望が足りない。
 今まではなんとかなったが、これからはその隙が命取りになる。
 あの男と対した時の様にその時になって身体が竦めば、今度こそ間違いなく三郎は死ぬ。
 あらゆる想像を踏みにじる自分の生きる理由。それを見つける為に男についていく。
 少なくとも男が三郎に襲い掛かる事はないだろうから、損は無い。

 いささか情けないが、近くにお手本がいるのだから見習わない理由は無い。
 それに今の三郎に進む道を選ぶ余裕は無い。
 いくら精神的余裕が生まれたとはいえ、実際の状況は何も好転していない。
 誰も殺してはいないとはいえ、あちこちで人を襲っているのだ。
262 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 06:13:36.08
 危険人物として自分のことがどれだけ広まっているかわからない。
 別人だと偽るのは難しいだろう。三郎は自分の特徴的な顔立ちは充分理解していた。
 それに、約束もあった。藤岡ハルヒに帰ると約束していたのだ。
「もう戻る気はなかったけど……こんな事もあるもんだな」
 そういえばあの時もいつのまにか後ろをとられていたなと、ハルヒとの出会いを追憶する。
 どの道、いま進むめる道は選べるほど多くはないのである。
 だから時間をかけて色々と考えてみようと三郎は決心した。

 ただ、もう一つの道があるにはあった。坊屋春道と合流する道だ。
「坊屋さん……」
 三郎の認める最高の男と一緒になれば怖いものはない。
 三郎がいちいち生きる理由なんて探さなくても、勝手に道は開けていくだろう。
263 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 06:16:53.87
 今までの事を話せばキツイ一発をもらう事になるだろうし、説教もされるかもしれない。
 だけどそれだけだ。許す……というより春道は一々気にもしなくなるだろう。
 だが、それでは駄目なのだ。
 自力で自らの道を決めなくてはならないのだ。
 理由を見つけ、道が開けた時。目の前に広がるのは光か闇か。それはわからない。
 しかしどんな道を選ぶのであれ、今度こそ揺るがない覚悟を持ってその道を往きたかった。
 そうするには他人の敷いたレールの上を進むのでは駄目なのだ。そう三郎は思う。
 そうでないとまた甘えが出てしまう。また自分は何もできずに立ち尽くす事になる。
 それに、
「……あいつにあわせる顔がないよな」
 先に逝った加東秀吉に、何を言われるか分かったものではない。
 今の三郎を見れば、秀吉は三郎の事を飼い犬と表現するかもしれない。
264 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 06:19:05.27
 あの時は、言い返すことができなかった。今度そうなるのは、我慢ができない。
 秀吉に……マサにも、軍司にも、米崎にも。
 黒焚の中島にも、鳳仙のキングジョーにも、武装の武田にも。
 誰にも何も言わせない。何を言われても壊れないものを掴む為に。
 三郎は歩き出す。もう二度と立ち止まらない為に。
 
 それにしてもと、三郎は男を追いかけながら今までずっと抱いていた疑問を胸中で呟く。
(あの人は……坊屋さんに似てた、のか?)
 あの男は坊屋春道に似ている。そういう直感を三郎は抱いていた。
 もちろん容姿がではない。見た目だけで言えば全く似ていない。
 それにあの男の事を三郎はよく知らない。名前も分からない。
265 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 06:22:24.33
 藤岡ハルヒとは碌な話をする間もなく別れたので、桜蘭高校のメンバーの事は殆ど知らないのだ。
 男には名前を名乗ったが、男はあれからずっと黙りっぱなしだ。
 それでも三郎はその直感を笑えなかった。それをどうしても確かめてみたい。
 詰まる所、色々理由はつけれども。
 花澤三郎が男――須王環を追いかけようとしたのは環に対する単純な興味ゆえ、なのかもしれない。


 □ □ □


 守りたかった。
 失いたくなかった。
 でもそれはもう、叶わない。
 もう二度と、戻ってこないのだ。

 藤岡ハルヒの死を知った時、須王環という人間は壊れた。
 壊れないと信じていたものは、全部崩れていった。
 こんな世界なんて消えてなくなればいい、そう思った。
266 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 07:00:23.33
 笑って笑って、咽が嗄れて。須王環は何もしなくなった。
 立っている意味を見つけられず、地面に身体を投げ出した。
 瞳は、どこを見つめてもいない。空虚な抜け殻。

 まるで死人だった。
 花澤三郎が環に気づかないのも無理は無かった。
 死人の気配を察することなど、できはしない。

 現われた花澤三郎にも興味を示すことはない。
 殺す意味もなければ、抵抗する意味も無いのだ。
 そうするだけの価値はなかった。世界にも、自分にも。

 狂気にも様々種類がある。
 暴力に染まるものも、それ以外のものも。
 環がその身を浸したのは、無だった。

 親友の死の報せにも、環が立ち上がることは無い。
 恐らくは誰の声も、最愛の母の言葉すら今の環には届かない。
267 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 07:04:22.89
 今の環を呼び起こすものは、

「この格好」

 世界に、

「藤岡と同じ」

 一つしかないのだから。

 身体は自然と動いていた。
 三郎の話を聞いた環に、躊躇いなどは無い。
 目を離さないと、心に決めていたのだ。
 
 しかし怪我の手当てもせず放っておいた身体は、悲鳴をあげている。
 幾ら四国は他の地域に比べれば暖かいとはいえ、冬の夜となれば当然冷える。
 身体を動かさず吹きさらしの風に当たりつづけた肉体の疲労は、三郎の比ではない。
 遠くの地平に辿りついた環の精神は苦痛を感じなくとも、身体の方はそうはいかないのだ。

 それでも、環は足を止めない。
268 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 07:06:26.12
 なにかが環を突き動かしている。
 胸を掻き毟る程激しい何かが、環に力を与えている。

 壊れたものは、直らない。
 崩れたものは、取り戻せない。
 だがそれが――――何だと言うのだろうか?

 確信が、足を動かす。
 想いが、力を与える。
 諦めなんて、似合わない。
 諦めなんて、須王環には似合わないのだ。

 が、足は止めずともその歩みは遅い。
 精神は肉体を凌駕すると言うが限度はある。
 足元も暗くおぼつかない。だから、追いつくことができた。

 環の背後、遠くに明かりが浮かんでいた。
 あっちにいったり、こっちにいったり。
 だんだん環に近づいて、
「おっ! いたいた」
 明かりと足音はだんだんと環に近づく。少しして環と並んだ。
269 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 07:09:11.36
 ランタンをその手に持った、花澤三郎だった。

「オレも一緒にいきますよ」
 三郎の掛ける言葉を、環は聞いていなかった。
 それを気にせず、三郎は言葉を続ける。
「道案内が必要でしょう?」
 これにも三郎は返事を期待していなかった。
 しかし、
「……ありがとう」
 その言葉に三郎は驚いて環に顔を向けた。
 そして、もっと驚いた。
 環は、微笑んでいた。
 ランタンの光に照らされたその笑み。
 三郎にとって見たこともない儚げな笑顔。
 藤岡ハルヒの笑顔とも違う、美しさがそこにあった。

 狂える王はそれでもやはり、王なのだ。
 翼を失くした鴉を供に、王はひたすら夜を往く。


【E−7 神塚山山麓/1日目-夜】
270 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 07:11:34.81
【花澤三郎@クローズ】
[状態]:喧嘩のダメージ(中度) 疲労
[装備]:ショットガン(SPAS12) アーミーナイフ
[道具]: デイパック・支給品一式、単車のキー、ランダムアイテム1(武器ではない) 結束バンドの束
[思考]
1:環と一緒に平瀬村へ
2:その間に、考える

【須王環@桜蘭高校ホスト部】
【状態】:右肩甲骨付近に盲管銃創(重傷)  疲労
     ハルヒのことしか頭に無い
【装備】:なし
【所持品】:トランシーバー 地図
【思考・行動】
基本:ハルヒのもとへ
1:ハルヒ

※前話同様気が触れていますが、ハルヒの事に集中しており
 無駄な思考は削ぎ落とされているためか、ある程度の意思疎通は可能です。
271 ◆ORLXh0TwxA :2011/06/19(日) 07:14:44.16
投下終わりました。
何か問題があればご指摘ください。
タイトルは 岐路 です。
272名無し草:2011/06/19(日) 11:36:21.41
投下おつです
環マーダー化は防げたか
273名無し草:2011/06/19(日) 15:08:04.11
投下乙でした
二人がスタンス不明な感じですのう
この後どう転ぶのか…
274名無し草:2011/06/20(月) 00:02:12.42
投下乙!
この2人の同行は予想外だった!
この先どうなるか全く読めないね
275名無し草:2011/07/26(火) 21:00:33.88
保守
276名無し草:2011/08/11(木) 12:47:01.75
保守点検
277名無し草:2011/08/26(金) 20:12:17.91
そろそろ
278名無し草:2011/09/13(火) 22:47:40.86
予約が
279名無し草:2011/09/15(木) 15:25:11.20
予約きてるね
またキリキリする組み合わせだ
280名無し草:2011/09/16(金) 23:40:59.34
紀梨乃だけに?


言ってみたかっただけ
281 ◆xXon72.MI. :2011/09/17(土) 21:43:33.34
千葉紀梨乃、桂言葉、坊屋春道、投下します
282夜道にご用心 ◆xXon72.MI. :2011/09/17(土) 21:47:03.85
千葉紀梨乃(室江高校)と坊屋春道(鈴蘭高校)の二人は、相馬光子の死体から離れ、少し間を取って紀梨乃が落ち着くのを待った後、当初の予定通り鷹野神社へと向かった。

二人の移動手段は原付スクーターだったので、移動を開始すればすぐに到着すると思われたが、
既に日は落ち、街灯も点かないこの島の夜道では、原付のライトと空の月以外に灯りはなく、
今日初めて原付を運転している紀梨乃は、暗闇と慣れない運転から来る恐怖心であまり速度を上げられず、
普段自転車で出す程度のスピードしか出すことができなかった。

それでも歩くよりは遥かに速いのだが、結局二人は第二回放送までの間に鷹野神社に到着することは出来ず、
その手前の分かれ道に差し掛かかったあたりで放送が流れ始めた。
仕方なく、二人はその場で原付を停め、放送を聞く事となったのだが……。


「…………」
「…………」


放送終了後、二人はしばらく無言だった。

その理由は、それぞれで少し違うのだが、原因は同じ。
十一人という死者の数もさることながら、読み上げられた名前の中に、紀梨乃の学校である室江高校の生徒の名前があったからだ。

春道の鈴蘭高校からも一人、死者として加東秀吉の名前が呼ばれていたが、春道と秀吉はあまり面識がなく、もちろん、鈴蘭の生徒が死んだのだから、それで春道が何も思わない訳ではなかったが、それほどのショックにはならなかった。
それよりも春道は、紀梨乃の方が心配だった。
しかし、紀梨乃に何と声をかけたらいいか、あるいはかけない方が良いのかわからず、
結果として無言になってしまっていた。

対して紀梨乃は、精神的ショックが凄まじく大きい。
283夜道にご用心 ◆xXon72.MI. :2011/09/17(土) 21:48:13.46
川添珠姫。
桑原鞘子。

この二人は紀梨乃にとって、剣道部のかけがえの無い仲間だったのだ。

川添珠姫は、紀梨乃が部長を務める剣道部の一年生エースで、部員の少なかった剣道部の救世主であり、紀梨乃にとっては目指すべき目標でもあった。
また、剣道を抜きに考えても、紀梨乃にとって珠姫はとても可愛い後輩で、彼女を可愛がることが学校に行く楽しみの一つでもあった。
今年に入ってから、部活が楽しくて仕方が無かったのは、珠姫のおかげだったと言っていいだろう。

そして、桑原鞘子と紀梨乃は小学校からの付き合いであり、性格は大分違うが不思議と思考パターンは近く、気が合った。
高校で同じ部活に入って(紀梨乃が引き込んだのだが)一緒に過ごす時間が増えたせいか、
最近ではお互いの顔や態度を見れば、声に出さずとも考えていることが分かるほどの間柄になっていた。
友達の多い紀梨乃だが、親友といえば間違いなく鞘子だったし、鞘子の側からしてもそれは同じことだった。

そんな二人を、紀梨乃は一度に失くしてしまったのだ。
しばらくの間、紀梨乃は放心状態で泣くでも喚くでもなく、ただ無言で立ち尽くしていた。

バサ
カランカラン

力の抜けた紀梨乃の手から地図や筆記用具が落ち、地面で音を立てても、紀梨乃は微動だにしなかった。
それに気付いた春道が原付のライトを地面へ向けて紀梨乃が落とした物を拾い、それをキッカケに何か声をかけようとしたのだが。

「キリノちゃん……」

紀梨乃の名前を呼んだその後が続かなかった。

大丈夫か?――って、大丈夫なワケがない。
きっと嘘だって!――そりゃ、単なる気休めだ。

思い付く言葉は、どれも違う気がした。
284夜道にご用心 ◆xXon72.MI. :2011/09/17(土) 21:49:18.65
「……え〜っと、春道、くん」
「おぉ?」

気付くと、呆然と立ち尽くしているだけに見えた紀梨乃の口から春道の名が呼ばれていた。
紀梨乃に掛ける言葉を考えていた春道は、先に声を掛けられて少し驚いたが、そんな春道をよそに、
紀梨乃は会釈をして、春道の手から自分の落とした筆記用具や地図を受け取り、それをデイパックに入れると。

「あたし、ちょっとトイレです」

と言って、春道の返事も待たずにスタスタと、近くの林へ向かって歩いて行った。

「おー。……あー、キリノちゃん!」

そんな紀梨乃を一度は見送りかけた春道だったが、紀梨乃の姿が林の中に消える前に、やや大きな声を出して呼びとめた。

紀梨乃の今のセリフは昼間の第一回目の放送の後で、春道が紀梨乃から少し離れる時に使った口実と同じものであり、
恐らく紀梨乃も、口実として使ったのであろう事は春道にもわかった。
そのことを咎めようというのではない。
ただ春道は、紀梨乃が見えなくなるその前に一言、言いたいことがあったのだ。

「はい?」

春道の声で少し驚いたように振り返った紀梨乃に、春道続けた。

「あんま遠く行くなよ。キリノちゃんは、オレがゼッテー守るからよ」
「あ…、は〜い」

紀梨乃はそれを受け、笑顔で、作り笑いだったがこの時出来る精一杯の笑顔で春道に頷くと、
再び林の方へと足を向け、月明かりも原付のライトもほとんど届かない木々の中へと入って行った。

そして、春道から紀梨乃の姿が見えなくなって割とすぐ、「びえええええ」という紀梨乃の泣き声が春道の耳に届いた。
285夜道にご用心 ◆xXon72.MI. :2011/09/17(土) 21:51:17.62
昼間の放送直後には、春道が一人で物想いにふけるため、一度紀梨乃から離れたが、
今の紀梨乃の場合は、一人で、大声で泣きたかったのだろう。

「キリノ…………」

紀梨乃の泣き声を聞いた春道は、今すぐ紀梨乃の元へ駆け寄って泣きじゃくっている紀梨乃を抱きしめてやりたかった。
直前の春道の言を守ってか、姿こそ春道からは見えないが、紀梨乃の声はそう遠くない所から聞こえてきていたし、それは可能だろう。
しかし、紀梨乃は一人になりたくて林の中へ入って行ったのだろうし、その意思を尊重するならここは堪えるべきだろう。
そう考えて、春道は紀梨乃が戻って来るのをこの場で持つことにした。

「……しっかし、ホント大丈夫か?」

待つと決めた春道だったが、紀梨乃の泣き声は数分間経っても全く治まる気配が無く、え〜んえ〜んと、延々と、続いていた。
元々、春道は紀梨乃のことを心配はしていたが、それは精神面のことだ。
しかし、そろそろ紀梨乃の喉の方も心配になってきた頃、ピタリと、唐突に泣き声が止んだ。

「ん?」

だんだん弱くなるとかではなく、急に止んだことに違和感を覚えた春道が耳を澄ませると、
何か、内容はよくわからなかったが、何かに呼びかけるような紀梨乃の声が聞こえた。

286夜道にご用心 ◆xXon72.MI. :2011/09/17(土) 21:52:38.65
* * *

桂言葉(榊野学園)は、夜の真っ暗な林の中を慎重に進んでいた。
放送後に見えた女らしき人影に接近するためだ。

* * *


「ふぅ」

それにしても、明かりも無しに林の中を歩くのは思った以上に大変ですね。
月明かりが差し込んでいるところはまだ目を凝らせば地面が見えるのですが、
影になっているところは本当に真っ暗で、何も見えないので、
一歩踏み出すにも、すり足で先を確認しながら慎重に足を出さないと危険です。
出来れば何か明かりが欲しいところです。
支給品のランタンならありますけど、これを使うと私の居場所がバレてしまいますよね。
あの女の姿は、彼女がちょうど月明かりが差し込んでいるところを通ったときに見えたものらしくて、
今は見えなくなってしまいました。

もっとも、今は泣き声が聞こえるので――そうそう、この泣き声で、やっぱり女だと確証が持てました。――この声のおかげで、大体の位置はわかります。
真っ暗な林の中を進むのに苦労して、なかなか近付けないのですけど、
幸い、あの女はずっと泣いたままその場を動いていないので、焦らず、ゆっくりと近づく事にします。

「ああああああぁぁぁ!! サヤああああああぁぁぁぁぁ!!! タマちゃああああああああん!!!」

だんだんと、女の声の内容までハッキリと聞き取れるようになってきました。
そのくらい近づいたということでしょう。
何だか、聞き覚えのある声の気がしますけど、そんなことはどうでもいいですね。
ここにいる女は皆、死んでもらうのですから。
誠くんには、私以外の女はいらないんです。

287夜道にご用心 ◆xXon72.MI. :2011/09/17(土) 21:53:38.35
さて、そろそろ銃を出しておきましょう。
さっき神社で見つけた銃を使うといたしましょうか。

ドサッ

あら、いけない。
デイパックに突っ込んであったライフルを取り出すのに、ちょっと引っかかってしまって、
デイパックが足元に落ちてしまいました。

「だ、だれ?」

ああ、やっぱり、今の音で気付かれてしまいました。
せっかくここまで慎重に近づいたのに、ドジですね、私。

「誰か、いるの?」

仕方ないので、ここから撃つことにしましょう。
この暗い中逃げ回られたら追いかけるのも面倒ですし、やるなら今の内でしょう。
さっきの音に気付いても、女がすぐに逃げなかったのが不幸中の幸いです。


「ねえ、誰かいるの? ミヤミヤ? ダンくん?」

姿は見えませんが、声のする方へ狙いを付けて、私は引き金にかけた指に力を込めます。

ダァァン―――
「きゃあああああ!!」
288夜道にご用心 ◆xXon72.MI. :2011/09/17(土) 21:55:39.59
銃声から一瞬遅れて、女の悲鳴が上がりました。
当たったでしょうか?
いいえ、どうやら外れていたみたいですね。
悲鳴の後、ほんの少し間がありましたけど、すぐに私から遠ざかる足音が。
やっぱり、声だけで狙いを付けるのは無理がありました。
早く追いかけないと。
あ、でも、その前に。
この銃は一発撃つごとに、レバーを引かないといけないのでした。
撃ちたい時に撃てなくては、意味が無いですからね。

ガチャ

これでよし。
それにしても、銃の音って思ったよりも大きいんですね。
耳の中にはまだ、キーンという耳鳴り音が残っています。
女の足音はなんとか聞こえていますけど、距離感はちょっと分からなくなってしまいました。
立て続けに撃っていたら、耳がおかしくなってしまうかも。
でも、負けません。
私以外の女には、死んでもらわないと。
誠くんのために。


* * *

289夜道にご用心 ◆xXon72.MI. :2011/09/17(土) 21:56:57.67
夜の闇の中、銃撃を受けた紀梨乃は必死で逃げた。

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」

紀梨乃を狙った弾丸は、紀梨乃の身体には当たっていない。
銃撃を受ける前、紀梨乃は木に縋りつくようにして泣いており、物音がしたその後は、
自分と、物音がした方の間に木の幹を挟むようにし、木を盾にして音の方を覗っていたのが良かったのか、
あるいは、単純に弾が外れていただけなのかは、紀梨乃には分からなかったが、
とにかく、紀梨乃が狙われたことはだけは間違いない。
紀梨乃は一瞬、パニックになってしまい身体の動きが止まったが、すぐに選択の余地が無い事に気付き、全力で逃げだした。
この辺りは、剣道という人の生き死にがかかった状況を想定することが起源にある武道で、日々鍛錬していることが活きたのかもしれない。
ところどころ月明かりが差し込んでいるとはいえ、ほとんど真っ暗な林を走ることに恐怖心はあったが、銃で狙われていることの方が、余程恐怖だった。
それに、真っ暗といってもさっき来たルートを戻るだけだったし、すぐに原付のライトの明かりが見えてきたので、後はそこを目標に走るだけだ。
時折、地面の凹凸に足を取られそうになったが、その度に剣道の継ぎ足や送り足の要領で足を前に出し、体勢を立て直した。

「キリノ!!」

紀梨乃が原付の方へ向かって走っていると、そちら側から春道が姿を現した。

「は、春道くん!」
「大丈夫か! ケガはねーな?」

春道は紀梨乃に駆け寄ると、紀梨乃の肩に手を置き、彼女の身体を観察した。

「う、うん。はい。大丈夫です」

紀梨乃が答えた次の瞬間、二度目の銃声が響き、近くの木で何か弾けるような音が鳴った。

「うおっ」
「ひっ」
「クソ、こっちだ!!」
290夜道にご用心 ◆xXon72.MI. :2011/09/17(土) 22:01:21.56
春道が紀梨乃の手を引き原付の方へ駆けだし、紀梨乃も出来るだけの脚力でそれに応じた。
そして、林を抜けると、すぐに春道は紀梨乃を原付に乗りこませる。

「よし、運転できるな?」
「はい!」

出来ないなんて言っていられない。

「よし、先行け!」
「春道くんは?」
「オレも行くさ。キリノちゃんはオレが守る。もう離れたりしねー」
「わ、わかりました」

春道の顔は林の方を向いていたが、体はもう一台の原付の方へ駆け寄って行くのを見て、紀梨乃は自分の乗る原付のスロットルを捻った。
アイドリング状態だったエンジンが唸り、紀梨乃の乗った原付の車体を押し出す。

「……っ」

紀梨乃の原付が動き出したところで三度目の銃声が響き渡り、紀梨乃からかなり近い所で何かの風切音がした。
銃弾が通り過ぎたのだろう。
心臓が跳ね、思わず息を飲み込んだ紀梨乃だったが原付のスロットルは戻さず、なんとか次弾が来るまでに走りぬけられるよう、心の中で祈った。

「チッ! 調子に乗んなァ!!」

春道がワルサーPPKを抜き、銃声のした辺りに向かって立て続けに二発、銃弾を撃ち込んだ。
さらに原付に跨ると、スロットルを回しながらワルサーPPKを左手に持ち直してもう一発。
その間に、紀梨乃の原付の方はスピードが乗ってきてその場を離れる事に成功した。
もちろん、春道もその後に続く。
今の春道が最も重要視していることは、襲撃者を倒すことではなく、紀梨乃を守ることだ。
あまり、紀梨乃から離れるわけにもいかない。
291夜道にご用心 ◆xXon72.MI. :2011/09/17(土) 22:03:27.85
そうして、春道の原付が先ほどまで原付を停めていたところから数十メートル離れた先にあるカーブに差し掛かった際、春道は一度後ろを振り返り、先ほどまで自分達が居た場所へと目を向けた。
するとそこには、黒く長い髪を持った女生徒が、月明かりを浴びて佇んでいた。
暗い上に距離もあるので、顔や服装の細かい部分はわからなかったが、シルエットで今日の夕方、首を切断された死体のところで出会った子だと分かった。
そして、その手に持っている何やら大きな物が、ライフルのような種類の銃であることも。

「……アイツ、か」

その姿は、カーブを曲がり始めると木の影になって見えなくなった。


【G−4 道/1日目 夜】
292夜道にご用心 ◆xXon72.MI. :2011/09/17(土) 22:04:46.82
【千葉紀梨乃 @BAMBOO BLADE】
 [状態]:精神的ショックと動揺
 [装備]: 短刀 、原付スクーター
 [道具]:デイパック、支給品一式、チャッカマンなどの雑貨数点、常備薬
 [思考]
  基本:殺し合いはしない。
  1:室江高校のみんなを探す
  2:そのために島を一周する。
  3:春道を、信用しようと思っている
 [備考]
※春道から、加東秀吉以外の鈴蘭高校出身者の特徴を聞きました。


【坊屋春道@クローズ】
 [状態]:健康、精神的緊張感
 [装備]: ワルサーPPK(4/6)、改造ライター(燃料:90%)、原付スクーター
 [道具]:デイパック、支給品一式、救急箱、缶詰、私物のタバコ、ワルサーPPKのマガジン
 [思考]
  基本:キリノと仲を深める
  1:キリノを守る
  2:電話番号をもらう
  3:できれば、その先も……
 [備考]
※紀梨乃から、室江高校出身者の特徴を聞きました。

293夜道にご用心 ◆xXon72.MI. :2011/09/17(土) 22:05:54.19
* * *

ああ、行ってしまいました。
今のスクーター。
夕方の、あの二人でしたか。
あんな女に誠くんがなびくとも思えませんけど、誠くんは優しいから、
なかなか来る人を拒めないんですよね。
でも大丈夫。
優しいのは良いことです。
その優しさにつけこむような女は、私が始末してあげればいいのですから、
誠くんは今まで通り、優しい誠くんでいてくださいね。
それにしても、誠くんの優しさにつけこもうだなんて、あの女、許せません
やっぱり、諦めるわけにはいきませんね。
確か、キリノさん、と言いましたっけ。
早く追いかけて、始末してあげませんと。
誠くんのために。

【G−5 道/1日目 夜】

【桂言葉@School Days】
 [状態]:喉に軽いダメージ(治癒しつつあります)
 [装備]:ワルサーP38(9/8+1)、ワルサーP38の予備マガジン×5、鉈、レミントンM700(2/5)予備弾丸
20
 [道具]:相馬光子のデイパック、支給品一式、相馬光子の首輪
 [思考の基本]:全ては誠くんのために。優勝狙いだが最終的にどうするかは誠次第
1:伊藤誠との合流。
2:女は殺す。誠の無事と意思を確認するまでは男は殺さない。ただし誠を害する可能性がある者は何をしてでも殺す。
3:紀梨乃を追いかける。
※誠の死を嘘だと思っています。普通に会話はできます。すでに狂人の世界に足を踏みいれています。
※何か彼女にとって衝撃的な出来事があれば元に戻るかもしれません。
294 ◆xXon72.MI. :2011/09/17(土) 22:06:42.78
以上、投下完了です
295名無し草:2011/09/18(日) 04:50:01.55
おっ、投下来てる。乙
言葉いいね。強すぎず弱すぎず、でも怖いという
296名無し草:2011/09/19(月) 10:50:53.14
投下おつ〜
ひとまずはキリノ精神壊れずにすんだかね
と言っても安心出来る状態でもないかぁ
297名無し草:2011/09/20(火) 00:05:26.63
言葉って狙撃銃扱えたっけ?
右肩で固定するフォームとか知らなそうに見えるけど…
298名無し草:2011/09/20(火) 12:14:20.40
銃器とか一般学生が扱い方知らなそうな支給品には説明書付いてるっぽいし、それ読めばとりあえず扱えるんでしょ
使いこなせるかってことなら3発撃って3発とも外してるし、使いこなせてないんだろうさ
299名無し草:2011/09/20(火) 20:24:28.66
ちょっと気になってレミントンM700調べてみた
1962年に発売されて以来、現在でも販売が続けられているボルトアクションライフルの代名詞。狩猟用や競技用として広く使われ、レミントン社のベストセラーとなっている。(wiki)
いわゆる狙撃専用の銃ってわけじゃないのね
300名無し草:2011/09/21(水) 10:37:24.33
youtubeで見る限り、どうにも狙撃用っぽいかなぁ。

これだと、サヤがモシンナガン撃った時に比べると、確かに言葉は軽々と使ってたようにも感じるかな。
301名無し草:2011/09/21(水) 12:27:08.10
言葉だったら居合いの技術で反動とか重さとか軽減できるだろ
あと海外に行った時に家族で銃の練習したとかだろ
302名無し草:2011/09/21(水) 19:30:27.67
書き手以外が細かい事気にする必要ねーんだよ!
303名無し草:2011/09/22(木) 00:25:59.73
>>300
書いてる人が違うから表現の仕方の差だと思うけど、銃を使うこと自体に主眼を置いた描写があんまり無い
故に次回以降で補則可能だろうから、どうしても気になるなら書いてみると良い
304名無し草:2011/09/24(土) 00:11:11.39
外したという結果があるし、後から描写するなり読み手の脳内補完でどうにでもなるんじゃね
305名無し草:2011/11/02(水) 21:56:47.02
脳内補完
306名無し草:2011/11/21(月) 22:39:33.72
保守
307名無し草:2011/11/29(火) 03:29:48.43
もう書き手いないんかね…
308名無し草:2011/11/29(火) 23:58:25.08
現状、一人いるかいないかって所じゃね?
309名無し草:2011/12/06(火) 23:08:58.69
読み手ならまだいるぞ
310名無し草:2012/01/11(水) 11:30:13.37
うんこ
311名無し草:2012/01/12(木) 05:41:08.92
書き手はいるけど全員半年に一度ぐらいの投下ペースだからな
ある意味、難民板が似合うロワ
312名無し草:2012/01/12(木) 05:48:30.60
予約と投下きてるの気付かなかったわ
夜に代理投下しておく
313名無し草:2012/01/12(木) 23:56:37.78
代理しようと思ったけど作者の許可とかいるのか?
314名無し草:2012/01/13(金) 10:53:11.39
いらんのじゃね?
元々こっちに投下したかったようだし
315名無し草:2012/01/16(月) 04:39:11.35
ボツになったか?
316名無し草:2012/01/20(金) 03:14:09.82
あげ
317名無し草:2012/01/29(日) 23:29:55.34
包茎
318名無し草:2012/02/05(日) 05:50:38.86
ふむ
319名無し草:2012/02/08(水) 21:49:00.05
このインポ野郎!
320名無し草:2012/02/10(金) 11:06:28.33
うめ
321名無し草:2012/03/16(金) 01:11:37.97
うん
322名無し草:2012/04/18(水) 12:22:39.77
まだ
323名無し草:2012/05/08(火) 12:17:32.40
なんかここSSみたいな長い文章投下できなくなってる……
どうする?
324名無し草:2012/05/11(金) 21:23:41.33
どの程度なんだろう?
325名無し草:2012/05/15(火) 22:28:38.06
どうやら数行程度っぽいが
まだ書き手いるのかね
326名無し草:2012/06/04(月) 20:45:57.40
ふむ
327名無し草:2012/06/05(火) 01:26:40.38
こうして今年のプログラムは滞りなく終了した。

――――完。
328名無し草:2012/06/13(水) 00:52:29.61
勝手に終わらすなよ!まだしたらばが…ってあっちも動きないな
>>312-314が言及してるエピが今のとこ最新か。許可が取れなかったのか既に長文規制が入っていたのか
>>311の言うように半年一度なら…そろそろ…?
329名無し草
本投下はしたらばで、こっちは感想雑談でええやん